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水田土壌への米ぬか施用による有機酸の生成と水稲の活着および生育との関係

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Academic year: 2021

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令和元年 7 月 22 日受理 連絡責任者:大江真道(ohe_m@plant.osakafu-u.ac.jp)

水田土壌への米ぬか施用による有機酸の生成と水稲の活着および生育との関係

鰐渕元貴

1)

・徳本勇人

2)

・大江真道

1) 1 )大阪府立大学大学院生命環境科学研究科(〒 599-8531 堺市中区学園町 1 番 1 号) 2)大阪府立大学大学院理学系研究科(〒 599-8531 堺市中区学園町 1 番 1 号) 要旨:水稲の有機栽培において,田植え時における水田土壌表面への米ぬか施用は,雑草防除技術の一つとして 行われている.本研究では,米ぬか施用により生成される有機酸と水稲の活着および生育との関係を明らかにし ようとした.米ぬかの多施用(500g/m2 )で土壌は強い還元状態で推移し,土壌中には高濃度の酢酸と酪酸が生成 した.米ぬかの多施用(500g/m2 )は米ぬか無施用区と慣行区(100 g/m2 )に比べて,活着を遅らせ,また生育の 指標とした葉齢進展と茎数増加を抑制した.特に収量と密接な茎数は,用いた苗の苗齢(稚苗:葉齢 3.2,中苗: 葉齢 5.0)に因らず,早植え(5 月 11 日移植)で普通植え(6 月 13 日移植)に比べて強く抑制された.移植時か らの気温の低い早植えでは米ぬかの分解が遅く,長期にわたる有害な濃度の有機酸の存在が生育に影響を与える ものと考えた.安定的な米生産からは,米ぬか除草は移植苗の種類に因らず普通植えと組み合わせることが望ま しいと考える. キーワード:米ぬか,酸化還元電位,水稲,除草,有機酸

緒言

近年我が国では,食の安全性に対する関心の高まりを背 景に,農薬や化学肥料の使用量を削減する環境保全型農業 が推進されている.無農薬や減農薬の水稲栽培においては, 除草剤を用いずに効果的な除草を行うことが重要な課題で あり,合鴨の放飼(鯨ら 2006),紙マルチ栽培(梅崎・津 野 1998),米ぬか表面施用(千葉ら 2001)など,様々な耕 種的雑草防除が行われている.中でも米ぬか表面施用は水 稲栽培の副産物を使用することから,資材の入手が容易で 取り組みやすい実用的な技術として注目され,導入する農 家も増えている.米ぬか施用による抑草効果は,土壌表面 の物理的被覆(福島・内川 2002),土壌微生物による米ぬ かの分解に伴う土壌の還元化(中山 2010)および有機酸の 生成(上岡 2015)などの複合的な作用により得られると考 えられ,アゼナやタマガヤツリなど複数の水田雑草種に対 して高い効果を示すことが 知られている(中井・鳥 塚 2009).しかし,米ぬか施用による土壌中の有機酸生成の 詳細については報告例が少なく,とくに生成する有機酸の 種類や量についての知見は未だ不足している.酢酸や酪酸 などの有機酸は,生育初期の水稲の養分吸収に阻害作用が ある(瀧島ら 1960)ことから,水稲移植時の米ぬか施用は, 水稲の活着およびその後の生育にも抑制的な影響を与える 可能性が考えられるが,その影響の程度については明らか になっていない点が多い.本研究では,米ぬか施用後に土 壌中に生成される有機酸の種類と量の変動について継時的 に調査して明らかにするとともに,水稲の活着と生育に及 ぼす米ぬか施用の影響について,移植時の苗齢と移植時期 を変えて調査を行い,作付け体系の違いにおける米ぬか表 面施用が水稲の活着と生育に及ぼす影響程度の変動につい て明らかにしようとした.

材料および方法

試験概要 試験は,2018 年に大阪府立大学附属教育研究フィール ド(大阪府堺市)で行った.同フィールドの水田土壌(灰 色低地土)約 3kg を 1/5000a ワグネルポットに充填し,基 肥として化成肥料そだち 8 号(N:P:K = 8:8:8)を, 各成分量 0.5g になるようにポットあたり 6.25g 施用した. 水稲品種コシヒカリを供試し,同フィールド内の温室で育 苗した苗を,ポットあたり 1 株 3 個体で移植し,移植後の 湛水深は約 4cm とした. 水稲の移植時期と苗齢の違いによる米ぬか施用の影響程 度の変動を調査するため,移植時期として,5 月 11 日移 植の早植え区と 6 月 13 日移植の普通植え区の 2 試験区を 設定し,それぞれに稚苗区(葉齢約 3.2)と,中苗区(葉 齢約 5.0)の 2 試験区を設定した.各移植時期の苗齢区に, 米ぬかを施用しない無施用区を対照として,慣行的な施用 量の 100g/m2 とした慣行区,500g/m2 とした多施用区の 3 試験区を設定し(第 1 図),移植直後に土壌表面に米ぬか を施用した. 調査項目 酸化還元電位の測定:Eh 用白金電極(二重管式 EP-201 型,藤原製作所)を,土壌中に 2cm 埋没させ,比較電極(4400 型,藤原製作所)と,土壌用 pH/ 硝酸 /Eh 計(PRN-41 型, 藤原製作所)を用いて,移植日から約 10 日後までの酸化

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還元電位を測定した. 有機酸の測定:各ポットの土壌表面から 4cm の土壌約 3g を,早植え区では移植日から 5 日後までの毎日,普通 植え区では移植日から 10 日後までの隔日に分析用試料と し て サ ン プ リ ン グ し た. サ ン プ リ ン グ し た 土 壌 は VORTEX(VORTEX-GENIE2,Scientifi c Industries)で撹拌 し た 後, 卓 上 小 型 遠 心 機(2010,KUBOTA) を 用 い て 1,000rpm で 3 分間遠心分離し,上澄み液をさらに微量高 速遠心機(himacCF15R,日立)を用いて 15,000rpm で 15 分間遠心分離した.得られた上澄み液は,0.2μm のナイ ロンシリンジフィルター(Thermo SCIENTIFIC)でろ過し て,445nm の UV 検出器(UV-2070 Plus,JASCO)とカラ ム(RSpak KC-811,Shodex)を装着した高速液体クロマ トグラフィーにより有機酸の測定を行った. 生育調査:水稲の活着の指標として初発分げつ 日数(山 本 2014)を調査した.水稲の生育応答として,葉齢と茎 数の推移を約 9 日ごとに調査し,最終的な穂数の半数が出 穂した日を出穂日として記録した. 試 験 期 間 中 の 気 温 は, 温 度 計(TR-57DCi,T&D Corporation)を設置して測定し,統計解析は,統計解析ソ フト(IBM SPSS Statistics 24)を用いて行った.

結果

早植え区と普通植え区における平均気温の推移を第 1 表 に示した.移植後 10 日間の平均気温は普通植え区で約 1.5℃高く,その後も移植後 60 日頃まで早植え区より普通 植え区の平均気温が高く推移した. 土壌中の有機酸濃度の推移について第 2 表に示した.米 ぬかを処理すると,酢酸と酪酸の生成が認められ,特に多 施用区では高い濃度の有機酸が長期にわたり存在する傾向 が確認された.移植時期の違いによる有機酸生成の推移を 見ると,多施用区では,早植え区,普通植え区ともに,処 理 2 日後に酢酸と酪酸の生成が認められ,普通植え区が早 植え区と比べて高い濃度で推移した.また,慣行区では, 酢酸と酪酸は低い濃度で生成が認められたものの,検出で きなかった日も多かった.なお,米ぬか無施用区では,酢 酸と酪酸の生成は認められなかった. ↓᪋⏝༊ ័⾜༊ ከ᪋⏝༊ ⛶ⱑ༊ ↓᪋⏝༊ ័⾜༊ ከ᪋⏝༊ ୰ⱑ༊ ᪩᳜䛘༊䠄5᭶11᪥⛣᳜䠅 ↓᪋⏝༊ ័⾜༊ ከ᪋⏝༊ ⛶ⱑ༊ ↓᪋⏝༊ ័⾜༊ ከ᪋⏝༊ ୰ⱑ༊ ᬑ㏻᳜䛘༊䠄6᭶13᪥⛣᳜䠅

第 1 図 試験区の設計.

注)図中の○はポットを示し,各試験区 6 ポット合計 72 ポットで試験を行った. 第 1 表 平均気温(℃)の推移 ⛣᳜᫬ᮇ  ⛣᳜ᚋ᪥ᩘ㸦᪥㸧  㹼 㹼 㹼 㹼 㹼 㹼 㹼 㹼 ᪩᳜࠼          ᬑ㏻᳜࠼         

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土壌中の酸化還元電位の推移を第 2 図に示した.すべて の試験区で酸化還元電位はゆるやかに低下し,移植 6 日後 の米ぬか多施用区の酸化還元電位は,他の試験区よりも 100mV ほど低く推移した.土壌中の酸化還元電位と酢酸 第 2 表 土壌中の酢酸および酪酸濃度の推移  ヨ㦂༊  ⃰ᗘ P0  ⛣᳜ ᫬ᮇ ⡿ࡠ࠿ ᪋⏝㔞   ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ 㓑㓟 ᪩᳜࠼ ↓᪋⏝  1$ ̿ 1$ 1$ 1$    ័⾜  1$ 1$ 1$ 1$     ከ᪋⏝  1$        ᬑ㏻᳜࠼ ↓᪋⏝   ̿  ̿  ̿ ̿ ̿ ័⾜   1$    1$ 1$  ከ᪋⏝          㓗㓟 ᪩᳜࠼ ↓᪋⏝  ̿ ̿ ̿ ̿ ̿    ័⾜  ̿ ̿ ̿ ̿ ̿    ከ᪋⏝  ̿        ᬑ㏻᳜࠼ ↓᪋⏝   ̿  ̿  ̿ ̿ ̿ ័⾜   ̿  1$  ̿ ̿  ከ᪋⏝          ὀ㸧̿㸸↓᳨ฟ1$㸸᳨ฟ୙ྍ್ -300 -200 -100 0 100 200 300 400 0 2 4 6 8 10 Eh (m V ) ⛣᳜ᚋ᪥ᩘ䠄᪥䠅 ᪩᳜䛘䞉↓᪋⏝༊ ᪩᳜䛘䞉័⾜༊ ᪩᳜䛘䞉ከ᪋⏝༊ ᬑ㏻᳜䛘䞉↓᪋⏝༊ ᬑ㏻᳜䛘䞉័⾜༊ ᬑ㏻᳜䛘䞉ከ᪋⏝༊ 第 2 図 土壌中の酸化還元電位の推移. および酪酸濃度の関係性を調べたところ,酸化還元電位と 酢酸濃度の間には有意な負の相関関係が認められ,また酪 酸濃度の間にも同様の傾向が認められた(第 3 図). 本実験における活着の指標とした初発分げつ 日数を第 -200 -150 -100 -50 0 50 100 150 0 10 20 30 40 Eh(m V) ᭷ᶵ㓟⃰ᗘ䠄mM䠅 㓑㓟 㓗㓟 ⥺ᙧ (㓑㓟) ⥺ᙧ (㓗㓟) r=-0.625 r=-0.744** 第 3 図 土壌中の酸化還元電位と有機酸濃度の関係. 注)図中の ** は,1% 有意水準で相関関係があることを示す.

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3 表に示した.米ぬか施用量の多少による初発分げつ 日 数への影響を見ると,無施用区と慣行区では有意な差は認 められなかったが,多施用区では有意に長くなった.また, 移植時期の違いは有意に初発分げつ 日数に影響し,普通 植え区で早植え区よりも長期化する傾向が認められた.な お,移植時期と米ぬか施用量に有意な交互作用が認められ, 多施用区での初発分げつ 日数の遅延は,普通植え区と比 べて早植え区でより差が大きくなる傾向が認められた. 米ぬか施用による葉齢への影響を第 4 表に示した.米ぬ か施用量の多少による葉齢進展への影響を見ると,移植 9 日後には早植え区の中苗区で,移植 17 日後にはいずれの 移植時期と苗齢においても,多施用区の葉齢が無施用区と 慣行区に比べて有意に遅延した.一方,移植 27 日後には 普通植え区の稚苗区で,移植 36 日後には早植え区の稚苗 区以外で,多施用区の葉齢が無施用区と同水準までに回復 した. 米ぬか施用による茎数への影響を第 5 表に示した.米ぬ か施用量の多少による茎数増加の変動を見ると,多施用区 の早植え区では,移植 36 日後まで無施用区と慣行区に比 べて有意に少なく,普通植え区では同 27 日後まで無施用 区と慣行区に比べて少ない傾向が見られ,米ぬかの多施用 は茎数の増加を抑制することが認められた.移植時期の違 いによる茎数の抑制を見ると,移植 36 日後になると,普 通植え区は米ぬか処理の有無による違いが見られなくなっ たが,早植え区は依然として抑制されていた.米ぬか施用 量が出穂日に及ぼす影響を検討したところ,移植時期,苗 齢に関わらず多施用区で無施用区よりも 2 日遅延した(第 6 表). ヨ㦂༊  ึⓎศࡆࡘ㎾᪥ᩘ 㸦᪥㸧 ⛣᳜᫬ᮇ ⱑ㱋 ⡿ࡠ࠿᪋⏝㔞  ᪩᳜࠼ ⛶ⱑ ↓᪋⏝  sD ័⾜  sD ከ᪋⏝  sE ୰ⱑ ↓᪋⏝  sD ័⾜  sD ከ᪋⏝  sE ᬑ㏻᳜࠼ ⛶ⱑ ↓᪋⏝  sD ័⾜  sD ከ᪋⏝  sE ୰ⱑ ↓᪋⏝  sD ័⾜  sD ከ᪋⏝  sE ୕ඖ㓄⨨ศᩓศᯒ⤖ᯝ ⛣᳜᫬ᮇ $    ⱑ㱋 %    ⡿ࡠ࠿᪋⏝㔞 &    ஺஫స⏝ $™%    ஺஫స⏝ $™&    ஺஫స⏝ %™&   QV ஺஫స⏝ $™%™&   QV ὀ ⾲୰ࡢᩘ್ࡣᖹᆒ್sᶆ‽ㄗᕪࢆ♧ࡋ⛣᳜᫬ᮇูࡢྛⱑ㱋༊ෆࡢ␗࡞ࡿⱥᑠᩥᏐ㛫࡟ࡣ 7XFN\+6' ἲ࡟ࡼࡿ᭷ពᕪ㸦Ỉ‽㸧ࡀ࠶ࡿࡇ࡜ࢆ♧ࡍ୕ඖ㓄⨨ศᩓศᯒࡢ⤖ᯝQVࡣ᭷ព ᕪ࡞ࡋ ࡣ Ỉ‽ ࡣ Ỉ‽࡛᭷ពᕪࡀ࠶ࡿࡇ࡜ࢆ♧ࡍ஺஫స⏝ࡣ %RQIHURQL ἲ࡟ࡼࡗ࡚ ᳨ᐃࡋࡓ 第 3 表 初発分げつ 日数

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考察

米ぬかによる有機酸生成の特徴 土壌中の有機酸について,水稲の根の伸長を阻害する濃 度として,酢酸は 1.6mM 以上,酪酸は 0.1mM 以上である ことが報告されている(瀧島・佐久間 1961).本試験の多 施用区では,移植時期の早晩に関わらず水稲の根に対して 有害とされる濃度を大きく上回る濃度の酢酸と酪酸が長期 にわたり存在し(第 2 表),活着,葉齢進展,茎数増加を 抑制した(第 3 表,第 4 表,第 5 表).酢酸や酪酸といっ た有機酸は,根の呼吸と酸化的リン酸化反応を低下させて, カリウムやリン酸などの養分吸収を阻害することが知られ ている(松尾ら 1990).本試験の米ぬか土壌表層 500g/m2 処理で生成された高濃度の有機酸は,移植後比較的長期に わたって存在したことで,根からの養分吸収を阻害し活着 前後の初期の生育を抑制したと考える. 次に,移植の早晩による有機酸の生成の特徴については, 普通植え区の米ぬか土壌表層 500g/m2 処理では,早期に高 濃度の有機酸の生成が認められたが,一方で早植え区にお ける有機酸の濃度の上昇は普通植え区と比べて遅かった(第 2 表).早植え区では移植後の気温が低いために米ぬかの分 解速度が普通植え区よりも劣り,有機酸濃度の上昇に時間 第 4 表 葉齢の推移 ヨ㦂༊  ⴥ㱋 ⛣᳜᫬ᮇ ⱑ㱋 ⡿ࡠ࠿᪋⏝㔞   ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ ᪩᳜࠼ ⛶ⱑ ↓᪋⏝  s sD sD sD

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を要したと考えるが,多施用区の有機酸の高い濃度から考 えて移植 5 日後以降も有機酸の濃度の上昇が継続していた ものと推察された.早植え区の米ぬか土壌表層 500g/m2 処 理では,米ぬか処理 6 日後以降から有機酸濃度の減少を示 した普通植え区とは異なり,低温が有害な濃度の酢酸およ び酪酸の土壌中での存在をより長期化させ,結果として長 期にわたり水稲の生育に影響することが予想される. 米ぬか施用後の酸化還元電位の変化 土壌中の酸化還元電位について,米ぬかを土壌表面に施 用すると,土壌表層から還元化が始まり,深さ 1cm までの 酸化還元電位は急激に低下することが知られている.一方, 土壌表層から 2cm の深さでは,米ぬかを土壌表面に 200g/m2 施用しても,米ぬかを施用しない場合と同様の酸化還元電 位の低下であるとの報告がある(中山 2010).この報告と同 様に,深さ 2cm で測定した本試験でも,米ぬか土壌表層 100g/m2 処理と無施用の酸化還元電位低下の様相に大きな差 が認められなかった.米ぬか土壌表層 500g/m2 処理では,4 日後までは無施用区と同様に推移したが,4 日後以降では, 酸化還元電位は無施用区と同 100g/m2 処理無施用区に比べ て低く推移した(第 2 図).このことは,米ぬかが 500g/m2 のように多量に土壌表層に施用された場合では,処理 4 日後 以降になると土壌表層から 2cm の深さでも,酸化還元電位 が低下すると考える.また,土壌中の酸化還元電位と有機酸 ヨ㦂༊  ⱼᩘ㸦ᮏ࣏ࢵࢺ㸧 ⛣᳜᫬ᮇ ⱑ㱋 ⡿ࡠ࠿᪋⏝㔞   ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ  ᪥ᚋ ᪩᳜࠼ ⛶ⱑ ↓᪋⏝  s sD sD sD ័⾜  s sD sDE sDE

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の濃度には負の相関関係が認められることから,米ぬか分解 に伴って分解産物としての酢酸や酪酸が生成されると考える (第 3 図). 米ぬか処理量,移植時期および苗種が水稲生育に与える影響 初発分げつ 日数への影響 水稲苗の活着について山本(2014)は,初発分げつ 日 数が苗の活着の指標として簡便で有効であることを示して いる.本試験の初発分げつ 日数,つまり活着日数は米ぬ か土壌表層 500g/m2 処理で有意に長期化したが,同 100g/m2 処理では有意な影響を受けず,慣行量の施用は必ずしも活 着期間に影響しないと考える(第 3 表).移植時期と活着日 数について検討すると,早植え区よりも普通植え区で長期 化した.一般に移植後に気温が高ければ活着は優るが,本 試験における普通植え区の活着期間の長期化は,試験年の 活着期間における普通植え区の日照時間が早植え区に比べ て短かったこと,高温条件での育苗が苗質の弱化につながっ たことが影響した可能性がある.次に移植時期別に土壌表 層 500g/m2 処理による活着の遅れを無施用区と比較した場 合は,普通植え区よりも早植え区で遅れが顕著であった. 移植後の気温が低い早植え区では,米ぬかによって生成し た有機酸の分解が緩慢となり,普通植え区よりも長期にわ たって有害な濃度の有機酸が存在し,活着を大きく遅らせ たと推察した.苗齢からは,最も抑制程度が小さいのは稚 苗を用いた普通植え区で,最も抑制程度が大きいのは稚苗 を用いた早植え区となった(第 3 表).苗齢との関係につい ては,早植え区では稚苗が中苗よりも 2 日遅れ,普通植え 区では稚苗が中苗よりも 1 日早く,苗齢による活着への影 響は移植時期によって傾向が異なった.移植に伴う植傷み は葉齢の若い苗ほど少ないとされることから(山本 2014), 有機酸による養分吸収阻害による影響(瀧島ら 1960)に ついても中苗に比べて若い稚苗で影響が少ないことが予想 されたが,必ずしも一定の傾向は認められなかった.移植 時の苗齢の違いと米ぬかによる抑制との関係については今 後も継続して検討したい.なお,移植時に断根を伴わない ポット成苗では,米ぬかを多施用しても良好な活着を行う ことから(データ未発表),移植時の根の残存程度が有機酸 による害の影響程度と関係することが予想されることから, 今後明らかにしたい. 葉齢進展,茎数増加,出穂日への影響 葉齢進展の遅れは,活着に認められた結果と同様に, 米ぬか土壌表層 100g/m2 処理ではわずかで,同 500g/m2 処 理で有意であったが,抑制程度は無処理と比べて早植え 区の移植 17 日後の 0.7 が最大と影響は少なかった(第 4 表).茎数は収量に影響する重要な要素であるが,米ぬか 処理による各区の茎数の変動の特徴について見ると,活 着および葉齢進展に認められた結果と同様に米ぬか土壌 表層 100g/m2 処理では影響は小さかったが,同 500g/m2 処 理では増加の停滞や遅延が認められた(第 5 表).移植時 期に着目すると土壌表層 500g/m2 処理で認められた抑制 は,普通植え区では苗齢に関係なく移植後 36 日目には回 復したが,早植え区では 36 日目でも稚苗で− 14 本(無 施用区比 60%),中苗で− 15 本(同 63%)と強い抑制が ヨ㦂༊  ฟ✑᪥ ⛣᳜ᚋ᪥ᩘ ⛣᳜᫬ᮇ ⱑ㱋 ⡿ࡠ࠿᪋⏝㔞  㸦᭶᪥㸧 㸦᪥㸧 ᪩᳜࠼ ⛶ⱑ ↓᪋⏝    ័⾜    ከ᪋⏝    ୰ⱑ ↓᪋⏝    ័⾜    ከ᪋⏝    ᬑ㏻᳜࠼ ⛶ⱑ ↓᪋⏝    ័⾜    ከ᪋⏝    ୰ⱑ ↓᪋⏝    ័⾜    ከ᪋⏝    ὀ ྛヨ㦂༊ࡢ᭱⤊ⓗ࡞ᖹᆒ✑ᩘࡢ༙ᩘࡀฟ✑ࡋࡓ᪥ࢆฟ✑᪥࡜ࡋࡓ 第 6 表 出穂日

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継続していた.早植え区における強く継続した抑制は, 先に示唆した早植え区での長期にわたる有害な濃度の有 機酸の存在を裏付けるものであり,一方の普通植え区に おける抑制からの回復は,移植後の気温が高いことで有 機酸の分解による無害化が速やかに進行することによる と考える.収量構成の主要な要素である茎数の安定確保 の点から,米ぬか散布は普通植えとの組み合わせが,移 植苗の苗齢を問わず望ましいと考える.次に出穂日は, 生育に認められた結果と同様に,米ぬか土壌表層 100g/m2 処理ではほぼ影響されないが,同 500g/m2 処理では 2 日 遅延した(第 6 表).出穂日の遅延は多施用区での葉齢進 展の遅れが影響したと考える(第 4 表). 以上,水稲移植時の土壌表面への米ぬか施用は多量であ ると,水稲の生育に有害な濃度の酢酸と酪酸を土壌中に生 成させて,活着と生育を抑制することが明らかとなった. 特に収量の主要な構成要素である茎数の抑制は用いた苗の 苗齢を問わず早植えで顕著で長く継続したことから,栽培 地の作期の中で移植時の平均気温が高い後期の作期を選ぶ ことで,生成した有機酸の速やかな分解による無害化が期 待でき,生育への抑制を緩和できる可能性が示された.な お,本試験のポットを用いた試験においては,慣行レベル の米ぬか施用(土壌表層 100g/m2 処理)が水稲の生育を強 く抑制することは無いと考えられたが,水田においては, 風による吹き寄せや施用ムラによって,米ぬかの濃度が著 しく高まる場所も予想される.また強い除草効果を目的と して米ぬかを多量に,あるいは高頻度に施用する栽培体系 も考えられる.米ぬかが多量になると水稲の活着や生育に 抑制的な影響を与えることを考慮に入れて導入方法を検討 することが重要であると考える.

引用文献

千葉和夫・吉田貴之・斉藤望・田代卓(2001)「米ぬか」 の除草効果および水稲の生育・収量に及ぼす影響.日作 東北支部報 44:27-30. 福島裕助・内川修(2002)水稲の減農薬栽培における米ぬ か散布による水田雑草の防除.日作九支報 68:40-42. 上岡啓之(2015)水稲有機栽培における抑草技術 ―米ぬか 除草におけるコナギに対する効果(各県が対応している 最近の雑草防除の課題).雑草と作物の制御 10:16-18. 鯨幸夫・谷口朋之・畑中博英(2006)合鴨の放飼が水田土 壌と田面水の窒素含有量,コシヒカリの生育,収量およ び品質の及ぼす影響.北陸作報 41:48-50. 松尾孝嶺・清水正治・角田重三郎・村田吉男・熊澤喜久雄・ 原雄三・星川清親(1990)水稲の養分吸収, 稲学大 成第二巻 生理編 ,農文協,東京.213. 中井譲・鳥塚智(2009)米ぬか土壌表面処理による水田雑 草の抑草効果.雑草研究 54(4):233-238. 中山幸則(2010)米ぬかの水田雑草防除への利用について. 農及園 85(2):252-257. 瀧島康夫・塩島光洲・有田裕(1960)水田土壌中の有機酸 代謝と水稲生育阻害性に関する研究(第 2 報)有機酸の 根生長並に養分吸収阻害.土肥誌 31(10):441-446. 瀧島康夫・佐久間宏(1961)水田土壌中の有機酸代謝と水 稲生育阻害性に関する研究(第 7 報) レンゲ添加による 有機酸の生成と生育阻害作用.土肥誌 32(11):559-564. 梅崎輝尚・津野和宣(1998)早期水稲の生育に及ぼす新聞 古紙マルチの効果.日作紀 67(2):143-148. 山本由徳(2014)水稲の移植栽培における苗の植傷みと活着 特性に関する栽培学的研究.日作紀 83(別 1):484-489.

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Relations between organic acids generated by rice bran application on the

paddy soil and the rice growth

Genki Wanibuchi1), Hayato Tokumoto2), Masamichi Ohe1)

1) Graduate School of Life and Environmental Sciences, Osaka Prefecture University(1-1 Gakuen-cho, Naka-ku, Sakai 599-8531, Japan )

2)Graduate School of Science, Osaka Prefecture University(1-1 Gakuen-cho, Naka-ku, Sakai 599-8531, Japan )

Summary:In organic cultivation of rice, application of rice bran to the surface of the paddy soil at the time of transplanting

is adopted as one of the weeding techniques. In this study, we examined the eff ect of rice bran application for weeding on the growth of rice in relation to the formation of organic acid by rice bran application. Large-quantity application of bran(500g/ m2

; RB500)strongly reduced the redox potential in the soil and produced high concentrations of acetic acid and butyric acid in the soil compared to conventional-quantity application(100g/m2

). RB500 delayed rooting and leaf age development, and suppressed the increase in stem number. The number of stems, which is a factor that greatly aff ects the yield, was strongly suppressed particularly in early- planting culture(May 11)compared to normal-planting culture(June 13), and the tendency of this result was not due to the age of seedlings used(young seedling with 3.2 leaf stage and middle seedling with 5.0 leaf stage). In the early- planting culture that the temperature was low at the time of transplanting, it was thought that the decomposition of rice bran was slow, and the presence of long-term harmful concentrations of organic acids affected the growth. From the view point of safe and stable rice production, we concluded that rice bran weeding combined with normal- planting culture is desirable.

Key Words:organic acid, redox potential, rice, rice bran, weeding

Journal of Crop Research 65: 13-21 (2020) Correspondence: Masamichi Ohe(ohe_m@plant.osakafu-u.ac.jp)

参照

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