中学校美術科におけるプロダクトデザインの鑑賞 ―題材開発と実践を中心として―
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(3) 243. 群馬大学教育実践研究 第 26 号 243 ~ 250 頁 20 0 9. 中学校美術科におけるプロダクトデザインの鑑賞 ―題材開発と実践を中心として― 早 川 裕 彬 ・ 齋 江 貴 志 群馬大学大学院教育学研究科美術教育講座. The Appreciation of Product Design in Art Education in Junior High School : About the Development of the Subject and the Appropriate Use Hiroaki HAYAKAWA and Takashi SAIE Department of Art,Faculty of Education,Gunma University デザイン,プロダクトデザイン,鑑賞教育,中学校美術科教育 Design,Product Design, Education of Appreciation, Art Education in Junior High School (2008 年 10 月 31 日受理). 1.はじめに. 賞の対象としたらよいかということも問題となる。絵 画や彫刻のように名作と呼ばれるものが少ない上、実. 中学校美術科の指導領域は絵画、彫刻、工芸、デザ. 践例も少ない。授業の展開や目標に応じて鑑賞の対象. インの表現及び鑑賞からなり、これらの各分野を偏り. も変わるため、鑑賞物をある特定の一つに絞り込んで. なく扱うこととなっている。しかし、実際の教育現場. いく難しさがある。. では偏りがないとは言い難く、中学校三年間を通じて. このような背景から扱われることの少ないプロダク. 一度も扱われない分野もある。中でもデザイン分野の. トデザインだが、生活と美術の関わりの理解や美術を. 鑑賞題材、とりわけプロダクトデザインについてはそ. 通じた思考力の育成に、欠かすことのできない分野で. の傾向が強いといえる。. あると考える。そこで本研究では、何を鑑賞の対象と. その背景としてプロダクトデザイン特有の扱いにく. したらよいかという「もの選び」に焦点をあてながら、. さがあると考える。プロダクトデザインは機能や造形. 実践を交えて「有用性の高い鑑賞物」及び「鑑賞物と. だけでなく、生産性や価格、流行など様々な事柄を含. しての条件」を考えていこうと思う。. んだデザインであるため、活動をどのように展開させ、 まとめるかが難しい。造形の美しさや機能性だけを取. 2.研究の方法. り上げてもその本質を学習したことにはならないため、 教師は複数の事柄を総合的に扱いながら授業を考える. 本研究では、まず先行実践例やアンケートを参考と. ことになる。また、実践例が少ないという問題がある。. しながら、鑑賞物としての条件を考えていく。そして. プロダクトデザインを授業で取り上げてみたいという. その条件に該当する鑑賞物を選出し、実践をおこなっ. 教員は多いようだが、授業の参考となる題材例が少な. ていくことを通じて、その鑑賞物の有用性や設定した. いため実践されず、そのため実践例が増えないという. 条件について検討していく。. 悪循環となっている。さらにこれに関連して、何を鑑. ここで、 「鑑賞物としての条件」と、その条件から導.
(4) 244. 早川裕彬・齋江貴志. かれる「鑑賞物」との関係だが、この関係は必ずしも 一方通行的な関係ではない。条件から導かれた鑑賞物. ⑥ 学習のまとめとして、デザイナーへの要望をま とめる. はあくまでも仮定であって、実践を経ることで条件そ. 自ら選んで購入したシャープペンシルを、機能性や. のものも多分に変わってくるだろう。本研究では、条. デザインなどの購入理由(鑑賞の観点)を考えさせチャ. 件と実践は相互に関係し合い、 「実践を経て条件が変わ. ートにまとめる活動や、異なる美的価値基準のよさに. り、鑑賞物が変わる」というスパイラルの関係にある. 気付かせるために級友のシャープペンシルを価値付け. と考えている。また、それらは授業展開や目標によっ. し合う活動が題材の特徴といえる。. ても変わるため、画一的に表し難い部分もある。その. 宇賀神氏はシャープペンシルを鑑賞物として選んだ. ため、研究初期段階では条件から鑑賞物を導くという. 理由について次のように述べている。. 手段をとるが、その後、実践と考察の反復によって、. 「かつては、学校での学習においてシャープペンシル. 鑑賞物としての条件や有用性を精査していく必要があ. を使用させない指導があったが、現在ではほとんどの. る。. 学習場面で生徒はシャープペンシルを使ってい る。 ・・・このように、生徒にとって最も身近なデザイ. 3. 先行実践例及びアンケートから導かれる鑑賞物及び. ンされたものであるシャープペンシルを鑑賞の対象と し、多様な選択規準を認め合うとともに、洗練された. その条件. デザインを選び抜く、多様で自分らしい見方を身に付 3.1 先行実践例について. けさせたいと考えた。 」2). 鑑賞の対象を考えるにあたって、まず過去におこな. 鑑賞の導入段階では、まず何より鑑賞物に関心を持. われた2つの実践例を振り返りながら、どのようなも. たせることが大切となるが、身近なシャープペンシル. のが鑑賞物として取り上げられ、題材化されていった. を鑑賞の対象とすることで、生徒はスムーズに活動に. のか概観していきたいと思う。. 入ることができたのではないだろうか。また、機能や デザインなどの観点で分析的に見ていく際は、自ら選. 3.1.1実践報告「一本のシャープペンシルを鑑賞しよう」 対象中学校3年2時間扱い)について. んで購入しているという背景があるため、より主体的 な活動が望めそうだ。 「生徒は自分が最も気に入ってい. 宇都宮大学教育学部附属中学校の宇賀神俊彦氏は. るシャープペンシルを、級友がどのように価値付ける. 「これからの生活の中で、多様にデザインされたもの. かということに強い関心を示し、思ったよりも低く価. をよりよく選び、組み合わせながら、豊かで調和のと. 値付けられた生徒は、いかに自分のシャープペンシル. れた生活を創造していく生徒の美的選択力をさらに高. が優れているかということについて説明する様子が見. 1). めさせたい」 と考え、中学校3年生を対象にシャー. られた。 」3)という報告内容からも、生徒の私物を鑑賞. プペンシルを鑑賞物とした身近なデザインの鑑賞題材. の対象とすることの効果が窺える。. をおこなった。題材は美的選択能力を高めることをね らいとし、シャープペンシルのデザインのよさや美し さを機能性や装飾性などの視点から鑑賞するものであ る。主な学習指導過程は以下の通りとなっている。. 3.1.2実践報告「あなたの好みはどの器?和食器を鑑賞 しよう!」について 宇賀神氏のように身近なものを鑑賞物に取り上げた. ① 学習のねらいや内容を知り、その意義に気付く. 題材として、岡山県邑久町立邑久中学校の平田朝一氏. ② お気に入りのシャープペンシルを購入した理由. の実践例がある。この実践報告では工芸分野の鑑賞題. をチャートにする。 ③ 級友のシャープペンシルを鑑賞し、班で話し合. 材として位置づけられているが、実践内容を見るとプ ロダクトデザインの鑑賞題材ともいえる部分が多いた. いながらチャートにまとまめる. め、今回参考とすることにした。題材は「 『和食器のよ. ④ 自他の美的価値基準を比較する. さ』や『特徴』について知り、和食器に興味・関心を. ⑤ 同じシャープペンシルの良さや美しさについて. もつこと」と「自分の好みがどのような観点から決定. 話し合う. しているかを考える」という2つを授業目標とした和.
(5) 中学校美術科におけるプロダクトデザインの鑑賞. 食器の鑑賞となっている。主な学習指導過程は以下の. d. 生徒の私物や自分で選んで購入したもの. 通りである。. e. 価格帯の幅広いもの. ① 和食器を鑑賞し、その中から自分の好きな器を 1点選ぶ ② 和食器と洋食器の比較鑑賞 ③ 値段当てクイズ ①の活動は、 「自分の好みがどのような観点から決定 しているかを考える」という目標の部分にあたり、購 入理由(鑑賞の観点)を考えさせた宇賀神氏の実践内容 と重なるところがある。しかし、教師が鑑賞物を用意. 245. f. 同じ使用目的でありながら、様々な色や形がある もの g. 和と洋など、地域や対象とする使用者に応じた違 いがあるもの h. 手に取ったり、実際に使用できるもの(その場に 用意できるもの) i.「機能」と「造形」の間に相互関係が見られ、それ が実感できるもの. し、それが数種類ある点で宇賀神氏とは異なり、この ことが③の活動を可能としている。③の値段当てクイ. 2つの実践例を参考としながら、鑑賞物として適し. ズは平田氏の特徴的な活動といえるだろう。 「・・・す. ていそうなものについておおまかに挙げてみた。ただ、. ると、色々な理由を言いながら、あれだこれだと盛り. a から h がそれぞれどの事項を充たすのかという明確. 上がった。 」4)という報告内容からも、③の活動が生徒. な区別はない。a が授業への興味・関心を高め、その意. の関心を高める効果的な活動であったことが窺える。. 欲が分析的な鑑賞への取り組み易さに繋がることもあ. さらに③の活動は、平田氏が大切にする「 『値段』と『自. るだろう。. 分の好み』は違っていて当然であり、たとえ値段が高. また平田氏の報告を見ると、 「今回の授業は、 『本物. くなくとも自分が気に入っているものが一番ではない. に触れる』ということが大きなポイントであったと思. 5). か」 という思いを伝える役割も果たしている。. う。 」とある。確かに、実際に手にすることで実感が深. 鑑賞物を和食器とした理由について、身近なもので. まる活動が題材の中心となっており、実物がその場に. あることや、中学校が備前焼で有名な備前市に隣接す. あることによって効果的な活動を可能にしている。こ. ることなどを挙げているが、価格帯が幅広いからこそ. れは宇賀神氏の実践例にもいえることだ。生徒は自分. ③はおこなえた活動であり、そうした理由も含まれて. のシャープペンシルを改めて見直したり、級友のシャ. いるのだろう。また、②の洋食器との比較鑑賞の活動. ープペンシルをよく観察したことだろう。この実際に. についても、和食器ならではの活動といえる。. 手に取り、本物に触れながら鑑賞するという活動は、 プロダクトデザインの鑑賞題材を考える上で重要な観. 3.2 鑑賞物の条件. 点の一つとなりそうである。. ここまで2つの実践例を見てきたが、鑑賞物として. さらに二人の題材に共通するのは、鑑賞物を機能の. は、次の事項を充たすものが扱い易いといえるだろう。. 側面と装飾を含めた造形の側面で見ていることである。. ・ 生徒の興味や関心を高めたり、主体的な活動を促 す ・ 分析的な鑑賞や比較鑑賞をおこなう上で取り組み 易い. この二つの側面で鑑賞することで、よりよいデザイン を考える力が身に付くと考えられ、プロダクトデザイ ンを扱う上で欠かすことのできない観点といえるだろ う。しかし、単に機能と造形それぞれを別個に見つめ. ・ 活動に工夫をもたせることができる. るのでは意味がない。シャープペンシルや食器にして. そして、このような事項を充たすものとして、具体. も、造形が握り易さや書き易さ、持ち易さに関係して. 的に次のような条件が挙げられる。. いる。二つが相互に関係をもつものを鑑賞の対象とす ることで、はじめてよりよいデザインを考える活動に. a. 生徒が興味や関心をもっているもの. なることに留意する必要があるだろう。. b. 学校や家庭などで生徒が日常的に目にしたり、使 用しているもの c. 地域特有のものや工芸品など. 3.3 アンケートによる調査結果 前項では先行実践例を参考とすることで、鑑賞物と.
(6) 246. 早川裕彬・齋江貴志. しての条件を絞り込んだ。ここではさらに、生徒が興. プペンシルを鑑賞の対象にすることで生徒の関心を高. 味・関心を持っている製品や自ら選んで購入している. めていたが、この結果からもシャープペンシルが生徒. 製品とはどのようなものなのか、中学生を対象に実施. の興味・関心に応じる鑑賞物であったことが分かる。. したアンケートに基づいて明らかにしていきたいと思. また、 「❸洋服、靴、バッグなど」や「❻CD、MD ラ. う。. ジカセなどの音楽機器」の回答も高く、これは生徒の. 次に示すアンケートは、群馬大学附属中学校第一学. 年齢時における購買欲求を反映したものといえるだろ. 年の生徒を対象に、製品やデザインへの関心について. う。さらに、 「❷コップ、スプーン、箸、お茶碗などの. 回答を求めたものの一部である。. 食器類」の回答数が顕著であった点(特に女子)も見. アンケートの質問と結果は表1の通りとなっている。. 逃せない。女子に対して男子の回答がやや低いが、題. 自分で選んで購入している製品を尋ねる問では、プロ. 材の工夫次第で鑑賞物としての可能性を高められるの. ダクトデザインの範疇が広すぎるため、こちらで生徒. ではないだろうか。この他自由記述欄には「スポーツ. の日常生活に関わりがある製品を推測して限定した。. 用具、清掃用具、PC 周辺機器」などが少数ではあるが. 「買い物に行くのは好きですか?」の問いかけに対. 挙げられていた。. して、全体の約5分の4が買い物に行くことを「好き だ」と答え、生徒たちは日常生活で製品を選び、購入. 以上のように、生徒との結びつきが強いものとして. する機会に積極的に触れていると考えられる。なお、. 自転車や文房具、衣類、家具類などがあると分かった。. 男女比で見ると「関心は無い」と答えている男子が女. また、携帯電話等の電化製品や生活用品のデザインに. 子を上回っており、また、 「自分が使うもので、自分で、. も生徒は強い関心をもっている。しかし、これらすべ. もしくは家族と一緒に選んで購入しているものは何で. てがプロダクトデザインの授業として扱えるものかと. すか?」という次の問いでも、ほぼ全ての製品で男子. いうとそうではないだろう。例えば衣類等の服飾製品. は女子に比べ、もの選びに消極的な回答をしている。. は、機能性以上に流行や個人的な嗜好が強く反映され. 自分で、もしくは家族と一緒に選んで購入している. る場合があり、グラフィックデザインとしての要素も. ものを種類別に見ていくと、日々の学校生活で使用す. 強く、良いデザインの判断が難しい。そこで生徒の関. る「❶文房具」や「❺自転車」 、自分の部屋で使用する. 心が高かったものについて、先ほど挙げた a から i の条. 「❹机や椅子、ベッドなど(家具類) 」が高い回答を得. 件に照らし合わせながら授業での扱い易さについて考. た。実践例として挙げた宇賀神氏の題材では、シャー. えてみたいと思う。. 表 1 アンケートの内容と結果.
(7) 中学校美術科におけるプロダクトデザインの鑑賞. 247. 表 2 鑑賞物と抽出条件との適合性. ここで対象としたものは、事前にアンケートによっ. 易いものが、全ての授業展開、目標で扱えるというこ. て生徒の関心が高いとされたものであるため、まず a. とにはならない。これまでの条件やそこから導かれた. や d の事項についてはどれも高い評価となっている。. 鑑賞物はあくまで「これは授業で扱える可能性がある」. 種類別にみると食器類や服飾製品、家具類は国や地域. ということであって、授業展開や目標もふまえると、. ごとの特色がみられるもので、種類も豊富であるため c. それに応じて当然扱えるものは変わってくる。そこで、. や f、g で評価が高い。また、文房具には国や地域の違. これまでに絞られてきた鑑賞物を対象として授業実践. いはそれほどみられないが、 「使用者に応じた違い」と. をおこない、授業展開の方法などを探っていくことに. して右利き用と左利き用の違いなどがあるため g の評. した。. 価を高くした。音楽機器やテレビ、パソコン等の機械 製品については、機能と造形の関係が感じ取りにくい. 4.1 授業実践について. ものであり、i での評価が低くなっている。家具類は各. 今回おこなった実践ではコップなどの「飲むための. 条件に対し評価が高いものの、実物を用意できるかと. 道具」を鑑賞の対象としている。コップなどの飲む道. いう問題がある。写真と実物では、活動の質に大きな. 具は食器という点で平田氏が取り上げた和食器と共通. 差が出ることが予測されるため、h はとても重要な条件. しているため、比較的扱い易いと考えられる。和食器. であり、家具類は準備および実践に困難な面が予測さ. と同様に価格も幅広く、デザインも豊富で、和と洋や. れる。. 入れる飲料の違いもあるから比較鑑賞も可能だ。また、. アンケート結果だけを見ると、服飾製品が鑑賞に適. 単機能であることも欠かせない。宇賀神氏が取り上げ. しているとみることができるが、先にも述べたように、. たシャープペンシル同様、形状が持ち易さや飲み易さ. 実際に題材化を考えるとどのように扱ったらよいか判. と相互に関係しているため、機能面の学習にも向いて. 断が難しい。また、個々の製品と実際の題材を考えて. いるといえるだろう。. みると、文房具や食器類でも扱いづらいと判断できる. 鑑賞の対象としたのは表3に示す5種である。㋑、. ものもある。逆に、先に困難だと述べた家具類でも「こ. ㋓、㋔については色違いで3〜6色を用意した。生徒. のイスであれば用意ができ、こんな題材ができそうだ」. の関心を引くことや機能性に目を向けさせるなど、そ. と判断できる場合もある。具体物を挙げて、そこから. れぞれに意図を持たせた選択となっている。. 鑑賞物としての可能性や条件を考える必要もありそう. 指導案は次頁の表4に示すとおりである。. だ。 Ⅰ.鑑賞物と出会い、本時の内容を確認させる。 4.授業実践と考察. まず活動の導入として、今回取り上げる鑑賞物の中 から好みのものを一点選ばせ、その理由を考えさせた。. アンケート結果や授業での扱い易さを考慮すること. 以外にも「シンプルだから」といった理由から、㋐を. で、徐々に鑑賞物が絞られてきた。しかし授業で扱い. 選ぶ生徒が男女ともに多く驚かされた。その他、男子.
(8) 248. 表3. 早川裕彬・齋江貴志. 実践に使用した鑑賞物. 表 4 授業実践の指導案.
(9) 中学校美術科におけるプロダクトデザインの鑑賞. 249. では「かっこいい」などの理由から㋑が、女子では色. して授業に取り組めたようである。 「人の意見を尊重で. にバリエーションをもたせた㋓や㋔に人気が集まって. きたか」という問でも「できた」という生徒が多く見. いた。鑑賞物は㋐から㋔の5種類に色違いを含めて全. られた。中には「自分の意見を持つ」と答える生徒も. 18種類30個を用意したが、どれにしようかと楽し. おり、価値観が個々に異なる中で自分なりの意見を持. みながら選んでいる様子が見られ、種類の多さが生徒. つことの大切さに気付けたようだ。また「いつも何気. の興味・関心を引きつけることに繋がったようだ。. なく使っているコップに関心を持って取り組めた」と いう意見もあり、授業を通じて、身の回りのものやそ. Ⅱ.数種類の飲む道具のデザインに触れながら、形の良. のデザインに関心を持つことができたようだ。. さや機能性などについて考え、レーダーチャートに まとめさせる。. 4.2 考察及び事後アンケートについて. 次にグループごとに鑑賞物を配布し、実際に手にと. 実践を通じて、授業時数と展開内容の間に問題があ. って使用したりしながら、使いやすさや形の良さなど. ることが分かった。レーダーチャート1つに8つの観. をレーダーチャートにまとめさせた。このレーダーチ. 点があり、それが鑑賞物㋐から㋔まであるため、チャ. ャートの活動は、先述した実践例の中で宇賀神氏がお. ートをまとめるだけで相当の時間を使ってしまった。. こなった活動である。宇賀神氏はこれを用いて自分と. そしてその影響からⅢの活動や、作成したチャートを. 級友の価値付けの違いを考えさせていたが、そうした. じっくり比較させる活動が不十分になってしまった。. 比較の活動がおこない易い方法の一つであると考え、. 鑑賞物単体で評価しつつ、比較鑑賞をおこなっていく. 本授業でも取り入れた。. ことで、個々のよさに気付かせるねらいだったが、も. 生徒のレーダーチャートを見ると、バランスのとれ. う少しチャートの観点や鑑賞物の種類を少なく設定し. た形のものや特徴的な形のものもあり、鑑賞物それぞ. てもよかったかもしれない。本時の活動内容では2時. れの良さや欠点を感じ取っていたようだ。また特に指. 間設定が望ましく、時数に応じて鑑賞物の種類や観点. 示がなくとも、グループごとにそれぞれの価値付けの. を調節することが必要であると感じた。しかし「それ. 結果を話し合う光景も見られた。さらに活動の途中で. ぞれによさがある」という感想を残した生徒がいるよ. 鑑賞物の価格を発表すると、その価格が意外だったよ. うに、レーダーチャートやそれに基づく比較鑑賞には. うで、大きな歓声が上がる場面もあった。数百円の違. ある程度の効果が見取れた。そしてこうした結果が得. いも生徒にとっては大きな違いらしく、 「これは高い。. られた背景には、鑑賞物と活動内容の合致があったか. これは安い。 」と、デザインと価格のバランスについて. らではないだろうか。今回扱った「飲むための道具」. 考える生徒もいた。. は、既に述べたように、単機能で造形と機能の関係が 分かり易く、デザインも豊富で違いを持たせ易い。生. Ⅲ.生徒の発表を通して、個々に感じ方が異なることを 理解させる。. 徒はチャートの作成や比較鑑賞をおこなう上で、取り 組み易かったと思われる。. レーダーチャートがある程度完成した段階で、数人. 授業後におこなったアンケートでは、 「授業は面白か. の生徒に自分の書いたチャートを発表させた。発表を. ったか」の質問に対してほとんどの生徒が「とても面. 聞く生徒には自分のチャートと比較したり、共感した. 白かった」または「面白かった」と答えており、鑑賞. りする姿が見られ、同じものでも人それぞれ価値付け. 物を豊富に用意した効果ではないかと感じている。. が異なることを感じ取っていたようだ。 5.今後の課題 Ⅳ.本時の学習について振り返らせる。 最後に学習のまとめとして、本時の学習で学んだこ. 今回の実践では、 「飲むための道具」を鑑賞の対象と. とや気付いたこと、感想などをまとめさせた。 「自分な. することである程度の成果が得られた。プロダクトデ. りの発見があったか」という問いかけには、 「発見があ. ザインの鑑賞物として、飲むための道具は有用性の高. った」や「いくつもあった」という生徒が多く、充実. いものの一つといえるのではないだろうか。しかし、.
(10) 250. 早川裕彬・齋江貴志. 授業展開についてはまだ改良の余地がある。今回は導. 先行実践例及びアンケートから導かれる鑑賞物及びそ. 入段階の題材としたが同一の鑑賞物でもさまざまな授. の条件」に基づくと、他にも鑑賞物としての候補は考. 業展開が考えられ、目標等にも応じながら題材のバリ. えられる。そのため鑑賞物を変えた実践との比較も必. エーションを充実させていく必要があるだろう。また、. 要である。今後も実践をおこないながら、鑑賞物と授. 製品自体のデザインを分析的に鑑賞していくことが中. 業展開の関係性、そして、プロダクトデザインの題材. 心であったため、機能と造形との関係など基本となる. として適正な授業へと導ける条件設定を考えていきた. 事柄は学習できていたが、例えば、 「カラーバリエーシ. い。. ョンのある製品は家族それぞれで好みの色を選択でき る」 「いつも使用している他の食器とマッチしている」 といった使用環境と造形の関係、鑑賞者以外の使用者. 〈引用文献〉. と製品の関係に着目できている生徒は少ないように感. 1)宇賀神俊彦「身近な生活の中の美術を鑑賞し、美術の. じられた。プロダクトデザインは単に製品それぞれの. 必要性を具体的に理解させる」 『美育文化』美育文化協. 造形のみで考えられているのではなく、製品の周辺に. 会,Vol.54 No.6(2004 年 11 月号) ,p.31. ある事柄を加味して造形化されていることは重要な視. 2)宇賀神俊彦,同上書,p.31. 点であろう。今回の実践においては授業時間への配慮. 3)宇賀神俊彦,同上書,p.32. から、それらを気付かせる問いをワークシートに盛り. 4)平田朝一「あなたの好みはどの器? 和食器を鑑賞し. 込むことや発話を促すことができなかったが、今後充. よう!」 『美育文化』美育文化協会,Vol.54 No.3(2004. 実させるべき事柄だと考える。. 年 5 月号) ,p.61. 本実践では 「飲む道具」 を鑑賞物として扱ったが、 「3.. 5)平田朝一,同上書,p.61. (はやかわ ひろあき・さいえ. たかし).
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