1 はじめに 労働安全衛生総合研究所では,長年にわたって労働災 害事例の収集を続けており,研究所内での研究用として データベースを運用している.このデータベースを基と して一般に向けて,1997年に爆発・火災事例について の分析結果1)を公表した.さらに2012年6月には,爆 発火災事例部分について,記載内容を一般への公開用と して見直すことにより,データベース本体の公開を開始 した.以後,順次データの更新と収録期間の拡大を行っ てきており,2018年8月に第5次版を公開した2).本報 では,この第5次版の爆発火災データベースの概要,及 び同データベースに基づき,災害規模曲線を用い,発生 件数と重篤度について分析した結果を述べる. 2 爆発火災データベースの概要 1)収録対象と期間 爆発火災データベースの原資料は,労働行政機関が労 働災害を調査した際に作成した資料である.したがって, 労働災害ではない事例,例えば一般住民や個人事業者の みが死傷した事例は一部を除き収録されていない.収録 期間と件数は,2012年公開の第1次版が1985~2001年 であったが,最新の第5次版では1965~2007年に拡大 されている. 2)データベースの情報項目 収録されている情報項目は,大小を比較できる数値項 目が「年」「死亡者数」「死傷者数」の3項目,自由な日本 語文章形式の「事故の概要」が1項目,日本標準産業分 類に基づく「業種分類(中分類,小分類)」2項目,さ らに原資料の内容から,それぞれ数単語に絞り込んだ「発 生場所」「発生装置」「原因物質」「着火源・原因」「作業工程」 の5項目である. 3)収録事例数 図1は研究用データベースに収録されている年別の事 故件数である.1965年頃には200件近く発生していた が1980年頃には100件以下に減少した.しかし,それ 以降は横ばい状態が続いている.そのうちの化学工業等 での件数についても同様の傾向であり,最近の件数は 20件前後で推移している. 第5次版は,1965年以降を収録しており,その総件数 は約4500件である. 図1 年別の事故件数 4)利用方法と検索 爆発火災データベースは労働安全衛生総合研究所の Webページ2)において,無料で公開している.公開は Excel形式のデータファイルとしているので,ダウンロ ード後はWebに再接続する必要はない.また専用の検 索 プ ロ グ ラ ム は な く, 事 例 の 検 索 や 抽 出 に は, Microsoft Excelに備わっている「検索」機能と「フィ ルタ」機能を利用する. 3 災害規模曲線を用いた分析 1)災害規模曲線とは リスクアセスメントにおいては,一般にその事故によ る被害すなわち重篤度と,その事故の発生頻度を尺度と する.この2つの尺度は別個の独立した尺度ではなく, 統計的な規則性としてハインリッヒの法則が成り立つと された3). ハインリッヒの法則は1:29:300として知られている が,この比率は多種多様な労働災害の平均を表しており,
爆発火災事例についての災害規模曲線を用いた分析
板 垣 晴 彦
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1 爆発火災事例について,災害規模曲線を用い,発生件数と重篤度について分析した.災害規模として死傷 者数,発生頻度の密度関数として事故件数の累積確率を採用したところ,両対数グラフ上において直線関係が 認められた.その直線の傾きは重篤度を表しており,発生件数とともにどのように遷移するかを調べた.全産 業の平均については,年月の経過に伴い,まず発生件数が減少し,その後に重篤度が低くなったとわかった. 化学工業の重篤度は建設業の重篤度よりも明瞭に高かった.ただし,年月が経過した際の重篤度の変化は,い ずれも明確ではなかった.さらに,業種や災害の種類別についての分析結果が示された. キーワード:統計分析,災害規模曲線,爆発,火災,データベース原稿受付 2019年1月15日(Received date: January 15, 2019) 原稿受理 2019年3月6日(Accepted date: March 6, 2019) J-STAGE Advance published date: March 22, 2019
*1労働安全衛生総合研究所化学安全研究グループ 連絡先:〒204-0024 東京都清瀬市梅園1-4-6 労働安全衛生総合研究所化学安全研究グループ 板垣晴彦 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2019-0005-TA 短 報
特定の災害や特定の作業を対象とする場合には,この比 率になるとは限らない.そこで,この重篤度と発生頻度 の規則性の一般式をべき関数で表すことが提案された. すなわち,発生頻度の密度関数Pは災害規模hの-n乗に 比例するとして,Kを比例定数とすれば,次式で表され る4). P = K・h‒n (1) この(1)式に従うならば,Pとhの関係は,両対数 グラフ上で傾きが -nの直線で表される.なお,Pを事 故件数の累積確率に置き換えても直線関係は失われな い.また災害規模の尺度については,損害額や被害面積 なども考えられるが,今回は評価基準が明確であって必 ず報告される死傷者数を採用した. 図2は,両対数グラフ上に示した全産業,全年代の爆 発火災災害規模曲線である.この図から,左上の点で死 傷者数3人以上の発生件数が46%,中央の点で死傷者数 20人以上の発生件数が1.3%と読み取れる.したがって 死傷者が2人以下の発生件数は54%,3~19人の発生件 数は約45%ということになる.また死傷者数0人の点が ないが,死傷者数0人以上とは全事故と同意であるので 必ず100%となる.つまり,曲線は常に固定された点か ら出発する. 同図より,死傷者数3人以上の範囲について,直線関 係が認められる.その回帰直線を求めたところ,傾きは -1.58であった.この直線の傾きが緩やかであるほど多 数の死傷者となる確率が増えることになるから,重篤度 が高いことを意味する. 死傷者数3人を境にして直線が曲がっているのは,死 傷者数3人未満の事故については,全数の事故が確実に 報告されているわけではないことと,死傷者数には負傷 はしたが軽傷であったため休業しなかった者が含まれて おらず,災害規模との対応にずれが生じることなどが原 因と思われる. 2)年代別の分析結果 (1)全産業 図3は,全産業について10年ごとの年代 別の爆発火災災害規模曲線を重ねて示した図である.各 年代ごとのプロットについて死傷者3人以上を対象とし た回帰直線も示してある.この回帰直線の傾き(重篤度 に相当)と1年あたりの事故件数(発生頻度に相当)が 年代によりどのように変化しているかを図4に示す. 1955年代から1975年代へは,傾きに変化がないが, 発生件数が2/3に低下した.次の10年間では傾きと発 生件数の両者に変化があるが,1985年代以降は,傾き が急になり重篤度が低くなる一方,発生件数は横ばいあ るいは微減にとどまっている.具体的に死傷者数50人 以上の事故の累積確率で比較すると1955年代が0.52% であったが1985年代に0.34%,1995年代に0.12%と減り, 2005年代には0.07%と1955年代の1/7以下にまで低下 した. 回帰直線の傾き -1.58 図2 全産業,全年代の爆発火災災害規模曲線 図3 全産業,各年代別の爆発火災災害規模曲線 図4 全産業における各年代別の爆発火災災害規模曲線の傾き と発生件数の遷移
(2)業種別 爆発火災事故が多い業種の大分類は,化 学工業と建設業であることから,この2業種について年 代別に分析した遷移を図5と図6に示す. どちらの業種も年月を経るにつれて発生件数が減少し ている.その減少の度合いは「化学工業等」の方が強く 1955年代は「化学工業等」の発生件数が「建設業」の 約2倍と多かったが,2005年代ではどちらも10件/年程 度であって差がわずかになっている. 傾きの遷移については,どちらにも一定の傾向は確認 できないが,「化学工業等」の1975年代と「建設業」の 1985年代を除けば,おおよそそれぞれで同じような値 を維持している.ただしその値には明確な差があり, 2005年代で比較すると,「化学工業等」が-1.20,「建設業」 が-2.30である.この差を具体的に死傷者数50人以上の 事故の累積確率で示すと0.36%と0.057%となり,その 発生確率には実に6倍以上の差異がある. (3)災害の種類 災害の種類別で事故件数が多い「ガ ス爆発」と「火災のみ」について,同様に年代別の遷移 を分析した結果を図7と図8に示す. 「ガス爆発」は年月を経るにつれて確実に発生件数が 減少しており,2005年代は1955年代の1/7となっている. ただし,傾きについては変化が不明瞭であり,発生件数 は減少したが重篤度には大きな変化はみられない. 「火災のみ」においては,1955年代と1965年代を比 較すると発生件数が明確に増加していて,傾きも大幅に 緩やかになっている.その原因としては,大規模な建物 や工場がまだ少なく,避難に必要な時間が短いことなど により,一度に多人数が死傷することが少なかったこと や,発生件数が1965年代の2/3ほどと少なく,小火災 の報告が確実になされていないことが考えられる.1965 年代以降の遷移については,発生件数に下げ止まりの傾 向がみられるものの,傾きは徐々に急となっており,重 篤度の低下傾向が継続している. 両者を2005年代で比較すると,傾きの値はどちらも 図5 化学工業等における各年代別の爆発火災災害規模曲線の 傾きと発生件数の遷移 図6 建設業における各年代別の爆発火災災害規模曲線の傾き と発生件数の遷移 図7 ガス爆発における各年代別の災害規模曲線の傾きと発生 件数の遷移 図8 火災のみにおける各年代別の災害規模曲線の傾きと発生 件数の遷移 Vol. 12, No. 2, pp. 101 106, (2019)
-1.8程度であるが,発生件数は12.2件/年と18.7件/年 であり,「火災のみ」の発生件数は「ガス爆発」の約1.5 倍である. 3)災害の種類別の分析結果 図9は,全年代を対象とし災害の種類別の災害規模曲 線を示した図である.災害の種類により傾きに明瞭な差 異があるとわかる.そこで,図10に年代による遷移の 図と同様に災害の種類別に分析値をプロットした. 「ガス爆発」は,発生件数が「火災のみ」の約2倍と 多いが,傾きは「火災のみ」よりも急である.「火災のみ」 の右下には,「火薬類爆発」や「暴走反応」がある.こ のグループは発生件数が少数ではあるけれども,傾きが 緩やかであるから,ひとたび事故が発生すると被害が甚 大になる可能性が高く,死傷者が多人数となりやすいリ スクを有していると言える. この4つの災害の種類について具体的に死傷者数50 人以上の事故の累積確率を示すと,「ガス爆発」が0.27%, 「火災のみ」が0.66%,「火薬類爆発」が1.07%,「暴走 反応」が1.39%である.さらにこれらの値と発生件数 から死傷者数50人以上の事故の発生率が100年あたり では何件になるかを推算すると,順に11.5件,14.3件,8.2 件,5.6件となる.つまり,重篤度は「暴走反応」が最 も高く,発生件数は「火災のみ」が最も多い.「暴走反応」 の重篤度が高くなる要因は,起きてしまうと他よりもエ ネルギーの放出速度が速く,かつ,放出量が大量となり やすい.そのため,事故の規模が甚大になることが多い 結果,被災者数が多数になると考えられる. 「水蒸気爆発」と「粉じん爆発」については,発生件 数が「火薬類爆発」や「暴走反応」と同程度に少ない. また傾きも急であることから,甚大な事故が発生するリ スクが,ここに示した災害の種類の中では最も低いと判 断できる.この2つの事故は,甚大な事故となる可能性 を有しているものの,その条件が限定的で,大多数が中 小規模の事故にとどまっているとみられる. なお,いずれの災害の種類においても,示したのは全 年代による平均値である.図7と図8で「ガス爆発」と「火 災のみ」について示したように年代の遷移があり,年代 を限定すれば数値は異なる.例えば,ガス爆発について 2005年代の値から,死傷者数50人以上の事故の発生率 を推算すると100年あたり1.6件である. 4)業種別の分析結果 図11は,全年代を対象とし業種別の爆発火災災害規 模曲線の傾きと発生件数の関係を示した図である.全産 業の爆発火災災害規模曲線の傾き -1.58と比較すると, 「石油石炭工業」は平均的な重篤度であり,「建設業」が これに次いで低く,「機械工業」の重篤度が図示した業 種の中では最も低い.「煙火・マッチ工業」は,発生件 数が「石油石炭工業」と同程度であるが,傾きは-1.2で あり,重篤度が高い業種と判断される.さらに「卸売・ 小売業」では傾きが-1.0よりも緩やかである.死傷者数 50人以上の事故の累積確率で示すと,「機械工業」が 0.076%,「化学工業」が0.42%,「煙火・マッチ工業」 が1.00%,「卸売・小売業」が1.46% である.そして死 図9 災害の種類別の災害規模曲線 図10 災害の種類別の災害規模曲線の傾きと発生件数の関係 図11 業種別の爆発火災災害規模曲線の傾きと発生件数の関係
傷者数50人以上の事故の発生率が100年あたりでは何 件になるかを推算すると,「化学工業」が9.5件と最も 多く,これに次ぐのが「卸売・小売業」の5.9件,3番 目と4番目は「煙火・マッチ工業」の3.8件と「建設業」 の3.7件であった. 「卸売・小売業」は,発生件数の点では「石油石炭鉱業」 や「煙火・マッチ工業」と同程度で少ないが,もしも爆 発または火災が発生した場合には,その業態から事故現 場付近にいる労働者などの人数が多いため,多数の死傷 者を生じるリスクが高いという特性があるためであろ う. 4 まとめ 爆発火災事例について,災害規模曲線を用い,発生件 数と重篤度について,年代別,業種別,災害の種類別に 分析し,次のことを示した.(1)「全産業」の年代推移は, 発生件数が先に低下してから重篤度が低下した.(2)「化 学工業等」と「建設業」の年代推移について,発生件数 の低下は確認されたが,重篤度の大きな変化はみられな かった.(3)災害の種類別の年代推移として,「ガス爆発」 と「火災のみ」について分析したところ,「ガス爆発」 は発生件数が,「火災のみ」は重篤度が,低下傾向にあ った.(4)災害の種類別に比較し,発生件数が多いもの, 重篤度が高い事故の発生件数が多いもの,発生件数は少 ないが重篤度が高くなりやすいもの,いずれも低いもの に分類できた. このような統計分析の結果は,そのまま直接的に労働 災害の減少に貢献することはできない.しかし,何らか の防止対策の実施前後で発生確率や重篤度が変化してい るかどうかを見ることで,その防止対策の有効性を判断 できる.また,対象とする事故について,発生件数を減 らす対策と重篤度を下げる対策のどちらがより効果的か を知ることもできよう.このように,間接的ではあるが, 事故防止につなげることができる.また,統計やデータ ベースは継続性が重要であるので今後も続けるべきと考 えている. 文文文 文 1) 板垣晴彦.爆発・火災災害の統計分析.産業安全研究所 安全資料 NIIS-SD-NO.15.1997 2) 労働安全衛生総合研究所 爆発火災データベースの公開(第5
次), http://www.jniosh.johas.go.jp/publication/houkoku/
houkoku_2018_02.html
3) H.W.Heinrich, D.PetersonandN.Roos.(財)総合安全工 学研究所翻訳.ハインリッヒ産業災害防止論.海文堂;
1982:59‒64
4) 中村林二郞.安全性の一考察(Ⅰ)(危険性).安全工学.
1981;20‒3:120
Statistical Analysis using Accident Scale Curve about Explosion / Fire
by
Haruhiko Itagaki*
1The statistical analysis about industrial accidents offers various basic information in decision of accident preven-tive measures. In this paper, frequency and severity were analyzed by the accident scale curve about the explosion / fire accidents. In the analysis, casualties was used as the accident scale and cumulative probability was used as the density function of frequency. On the log-log graph, the relationship of the cumulative probability of casualties and the accident number was shown in a straight line. The gradient of the straight line expresses severity. The combina-tion of this severity and frequency was analyzed. In the case of all industries, the frequency decreased first with the pass of years. After that, severity decreased. The severity of the chemical industry was higher than the severity of the construction industry clearly. However, each trend of the severity with athe pass of years was indefinite. In addition, the analysis results about changes by the type of industry or accident were shown.
Key Words: statistical analysis, accident scale curve, explosion, fire, database