八
論
説
V
記名株式の名義書替請求権
境
郎
目 次 二 三 四 五 は じ め に 記名株券が表彰する権利 株主名簿記載の効力 譲渡当事者聞の関係 お わ り にt
ま めじ
株券には記名式と無記名式とがあり、我が国に於いては無記名式は殆ど行なわれていない事は一般によく知られて いる。これは有価証券としての性質は無記名式の方が勝るといえるのであるが、それだけに証券の所持のみが権利を第1巻3号晶
-
-
z
証明する唯一の手段であるから、株主はその権利を行使するためには会社に株券を供託する必要がある これに対し、記名式の場合は株主名簿に株主の住所・氏名・持ち株数等が記載されているので、会社からの通知・催 告、あるいは配当金の支払いはその記載に基づいて為されるから、株主はこれらの場合には株券を一々会社に呈示す る必要は無い。株主権は半永久的な権利であり、又大量の株主を画一的に処理する必要のある株式会社に於いては、 このほうが会社にとっても株主にとっても便宜な方法とされるからである。従って記名株式の場合は、株券はただ株 式が譲渡された場合に譲受人がこれを会社に呈示して名義書替を請求する為に必要とされるのであり、通常株主とし て会社に対して権利を行使するのには必要ではない。 記名株式が譲渡される場合、当事者聞に於いては意思表示のほかに株券の引き渡しがその要件とされているのであ る が 、 ( 商 二O
五 条 1 ﹀譲受人はいわゆる株主名簿の名義書替をしなければ会社に対抗することを得ないハ商二O
六 条 1 ) 。 従ってこの名義書替とは一体どのようなことなのか、また記名株券はどのような権利を表彰する有価証券なのか等が 問題となる。これらの問題については、かつて別の問題を論じた際に私見を述べたのであるが、昭和六一年五月に法 務省民事局参事官室より発表された﹃商法・有限会社法改正試案﹄は、無記名株券の廃止その他株券に関する重要な 改正が含まれている。一従ってこの際これらの問題に付いてもう一度検討することも法改正の問題を考えるのに必要で ハ 商 二 二 八 条 ) 。 あると思えるのである。 ハ 1 ) 境 ﹃ 名 義 書 替 前 の 株 式 譲 受 人 の 地 位 ﹄ 大 隅 先 生 還 暦 記 念 論 文 集 七 三 頁 ・ 向 ﹃ い わ ゆ る 失 念 株 に つ い て ﹄ 大 森 先 生 還 暦 記 念 論 文 集 一 四 六 頁記名株券が表彰する権利
記名株券は通説のいうごとく果たして株主権そのものを表彰しているのであろうか、通説は記名無記名を問わず株 券が表彰するのは株主権ないしは株主の会社に対する法律上の地位と解している。・無記名式株券に付いてはその通り であるというほかはないのであるが、記名式株券の場合は株券を所持する者と会社の株主名簿に記載された者とが異 なる場合、即ち株券を譲受けてもその者が名義書替を請求するまでは、会社がそうしなければならないかどうかは後 述するごとく問題であるとしても、一般には名簿上の株主を株主として遇するのが実状である。株式の譲渡を受けて 株券を所持している者は、それだけでは会社に対して自分が株主であるから自分に利益配当せよとか、株主総会に出 席させよとかの要求をすることは出来ないのであり、従って株券の表彰している権利が果たして株主権そのものであ るかどうかに付いて疑問が残るのである。株主というのは一義的には会社との関係をいうのであるのに、会社そのも のに株主であることを主張出来ないということはどのような意味なのか、そもそも会社に対抗出来ない株主権とは一 体どのような権利であろうか。 会社に対抗出来ないということは、会社に対して株主としての主張は出来ないという、即ち前述のごとく株主とし て株主総会に出席させよと請求したり、利益配当を要求したりすることは出来ないという意味であることは疑いがな い。しかし有価証券としての株券の流通面から正当な所持人としての権利を争う場合にまで相手が会社であるという 一事だけでその主張が出来ないのであろうか、相手が会社であっても、会社以外の第三者であってもこの場合は変り は無いと思われるのである。例えば会社が質権を有している自己株式について、その株券を誰かが持ち出して譲渡し たような場合、株券を譲受けた者は当然、善意取得を主張するであろうが、この場合は相手が会社であるという理由第1巻3号一-4 だけでその主張は認められないとする事は出来ないのであり、株券所持人は会社以外の第三者に対すると同様な意味 で会社に対しても善意取得者であることを主張できるといわなければならない。 株式を譲受けた者はこのように有価証券としての株券所持人としては、その権利を第三者に対するのみならず会社 にもそれを主張することが出来るのであるから、会社に対抗することを得ないということは、このような場合を除い て、会社の構成員としての株主として利益配当をしてくれとか、株主総会に出席して議決に参加させよとかの権利を 会社に対して主張出来ないという意味に理解せざるを得ない。そして会社内部関係に於けるこれらの権利を会社に対 して主張する為には、会社に株券を提出していわゆる名義書替を済ませた後でなければならないということが出来る。 このことは有価証券である株券の流通と社団法人であるとされる会社の内部的法律関係は別の論理に属し、その為に 生ずる両者の不一致を解消する為に株主名簿の名義書替があるので、この株券所持人が会社に対して名義書替を請求 するには譲渡人の助けを必要としないでその者が単独で行使出来る権利として認められているのである。 この株主名簿に譲受人の氏名・住所等を記載することを会社に請求する権利、いわゆる名義書替請求権は通説の解 するところでは株主権の一とされているのであるが、果たしてそうであろうか。確かに、例えば名簿上の株主がその 住所を変更したような場合に、会社に対し住所変更による名簿の記載の変更を求めることは当然可能であり、この場 A A口も広い意味では名簿の記載の書替請求であり、確かに株主の一権利と考える事が出来るのであるが、この場合は株 券を呈示して自己が株主であることを主張する必要はなく、その点では譲受人が株券を提出してその氏名・住所等の 記載を請求する狭い意味の名義書替請求権とは異なっている。株主権といわれる権利は前述の住所変更記載の請求権 をも含めて、それが自益権であれ、共益権であれ総て株主名簿に記載された、 いわゆる名簿上の株主が行使出来る権 利であるのに対し、ここでいう狭い意味の名義書替請求権だけは前述のごとく株式を譲受けて株券所持人となった者
だけが行使出来る権利であるという点に特徴がある。 尤も昭和二五年改正前の商法の下に於いては、現行法と異なり株式の譲渡の要件として株券の受け渡しを必ずしも 必要とはせず、当事者の意思表示のみによることも認められていたので、名義書替を請求出来る者は誰かということ も問題とされていた。明治二一一一年に制定された旧商法一八一条は﹃株式・譲渡ハ取得者ノ氏名ヲ株券及ヒ株主名簿一一 記載スルニ非サレハ会社一一対シ其ノ効ナシ﹄と規定していたが、明治三二年制定の現行商法では、最初その一五
O
条 で﹃記名株式ノ移転ハ取得者ノ氏名住所ヲ株主名簿ニ記載シ旦其氏名ヲ株券-一記載スルニ非サレハ之ヲ以テ会社其他 ノ第三者一一対抗スルコトヲ得ス﹄と規定していたのである。昭和二ニ年の改正法で始めてその第二O
六条に於いて ﹃株券ノ裏書一一依ル記名株式ノ移転ハ取得者ノ氏名及住所ヲ株主名簿一一記載スルニ非ザレバ之ヲ以テ会社其ノ他ノ第 三者ニ対抗スルコトヲ得ズ 前項ノ場合ヲ除クノ外記名株式ノ移転ハ取得者ノ氏名及住所ヲ株主名簿ニ記載シ旦其氏 名ヲ株券-一記載スルニ非ザレバ之ヲ以テ会社其ノ他ノ第三者一一対抗スルコトヲ得ズ 株金ノ滞納アル株式-一付テハ会 社ハ前二項ノ名義書替ヲ拒ムコトヲ得﹄と規定したところから見れば、実際はともかく制度的には昭和一一一一年改正法 により始めて株券の有価証券性が認められたということが出来るのである。 しかし、前述したごとく昭和二ニ年改正法に於いても株券の裏書による方法の他に当事者の意思表示のみによる株 式譲渡をも認めているので、名義書替を請求を為し得る者は誰かという問題についても、譲渡人が単独でなし得ると いう釦ド譲受人が単独で請求することが出来るという時譲渡人と譲受人とが共同で請求しなければならないとする ( 3 ) 説崎一寸が有り、この最後の説を取る者が多かったし、実際問題として会社は定款でその旨を定めるのが常であり、譲渡 人が名義書替のための白紙委任状を付けて譲渡する慣習が成立し、裁判所もこれを慣習法として認めるに至ったので ( 4 ﹀ ある。尤も株券の善意取得に付いては商法二二九条で小切手法二一条の準用を定めながら、その第二項で﹃株主名簿第1巻3号一-6 ニ記載アル株主ノ為シタル裏書ガ真正ナラザル場合一一於テ会社-一就キ調査ヲ為サパ其ノ真偽ヲ判別スルコトヲ得ベカ リシモノナルトキハ前項ノ規定ヲ適用セズ﹄と規定していたので、会社は株主からその印鑑を届けさせ、前述の白紙 委任状に押された印鑑と照合することにより白紙委任状の真偽を確かめる必要があったのである。 昭和二五年改正法は記名株券の指図証券性を確立し、当事者の意思表示のみによる株式譲渡を否定し、記名株式の 譲渡は株券の裏書交付または株券と譲渡証書の交付によらなければならないとし、前述の商法二二九条二項の規定を 削除して、株券の所持人が裏書の連続または譲渡証書の記載から資格を証明するときは、その者が適法の所持人とし て 推 定 さ れ る ( 昭 和 二 五 年 改 正 法 二
O
五条)とし、名義書替は譲受人が単独で請求し得るとしたのである。 更に、昭和四一年改正法は株券の有価証券性を高め、記名株式に付いて裏書及び譲渡証書の制度を廃止し、株式の 譲渡は無記名式であるか記名式であるかを問わず株券の受け渡しのみで行うこととし、株券の占有者が適法の所持人 と推定される(商二O
五条)と定めたので、名義書替は譲受人のみが単独で請求し得るとする点に付いて異論を見ない。 従って名義書替の請求に譲渡人と譲受人の連署を必要とする旨の会社の定款の規定は譲受人の名義書替請求権を不当 に制限するとの理由で無効と解されている。 このように見てくると、名義書替請求権だけが株券所持人のみの権利であることに付いて、通説はこれを株主権の 一と解するから、この権利も株式の譲渡により譲受人が受け継ぐと解するのであるが、これではこの権利だけが株式 を譲受けて株券の所持人となった者だけの権利であり、 しかも一度会社に株券を提出して名義書替を終われば、会社 に対する関係では株券は不必要になり、次の譲渡の場合にのみ必要とされることに付いての説明は必ずしもなされて、
pk、
。
、 し v φ ん 、 h v この点に付いて、名義書替は株主名簿の記載を実質上の株主関係に合致するように改めることであるとして、名義書替請求権は譲渡により譲渡人から譲受人に移るものではなく、株式譲渡の結果、名簿上の資格と実質的権利との間 に不一致が生じた場合当然譲受人に原始的に発生するものであり、譲受人が行使してその不一致を除去したときには ハ 6 ﹀ 消滅するものとする見解があり、更に、株主権を基本権と支分権とに別けて基本権は譲渡により譲受人に移るのであ るが、具体的な利益配当請求権、議決権のごとき、基本的権利から生ずる支分権は、名義書替により始めて譲受人が 取得する権利だとし、いわゆる名義書替請求権は、基本権である株式自体ないしその中心的機能を、その狭義におけ る権利行使の方式ないし態様に着眼して名付けた呼称にすぎず、その実体はまさに基本権たる株式自体であって、そ れは具体的利益配当請求権や具体的議決権と並列さるべき株主権の単なる一支分権でないとする見解もある。 名義書替請求権が他の株主権とされる諸権利と車内なる権利であるとするこれらの説に付いてはその結論は賛同すべ きであると考えるが、この場合株券の表彰する権利が果たして株式そのものであるかが問題である。私見の結論から 先に述べると、私は記名株券の表彰している権利は株主権そのものではなくして名義書替をすれば株主に成り得る権 利ではないかと考える。会社そのものに対抗出来ない株主権というものが、それ自体不可思議な権利であることに付 いては先に述べたところであるが、これは株券を譲受けた者は株券の所有者ではあるが、会社の内部関係ではまだ株 主権を取得してはおらず、名義書替を請求すれば株主に成り得る地位を取得したに過ぎないのであることを、率直に 認めた方がよいのではないかと恩われる。 このような株券所持人の地位は白地手形の所持人の地位に類似している。白地手形の所持人は法律上手形上の権利 を有する者ではないのであり、白地手形により支払呈示をしても、手形法上有効な呈示の効力を生じないのであるが、 所持人がその権限によって白地を補充することにより完全な手形上の権利を取得する。その意味で白地手形は、白地 の補充により完全な手形上の権利者と成り得る地位を表彰する証券であり、文所持人は経携的には完全な手形を有す
ると同様の地位を有すると理解されているのである。記名株券の所持人も請求するかどうかは自由であるが、名義書 第1巻3号一
-s
替さえ請求すれば完全な意味での株主に成れるのであり、その意味では経済的には株主と同様(この場合は後述のご とく権利落ち、配当落ち等の関係から完全に同一であるとはいえないが)名義書替を請求しないかぎり会社に対して その構成員としての権利を会社に対して主張が出来ないのであるから、このように解するのが最も素直でないかと思 われるのである。 ( 1 ) ( 2 ) ( 3 ) ( 4 ) ( 5 ) ( 6 ) ( 7 ) ( 8 ) 青木会社法論三九九頁 田中耕改正会社法概論四八九頁以下寺尾・会社法提要二三六頁 水口商法論叢一四O
頁千野株式譲渡法論二O
八 頁 大判・昭和人年七月一五日民集一二巻二O
五 四 頁 通 説 で あ り こ の 点 に 関 す る 異 論 を 見 な い 松 田 会 社 法 概 論 二 ハ 一 一 一 頁 奥村長生円株式の名義書替の効果に関する一試論﹄会社と訴訟上(松田判事在職四O
年 記 念 ) 一 一 一 一O
頁 境前掲大隅記念論文七九頁 松 田 株 式 会 社 の 基 礎 理 論 三 七 一 一 良株主名簿記載の効力
記名株券の表彰する権利をこのように名義書替すれば株主に成り得る地位と解すると、株主名簿の記載の効力に付 いても通説と異なった見解をとらなくてはならない。通説は株主名簿への記載は何ら権利創設的な効力を持つもので はなく、名簿への記載は単に資格授与的効力を持つに過ぎないとされる。しかし、私には名簿への記載は株主として の資格が認められるだけでなく、何らかの権利を認めたものと思えるのである。通説は名簿上の記載は単に権利を推定するに過ぎないと解するから書替を請求する前には株券所持人から会社に対 して株主であることを主張することは出来ないが、会社がその責任に於いて譲渡を認めて譲受人を株主として遇する ことは、構わないとしている。これは﹁対抗スルコトヲ得ズ﹂ということは﹁効力ヲ生ゼズ﹂とは異なって文字どう り株券所持人から会社に株主としての主張が許されないということであるとするのであって、法文の趣旨から見て当 然であると言うのである。 判例も﹃商法二
O
六条一項によれば、記名株式の移転は、取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載しなければ会社 には対抗出来ないが、会社から右移転のあったことを主張することは妨げない法意と解するを相当とする﹄(最判 昭 民 集 九 ・ 一 一 ・ 一 六 五 七 ﹀ と し て こ の 旨 を 認 め て い る 。 こ れ で は 会 社 は 名 義 書 替 前 の譲受人が数名ある場合に、ある者はこれを株主として認め、ある者はこれを認めないといった事も可能であるし、 又譲渡人譲受人の双方を株主として遇しなくても良くなる。下級審でしかも特殊な案件についてではあるが、これを 和 三0
・ 一0
・ 二O
し か し な が ら 、 認 め た 判 例 が あ る 。 Y 株式会社は定款で株式の譲渡制限を定めていたが株主 X はその所有する株式を競売に付され、 A が競落して株券 が交付されたが、譲渡承認を請求していない。従って依然として X が名簿上の株主として登録されている。 X は 株 主 権を会社に対して請求して訴えたのであるが、会社はこれに対して X は競落により株主としての地位を失ったと抗弁 し た 案 件 で あ る 。 これに対して京都地裁は大要次ぎのように判示した。 定款をもって株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨が定められている場合に取締役会の承認を得ずになされ た株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者聞においては有効である。このことは、競売第1巻3号一一10 のより株式を取得した者が会社に対し右取得の承認請求をすることなく放置している場合についても妥当する、そし て﹃会社に対する関係では効力を生じない﹄ということの意味は、譲渡の相手方を指定する権利が会社に留保されて いるから、会社には競落人を無条件に取り扱う義務はない、ということにほかならない。また﹃譲渡当事者間におい ては有効である﹄ということの意味は、従前の株主において、競落に対してはもとより会社に対しても。当該競落が 株式の譲渡制限に反する故をもって無効であるとし権利主張をすることを許さない、ということに外ならない。 競落人が会社に対し株式取得の承認請求をすることなく放置しているときに、会社が従前の競落を理由に株主とし て取り扱わないとすると、競落にかかる株式について権利を行使し利益を享受する株主が一時不存在であるかのごと き状態を呈するに至るけれども、このような状態は、株式の譲渡制限はないが競落人が会社に対し名義書替を請求す ることなく放置している場合にも生じることであって、やむを得ないものと考えられるから、競落人の承認請求解怠 の聞は従前の株主が会社に対し競落の存在によって何ら影響を受けることなく権利を主張することが出来るという考 えには左担することはできない。 そして、会社が X を従来株主として取り扱っていたことについて、会社から従前の株主を株主として取り扱う義務 はなく、会社は競落を理由に従前の株主の権利行使を拒絶できるが、反対に会社の方から株主名簿に依然として記載 されている従前の株主を株主として取り扱うことは差し支えない。そしてその場合従前の株主は会社の取り扱いによ る 反 射 的 利 益 を 享 受 す る に 過 ぎ な い ﹄ 。 ( 京 都 地 判 ・ 昭 和 六 一 ・ 一 ・ 一 一 一 一 判 例 時 報 二 九 八 ・ 一 四 七 ﹀ この案件は前述のごとく定款で譲渡制限が定められており、しかも競売により株券が他に移った場合であるが、理 論的には譲渡制限が無く、通常の株式譲渡が行なわれて、譲受人が名義書替請求をしない場合と同様である。即ち、 株式の譲渡が行なわれた場合、株券の受け渡しがあっても、会社は名義書替があるまでは譲受人を株主として遇する
必要は無いが、会社の責任に於いてこの者を株主として取り扱うことは差し支えないのであるが、この場合は名簿上 の株主を株主として遇することは勿論出来ない。 会社は名簿上の株主を株主として取り扱う事は可能であり、そうすることにより会社は免責されるのであり、又実 際上そうする場合が殆どであるが、そうしなければならない義務があるのではなく、会社はその者が既に株式を他に 譲渡していることを理由に株主として取り扱う必要はない。会社は名簿上の株主を株主として遇することは出来るが、 これにより譲渡人が権利者として認められるのではなく、単に反射的利益を受けるに過ぎない。従って、会社はこの 案件のように譲渡の当事者双方を株主として取り扱う必要がないことになるのもやむを得ないということであ訂 w ハ 2 v この京都地裁の判決に対しては、最高裁がその上告審においてこの判決を取り消しているのではあるが、幾多の疑 問 が 提 出 さ れ 得 る 。 まず、譲渡人が株主名簿に記載されている聞は、会社はこの者を株主として認める必要はないがこの者を株主と認 めてこれに株主としての権利を行使させることは、会社の任意であるとするのであるが、これでは同じ立場にある者 が数名あるような場合に、ある者に対してはこれを株主と認め、ある者に対してはこれを認めないといった事が可能 であり、株主平等の原則に反するのではないだろうか。次に、名簿上の株主を一旦株主として認めない措置を取って 置きながら、会社の都合によっては次ぎの機会にはこれを認めるといった事も可能になるのではないだろうか。更に 会社は譲渡の双方を株主として認めないことも出来るのであるが、この場合総会の定足数等を計算する上に於いてこ の株式はどのような取り扱いを受けるのか、会社はこの分の株式に付いて配当金を支払わなくて良いことになるので あるが、会社の利得として良いのであろうか、株主に新株を割り当てたときはどうなるか等である。 これらの疑問に答える為、記名株券も株主権そのものを表彰する証券であるとする立場に立ちながら、会社は名簿
第1巻3号一一12 ︹ 3 ﹀ 上の株主を株主として遇しなければならないとする説があり、また名簿上の株主を株主として取り扱わなくて良いの ( 4 ﹀ は、会社が譲受人を株主として認めた場合に限るとする見解も有る。 この前者の見解は商法二
O
六条の沿革等から導き出されるのであるが、この場合名簿上の株主が果たして権利者と して認められるのであるか、それとも会社が名簿上の株主として遇しなければならないとされることの反射的利益を 受けるに過ぎないのか明らかでない。もし権利者として認められるのであれば、記名株券が株主権そのものを表彰す るということと矛盾することになるし、又単に反射的利益を受けるに過ぎないのであれば、会社がこれに違反する措 置をした場合でも、その違反をがめることは出来ない事になる。また後説の見解に対しても同様の疑問を呈し得る。 つまり、会社が譲受人を株主として認めない場合に限って譲渡人を株主として遇しなければならないとするのである から、名簿上の株主が権利者で有るとすることは、前説の場合よりも一層困難であろう。 名簿上の株主を株主として取り扱わなかった場合、その者が会社に対し、株主としての取り扱いを請求し得るため には、名簿上の株主だけが会社に対しては株主としての権利が有るとしなければならないのではなかろうか。 ( 1 ) 前 掲 昭 和 三O
年の最高裁判例を支持する学説は多いが特に竹内教授は、無記名株式を発行した場合、会社は株券を供託 した者が株主でないことを立証して権利行使を拒むことが出来るが、この場合譲受人を知らないときは議決権を行使する 者が無いことになるとして、譲渡の当事者の双方を株主として取り扱わない結果が生じても敢えて異とするに足りないと されるのであるが、(竹内・判例商法 1 七 七 頁 以 下 ﹀ 他 の 学 者 の こ の 点 に 関 す る 見 解 は 明 ら か で な い 。 ( 2 ) この判決に対して控訴審では原判決を支持したのであるが、上告審で最高裁は﹃譲渡制限の定めがおかれている場合に、 取締役会の承認をえないでされた株式の譲渡は、譲渡の当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を 生じないと解すべきであるから(最高裁昭和四八年六月一五日判決・民集二七巻六号七OO
頁﹀会社は、右譲受人を株主 として取り扱う義務があるものというべきであり、その半面として、譲受人は、会社に対してはなお株主の地位有するものというべきである﹄。との理由で原判決を破棄し、一審判決を取り消し X を株主として認めその権利行使を妨害しては な ら な い と 判 示 し た ( 最 高 裁 判 ・ 昭 和 六 コ 一 年 三 月 一 五 日 金 融 法 務 事 情 一 一 九 一 号 四 七 頁 ) 。 ( 3 ) 反対説も比較的多くの学者が主張しているが、代表的なのは大隅博士の説である。博土は名義書替は権利創設的効力を 有するものではなくして、単に株式取得者を会社に対する関係において資格 9 つ け る 意 義 を 有 す る に と ど ま 一 る 、 と さ れ な が ら 、 昭 和 三
O
年の最高裁判例に反対される実質的な最大の理由として、譲渡が行なわれでも名義書替が済まない間は、こ の譲渡双方が権利行使という、不都合な結果を生じうるということを挙げられている。(大隅・今井会社法論上コ一九六 頁以下大偶株式の名義書替の効力について﹃会社法の諸問題﹄一九七頁以下) ( 4 ) 石井会社法上三O
五 頁 ( 5 ) 前掲昭和六三年三月の最高裁判決(注 2 ) では、﹃会社は譲渡人を株主として取り扱う義務があるというべきであり、 その半面として、譲渡人は、会社に対してはなお株主の地位を有する﹄としているのであるが、名簿上の株主が権利者と してその権利を行使出来るかどうかが問題なのである。その為には名簿の記載に資格授与的効力を認めるに過ぎないとす る前提に立つならば、直ちにこのような結論を導くのは困難では無いだろうか。四
譲渡当事者聞の関係
このように、名簿上の株主だけが会社に対して株主としての権利を有し、記名株式を譲受けて株券の所持人となっ た者は、会社に株券を提出して名義書替を請求しさえすれば、会社に対する関係でその構成員としての株主と為り得 るのであるが、それをしない限り正当な株券の所持人として、会社及び第三者に対抗し得るに過ぎない。従ってこの 者は名義書替を請求すれば株主と為り得る地位を有するに過ぎず、記名株券の表彰する権利は名義書替請求権である。 この私の見解に対しては、取引の実態から、名簿閉鎖との関係に於いて、いわゆる権利含み、あるいは配当含みで譲 渡人は株式を譲渡しておきながら、譲受人が失念その他の理由で名義書替を請求しないことを奇貨として、新株引受第1巻3号一一14 権を得たり、配当金一を受け取ったりすることは二重の利得を得ることになるとの批判が予想される。この点が譲受人 が権利者であるとする通説の根拠の一ともいえるのであるが、譲受人が権利者として譲渡人に対してその得たる利益 の引き渡しを請求出来る法的根拠については、準事務管理説、不当別得返還請求権説等があるが、いづれの説も欠点 ハ 3 ) があり、結局は両者の聞の契約もしくは商慣習によるとするのが多数説である。 私は株式の取引は元来そのようなものであって、譲渡当事者はそのようなことは十分知った上で取引をする筈であ ( 4 ﹀ るから、譲受人は自己の責任に於いて発生した不利益は甘受すべきではないかと考える。しかし、それだからといっ て、当事者聞の契約もしくは両者聞において存在する商慣習までをも否定するつもりはない。ただ、これは社団法の 論理に属する問題ではなく、譲渡当事者聞の取引関係に過ぎないのであり、譲渡人の利益と譲受人の不利益との聞の 因果関係に問題があるにせよ、譲渡人に利得がある場合が多いことは疑いの無い事であるから、衡平法上の見地から また商慣習が認められればそれに拠るのは当然だと考えるからである。そして 日本証券業協会の統一慣習規則は、元来会員たる証券会社間の取引に付いてのみ適用されるのであるが、その証券会 ハ 6 ﹀ 社と顧客との取引に付いても、拡大して適用しても、株式取引の実態からみて差し支えないのではないかと考える。 両者の聞に契約があればそれに従い、 ( 1 ) 高 鳥 ﹃ 名 義 書 替 の 失 念 と 増 資 新 株 の 帰 属 ﹄ 会 社 法 の 諸 問 題 五 二 六 頁 、 塩 田 ﹃ 失 念 株 の 問 題 に つ い て ﹄ 民 商 法 雑 誌 = 一
O
巻 四 号 三 七 頁 ( 2 ) 大隅・今井会社法論上回O
一 一 具 、 鈴 木 ・ 竹 内 会 社 法 一 四 五 頁 、 堀 口 ﹃ 失 念 株 ﹄ 会 社 法 演 習 1 一 三 七 頁 ( 3 ) 西原商法演習 3 三O
一 具 、 塩 田 前 掲 四 一 一 具 、 田 中 誠 会 社 法 詳 論 上 三 八 四 頁 、 北 沢 会 社 法 二 二 一 一 貝 ( 4 ) 境 ﹃ い わ ゆ る 失 念 株 に つ い て ﹄ 大 森 先 生 記 念 論 文 一 五 八 頁 5 ( 5 ) 境前掲一五一頁 ハ 6 ) 境前掲一五九頁五
オフ り お 最初に述べたごとく法務省民事局から発表された﹃商法・有限会社法改正要綱案﹄は株式会社・有限会社に関して 大幅かつ根本的な改正が試みられている。株券に付いても無記名株券の廃止、会社はその定款で株主の請求があった ( 2 ﹀ 場合に限り株券を発行する旨を定めることが出来、更に定款で株式の譲渡制限を定めた会社に於いては株主の請求が あった場合でも株券を発行する必要は無いとし、このような会社に於いては、株式の譲渡は当事者の意思表示のみに よるとし、第三者に対する対抗要件としては株主名簿の名義書替を必要とし、その手続きは譲渡人と譲受人の共同申 ハ 4 ) 請手続又は譲受人が譲渡に関する公正証書を添付してする単独申請手続によること、及び株券喪失の際の再発行手続 きの簡易化等である。 この内、無記名株券の廃止は賛同すべきであると考える。無記名株券は最初に述べたごとく株式そのものを表彰す る証券として有価証券性は強いといえるのであるが、我が国では定款に規定がある場合に限り発行出来るし、(商法二 二七条)株主がその権利を行使するには会社に株券を供託する必要がある(商法二二八条﹀等会社にとっても株主にと っても不便であるので、実際に無記名株券を発行している会社は皆無といっても良いのであり、この際廃止しても良 いのではないかと思えるからである。 しかし、記名株券に関する限り今度の法改正には俄かに賛同する事は出来ない。今回の改正案の方向を見る場合、 株式会社特に小会社といわれる会社は限りなく有限会社に近付きつつあるように思える。株式の原則的譲渡の自由と 有価証券である株券の存在は株式会社の特徴の一であると考えることが出来るので、株券を株主の請求が有る場合に 限り発行する旨を定款で定める事までは良いとしても、譲渡制限の定めのある会社に限るにしても請求が有っても株第1巻3号一一16 券を発行しなくても良いとするとか、当事者の意思表示だけで株式譲渡が可能になるような改正はすべきでないと思 われる。特に株券の発行を株主の請求に因る場合に限る会社に於いて株式の譲渡を株券のよってするかどうかは今後 の検討するとしているのであるが、今まで述べてきた記名株券の役割を考えると検討の余地の無い問題だと思われる。 改正案はせっかく株券の有価証券性を振り出しに戻し、株式会社と有限会社の区別を不明瞭ならしめるし、折角株 式会社の最低資本性を導入して株式会社と有限会社との区別を本来に立ち返ってある程度明確にしようとしている事 と相反するものとして反対せざるを得ない。 ( 1 ) ( 2 ) ( 3 ) ( 4 ) ( 5 ﹀ 商法・有限会社法改正要綱案三(株式・持分)の叩 同 案 三 の 5a 同 案 三 の 5 b 同 案 三 の 6 同 案 三 の 日