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病理診断アトラス(17) 消化器系1:胃・腸管

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Academic year: 2021

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(1)1. 総. !東女医大誌 第 79 巻 第 7 号" #頁 237∼243 平成 21 年 7 月# $ %. 説. 病理診断アトラス(17). 消化器系 1:胃・腸管 東京女子医科大学消化器病センター外科 オグマ. ヒデトシ. 小熊 英俊 (受理 平成 18 年 9 月 4 日). Atlas of Diagnostic Pathology(17) Digestive System 1: Stomach and Intestines Hidetoshi OGUMA Department of Surgery, Institute of Gastroenterology, Tokyo Women s Medical University. Histopathological diagnosis has played critical roles in diagnosing and treating diseases of the upper gastrointestinal tract. Presently, endoscopic biopsy specimen is indispensable to pathologically diagnose gastric cancers. Close communications between endoscopists and pathologists enabled the success of this strategy. Nowadays, strip biopsy has been modified and changed to endoscopic mucosal resection. A majority of early gastric cancer can be treated with this technique. Some gastric diseases are results of bacterial infections such as that of helicobacter pylori, but the etiology has not been fully established. There is not a certain or standard method to histologically diagnosed a malignant profile. Some of the highly aggressive lesions can be predicted from HE staining, but in most cases, they are diagnosed only from anatomical extension of cancer cells. To accurately diagnose the degree of a malignancy, a new method is needed. Key words: group classification, Helicobacter pylori, EMR, malignant potential of cancer. とだけでなく,最大の利点はその観察した病変から. はじめに 近年,上部消化管疾患に対する診断および治療法. 生検を行い,病理学的な診断が可能なことである.. の進歩にはめざましいものがある.病理組織診断は. したがって,内視鏡診断は病変の形態診断のみなら. 内視鏡検査と共に様々な形でその進歩と関わってき. ず生検による病理学的診断もできることからその診. た.特に今回取り上げた生検評価はその初期から密. 断能は格段に増すこととなった.. 接に関わり,今日では生検は内視鏡検査の一部と考. 上部消化管 の 生 検 は 内 視 鏡 検 査 の 進 歩 に よ り. えられるまでに至っている.さらに,生検は内視鏡. 1960 年代から施行されるようになり,当初は X 線や. 的 胃 粘 膜 切 除 術(endoscopic mucosal resection:. 内視鏡で診断した病変を生検組織診断により確認す. EMR)に進歩し,多くの病変が EMR により根治と. るために行われていた.1970 年代には X 線では描出. なっていることは周知の通りである.また,ヘリコ. 困難な早期胃癌が数多く発見されるようになり,生. バクターピロリ評価,癌の悪性度評価は共に今後の. 検で初めて癌の診断となる症例が増加していった.. 研究がさらなる治療の進歩をもたらすと期待される. すなわち,再確認であった生検が確定診断において. 分野である.それぞれにつきこれまでの歴史を含め. 重要な位置を占めることとなった.このように消化. 解説した.. 管病変の診断に生検組織診断の有用性と依存度が急 速に高まり,生検件数の急激な増加をもたらした.. 1.生検評価 内視鏡検査の特徴は直視下に病変を観察すること. 内視鏡下生検標本の特徴として,当然ながら小さ. により微細な粘膜の変化をとらえることができるこ. いことと挫滅などの影響により判断が難しい場合が. ―237―.

(2) 2. 図 1 生検写真 a :Gr o upIPyl o r i cmuc o s a ,b :Gr o upI IEr o s i o nwi t hr e ge ne r a t i vee pi t he l i um,c :Gr o upI I I pi c i o no fa de no c a r c i no ma ,e :Gr o upV Ade no c a r c i no ma (t ub1 ) , Ade no ma ,d :Gr o upI V Sus f :Gr o upV Ade no c a r c i no ma (po r ) .. 図 2 He l i c o ba c t e rpyl o r iの同定 a :HE染色,b:ギムザ染色 ×4 0 0 .. 少なくないことがあげられる.確定診断として重要. となるよう考案されたものであり,その後,広く本. 性が増すとともに肉眼診断と生検診断が一致しない. 邦で使われることとなった.. 症例あるいは手術標本と術前生検診断が一致しない. その後,より臨床的に有用であり,多くの病理医. 症例など臨床的に問題となる症例が徐々に蓄積され. にとって普遍性,再現性のある分類とするために数. た.. 度の改訂が行われ,現在の基準となっている.表 1. 胃癌研究会では早くからこの問題に取り組み, 1971 年胃癌取扱い規約第 8 版より胃生検組織診断. に胃癌取扱い規約第 13 版の Group 分類を提示し, 図 1 に代表的な生検写真を提示する2).. 基準(Group 分類)が掲載された1).この分類は生検. この Group 分類は取扱い規約の説明にあるよう. 組織診断が日常の臨床検査,臨床診断において有用. にあくまでも胃癌ないしそれと関連の深い上皮性病. ―238―.

(3) 3. 表 1 胃生検組織診断分類(Gr o up分類) 第 I群(Gr o upI ) :正常組織,および異型を示さない良性(非腫瘍性)病変 正常胃固有粘膜,腸上皮化生粘膜および異型を示さない良性病変 第I I群(Gr o upI I ) :異型を示すが,良性(非腫瘍性)と判定される病変 胃固有粘膜,腸上皮化生粘膜および良性病変において異型を示すもの 第I I I群(Gr o upI I I ):良性(非腫瘍性)と悪性の境界領域の病変 細胞異型および構造異型の点で,良性か悪性かの鑑別が困難なもの 第I V群(Gr o upI V):癌が強く疑われる病変 癌が強く疑われるが,癌の確定診断を下しえないもの 第 V群(Gr o upV) :癌 癌と確実に診断される病変 胃癌取扱い規約第 1 3版より2).. 図 3 ESD新鮮標本(a )と HE染色ルーペ像(b). 図 4 胃癌の組織像 a :t ub1 ,b:t ub2 ,c :po r 2 ,d:s i g,e :muc ,f :Ca r c i no i dt umo r .. 変の組織学的判定のための分類であり, したがって,. 判定のためには用いない.また,消化管でも食道病. 胃悪性リンパ腫や平滑筋肉腫などの非上皮性病変の. 変や小腸病変,大腸病変にも用いられないことを理. ―239―.

(4) 4. 表 2 粘膜切除例の取扱い 組織学的診断 (1 )切除標本の大きさ(mm×mm)と切除深達度(M,SM) (2 )腫瘍の肉眼型,組織型,大きさ(最大径 mm),深達度(M,SM1 ,SM2 ),潰瘍 (UL)の有無,l y・vの有無・程度を記載する. (3 )水平断端(LM)陽性の有無.陰性の場合は水平断端からの距離(mm)または正 常腺管数(本数),断端陽性切片数(枚数)を記載する. (4 )垂直断端(VM)陽性の有無を記載する. (5 )切り出し図上に,病変の広がりと深達度を含めた図を構築する. (6 )粘膜切除後の根治度の評価について,EA,EB,ECまたは判定不能かを記入する. 判定不能の場合はその理由を示す.. 粘膜切除標本における病変の広がりの 再構築図. 胃癌取扱い規約第 1 3版より2).. 表 3 粘膜切除後の根治度の評価 総合的根治度. 深達度. 組織型. 病巣内潰瘍. VM,LM. l y・v. EA. M. pa p または Tub. 潰瘍性病変なし. VM(-) LM の 1 mm 以内に 癌浸潤なし. l y0 v0. EB. EAおよび EC以外のもの. EC. VM(+)または LM(+) 胃癌取扱い規約第 1 3版より 2).. 生検診断を臨床に生かすためにはこれまで以上に. 解しておく必要がある. 非上皮性腫瘍には様々な疾患が含まれることから. 臨床医と病理医の密な情報交換が必要と考える.. その生検診断について統一した診断基準となるよう. 2.ヘリコバクター評価. な分類はない.. ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:H.. ただし,非上皮性腫瘍の診断には近年,ヘマトキ. pylori)は 1982 年 Marshall と Warren により胃から. シリン・エオジン(HE)染色のみならず様々な免疫. 分離,培養されたらせん菌である.当初,胃炎との. 染色法が有用であることが報告され,それは生検標. 関連が証明されたが,その後の研究から H.pylori は. 本にも応用されるようになった.特に悪性リンパ腫. 胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃 Maltoma と関連すること. における CD3,CD20 や GIST における KIT 免疫染. が明らかとなり,さらに疫学的な調査から WHO に. 色は診断に不可欠となってきている.. より胃癌発症の危険因子と認定されている.また,. ただし,非常皮性腫瘍はたとえば GIST の場合,十. その除菌は様々な胃の病変を治癒させることが明ら. 分量の生検材料が得られにくいことや悪性リンパ腫. かとなり,その功績から発見者である Marshall と. の場合,挫滅した生検材料に成りやすいことなど疾. Warren が 2005 年のノーベル医学,生理学賞を受賞. 患により特徴があり,病理診断に適切であり十分な. したことは記憶に新しいところである. わが国では 2001 年日本ヘリコバクター学会が H.. 生検標本を得るためには生検時の工夫が必要な場合 が少なくない.. pylori 感染の診断と治療のガイドラインを発表し, ―240―.

(5) 5. 表 4 胃癌の組織型分類 一般型 Co mmo nt ype 乳頭腺癌 管状腺癌 高分化型 中分化型 低分化腺癌 充実型 非充実型 印環細胞癌 粘液癌 特殊型 Spe c i a lt ype 腺扁平上皮癌 扁平上皮癌 カルチノイド腫瘍 その他の癌. Pa pi l l a r ya de no c a r c i no ma (pa p) Tubl a ra de no c a r c i no ma (t ub) we l ldi f f e r e nt i a t e dt ype (t ub1 ) mo de r a t e l ydi f f e r e nt i a t e dt ype (t ub2 ) Po o r l ydi f f e r e nt i a t e da de no c a r c i no ma (po r ) s o l i dt ype (po r 1 ) no ns o l i dt ype (po r 2 ) Si gne t r i ngc e l lc a r c i no ma (s i g) Muc i no usa de no c a r c i no ma (muc ) Ade no s qua mo usc a r c i no ma Squa mo usc e l lc a r c i no ma Ca r c i no i dt umo r Mi s c e l l a ne o usc a r c i no ma s 胃癌取扱い規約第 1 3版より 2).. 2003 年に改訂版が発表された3).. 1)培養法. ガイドラインによれば H.pylori 除菌治療の適応疾. H.pylori の唯一の直接的証明法である.抗菌薬の. 患として,A ランク:H.pylori 除菌治療が勧められ. 感受性試験が可能である.判定までに 5∼7 日間を要. る疾患,B ランク:H.pylori 除菌治療が望ましい疾. する.. 患,C ランク:H.pylori 除菌治療の意義が検討され. 2)鏡検法. ている疾患の 3 ランクを定め,A ランクとして胃潰. H.pylori の存在診断のほかに胃粘膜の萎縮の程度. 瘍,十二指腸潰瘍,胃 MALT リンパ腫の 3 疾患を,. などの組織診断が可能である.HE 染色(図 2-a)が. B ランクとして早期胃癌に対する EMR 後胃,萎縮. 一般的であるが Giemsa 染色(図 2-b)や渡銀染色な. 性胃炎,胃過形成性ポリープの 3 疾患を,C ランクと. どの特殊染色により菌体の観察が容易となる.H.py-. して non-ulcer dyspepsia (NUD),gastro-esophageal. lori と他の細菌の鑑別や coccoid form の診断には,. reflux disease (GERD) , 消化管以外の疾患としている.. 免疫染色が有用である.診断医により診断精度が異. したがって,症状からこれらの疾患が疑われる場. なることが問題である.. 合,ランクに差こそあれ,その患者が H.pylori に感染. 3)RUT. しているかの診断が必要であり,感染が確認され除. 迅速なだけでなく,安価で簡便な方法である.除. 菌が行われた場合,除菌が成功したかの判定が必要. 菌前の診断には有用性が高いが,一般的に治療後の. である.. 感度には限界があり,除菌判定診断においては十分. H.pylori の感染診断あるいは除菌判定には現在,. でない.. 侵襲的検査法である胃生検材料を用いた迅速ウレ. 4)抗 H.pylori 抗体測定法. アーゼ試験(RUT)あるいは鏡検法,培養法,非侵. 血液あるいは尿が用いられる.抗体が陰性のとき. 襲的検査法である抗体測定,13C-尿素呼気試験 (urea. は感染初期や免疫不全などの特殊な場合を除き H.. breath test:UBT) , 便中H.pylori抗原測定法 (HpSA). pylori 感染陰性と診断できる.小児では精度が低下. の 6 種類の検査法が行われている.症状から強く H.. する.H.pylori 除菌判定では H.pylori の抗体価は除. pylori 感染が疑われる場合 1 種類の検査に頼らず複. 菌成功例において除菌治療終了後徐々に低下し,除. 数の検査による診断が勧められている.また,胃生. 菌成功例での抗体価陰性化率は除菌終了 1 年後で. 検材料を用いる場合は H.pylori の胃内分布に不均一. 32% とされている.. 性があるため幽門前庭部大弯と胃体上部∼中部大弯. 5)UBT. の 2 ヵ所からの生検が望ましいとしている.6 種類. 非侵襲的,簡便で感度,特異度ともに高い.小児. の診断法にはそれぞれの特性があり,正しい診断を. の検査が可能である.尿素呼気試験陰性の場合は,. するためにはその特徴を理解しておく必要がある.. 除菌成功の信頼性は高い.潰瘍治療薬の服用中およ び服用中止直後には偽陰性をみることが少なくない.. ―241―.

(6) 6. 6)HpSA. 以下の病巣内潰瘍のある分化型胃癌がリンパ節転移. 非侵襲的,簡便で小児の検査が可能である.除菌. のない病巣としてあげられている. したがって,この解析から胃癌 EMR の適応病変. 前の感染診断においては感度,特異度とも高いとさ れている.除菌判定においても信頼性が高いが,偽. は前述した病巣で手技上可能な病変となる. EMR は切除標本の評価ができることが特徴であ. 陰性例が起こり得るので注意が必要である. 以上のよう検査法にはそれぞれの特徴があり,目. り,郭清不可能なリンパ節以外,胃局所病変は病理. 的に沿った検査法を選択し,その結果を解釈するこ. 学的に診断され,術前の深達度診断や病変範囲の診. とが大切である.. 断が正しかったか検討可能である.当然,SM2 浸潤. H.pylori 感染と胃病変との関係は今後さらに研究 が進む分野である.今後増えるであろう除菌前後の. など,リンパ節転移の可能性が高い病理結果の場合, 追加通常胃切除術が必要となる. 胃癌取扱い規約第 13 版(1999 年 6 月発行)からそ. 粘膜生検標本はその研究において重要な材料になる. れまでなかった粘膜切除例の取扱い(表 2)および粘. と考えられる. 3.EMR. 膜切除後の根治度の評価(表 3)が追加された.この. わが国では 1990 年前後に検診の普及および内視. とき分割切除においては標本の再構築により組織学. 鏡の進歩により,多くの施設において早期胃癌の占. 的検索を行って,これらを評価するとした.. める割合が 50% を越えるようになった.早期胃癌の. 2004 年発行の胃癌治療ガイドラインでは EMR. 増加とともに胃癌治癒症例は増加し,胃癌治療にお. の対象症例は手術により完全治癒が期待される症例. いてはその治療成績のみならず,治癒後の QOL が. であることから遺残再発は極力避けたいところであ るが現実には 12% 程前後の再発があることを明ら. 求められるようになってきた. 通常の胃切除術の術後には様々な合併症が存在. かにし,その再発例のほとんどが分割切除であり,. し,術後の QOL が低下することは古くから知られ. 標本の再構築が不可能であることから EB となった. ており,QOL 向上のためいろいろな再建の工夫や機. 症例であることを報告した.このことから EMR の. 能温存手術が行われてきたが満足のいく治療法はな. 適応に一括切除が可能な病変であることも加え,具. かった.. 体的な適応条件として,2cm 以下の肉眼的粘膜癌. そのような中,内視鏡技術のひとつとして EMR. (cM)と診断される病変で,組織型が分化型(pap,. が注目された.EMR による胃癌の治療は本来の胃. tub1,tub2),肉眼型は問わないが,陥凹型では UL. の機能をほとんど損なわない究極の機能温存治療で. (−)に限るとした. この適応条件はこの当時の一般的な内視鏡技術で. あり,QOL の点から急速に全国に普及することと. ある EDSP や EMRC 等による一括切除の大きさに. なった. EMR の手技はその原点となった strip biopsy 法4) の他endoscopic. double. snare. より規定されたものである. そ の 後,多 く の 施 設 で IT ナ イ フ 法8)や hooking. polypectomy 法. 5) 6) (EDSP) ,透明プラスチックキャップ法(EMRC). ナイフ法9)などによる切開・剝離法(endoscopic submucosal dissection:ESD)が普及してきたことから. などが広く行われた. EMR の適応病変はその手技から胃局所において. より大きな病変を一括切除できるようになった.. は M 癌であり,また,当然リンパ節郭清はできない. ESD による新鮮標本と HE 染色ルーペ像を図 3 に. ことからリンパ節転移のない症例となる.. 示す.胃癌に対する EMR の適応は今後拡大する傾. これまで,術前におけるリンパ節転移の有無診断. 向にある.. はきわめて困難であることが知られているため,リ. 適応を拡大した EMR による胃癌の治療の評価は. ンパ節転移のない症例の選別は胃局所の病変から推. 今後,その治療成績で行われると思われるが,その. 察することとなる.幸い本邦では通常胃切除術を施. ためにも適切な標本の取扱いと正確な病理診断が必. 行した胃 M 癌症例が多数存在することからその解. 要と考える. 4.悪性度評価. 析が可能であった. 胃癌治療ガイドライン(医師用. 7). 癌の中には長期間にわたりほとんどその形態を変. 第 2 版)によれ. ば, 大きさに関わらず病巣内潰瘍のない分化型胃癌,. 化しないものと短期間に増大あるいは広範に転移を. 2cm 以下の病巣内潰瘍のない未分化型胃癌,3cm. きたし死の転帰をとるものがあることは臨床的に明. ―242―.

(7) 7. らかである.前者は悪性度が低い癌,後者は悪性度. して現在評価されているのは胃癌取扱い規約におけ. が高い癌と認識されている.. る切除標本の深達度とリンパ管侵襲,静脈侵襲であ. 胃では一般的に悪性度の高い癌として 4 型胃癌,. る.深達度が深いほど腹膜転移の確率は高く,また. 内分泌細胞癌,AFP 産生腫瘍など少数の癌が知られ. 再発率も高い.リンパ管侵襲は ly0,ly1,ly2,ly3. ている.確かに 4 型胃癌のなかには極めて進行が早. の 4 段階に分類されているがやはり高度となるほど. く,1 年前の消化管造影検査がほぼ正常であったも. リンパ節転移率は高く,再発率も高くなる.静脈侵. のがいわゆる鉛管状となり,すでに腹膜転移もきた. 襲も v0,v1,v2,v3 の 4 段階に分類され,高度と. しているといった症例を経験することも少なくな. なるほど肝転移率,肝転移再発率も高くなる.ただ. い.また,原病巣は早期癌あるいは比較的小さな進. し,同様の組織所見であるにも関わらず,術後短期. 行癌であるにも関わらず,すでに肝転移あるいは広. 間で再発する症例とそのまま治癒する症例が混在す. 範囲のリンパ節転移を有する内分泌細胞癌や AFP. ることは事実であり,通常の組織診断における悪性. 産生腫瘍を経験することも少なくない.しかし,こ. 度評価には限界があると言わざるを得ない.. のような癌以外にも極めて予後不良で,悪性度が高. 本来,その癌の悪性度は癌が発生した初期から獲. い癌が数多く存在することは明らかであり,それら. 得しているものと考えられる.したがって,近年盛. は通常の組織診断では診断できていないのが現状で. んに行われている遺伝子検索により種々の遺伝子異. ある.. 常がその癌の悪性度を明確にする可能性がある.そ. 癌の悪性度を論じる場合は癌の増殖能と転移能さ. のようなことが可能になれば,現在その形態から悪 性度を予想できる内分泌胃癌のように,生検標本か. らには治療成績が関わることに注意を要する. 病理診断は生検標本,切除標本いずれも通常は. らその癌本来の悪性度を診断し,治療法選択の重要. HE 染色により診断する形態診断であることから病. な 1 因子となる可能性があると考えられる.今後の. 変の経過観察が必要な増殖能の診断は不可能であ. 組織学的悪性度診断の進歩に期待したい.. り,また当然,治療成績をその診断に加味すること はできない.したがって,通常,切除標本の組織診 断における胃癌の悪性度診断は原発巣における,① 癌細胞の形態,②癌の深達度,③癌の間質量,④癌 の周囲組織に対する浸潤増殖様式, ⑤リンパ管侵襲, ⑥静脈侵襲で行われている. すでに知られている悪性度の高い胃癌である内分 泌胃癌はその癌細胞の形態からカルチノイド腫瘍ま たは小細胞癌と診断,AFP 産生腫瘍もその癌細胞の 形態から組織学的に診断され,胃癌取扱い規約では 特殊型胃癌に分類される.癌細胞の形態から悪性度 がわかる場合は当然生検標本でも診断可能である. 一方,4 型胃癌の多くは癌細胞の形態から非充実型 低分化腺癌(por2)に分類されるが,これは一般型 胃癌であり特殊型ではない.一般型胃癌は表 4 のよ うに 7 種類に分類されるがその分類は形態的なもの で悪性度を表すものではない.したがって,生検標 本ではその悪性度は組織学的に診断できない.代表 的な組織像を図 4 に提示する. 一般型胃癌における組織学的悪性度を表すものと. ―243―. 文. 献. 1) 「胃癌取扱い規約 第 8 版」 (胃癌研究会編) ,金原出 版,東京(1971) 2) 「胃癌取扱い規約 第 13 版」 (胃癌学会編) ,金原出 版,東京(2003) 3)朝香正博:H. pylori 感染の診断と治療のガイドラ イン.日臨 63(増刊) :11, 2005 4)多田正弘,村田 誠,村上不二夫ほか:Strip-off biopsy の開発.Gastroenterol Endosc 26:833―839, 1984 5)竹腰隆男,藤井 彰,高木國夫ほか:Endoscopic double snare polypectomy(EDSP)の方法と評価. 胃と腸 23:387―398, 1988 6)井上晴洋,竹下公矢,遠藤光夫ほか:早期胃癌に対 す る 内 視 鏡 的 粘 膜 切 除 術―透 明 プ ラ ス チ ッ ク キャップを用いる方法 (EMRC) .Gastroenterol Endosc 35:600―607, 1993 7) 「胃癌治療ガイドライン(医師用 第 2 版) ( 」胃癌学 会編) ,金原出版,東京(2004) 8)小野裕之,後藤田卓志,近藤 仁ほか:IT ナイフを 用 い た EMR―適 応 拡 大 の 工 夫.消 内 視 鏡 11: 675―681, 1999 9)小山恒男,菊池勇一,島谷茂樹ほか:胃 EMR の適 応拡大:大きさからみて―一括切除を目指した手 技 の 工 夫 と 成 績:Hooking ナ イ フ 法 with intragastric lesion lifting method.胃 と 腸 37:1155― 1161, 2002.

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