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2019 年台風15 号に伴う強風による送電線の被害状況と鉄塔の耐力評価

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2019 年台風 15 号に伴う強風による送電線の被害状況と鉄塔の耐力評価

DAMAGE TO TRANSMISION LINE AND STRENGTH ESTIMATION OF TOWERS BY T1915

山崎 智之1) 大園 智章1) 小林 岳1) 北嶋 知樹1)

Motoyuki YAMAZAKI1), Tomoaki OSONO1), Takeshi KOBAYASHI1), Tomoki KITASHIMA1)

橋本 篤2) 服部 康男2)

Atsushi HASHIMOTO2), Yasuo HATTORI2)

ABSTRACT

Typhoon Faxai (2019) crossed over Tokyo Bay while including the southern Kanto region in the strong wind and made landfall on Chiba City with strong power around 5:00JST on September 9th, 2019. In the Boso Peninsula in Chiba Prefecture, the storm caused serious strong wind disaster, such as the destruction of houses, the fallen trees, and the blackouts due to the damage to transmission and distribution lines. Regarding the damage to the transmission line, two steel towers with 66kV 6-circuit transmission line installed in Kimitsu City were destroyed. In this paper, the situation of transmission line damage and the estimation results of the towers strength by the equivalent static wind load using the local wind speed based on the weather and CFD analysis are showed. Causes of the collapse of the towers were that the transmission line with east-west route was located in the strong wind area on the right side of the typhoon track and that the local wind increased due to the effect of special complex topography.

Key Words: Typhoon, Transmission tower, Strong wind disaster, Wind response

1.はじめに 2019 年台風 15 号(T1915,アジア名ファクサイ)は,9 月 5 日に南鳥島近海で発生し,9 月 9 日 3 時頃強い勢力を 保ちながら三浦半島を通過,東京湾を北東に進み,9 月 9 日 5 時頃,千葉市付近に上陸した.関東地方に上陸した 台風としては,T1915 は中心気圧が 960hPa と低く暴風半径が小さいのが特徴で,台風進路の右側にあたる千葉県の 房総半島では,これまでの観測記録を超える強風が観測された.房総半島では,建造物や樹木等の被害に加えて, 送配電線設備の一部が損壊し,長期間停電の一因になるなど,甚大な強風災害が発生した.送電線の被害では,千 葉県君津市に施設される電圧 66kV,6 回線送電線の鉄塔 2 基が倒壊した.このため,東京電力パワーグリッド(株) では,直ちに鉄塔倒壊事故調査検討委員会を設置し,学識経験者の参画を得て,鉄塔の倒壊原因の調査・究明, 再発防止対策の検討を実施した. 検討の結果,台風進路右側の危険半円内に送電用鉄塔が立地していたこと,また,複雑地形の影響による風の局 所的な増速に加え,送電線路が南からの風向に正対した東西方向ルートであったことなどが重畳して,設計荷重を 超える風圧荷重が当該鉄塔に作用したものと推定された. 1) 東京電力パワーグリッド(株)工務部 (〒100-8560 東京都千代田区内幸町 1-1-3) 2) 一財)電力中央研究所 地球工学研究所 (〒270-1194 千葉県我孫子市我孫子 1646) - 110 -

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2 本論では,上記検討委員会の検討結果に基づき,台風 15 号の気象状況,送電線の被害状況,ならびに気象・気 流解析シミュレーションによる現地風速の推定値を用いた等価静的風荷重に対する鉄塔の耐力評価の結果を報告 するとともに,今回の事故原因調査・検討を踏まえた今後の再発防止対策について述べる. 2.気象状況 2019 年 9 月 5 日に南鳥島近海で発生した台風 15 号は,7 日午後に強い勢力で小笠原諸島に接近した後,8 日 午後には中心気圧955hPa,最大風速 45m/s と非常に強い勢力となって伊豆諸島に接近,その後,中心気圧 960hPa, 最大風速40m/s と強い勢力を保ちながら時速 25km の速度で東京湾を北東に進み,9 日 3 時頃には三浦半島付近 を通過し, 5 時頃に千葉市付近に上陸した.気象庁公表の台風経路図1)を図1 に,9 日 3 時 JST における気象レー ダーエコーを図2 に示す.この台風 15 号は,東京湾付近を通過した既往台風の中で最低クラスの中心気圧を有しな がら,暴風半径が小さい台風であったことから,中心付近の気圧傾度が非常に大きいという特徴を有していた.この台 風の襲来により,アメダス千葉観測所(観測高さ47.9m)で最大瞬間風速 57.5m/s,最大風速 35.9m/s,アメダス木更津 観測所(観測高さ 10.1m)で最大瞬間風速 49.0m/s,最大風速 23.2m/s を観測するなど,両観測所ともに最大瞬間風 速と最大風速の観測記録を更新した(図3). 3.送電線の被害状況 台風15 号が東京湾を北上中の 2019 年 9 月 9 日 2 時 55 分,千葉県君津市に施設されている木内線(電圧 66kV, 6 回線の特別高圧送電線)の電力の供給支障が発生した.同日早朝,現地確認の結果,君津市かずさ小糸,長石地 内に立地する木内線№78 と№79 の耐張鉄塔 2 基の倒壊が確認された.倒壊鉄塔の位置を図 4 に,送電線の経過地 図を図5 に示す.これにより,31,300kW(約 11 万軒)の電力の供給支障が生じた2).当該送電線に係る電力の供給 支障は,接続変更による事故区間の切り離しと系統運用変更等により,事故翌日の9 月 10 日 16 時 17 分に解消した. なお,台風15 号により強風に曝された千葉県内に位置する東京電力管轄の送電用鉄塔 5,787 基のうち,倒壊したの はこの2 基のみであり,極めて局所的な強風が現地に発生したことが想定される.被害を受けた送電線の設備概要を 図1 台風経路図(気象庁) 図 2 気象レーダーエコー(9/9,3:00JST,気象庁) 図3 アメダス木更津観測所において記録された風速と風向(9/8,12:00JST~9/9,12:00JST) 0 10 20 30 40 50 60 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 風風 速速 (m /s )) 時 時刻刻((JST)) 瞬間風速(毎10分) 10分間平均風速 0 90 180 270 360 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 風風 向向 時 時刻刻((JST)) 10分間平均風速の風向 N E S W N - 111 -

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3 表1 に示す.倒壊した 2 基の鉄塔は,経済産業省令・電気設備に関する技術基準3)に則って設計された山形鋼鉄塔 である.鉄塔を構成する山形鋼は,L45×4 以上,L100×10 以下の部材には SS4004),L120×8 以上の部材には SS5404)の材質の鋼材が使用されている.倒壊した鉄塔の形状図を図6 に,鉄塔の脚の名称と風向の関係を図 7 に示 す.鉄塔の最下パネル主柱材のサイズは,№78 が L175×15,№79 が L200×25 である.基礎は 2 基ともに,4 脚独立 の逆 T 字型直接基礎が適用されている.なお,鉄塔と基礎の設計強度計算書を確認した結果,強度計算上の不具 合はなかったことを確認している. 図4 倒壊した送電用鉄塔の位置 図 5 線路経過地図 表1 被害を受けた送電線の諸元 図6 鉄塔形状図 図 7 鉄塔の脚の名称と風向の関係 架空地線 電力線 77.7 耐張 鉄塔重量 (t) 鉄塔高 (m) 標高 (m) 45.0 57.0 山形鋼 山形鋼 山形鋼 1972 146.5 21.0 38.0 鋼管 1972 耐張 架涉線 鉄塔 番号 鉄塔型 鉄塔 構成材 がいし 吊型 建設年 水平角度 径間長 (m) 77 78 79 80 6QCSUK 6B 6G 6F 注)架涉線のTH ,TLは,技術基準3)の甲種風圧荷重条件時,乙種風圧荷重条件時の設計張力をそれぞれ示す. (上回線) ACSR610mm2 1条×3相 2回線 (中回線) ACSR610mm2 1条×3相 2回線 (下回線) TACSR610mm2 1条×3相 2回線 TH=48000N TL=49000N AC70mm2 2条 TH=14300N TL=17200N R46°06′ L10°25′ 27.5 耐張 1995 耐張 1972 L36°42′ L17°52′ 159 357 260 57.0 163.2 163.5 154.4 165.6 鉄塔倒壊位置 9/9,3:00JST 9/9,4:00JST 9/9,6:00JST 鉄塔倒壊凡例 部材変形 倒壊方向 県道33号線 №78 №79 №80 №77 展望台 若番 老番 b c a d - 112 -

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4 図8 鉄塔の倒壊状況 航空写真ならびに現地被害状況調査の結果,№78 と№79 の鉄塔は 2 基とも北北西の方向に,脚部より横倒しに倒 壊していることが確認された.また,架渉線の断線や飛来物の付着,倒木の接触,部材の腐食等は確認されなかった. 鉄塔の倒壊状況を図8 に示す.以下に,現地調査に基づく各設備の被害状況を概説する. №77 鉄塔は,鉄塔,基礎ともに被害は認められなかった. №78 鉄塔は,最下部を起点に風下側に倒れ,鉄塔上部は№77 の方向にやや傾いて倒壊した.b 脚の主柱材の最 下部は鉄塔の中心方向(以下,塔心方向という)への屈曲的な曲げ変形,その上方でそり変形と全断面破断が見ら れた.c 脚の主柱材は,柱脚部で塔心方向へ曲げ変形し,その上方 2 パネル目では 2 箇所の屈曲的な曲げ変形が 確認された.その内1箇所では部分破断が確認された.風上側となる,a 脚と d 脚の主柱材には破断はなかった.基 礎は,4 脚とも上端部のコンクリートが部分的に破壊しており,d 脚のみ基礎柱体と地盤に 20cm 程度の隙間が見られ たが,掘削によりd 脚の地中部の状況を確認した結果,土中の基礎体の損傷は確認されなかった.図 9 は,部材の著 しい変形や破断等が確認された,№78 鉄塔の最下 3 パネルの b-c 面の各部の損傷状況の詳細を示したものである. №79 鉄塔は,最下部を起点に風下側に倒れ,鉄塔上部は№78 の方向にやや傾いて倒壊した.b 脚と c 脚の主柱 材最下部は塔心方向への屈曲的な曲げ変形が見られ,その上方でそり変形と全断面破断が見られた.a 脚と d 脚の 主柱材には,破断はなかった.基礎は,全脚とも天端部のコンクリートが部分破壊しており,d 脚のみ基礎柱体と地盤 に隙間が見られたが,掘削により d 脚の地中部の状況を確認した結果,土中の基礎体に損傷は確認されなかった. 基礎天端部の部分破壊は,鉄塔倒壊に伴って発生した二次的な破壊であったことが考えられる. なお,№78 鉄塔と№79 鉄塔ともに主柱材の接合部にはボルトの破断は確認されなかった.一部の腹材や補助材等 の接合部に支圧破壊が確認されたが,これらは鉄塔が倒壊に至る過程における二次的な破壊であると考えられる. №80 は,上から 6 パネル目の b 脚の主柱材に座屈変形,最下パネルより 3 パネル目の腹材に曲げ変形が確認さ れた.d 脚周囲の地盤の地表面に,基礎床板形状と整合するひび割れが確認された.これらは,№79 鉄塔の倒壊に 伴い,架涉線張力の増大による過荷重による部材変形や基礎の引き揚げによる地割れが発生したものと考えられる. №78~№79 径間の架涉線は,公園の展望台との接触による電力線の素線切れが確認されたが,断線は認められ なかった.№79~№80 径間の架涉線は,素線切れなどの被害は確認できなかったが,№79 の左回線,7 段目と 9 段 目のジャンパー線および№79~№80 径間の左回線 7 段目の電線にアーク痕がそれぞれに確認された.アーク痕とは, 課電された電線と地物との接近に伴う通電による電線表面の溶融痕のことであり,電線が最初に地物と接近した可能 性があることを示唆するものである. 図10 と図 11 は事故発生から 3 日後の 9 月 12 日に,倒壊した№78 鉄塔の周辺を撮影した航空写真である.図 10 には,図中に白い矢印で倒木を表示しているが,№78 鉄塔の南東側~東側の領域に倒木が発生したことが確認でき る.倒木の方向は概ね北北西であった.ダウンバーストを要因とする放射状の倒木や竜巻を要因とする渦状の倒木 は見られなかった.筆者らが実施した現地調査より,倒木のほとんどがスギやヒノキの植林で,幹折れしたものが多く 確認された.サンブスギの非赤枯性溝腐病による腐朽木は1 割程度と少なく,大半のスギは健康木であった.ただし, 未間伐の細長い樹形であったため,幹折れが多く発生したものと考えられる.なお,健康で大径(50cm 以上)のヒノキ や広葉樹の幹折れ・根返りも見られた.気象庁運用の日本版改良藤田スケールに関するガイドライン 5)による被害指 標(DI)と被害度(DOD)を参考にすれば,現地の瞬間風速は 50m/s 以上(針葉樹・幹折れ)と推定される. №77 №78 №79 №80 展望台 全景 №78 鉄塔 №79 鉄塔 - 113 -

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5 図9 №78 鉄塔の部材損傷状況 図10 №78 鉄塔周辺の倒木状況 図 11 №78 鉄塔の南東側地域の倒木状況 4.数値気象・気流解析による現地風速推定 鉄塔倒壊地点の近傍には観測所が存在せず,当該地点から最も近い観測所は木更津観測所である.しかし,両 地点の距離は 7km 程度離れているとともに,現地は複雑な地形が連なる丘陵山岳地であることから,台風の風構造 に基づく風速分布の影響や地形の影響等を踏まえると,木更津観測所の風速記録を現地の風速推定に直接適用す るのは適切ではないと考えられる.このため台風 15 号による現地の風況推定は,気象ならびに流体力学に基づく解 析的アプローチにより実施することとした.

ま ず , 第 一 ス テ ッ プ と し て ,WRF(Weather Research and Forecasting)を基にした 3 次元気象 解析 モデル NuWFAS(Numerical Weather Forecasting and Analysis System,電力中央研究所開発)を利用して台風通過時の当

該地の広域風況場を解析した.表2 に数値気象モデル NuWFAS の計算条件を示す.次に,第二ステップとして,気

象解析結果を入力風として,倒壊鉄塔地点の複雑な地形起伏による局所的な風況変化を高Re 数型 k-ε モデルを用

いた3 次元局所風況解析コード NuWiCC(Numerical Wind Simulation Code in CRIEPI,電力中央研究所開発)で解 析し,現地の風速を推定した. 現地風況をNuWFAS による気象解析の計算結果として,図 12 に 9/9,3:00JST における高さ 50m での風速分布を 屈曲的な曲げ変形 No.78 展望台 - 114 -

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6 示す.倒壊時刻では,概ね南南東の風向,地上高さ50m での最大風速は 40m/s 程度となった.なお,この最大風速 は,気象官署などで一般的に記録されている評価時間10 分の平均値に相当すると考えられる.NuWFAS の計算結 果が解像する空間(水平)スケールは2 ㎞程度,時間スケールは数十分程度である.この解像度は,大気境界層内の 風速スペクトル6)を踏まえると乱流による変動を捕捉しないが日変化による変動を捕捉しており,解析値は気象官署な どの観測データでは 10 分平均値に相当する値を与えるものとなる.ただし,評価時間のより精緻な算定には地上高 や粗度などの影響も含めた評価・分析が必要と考えられる. NuWiCC による気流シミュレーションでは,解析領域は風上側 6km,幅 6km を設定し,標高は 10m 格子データの 数値地図(標高)を使用して水平格子間隔 25m の 3 次元メッシュ地形を作成し計算した.流入風は建築物荷重指針・ 同解説7)に基づく粗度Ⅲの風速鉛直プロファイルの風速分布を設定した.風向の影響を確認するため,南東から南ま で,11.25°刻みで 5 風向の計算を実施した.図 13 に NuWiCC による風向と解析領域を示す.NuWiCC による解析 結果として,送電線に沿った風速分布を図14 に,風方向の風速分布を図 15 に,№78 鉄塔地点での風速と乱れ強さ の鉛直分布を図 16 にそれぞれ示す.現地の地形による風速の増減速効果を評価した結果,南南東の風向時のみ, 径間№77~№78 付近で局所的な著しい増速域の発生が確認された.入力風に対する増速率としては,地上 50m に おいて 1.3 程度の値であった.南南東の風向では,風上側 6km に位置する丘陵地形で最も標高の高い丘(標高約 300m)があり,その丘頂部で増速された上空風が風下に流れ,それが送電線手前の急斜面地でさらに増速されたこ とにより,当該急斜面の頂部付近に位置していた径間№77~№78 付近で局所的に強い増速域が発生したものと考え られる.なお,解析結果の地形による影響や風向に対する感度に関しては,現象のさらなる理解,知見の一般化とと もに気流シミュレーション技術のさらなる高度化が必要だと考えられる. 表2 数値気象モデル NuWFAS の計算条件 図12 NuWFAS による計算結果(9/9,3:00JST) 図13 NuWiCC による風向と解析領域 図 14 NuWiCC による解析結果(送電線に沿った風速分布,南南東風向) 項目 内容 WRF使用バージョン WRF-ARW V3.7.1 水平格子,格子数 1km,840×840 鉛直格子 モデル高度45層(地表~上空16.5km) 地形データ 国土地理院50m標高 国土数値情報土地利用(2014年) 境界値 メソ数値予報モデルGPV(気象庁) 時間刻み 0.5秒 計算出力間隔 10分 積雲対流モデル 0;なし

雲微物理モデル Morrison 2-moment scheme 大気境界層モデル MYNN 2.5 level TKE 地表面モデル Noah-LSM(Mosaic=3) 接地層モデル Monin-Obukhov相似則(PBL準拠) 長波放射モデル RRTM scheme 短波放射モデル Dudhia scheme 鉄塔倒壊位置 18 0度 解析領域 120 170 220 270 320 -400 -200 0 200 400 600 800 1000 標 高 ( m ) 位置(m) 157.5 標高 30m/s 35m/s 40m/s 45m/s 50m/s No.76 No.77 No.78 No.79 No.80 No.81 50m/s 40m/s 30m/s 鉄塔倒壊位置 - 115 -

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7 図15 NuWiCC による解析結果(主風方向風速成分の増加率分布,南南東風向) (流入風の地上50m 高さの風速を基準とした風速の比率で表示) 5.現地推定風速に基づく鉄塔の応力解析 4 章で述べた気象・気流解析で得られた現地推定 風速分布を用いて,JEC-TR8)に基づくガスト影響係 数法を適用した等価静的風荷重により,倒壊鉄塔の 応力解析を実施した.等価静的風荷重の算定および 鉄塔部材の軸力算定には,送電用鉄塔の簡易発生 軸力評価プログラムTC load9)を使用した.なお,気流 解析から得られた風速,乱れ強さの空間分布による 風荷重による応力解析を実現するため,鉄塔,架涉 線に任意の風速,乱れ強さを設定できるように,プロ グラムの一部改良を施した.本プログラムの妥当性と 解析精度,ならびに6 回線鉄塔への適用性について は,時刻歴動的応答解析 10),11)との対比から確認して いる.時刻歴動的応答解析における減衰の設定は, 山形鋼鉄塔は1次固有振動数で2%(剛性比例型),架涉線は 1 次と 3 次固有振動数で 0.4%(レーリー型)の減衰定 数を与え,また,架涉線の応答計算において,平均風速と架涉線の応答速度に依存する空力減衰力を与えることに より,空力減衰効果を考慮している.特に,№78 地点で推定されたような径間の前後で風速分布が著しく異なる風況 の場合には,同プログラムで求めた主柱材応力は,動的応答解析の値に比べて 5%程度小さくなる傾向を示し,解析 結果の補正の必要性があることが確認された. 鉄塔部材の断面力は軸力が支配的であるが,詳細な部材応力を評価するためには,部材端部の拘束条件や主柱 材の継手偏心等に伴う曲げモーメントの影響を考慮することが不可欠である.曲げモーメントの評価にあたっては,鉄 塔の骨組みや継手偏心等の構造詳細を忠実にモデル化した,梁要素を用いた立体応力解析を併用した.また,軸 力に対する部材の座屈耐力評価は,山形鋼単材の座屈耐力を精度良く表現できる,鋼構造設計規準12)の座屈耐力 式の比例限応力を0.8σyに設定した座屈耐力式13)を用いることとし,曲げモーメントの影響については部材断面の偏 心率14)を用いて軸応力に換算し軸応力の増分として評価した. 鉄塔の部材強度は,設計仕様により定めた所定の鋼材を適用することとしているが,仕様どおりの材質,サイズが 適用されているかの確認,ならびに実際の耐力評価を行う上で,倒壊鉄塔の実際の部材の強度を確認することが必 要となる.このため,№78 鉄塔と№79 鉄塔の座屈損傷が確認された主柱材のサンプリングを行い,材料強度試験を実 施した.材料試験の結果,表3 に示すとおり,いずれも仕様で定められた材質の鋼材が使用され,強度の規格値を満 足することが確認できるとともに,部材の実強度を定量的に把握し鉄塔の耐力評価に反映した. 応力解析の結果,南南東の風向時において,№78 鉄塔の第 23 パネル(最下 2 パネル目)の b 脚と c 脚の主柱材 №78 鉄塔 図16 NuWiCC による解析結果(№78 鉄塔地点) 0 50 100 150 200 0 20 40 60 地 上 高 さ (m ) 風速(m/s) 入力風 No.78鉄塔地点 0 50 100 150 200 0 0.1 0.2 地 上 高 さ (m ) 乱れ強さ - 116 -

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8 応力が,当該部材の座屈耐力とほぼ同等程度になることが明らかとなった.なお,NuWiCC による気流解析で得られ る乱れ強さは実際の乱れ強さより小さい傾向を示すことが認識されているとともに,乱れ強さは,それ自体ばらつきの 大きい統計量であることが指摘されていることを踏まえ15),乱れの強さを変化させた解析を実施した.その結果,図17 に示すように,乱れ強さを7%程度増加させることで,b 脚の発生応力は座屈耐力を上回ることがわかった.また,上で 述べたように,等価静的解析による応力が動的応答解析の値に比べて,5%程度小さく評価されていることを踏まえ, b 脚の主柱材軸力を 5%割り増しして軸力を評価した.図 18 は b 脚の主柱材軸力の高さ方向分布を示したものである が,第23 パネルの b 脚の主柱材軸力は座屈耐力とほぼ同等の値を示すことがわかった.なお,№79 鉄塔では,応力 解析の結果より部材発生応力に対して十分な余裕があることが確認された.№79 鉄塔は,線路の水平角度が大きい 箇所に適用される重角度鉄塔であり,技術基準3)で設計された重角度鉄塔は,線路の水平角度が小さい箇所に適用 される軽角度鉄塔に比べ,相対的に強度余力を有することは,これまでに認識されているとおりである. 以上の結果から,№78 鉄塔の第 23 パネル目の主柱材の座屈が先行して発生した可能性が高く,これをトリガーと なって鉄塔が倒壊に至ったものと考えられる.№78 鉄塔の倒壊に至る過程における架涉線支持点の変位に伴い, №78~№79 径間の架渉線張力が著しく増加したことにより,№79 鉄塔の倒壊がほぼ同時に発生したものと考えられる. 電線と樹木の離隔検討の結果より,№79~№80 径間の電線のアーク痕は,№78 鉄塔が倒壊し始めるのとほぼ同時に №79 鉄塔が連鎖的に倒壊し始めることにより発生する可能性があることを確認している.なお,№78 鉄塔の b 脚の主 柱材の破断,c 脚の主柱材の部分破断は,今回の解析結果,ならびに部材の変形状態,鉄塔全体の倒壊状況も含 めて考えると,鉄塔が倒壊に至る過程において,座屈箇所の曲げ変形,ねじり変形等が進展したことにより二次的に 発生したものと考えられる. 表3 倒壊鉄塔の主要部材の材料試験結果 図17 乱れの強さを変えた時の主柱材軸力変化(№78) 図 18 b 脚の主柱材軸力の高さ方向分布(№78) 1000 1500 2000 2500 3000 100% 105% 110% 第 23 パ ネ ル 主 柱 材 軸 力 [k N ] 気流解析結果に対する乱れ強さの倍率 解析軸力(b脚) 解析軸力(c脚) 座屈耐力(b脚) 座屈耐力(c脚) 降伏点 又は耐力 (N/mm2) 引張強さ (N/mm2) 伸び (%) 規格:400以上 規格:540以上 規格:13以上 最下パネル b脚 L175×15 508 727 32 b脚 L175×15 489 712 35 c脚 L175×15 408 570 24 b脚 L200×25 486 687 22 c脚 L200×25 478 688 23 サイズ No.79 最下2パネル 最下パネル No.78 鉄塔 部位 0 10 20 30 40 50 0 1000 2000 3000 高 さ [m ] 主柱材軸力[kN] 解析軸力 座屈耐力(規格値) 実座屈耐力 第23パネル位置 - 117 -

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9 6.再発防止に向けた取り組み 4 章と 5 章で述べたとおり,台風 15 号の影響により発生した鉄塔倒壊は,台風通過に伴う強風と,南南東の風上側 に存在する複雑な地形の影響による風の増速が相まって,倒壊鉄塔周辺が著しく強い増速域であったこと,加えて送 電線路が東西方向に走向しており,南南東風向の風荷重を受け易い設備条件であったこと,また,現状の技術基準 (風速40m/s)に基づく設計荷重を超える強風を倒壊鉄塔が受けたことが主な倒壊要因であると推定される. したがって,多数の既設鉄塔のうち,今回推定した倒壊原因に鑑みた,よりリスクの高いと考えられる設備を迅速に 強化するという視点で,強い勢力を維持した台風の通過に伴い強風の影響を受ける地域,かつ送電線路が東西方向 のルートで,今回の地形的な特異性を有する類型地形に立地する箇所の鉄塔を対象に,気流解析による現地風速 計算ならびに JEC-TR8)に基づく鉄塔の耐力評価を実施し,必要に応じて設備強化を行うことにより再発防止対策を 講じることとした.設備の耐力評価が必要な既設鉄塔の抽出基準は,下記①~③のとおりとした.なお, ① 台風上陸時の勢力を維持した強風を受けやすい地域 西または南の海岸線から25km の地域.台風が北上して上陸した際,台風進路の右側危険半円の領域に入る地域 で,海岸線からの距離は最大旋衡風速半径25km 程度以内に該当する地域とした. ② 台風の主風向を受けやすい線路方向 東西方向ルートの送電線(±22.5 度の範囲).関東地方では,台風期の強風の風向きは南系が卓越していることか ら,東西方向ルートとなる送電線の区間とした. ③ 風を増速させる類型地形箇所 台風の主風向方向の8km 程度以内に,上空風の増速をもたらす山地形(傾斜度 0.2 程度以上かつ前方斜面の標 高差が100~200m 程度以上)が存在し,かつ上り急斜面地(傾斜度 0.2 程度以上かつ標高差が 50m 程度以上)の 頂部付近に鉄塔が立地する箇所とした.なお,ここで定めた類型地形は,1991 年 19 号台風による被害を踏まえて定 めた特殊地形16)には該当せず,今回の検討で新たに認識された特殊地形として位置づけられる. 7.まとめ 2019 年台風 15 号は,関東地方に上陸した台風としては,中心気圧が 960hPa と低く暴風半径が小さいのが特徴で, 台風進路の右側にあたる千葉県の房総半島において,強風の発生により千葉県君津市に施設される電圧 66kV,6 回線送電線の鉄塔2 基が倒壊した. 鉄塔の現場状況調査,数値気象および気流解析シミュレーションによる現地風速推定,ならびに等価静的風荷重 による鉄塔の応力解析を通して,鉄塔が倒壊に至った原因,メカニズムを明らかにすることができたものと考えられる. 鉄塔の倒壊は,台風経路の右側の強風の発生地域に鉄塔が立地していたこと,また,鉄塔の風上側に存在する複雑 な地形の影響による風の局所的な増速に加え,南からの風向の風荷重を受け易い東西方向ルートの送電線であっ たことなどの要因が重畳して発生したものと推定された.さらに,再発防止対策として,以上の原因調査検討結果に 基づき,鉄塔位置の海岸からの距離と送電線の走向に関する条件および類似地形に基づく抽出基準を定め,耐力 評価結果に応じて鉄塔の補強対策を進めることとした. なお,現在,送電用支持物設計標準 JEC-127-197917)の改定に向けた検討が鋭意進められているところであり,今回 得られた知見を反映することにより,将来に向けた信頼性と合理性を兼ね備えた鉄塔設計に寄与できるものと期待さ れる. 謝辞 本検討は,東京電力パワーグリッド(株)の 66kV 木内線鉄塔倒壊事故調査検討委員会(委員長:技監・塩川和幸) で行ったものである.ご指導いただいた神奈川大学名誉教授 大熊武司先生,日本大学教授 加藤央之先生,千葉 大学教授 高橋徹先生に深く感謝の意を表します.また,貴重なご意見をいただいた委員の方々,ならびにご協力を いただいた関係者の方々に厚く御礼申し上げます. - 118 -

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10 参考文献 1) 気象庁,台風経路図,http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/route_map/index.html,(参照 2020.9.1) 2) 東京電力ホールディングス株式会社,プレスリリース,台風 15 号対応検証委員会報告書について,台風 15 号 対応検証委員会報告書(最終報告),2020.1.16,https://www.tepco.co.jp/press/release/2020/1526625_8710.html, (参照2020.9.1) 3) 経済産業省商務流通保安グループ,解説電気設備の技術基準,第 17 版,2017.2 4) 一財)日本規格協会,JISハンドブック,鉄鋼Ⅱ,2018.1 5) 気 象 庁 , 日 本 版 改 良 藤 田 ス ケ ー ル に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン , pdf, 2015.12 , http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/tornado1-2-2.html,(参照 2020.9.1)

6) Isaac Van der Hoven, Power spectrum of horizontal wind speed in the frequency range from 0.0007 to 900 cycles per hour, Journal of meteorology, Vol.14, pp160-164, 1957.4

7) 一社)日本建築学会,建築物荷重指針・同解説(2015),2015.2 8) 一社)電気学会,電気規格調査会,送電用鉄塔設計標準 JEC-TR-00007-2015,2015.7 9) 一財)電力中央研究所,送電用鉄塔の簡易発生軸力評価プログラム TC load Ver.2 ユーザーズガイド,2014.10 10) 安井八紀,丸川比佐夫,百村幸男,岡村俊良,大熊武司,送電線鉄塔の時系列応答解析法,一社)日本鉄塔 協会,鐵塔,第95 号,pp.1-13,1996.10 11) 安井八紀,丸川比佐夫,大熊武司,送電用鉄塔の風応答解析,日本風工学会誌,第 76 号,pp.3-14,1998.7 12) 一社)日本建築学会,鋼構造設計規準-許容応力度設計法-,2005.9 13) 福岡崇,本郷榮次郎,三上康朗,深沢隆,松尾康博,新井聡,偏心接合される送電用山形鋼鉄塔柱材の座屈 耐力に関する研究,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),pp.509-510,2001.9 14) 佐々木賢次,川北章宗,佐藤亘宏,松尾康博,大型圧延山形鋼送電線鉄塔の耐力試験,一社)日本鉄塔協会, 鐵塔,第81 号,pp.6-26,1991.10 15) 佐々木亮治,大竹和夫,後藤暁,松井正宏,松山哲雄,宮下康一,風の観測結果に基づく乱れの強さと乱れス ケールの鉛直分布,日本建築学会技術報告集,第21 巻,第 48 号,pp.477-480,2015.6 16) 一社)日本電気協会,架空送電規程,JEAC6001-2018,2019.1 17) 一社)電気学会,電気規格調査会,送電用支持物設計標準 JEC-127-1979,1979.11 - 119 -

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