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慢性閉塞性肺疾患患者に対する背部マッサージによる生理学的呼吸指標の改善

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(1)

慢性閉塞性肺疾患患者に対する背部マッサージによる

生理学的呼吸指標の改善

藤原 桜

1*

簑田曻一

2 1*日本統合医療ラボ,2神戸市看護大学 要 旨 慢性的に呼吸困難を体験している入院中の患者に対する背部マッサージの効果を呼吸生理学的に明らかにすることを研究 目的とした。方法は,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者19名に背部マッサージを,1日1回15分間,5日間連続して行い,マッ サージ前後の脈拍数,呼吸数,経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定し分析した。その結果,脈拍数と呼吸数はマッサージ後 に減少した。一方,SpO2値はマッサージ後に有意に増加した。 以上の結果から,背部マッサージはCOPD患者の脈拍数と呼吸数を減少させ呼吸効率を上げるとともに,SpO2値を改善 させ動脈血酸素飽和度を高める効果があることが明らかとなった。 キーワード:慢性閉塞性肺疾患,背部マッサージ,呼吸数,脈拍数,経皮的動脈血酸素飽和度

Ⅰ.はじめに

呼吸困難感は「不快な呼吸感覚」と定義されている (西野,2005)ように,個人が感じ解釈する感覚であ り,必ずしも病態と一致するものではない(田中, 2006)。しかし,慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)患者 が体験している呼吸困難感は末梢気道病変と肺胞病 変を伴うものであり,その病変は不可逆的で,根本的 な治療法はないと考えられている。また,呼吸困難感 に対する看護独自の介入も体位の工夫や,呼吸法の指 導などに限られており,有効な看護技術が確立されて いるとは言い難い。 マッサージは「皮膚に加える触圧刺激をコントロー ルすることにより,治療的反応を引き起こす手技であ る」と定義され(芹澤,1989),現在では相補代替医 療に分類されているが,伝統的には看護技術の一部で あった(Snyderら,1998)。そのため,看護の領域でも, 研究によりマッサージのリラクセーション効果(近藤 ら,2006),癌性疼痛(東ら,2002),不安(Ferrellら, 1993),不眠(Shiow-Luanら,2003),倦怠感(伊藤ら, 2004),便秘(比賀,1996),嘔気(新田ら,2004), 浮腫(井沢,2006)に対する効果が明らかにされつつ ある。しかし,呼吸困難を体験している患者に対して 経験的に用いられている「背中をさする(マッサー ジ)」という看護行為の有効性は未だ明らかにされて いない。 本研究の目的は,重症軽症の程度を問わず呼吸困難 を体験している患者に対して経験的に行われてきた 背部マッサージの効果を明らかにし,マッサージを看 護技術として位置付ける為の基礎的資料を得ること にある。このため,慢性的に呼吸困難を体験している COPD患者に,1日1回15分間,5日間連続して背部マッ サージを行い,マッサージ前後の呼吸に関する生理学 的指標の変化を測定し分析した。

Ⅱ.研究方法

1.対象者 対象者は,病院に入院中で呼吸困難を体験している COPD患者のうち,主治医の承諾と本研究への参加の 同意が得られた者とした。 2.生理学的指標(測定項目と方法) 1)脈拍数:橈骨動脈で1分間の脈拍数を測定した。 2)呼吸数:胸郭の動きをみて1分間の呼吸数を測定 した。 3)動脈血酸素飽和度:患者の動脈血酸素飽和度の変 化を知るために,経皮的動脈血酸素飽和度(以下SpO2) をパルスオキシメーター(Ubi-X社)を用い指先で測 定した。

(2)

マッサージに対する感想を毎回マッサージ終了後 に話してもらった。また,対象者の身振り,姿勢,行 動,表情を研究者が観察した。 4.介入方法 1)介入プログラム 図1に介入プログラムを示す。マッサージの介入は, 1日1回15 分間行った。また,マッサージを毎日連続して行うと マッサージの効果が増強されるかを知るために,5日 間連続してマッサージを実施した。 SpO2値は,安楽な体位で5分間安静を保持した後 とマッサージ終了後に同一体位で測定した。尚SpO2 値は安静時に測定器の値が一定となった時の値を用 いた。呼吸数と脈拍数も同様の状態でマッサージ前と 項目/時間 -10分 -5分 0分 5分 10分 15分 20分 25分 安静臥床 マッサージ介入 脈拍数の測定

● ● 呼吸数の測定

■ ■ SpO2の測定 ★ ★ 図1 介入プログラム マッサージ終了後に測定した。 2)マッサージの方法 本研究で用いた背部マッサージの内容と手順は,背 部全体の軽擦 脊柱起立筋・僧帽筋揉捏 肩甲骨周囲 の揉捏 後頸部の揉捏 背部全体の軽擦である。尚, マッサージは技術レベルを一定に保つために,同じ研 究者が1人で通常行っている方法を用いた。マッサージ の実施は,食事直後と入浴直後を避けた時間帯に,対 象者が最も安楽な体位で行った。また,着衣はつけた ままバスタオルで身体を覆い行った。さらにマッサー ジのスピードや強さは対象者に確認しながら進め,対 象者が気持ちがよいと感じる程度とした。 5.分析方法 マッサージ前後と,また初日と最終日のマッサージ 前の脈拍数,呼吸数,SpO2値の値に有意差があるか否 かを,ウィルコクソンの符号付順位検定により確かめ た。また,マッサージ前の脈拍数,呼吸数,SpO2値の 値とマッサージ後の値の増減(差)に相関があるか否か をピアソンの相関係数により分析した。さらに,マッ サージ前のSpO2値が95%未満と95%以上の2群に分け, マッサージ後のSpO2値に差異があるか否かをみるた めに,マン・ホイットニーのU検定を行った。尚,有 意水準は5%とし,平均値は平均±標準偏差(SD)で 表した。 6.倫理的配慮 研究対象者には,研究の趣旨や方法について文章と 口頭にて説明した。また,研究への参加は自由意志で あり,不参加による不利益はないこと,途中で辞退す ることも可能なこと,得られたデータは個人が特定で きないように管理し,本研究の目的以外には使用しな いこと,さらに,マッサージ中に気分不良が生じた場 合の対処方法についても文章と口頭にて説明した。 尚,本研究は神戸市看護大学と研究協力病院の倫理委 員会の審査を受け,承認を得た。

Ⅲ.結果

1.対象者の概要 研究対象者の内訳は,50代から90代までの入院中の COPD患者19名で,平均年齢77.5±10.0歳,男性18名, 女性1名であった。COPDの病期はⅠ期(軽症)3名 (16%),Ⅱ期(中等症)4名(21%),Ⅲ期(重症)6 名(32%),Ⅳ期(最重症)2名(10%)で,不明4名(21%) であった。 2.マッサージと脈拍数の関係 対象者19名1人1人の5日間のマッサージ介入前後 の脈拍数を直線で結び図2に示した。

(3)

脈拍数(1日目) 60 70 80 90 100 110 前      後 脈 拍 数 脈拍数(2日目) 60 70 80 90 100 110  前       後 p<0.05 脈 拍 数 脈拍数(3日目) 60 70 80 90 100 110 前      後 p<0.01 脈 拍 数 脈拍数(4日目) 60 70 80 90 100 110 前      後 p<0.01 脈 拍 数 脈拍数(5日目) 60 70 80 90 100 110 前       後 脈 拍 数 図2 マッサージ前後の脈拍数(1日目~5日目)n=19

(4)

1日目:マッサージ後に脈拍数が減少した者12 名(63.2%),増加した者4名(21.1%),変化しなかっ た者は3名(15.8%)であった。脈拍数の平均値は,介 入前81.0±15.6回/分から介入後79.1±10.2回/分と なったが,有意差はなかった。 介入2日目:マッサージ後に脈拍数が減少した者12 名,増加した者4名,変化しなかった者は2名であった。 脈拍数の平均値は,介入前80.1±9.9回/分から介入後 77.6±9.8回/分に有意に減少した(P<0.05)。平均減少 率は3.1%であった。 介入3日目:マッサージ後に脈拍数が減少した者13 名,増加した者2名,変化しなかった者は4名であった。 脈拍数の平均値は,介入前79.9±9.8回/分から介入後 77.3±8.4回/分に有意に減少した(P<0.01)。平均減少 率は3.3%であった。 介入4日目:マッサージ後に脈拍数が減少した者16 名,増加した者2名,変化しなかった者は1名であった。 77.8±6.4回/分から介入後 75.3±7.0回/分に有意に減少した(P<0.01)。平均減少 率は3.2%であった。 介入5日目:マッサージ後に脈拍数が減少した者11 名,増加した者3名,変化しなかった者は5名であった。 脈拍数の平均値は,介入前77.8±10.5回/分から介入 後76.6±8.9回/分となったが,有意差はなかった。 マッサージ前の脈拍数とマッサージ後の脈拍数の増 減(差)の間に相関があるどうかを5日間全てのデー タを用いて調べた。その結果,脈拍数が多いほど脈拍 数の減少が大となる負の相関が認められた(r=0.373, p<0.001)(図3)。介入前の脈拍数は,介入初日81.0± 15.6回/分,最終日77.8±10.5回/分と4.0%有意に減 少した(p<0.05)。 対象者にマッサージの感想を尋ねると,全員が「気 持がよかった」と表現した。 図3 マッサージ前の脈拍数に対するマッサージ後の脈拍数の増減(差) との相関関係。(r=-0.373,p<0.001:n=95) 3.マッサージと呼吸数の関係 対象者19名のうち5日間分のデータが揃わなかった 2名を除いた17名について分析した。図4に対象者1人 1人の5日間のマッサージ介入前後の呼吸数の変化を 示した。 介入1日目:マッサージ後に呼吸数が減少した者6名 (35.3%),増加した者1名(5.9%),変化しなかった者 は10名(58.8%)であった。呼吸数の平均値は,介入 前21.8±4.7回/分から介入後20.2±3.0回/分となっ たが,有意差はなかった。 介入2日目:マッサージ後に呼吸数が減少した者9名, 増加した者1名,変化しなかった者は7名であった。呼 吸数の平均値は,介入前20.5±5.1回/分が介入後19.5 ±4.6回/分に有意に減少した(P<0.05)。平均減少率 は4.9%であった。 介入3日目:マッサージ後に呼吸数が減少した者3名, マッサージ前の脈拍数/1分間 脈 拍 数 の 増 減 ( 差 )

(5)

呼吸数(1日目) 10 15 20 25 30 35 40  前       後 呼 吸 数 呼吸数(2日目) 10 15 20 25 30 35 40  前       後 p<0.05 呼 吸 数 呼吸数(3日目) 10 15 20 25 30 35 40 前       後 呼 吸 数 呼吸数(4日目) 10 15 20 25 30 35 40  前      後 p<0.01 呼 吸 数 呼吸数(5日目) 10 15 20 25 30 35 40  前       後 p<0.05 呼 吸 数 図4 マッサージ前後の呼吸数(1日目~5日目:n=17)

(6)

3名,変化しなかった者は11名であった。呼 吸数の平均値は,介入前20.4±6.1回/分から介入後 20.2±5.6回/分となったが,有意差は認めなかった。 介入4日目:マッサージ後に呼吸数が減少した者9名, 増加した者0名,変化しなかった者は8名であった。呼 吸数の平均値は,介入前19.9±4.1回/分から介入後 18.5±4.0回/分に有意に減少した(P<0.01)。平均減少 率は7.5%であった。 介入5日目:マッサージ後に呼吸数が減少した者9名, 増加した者2名,変化しなかった者は6名であった。呼吸 数の平均値は,介入前20.2±5.3回/分から介入後19.1 4.2回/分に有意に減少した(P<0.05)。平均減少率 は5.4%であった。 マッサージ前の呼吸数とマッサージ後の呼吸数の 増減(差)に相関があるかどうか,5日間全てのデー タを用いて調べた。その結果,呼吸数が多いほど呼吸 数の減少が大となる負の相関が認められた(r=0.508, p<0.001)(図5)。介入前の呼吸数は,介入初日21.8± 4.7回/分,最終日20.2±5.3回/分と7.3%減少したが, 有意差はなかった。 マッサージ中の呼吸を観察すると,91.7±6.7%の対 象者の呼吸が深く,ゆっくりとなることを確認した。 図5 マッサージ前の呼吸数とマッサージ後の呼吸数の増減(差) との相関関係。(r=-0.508,p<0.001:n=85) 4.マッサージとSpO2値の関係 図6に対象者19名1人1人の5日間のマッサージ介 入前後のSpO2値を示した。表1に対象者をSpO2値95% 未満と95%以上の2群に分け,各群でのマッサージ介 入後のSpO2値の増加率を示した。 介入1日目:マッサージ後にSpO2値が増加した者12 名(73.7%),減少した者0名(0%),変化しなかった 者は5名(26.3%)であった。SpO2値の平均値は,介入 前94.1±3.9%から介入後96.1±1.9%に有意に増加した (P<0.01)。平均増加率は2.1%であった。SpO2値95%未 満8名の平均増加率は4.1%で,SpO2値95%以上11名の平 均増加率1.0%より有意に大であった(P<0.05)。 介入2日目:マッサージ後にSpO2値が増加した者10 名,減少した者1名,変化しなかった者は8名であった。 SpO2値の平均値は,介入前94.4±2.8%が介入後95.8± 2.0%に有意に増加した(P<0.01)。平均増加率は1.5% であった。SpO2値95%未満8名の平均増加率は2.8%, 95%以上11名の平均増加率は0.8%であった。しかし, 有意差はなかった。 介入3日目:マッサージ後にSpO2値が増加した者10 名,減少した者0名,変化しなかった者は9名であった。 SpO2値の平均値は,介入前94.6±2.7%が介入後96.1± 1.7%に有意に増加した(P<0.01)。平均増加率は1.6% であった。SpO2値95%未満7名の平均増加率は3.2%, 95%以上12名の平均増加率は0.6%であった。しかし, 有意差はなかった。 マッサージ前の呼吸数/1分間 呼 吸 数 の 増 減 ( 差 )

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SpO2値(1日目) 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 100 前      後 p<0.01 S pO 2 値 SpO2値(2日目) 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 100 前       後 p<0.01 S pO 2 値 SpO2値(3日目) 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 100 前       後 p<0.01 S pO 2 値 SpO2値(4日目) 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 100 前       後 p<0.05 S pO 2 値 SpO2値(5日目) 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 100 前      後 p<0.01 S pO 2 値 図6 マッサージ前後のSpO2値(1日目~5日目:n=19) SpO2値(1日目) SpO2値(2日目) SpO2値(5日目) S p O2 値 S p O2 値 S pO 2 値 S pO 2 値 S p O2 値 SpO2値(3日目) SpO2値(4日目)

(8)

2 群のマッサージ後のSpO2値の増加率の比較。 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 SpO2値 95%以上 1% (11名) 1% (11名) 1% (12名) 0% (13名) 1% (12名) SpO2値 95%未満 4% (8名) 3% (8名) 3% (7名) 3% (6名) 2% (7名) 有意差 <0.05 なし なし <0.05 なし 介入4日目:マッサージ後にSpO2値が増加した者7 名,減少した者0名,変化しなかった者は12名であっ た。SpO2値の平均値は,介入前95.4±2.4%が介入後96.4 ±1.5%に有意に増加した(P<0.05)。平均増加率は1.0% であった。SpO2値95%未満6名の平均増加率は3.1%で, 95%以上13名の平均増加率0.2%より有意に大であった P<0.05)。 介入5日目:マッサージ後にSpO2値が増加した者11 名,減少した者0名,変化しなかった者は8名であった。 SpO2値の平均値は,介入前95.2±2.5%が介入後96.2± 2.1%に有意に増加した(P<0.01)。平均増加率は1.1% であった。SpO2値95%未満7名の平均増加率は1.6%, 95%以上12名の平均増加率は0.7%であった。しかし, 有意差はなかった。 マッサージ前のSpO2値とマッサージ後のSpO2値の 増減(差)に相関があるかどうかを,5日間のデータ を用いて調べた。その結果,SpO2値が低いほどSpO2 値の増加が大となる負の相関が認められた(r=0.781, p<0.001)(図7)。介入前のSpO2値は,介入初日94±4%, 最終日95±3%と1%増加したが有意差はなかった。 図7 マッサージ前のSpO2値とマッサージ後のSpO2値の増減(差) との相関関係。(r=0.781,p<0.001:n=95) なお,マッサージにより全対象者の背部の呼吸補助 筋の緊張が解れ柔らかになっていくことを,手で触れ ることにより確認した。またマッサージ後に,背中を 丸めた姿勢が胸郭を開いた姿勢に明かに変化した対 象者を3名確認した。

Ⅳ.考察

脈拍数は,5日間のうち3日間でマッサージ介入前に 比べ介入後に有意に減少した。また,他の2日間も減 少傾向にあった。よって,マッサージは脈拍数を減少 させる効果があると考えられる。この結果は,先行研 究のマッサージは心拍数を減少させるという報告と 一致する(河内ら,1994,新田ら,2002,柳,2006)。 マッサージによる脈拍数の減少の割合は,マッサージ 前の脈拍数が多いほど大きいことが明らかとなった (図3)。脈拍数の減少は,自律神経系の交感神経の興 奮抑制と副交感神経の興奮促進が起れば生じる。実際 に対象者全員が,マッサージの感想を「気持ちがいい」 と表現した。この気持ちよさの状態は副交感神経の作 マッサージ前のSpO2値 S pO 2 値 の 増 減 ( 差 )

(9)

用が交感神経の作用より優位になったことを示して いると考えられる。 呼吸数は,5日間のうち3日間でマッサージ介入前に 比べ介入後に有意に減少した。また,他の2日間も減 少傾向にあった。よって,マッサージは呼吸数を減少 させる効果があるといえる。さらに,マッサージ前の 呼吸数とマッサージ後の呼吸数の差に相関がみられ た(図5)。これは,呼吸数が正常値を逸脱して多くな るほど,マッサージはより効果的であることを示唆し ている。 副交感神経の作用が交感神経の作用より優位にな るほど呼吸数は減少する。よって,マッサージは副交 感神経の興奮を高める作用があると考えられる。さら に,マッサージ介入中の対象者の呼吸を観察すると, 呼吸は深くなると同時にゆっくりとなっていた。呼吸 の効率は深くてゆっくりした呼吸が浅くて速い呼吸 よりも大である。よって,マッサージは呼吸の効率を上 げ,一回換気量を増加させる作用があると考えられる。 SpO2値は,5日間全日においてマッサージ介入前に 比べて介入後に有意に増加した。よってマッサージは, SpO2値の改善に効果があるといえる。SpO2値が95%未 満での増加率は,95%以上の場合に比べて大となる傾 向にあった。これは,動脈血酸素飽和度が低いときほ ど,マッサージはより効果的であったことを示唆して いる。このことはマッサージ前のSpO2値とマッサージ 後のSpO2値の増加に強い相関がある(図7)ことから も確かめられた。 マッサージによるSpO2値の上昇は,呼吸効率がマッ サージにより改善されたことを示唆している。白井 (2005)らは,COPD患者の前胸部および背部の呼吸 補助筋に行ったマッサージが上部胸郭の拡張を拡大 したと報告している。胸郭拡張の拡大は機能的残気量 を減少させ,換気効率の改善をもたらす(日本呼吸管 理学会呼吸リハビリテーションガイドライン作成委 員会他,2003)。本研究においても,マッサージによ り胸部拡張が明らかに良好となった3名の対象者を確 認した。また,マッサージ介入を続けると,全対象者 の背部の呼吸補助筋の緊張が解れることを確認した。 筋が緊張して収縮状態にあるとき,筋の酸素消費量は 高まっていると考えられる。マッサージにより慢性的 な努力呼吸により緊張していた背部の呼吸補助筋が 解れた結果,筋の酸素消費量が減少して酸素化能が改 善されたとも考えられる。この効果もSpO2値の上昇に 寄与しているかもしれない。 マッサージ介入を5日間続けて実施したが,初回の 介入で脈拍数が減少した対象者は全体の63.2%,呼吸 数が減少した対象者は35.3%,SpO2値が増加した対象 者は73.7%を占めた。このことは,マッサージは1回で も呼吸生理の改善に効果があることを示している。 最終日のマッサージ介入前の脈拍数は初日の介入 前の脈拍数に比べて有意に減少した。しかし,呼吸数 とSpO2値には有意差がみられなかった。このことは, 脈拍数には有意差を得たものの,対象者の状態は日々 変化していることを示している。状態が悪くなった対 象者がいるとマッサージ前の呼吸数は増加しSpO2値 は減少するので,この影響で有意差が得られなかった 可能性がある。よって,マッサージの効果が日毎に増 強されるか否かを本研究で用いた指標から判断する ことは難しいといえる。あるいは,例数をもっと多く 集めると差が得られるかもしれない。研究者は,筋の 緊張状態が日毎に改善されていくことを,マッサージ の際に手で身体に触れることで実感した。このことは マッサージを連続して行うとその効果がより有効で ある可能性を示唆している。しかし,この効果を明ら かにするためには,筋緊張の程度を測定するなどの科 学的データによる検証が必要であると考える。

謝辞

研究にご協力いただいた患者の皆様,病院関係者の 皆様に心より感謝申し上げます。 本研究は,神戸市看護大学大学院博士前期課程に提 出した学位論文の一部を抜粋し,修正・加筆したもの です。また,この論文の一部は,看護研究学会学術集 会にて発表しました。

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Improvement of Physiological Respiratory Index by Back Massage

for Chronic Obstructive Pulmonary Disease Patients

Sakura FUJIWARA

1*

,Shoichi MINOTA

2 1

Japan Integrated Medical Laboratory,2Kobe City College of Nursing

Abstract

This study aims to clarify the effects of back massage on respiratory physiology of hospitalized patients who have experienced chronic dyspnea. We gave back massages to 19 chronic obstructive pulmonary disease (COPD) patients for 15 minutes per day during five consecutive days and measured their pulse rates, respiratory rates and percutaneous oxygen saturation (SpO2) before and after the

massage. As a result, it was found that the pulse rates and respiratory rates decreased after the massage, while the SpO2 values

increased significantly.

From these results, it was clarified that back massage improves the respiratory efficiency of COPD patients, with decreasing pulse rates and respiratory rates and increasing blood oxygen saturation.

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