1) 高橋は、(1)の例文を挙げ、「むすびつけというのは、動詞句と、名詞のあとにつづくものをむすびつけ るはたらきをするということである。ここから、接続助詞のようなはたらきをする補助的な単語への みちがひらかれる。」(p.402)と述べている。 ─研究論文─
「原因」と「結果」のアンバランス
東條 和子 要 旨 ともに実質語であり、対照的な意味を持つ対義語は、意味は相反しながらも、その文法 的性質は相似しているものと予測される。「原因」と「結果」もそうした対義語の一つで あると考えられる。しかしながら、用例を調べていくうちその出現形態に大きな差異があ ることがわかった。さらに詳しく調べるために、国立国語研究所『現代日本語書き言葉均 衡コーパス』をデータとし、「原因」と「結果」の語彙的、文法的様態を比較するために、 ①「原因」「結果」の出現形態、②「原因」「結果」の統語機能、③「原因」「結果」を含む 合成語について調査・考察を行った。「原因」と「結果」の振る舞いの相違は予想以上で あった。その振る舞いの相違は、「原因」がある一点に遡行して因果関係の原因を述べる ものであるのに対して、「結果」はその結果に至る出来事を順行的に語っていくものであ ることに起因していると考えられる。 【キーワード】 単純語、格成分、主題、倒置指定、属性叙述、事象叙述 1.はじめに 「結果」には(1)のような接続助詞的用法(高橋 1979)1)があるが、「原因」には見あたら ない。 (1) 私は、おくさんからそういうふうにとりあつかわれた結果、だんだん快活になって きたのです。 他にも、「原因」と「結果」のアンバランスを示す例として、(2)と(3)、(4)と(5)を比 べると、「原因」に関しては、「原因は何?」は自然であるが、「原因はどう?」は不自然 であり、一方、「結果」に関しては、「結果は何?」は不自然であるが、「結果はどう?」 は自然であることが挙げられる。 (2)火事の原因は何? (3)*調査の結果は何? (4)*原因はどう? (5)結果はどう? このように「原因」と「結果」の統語的、文法的な違いは明らかである。「原因」と「結果」という一組の名詞について統語的な角度から使用の実態を調べ、その差異を明らかに することを本稿の目的とする。 2.「原因」と「結果」の使用の実態・分析・考察 主に統語的性質に関わる①∼③の各項目について使用の実態を調査する2)。 ①「原因」 「結果」の出現形態 ②「原因」 「結果」の統語機能 ③「原因」 「結果」を後項とする合成語 資料として用いたのは国立国語研究所の『現代日本書き言葉均衡コーパス』3)の全デー タである。データの総数は「原因」5632、「結果」13271 である。 2.1 「原因」と「結果」の出現形態 【表1】 【図1】は「原因」と「結果」の出現形態を調査したものである。 【表 1】 「原因」「結果」の出現形態 【図 1】 「原因」「結果」の出現形態 原因 結果 単純語・単独 1512 1420 単純語・被修飾語 3190 9300 合成語・前項 398 739 合成語・中項 138 179 合成語・後項 394 1633 合 計 5632 13271 【表1】【図1】の調査結果より、「原因」の単独の相対的な多さ、被修飾、合成語後項の 相対的少なさは、「原因」の統語的自立度の相対的な高さを表していると言える。一方、「結 果」の単独の相対的な少なさ、被修飾、合成語後項の多さは、「結果」の統語的自立度の 相対的な低さを表していると言える。 本稿は以下単純語を取り扱う。単純語には単独と被修飾を含める。 2.2 「原因」 「結果」の統語機能 「原因」 「結果」の統語機能を、以下の7種類に分類して比較・考察する。 ① 格成分: ガ格、ヲ格、二格、デ格、ト格、カラ格、その他(『2.2.1. 格成分としての「原 因」「結果」』参照) ②連体成分:「─の N」 例:(6) 事故再発防止策と申しますのは原因の究明が先決であり、それに応じて適 2) 語彙的意味に関わる ④「原因」 「結果」と連体部の意味関係、 ⑤「原因」 「結果」と結合する述語の意味範疇、 は今後の課題としたいと思う。 3) 例文の最後の( )はこの資料内のタイトルである。 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 原因 結果 単 純 語 ・ 単 独 合 成 語 ・ 前 項 合 成 語 ・ 中 項 合 成 語 ・ 後 項 合計 単純語 ・ 被修飾語
切な対策をとるというのが基本ではございますけれども、…(国会会議録) (7) 昭和五十年度通商産業省の決算につきまして検査いたしました結果の概要 を説明申し上げます。(国会会議録) ③複合辞接続4): 連語的な付属辞が接続するもの、「として」「について」「によって」など5)。 例:(8) 建材や内装材から拡散される化学物質が原因として有力視されています。(快 適さのおはなし) (9) 特に国民の関心の深い安全性については、原子力安全委員会が、各行政庁 の行った安全審査の結果について審議を行っている。(科学技術白書) ④述語:コピュラに前節するもの。連用節、連体節内の述語も含む。 例:(10) 現場同士の小さな間違いがほとんどの原因であることがわかる。(走り終 わって考える) ⑤主題:「は」「って」「とは」が後接して主題化しているもの。 例:(11) 雇用主がこれらの労働者を雇用し続ける必要性がないにもかかわらず解雇 しない場面をみればわかると思います。その原因とは、正義の生得的感覚 に由来していると思います。(日本における正義:国内外における諸問題) ⑥接続(助)詞的:本稿の最初に紹介した接続助詞的用法と以下の接続詞的用法。 例:(12) 帰途は、各々、勝手に工夫せよというのだ。結果、途上で餓死する者が 続出した。(陸奥甲冑記) ⑦その他:符号等が後接するもの、見出し語等などいずれにも分類されないもの。 例:(13) 送信メールが相手に届かないおもな原因 1. 受信先のアドレス相違 2. 添 付ファイルの…(Yahoo! 知恵袋) 結果は【表2】、【図2】の通りである。 【表 2】 「原因」「結果」の統語機能6) 【図 2】 「原因」「結果」の統語機能 (%) 原 因 結 果 ①格成分 2388(50.8%) 3646(34.0%) ②連体成分 331 (7.0%) 242 (2.3%) ③複合辞接続 343 (7.3%) 1022 (9.5%) ④述語 707(15.0%) 615 (5.7%) ⑤主題 814(17.3%) 707 (6.6%) ⑥接続助詞的 0 (0%) 4478(41.8%) ⑦その他 119 (2.5%) 10 (0.1%) 4) 格助詞と言い換えができるものも含めた。また、以下のような複合辞で主題を表す形式、「残念ながら、 ノリの不作の原因というのは、やはりいろいろな複合的なものがあろうかと思います。(国会会議録)」 も複合辞接続に含めた。 5) 新屋(2008)『「状態」に「について」 「に応じて」 「によって」 「の中に」 「の下に」のような連語的な付属 辞が接続するもの。これらを「複合辞接続」とする。』(p.62)による。 6) 【表2】の%の数字は、①∼⑦の項目の合計数に対する割合である。グラフもその数字を使用。 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 原因 結果 ①格成分 ②連体成分 ③複合辞 ④述語 ⑤主題 ︵助︶ ⑥接続 詞的 ⑦そ の 他
7) グラフの数字は、格成分(「原因」2388 例、「結果」3646 例)に占める割合(%)である。 8) ヘ、マデ、ヨリの合計出現数。 9) 措定文、指定文、倒置指定文を取り上げる。この他にも色々あるが、本稿では関係してこないので、 この三つのみを取り上げることとする。 「原因」のうち、半数以上が格成分である。連体成分、複合辞、述語、主題はどちらも 多くはないが、連体成分、述語、主題については「原因」が「結果」の3倍程になってい る。「結果」は接続(助)詞的用法が突出して多いが、「原因」にはこの用法が見られない。 以下、格成分、述語、主題、接続(助)詞的用法について調査・考察していく。 2.2.1 格成分としての「原因」 「結果」 【表3】 【図3】は「原因」 「結果」の格の内訳である。 【表 3】 格の内訳 【図 3】 格の内訳7) 原 因 結 果 ガ 580(24.3%) 875(24.0%) ヲ 425(17.8%) 1319(36.2%) ニ 423(17.7%) 787(21.6%) デ 303(12.7%) 83 (2.3%) ト 634(26.6%) 434(11.9%) カラ 15 (0.6%) 133 (3.6%) その他8) 8 (0.3%) 15 (0.4%) 「原因」では「結果」と比べてト格とデ格の割合が多く、「結果」では(14)のようなヲ 格の多さが目立っている。「原因」のガ格には(15)のように存在を表すものが多く、ガ格 の 37.9%(220 例)を占めている。「結果」にデ格が少ないのは、デ格が原因・理由を表す(16) のような用法がないためである。 (14) 学校でイベントについてのアンケートをとって結果を集計したいと思います。 (Yahoo! 知恵袋) (15)プリンタの機種、バージョンにも原因があるのかもしれません。(Yahoo! 知恵袋) (16) 上空寒気の流入による大気の成層不安定が原因で、北海道を除いた各地で、雷 が発生し、降ひょうにより農作物などに大きな被害があった。(防災白書) 2.2.2. 「原因」 「結果」を述部とする文 【表4】【図4】は「原因」「結果」を述語とする文9)の主部に、ガ格が出現するか否かを 調査したものである。 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 原因 結果 ガ格 ヲ格 ニ格 デ格 ト格 カラ格 その他
10) 主題「X は」は(19)の 1 例のみである。残り103 例は「X が」も「Xは」も文中に出現していないものである。 11) 西山は、倒置指定文の例として、「花子殺しの犯人はあの男だ。」「洋子の好きな作曲家はバッハとブラ ームスだ。」などを挙げ、また、指定文の例として、「あの男が花子殺しの犯人だ。」 「バッハとブラー ムスが洋子の一番好きな作曲家だ。」などを挙げている。また、措定文の例文として「五嶋みどりはヴ ァイオリニストだ。」 「モーツァルトは天才だ。」 「鯨は哺乳動物だ。」などを挙げている。 12) 通常、指定文と措定文は、名詞文に関して言われることである。しかしながら、益岡(2000)は、「指 定の表現は、属性叙述・事象叙述という枠には収まらない独立の存在である。本稿では仮に『指定叙述』 と名づけて、属性叙述・事象叙述とは区別することにする。」(p.49)と述べている。また、新屋(1994)は、 「コピュラ文の分類はコピュラ文のみでなく平叙文一般に拡張できる」と指摘している。これらを踏ま え、本稿では、指定文と措定文に関して、名詞文に限定せず、動詞文、形容詞文も含めた広義指定文、 広義措定文に分けることとする。 【表4】 (「 Xが」をガ格とする)「Xが」の出現数 【図4】 「Xが」の出現数 原因 結果 X が 603 16 (X は) 10410) 599 西山(2003)は、「倒置指定文11)『A は B だ』は、主語 A は、[…x…]という変項を含む 名詞句であり、B によって指定(specify)するものである。」(p.132,138)とし、(17)(18)の ような指定文に関しては、「倒置指定文『A は B だ』はまったく意味を変えずに指定文『B が A だ』によって言い替えることができる。」(p.134)としている。また、「措定文『A は B だ』は、『A で指示される指示対象について、B で表示する属性を帰す。』」(p.123)として いる。ガ格が文中に出現している倒置指定文は「原因」に多く、「結果」に少ない。一方、 ガ格が明示されていない(19)(20)のような広義の措定文は、「結果」に多く、「原因」に 少ない。 (17) 分析の頭当たりでいえば、カナダが同等、アメリカはひょっとしたら日本より も少ないかもしれないというのが分析の結果です。(国会会議録) 〔指定文〕 (18) 早めに手術し元気であったのに、抜糸後、容態が急変した。やはり体力の衰え が原因であったらしい。(哀惜一〇〇〇人の青春)〔指定文〕 (19) エドガー・ケイシーのリーディングは、幾度となく、「心は永遠に形成者である」 と述べています。霊は原因であり、心は形成する者である。(音楽療法)〔広義の 措定文〕 (20) 庶民の「自己実現」が可能になった現代文明は、日本だけの独占ではない。先 進諸国の頭脳の国際化の結果である。(いのちの素顔) 〔広義の措定文〕 2.2.3 主題としての「原因」 「結果」 「原因」の主題としての用法が 814 例(17.3%)、「結果」は 707 例(6.6%)である。 【表5】 【図5】は主題に続く述部を4項目12)に分類し、出現数を調査したものである。 800 600 400 200 0 原因 結果 Xが (Xは)
【表 5】 「原因」「結果」を主題とする述部の分類 【図 5】 「原因」「結果」を主題とする述部の分類 主題 述部 原因 結果 倒置指定文の述語 506 182 属性叙述 77 169 事象叙述 165 304 その他 66 52 「原因は」に続く述部は、(21) のような倒置指定文13)の述語である場合が多いが、(22) のような事象叙述文の述語としての用法も一定程度見られる。一方、「結果は」に続く述 部は、倒置指定文の述語としての用法が少なく、事象叙述文と属性叙述文の述語としての 用法が相対的に多い。 (21) 最近は、若い人にもドライアイ症状が増え、予防のため、目薬を持ち歩いてい る人も少なくない。原因は、もちろん目の酷使である。(疲れ知らずの簡単な方法) (22) 一応子宮がん検査しようかといわれましたが半年前に検査済みで陰性でしたの で断りました。結局ただれの原因は聞かなかったのですがクラミジアの検査だ けを受け1週間後に結果を聞きに行きます。(Yahoo! 知恵袋) 「原因は」に続く属性叙述は、77 例中 75 例が(23)のような「明確」「さまざま」「単純/ 複雑」を問題とし、外在的性質を表している非典型的な措定文であり、内在的性質を表し ているものではない。意味的なバリエーションも少なく、「結果は」の措定文にない特徴 と言える。 (23) 交渉の依頼主と交渉代理人との心理的距離を乖離させる原因はさまざまである。 (交渉力) 「原因は」に続く事象叙述は、(24)のように格成分に置き換えられるものが多い。一方、 「結果は」に続く事象叙述では、(25)のように「結果は」が述部の枠組み14)を表すものが 多く見られる15)。また、「結果は」の後続部にガ格が出現する文においても、(26)a のよう に非典型的な二重主語文の主題になっているものが多く、このような「結果は」は、述部 の枠組みを表している。 (24) プレーリードッグ自身、野兎病やペストや猿痘などの原因は本来持っていない 13) 述部が「∼にある」 「∼による」などは「∼である」に置き換えても意味は大きく変わらないので、倒 置指定に含めた。 14) 高橋(1979)は、「動詞句の名詞へのかかわり」のタイプの中の「内容づけのかかわり」をするわくぐみ 的な被修飾名詞として「結果」を挙げている。(p.401)連体修飾ではないが、高橋の「被修飾名詞が形 式的な側面を表し、動詞句が現実反映の内容を示している。」(p.371)に依り、この場合の「枠組み」も、 主題である「結果は」が形式的な側面を表し、述部が現実反映の内容を表すものとする。 15) 52 例見られた。 600 400 200 0 原因 結果 倒置指定 文の述語 属性叙述 事象叙述 その他
のに、感染し易いという理由だけで輸入禁止になっています。(Yahoo! 知恵袋) (25) 運動療法は前述の計算式にのっとって最適心拍数をはじき出し、徹底してそれ に従うように指示しました。結果は約二カ月で二〇・四キロの減量に成功しま した。(脳内革命) (26) a はたして総選挙の結果は、予想通り、鳩山率いる自由党が第一党となった。(政 治家追放) さらにこの用法は、(26)b のように、接続助詞的用法に書き換えても不自然ではない。 (26) b はたして総選挙の結果、予想通り、鳩山率いる自由党が第一党となった。 これは、「結果は」が接続助詞的用法に繋がっていくことを表しているのではないかと 思われる。それに対して、「原因は」にはこのような用法は見られない。 次節で、「原因は」と「結果は」の後続部にガ格が出現する文についてさらに考察を行った。 2.2.4 二重主語文 野田(1996)は、二重主語文を「∼は∼が…」構文とし、構造の面から以下の6類に分 類し、さらに、6番の破格の主題を3類に分けている。 1.「この本は父が買ってくれた」型 ─格成分・副詞的成分が主題─ 2.「象は鼻が長い」型 ─格成分の連体修飾部が主題─ 3.「かき料理は広島が本場だ」型 ─述語名詞の連体修飾部が主題 4.「辞書は新しいのがいい」型 ─被修飾名詞が主題 5.「この問題はとくのがむずかしい」型 ─従属節の中の成分が主題 6.「このにおいはガスが漏れてるよ」型 ─破格の主題 ① 過剰型: 不必要なものが過剰に加わっているために、整った格関係にもどせなくな ったタイプ ② 不足型: 必要なものが脱落し、不足しているために、整った格関係にもどせなくな ったタイプ ③ 漫然型: 文のはじめに、文全体の内容を示す漫然とした主題をたてたために、後ろ の部分との関係が整った格関係におさまらなくなったタイプ 野田は、1∼5に関して、「5つは、どれも、格関係の中の一部分が主題になったものだ。」 (p.75)と述べている。 「原因」を主題とする二重主語文は 33 例と少ないが、(27) (28)のような野田による分 類のどこにもぴったりと納まらない例と、(29)(30)(31)のような野田の6に分類される 破格の例が見られた。 (27) 急性胃炎の原因はストレスが多い。(Yahoo! 知恵袋) (28) 感度が鈍かった原因は、エイズがマスメディアのまじめな関心事になりにくか ったという事情がある。(科学事件) (29) 原因は、自分が結婚について踏み切れなくて彼女を待たせていたことが原因で した。(Yahoo! 知恵袋)
(30) 逆ロスの原因は、ただ単純に仕入れ処理が終わってないだけです。(Yahoo! 知 恵袋) (31) この主たる原因は、期間が長くなってまいりますにつれて年金額が平均的に上 がってまいります。(国会会議録) (27)において、主題である「原因」とガ格である「ストレス」は、抽象と具体の意味 関係であり、(28)においても、主題である「原因」と連体修飾された「事情」は、抽象 と具体の意味関係であると言える。また、(29)は破格の中の過剰型、(30)は不足型、(31) は漫然型に分けられると言える。「原因」を主題とする二重主語文は 32 例と少ないが、そ の中で(27) (28)のような抽象と具体の関係にあるもが 11 例見られた16)。 一方、「結果」を主題とする二重主語文としては、(32)のような例が多く見られる。 (32) しかしその結果は、却って非常に幸福な運命が、彼を待ち受けていたのである。 (時代小説大全集) (32)の文は、主題を外した文「却って非常に幸福な運命が、彼を待ち受けていたので ある。」に、「結果」に格助詞をつけて収めることができない。「結果は」は、6の破格の 主題の漫然型に近いと言える。しかし、この主題は、漫然と立てたというわけではなく、 後続する命題の枠組みを提示しているものであると言える。「結果」を主題とする二重主 語文は 68 例見られたが、(32)のような枠組みを提示するものが 53 例見られた。また、残 りの 15 例中17)、「原因」で最も多かった主題とガ格主語の関係が抽象と具体の関係に当た るものは一例も見られなかった。 2.2.5 「原因」 「結果」の接続(助)詞的用法 2.2.3 で、「結果は」が接続(助)詞的用法に繋がっていく可能性について触れた。この接 続(助)詞用法に類別されるものが「原因」では見当たらず18)、「結果」では 4478 例19)あ った。その中では、(33)のような接続助詞的用法が 2108 例、(34)のように、単独か、指 示語が前接する接続詞的用法が 2370 例である。 (33) 家庭にもオフィスにも IT 関連機器が普及し、手に入れられる情報量が増えた 結果、使用される紙の量も増え、デスクのまわりはいつも資料だらけです。(ス ピード整理術) (34) 彼はこれらの磁器にブリュッセルの銀細工師の手で、贅をつくした細工を施さ せていた。その結果、これまでハプスブルク家には見られなかった珍しい食器 16) 残り 21 例中、破格の漫然型が 10 例、過剰型が7例、不足型が2例、野田に分類のどれにも当てはまら ないものが2例見られた。 17) 格成分になるもの2例、格成分の連体修飾部3例、野田に分類のどこにも当てはまらないもの8例、「∼ は…は─」2例見られた。 18)「原因」に読点が後接する例は 13 例見られたものの、以下の例文のように読点以下で言い換えをしてい る9例を含め、接続(助)詞的用法ではない。 「敵は泥酔の原因、すなわち抑えのきかない飲酒欲求というやつだ。(捨てれば開ける)」 19) その中で「結果」に読点が後接するものは 3772 例である。
や卓上調度品、燭台、水差しなどが完成した。(ハプスブルク家の食卓) 接続(助)詞的用法の「結果」の後件には、(35)のような「∼となる」 「∼になる」 「∼に 達する」といった変化やプロセスを表す表現が多く見られる。このことから、接続(助) 詞的用法では、因果関係20)の中でも変化やプロセスをより意識した表現が多いと言える。 (35) 遺伝子組み換え技術では、ベクターにマーカーとして、抗生物質耐性遺伝子を 組み込んでおくことが多い。この結果、人間の環境中では、抗生物質がきかな い物質が蔓延することとなる。(立花隆の無知蒙昧を衝く) 3.「原因」 「結果」を後項とする合成語 本研究は単純語を対象に調査をしてきたが、最後に合成語に関しての調査結果をまとめ ておく。 【表 6】 「原因」 「結果」が 【図 6】 「原因」 「結果」が 前項・中項・後項である合成語の個数 前項・中項・後項である合成語の個数 合成語 原因 結果 前項 398 739 中項 138 179 後項 394 1633 合計 930 2551 表から見える特徴的なこととして、「原因」は前項・後項の出現数にあまり違いがないが、 「結果」は後項が前項の2倍以上になっていることが挙げられる。 3.1.「原因」を後項とする合成語 「原因」を後項とする合成語は以下の3種類に分類できる。 ① 前項が後項の性質を示すもの:「根本原因」 「直接的原因」 「最大原因」など、異なり 語数で 39 個、延べ語数で 124 個見られた。 ② 前項が後項の内容を示すもの:「供託原因」「法律原因」異なり語数で2個、延べ語数 で2個見られた。 ③ 前項が「原因」に対する結果という意味関係を示すもの:「事故原因」「発生原因」「死 20) 本稿における「因果関係」は、池上(2010)における「①契機的な因果関係」、「②必然的な因果関係」の両 方を含む。「変化やプロセスを意識した表現」とは、池上の「①契機的な因果関係」に分類され、「…様々 なプロセスの最後としてこれらのことがあり、その段階を経て最終的に後件の事態に至ったことを表し ている」(p.113)に依るものとする。また、池上も指摘しているが、次のような例は、前後件の時間的 順序が逆になっているように見えるが、「∼がわかった」が省略されている形と考えられ、前件と後件 の時間的順序は逆にはなっていない。「…救急車で市立病院にかつぎ込まれたトミさんは、緊急手術、 そのまま入院となってしまいました。診断の結果は、左大腿骨骨折で全治一か月。(何百のありがとう 何千のありがとう)」 2000 1000 0 原因 結果 前項 中項 後項
亡原因」など、異なり語数で 57 個、延べ語数で 268 個見られた。 以下は、上記の結果を表とグラフにしたものである。 【表 7】 「原因」を後項とする合成語 【図 7】 「原因」を後項とする合成語の の前項と後項の意味関係 前項と後項の意味関係 異なり語数 延べ語数 性質 39 124 内容 2 2 結果 57 268 その他 0 0 合計 98 394 「原因」を後項とし、前項と結果─原因という意味関係にある合成語が、延べ語数全体 の 67.9%を占める。一方、前項が「原因」の性質を表す合成語も一定程度見られる。下表に、 前項と結果─原因という意味関係を表す合成語の上位 10 個を挙げた。この 10 個を観察す ると、前項が事故・事件を表すものが目立っている。10 個の中で「事故・発生・死亡・ 出火・火災・破産・発火」の7個がそれに当たる。結果─原因という意味関係にあるもの 全体でも、事故・事件類は異なり語数で 26 個(45.6%)、延べ語数で 195 個(73.3%)にのぼ る。 【表 8】 「原因」を後項とし、前項が結果を表す上位 10 個 合成語 事故 発生 死亡 離婚 出火 火災 破産 発火 終了 取消 合計 個数 66 46 17 14 14 10 8 7 6 6 194 以上の結果をまとめると、「原因」を後項とする合成語は、前項と結果─原因という意 味関係を表すものが全体の3分の2、その中でも事故・事件を示すものが目立っている。 また、性質を表すものが全体の3分の1となっている。 3.2 「結果」を後項とする合成語 「結果」を後項とする合成語は以下の3種類に分類できる。 ① 前項が後項の性質を示すもの:「最終結果」 「詳細結果」 「中間結果」など、異なり語 数で 21 個、延べ語数で 28 個見られた。 ② 前項が後項の内容を示すもの:「発ガン結果」 「合格結果」 「致傷結果」など、異なり 語数で 10 個、延べ語数で 13 個見られた。 ③ 前項が「結果」と相対関係にある行為を示すもの:「調査結果」「評価結果」「分析結果」 など、異なり語数で 144 個、延べ語数で 1590 個見られた。 300 200 100 0 異なり語数 延べ語数 性質 内容 結果 その他
以下は、上記の結果を表とグラフにしたものである。 【表 9】「結果」を後項とする合成語 【図 8】「結果」を後項とする合成語の の前項と後項の意味関係 前項と後項の意味関係 異なり語数 延べ語数 性質 21 28 内容 10 13 結果 144 1590 その他 1 2 合計 176 1633 前項が「結果」と相対関係、つまり結果を導き出すに至った行為を表す語が圧倒的に多 く、延べ語数で全体の 97.4%を占める。中でも「調査結果」の使用頻度が 511 個と突出し て多く、「結果」を後項とする合成語全体の 31.3%にのぼる。また、下表に挙げた、全体 の異なり語数 176 個の内の上位 10 個で、全体の延べ語数の 64.0%を占める。 【表 10】 「結果」を後項とし、前項が結果と相対関係にある行為を表す上位 10 個 合成語 調査 評価 分析 検査 実験 測定 検討 研究 検索 診断 合計 個数 511 72 65 65 64 63 59 41 41 36 1017 以上の結果をまとめると、「結果」が後項である合成語は、特定の語の使用頻度が高く、 前項の部分は「結果」に対して、結果を導き出すに至った行為という意味関係を表す。 4.まとめ 以上、「原因」「結果」について、文法的、意味的性質を調査した。【表 11】は 2.1. から 3.2. の結果をまとめたものである。 相対的に「原因」に単独形態が多く、「結果」に被修飾語、合成語が多いという事実は、 「原因」の統語的自立度が相対的に高く、「結果」の統語的自立度が相対的に低いことを示 している。「原因」には格成分として機能するものが多く、その中でもガ格、ト格が多い。 一方「結果」にも格成分として機能するものが一定程度あり、ガ格、ヲ格が多い。このこ とは「原因」「結果」とも名詞的な性質を保持していることを示している。「原因」には指 定文の述語、倒置指定文の主題として、命題の中の格成分になっている場合が多く見られ る。「結果」を主題とする述部には、事象叙述文、属性叙述文の述語としての用法が相対 的に多い。また、「結果」を主題とする二重主語文において「結果は」は述部の枠組みを 表している。この関係は、「結果」に接続(助)詞的用法が突出して多いという事実とも関 係していると思われる。「結果」は、原因とその結果をつなぐことと、結果を導くに至る 2000 1500 1000 500 0 異なり語数 延べ語数 性質 内容 相対 その他
行為という二つの意味範疇を持ち、これらは連続的ではあるものの、後者の用例の方が多 く見られた。以上の相違は、「原因」がある一点に遡行して因果関係の原因を述べるもの であるのに対して、「結果」はその結果に至る出来事を順行的に語っていくものであるこ とに起因していると考えられる。 【表 11】 「原因」 「結果」の出現形態・統語機能・合成語まとめ 調査項目 「原因」 「結果」 比率の多寡 ①出現形態 単独 多い 少ない 原因 > 結果 被修飾・合成語後項 少ない 多い 原因 < 結果 ②統語機能 格成分 全体の 50%強。ガ格 はもちろん比較的ト 格、デ格が多い。 全体の 30%強。ガ 格はもちろんヲ格 の多さが目立つ。 原因 > 結果 連体成分・主題・述語 原因 > 結果 文中のおけるガ格の 出現 指定文が多い。 広義の措定文が多 い。 原因 > 結果 「原因は」「結果は」に 続く述語 指 定 文 の 述 語 が 多 い。属性叙述ではバ リエーションが限ら れている。 事象叙述と属性叙 述 が 多 い。「 結 果 は」が述部の枠組 みを示す 原因 > 結果 二重主語文 「原因は」とガ格が 抽象─具体の意味関 係を示す。 破格の漫然型に近 い。「結果は」が述 部の枠組みを示す。 原因 ≒ 結果 接続(助)詞用法 見られない 圧倒的に多い 原因 < 結果 ③合成語 結果―原因という意 味関係を示す。特に 事故・事件を表すも のが多い。 結果を導き出すに 至った行為と結果 という意味関係を 示す。特定の前項 に偏っている。 原因 < 結果 5.終わりに 通常、対照的な意味を持つ対義語は、実質的な意味は相反しながらも、その文法的性質 は相似しているものと予測される。しかし、調査の結果、「原因」と「結果」の振る舞い は予想以上の相違を示すものであった。このような相違は、英語など他の言語でも共通す るものであろうか。調査、考察を今後の課題としていきたい。
参考資料 『現代日本語書き言葉均衡コーパス』国立国語研究所(2009) 参考文献 池上素子(2010) 「因果関係を表す「結果」の用法」 『日本語教育』144 日本語教育学会 大塚望(2004) 「「∼がある」文の多機能性」 『言語研究』125 日本言語学会 奥津敬一郎(1974) 『生成日本語文法論』大修館書店 大島資生(2010) 『日本語連体修飾節構造の研究』ひつじ研究叢書 78 ひつじ書房 影山太郎(1993) 『文法と語形成』ひつじ研究叢書 24 ひつじ書房 金水敏(2006) 『日本語存在表現の歴史』ひつじ書房 佐野裕子(2008) 「「場合」に関する考察 ─接続助辞用法を中心に─」 『日本語文法』8-2 新屋映子(1994)「意味構造から見た平叙文分類の試み」『日本語学科 年報 15』東京外国語 大学 新屋映子(2008) 「総合雑誌に見る名詞「状態」の用法─約 100 年を隔てた 2 誌を比較して─」 『日本語科学』24、55-76 新屋映子(2010) 「類義語「状況」 「状態」の統語的分析」 『計量国語学』計量国語学会 高橋太郎(1979)「連体動詞句と名詞とのかかわりあいについての序説」『言語の研究』75-172 むぎ書房 寺村秀夫(1982) 『日本語の意味とシンタクスⅠ』くろしお出版 寺村秀夫(1993) 「連体修飾のシンタクスと意味」『寺村秀夫論文集Ⅰ ─日本文法編─』く ろしお出版 西山佑司 (2003) 第 2 章「指示的名詞句と非指示的名詞句」第 6 章「カキ料理構文と非飽 和名詞」 『日本語名詞句の意味論と語用論』ひつじ書房 西山佑司(2010) 「名詞句研究の現状と展望─名詞句の文法」 『日本語学』29-11 野田尚史(1997) 『「は」と「が」』新日本語文法選書 1 くろしお出版 益岡隆志(2000) 『日本語文法の諸相』くろしお出版 付記 本稿は 2012 年 8 月に行われた日本語研究国際学会(主催:CAJLE(Canadian Association for Japanese Language Education)、会場:カナダ・バンフパークロッジリゾートホテル &カンファレンスセンター)において口頭発表したものに基づいている。