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北京オリンピックに出場したウィンドサーフィン選手のトレーニング事例

萩原正大1),山本正嘉2) 1)鹿屋体育大学大学院 2)鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター キーワード: ウィンドサーフィン,オリンピック,水上トレーニング,補強トレーニング 【要 旨】 北 京 オリンピックに出 場 したウィンドサーフィン選 手 が,アテネオリンピック(2004年)における国 内最終予選 での敗退から,北京オリンピック(2008年)に出場し,日本人における過去最高の10 位 という高 い成 績 を収 めるまでに行 ったト レーニング事 例 である.北 京 オリンピックからは艇 種 が 変更 され,従来 のミスト ラル級から新たにRS:X級が採用 された.このため,新 艇 種 の情 報収 集 か ら始まり,艇への適応,基本動作,ボードスピード(艇の速度),レースでのストラテジー(戦術)につ いて,段 階 的 なトレーニングを行 った.また補 強 トレーニングとして,陸 上 でのトレーニングにも積 極的に取り組んだ.これらのことを含め,この選手がオリンピック出場に至るまでに実 施したトレー ニング内容について報告する. スポーツパフォーマンス研 究 、2、12-22、2010年 、受 付 日 :2009年 9月 24日 、受 理 日 :2010年 2月 15日 責 任 著 者 :萩 原 正 大 〒893-0065 鹿 児 島 県 鹿 屋 市 郷 之 原 町 12389-226 mhagim@gmail.com - - -

Training of a windsurfer who had competed

in the Beijing Olympics

Masahiro Hagiwara1), Masayoshi Yamamoto2)

1) Graduate School, National Institute of Fitness and Sports in Kanoya 2) The Center for Sports Training Research and Education, National Institute

of Fitness and Sports in Kanoya

Key Words: windsurfing, Olympics, training, reinforcement of training

[Abstract]

The present article describes the training of a windsurfer who lost in the domestic final preliminary for the Athens Olympics (2004), but won 10th place, the highest Japanese record in this sport, at the Beijing Olympics (2008). After the Beijing Olympics, the class of the board was changed. The RS:X class

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reason, the athlete, after gathering information about the new board, conducted phased training in order to adapt to the board, plus training on basic motions, board speed, and race strategy. Moreover, he also trained on land in order to reinforce the training. The present paper reports the content of his training in preparation for the Olympics.

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Ⅰ.緒言 ウィンドサーフィンは,セールとボードを巧 みにコント ロールし,風による推 進 力を利 用 して行な われるセーリングスポーツである.男 女 ともにオリンピック種 目 となっているが,その艇 種 について は変 遷 が見 られる.すなわち,アトランタオリンピック(1996年)からアテネオリンピック(2004年 )ま ではミストラル級が採用されていたが,北京オリンピック(2008年)からはRS:X級という新艇種に変 わった (図1).北京オリンピックにおける日本人の選手の成績は高く,男子が10位,女子が13位 となり,2012年に開催予定のロンドンオリンピックでは入賞やメダル獲得も期待される. 図 1: オリンピック艇 種 の変 更 この競 技のトレーニング方 法は,現 在のところ十 分には確 立 されておらず,選手 やコーチの経 験や感覚から考案されることが多い.そして,トレーニング方法や,その効果についての報告も少 ない. そこで本研 究では,北京オリンピックのウィンドサーフィン競技(男子)で日本人選手 として過去 最高の10位という好成績を収めた日本のトップ選手を事例 とし,アテネオリンピック後から北京オ リンピックまでのトレーニング内容について報告する. Ⅱ.対象者と調査方法 対 象 者 は,日 本 人 の一 流 ウィンドサーフィン競 技 者 1名 である(2004年 の時 点 で年 齢 :24歳 , 身 長 :182.0cm,体 重 :71.1kg,BMI:21.5,体 脂 肪 率 :11.7%).この選 手 Aは,アテネオリンピックで は国内での最終 選考 にまで選抜されたものの,オリンピック出場には及 ばなかった.しかし,その 後もオリンピックに向けてトレーニングを行った結果,北京オリンピック出場を果たすことができた. そこで,選手 Aがアテネオリンピックから,北京オリンピックに至るまでに行ったトレーニングにつ いて,本人 のトレーニング日 誌や資 料を参考 にしつつ,詳 細な聞き取 り調査を行 った.そして,ト

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レーニングに対 する考 え方 ,水 上 でのトレーニング,陸 上 でのトレーニングという項 目 に分 けてそ の内容を紹介する. Ⅲ.アテネオリンピックから北京オリンピックまでの経過 選 手 Aは,アテネオリンピックでの採 用 艇 種 であったミスト ラル級 では,オリンピック最 終 選 考 レ ースであった世界選手権において52位という成績を収めた.これは,日本人3番目の成績であっ たため,オリンピック出 場 には至 らなかった.しかし,選 手 Aはこの海 外 遠 征 において,競 技 力 の 高い海外選 手の能力と自らのパフォーマンスを比較し,そのパフォーマンスを吸収し,それをもと に自分のパフォーマンスを向上させる,というトレーニング方法を獲得することができたという. そしてそれ以 降 は,パフォーマンスの高 い選 手 のフォームやハンドリングなどを模 範 とし,自 身 で試行することにより,今までになかった新しい動作や感覚が培われ,パフォーマンスが向上した と述べている. その後 ,オリンピック艇 種 が変 更 され、北 京 オリンピックからはRS:X級 が採 用 されたため,その 艇 種 での練 習 を始 めた.表 1は,RS:X級 での練 習 を始 めた時 から北 京 オリンピックまでのレース 成 績を示 すとともに,それぞれのレース前に行 っていたトレーニング(国 内 ,海 外)で意 識 的 に取 り組んだ点について記したものである. 表 1: 選 手 AがRS:X級 で練 習 を始 めた時 から北 京 オリンピックまでの 主 なレースにおける成 績 と練 習 で意 識 的 に取 り組 んだ点 2006年 に開 催 されたRS:X級 の世 界 選 手 権 に向 けて,まず国 内 で取 り組 んだことは,新 艇 種 への適 応 や基 本 動 作 の習 熟 であった.その当 時 ,国 内 においてRS:X級 に取 り組 んでいた選 手 は極 めて少 なく,新 艇 種 の情 報 を得 ることが困 難 であったため,海 外 遠 征 の際 には,海 外 選 手 から新艇種 についての多くの情報 を収集していた.その情報をもとに国内練習ではボードスピー ド(艇の速度)や基本動作の習熟に努め,続いて高度なストラテジー(戦術)の獲得を目標にトレー ニングを実施していた. したがって,基礎的なトレーニング(新艇種の情報収集,道具への適応 ,基本動作の習熟,ボ ードスピードの向 上 )から応 用 的 なト レーニング(レースでのストラテジーの向 上 )へと段 階 的 なト レ ーニングを行ったことになる.これらの過程は,選手Aが効率的に競技力を向上させるために,課

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題を適時設定し,実施したものである. これらの結 果,世 界選 手権の成績 は,2006年から2008年にかけて63位から18位 と大きく改 善 し,北京オリンピック出場 を成し遂げた.さらに北京オリンピックでは,軽風 域でのレースが予想さ れていたので,この風域 で必要となるパンピング(ボードに推 進力を与 えるためにセールを煽る動 作 )の強 化 に励 んだ.その結 果 ,北 京 オリンピックでは,日 本 人 歴 代 最 高 順 位 である10位 という 成績を収めることができた. 以 下 はこのような過 程 を,水 上 でのト レーニングと陸 上 でのト レーニングに分 けて述 べることと する. Ⅳ.水上でのトレーニングの考え方と方法 1.情報収集とRS:X級への適応 オリンピック艇 種 変 更 に伴 い,まずRS:X級 の特 性 や特 徴 を知 る必 要 があったため,海 外 遠 征 の際 に,海 外 選 手 の用 具 のセッティング,フォーム,レース展 開 などの情 報 収 集 を行 った.その 際に,写 真 や動 画などの媒 体を活 用して,情 報の蓄 積を行い,その情報を選 手 とコーチの経 験 や感覚で修正し試行錯誤することで,自身に適した情報のみを取り入れた. そしてその情報を基に水上でのトレーニングを行い,新たな艇に適応していった.選手Aは,こ の情報収集からRS:X級への適応の過程において,自身の経験や感覚を活かして試行錯誤する 際に,それを客観的に評価するコーチの存在は大きかったと述べている. 2.基本動作のトレーニング (図2) 図 2: 基 本 動 作 の習 得 のためのトレーニング ウィンドサーフィン競 技 の基 本 動 作 として,タッキング(風 上 へ向 かう方 向 転 換 ),ジャイビング (風下に向かう方向転換),マーク回航などがあり,これらの動作を習得するためにハンドリングトレ

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ーニングを行った.まず,タッキングとジャイビングといった方向転換は,いずれの動作とも正確に, かつ素 早 く行 う必 要 があるため,この動 作 そのものの反 復 練 習 (動 画 1,動 画 2) をすることで動 作を習熟していった.この動作を習得するまでの間は,海上でのトレーニングの前半種目としてタ ッキングとジャイビングそれぞれ10回程度を1セットとし,3~5セット行っていた. その後 に,水 上 にマークを設 定 し,8の字 を描 くように回 航 を繰 り返 すフィギュアエイトトレーニ ング (動画3) を行い,目標物に合 わせた動作 の中で,スムーズかつ小回りに動作 を遂行できる ようにした.このトレーニングでは,1セットを10分間程度に設 定し,出来る限り速く,多 くの周回を 重ねられるように意識して行い,1回の海上練習において3~5セット行っていた.さらにセーリング パートナーを付けることや,他の選手との合同練習などを積極的に行い,実際のレースに近い環 境でのマーク回航の技術や感覚を磨いた. またセールとボードを上 手 に操作 して行 うフリースタイル (動 画4) を海 上 練 習の合 間 に行 い, セールやボードを自由自在に操作できるような能力を身につけた. このように基 本 動 作 を繰 り返 し行 うことに加 えて,フリースタイルのようなレースでは行 わない変 則 的な動 きをトレーニングとして取り入 れることで,通 常の練 習では得 ることの出 来 ない新たな感 覚 や刺 激 が得 られ,その結 果 として基 本 動 作 の改 善 やハンドリング能 力 の向 上 に貢 献 したと述 べている. 3.スピードのトレーニング スピードのトレーニングは複 数 艇 で同 時 に帆 走 し,他 艇 とのボードスピードを比 較 し,フォーム や用具のセッティングなどを改善していくものである.このトレーニングの際には,ボードスピードの 速い選手と自身のビデオ映像や写真画像を比較し,フォームの修正や改善を行った. 特に北京オリンピック前には,トレーニングパートナーを付けて練習することでトレーニングの効 率を向上させた.これはトレーニング中に自身と比較対照できる者を配置した上で,新たなセッテ ィングやフォームを試 行 することで,パフォーマンスの改 善 を図 るという意 図 であった.著 者 の一 人 は,このパートナーとしてトレーニングに帯 同 していたが,選 手 やコーチによると,パートナーと 比較しながら行うトレーニングは,一人で行うトレーニングよりもモチベーションが向上し,フォーム の改善やセッティングの調整なども,より効率的に行えると述べていた. また,北 京 オリンピックでは,パンピングが必 要 となる軽 風 域 でのレースが予 想 されていたため, その対策にも力を注いだ.特に特徴的であったトレーニングとして,風上方向へのパンピングのト レーニングとして取 り入 れた,インターバルトレーニングがあげられる (表 2,動 画 5).なお,このト レーニングは持 久 的 な能 力 の改 善 も目 的 としており,選 手 Aが実 践 していく中 で試 行 錯 誤 され, 風 の強 さによりパンピングの時 間 を調 節 していた.これは,選 手 Aが主 観 的 にパンピング動 作 を 崩さずに実 行できるという最 高 の時 間が設 定 されており,風 速が上 がるにつれてパンピング時 間 は短くするというものであった.また,1回のトレーニングにおいて8~10セット繰り返し行 っており, 選手Aの感覚からも持久力の向上に対して効果的な運動強度であったと述べている.

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表 2: 海 上 でのインターバルトレーニングの詳 細 (動 画 5) 4.ストラテジーのトレーニング ストラテジーとは,競技中の戦術すなわち戦い方のことであり,ウィンドサーフィン競技を含むセ ーリング競 技 において勝 敗 を大 きく左 右 する要 因 となる.スト ラテジーは,戦 い方 を考 えるものな ので陸 上 でのトレーニングのように思 われがちだが,この知 識 は,海 上 での経 験 や予 測 などと複 合的に捉えることで初めて実践に汎用できるものとなる. 表3は,ストラテジーの概念の一部を例示したものである.選手Aは,過去にオリンピック出場経 験を持つコーチから,水上においてこのようなストラテジーの概念について適宜指導を受け,ケー ススタディを重ねていった.この能力は,選手自身の経験のみからでも,ある程度は向上すると思 われるが,やはり効率よく高度なストラテジーを獲得するためには,レースや練習を客観的かつ適 切に評価するコーチが必要であると述べていた. 表 3: ストラテジーの概 念 の例 Ⅴ.陸上での補強トレーニング 1.ウェイトトレーニング オリンピックの艇 種 がRS:X級 に変 更 されてからは,筋 肥 大 を目 的 としたウェイトトレーニングを 積極的に取り入れた.それは先行研究(萩原ほか,2009)でも述べられているが,図1に示すように, ミストラル級の7.4㎡から,RS:X級では9.5㎡へとセールエリアが大幅に増大したため,セール自体 の重 さや帆 走 中 にセールが受 ける風 量 が増 し,選 手 の上 半 身 にかかる負 荷 が増 大 し,より高 い 筋力や筋量 が必要になったためである.また,選手Aの行 った情報収 集や,A自 身の感 覚からも, ミストラル級 に比 べてRS:X級では,必 要 となる筋 力 や体 重 が増 加 したと考 え,筋 量 の増 加 による 体重の増加を図っていた.

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表4は,選手Aが行ったウェイトトレーニングの主な種目であり,この中から,おおむね10種目程 度(上肢・プッシュ動作:1種目,上肢・プル動作:3種目,体幹:3種目,下肢 :2種目,全身:1種目) を選 択 し,最 大 挙 上 回 数 8~12回 の負 荷 (8~12RM)で3~5セット,週 に2~3回 の頻 度 という一 般的な筋肥大トレーニングを行った. 表 4: ウェイトトレーニングの主 な種 目 表5は,陸上でのトレーニングの期分けを示したものである.2005年には,一年間を通して筋肥 大を目的としたウェイトトレーニングを実施していたため,選手Aの身体特性および体力特性の推 移についてみると (表6),2005年から2006年にかけて除脂肪体重が増加している.これは,筋量 の増加を示唆するものであり,このトレーニングの効果が窺える. 表 5: 陸 上 でのトレーニングの期 分 け

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表 6:選 手 Aの身 体 特 性 および体 力 特 性 の推 移 これらの結 果 ,海 上 でのパフォーマンスとしては,軽 風 域 から強 風 域 までのあらゆるコンディシ ョンにおいて,セールを引 き込 む際 の力 が増 大 し,ボードスピードが向 上 した.さらに安 定 したハ ンドリング動作が獲得でき,バランスを崩した際のリカバリー能力も向上したという.また,ウェイトト レーニングを行う以 前 に比べ,競 技 中 における身 体への負 担 度が軽 減 し,レースやトレーニング の質が向上したと述べた. 2.バランスボールとバランスディスクを用いたトレーニング 筋量と筋力 が増加した2006年以降 からは,バランスボールとバランスディスクを用いたトレーニ ングを取り入れ,バランス能力と筋力の向上を図った.このトレーニングは,今までに行ってきたウ ェイトトレーニングのプル動 作 と体 幹 における種 目 を,バランスボールの上 で行 ったり下 肢 のトレ ーニングをバランスディスクの上で行うといったものであった (図3). このようなトレーニングを行った意 図 とは,水 上で行われるウィンドサーフィンの競 技 特 性として, バランスを取 りながらパフォーマンスを発 揮 する必 要 があるためであった.特 にバランスボールを 用いたプル動作のトレーニングは,水上においてバランスを取りながら行 われる,パンピング動 作 の補強トレーニングとして効果があると選手Aは考えていた. このトレーニングにより,体幹部分や足底部分への感覚や意識が培われ,セールとボードを上 手に操作することが出来るようになり,安定した帆走が行えるようになった.

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図 3:バランスボールトレーニングとバランスディスクトレーニングの例 3.サーキットトレーニング バランスボールト レーニングを取 り入 れた時 期 からは,あわせて筋 力と持 久 的 な能 力 の向 上を 目的としサーキットトレーニングを取り入れた.表7は,サーキットトレーニングの一例である.1回の トレーニングで,この10種目のメニューをこなし,1循環1セットとし,計2セット行っていた.なおセッ ト間の休息は5分間であり,トレーニング頻度は週3回であった.サーキットトレーニングは,筋力と 持 久 的 な能 力 の向 上 に効 果 的 であり,選 手 Aもそのような効 果 を狙 ってトレーニングを行 ってい た. 表 7:サーキットトレーニングの一 例

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この結 果 として,力 強 くかつ素 早 いパンピングが行 えるようになり,その持 続 時 間 も増 大 したと いう.さらに日頃 から,体が軽く感 じるようになり,トレーニングの質と量が向上すると述べた.ただ し,表6において最高酸素摂取量には大きな変化が見られないことを考慮すると,最大作業能力 というよりも最大下運動時の作業能力の向上を感じていた可能性が考えられる. 4.ローイングエルゴメーターを用いたトレーニング 北京オリンピックの1ヶ月半ほど前からは,ローイングエルゴメーターを用いたトレーニングを取り 入れ,有酸 素性作業 能 力の向上を図った.これは選手Aが,全力のパンピングを長 時間持続す るためには,この能 力を改 善 することが必 要だと考 えたからである.先 行 研 究 によると,ウィンドサ ー フ ィ ン 競 技 に お け る 選 手 の 有 酸 素 性 作 業 能 力 は 高 い と 言 う 報 告 (Vogiatzis et al.,2002; Castagna et al.,2007)がいくつかあり,上記のことに関係しているものと思われる. 選手Aが行ったトレーニングの強度や時間は主観的に決めたものであるが,この強度は,選手 Aの最 高 酸 素 摂 取 量 に対 応 する仕 事 量 から換 算 すると,およそ70%V.O2maxの運 動 強 度 に相 当 する.これを1日 30分 程 度 ,週 に3~4回 行 っていたことから,有 酸 素 性 作 業 能 力 が改 善 する刺 激として適していたと考えられる. また先 行 研 究 では,このローイングエルゴメーターの動 作 そのものが,ウィンドサーフィン競 技 のパンピングに近い動作であると考えられており(國分ほか,2003; 千足ほか,2007),選手Aもパン ピングフォームの注 意 点 や改 善 点 を確 認 でき,陸 上 においてのシミュレーショントレーニングとし て有 効 であると考 えていた.さらにローイングエルゴメーターを用 いた運 動 は,ウォーミングアップ やクーリングダウンとしても効果的であると述べていた. Ⅵ.今後の課題と改善方法 この選手Aは,上記のような考え方によってトレーニングを行い,北京オリンピックでは,総合10 位 の成 績 を収 めることができたが,次 のロンドンオリンピックでは,さらに上 位 の成 績 を収 めること を目標として日々トレーニングに励んでいる.そこで最後に,選手Aが考 える現時点 での課題と, 著者らが考える今後の改善方法についてまとめてみる. 1.水上でのトレーニング 水 上 でのパフォーマンスの評 価 は,選 手 とコーチの経 験 や感 覚 で行 われているため,その客 観 的な評 価 方 法を確 立 することが必 要であると考 えられる.選 手 Aとしても,自 身 よりも競 技 力 の 高い選 手のボードスピードがどの程 度であるかということや,自 分よりも競 技 力が高い選 手とセー リングフォームに違 いはあるのか,といった情 報 を知 りたいと述 べている.そのため今 後 は,以 下 のような方法でパフォーマンスの定量化を行う必要があると考えられる. (1) 動作分析ソフト「ダートフィッシュ」を用いた動作分析 これは近 年 ,スポーツ,教 育 ,および医 療 分 野 で注 目 されている動 作 分 析 ソフトである.従 来 の動 作 分 析 では,室 内 や,専 用 のカメラによる撮 影 が必 要 であったため,水 上スポーツなどでは 実 用 的 でなかった.しかしダート フィッシュでは,選 手 やコーチが撮 影 した映 像 から簡 易 に動 作

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分析が行えるため,円滑なフィードバックが行え,現場での有効性は高い.したがって今後,これ を利 用することで,水 上 でのパフォーマンスを定 量 的に評 価することが可 能になり,水 上でのトレ ーニングがより効率的なものになると考えられる.

(2) GPS(Global Positioning System)を用 いた帆 走 位 置 のフィードバック,およびボードスピード の定量化 現 在 ,水 上 ,山 岳 地 帯 ,および航 空 などの野 外 環 境 において,地 球 上 の現 在 位 置 を把 握 す るためにGPSが活 用されている.最 近の報 告 (藤 原 ほか,2009)では,GPSを用いた帆 走 位 置を選 手 にフィードバックすることにより,戦 術 のト レーニングがより効 果 的 に出 来 るようになり,レース時 の帆 走 距 離 が縮 まりパフォーマンスが向 上 すると指 摘 されている.したがって,今 後 GPSを有 効 に活 用 することで,水 上 での移 動 状 況 をフィードバックすることができ,パフォーマンス向 上 の手 がかりになると考えられる. 2.陸上でのトレーニングの有効性に関する検討 陸 上 でのト レーニングは,あくまでも補 強 ト レーニングであり,海 外 のト ップ選 手 の中 には,この ような補強トレーニングを全く行わない選手もいる.このため補強トレーニングが,水上でのパフォ ーマンスに直 接 的 に関 係 があるかは明 らかではない.しかし,天 候 不 良 や災 害 などでコンディシ ョンが悪 い場 合 には,水 上 でのトレーニングが行 えないという状 況 があり,その際 には,それを陸 上トレーニングで補う必要もあると考えられる. また,選 手 A自 身 は補 強 ト レーニングの必 要 性 を感 じており,陸 上 でのト レーニングを積 極 的 に行 っているという.したがって今 後 は,選 手 の身 体 特 性 ,体 力 特 性 ,および陸 上 でのパフォー マンスと水 上 でのパフォーマンスとの関 連 性 について検 討 し,陸 上で行 えるウィンドサーフィン競 技の補強トレーニングや,シミュレーショントレーニングの開発を行う必要があるだろう. Ⅶ.参考文献

・ Castagna, O., C. V. Pardal and J. Brisswalter (2007) The assessment of energy demand in the new Olympic windsurf board; Neilpryde RS:X. Eur. J. Appl. Physiol. 100: 247-252. ・ 千 足耕 一 , 長 嶺彰 房 , 中 村夏 実 , 山 本正 嘉 (2007) 一 流 ウィンドサーフィン(ミストラル級 )競 技者の体力特性. スポーツトレーニング科学. 8: 18-23. ・ 藤 原 昌 , 千 足 耕 一 , 山 本 正 嘉 (2009) ウィンドサーフィン競 技 におけるレース戦 略 の改 善 を 目的としたGPSの活用. トレーニング科学. 21: 57-64. ・ 萩原正大, 藤原昌, 中村夏実, 平野貴也, 宮野幹弘, 千足耕一, 山本正嘉 (2009) 一 流 ウィンドサーフィン(RS:X級)選手の体力特性. スポーツトレーニング科学. 10: 33-39. ・ 國分俊輔, 楠本恭介, 三森絵理, 千足耕一, 山本正嘉 (2003) ウィンドサーフィン(ミストラル 級)の競技特性をもとに考案した陸上での補強トレーニングの効果; ナショナルチーム入りを果 たしたE.M.選手の事例. スポーツトレーニング科学. 4: 57-61.

・ Vogiatzis, I., G. D. Vito, A. Madaffari, and M. Marchetti (2002) The physiological demands of sail pumping in Olympic level windsurfers. Eur. J. Appl. Physiol. 86: 450-454.

表 2:  海 上 でのインターバルトレーニングの詳 細 (動 画 5)  4.ストラテジーのトレーニング  ストラテジーとは,競技中の戦術すなわち戦い方のことであり,ウィンドサーフィン競技を含むセ ーリング競 技 において勝 敗 を大 きく左 右 する要 因 となる.スト ラテジーは,戦 い方 を考 えるものな ので陸 上 でのトレーニングのように思 われがちだが,この知 識 は,海 上 での経 験 や予 測 などと複 合的に捉えることで初めて実践に汎用できるものとなる.  表3は,ストラテジーの概念の一
表 6:選 手 Aの身 体 特 性 および体 力 特 性 の推 移   これらの結 果 ,海 上 でのパフォーマンスとしては,軽 風 域 から強 風 域 までのあらゆるコンディシ ョンにおいて,セールを引 き込 む際 の力 が増 大 し,ボードスピードが向 上 した.さらに安 定 したハ ンドリング動作が獲得でき,バランスを崩した際のリカバリー能力も向上したという.また,ウェイトト レーニングを行う以 前 に比べ,競 技 中 における身 体への負 担 度が軽 減 し,レースやトレーニング の質が向上したと述
図 3:バランスボールトレーニングとバランスディスクトレーニングの例   3.サーキットトレーニング  バランスボールト レーニングを取 り入 れた時 期 からは,あわせて筋 力と持 久 的 な能 力 の向 上を 目的としサーキットトレーニングを取り入れた.表7は,サーキットトレーニングの一例である.1回の トレーニングで,この10種目のメニューをこなし,1循環1セットとし,計2セット行っていた.なおセッ ト間の休息は5分間であり,トレーニング頻度は週3回であった.サーキットトレーニングは,筋力と 持 久

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