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青年海外協力隊の活動を促進する要因に関する検討 : ソーシャルワーク部門派遣者を対象にして

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Academic year: 2021

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青年海外協力隊の活動を促進する要因に関する検討

-ソーシャルワーク部門派遣者を対象にして-

星野 晴彦

A study on the factors promoting the activities of Japan Overseas Cooperation

Volunteers

Haruhiko HOSHINO

ほしの はるひこ 文教大学人間科学部人間科学科 The Japan Overseas Cooperation Volunteers have made great contributions to developing areas. Especially the support to show the face had significance very much. And a number of books shown about splendid practice are published. However, the trial has been poor, which is to fully identify what serves as factors that promote activity for persons involved in volunteer and environmental projects. Therefore, this paper tries to examine factors promoting activity from the viewpoint of volunteer members dispatched on-site .It analyzes the reports of the members of the Social Work section, and then factors on behalf of the individual and organization, which interact with each other to promote activity, were identified. The volunteer members respect the organization and people on-site as equals, and devise a way of the transmission again . In the process, growth as an individual and self-realization are achieved. Transferring technology is neither a mechanical nor inorganic process but is an organic interaction that develops over time. It should not, though, depend only on personal motivation and originality. Rather, a viewpoint of analyzing organizational aspects as a management process is necessary when examining the volunteers’ efforts to overcome difficulty with activity on-site. This paper in particular refers to “evaluation” and “setting” of an aim for the dispatched organization. This can become a major factor that promotes activity for organizations utilizing volunteers with a clear benefit?? for the consumer.

Key words: Japan Overseas Cooperation Volunteers, promotion factor, management,

setting of an aim, evaluation

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 青年海外協力隊事業は、「開発途上地域の住民 を対象として当該開発途上地域の経済及び社会の 発展又は復興に協力することを目的とする国民等 の協力活動を促進し、及び助長する」[独立行政 法人国際協力機構法第13条(3)]というもので ある。  協力隊員の活動の基本姿勢は、「現地の人々と 共に」という言葉に集約されている。つまり、派 遣された国の人々と共に生活し、働き、彼らの言 葉を話し、相互理解を図りながら、彼らの自助努 力を促進させる形で協力活動を展開していく。青 年海外協力隊は、技術や知識を活かして開発途上 国の国づくり、人づくりに身をもって協力するの である。 活動は、 「顔の見える国際協力」として、 きわめて重要な意義がある。そして、そのような すばらしい実践について示された本は多く出版さ れている。しかし、隊員当事者の視点から、活動 に際して隊員の対処及び環境で何が促進的な要因 になったのかを総体的に抽出する試みは乏しかっ た感がある。促進的要因とは、上記の青年海外協 力隊の使命の達成に対し、何らか推進する効果が あるという意味である。本稿では、ソーシャルワー ク部門隊員の報告書を資料として、促進的要因を 抽出していく。それにより、隊員への支援のあり 方を検討する一助とすることが目的である。その 過程で、本稿は任地の派遣機関の構造的な課題を 整理する際に、経営学的マネジメントの視点より 捉えなおす。なお、マネジメントについて、ドラッ カー1)は以下の要素を挙げている(下線は筆者)。 ①人が共同して成果を上げることを可能として、 人の強みを発揮させ、弱みを無意味なものにす る。 ②人と人との関係に関わるものであり、それぞれ の文化に深い関わりを持つ。 ③組織が、成員に対して仕事について共通の価値 と目標を持つことを要求する。 ④組織と成員を成長させなければならない ⑤意志の疎通と個人の責任が確立していなければ ならない ⑦成果は顧客の満足である  上記の趣旨で、本稿ではマネジメントの語を用 いていきたい。

2 青年海外協力隊の概要

 青年海外協力隊は、自分の持っている技術・知 識や経験を開発途上国の人々のために活かしたい と望む青年を、派遣する独立行政法人国際協力機 構(以下、JICAと記す)の事業である。派遣期間 は原則として2年間。協力分野は農林水産、加工、 保守操作、土木建築、保健衛生、教育文化、スポー ツの7部門、約140種と多岐にわたっている。  実際の派遣は各受け入れ国からの具体的な要請 に従い選考・募集が行われる。派遣された隊員は、 相手国の政府機関等に配属され、当該機関の一員 として協力活動を行う。協力隊事業はボランティ ア性、公募性、国民的基盤の上に立った隊員活動 の支援事業という特性を持っている。したがって 一人ひとりの隊員の協力活動が主体であり、協力 隊事務局はその活動支援の中核的存在として、隊 員活動が円滑に進むように、訓練、情報提供など の支援を行っている。日本とは歴史や文化、人々 の価値観も異なる。活動場所のほとんどは人・物・ 金など「ないないづくし」の状態である。それに 対して、青年海外協力隊5カ条には次のようなも のがある。 ①共に住んで異民族の心を知る。 ②その住む国を鏡に日本の姿を見る。 ③こうして、実践裡に、大いなるもの、国と世界 に開眼する。 ④そのときも、そのあとも、おおらかな夢に生き、 ⑤静かなる人間革命に先駆ける。

3 海外青年協力隊活動への評価

 青年海外協力隊は、伝統ある支援活動を展開し てきた。現地の人々と同じ言葉を話し、同じ場所 に住み、同じものを食べることはきわめて負荷の かかることである。そして彼らが現地で日本の技

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表1 項目 内容 (1)隊員に課せられている 使命・目標に関して ・現地の人々には経験に基づく有機的で科学的な価値体系がありながら、流れ込んでくる技 術に否応無く翻弄されている。外国人である協力隊員が、その上新しい技術を持ち込むより、 いやでも入ってくる技術をどのように現場にて活用し、あるいは適正化していくかと言った取 組み方の方が混乱を招かないで、分かりやすいのではないだろうか2) ・派遣国と日本の対置ではなく自分という一人の気持ちと現地で会う何人かの仲間との気持ち から新しい価値や技術なりを自由に創造していくと考えた方が隊員としては活動しやすいので はないか3) (2)時間が限られているこ とに関して ・正直言えば協力の方法を模索しているうちに過ぎてしまった2年間であったとしてもやむを得ない 4) (3)派遣隊員個人の問題 に関して ・20歳代の若さの隊員がひょこっと途上国に来て教えられるほど、生易しくない。一時的には 親善大使的存在で日本人の考え方を伝えたり、友達を作ってくれればよい。それで五体満 足で帰ってくれれば、役目は100パーセント果たしたも同然だ、と弁護する人もいる5) ・青年海外協力隊員の直面する大きな課題は最初の意気込みがなかなか続かないことが多いこ とだ。自己管理能力の無いものは現地の状況に流されていくケースが往々にしてあると言う6)   ・訓練所に来て思うことは、家庭教育や学校教育で欠けていることが多いと言うことである。 多分訓練所の職員は「最近の候補生は昔と変わってきた」なんて話しているだろう7) (4)隊員の力量とニーズ の不適合に関して ・途上国からの要望も多様化しており、ニーズに合った人材のリクルートが難しい8) ・現地からの要請と言う名のもとに、ただ無計画に隊員を送りこむ だけになっているのが今 の青年海外協力隊。組織的有機的に人員を配置して、効果的な活動ができるようなシステ ムとは程遠いのが現状 9) ・協力隊が途上国の人々に求められているというのは確かであるが、求められていることと、具 体的に仕事があることとは違う10) (5)帰国してからの評価 に関して ・海外での協力活動に対する評価が日本ではまだ低い 11) (6)現地の機関の受入体 制について ・所属機関によっては、JICA事務所が要求しているような協力隊員の配属先としての条件を 満たすことが不可能だと言うことである12) ・隊員の活動内容はそれぞれの配属先の要請に基づいているとともに、各隊員に任せられて いる。ここで問題なのは配属先のレベル。配属されたと言う形だけが欲しいと言うことがある。 もう一つの問題は、隊員活動が各個人に任されていて、何をやっても許されてしまうこと。 配属先の要請、または自分の得意技だけをもとにするのではなく、現状をみきわめて本当に 必要な内容をもとに活動することだと思う13) ・私たちを要請した所属長の目的は、草の根無償援助で機材を獲得するため、日本政府に対 して安心感を与えるための材料が欲しかったような気がします。実際機材が供与された時を 境に所属長の態度は変わっていきました14) (7)現地の機関の連絡調 整に関して  JICAや青年海外協力隊のシステムでは、情報交換網が全然できていない。世界各国で 多数の隊員や専門家が活動しており日本には技術顧問がいるにもかかわらず、お互いの情報 交換と言う意味ではかなり送れていると実感した15)

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して相手国に普及させてきた功績は甚大なるもの がある。  しかし、他方で下記の通りの疑問が現実に活動 した経験者より示されている。筆者なりに整理す ると下記の通りになる。 ① 隊員に課せられている使命・目標に関して ② 時間が限られていることに関して ③ 派遣隊員個人の問題に関して ④ 隊員の力量とニーズの不適合に関して ⑤ 帰国してからの評価に関して ⑥ 現地の機関の受入体制に関して ⑦ 現地の機関の連絡調整に関して  さらに詳細に示すと、表1のようになる。  すべての隊員が上記のように感じたというわけ ではない。しかし、そのように感じるリスクもあ り、感じた事項の中には構造的な課題で、個人の 隊員の努力によって解決し得ないものも記されて いる。

4 目的と方法

 前節のような活動における困難や疑問が、個人 及び構造的なレベルで示されているが、現在も多 くの青年海外協力隊隊員が活躍し、今後とも活躍 しようとしている。そこで、事業活動を積極的な 視点から推進していくために、下記のとおり調査 をした。本稿の調査の目的及び方法は下記の通り である。 (1) 目的 青年海外協力隊の活動を考える際に、派遣された 隊員が現地での活動を推進していく上で、対処及 び環境においてどのようなことが促進要因となる のか。具体的な内容について、隊員当事者の視点 から明らかにする。 (2) 方法  現地に派遣されている青年海外協力隊員の報告 書から、活動の推進していく上で対処方法及び環 境として促進要因となった事項として示したもの を抽出し、整理する。 (3) 対象

5 結果

 任地での活動を推進していくために、隊員の対 処及び隊員の環境で促進要因となる事項として、 表に示したものが、表2である。活動について、 個々の機関で行っている内容については割愛す る。ここではその活動を推進させるために配慮し ていることのみ記載する。  上記の要因はすべての隊員に共通して与えら れ、促進的に機能しているわけではない。いずれ かの欠如により困難を感じている状況も認められ る。そして、阻害因子として作用している状況も 見られる。  以上の促進的要因により、単に困難をやり過ご したと言うことではなく、組織のマネジメントサ イクルを推進していくために寄与することにな る。良循環のサイクル16)では、組織としての知 識を増やし、メンバーは自信を持ち、連帯感を抱 き、顧客を喜ばせることができる。そして機関の 活動の価値も生み出す。

6 考察

 上記の結果は、青年海外協力隊の活動を何ら否 定するものではない。そしてこれは個人の特殊性 によるものだけではなく、異文化との接点に派遣 された人々が共通して構造的に体感することと考 えられる。確かに隊員には適応の過程にパターン 17)があると言われている。そして個人の創造性 や時間の経過による有機的な展開により、配属組 織に大きな変化が生じることも事実である。  個人が対処してきた中には以下の通り多岐にわ たっている ①個人の健康管理安全管理 ②自分の図式にとらわれず地域・機関のニーズを 再確認しようとする ③機関に対してコミュニケーションを心がけ意思 疎通を図る ④最初から指導者として一方的に技術をおしつけ

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表2 隊員レベルの対処 項目 内容 1 個人的なレベル 健康管理 暑くて眠れず寝不足になりがちなので、休日はしっかりと休養をとるようにする。常に水分を持ち、補給するように心がける。 安全管理 犯罪の対象になりやすいことを常に意識して行動する。安全に対する配慮(夕方6時以降には一人で外出しない) 語学 語学の習得に努める 2 所属機関との 相互理解の促進 状況把握 ・任地のニーズ・状況把握に努める・任地の職員自身の気付きが必要であることを理解する コミュニケー ション ・所属長との話し合いを持つ ・所属長に自分の活動希望を伝える ・同僚として受け入れてもらうための努力をする(職員用の送迎バスに乗るなど) 自己覚知 ・自分の理想との差異について理解する(言語・国柄・考え方への理解)・組織として対応できることと対応できないことを認識する 3 所属機関に おける活動 問題の構造 的理解を深 める ・児童保護に対する理解が深まる ・任地国における薬物依存の問題の重要性を認識し、専門機関の必要性を考える 役割 て活動に参加する状況に合わせて、自らの活動の方向性を模索し、変更する。 一マンパワーとして位置付けられているが、その立場を生かして同僚のソーシャルワーカーの一員とし 指導方法の 改善 ・技術指導は職員の変化を観察しながら、コミュニケーションを取りながらゆっくり進めていく ・活動理念に対して機会あるごとに同僚たちと確認しながら活動する ・「あなたたちはここが足りない、間違っている」という発言はやめて、「私たちはこれをしなくてはなら ないがどうしようか」「私では無理だから手伝ってもらえるだろうか」と同僚を促す方法を取るようにした。 ・できる所から自分が取りかかり、利用者の変化を目で確かめてもらい、気付いてもらうようにする 活動計画 ・相手の要請・ニーズ・習慣に沿った形で活動計画を策定した・活動計画をスタッフと共にグループで策定する。 ・継続していけるようなシステム構築を図る 活動の拡充 ・処遇における衛生感覚の徹底 ・活動道具を開発する(高齢者も使いやすいトランプなど) ・日本の文献などを翻訳するのみではなく、現地に即した処遇のマニュアルを作る。 ・隊員活動費を利用し、アクティビィティーの種目を増やした  ・日本隊員と連絡を取り、日本の状況を任地の機関に伝える 4 地域に対して 国民性につ いて ・悪い所ではなく、良い所に着目する ・時間や約束に関する感覚は、日本のようにいかないが、これは個人レベルか組織レベルかを見極 めるようにする。 ネットワーク の形成 ・近隣の少年野球チームに参加するなどネットワークを作る ・日本人隊員と共にワークショップを行う。そこで、任地の福祉現場に携わる人々に情報・意見交 換をする。 啓発 ・訪問介護を実際に利用することが抵抗ある地域の状況を鑑み、興味関心を地域の人々に持ってもらえるように介護サービスに関する研修会・文集の発行を行う。 5 後任に対して 自分の活動を点検して、継続してもらいたい事項について整理する 6 評価 ・任地の青年海外協力隊隊員でワークショップを設けてSWOT分析を行った。そして自分の強み弱みを確認して、 自分たちで担うべき役割を議論した ・自分の活動目標に対して、どこまで達成できたかを確認する 2年間で介護職員の意識に変化が生じたので、引き続き継続的な指導が必要であると思う 7 時間軸 ・残りの任期は長くないので、本当の意味で児童が豊かな生活を送れるよう日々の活動に励む ・一年過ぎてからやっと何かができる、という先輩のアドバイスが合ったが、その通りだと実感する ・活動期間が限定される中で、今後の活動について的を絞って取り組んでいく 8 任地への思い 任地でできたことの少なさに比べ、自分が助けられたことや得たものははるかに多かった

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ことなく決しておしつけるような姿勢は示さな い ⑤活動を機関内にとどまらせず、地域のネット ワークを構築しさらに幅広い視野を機関に還元 する ⑥自己満足にとどまらないように、自身の活動と 機関の状況さらに自分がこの機関の中で何がで きたのかを冷静に評価する ⑦時間軸を考慮し、その間に有機的なやり取りを 展開すると共に、その制約の中で優先順位を立 てる。  以上を通して以下の点に寄与している。 ①健康安全管理 ②同僚との仲間意識を培う ③技術に対する導入を円滑にする ④機関の活動を拡大する ⑤機関のミッションを再構築する ⑥隊員自身の自己実現を図る ⑦機関の将来的な展望について、参考意見を提出 する ⑧機関が、自分を受け入れることの意義について 評価する  個人としても任地の機関や人々を対等に認識 し、またその伝達のし方を工夫していく過程に個 人としての成長と自己実現も認められる。単に技 術を移転すると言う機械的・無機的なものでは無 く、時間の経過と共に展開する有機的・相互作用 的なものである。  他方で、活動の成果は、個人の自主性や創造性 にのみ依拠されるべきではない。むしろ、現地で 関をマネジメントの視点で整理する視点の必要性 も伺われる。特にここでは、任地での派遣機関の 「評価」「目標の設定」について以下述べたい。 (1)評価について  非営利組織であっても組織である以上、今どの ような状況に置かれているか、今何をなすべきか を迅速に性格に把握しておかねばならない。ミッ ションが達成されているか、できていないとする ならばなぜなのか。それらを認識するのはマネジ メントの基礎である。しっかりとした評価の姿勢 が求められる。成果の評価が次の企画にフィード バックされなければマネジメントは成り立たない のである。  前節の結果にも示されているように、隊員は適 宜組織・地域及び自分の活動を評価している。  田尾18)は非営利組織を想定しつつ、その評価指 標を表3のように挙げている。  環境としての促進的要因として、前節の結果で も機関のミッションの設定・戦略・所属長の意識・ 組織関係・活動資源・人員配置・予算配分・地域 との関係・将来に向けてのビジョンが挙げられて いた。  田尾の参考にすべき点は、内的・外的・将来へ の予測この三つの視点で捉えていることであり、 前節の結果を見ても、以下の3点は組織として しっかりとした評価が求められる所である。 ・これまで当該機関は何をしてきたか、協力隊員 を受け入れる為の体制が整っているか。隊員を 受け入れる意義が理解されているか。 ・協力隊員を受け入れて現在どのように展開して 表3 評価指標 評価軸 評価内容 第1評価軸(現状について) ミッション 戦略  ボード 活動資源 人員配置 活動状況 管理システム 評価システム 組織間関係 第2評価軸(存続と言う成果) 設立年次 クライエント数 メンバー数 活動予算 活動分野 地域の評判 第3評価軸(将来の可能性) 社会的な責任への自覚 将来に向けたプランニングのためのスタッフの有無

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いるか、専門性を十分に活用した組織としての 展開となっているのか。 ・隊員帰国後は、その機関がどのように展開する だろうか   実際の派遣は各受け入れ国からの具体的な要請 に従っているが、機関としての協力隊員を受け入 れる為のマネジメントの評価をしていくことによ り、さらに大きな促進要因となりうる。 (2)使命に関して  派遣された機関が明確な目標を持ち、それに基 づき隊員をどのように活用したいかを明確に示し 得ていること、そしてその目標に対して職員がコ ンセンサスを得ていることは促進要因となってい ることが示された。  ドラッカー19)は、使命が第一に重要あり、リー ダーがまずなすべきことは、よくよく考え抜いて、 自らあずかる機関が果たすべき使命を定めるこ と、そして使命があるからこそ、明確な目標に向 かって歩くことができ、目標を成し遂げるために 組織の人間をも動員することができるのだと述べ ている。即ち使命には、組織の一人ひとりが、目 標を達成するために自分が貢献できることはこれ だと思える現実的なものでなければならないと指 摘しているのである。「使命」を掲げていない、 あるいは意識すらしていない非営利機関もある。 たとえ「使命」があっても、きれいな言葉が並べ られ、形式的なものであったり、職員ひとり一人 には理解されていない場合も多々ある。派遣され た隊員が自己実現できるような、派遣機関の職員 の自己実現に資するような使命が存在するかは重 要な課題であろう。  以上派遣機関の側より2点について触れてき た。機関としてマネジメントの視点から、隊員活 動の受け入れ体制を評価をすることは、サービス 利用者や同僚の支援者にとって効果的な活動を展 開していく上で有意義であろう。  個人の創造性や主体性の涵養に加えて、配属先 の選定・隊員の配置・派遣機関中のサポートは今 後とも重要な意味を持つことになる。

7 おわりに

 青年海外協力隊の支援活動は伝統として積み重 ねられて、多くの隊員の蓄積がある。これまでそ の国際貢献意義・派遣実績・個人としての成長が 取り上げられてきた。本稿では敢えてその活動に おいて、前線で困難さを克服していく隊員たちの 声を取り上げてみた。派遣された組織が、活動隊 員の力を活用してどのように組織・機関として前 進するかに着目したいためである。  しかし、本稿の趣旨は青年海外協力隊事業を何 ら消極的に捉えるものではない。むしろ経営学的 マネジメントの発想を取り入れて、さらに有意義 な活動を展開していただきたいと願うものであ る。

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の条件』上田惇生訳 ダイヤモンド社,17 2) 小西司 1993 『ガーナの変化 黄金の果 実』大蔵省印刷局,85 3) 小西司 1993 『ガーナの変化 黄金の果 実』大蔵省印刷局, p85  4)長澤孝昭1996 「国際ボランティアを目指す 君へ」時事通信社編『異文化との接点で』時 事通信社,267 5) 同上,268 6) 同上,268 7) 早川修一2004『ケツァールは跳ぶ』創友社 ,10 8) 長澤孝昭1996「国際ボランティアを目指す 君へ」時事通信社編『異文化との接点で』時 事通信社,268 9) 早川修一2004 『ケツァールは跳ぶ』創友 社,p197 10) 伊藤毅 1993「やれることは自分で発見す る」『青年海外協力隊になるには』国際ボラ ンティア協会編 ぺりかん社, p14 11) 長澤孝昭1996「国際ボランティアを目指す 12) 早川修一2004『ケツァールは跳ぶ』創友社,70 13) 早川修一2004『ケツァールは跳ぶ』創友社,10 14) 協力隊を育てる会 2003 「協力隊日誌」 『青 年協力隊ベストガイド』明石書店,146 15) 早川修一2004『ケツァールは跳ぶ』創友 社,197 16) N.ティシー2004『リーダーシップサイクル』 一條和生訳 東洋経済,20 17) 伊藤毅 1993「やれることは自分で発見す る」国際ボランティア協会編『青年海外協力 隊になるには』 ぺりかん社,14 18)田尾雅夫 2004『実践NPOマネジメント』 ミネルヴァ書房,219 19) P.F.ドラッカー2001『チェインジリーダー の条件』上田惇生訳 ダイヤモンド社,38 [要旨]  青年海外協力隊は、開発途上地域に対して多大なる貢献をしてきた。特に顔が見える援助は、とても 意義のあるものであった。そして、そのようなすばらしい実践について示された本は多く出版されてい る。しかし、隊員を当事者として、活動に際して隊員の対処及び環境で何が促進的な要因になったのか を総体的に抽出する試みは乏しかった。そこで本稿では、現地に派遣された隊員の視点から活動の促進 要因について検討してみた。ソーシャルワーク部門の隊員のレポートを分析して、結果として、促進要 因として個人的な側面と組織的な側面が見出された。  個人としても任地の機関や人々を対等に認識し、またその伝達のし方を工夫していく過程に個人とし ての成長と自己実現も認められる。単に技術を移転すると言う機械的・無機的なものでは無く、時間の 経過と共に展開する有機的・相互作用的なものである。  他方で、個人の自主性や創造性にのみ依拠されるべきではない。むしろ、現地での活動に活動隊員が 困難さをどのように克服するかという対処を検討する事の中で、任地の派遣機関をマネジメントの視点 で整理する視点の必要性も伺われる。特に本稿では、任地での派遣機関の 「評価」「目標の設定」につ いて言及した。それぞれの機関が明確な目標を持って、それに基づき隊員を活用していくことは大きな 促進要因となることを示した。

参照

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