未 破 裂 脳 動 脈 瘤
杉 田 正 夫,木 内 博 之
山梨大学大学院医学工学総合研究部脳神経外科 要 旨:本邦では,脳卒中予防に対する高い関心と画像診断法の進歩により,ほとんど侵襲なく脳 や血管の形態ならびに機能を評価できるようになり脳ドックとして普及している。これに伴い,無 症候性未破裂脳動脈瘤が発見される機会も増加する傾向にある。未破裂動脈瘤は大きさや形状に加 え,高血圧,喫煙などの危険因子の有無により破裂率が異なるが,通常多く発見される 10 mm 未 満程度のものでは年間 1 %程度であり,それほど高くはない。一度破裂するとクモ膜下出血を来た し,半数以上が死亡か社会復帰不可能な障害を呈してしまう。このため治療方針や治療方法は画一 的ではなく患者の年齢,状態,動脈瘤の部位,形状,治療の難易度などを総合的に吟味し,患者に 最大の恩恵を提供できる選択肢を提示しなければならない。当科では,日本脳ドック学会の指針 (ガイドライン)に準拠し治療に当たっているが,治療には,従来より行われ,予防効果のエビデ ンスが確立している脳動脈瘤クリッピング術に加え,近年,脳血管内治療によるコイル塞栓術も行 っている。本総説では,この未破裂脳動脈瘤の概略と現時点の我々の治療方針に加えて,安全で確 実な外科治療に向けて当科で行っている治療法の実際について解説する。 キーワード 未破裂脳動脈瘤,脳ドック,脳動脈瘤クリッピング術,コイル塞栓術 はじめに 現在,わが国の磁気共鳴画像(MRI)装置の 普及率は,人口 100 万人に対して 35 台以上と, 先進諸国の中で最も高く1),MRI による頭蓋内 疾患の精査が容易に行われるようになった。ま た,本邦では,国民の脳卒中予防に対する高い 関心により,MRI や磁気共鳴血管撮影(MRA) によって脳の診査を行う,いわゆる“脳ドック” が 1990 年代以降多くの施設で実施されるよう になっている2,3)。このような背景により偶然, 無症候性の神経疾患が発見される機会も増え, その代表的疾患が未破裂脳動脈瘤である。 未破裂脳動脈瘤は,いったん破裂すればクモ 膜下出血となり,半数以上が死にいたる。脳神 経外科に到達する前に致死的状態に陥る場合も 多いため,診断方法や手術技術の進歩にもかか わらず,クモ膜下出血全体の予後はほとんど改 善していないとの指摘もある4)。それ故,脳動 脈瘤を破裂前に発見し治療することにより,重 篤な病態であるクモ膜下出血を予防することは 有益と考えられるが,そのためには,病変の頻 度,破裂の危険性などの疾患の疫学的データに 加えて,治療のリスクなどの医療者側のデータ も踏まえておく必要がある。しかしながら,本 邦における,未破裂脳動脈瘤の自然歴は,未だ 明らかになっておらず,2001 年から厚生労働 省の研究事業として日本脳神経外科学会がおこ な っ て い る 日 本 未 破 裂 脳 動 脈 瘤 悉 皆 調 査 (UCAS Japan)の最終報告が待たれるところで ある。本総説では UCAS Japan の中間報告5,6) 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 受付: 2007 年 1 月 25 日 受理: 2007 年 2 月 9 日総 説
を含め,これまでに示された未破裂脳動脈瘤の 疫学的事項,最近の治療法および当科における 治療成績について解説する。 I 未破裂脳動脈瘤の疫学 1)未破裂脳動脈瘤の保有率 未破裂脳動脈瘤の発生頻度に関しては,その 検索法や,検索対象,および study design によ り多少の開きがある。脳ドックに広く用いられ ている MRA における検出率は 2.8 %で加齢と ともに上昇し,男性では 40 歳以降に,女性で は更年期以降に,さらに発見率が急増するとさ れている7)。また脳ドック受診者を対象とした 血管撮影においては,約 7 %と高率に動脈瘤を 検出したとの報告もある8)。しかし,これまで の後ろ向き研究では,一般的に 1 %以下とする ものが多く,0.2-0.8 %9,10)程度とされ,前向き 研究ではやや多く 1.6-5.1 %11,12)と報告されて いる。また,1994 年以降の日本における多数 例の検討では,性別と年齢の補正により,約 2.2 %(男性 1.8 %,女性 2.7 %)と推定される13)。 また,脳動脈瘤を合併しやすい疾患として fi-bromuscular displasia(FMD),大動脈縮窄症, 多嚢胞腎,Ehlers-Danlos 症候群などがあり, これらにおいては,通常より 2 − 5 倍の確率で 脳動脈瘤を保有しているものと考えられる14)。 さらに,2 親等以内にくも膜下出血の家族歴が ある場合には約 15.5 %に上るとする報告15)も あり留意しなければならない。 2)出血率 無症候性未破裂脳動脈瘤の破裂(出血)率に 関しては,以前より約 1 − 2 %の年間出血率と 認識されてきた。しかし,UCAS Japan の中間 報告では,出血率が 0.67 %前後であり,考え られていたほど高くないようにも思われる5)。
2003 年に New Engl J Med16)に発表された未破
裂脳動脈瘤国際共同研究(ISUIA)の prospec-tive study の結果によると,5 年間の追跡の結果, 7 mm 未満の動脈瘤においては,くも膜下出血 の既往がある場合は年間破裂率が 1.5 %で,既 往のない場合は 0 %,大きさ 7 mm 以上のもの の 5 年間の累積破裂率は前交通動脈瘤,内頸動 脈瘤,中大脳動脈瘤で 2.6 %,内頸動脈後交通 動 脈 動 脈 分 岐 部 動 脈 瘤 , 脳 底 動 脈 瘤 で は 14.5 % , 13 − 24 mm で は そ れ ぞ れ 14.5 % , 18.4 %,さらに 25 mm を超えると 40 %以上に なるとされている17)。動脈瘤の大きさ以外に, 脳動脈瘤の出血に関与する因子として,bleb (動脈瘤壁に生じた突起状のふくらみ)など動 脈瘤の形状18)や大きさの変化8,13)が重要で, 動脈瘤壁自体の変化であり破裂率が高いことは 容易に理解できる。 このほか多発性19),家族性20),年齢13),喫 煙21),高血圧22)などで破裂率が高いとの報告 がある。 II 未破裂脳動脈瘤の治療ガイドライン 日本脳ドック学会による脳ドックのガイドラ インは 1997 年に策定され3),2003 年に改訂さ れた23)。特に未破裂脳動脈瘤に関しては,国 際共同研究の社会的なインパクトの大きさゆえ に専門的な立場から多角的に検討され,わが国 独自の解析を加え24)慎重かつ詳細な記載がな された。(Table 1) 『硬膜内に存在する動脈瘤が発見された場合 は,原則として手術的治療(開頭術あるいは血 管内手術)を検討する。一般的に脳動脈瘤の最 大径が 5 mm 前後より大きく,年齢がほぼ 70 歳以下で,その他の条件が治療を妨げない場合 は手術的治療が勧められる。特に 10 mm 前後 より大きい病変には強く勧められるが,3 ∼ 4 mm の病変,また 70 歳以上の場合にも,脳 動脈瘤の大きさ,形,部位,手術のリスク,患 者の平均余命などを考慮して個別的に判断す る。 手術が行われない場合は発見後,6 ヶ月以内 に症候出現の有無と画像による脳動脈瘤の大き さおよび形状の変化の観察が必要で,増大ある いは突出部(bleb)の形成が認められた場合に は手術的治療を勧める。変化のない場合は,そ
の後少なくとも 1 年間隔で経過観察を行う。観 察期間中は喫煙,高血圧などの脳動脈瘤破裂の 危険因子の除去に努める。』 とされ,このガイドラインに沿った治療方針の 決定が行われている。 III 治療 脳動脈瘤の治療は,動脈瘤を血流から隔絶し, 閉塞させ破裂を予防することである。その方法 としては,開頭手術により脳動脈瘤の頚部を金 属製のクリップで閉鎖する脳動脈瘤ネッククリ ッピング術と最近普及してきた血管内治療よる コイル塞栓術がある。しかし,いずれも困難な 場合には,親動脈ごと動脈瘤を閉塞して,その 遠位部血管に浅側頭動脈などの外頸動脈を直接 あるいは大伏在静脈や橈骨動脈のグラフトを用 いて吻合し血行再建を行う方法がある。しかし, 未破裂動脈瘤に対して長期的な出血予防効果が 確立している治療法は,唯一,開頭クリッピン グ術のみである25)。コイル塞栓術の治療成績 も,年々,向上してきているものの,長期の出 血予防効果については国内外において現在追跡 調査中である。 ここでは,これらの治療法について,報告さ れている一般的成績について述べ,当科におけ る治療の現状と代表的症例を提示する。 1)クリッピング術とその治療成績 脳動脈瘤ネッククリッピング術は動脈瘤の母 血管とのつながりをクリップで閉塞し血流を途 絶させる手術であり,1960 年代に,現在使用 されている脳動脈瘤クリップの原型である,金 属のばね製クリップが開発され,脳動脈瘤の出 血予防として,世界的に広がった26)。加えて, 手術用顕微鏡の導入によって,さらに成績も向 上した。全身麻酔下の開頭術であるという欠点 を有するものの,直視下に処置するため,安全 性と確実性が高く,長期的にも出血予防効果が 確立しており25),さらに,クリップの形状や 金属の改良は現在も続いている。 1966 年から 1992 年までに海外で報告された 733 例の死亡率と合併症率の網羅的検討では, 破裂脳動脈瘤との合併例 292 例ではそれぞれ 1.4 %と 3.4 %であり,偶然発見例 289 例では, 0.7 %と 4.8 %であったと報告されている27)。 しかし,2003 年の前向き国際共同研究報告で はクモ膜下出血の既往を有する群では,死亡 1.8 %,合併症 13.7 %で,既往がない群では死 亡率が 0.3 %で合併症が 11 %と合併症率が二 桁を越えていた。 Table 1. 無症候性未破裂脳動脈瘤 (推奨) 1)未破裂脳動脈瘤が発見された場合は,その医学的情報について正確かつ詳細なインフォー ムド・コンセントが必要である。 2)脳動脈瘤が硬膜内にある場合は,原則として手術的治療(開頭術あるいは血管内手術)を 検討する。 3)一般的に脳動脈瘤の最大径が 5 mm 前後より大きく,年齢がほぼ 70 歳以下で,その他の条 件が治療を妨げない場合は手術的治療が勧められる。ことに 10 mm 前後より大きい病変 には強く勧められるが,3,4 mm の病変,また 70 歳以上の場合にも,脳動脈瘤の大きさ, 形,部位,手術のリスク,患者の平均余命などを考慮して個別的に判断する。 4)手術が行われない場合は発見後,約 6 ヶ月以内に画像による脳動脈瘤の大きさ,形の変化, 症候の出現の観察が必要で,増大あるいは突出部(bleb)の形成が認められた場合には手 術的治療を勧める。変化のない場合は,その後少なくとも 1 年間隔で経過観察を行う。観 察期間中は喫煙,高血圧などの脳動脈瘤破裂の危険因子の除去に努める。脳動脈瘤が発見 されなかった場合,3 年以内の再検査の必要性は低い。 5)未破裂脳動脈瘤に関するさらなる情報を集積し,よりすぐれた対応を実現するため,発見 された脳動脈瘤は日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS JAPAN,日本脳神経外科学会)に 登録する。
これに対し,本邦の 1997 年の共同調査によ ると,70 歳代までの 154 例では,死亡率が 0 % で,合併症率が 3.8 %であり,合併症例のほと んどは大型の脳動脈瘤例で,軽度の神経症候の みであったとしている28)。また,2001 年に行 われた多施設調査29)でも,死亡率が 0.3 %で, 合併症率が 5.3 %で極めて良好な結果であっ た。さらに現在継続中である UCAS Japan の中 間報告5)でも,死亡率は 1 %未満ときわめて低 く,合併症率も 5 %未満と,国際共同研究17) よりも良好な成績となる見込みであり,本邦の 外科治療の卓越性を物語っている。 2)血管内治療とその治療成績 現在,一般的に普及している脳動脈瘤の血管 内治療は,カテーテルにより動脈の内腔から動 脈瘤内を閉塞させる方法で,1990 年に UCLA において Guglielmi detachable coil(GDC,離 脱型コイル)というプラチナ製の柔らかく細い コイル(太さ 0.25 ∼ 0.38 mm)の開発にはじ まる30,31)。日本では 1997 年に健康保険の適応 を受け,本格的にこの治療が開始された。これ は,血管撮影と同様にカテーテルを大腿動脈よ り挿入し,頸動脈や椎骨動脈に留置する。そこ からマイクロカテーテル(太さ 0.5 ∼ 0.7 mm) を目的の動脈瘤まで進めて,GDC を動脈瘤内 部に充填し,切り離す方法である。この治療法 の利点は,開頭や全身麻酔が不要で,侵襲が少 ないという点であり,開頭手術では到達が難し い場所の動脈瘤でも,血管の内側から,脳に触 ることなく到達できる場合があり,もっとも大 きな利点である。しかしながら,前述の如く長 期的な出血予防効果は確立されていないのが問 題である32–36)。そのため,未破裂脳動脈瘤に対 する血管内治療(動脈瘤塞栓術)は,最初,多 くの施設で,前述の如く外科的治療では到達困 難な動脈瘤や,何らかの理由により全身麻酔開 頭術に適さない例に対して主に施行されてき た。 1991 年から 1998 年にかけて,UCLA にて血 管内治療が行われた無症候性未破裂脳動脈瘤 115 例の報告では,合併症は 4.3 %のみで,後 半の半数では認められず,安全な治療法である ものの,治療後の出血率は 0.9 %で,長期的な フォローが必要であるとしている34)。 一方,わが国では,無症候性動脈瘤 160 例, 211 個のうち 63 個(30 %)で塞栓術を施行し死 亡率 0 %,永続する合併症 7.5 %(重篤なもの 2.5 %)であったとする報告があるが37),血管 内塞栓術は脳動脈瘤の完全閉塞の達成が 37-90 %35,37,38)と十分とはいえず,また,閉塞さ れた脳動脈瘤が,その後どのような経過をたど るか明らかではないため,定期的な血管撮影に よる経過観察が必要となる。実際,血管内的に 治療された 138 例の検討では,完全閉塞が得ら れたものは 51 例(37 %)であり,その後の出 血は 2 例(1.4 %)に認められ,またコイルコ ンパクション(コイルが血流により圧迫されて 変形すること)が 13 例(10 %)に生じ,再塞 栓術が必要であったとしている35)。現在,米 国では,これまで治療困難であった複雑な分岐 部に生じた幅の広い動脈瘤に対して,stent を 用いたコイル塞栓術や39–41),また,バイオアク ティブコイル42,43)などが開発されており,さ らに適応が広がっていくものと考えられる。 3)当科における未破裂脳動脈瘤治療 当科では,ガイドラインに則って十分なイン フォームドコンセントを行い,患者の希望に沿 った治療を行っている。 未破裂脳動脈瘤治療において,QOL に大き く影響する合併症は,脳神経の障害と動脈閉塞 による脳梗塞である44–48)。ネッククリッピング 術で,これらを回避するためには,手術用顕微 鏡下での慎重な手術操作にくわえ,クリッピン グ前後に全方向から観察し,完成度を確認する ことが必須である。しかし,顕微鏡の視野には 死角が存在し,特に動脈瘤の好発部位である頭 蓋底部主幹動脈の裏側の観察は困難である。さ らに,この部位の動脈瘤の近傍には,多くの場 合穿通枝という重要な血管(動脈)が走行して おり,この閉塞は運動麻痺などの神経症状を引 き起こす。そのため,術中観察や神経機能をモ ニターし,穿通枝閉塞による脳梗塞の予防に努
めなければならない46,49)。当科では,形態的観 察を神経内視鏡50–52)により行い,血流はマイ クロドップラ血流計と術中血管撮影にて確認 し,さらに,運動や知覚の神経機能は誘発電位 モニタリングを用いてリアルタイムにチェック している。 神経内視鏡は,脳深部の構造物に到達する充 分な照明を提供し,微細な点を拡大できるため, 穿通枝閉塞やクリップの位置確認にはとても有 用である53,54)。 最近,内視鏡の支持・固定装置が進歩したこ とより,顕微鏡とその死角に挿入した内視鏡の 同時観察をしながらクリッピングを行うことが 可能となった。我々は,エンドアーム(オリン パス光学:高圧ガス式内視鏡固定器)を用いて 内視鏡を固定し,顕微鏡の死角となる部分の視 野を内視鏡にて維持しながら,穿通枝の剥離と 温存,神経組織損傷の回避などを確認している。 これにより,適切で無駄のない操作が可能とな り,手術の安全性と確実性が向上した55–57)。 マイクロドップラー血流計は,軽量小型化し 高精度となり,顕微鏡下手術にて深部の血管で も測定可能となった。現在は 1 mm 程度の細動 脈の血流音も捉えることが可能である。脳動脈 瘤クリッピングに伴う親血管および近傍の穿通 枝に生じた血流の異常をリアルタイムに確認で きるため,合併症予防に有用58,59)であり全例 に使用している。またあるいはクリップが完全 であると思われたときでも脳動脈瘤内に残存す る血流を確認し完璧を期すようにしている。 術中血管撮影は移動型の脳血管撮影装置60)を 用いる。術前に,血管撮影用カテーテルを留置 し,少量のヘパリン化生食を持続注入して手術 を開始する。カテーテル留置や大型の機器を設 置するために労力が要るが,手術の難易度が高 い巨大動脈瘤,椎骨脳底動脈瘤,解離性動脈瘤, バイパス術を併用する動脈瘤などで有用であ る46,61)。 加えて,血管内に留置されたカテーテルは, 血管撮影の目的以外にも応用することができ る。代表的なものは,retrograde suction
de-compression 法である。この方法は血流遮断を 行いつつ,血管内に留置したカテーテルより血 液を逆行性に吸引し,脳動脈瘤を虚脱させなが ら剥離し,処置する方法であり62),巨大動脈
瘤の手術に有用である。
聴性脳幹誘発電位(Auditory Brainstem Re-sponse)63)
や体性感覚誘発電位(Somatosenso-ry Evoked Potential)49,59)は,以前から脳動脈
瘤手術の術中誘発電位モニタリングとして用い られてきたが,最近,運動障害を把握できる運 動誘発電位(Motor Evoked Potential, MEP)が 導入され,未破裂脳動脈瘤の手術では不可欠な ものとなりつつある64,65)。MEP は大脳運動野 を刺激し,そこから生じる電気信号が末梢の筋 肉に到達することを筋電図により確認する。具 体的には,通常の開頭を行い,刺激電極を硬膜 下腔に滑り込ませて手の大脳皮質運動野を電気 刺激し,対側の拇指球筋から筋電図を得てい る。 4)当科の治療成績 著者らがこれまでに直達手術を施行した無症 候性未破裂脳動脈瘤症例は,160 症例(38-79 歳,平均 60.4 歳,男性 66 例,女性 94 例),175 個の動脈瘤であり,発見の経緯は,頭痛やめま いの精査あるいは脳ドックで発見されたもの 138 例,破裂脳動脈瘤に合併 5 例,脳梗塞・脳 出血に合併 8 例,他の脳疾患に合併 9 例で, UCAS の対象症例に類似している。上述した手 術支援技術を駆使して手術を行っており,手術 成績は Table 2 に示したが,手術における死亡 例はなく(死亡率 0 %),合併症は記憶障害 1 例,一側視力低下 1 例の計 2 例(1.3 %)であ り,最近 1 年間 28 例ではいずれも 0 %である。 また,当科では,神経血管内治療学会専門医 が 2 名おり,脳動脈瘤の塞栓術を開始しており, 症例は多くはないものの,死亡率,合併症とも に 0 %である。 5)代表的症例 【症例 1】クリッピング術を施行した 71 歳男性 2003 年 5 月,頭痛を主訴に来院,その際施 行された MRI,MRA にて脳動脈瘤が発見され
Location of aneurysm GOS Total GR MD SD PV D MCA 82 0 0 0 0 82 ACA 40 1 0 0 0 41 ICA 39 1 0 0 0 40 VBA 12 0 0 0 0 12 Total 173 2 0 0 0 175 Table 2. 直達手術の治療成績
Abbreviation: MCA; middle cerebral artery, ACA; anterior cerebral artery ICA; internal carotid artery, VBA, vertebrobasilar artery GOS; Glasgow outcome scale, GR; good recovery, MD; mod-erately disabled
SD; severely disabled, PV; persistent vegetative state, D; dead
Fig. 1. a. Preoperative DSA showed a saccular aneurysm (arrow) of the left carotid artery - anterior choroidal artery bifurcation.
b. Operative view of surgical microscope; a saccular aneurysm (arrow) was observed at the branching point of the left carotid artery and anterior choroidal artery.
c. Motor evoked potential (MEP) was continuously monitored during the operation. The amplitudes were stable over the session.
d. Operative view of surgical microscope after clipping; an aneurysmal neck was successfully clipped. e. The neuro-endoscopic view after clipping to the aneurysmal neck. The clip blades were apart from
the perforating arteries.
た。破裂に対する不安から,引きこもりがちと なり,本人の希望もあり手術目的に入院となっ た。脳血管撮影にて左内頸動脈前脈絡叢動脈分 岐部に嚢状動脈瘤を認めた(Fig. 1a)。左前頭 側頭開頭を施行し,MEP 刺激電極を運動野に 向けて硬膜下に挿入した。内頸動脈前脈絡叢動 脈分岐部に大きさ 6 mm の嚢状動脈瘤を認め た。神経内視鏡により,動脈瘤近傍に顕微鏡所 見では死角となっている数本の穿通動脈の存在 が確認された。内視鏡および MEP をモニタリ ングしつつクリッピングを完了した(Fig. 1c-e)。 術後,新たな神経学的な異常は認めず,術後血 管撮影にてクリッピング良好であることを確認 し独歩退院した(Fig. 1f)。 【症例 2】母血管閉塞と血行再建術を施行した 57 歳女性 2002 年 5 月に右内頸動脈瘤破裂によるクモ 膜下出血を発症し,クリッピング術が施行され, その際,脳底動脈瘤も発見されていたが未処置 であった。2006 年 2 月,脳底動脈瘤の拡大を 認め,当科紹介となった。頭部 MRI 所見およ び脳血管造影にて脳底動脈先端部に大型の嚢状 動脈瘤を認めた。(Fig. 2a, 2b) 母血管の脳底動脈閉塞と大伏在静脈を用いた 血行再建術を予定し,開頭手術を施行した。全 身麻酔下に右前頭側頭開頭を行った。術中モニ タリングには聴性脳幹誘発電位と体性感覚誘発 電位,術中血管撮影,神経内視鏡を用いた。術 中所見ではネッククリッピングは不可能であっ たため,大伏在静脈を採取し,右外頸動脈から 右後大脳動脈への high flow bypass を設置し, 脳底動脈の血流をクリッピングにて遮断した。 誘発電位には変化がなく,血管造影では後大脳 動脈,上小脳動脈が描出されていることを確認 し手術を終了した。動脈瘤は画像上急速に血栓 化し,縮小が認められた(Fig. 2c)。現在,術 前と同様の生活を送っている。 【症例 3】血管内手術を施行した 63 歳女性 2003 年 7 月,めまいの精査で施行した MRI にて右内頸動脈の前床突起近傍に大きさ 7 × 6 × 6 mm の動脈瘤を認めた(Fig. 3a)。経過観 察を希望し,当科で経過観察をしていた。この 間特に増大はなかった。 両側鼠径部から大腿動脈を穿刺し,6Fr と 7Fr のシースを挿入,全身のヘパリン化を行い, 手術を開始した。7Fr のシースからは,動脈瘤
Fig. 2. a. MRI at presentation of case 2, revealed round mass showing flow void sign at the right in front of brainstem about 15mm large (arrow).
b. AP view DSA demonstrated large basilar tip aneurysm. The neck could not be determined.
c. DSA after operation, the right external carotid angiogram showed the aneurysm which was remark-ably decreased and bilateral posteror cerebral artery and superior cerebellar artery were supplied by the vein graft (double arrow).
からのコイル逸脱が生じないように,シリコン Balloon を挿入し動脈瘤近傍に留置した。マイ クロカテーテルを瘤内に誘導し,GDC を 4 本 挿入し,ほぼ完全に動脈瘤の造影が消失したこ とを確認し,手術を終了した(Fig. 3b-d)。術 後,24 時間ヘパリンの持続点滴を行い,血栓 性合併症を予防し,抗血小板剤の内服を行った。 新たな神経症状なく 5 日後,独歩退院し経過良 好である。 おわりに 脳動脈瘤を未破裂のうちに処置すれば,クモ 膜下出血は予防可能であり,治療の意義は十分 に知られるところである。しかし,すべての症 例について,どのような治療方針が適切かを断 定することはできない。一方,われわれの調 査66)では,未破裂脳動脈瘤が発見された患者 のほとんどが不安を感じており,「頭に爆弾を 抱えた状態」と表現する患者もいる。診断前よ り外出を控えるなど,自ら行動上の制限を課し ているものが半数にも登ったことは特筆の値す る。未破裂脳動脈瘤と診断されたことによる精 神的負担が,健康な生活に大きな影響を及ぼし ていることは明らかである。未破裂脳動脈瘤治 療は,これを払拭する手段として,重要な意義 を有すると考えられる。 今後,脳動脈瘤の成因や,破裂にいたる分子 生物学的機序の解析が進めば,脳動脈瘤の内科 的治療法も開発されてくる可能性も大いに期待 される。最新の医学を絶えず取り入れながら, 治療方針の決定や,手術治療に臨んでいく必要 がある。 文 献
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presentation revealed right paraclinoid aneurysm projected medially with maxi-mum diameter of 7 mm.
b. The intraoperative DSAdemonstrated that the tip of the microcatheter was positioned at the middle of the aneurismal dome. For the purpose of the neck plasty, micro bal-loon was ready to use near the neck without inflation.
c. After embolization, dense coil shadow was observed.
d. DSA after embolization showed the com-plete obliteration of the aneurysm.
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