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<総説>顎関節症の発症の背景について-下顎頭形態の変化と適応- 利用統計を見る

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総 説

顎関節症の発症の背景について

一・

コ顎頭形態の変化と適応一

大  西  正  俊

山梨医科大学歯科ロ腔外科三教室 抄 録:顎関節症は歯科口腔外科に於て遭遇頻度の高い疾患であり,しかもその患者数は最近,増 加傾向を示している。本症の発症には歯牙,咬合に関連した外傷性因子が強く関与しているが,最 近の軟かい食物にかこまれた食環境を反映して顎関節を含む咀囑システムの弱体化が指摘されてい る。我々はその背景をなす顎関節形態の変化について以下の検索を行った。下顎頭形態と歯牙咬耗 との関連性をナイジュリア人ヨルバ族の有歯顎健常人の下顎頭X線露ならびに臼本人古人骨(縄文 人,弥生人)と現代人の頭蓋骨標本を対象に検討した。その結果,ナイジュリア人と日本人古人骨 の両者において下顎頭の機能的適応による形態変化がみられ,その程度には歯牙咬耗度との関連性 がみられた。  曝噛システムでの良好な適応がみられたナイジエリア人については顎関節症は極めて少ない疾患 である事から日本人においても同様に良好な機能的適応がみられた古代人については同じことが考 えられる結果であった。  これらの結果をふまえて,現代臼本人について健常人と顎関節症患者(片側性)の下顎頭形態を X線豫上で検討した。その結果,左右側で形態上の差がみられたものが健常人より片側性顎関節症 患者に明らかに多く,さらに形態変化は健側関節が大きいとの結果であった。  以上の検索から,咀噛機能の結果,生じた歯牙咬耗は下顎頭に形態変化を及ぼすことが明らかと なった。そして,これらの形態変化は機能的適応と関連し,その遅れた側(患側)に多く発症する ことが示唆される結果を得た。 キーワード 顎関節症,下顎頭,形態的変化,機能的適応,歯牙咬耗

1.はじめに

 歯科,ロ腔外科の臨床における重要な課題の 1つに,咬合機能を有効に維持し,あるいは改 善,回復させ咀囑システムの保全をはかること があげられる。そしてこのための要点としては 開口,閉口,岨囑運動のかなめでもある顎関節 の円滑な機能が不可決の条件となっている。こ れに対し,顎関節の機能障害を主徴とする疾患 に「顎関節症」があるが,最近本症を主訴とし  〒409−38山梨県中巨摩郡玉穂}liT下河東1110  受付: !988勾三11月301ヨ  受理:1988年12月22日 て来院する患者は増加傾向にあり,その原因と ともに予防処置手段の究明が重要な課題となっ ている。本稿では本症の発症原因の背景につい ての考察とともに,とくに原因に関連した下顎 頭形態の変化に関する我々の検索結果について 述べてみたい。 II.顎関節ならびに顎関節症について  顎関節tempOfom繊dibular jointは頭蓋の側 頭骨と下顎骨の間にある滑漠関節であり,また 対関節という全身他領域の多数関節に例をみな い生理解剖学的特異性をもっている♂あごの開 閉口,咀囑,咬合運動など歯牙咬合と大きな関

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連性を有することから顎関節については歯学領 域において基礎,臨床の両サイドからの検索, 究明が広く行われている。  このように歯科治療と極めて密接な関連をも つ顎関節の疾患のなかで最近とくに注目されて いるものに顎関節症がある。本症の名称はJ. Foged(1949)がTemporomandibular Arthrosis と命名,それをもとにしてわが国では1956年に 上野らが「顎関節症」と提唱して以来,一般的 に用いられているものであり,その経緯:からみ ても比較的新しい疾患群であるといえよう1)2)。  本症の概念は開閉口運動時の顎関節部の癒 痛,顎関節雑音,そして開口障害ないし顎運動 異常などの臨床像から成立している。その発症 原因としてはいくつかのものがあげられている が,なかでも有力な因子として広義の顎関節外 傷が指摘されている。その顎関節外傷は外来性 と内在性のものに区別されるが,前者には下顎 骨骨折,顎関節挫傷あるいはあくび,診療時の 過度の開口による直達性,介達性のものがあ る。注目されているのは,後者の原因であり, 不正咬合や抜歯後放置された歯牙欠損状態,不 良補綴物などの咬合に起因するもののほかに精 神的ストレスより起因する歯ぎしり,咬みしめ などの悪習慣が原因として最近クローズアップ されている3)4)。  ここでとくに問題になるのが,本症が最近増 加しつつあることである。表1は山梨医科大学 附属病院歯科口腔外科外来を受診した患者の診 断別分類であるが,そのなかで顎関節疾患の占 める比率は少なくないことがわかる。このよう な傾向は同様に欧米においても報告されてお り,本症発症の民族間,国別の差を考慮すると, 本疾患の発症の原因には一般にいわれている種 々の因子の背景に,それぞれの国の社会生活環 境あるいは習慣,とくに食習慣等の因子の関与 が推測される。すなわち,わが国をはじめ欧米 諸国での食環境は近年とみに軟らかい食物群に かこまれ,もはやそれ程強力な咬合力を要しな い食生活がとくに成長期において一般的であ り,その結果として顎関節を含む咀噛システム 表1 口腔外科疾患の診断別分類        山梨医大 歯科口腔外科

疾患名

1985年 !986年

症節胞傷瘍形形遊園

 関    変疾の

炎顎嚢外腫奇顎香そ

244 82 64 64 40 45 10 28 49 281 110 78 66 54 43 23 29 71 計 626 755 の弱体化がいわれている5)。このような咀噛機 能の低下は最大咬合力の減少となって報告され ており6),また硬い食物にかこまれた食生活環 境の時代にみられる歯牙の咬耗が最近では稀に しかみられなくなっていることからも明らかで ある。一方,本症の発症メカニズム上の咬合力 の強さは機械的刺激として顎関節部への負荷と なって加わり,同感での骨無i造の改造remodeL ingとして緩慢な機能的,形態的適応がおこな われる。そしてこのような現象は関節部への生 物学的な力が生理的許容範囲内にある場合にみ られ,顎関節各部分の形態は相互に適応し,形 態と機能の正しい関係を維持することになると されている。そしてこれらのremodelingの能 力は顎関節の側頭骨下顎窩よりも下顎骨関節頭 (下顎頭)に大きく現われ,咬合力の大きさの 程度に応じて発現する歯牙咬耗との関連性が示 唆されているη8)。  このようなことをふまえ,現代病ともいいう る顎関節痒発症の背景にある食生活環境,歯牙 咬耗と下顎頭形態の変化について以下のような 検索を行った。 III.下顎頭形態の変化についての検索  1) 歯牙の咬耗に対する下顎頭形態の変化  歯牙の咬耗が下顎頭形態におよぼす影響につ いては既に指摘されているが,これらの関連性 についての臨床データによる調査を行った9)10)。  この調査は西アフリカ,ナイジェリア連邦共

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和国において行った,昭和61年度文部省科学研 究費補助金による第2次海外学術調査であり, 課題「ナイジェリア人の歯科実態調査,とくに 田本人との相違について(追跡調査)」(研究代 表者:窪田金次郎教授,課題番号61041026,研 究期間1986年11月15日一12月22日)の一環とし て,当地のイフェ大学医学部歯科(主任:ホリ スト博士)との共同研究として行った。この調 査のきっかけは同一課題による昭和56年度の第 1次の海外学術調査(研究代表者:窪田金次郎 教授,研究期間1981年10月25日∼12月14日)の 結果から,調査対象であった小児も含めたナイ ジェリア人に重度の歯牙咬耗が多くみられたか らである11)。第2次調査の対象はナイジェリア の首都ラゴスから北北東へ約200kmにあるオ ヨ州イフェ市郊外の住人(ヨルバ族)の38名68 顎関節,男性22名女性16名,年齢21−70歳(平 均47.1歳)であり,有歯顎,歯科処置歯がなく, 歯牙咬耗のほかは咬合関係に特に異常のないこ とを条件とした。  検索方法は顎関節,下顎頭のX線前後方向像 (眼窩一関節方向規格撮影)での下顎形態を Yaleの分類(1969年)を参考にrou簸d, convex, Hat, concaveの形態に分け,さらに同一被験者 の歯牙咬耗をBrocaの分類(1879年)に関連さ せ,咬耗度1度と2度を軽度咬耗群とし3度と 4度を重度咬耗群として両者間の下顎頭形態の 分布の相違を比較した12)13)(図1,表2)。  その結果は表3の如くであった。すなわち, 軽度咬耗群ではco亘vex,且atの形態のものがほ ぼ半数であったが,重度咬耗群では下顎頭高径 の減少した,扁平度のさらに大きいと思われる concaveの形態のものが新たにみられる明らか な差がみられた(図2ab)。  以上の結果のごとく,ナイジェリアにおける 調査では歯牙の咬耗が著明になると下顎頭形態 はm膿dから扁平なHat, concaveに変化する 傾向がみられた。このことは歯牙の咬耗は咬合 高径の減少をまねくが,その結果として顎関節 部への負荷の増大となり,それに対応して下顎 頭がその高径を減じた形態である丑at, concave τOUηd conyex∂η8エed fエ∂亡concave     図1 下顎頭形態の分類  眼窩一下顎頭方向撮影による下顎頭形態を Ya玉eの分類(1969)を参考に以下のように分 類した。  表2 BROCA,S class呈丘cation(from l879)    of dental a枕rition O  : no  attrit呈on IO:attr呈tio礁of ename1;cusps still vislble, 20: dentin is exposed, 30:0cclusal rellef is wom away leaving enamel   r呈mperipherally, 4。:cfow簸worn down close to co恥m dent呈s. に適応したものと考えられる14)。  対象であるナイジェリア人はいずれも歯科治 療の経験はなく,したがって歯科補綴物等は全 くない有歯顎で,顎関節症状もない健常者であ った。そしてナイジェリア側の共同研究者のホ リスト博士によるとイフェ大学医学部附属病院 歯科への受診者に顎関節症はほとんどいないと のことであった。  ここで注目されるのが,顕著な歯牙の咬耗を 発現させうる風土,環境と食習慣であろう。  調査地のナイジェリアは南にギニア湾,北に 広大なサハラ砂漠をひかえ,面積は日本の2.5 倍,約250の部族からなる人口約8千万(ヨル バ族は1500万の最大部族)の石油産出国であ り,ブラックアフリカで第1の国力を誇る国で ある。気候は熱帯の高温多湿で雨期(5月一9月) と乾期(10月一4月)があるが特に乾期ではサハラ 砂漠からの特有のハマターンharmattanとい う熱風が吹きこれによって運ばれてくる多:量の 砂塵により,ひどいときにはあたり一面が濃霧 状となる15)。このような砂塵は空気はもとより 水,食物などあらゆるものに混入し,山鼠時の 歯面に研磨材として作用することにより,顕著 な咬耗の発現に一役かっているとの指摘もあ る13)16)。ナイジェリアに於て多くみられた咬耗 の原因事項の!つにこのような砂塵の関与があ

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表3歯牙咬耗と下顎頭形態の関連

   一ナイジェリア人(ヨルバ族)38名68顎関節一

round convex flat

concave計

軽度咬耗群 0−2度 (12名)  ! (4。5)  1Q    11 (45。5)    (50、0)  ︶

00

 ︵ 22関節 (100) 重度咬耗群 3−4度 (25名)  ︶

00

 ︵  17   18   11  46関節 (37。0)    (39.1)    (23.9)    (100) ()は% (カイ2乗検定 P=0。0453)

  図2歯牙咬耗状態(Broca 3度) ナイジェリア人(ヨルバ族),62歳男性(症例 No.32)。 a.口腔内,歯牙所見 b。同症例の下顎頭×線像     眼窩一関節方向撮影 るものと思われる。  一方,この調査で同時に行った食物調査から も,ヨルパ族の人達の主食のヤム芋,カサバ芋, トウモロコシ,パソはともかく,たんぱく源の 魚類では干物か硬い寸寸,食肉は牛肉,鶏山 羊あるいはbush meatと呼ばれる野生の鹿, イノシシ,ネズミなどで,それらは脂肪分がな くいずれもゴムのように硬いが美味な肉であっ  図3 ナイジェリアでの歯牙清掃用品 a,「paco」(ヨルバ語)一一端を噛んでハケ状に   して使う歯ブラシ,下は彫刻のある高級品 b。「1apa lapa tree」の枝,苦い樹液をデンタ   ルクリームとして使う た。そのほか,嗜好品としてのサトウキビ,コ ーラナヅツなどや,歯ブラシとして一般に繁用 されている「パコ」は生木そのものを割ったも ので相当な咬合力がないと使えないものであっ た(図3)。 このようにナイジェリア人々は厳 しい環境のなかで,いろいろな自然食を実によ く噛んで食べており,虫歯が極めて少なく,噛 む力が強く,等等システムが非常に発達してい ることが調査結果から明らかであった17)。

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Brocaの分類  表4 歯牙咬耗と下顎頭の変化(日本人) 一縄文時代人骨(87体141顎関節)の観察結果一 R(round)CV(convex)F(Hat)A(ang正ed)CC(conc即e)計 1−2度 (29体) 3−4度 (58体)  2     25     17 (4%)     (53%)     (36%)  O      !6     55 (0%)     (!7%)     (59%)  3 (6%) 三ゲ… (20%)  0     47 (0%)     (33%)  6      94 (6%)     (67%) Broca分類       (カイ2乗検定p凱0.0000) 一弥生時代人骨(24体40顎関節)の観察結果一 1−2度 (13体)  3     14 (14%)    (64%)  0      4 (0%)  (22%)  3     2 (14%)  (9%)  0 (0%)  22 (55%) 3畷度 (11体)  9     工 (5◎%)  (6%)  4 (22%)  18 (45%) Broca分類        (カイ2乗検定p篇0.0001) 一現代人骨(25体52顎関節)の観察結果一   R    CV     F    CC     計 1−2度 (25体)  15 (30%)  27 (54%)  8 (16%)  0 (0%) 50 3−4度 (!体) 0 0 2 0 2  2) 日本人,古人骨(縄文人,弥生人)につ    いての調査  ナイジェリア人(ヨルバ族)での調査結果を 考慮し歯牙の咬耗と下顎頭形態の変化を日本人 について調査することとした。対象の現代日本 人については著明な咬耗はほとんどみられず, また歯科補綴物の影響が考えられる。そこで歯 牙の咬耗が普通に起こりうる生活環境にあった と思われる古人骨の縄文人(87体141顎関節), 弥生人(24体40顎関節)と歯科補綴物のみられ ない現代人(26体52顎関節)の骨標本について 調査した。  検索方法は乾燥頭蓋骨を肉眼的に観察し,特 に下顎骨標本について同一標本の歯牙の咬耗と 下顎頭形態の関係を,先の調査で参考にした Yaleの分類とBrocaの分類により軽度咬耗群 (Brocaの!度,2度)と重度咬耗群(Brocaの 3度と4度)に分け同様に検索した。  検索結果は表4の如くである◎  まず縄文人と弥生人についてのそれぞれの軽 度咬耗群と重度咬耗群の間には明らかな下顎頭 形態の差がみられた。すなわち,いずれも軽度 群では下顎頭形態はconvexが主体であったが, 重度群ではHatが多くなり,より大きい下顎頭 形態の変化がみられた。さらに下顎頭形態とそ の分布は縄文人と弥生人の間でも差がみられ, また現代人骨の重度群は少数で比較しえなかっ たものの軽度群においては古人骨との間に明ら かな差がみられる結果であった(表4,図4, 5)。  歯牙の咬耗と下顎頭形態の変化についての検 索結果をまとめると,ナイジェリア人について みられた結果と同様な傾向が日本人古人骨につ いてもみられ歯牙の咬耗と下顎頭形態の変化は 一般に起こりうる現象であると考えられる。さ らに,縄文人と弥生人の差は狩猟民と農耕民の 食生活の相違が示唆され,現代人との間には同 様に大きな差がみられる結果であった18)19)2G)。  縄文人,弥生人のような古代人に現代人と同 様な顎関節症患者がいたか否かは知る由もない が,ナイジェリアでの調査結果を考慮すると恐 らく少なかったであろうことが推測される。  その背景にある理由として,う蝕の発生率が 極めて低く,全歯牙が咬耗しうる生来の歯牙よ

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鰐疫 霧凱 製驚ぱ

図4縄文人の頭蓋骨(東京大学総合資料館資   料) a.顔は短く,角張り,下顎が発達し一般に鉗   子咬合である b.歯牙咬耗3度,下顎頭形態は且at。下顎前   歯部抜去の当時の風習がみられる りなる有歯顎と丈夫な顎関節の存在がある。そ してこのような状況下での咀噛機構の健全な機 能により加齢現象としての歯牙の咬耗が極めて 自然に徐々に起こり,咬合高径の変化に対応し た形で下顎頭形態を変化させることが考えられ る。このような下顎頭形態の変化は生理的な適 応であると考えられ,咀囑システムの加齢変化 に対応した顎関節機能を維持する上で重要な意 味をもつものと思われる。同時にこのようなサ イクルが円滑に行われているか否かが,顎関節 異常の発現とも大きな関連性をもつものと推測 される検索結果であった。  3)現代日本人の下顎頭形態の変化について    の検索  前述のごとく歯牙の咬耗と下顎頭形態の変化 には明らかな関連がみられ,加齢変化として, また生理的適応としての存在が示唆された。そ れでは現代の日本人についてはどうであろう 図5 弥生入の頭蓋骨(九州大学医学部第二解   剖学教室資料) a.高い顔と長い下顎枝,鉗子咬合がみられる b.歯牙咬耗2度目下顎頭形態はconvex か,とくに歯科補綴処置によりほとんど自然な 咬耗が起こりにくい状況と,軟かな食物にかこ まれ咀囑をそれほど必要としない環境下での下 顎頭形態の変化についての疑問から以下の調査 を行った。  検索対象は1)健常者で有歯顎,関節症状が ないもの,2)片側性顎関節症患老で,有歯顎, 関節原性のもの一の2群とした。  検索方法はX線像(眼窩一関節方向撮影)で の下顎頭形態の変化を判定し,同一被験者の左 右差を比較,検討した。その判定は前述の調査 と同様に下顎頭形態をYaleの分類を参考にし て行ったが,左右が同一分類形態の場合には部 分的な形態差によって「左右差あり」と「左右 差なし」の判定をした。そして形態変化は

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found→co簸vex・→flat(a鷺gled)→concaveの順に 大きくなるものとして判定した。  検索結果は表5の如くである。  1)健常人における対象は85名であったがそ のうち「左右差なし」が71名で全体の83.6%で あるのに対し, 「左右差あり」は14名で16.4% であった(表5)。  表5下顎頭形態と変化についての検索 一日本人健常者と片側性顎関節症患者の比較一 ○健常者  左右差なし  左右差あり 71名(83.6%) !4名(!6.4%) 85名  (100.0%) ○顎関節症患者(片側性)  左右差なし        28名(28.9%)  左右差あり        69名(71.1%) 左右差ありの内訳 97名(100.0%) 健側変化

患側変化 52名(75.4%) 17名(24。6%)         69名(100。0%) 健常者と顎関節症患者(pコ0.0000)  2) 顎関節症患者(片側性)については対象 97名について「左右差なし」は28名で28.9%, 「左右差あり」は69名でで71.1%あった。この うち,さらに,「左右差あり」の69名の内訳は, 健側と患測のうち健側変化が大きいと判定され たものが52名で75.4%,患測が大としたものが 17名で24.6%であった(表5)。  すなわち,日本人の健常者と片側性顎関節症 患者での下顎頭形態についての検索結果から, 両者の間には「左右差あり」と「左右差なし」 の比率には大きな相違がみられ,特に顎関節症 患者での「左右差あり」が多く,健側での変化 が大であったものが2/3を占める結果であっ た。  現代日本人についての下顎頭形態の変化につ いての検索結果を考察すると健常人の下顎頭形 態の変化,すなわち左右差は10代ではほとんど ないが,20代になるとみられるようになる。こ れはう蝕歯や左右における欠損歯,補綴物ある いは片側咀囑などの習慣がこの時期になり下顎 頭形態に反映され,左右差となって現れてくる ものと思われる。「左右差なし」と「左右差あ り」の比率が健常人で71名対14名(約5:1) であるのに対し,片側性顎関節症患者では28名 対69名(約1:2、5)であったがこのことは顎関 節症(片側性)患者の方が「左右差あり」が明 らかに多く,下顎頭形態の変化がおこる負担の かかり方が左側と右側でアンバランスであった ということと思われる。しかも,下顎頭形態の 変化は健側と患側で約3対1の割合であり,健 側に多くみられたことである。このことは,そ れだけ健側における変化適応がより円滑に行わ れた結果でもあり,患側の変化が少なかったこ とはそれだけ適応が円滑に行われなかった結果 であるとも考えられる。  そして,このような適応が遅れた患側に関節 症状がおこりやすいのではなかろうかと示唆さ れる結果であった鋤。

IV.おわりに

 歯牙の咬耗と下顎頭形態の変化についての調 査から,両者の間には明らかな相関があること がナイジェリア人の臨床データならびに日本人 古人骨標本から明らかとなった。  そして,下顎頭形態の変化が,咀囑システム の機能的適応の1つであると考えられ,このよ うな適応が円滑に行われていると思われるナイ ジェリア人(ヨルバ族)に顎関節症患者が本当 に少ないとすると,同様な状態が観察された日 本人の縄文人,弥生人についても同様なことが 推測される。そして.このような三三システム の1部分としての顎関節の適応が顎関節異常の 発症に大きくかかわりをもつものと考えられ るQ  このような背景をふまえて,現代日本人の下 顎頭形態の変化についての調査結果を考慮する と,我々現代人の咀i穰機構は既に小児期より軟 らかすぎる食物環境に慣らされ咬合力の低下な どがみられること,う蝕に罹患しやすいこと,

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さらにほとんど咬耗の起こらない歯科補綴物や 治療終了時点で新たな咬合関係が設定される歯 科補綴処置,外科的矯正処置の存在など,顎関 節形態の変化,適応が円滑には対応されにくく なっているように思われる。  咀囑システムの加齢に対応した下顎頭をはじ めとした顎関節形態の変化,適応を回復させう る歯科治療体系への考慮が今後の咀囑機構に関 連した顎関節異常の発生予防につながるように も思われる。  稿を終えるにあたり,海外学術調査でご指導下さ った明海大学,窪田金次郎教授(策医歯大名誉教 授),また資料・古人骨を提供下さった菓京大学理学 部遠藤万里教授,九州大学医学部申橋孝博講師,さ らに資料・現代人骨を提供下さった山梨医科大学熱 海佐保子教授ならびに東回歯大歯学部一条尚教授に 深謝する次第です。 ︶ 1 ︶ 9緬 ︶ 3 ︶’ 4 5︶ ︶ 6 > 7 文 献 上野 正,岡  達:顎関節症の研究.口腔科 学会雑誌1956;5:284・ F・gcdJ:Temp・r・madibular arthr・sis・Lan− cet 茎949; 257: 1209. 申村允也:顎関節症の臨床的研究,口腔病学会 菊套誌 1959; 26:986. Greene, CS:Myo£ac量al pai貰}一dysfunct呈on syn・ dギ01勲。。In Samat,8.G. and Lask三n, D.M. (£ds).:The Tempommandibular joint(3rd E(1)p271−287 c.c. Thomas Pubiisher, nli貸ois, 1983, 香川芳子,柳沢幸江:噛むことを忘れた現代 人,岨囎センター設立推進グループ編「噛まな い人はだめになるjp・15−44,風人社,東京. 1987. Yurkstas, A:The Effcct of MasticatoYy£xcr− c重se o1}the Maximum Force Tolerance of Indivi(lual Teeth. J 二De鍛£ 1)es 董953;32: 322− 327. Mo研ect,8c, Johnson, Lc, Mccabe,声6∠α∼.: Articuiar remodeling ohhe adult temporo一 餓andlbular loillt。 An甑JAnad964;II5:119− 142. ︶ 8 ︶ 9 給) 11) 12) 13> 14) 15) 16) 17) 18) 19) 20) 21) Rlack w・・d, HJJ:ce掘撲r rem・deling in articu王ar t玉ssue. J Dent Reg l966;45:480−489・ Mongini, F:Anatomic and c肇inical evaluatioll of由e relations betweell the temporom鋤dibu− 1ar joint and occlusion・Jprosthetic I)entistry 1977; 38: 539−551. Hint・n, RJ 8廊∼・:Te㎜P・ral change in hum乙ln temporomandibular joint s{ze alユd shape・ American J I979;50:32ト334. Kubota, K 8‘αム: Den譲1 survey in Iligeria part 4. prevalence and severity of periodon餓1 diseases. The 8ulleti撫of Tokyo Med&De捻t Univ l988; 35: il−17・ Ya匪e, SH: Radiographic evaluatio紅 of the tcmporoman({ibular joi厩. JADA l 969;79: 102−107. Pin(1borg JJ:chronic mechanical injuries, Patho玉ogy of the dental h盆rd tissue,294−3茎1 Munksgaard Copenhagen l 970. 窪田金次郎:顎運動パターン,顎関節症と咬合 解剖学入門一咀囎システムP・168・日本歯科 誇}と耳糸。 1988・ 外務省情報文化局監修 海外生活の手引第16巻 アフリカ編HF リベリア,コートジボアール, ガーナ,ナイジェリア,中央アフリカ,ガボン 世界の動き社刊,36−75,1982・ Beg9, PR:Stone age man’s de厩i£三〇n・Wit}藁 γeferenCe tO anatOmiCally COrreCt OCCIUSiO1㍉ the etiology o£malocclusion, and a technique for its trcatment。 Aln J orthod 玉954;40: 298−312. 小野芳明:噛む子どもは丈夫になる「噛まない 人はだめになる」95−109,風人社,1987・ 埴原和郎:縄文人の生活,埴原編「日本人の起 源」129一肇50,朝臼新聞社1985・ Hanihara, K 8‘ α乙: Comparisons of £eeth attrition in the Japa織ese poPu1我tioll fronユthe prehist・ric to moderll ages・ 「日本民族,文化の生成」47考3,六興出版 東 京,1988・ 井上直彦,伊藤学而ほか:歴史時代における咬 合の小進化,咬合の小進化と歯科疾患一ディス クレパンシーの研究一4蓋一52頁医歯薬出版(株) 東京1986・ 大西正俊:顎関節下顎頭形態の変化と適応につ いての検討 文部省特定研究「咀囎システムの 基礎的研究」総括班編 咀噛システムの形成と 適応,257−265頁 風人社,東京、1988・

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Background on the Exciting Cause of Temporemandibular Arthrosis -Morphological Chai}ge and Adaptation of the Mandibular Masatoshi Ohnishi

DePartment of Oral and Mascillofacial Surger>], Yama"ashi Medical College

Mre investigated the relationship between ecclusal wear and morphological change in the mandibular l}eads using clinical data on Nigerians and data on the skeletal specimens of ancient Japanese, Jomofi men and Yayoi men. Our study results suggested that morphological change in the mandibular heads appears to be one of the fimctional adaptations of the masticatory system and this adaptation is carried out well in Nigerians and altcient Japanese. Becattse temporo-mandibular (TM) arthrosis is rcally rare among Nigerians, the same situation can be made of ancient Japanese, who had similar characteristics in their masticatory system those o£ Nigerians. A comparative ra(liographic study of the morphology of the mai}dibular head of the TM joint was cari'iecl out in modern Japanese taking the above mentioned }'esults ii) consideration. The study fouRd that 7]% of the 97 cases affected with unilateral arthrosis of the TM joint showed differences between the joints on the right and left sides, however, such diff]erences were found in I6% of 8S hea}thy subjects. Approximately, two-thirds of the 7I% of tmHateral TM joint arthrosis showed a large change on the unaffected side. Thus, this syndrome may easily appear in joints on the side when aclaptation is slow.

Key werds: Tem.poromandibular art}}rosis, mandibular hea(l, morphological change, functional adaptation, dental wear

参照

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