326 人 工 知 能 29 巻 4 号(2014 年 7 月) 2013年 9 月,新型固体燃料ロケットイプシロンの打 上げ成功に日本中が沸く中,我々 AI 研究者はあること に衝撃を受けていた.イプシロンが世界初の人工知能搭 載のロケットであることがニュースで伝えられ,インタ ビューや特集番組ではプロジェクトマネージャの森田泰 弘教授が繰返しイプシロンにおける人工知能技術の貢献 を強調したのである.「人工知能が宇宙開発に貢献した.」 このことの重大さを認識した編集委員会は,会長の意向 も直々に受けて,すぐに本特集を企画した. ところで,本誌で宇宙関連の特集が組まれるのは今回 が初めてではない.2006 年 1 月号の「宇宙開発と AI」は, 「人工知能は宇宙開発に貢献できるか」というテーマで, 主に AI 研究者の立場から宇宙開発のさまざまな課題へ の取組みを紹介した.それから約 5 年後,2011 年 3 月 号の「宇宙探査と人工知能」では,「宇宙の起源の解明 に人工知能は寄与できるのか?」というテーマで,帰還 直後の「はやぶさ」を中心に,探査機の自律化技術や小 惑星観測データの処理技術などが紹介された. 過去 2 回の特集に共通するのは,「どうしたら AI は 宇宙開発に貢献できるのか」という問題意識である.そ の背景には,現場では AI 技術に対する待望論は強いの に,極度に高い安全性・信頼性要求の壁に阻まれて,思 うように利用が進んでいないことがある.基本的には, この問題意識は現在でも変わっていない.本特集の多く の記事も,こちらから要望したわけではないにもかかわ らず,「なぜ,宇宙開発の現場で人工知能がそれほど使 われていないのか」という問題を論じている.しかし一 方で,イプシロンの影響も受け,「宇宙で AI は使える はずだ」あるいは「宇宙で AI が使える部分はどこか?」 という意識の高まりも同時に感じられる点が過去の特集 との違いである.これを受けて,特集タイトルを「宇宙 に挑む人工知能技術」とした. 以下,本特集に寄稿された各解説論文を紹介する. まず,照井氏らには,年内の打上げが予定されている, はやぶさ 2 の小惑星近傍での自動・自律機能について 解説していただいた.初号機はやぶさと同様,多くの科 学的・技術的成果が期待される国民的宇宙プロジェクト では絶対的な信頼性が要求され,安易に「想定外」を語 ることは許されない.困難なミッションにおいて本当に 必要な自動化・自律化機能が何か,また,どう実現され ているかについて述べられている. 続いて,福島氏に,JAXA 宇宙研究所で検討されてい る小型科学衛星 DESTINY における知能化・自律化技 術と,それを支えるスクリプト運用について解説してい ただいた.はやぶさ 2 とは対照的に,次世代技術の検 証を目的とする DESTINY では,臨機応変にコマンド の順序を入れ替える動的計画変更など,従来の探査機に はなかった先進的機能が盛り込まれている.また,冒頭 で宇宙機知能化研究の経緯や課題についても明快にまと められている. 船瀬氏らには,東京大学を中心に開発が進められてい る超小型深宇宙探査機 PROCYON の解説と,将来の宇 宙機に必要とされる「レベル 2」の自律化実現に向けて, AIコミュニティへの期待を述べていただいた.従来よ りもはるかに低いコストでの深宇宙探査を目指す本ミッ ションが先駆けとなって,AI 技術が積極的に採用され るようになることを期待したい. 上田氏らには,国際宇宙ステーションで実施された宇 宙飛行士の船外活動支援ロボット実証実験 REX-J の知 能化技術について解説いただいた.無人探査機よりもさ らに高度な安全性・信頼性が要求される有人ミッション では,危険回避のための予測機能が最重要であることが 論じられている.著者らはやや遠慮がちに,「広義の」 知能化と呼んでいるが,これも間違いなく AI 技術の一 つであろう. 本特集最後の記事では,横矢氏らに,リモートセンシ ング分野で導入が進むハイパースペクトルデータの知的 処理技術について解説いただいた.膨大な観測データか ら人間にとって有用な情報を獲得することを目的とする この分野では,機械学習や画像・パターン認識の最新技 術が投入されており,現在のところ AI 技術が最も活用 されている宇宙関連分野といえる. 以上のように,宇宙における AI 技術の利用は,ゆっ くりと着実に進んでいる.気の早い話だが,次回の本誌 の宇宙特集では,今回紹介した各ミッションの成果や, 残念ながら今回は扱うことができなかったイプシロンロ ケットとともに,「宇宙で AI 技術がどのように貢献で きたか」を紹介できると期待している.
特集「宇宙に挑む人工知能技術」にあたって
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