’
【論 文】 UDC :691.
32 :666.
97 :620.
17 :620.
193.
5ド
日本 建 築 学 会 構造 系 論 文 報 告 築 第400 号・
1989 年 6 月拘
束
さ れ た
セ メ
ント
硬 化 物
の
破壊
に
関
す
る
熱
力学 的
研
究
その1
熱 力学
の2
大法 則
に よ る解 析
正 会 員鈴
木
要
* §1.
緒 論セ メン ト硬化 物の破 壊の研 究に は,
.
切 り欠 き 曲 げ供 試 体の,
中点載荷に よ る,
破
壊 力学的 解 析 例など が あるo,
2 )。
しか し な が ら, 拘 束さ れ た セメ ン ト硬 化 物の, 乾 燥 収 縮に伴う破壊の研 究は,
調合条 件, 拘 束 条 件, 環 境 (温 度・
湿 度)条件の変 化が, 破壊開 始材 令, 破壊 時の最 大 引張 強度,
ひ び割れ幅にどの よ う な影 響 を及ぼ す か比 較 検 討す る実験 的追求にとどま り3),
破 壊の原 因 要 素につ い ての理 論 的 解 析はいま だ その例を見ない。
破壊の原因 要 素を与え な け れ ば,
モル タル の乾 燥 収 縮に よる ひび割 れの発 生は起き ない もの と 考え ら れ る。
したがっ て,
破 壊の理論 的解析はぜひとも望まれ るところである。 本研 究で は, 次の よ うな実 験 的 検 討と,
供 試 体の破 壊 経 過に関 する理 論 的 解 析を試み た。
1) ス テ ィー
ル リングの外 周に,
調 合 割 合の異なっ た モ ル タル を打 設 する。 さ らに,
制 作 し た供 試 体を, 温度 20℃,
相 対 湿 度 60%の状 態で乾 燥 収 縮さ せ,
破壊す る4 ;。
そ して, その 間に生じ た ス テ ィー
ル リングの ひずみ変化 か ら, 調 合 割 合の相 違が,
破 壊 開 始 材 令,
破 壊性状,
破 壊に伴 う表 面 作 成に必 要なエ ネルギー
量に どの よ う に変 化を もた ら すか比較検討する。
2
) 破 壊 は 物 質の分 離 と も考え られ,
物 質の結 合・
分 離の理 論 解 析には熱 力 学 的アプロー
チが有効で あ る とい わ れ て い る5 )。
そ こ で, 本 研 究の供試体に,
熱 力 学の 2 大 法 則 を導 入し,
破 壊 現 象の熱 力 学によ る 理論的解析を 試み る。 そ し て,
エ ネルギー
の移 動 量の限 界と,
移 動 方 向の決定を行う と と もに, その結果か ら,
破 壊に伴い表 面を作 成し たt ネルギー
の所 在の論 証を行う。 さ ら に,
そのエ ネルギー
量 を 求める理 論 式 を弾 性 論により導き出 し,
実 測さ れ たひずみ の値 を代 入 する ことに より値を算 出する。
3
) 実験に使 用さ れ た供 試 体に,
熱 力学 的 視 点を導入 す る と,2
つ のエ ネル ギー
系は,
熱 機 関と見 立て る こと がで き る。
ま た, 導入 する コ ン セプ トが変わると同一
現 象も異な る解析が可 能で あ ることを示す。
§2.
実験方法 2.
1
供 試 体 制 作 (1> 供 試 体の形 状 寸 法4) 系tt1)の 設 定を明 確にする ため, ア ン カー
ボル トの埋 め込み を必 要 とし ない リング形 状 とし,
供 試体各部は図一
1に示す寸 法と し た。
さ らに,
スティー
ル リングとモ ル タル リングの接 触面の摩 擦 をでき るか ぎ り小さ くする た め,
打設 前に グ リス を塗布し た。
型枠は,
打 設 時の衝 撃に耐え られ るよ う な材 料お よ び構造 と し た。
(2) 使 用 材 料,
1) セ メ ン ト:普 通 ボル トラン ドセメ ン ト 2) 骨 材 :オー
ス トラ リア産 硅 砂 骨 材の粒 度 分 布を図一
2に示す。 (3
) 供試体の調 合 表一
1に示す と おり で,
供試体は同一
条 件ご とに 3体,
合 計 9体 制 作 し た。
(4
) 練混ぜお よび養生 練混 ぜは,
セメ ン ト物理 試験 用練りは ち と練りさじ で 行っ た。2
分間か ら練 り,
3分 間 本 練 りした後, 型枠と ステ ィー
ル リン グの 間に打設 し た。 24時 間で脱 型し,
RlR2 箔 ゲー
ジ R3 1’“
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.
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.
ξ 回.
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■
置日
■
■
■
ロ
■
生 本研究の一
部は,
昭 和 61,
62 年 度日本 建 築 学 会 学 術 講演 梗 概 築,
昭 和,
63年度日本建築学会東 海支部 研 究 報 告集に発 表 済みであ る。
* 東 京工科 専 門 学 校 (東京都立大学 大 学院生・
工修 ) 〔1988 年 5 月 10 日原 稿 受 理,
ig89 年3月7日 採 用決定} モ ルタル 1’
蠅
ス テt・
一
ル リシグ 11 11 鬮「
11 11 1■
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王R1
:22.
75
R2
:16。
00
vゴR3
:12、
40
w :10.
00
単 位 (cm) 図一
1 供試 体 形状 寸法と測 定シス テ ム9
表
一
1 実験結果 供 試 体 番 号 セ メ ン ト:砂比 (髭瓧) 破 壊材令 (時 間) o龜 × 1『 5 ε2 × 10’
5 破 壌所用畸問 (砂) 単 位 面槻当り の破 壊工ネル ギー
7。 (er8! り 最: (1 A−
1 78.
5 ε 1=
35,0象暮
32 且o 3π」 33.
臼 A−
2 1:1 6号 珪 砂 B6,
0 平均 88.
oC5 =39,
ε 2嵩36 匚o 平均 8.
32422 」 平均 354.
6 44.
2: A−
3 99.
6 81 ロ25、
ε 7=225 264.
5 2日,
3亅 A−
4 22止.
0 ε1霜
47,ε 書竃
3625 監712.
9 53.
3咽 A−
5 水 セ メ ン ト 比 40 % 亅:2 6号畦砂 24【.
o 平 均 234.
389 ‘33,
ε霍霜
25 蜘 平 均 608870.
5 平均 1045.
6 37。
4: A−
6 24Lo ε凾=32 ,ε2召
27 蜘 553.
6 36.
21 A−
7 239.
o CI=26,
ε 2=01917 1268.
3 27.
21 A−
8 1:3 6号 硅 砂 2235 平 均 243ρ ε1=
3乳,ε2=
o 鐙20 平 均 3050 【803.
3 平均 巳q46.
5 32.
5( A−
9 266.
4 ε 1=26,
ε書=03614 1268.
3 27.
表 最 大 引 弛 強 度 (K8『!Cl許) 平均 36.
42 甼均 42.
30 平 均 :rg.
Ot 注) 破 壊材令:砂、
セ メ ン ト、
水柴加 え 練 混 ぜてか ら破 壊が聞始 す る まで の時間 破 壊所用 時 間 :ステー
ルリ ングの内周のひ ずみがε且がらε2に変化す る問の所用 時問 単 位面阻 当り の破 壊エネルギー
:△Wc そ モ ル タ ル リ ングの断 面積で除し 沌埴 且oo
通 過80
す る 百50
分 率 % 10.
0.
150 .
3
0.
6 ふ る い の呼 び 寸 法 ( ) 図一
2 6号確 砂の粒 度分布 測 定 位 置に設 置 後,
ホイー
トス トンブリッジの端 子 をひ ずみ測定 器の コ ンディショ ナー
に結 線した。 実 験は,
す べ て次の条 件の恒 温 恒 湿 室 内で行っ た。 温 度 :20℃±0.
1℃,
湿 度 :60%±2% 2.
2
ひずみ測 定 方 法 図一
1に示 す よ うに,
供 試 体の スティー
ル リング部 分 の 内周に,180度間隔に 2枚の箔 ゲー
ジ(抵 抗 値 :350Ω,
抵 抗素子 :Cu − Ni
箔, 温 度 補 償 範囲 : +10℃〜
+100
℃ )を接着 し,
さ らに, ホイー
トス トン ブリッジ を 組み立て,
防 水の た め ワ ック ス でコー
ティング を し た。
そ して, 円周 方 向の変 化 を測 定する ため,入出 力 端子 を,
ひずみ ゲー
ジ式 土 木 変 換 器の コ ンディ ショナー
に結 線 し,
5秒に 1回の割合で値を測 定し,
変化状況 を 打 点 式 記録計でチャー
ト化し た。
§3.
実 験結果と考察3.1
ス ティー
ル リン グのひずみ変 化と破 壊経過 供 試 体の破 壊す る経過 と,
そ れ ぞ れ の状態で,
モ ル タ ル リングとス ティー
ル リングが所有するポテン シャ ルエ ネルギー
を 図一
3に示す 二a
)
打
設完
了
「2 −
rl 虞b
)
破 壊開 始 直
前
、 ノ ノ c)
破壊
(
相
変
化 )
完
了
d
)
完
:全
開放
図一
3 破 壊経過 と そ れ ぞ れの状 態 で 所 有 す るポテン シ.
ヤ ルエ ネ ルギー
一
10
一
U
(r) 脳 結 合 力 』F
(r) r 位安定
艷
図一
一
4 常温時に固体の力関数例 結 合 エ ネ ル ギ ー ポテンシャル の井戸(安 定 ) 図一5
常 温 時に固 体の ポテンシャル関 数 例,
皿叫
時引
刻 軌沮
・
8・
−.
巳召
9118D
亀℃
・
18
ー一
ε2
F
!
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欄
粥
図一
6 【.
戸
ー 実測チャー
ト (試 験 体番号A−
Zセ メ ン ト砂 比 1:1〕 L臼
000 隠.
.
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面 図一
フ 実 測チャー
ト (試 験 体 番 号A−
5,
セメ ン ト砂比1:2) 124
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量、
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J・
… ・
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L!1i.
け 図一
8 実 測チャー
ト (試 験 体 番 号A−
8,
セ メ ン ト砂 比1:3)一
11
一
図
一
3 に お い て,
a)の状 態は,
水 を加え た モ ル タル を一
定時間練混ぜ,
さ ら に型枠を使用し てスティー
ル リ ングの ま わ り に打 設し た状 態を示 す。 時 間が経 過 するに 従っ て水和反応が進行し,
硬化が促進さ れ,
強 度が 上昇 す る。 同時に,
反応に使 用さ れ な かっ た余 分の水 分は蒸 発し, 次第に収縮す る。 スティー
ル リングで拘 束して い な け れば,
安 定な状態の ま まで いるモ ル タル リング だ がt 拘 束さ れて いる ため,
自身に引 張 応 力, スティー
ル リン グに 圧縮 応 力が生ずる。b
)の状態で は円 周方 向に最 大 引 張 応 力が,
ス ティー
ル リング に は同じ値の圧 縮 応 力が生じ る。 こ の時, それ ぞ れの結 合 部 分は,
図一
4,
図一
5の r=
r1 の状 態にある。 さ ら に,
この 時モ ル タル リン グ全体が所有す るポテ ン シ ャル エ ネル ギー
をG
。,
ス テイ 」 ル リン グの所 有 量 をGs
とす る と, 破壊開 始 点の ス ティー
ル リングの円 周 方 向の ひずみ は図一
6, 図一
7 , 図一8
の実測チ ャー
トの ε1 とな る。
こ の時 点で, 破 壊に必 要な, 最 大 応 力条件が満 たされ たことにな るの だ が, 破 壊す る た め に は,b
)か らc>に移 行 する間に,
.
b
)の矢 印 部 分で,
(r、一
η)の 不 可 逆 過 程にともなう, 表 面 作 成に必要な, △We の ポ テン シャ ルエ ネル ギー
の増 加 を 必 要 とす る (図一4
の ム肌 で あり, 図一
5の矢 印の大き さ に 等しいAWc
の 値)。
c)では, セ メン ト硬化物の所 有す る ポ テン シャ ル エ ネル ギー
量はCc
十 △W
』,
ス ティー
ル リングの量 はGs−
AGs とな り, そ の時の ひずみ は図一
6, 図一
7,
図一8
に おい て εt と なる。d
)の状態で は,
そ れ ぞ れの ポテ ンシ ャル エ ネル ギー
は0
と な る。 3.
2 セ メ ン ト砂 比と破 壊 性 状の関 係 図一6,
図一7,
図一8
の実測チャー
を 比較す る と,
セ メ ン ト砂比 が1
:1,1
:2,
1 :3と変 化 する に従っ て, ε1か らε2まで の打 点数が多く なっ て いること が わか る。
こ の間は,
図一3
の,b
)か らc)に移 行して い る状 態で, 2つ の リングの,
円周 方 向の力の バ ラ ン ス が くずれ な が ら,
表 面が作 成 されつ つ ある状 態にあり,1
:ユ は,1
:2
や 1:3
に比 較 して, 短 時 間の間に破 壊してい ること が わ かる。 これは, 1:2, 1 :3に比較して, 1 :1が脆 性 的 破 壊を起こ し て い る こと を示し てお り, モル タル 中 の砂 量の割 合が破 壊 性 状に影 響す るこ と が 分か る。 3.
3 破 壊開 始 までの 材 令 打 設 完了か ら, 最大 引張応力 状 態と な り,
破 壊が開始 さ れる までに必 要と す る時 間 (材令 )の平均 値は,
セメ ン ト砂 比が 1:2の場 合 は 1:1に比べ 2.
66倍に,
1:3 の場 合は1:1に比べ 2,
76倍に増 加してい る。 これより, セメ ン ト砂比は,
破 壊材令に影 響を及ぼ し て い る こと が 分 か る。
3.
4 最大引張強度一
12
一
図一
6, 図一
7, 図一
8 で ひずみ が ε、の 時,
モ ル タ ル リングの円 周 方 向の応 力は最 大引張強度と な る。 表一
1 に示 す よ うに,
同一
調 合の供 試 体の最 大引張 強度の平 均 値は,
セ メ ン ト砂 比が 1 :2の場 合,
1:1と 比 較 す る.
と 1.
16倍と増 加 するが,
1:3の場 合は1
:1
と 比較して0.
8
倍,
1:2と比 較 して も0.
69倍 と 減 少して いる。
こ の原 因の一
つ とし て,
長 期 載 荷による応 力 緩 和が考え ら れ る。 §4.
破 壊 経 過の熱 力学的 解 析 4.
1 系の概 念の導入 と熱 力 学第1
法 則 (1 ) 系の定義と供試体へ の導入6)・
T) 系 とは, ある現 象の研 究 対 象と して,
他か ら弧 立し て い る物 質につ い て用いる用語で あ り, 考察の対象と する 系 以 外 を外 界 という。
物 質の 出入の ない状態を系が閉じ て い る,
出入りの ある状 態 を開いて い るとい い,
圧 力,
温度,
体積などで系の状 態が表 現さ れ る。
図一
9にその 概 念図 を示す。本 研 究の 供 試 体は,
図.
−
10に示す よ うに, 温度条件一
定の恒温恒湿室 内で 弧 立 して いる。 さ らに,
その中で,2
つの系は,
圧力,
体 積を変 化さ せ る ことに よ り系を開 閉し,
相互に仕 事 をし てい る とい える。
(2
) 熱力学第1
法則の数 学 的 表 現6 )・
ηあ る閉じ た系が
,
最 初の状 態か ら最 後の状 態まで変化 し,
外 界からdW
の仕 事 とdQ
の熱 量 を吸 収し た場 合,
系 内のエ ネルギー
変 化 量dE
は, 変 化の経路によ らず 最 初と最後の状態に よっ て の み決ま る。
す なわ ち, 系の 内 部エ ネルギー
は,
系 外からのエ ネルギー
の補 充が無い と 増加せず, 無か ら有
1よ生 じ ない こと を意 味 する。 第 1法 則はエ ネル ギー
保 存 則と もい わ れ,
数 学 的に は (1)式 の よ うに表され る。
dE
=
・dQ
十dW …・
…………・
………….
……・
(1) 外 界 dE 中 ← 黼 飆 懺醸職 図一9
一
般 的な系の概 念 図 と 熱 量 仕 事の出入り 図一10
供 試 体の系の概 念 と仕 事の出入りP
,
t一
一一
一
N,
N▽
ノ 図一
11 体 積 変 化の仕 事 (3 ) 体積 変化の仕 事6 }・
T] 系の受け る力学 的 仕 事dW
は,
(2)式の ように外 圧 p と微 少 体 積 変 化dv との積で表現され,
系が体 積増加 する時, 外に対し仕 事を し,
減少す る 時,
外 か ら 仕 事 を され ることにな る。 図一11
の よ う に,
外力 p は, 系が 気 相の場 合,
器 壁へ の気体分 子の衝突に よ る反 力 を,
系 が液 相,
固相の場 合,
分 子 間力によ る 反力 を受ける。
dW =−
P×dv ・
・
・
……・
…・
・
…・
・
・
・
………・
・
…
(2) 4.
2
不 可 逆過程と熱 力学 第2法 則(1 >
可 逆 過 程 と 不 可逆過程6 )
−
9〕 エ ネルギー
系が, あ る状 態か ら他の状 態に変 化す ると き,
外界に状態変化を もた ら さず 最 初の状 態に も ど すこ との で き る経過 を 可 逆 過程という。
可逆過程は仮 想 的な 理 想 過 程で あ る が,
最大 効率での理論を進め ることが可 能であり,
理論 的に は重 要な過 程である。
し か し,
自 然 界に起こ る 現象は一
定の方 向 性 を 持つ不 可 逆 過 程で あ る。 本研究の破 壊 経 過を自然 界の現 象と して考 察す る な ら ば,
図一
3の破 壊経 過は不 可逆 過 程であり,b
)か ら c) に は変化す る が, c>か らb
)に逆 行 すること は,
外 界 か ら仕事を加え ない 限り起こら ない ことにな る。(2 ) 熱 力 学 第2法 則の数 学 的表現6)
“
’
9)Kelvin
,Clausius
らは‘
‘
同 時にある量の仕 事を熱に変 え ること な しに,
低 熱 源か ら高 熱 源に熱を移 すこと は不 可能で あ る”
の結 論 に達 し た。
さ ら に,
閉じ た系の熱量Q
の変 化 量と絶 対温度T
との 関 係 をエ ン トロ ピーS
と 命 名し,
』
(3 )式で表 現し た。
(3
)式は可 逆 過 程 を 等 号,
不 可 逆 過 程を不 等 号で表 現 し てい る。
dS
≧雫
・
・
…………・
………一 ・
………
(3
) 4.
3 Gibbs の 自由エ ネルギー
の 移 動方向 (1)Gibbs
の 自由エ ネルギー
5 )・
T ) (定温定圧変化) (3
)式を (1
>式と組み合わ せ る と (4)式と な る。
等 号は可 逆 過 程の理 想 状 態,
不 等 号は不 可 逆 過 程の 自然 発 生状態を示す。
dE −
71×dS
≦d
隔厂…………・
・
…r…・
………
(4> 本 研 究の よ うに,
定 温で熱 量の出入が な く,
定圧でス ティー
ル リング とモ ルタル リング2
つ のエ ネルギー
系の 体積変 化の仕 箏 だ け を 考 え る と き, 仕 事 量は (2)式 と な る。
(2 )式,
(4 )式よ り, (5 )式が得られ る。
・
括 弧内はGibbs
の自由エ ネルギー
と呼ばれ,
(6
)式の よ うにG
で表 現さ れ る。
(5) 式,
(6) 式よ り,G
の極 微 変 化に関して は (7 )式が成 立する。
d
(E
十pv− Z
「S
)≦0−・
・
…
9・
一・
…
tt・
・
・
・
…
一・
・
…
(5)G
==E
十 ρv− TS ・・・・・・・・・・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
…
(6)dG
≦0・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
…一
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
…
∴…
(7) (
7
)式は,
定温定圧で は,
系の変化はGibbs
の 自 由エ ネル ギー
が 減少す る方 向に進 むこと を示してお り,
可 逆 過程とい う極限で変化はO
と なる。 (2
)Gibbs
の 自由エ ネ ルギー
の温度,
圧 力に よる変 化E}・
η G の状 態 変 化が, 体 積 変 化に伴う, 可 逆 過 程の,
理想 的 状 態の場 合につ い て考 察 する。 すな わち,
その条 件は (4)式の等 号 部 分であり,
(2 )式を代入す ると (8) 式とな る。 ま た,
(6) 式の極 微 変 化は (9
)式とな る。
さ らに,
(9
)式に (8
)式を代入 す る と (10
)式
が得 ら れ る。dE
=T
×dS −
pXdV・
………・
…・
・
・
………
(8}dG =dE
十pXdv 十V×dp
−
7×〔オs − s
×(オT ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
…
(9
)dG ニ
ーSXdT
+ vXdp……・
…・
………・
…
(10)[
器]
P=− s − ・
一 …一 ・
・
・
・
…
1
……・
・
…・
川[
暮
募
ト
………・
………一 ・
・
一 ・
(12 ) (10) 式は定圧の と き dp三
〇 で (11>式の,
定温 の時dT ;
Oで (12)式の 関係と な る。
本研究の よ うに, 恒 温 (定温)で系の圧力が, Plか ら Pt に変 化する場 合,
有 限の,
系の 自 由エ ネル ギー
変 化 △G
は,
(12)式を積 分 することに より求 めら れ, (13 ) 式で表さ れ る。 理 論は可 逆 過 程で進め たが,G
は状態 量であり,
AG は経 路に よ らず,
系の最 初 と 最 後で決ま る たφ,
可 逆,
不 可 逆いずれの過 程 も (13)式で示さ れ る。
す なわち, あるエ ネル ギー
系に何らか の状態変 化が 生じ た時 (本 研 究の ように, 定 温の恒 温 室に おいて, 図一
3の a)か らb
) まで不 可 逆 破 壊が進 行す る時),2
っ の系の有 限のGibbs
の 自 由エ ネルギー
変 化は, (14)式 の よ うに常に減 少 方 向に作 用 することになる。
△G − G
・一
・・一
∬
×・・
一 ・
・
……一 …
(・3) △G
≦0 ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・・
・
・
・
…
(14)一
13
一
4,
4
供 試 体 内に み ら れ るGibbs
の自由エ ネル ギー
と その変 化 (仕 事 )の方 向6Lη 図一
3のb
)の状 態で は, モ ル タル リン グにGc,
ス ティー
ル リン グにG。
の ポテン シャ ルエ ネル %“
−
is2) (Gibbs
の自由エ ネル ギー
)が存 在 する。
破 壊 が 進む と,
力の つ り合 条 件が く ずれ,
圧力と体 積の変 化が生 じ,b
) か らc)に変化す る。 こ の 時,
モ ル タル リングの圧 力が ρ,、か らp,:に,
スティー
ル リングの圧 力が ρ。
、か らp。
2 に変化 し た と す る と,
熱力学 か ら導か れ る (13)式,(14 ) 式に よ り, (15 >式, (16
)式が導か れ,
いずれの系の エ ネルギー
も常に減少方向に作用 す ること が判明す る。
・ 砂蔚
×・・≦ ・…・
……・
……・
…・
一
・
…・
(・5 } △砧∬
・Xd ・ ≦ ・…一 ………・
一 一
(16
) 4.
5
破 壊エ ネル ギーAWc
の所在 (1
) エ ネル ギー
最 大 効 率の視 点か らの考察 図一
1の供 試 体が,
図一
3の よ う な 経 過で破壊 す る 場 合, AWc を補 うことの で きる の は,
b
)で存 在するGc
とGs
の い ずれ かである。G
,に より補わ れ た と仮 定 し,
そ のエ ネルギー
効 率につ い て考 察す る と (17)式と な る。
(17)式は 100% を 超 え,
最 大エ ネル ギー
効 率を超える ことを示して いる。 すな わ ち,
こ の仮 定は無から有 を 生 じ さ せ ることに なり,
エ ネル ギー
保 存 則に反する の で 自 然 界に は生じ な い現 象とい える。 よっ て, 4肌 は モ ル タルが系の外の スティー
ル リング から もらっ た仕 事で な けれ ばな らず,Gs
が,
そ の ひずみを εtか らε、に変 化さ せ る間に, モ ルタル の円 周 方 向に行っ た仕 事であり, 減 少し た AG 。の,
円周 方 向のエ ネル ギー
が △呪 に変 化し た こ と に な る。
Gc
+AWcCC
>1… ’
イ
’
… 凾
… ’
… ”… … ’
…
(17)(2 ) エ ネルギ
ー
移 動方 向の視点か らの考 察(
15
)式,(16)式により,系のGibbs
の 自 由エ ネル ギー
は減 少 方 向に進むこと が論 証さ れ る。
し た がっ て,
図一
3でb
)か らc)に進む時,
ス ティー
ル リン グとモ ル タ ル リングの力がつ り合 状態の 時,
変 化量AG
。,
AGc
は 0の等 号 状 態を,
状 態が変 化す る時,
不 等 号の減 少方向 に進む。
ところ が, 不 可 逆 過 程に伴 う破 壊に必 要なエ ネ ル ギー
は, 破 壊 系の モ ル タル リン グに とっ て △既>0 のエ ネル ギー
であり,
図一
5の 矢 印の よ うに,Gibbs
の 自 由エ ネル ギー
が増 加する こ と である。
した が っ て,
減 少方 向に の み作 用する AGe が,
不 可 逆 破 壊のエ ネル ギー
△肌 に変 換する可 能 性は皆 無と断 言でき る。 L・
れ ら のエ ネルギー
移 動の可能性につ い て,
図一
12に示す。
4.
6 弾 性 論を使 用してのAWc
の算定10)−
t2) 熱力学 的解析に よ り,
ム晩 は, ス テ ィー
ル リングの エネル ギー
変化 量 △Gs
の 円周 方 向の減少量によ り補わ一
14
一
場合 1 駘 矼[ 鵬
…,
.
巳
■
驫
驫
△Wci 一區!
図一
12 エ ネルギー
移 動の起き る可 能 性 れ ること が判 明し た。4
殊 を弾性論に よ り解析する と,
その値は (18 )式で示さ れ,
単 位 断 面当た りの値は (19) 式と なる。 実 測ひずみを代 入して得 ら れた単 位 断 面 当た り の計 算 値を表一1
に示す。 そ れに よ る と,
セメ ン ト砂 比が 1:1,
1:2,
1:3と砂量の 割合が 増 加す るに従っ て,
破 壊に伴う表 面作 成に必要なエ ネル ギー
は増 加す る傾向 にあること が 分 かる。
・We一黷
(・}一
・1
)∬
ズ
(
R …毒
1
ヒ1
・ rfi・の
1
(1+ ”s)撃
・・1噛 囮 … φ………
(18) △We
・・= w (R,
− R
,)’
’
”… ”… … ’
『
’
… ’
’
’
”
(19
> 式 中の記 号は以 下の よ うに き め た。
R
,:モ ルタル リン グの外半径 (22.
75cm )R
、:ス テ ィー
ル リングの外半径 (16.
0〔)cm )Rs
:ス ティー
ル リン グの内半径 (12.
4
(lcm ) ω :ス ティー
ル リン グの幅 (10.
00cm ) μs :ス テ ィー
ル の ボア ソ ン比 (.
O.
3) ε宦:破 壊 開 始 時の ステ ィー
ル リングの ひずみ εz :破 壊 完了時の ス テ ィー
ル リングの ひずみ §5,
結 論 実験お よ び熱 力 学的解 析に より以 下の結 論 を 得た。5.
1
水セメ ン ト比が一
定で,
同一
一
粒度の骨材を使 用 し た今回の実 験 結 果は,
セ メ ン ト砂比の変 化に より著し く異なっ た。 これ よ り,
乾 燥 収 縮に よ るひび割れ発 生ま で の材 令,
セ メ ン ト硬 化 物の破 壊 性 状,
破 壊に必 要なエ ネルギー
量に は, モ ル タル中の セ メ ン ト砂 比が影 響し て い る ことが 分かっ た。
5,
2 恒温恒湿に おける,
供 試 体の乾 燥 収 縮に伴う破 壊 現 象を,
熱 力 学 的 方 法に よ り解 析 し た結 果,
破 壊に よっ て生 じた新し い表 面を作 成し た の は,
ス テ ィー
ル リング の エ ネルギー
であ ること が証 明さ れ た。 そ の結果,
弾性 論で解 析し,
測定さ れ たス ティー
ル リングの ひず み変化 を代入 す れば, 破 壊に伴う表面作成に 必要なエ ネルギー
量が算 定で き ること が 分 かっ た。
5
.
3
モ ル タル リングの所 有 するポテンシャ ルエ ネル ギー Gc
は,
破 壊が進 むに伴い系か ら散 逸, 減 少す る方 向に使用さ れ , 破 壊に伴う表 面 作 成に は使わ れ て い ない ことが分かった。
また, 破 壊に必 要なエ ネルギー
ム 既 は, モ ル タル に とっ てGibbs
の 自 由エ ネル ギー
が増 加 する ことで ある の で, モ ル タル系のエ ネルギー
に変換し た後は,G
,と 同 じ く, モ ルタルか ら散 逸, 減少す る方 向に進むこ と が分か る。
5.
4 供 試体の破 壊経過の 考察に は, 系のエ ネル ギー
出入 に伴う 理想過程での最大 仕 事量 は保存さ れ る とい う 熱 力学 第 1法 則に よる視 点と,
現 実に は土 ネル ギー
の移 動 方向が存
在す る とい う熱 力学第 2法 則に関す る視点が 存在す る。
5.
5
乾 燥 収 縮の破 壊 研 究に使 用され てい た供 試 体は,
熱 力学 的 視 点の導入 により, ポテ ン シ ャ ルエ ネル ギー
を 使っ て仕 事 をす る熱 機 関 と見 立てることが できる。 注 1)論文の構 成 上明確な定 義は §4で述べ る。
2} 弾 性 論で使 用され てい るポテンシャ ルエ ネル ギー
と は,
熱 力 学 的にはGibbs
の 自由エ ネルギー
のことである。
参考 文 献 1) 岸 谷 孝一,
平 居 孝之,
村 上 聖:破 壊 力学モデル解 析に 基づ く間 接 評 価.
コ ン ク リー
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日本 建築学 会 構 造 系論文報告集, 第 360 号,
pp.
10〜
16,
昭 和61年2月 2)岸 谷孝一,
平居 孝之,
村 上 聖 ;コ ンク リー
トの破 壊 力 学に関 す る 研 究,
日本 建築 学会構造 系論文報 告集そ の 1 破 壊 過 程 域の損 傷 解 析,
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pp.
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17,
昭 和61年10 月3) R
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1皿fluence Qf FiberRein.
force皿 ent Qn Restrained Shrinkage and Cracking”
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460,
March,
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4} 鈴 木 要:エ ネル ギ
ー
変 換に よ る表 面 自由エ ネルギー
測 定 (基本概 念 と 理 論)t そ の 1一
セ メン ト硬 化 物の破 断 応 力に関 す る基 礎 的 物 性 測 定,
日本 建築学 会 構 造系論 文報 告 集,
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」、
MQore :物理化 学一
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藤 代 亮一
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東 京 化 学 同 人,
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1982年6月 10)小 井 戸 正六 :材 料 力 学 演 習, 学 献 社, pp.
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1979年 1月 ll)三好 俊 郎 :有 限 要 素法 入門,
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Wang :応用弾 性 学,
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pp」71−
204,
1976年8月SYNOPSIS
UDC :691.
32 :666.
97 :620.
17 :620.
193.
5
THERMODYNAMICS
STUDY
ON
FRACTURE
OF
RESTRAINED
HARDENED
CEMENT
PASTE
Part
l
Anaiysis
by
the twobig
laws
of thermodynamicsby KAM 皿E SUZUKI
,
Graduate Student of Tokyo Meしmpo.
litan Uロiv
.
,
;Present Tokyo TechnicalCollege
,
Memberof A
.
1.
J.
As
fracture
is separating material,
soit
is
possible to appreciate thatfracture
is chemical reaction of solid.
Chemical
thermodynamics is usedfor
afundamental
theory of chemical reaction,
so it is posibleしo predict the effecton apPlying 亡
he
thermodyna 皿ics to the analysis of fractttre of hardened cement paste.
The
purpose of this reportis
to analyze thebreaking
phenomenon of specimensby
しhe
application of the twobig
laws of thermodynamics
,
The outline of results is as follows
.
(1)