*1聖路加国際病院(St. Luke's International Hospital),*2聖路加看護大学(St. Luke's College of Nursing),
*3長崎大学(Nagasaki University),*4聖路加看護大学大学院博士後期課程(Doctoral Program, St. Luke's College of Nursing), *5聖路加看護大学看護実践開発研究センター(Research Center for Development of Nursing Practice, St. Luke's College of Nursing), *6市立大町総合病院(Omachi Municipal General Hospital),*7国保直営総合病院君津中央病院( Kimitsu Chuo Hospital)
2013年2月21日受付 2013年10月4日採用
資 料
エビデンスに基づく助産ケアガイドライン;
病院,診療所,助産所における分娩第1期ケア方針の調査
Implementation of the evidenced-based guidelines for midwifery care;
A survey of care policy during the first stage of labor among hospitals,
clinics and midwifery birth centers in japan
清 水 かおり(Kaori SHIMIZU)
*1片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)
*2江 藤 宏 美(Hiromi ETO)
*3浅 井 宏 美(Hiromi ASAI)
*4八 重 ゆかり(Yukari YAJU)
*5飯 田 眞理子(Mariko IIDA)
*2堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)
*2櫻 井 綾 香(Ayaka SAKURAI)
*6田 所 由利子(Yuriko TADOKORO)
*7 抄 録 目 的 日本助産学会は,「エビデンスに基づく助産ガイドライン̶分娩期2012」(以下,助産ガイドライン) をローリスク妊産婦のスタンダードケアの普及のため作成した。本研究の目的は,助産ガイドラインで 示された分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所での現状を明らかにすることを目的と した。 方 法 研究協力者は,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県の分娩を取り扱っている病院,診療所,助産所の 管理者とした。質問項目は,分娩第1期に関するケア方針18項目であった。調査期間は,2010年10月∼ 2011年7月であった。本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて行った(承認番号 10-1002)。 結 果 研究協力の同意が得られた施設は,255件(回収率37.3%)であり,病院118件(回収率50.2%),診療所 66件(20.8%),助産所71件(54.2%)であった。妊娠期から分娩期まで同一医療者による継続ケアの実施は,助産所92.9%,診療所54.7%と高かったが,病院(15.3%)では低かった。分娩誘発方法として卵膜剥離 (病院0.8%,診療所3.1%,助産所1.4%)および乳房・乳頭刺激(病院0%,診療所1.5%,助産所5.6%) のルチーンの実施は低かった。入院時の分娩監視装置による胎児心拍の持続モニタリングの実施は,助 産所の38%が実施していた。硬膜外麻酔をケースによって行っているのは,病院の31.6%,診療所の 31.3%であった。産痛緩和のための分娩第1期の入浴は,助産所では92.7%,病院48.3%,診療所26.7% で可能とされていた。産痛緩和方法として多くの施設で採択されていたのは,体位変換(95%),マッサー ジ(88%),温罨法(74%),歩行(61%)等であった。陣痛促進を目的とした浣腸をケア方針とする施設 は非常に少なかった(病院1.7%,診療所9.1%,助産所1.4%)。人工破膜をルチーンのケア方針として いる施設はなかった。 結 論 分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所における現状と助産ガイドラインのギャップ が明らかになった。本研究の結果を基準として,今後助産ガイドラインの評価を行っていく必要がある。 本研究の課題は,回収率が低かったことである。さらに,全国のケア方針の現状を明確化する必要がある。 キーワーズ:ケア方針,分娩第1期,助産,ガイドライン Abstract Objectives
The Japan Academy of Midwifery developed and disseminated the "2012 Evidence-based Guidelines for Mid-wifery Care" in order to achieve a more uniform standard of care during childbirth. The aim of this study was to describe the implementation of the Guideline among hospitals, clinics and midwifery birth centers. The focus was on care during the first stage of labor. Data was collected through October 2010 to July 2011.
Methods
Participants were managers who were in charge of hospitals, clinics and midwifery birth centers handling childbirth in Tokyo, Kanagawa, Chiba, and Saitama. Questions about the Guideline's implementation during the first stage of labor comprised 18 items. The Ethics Committee of St. Luke's College of Nursing, Tokyo, Japan (No. 10-1002) provided ethical approval.
Results
Agreeing to participate were 255 institutions (total response rate, 37.2%): 18 hospitals (response rate, 50.2%), 66 clinics (20.8%), and 71 midwifery birth centers (54.2%). Responses to continuity of caregivers for care during preg-nancy and childbirth indicated Guideline adoption in midwifery birth centers (92.9%) and clinics (54.7%), but not in hospitals (15.3%). Two interventions for inducing labor were minimally adopted: (1) membrane sweeping for induc-tion of labor was not common (hospitals .8%, clinics 3.1%, midwifery birth centers 1.4%), and (2) nipple and breast stimulation (hospitals 0%, clinics 1.5%, midwifery birth centers 5.6%). It was a policy for 38% of midwifery birth cen-ters to provide continuous electronic monitoring on admission. Epidural analgesia was used if necessary as a policy in 31.6% of hospitals and 31.3% of clinics. Possibility for immersion in water around 40 centigrade for labor pain management as a practice in midwifery birth centers was higher (92.7%) than in hospitals (48.3%) and clinics (26.7%). Examples of adoption of methods for labor pain management with higher rates were: position change (95%), back massage (88%), warm pack (74%), and walking (61%). A routine enema to accelerate contractions was not common (hospitals 1.7%, clinics 9.1%, midwifery birth centers 1.4%). No institution had a policy for amniotomy as routine care. Conclusion
There were considerable gaps between the Guideline and practice in hospitals, clinics, and midwifery birth cen-ters. Based on the results of this study, evaluation of the Guideline should be conducted in a few years. Limitation of this study was the low reply rate of respondents. It is necessary to elucidate the actual conditions throughout Japan. Keywords: care policy, first stage of labor, midwifery, guideline
Ⅰ.序 論
妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保は,健や
か親子21の重要課題であり,妊産婦死亡の半減とい う具体的な目標に向けて国民的運動が展開されてい る。出産の安全性を高めるためには,すべての妊産婦
に対して良質な医療およびケアを提供する必要がある が,地域および施設間に大きな差があり,全国にスタ ンダードケアを普及させる戦略を講じる必要がある。 その有力な方略の一つが診療ガイドラインの開発で ある。WHO(1996)は「Care in Normal Birth: a practi-cal guide」にて,エビデンスに基づき正常で健康な妊 産婦のケアを初めて示した。海外においては,英国 National Institute for Health and Clinical Excellence(以 下,NICEと示す)(2007)の「Intrapartum care: care of healthy women and their babies during childbirth」をは じめ,アメリカ,カナダ等でも周産期ケアに関するガ イドラインが公表されている。日本では,「快適な妊 娠出産ケアのためのガイドライン」(科学的根拠に基 づく快適な妊娠・出産のためのガイドラインの開発に 関する研究班,2006),助産所業務ガイドライン(日本 助産師会,2009),日本産科婦人科学会/日本産婦人 科医会が発刊した「産婦人科診療ガイドライン̶産科 編」(日本産科婦人科学会,2011)がある。しかし,こ れらのガイドラインには,ローリスク妊産婦への予防 的なケアならびに薬剤等を用いない治療的介入やケア についての最新のエビデンスや推奨は十分に記述され ていない。 WHOのガイドラインが公表された後,ガイドライン で推奨されたケアに関する日本の現状を調査した結果 が報告されている(赤井・岩谷・内山他,2004;蛭田・ 斉藤・末原,2002a;蛭田・斉藤・末原,2002b;岩谷 ・赤井・内山他,2006;岩谷・内山・山川他,2009; 野口・石井・江守,2005)。さらに「快適な妊娠出産の ケアのためのガイドライン」に示されたケアについて は,2件の調査(尾島・阿相・川野他,2004;柴田・尾 島・阿相他,2005)が行われている。これらの調査結 果によると,数年間でこれらのガイドラインの普及が 進んでおり,特に「産婦とともにバースプランを作成 する」や「出産中に仰臥位以外の姿勢を勧める」など産 婦の主体性や快適性を支援するケアの実施が広まって いることがわかる(岩谷・内山・山川他,2009, p.287)。 さらに,医療施設の種類ならびに助産師数によってガ イドラインに示されたケアの実施状況が異なっている ことが報告されている。蛭田・斉藤・末原(2002a, p.342; 2002b, p.421)によると,フリースタイル分娩や同一の 助産師によるサポート,出産直後の授乳については病 院より助産所の実施率が高く,分娩時の血管確保や分 娩第2期に呼気時の息を止めて怒責をかけるバルサル バ法,分娩第2期の導尿,会陰切開は病院の実施率が 高いことが報告されている。一方,病院のみを対象と した調査では(岩谷・内山・山川他,2009, p.288),「明 らかに有効で役に立つ推奨されるべきこと」に位置づ けられる妊産婦の自己決定や安楽性を支援するケアは, 助産師数が平均以上の施設において実施率が高く,「明 らかに害がある,または効果がないのでやめるべき こと」のカテゴリにある慣例的な静脈点滴,バルサル バ法,分娩中の砕石位は,助産師数が対象施設の平均 以下の施設で実施率が高いことが報告されている。ガ イドラインが普及してきているとは言え,ガイドライ ンにて実施が推奨されているが実施されていないケア, やめることを推奨されているのに今だ実施されている ケアがあることが問題視されている。 日本助産学会では,最新のリサーチエビデンスを用 いて,主にローリスクの健康な妊産婦へのスタンダー ドケアを示した「エビデンスに基づく助産ケアガイド ライン(分娩期)」(以下,助産ガイドライン)(日本助 産学会,2012)を作成した。助産ガイドラインの対象 者は,主に助産師であるが,妊産婦のケアにかかわる 全医療者が含まれる。助産ガイドラインの内容は,臨 床助産師からの意見を基盤に助産実践において必要性 の高い項目を抽出し,最新のエビデンスからケアの方 針(Evidence-based care policy)が示されている。情報 源は,Cochrane Library,PubMed,医中誌Webを用 いて検索した一次および二次文献に加え,質が高い または活用されている既存ガイドラインとして英国 「NICEガイドライン」,日本の「産婦人科診療ガイド ライン産科編2011」および「快適な妊娠出産のための ガイドライン」を採択した。助産ガイドラインは,パ ブリックコメントを聴取した後再度内容が検討され, 公表されている。 我々は「助産ガイドライン」に示された分娩第1期か ら第3期ケアに関する方針の現状を明らかにするため に,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県の分娩取り扱 い施設(病院,診療所,助産所)を対象に調査を実施 した。そして,本研究は「助産ガイドライン」で示さ れた分娩第1期のケアについて,病院,診療所,助産 所でのケアの方針の現状を記述することを目的とした。 本研究の結果にて,「助産ガイドライン」に示される分 娩第1期のケアに関して,ガイドラインの推奨と各施 設の現在の方針を比較検討することで,ガイドライン に基づく実践を支援する方略を検討するために役立つ。 また今後,「助産ガイドライン」の普及を評価する指標 ともなる。
Ⅱ.研究方法
1.調査対象 調査対象は,便宜的に4都県(東京都,神奈川県, 埼玉県,千葉県)を抽出し,4都県の分娩の取り扱いを 行っている病院,診療所,助産所の管理者,もしくは 各施設の分娩期のケア方針またはルチーンケアについ て知っている医療者とした。 2.調査項目 1 ) 調査項目の作成 調査項目は,助産ガイドラインにて示されている ローリスク妊産婦への分娩期ケアに関連する質問を作 成した。助産ガイドラインは,分娩第1期(一部妊娠 期を含む)から産褥早期までのケアに関するクリニカ ルクエッションで構成されており,調査はすべての項 目に関する質問が含まれた。調査項目の作成は,2名 の研究者(清水,片岡)が素案を提示し,その他の共 同研究者とのディスカッションにて修正していった。 共同研究者は助産ガイドラインの作成に関わった者で あり,内容につい熟知していた。修正した調査項目は, 助産師3名に回答してもらい表面妥当性を検討した。 2 ) 分娩第1期のケアに関する調査項目 助産ガイドラインの構成は,クリニカルクエッショ ンごとにエビデンスと解説(推奨文)および根拠が記 述されている。分娩第1期のケアに関するクリニカル クエッション,エビデンスと解説の要約を表1に示し た。これらのクリニカルクエッションに示されたケア の質問項目として,「妊娠中から分娩期までのケア実 施者の同一性」1項目,「分娩誘発法」(卵膜剥離/乳頭 マッサージ/過期産の予防)3項目,「胎児モニタリン グ法」2項目(入院時/入院中),「産痛緩和ケア」(硬膜 外麻酔/入浴/自由に動ける/その他)4項目,「陣痛 促進ケア」(乳頭刺激/歩行の推奨/鍼灸/指圧/食 事摂取/水分摂取/浣腸/人工破膜)8項目に関する 質問項目で構成した。選択肢は,「ほぼ全例に行って いる」「ケースによって行っている」「行っていない」ま たは「行っている」「行っていない」で回答してもらっ た。本調査施設の特性については,施設の種類(病院, 診療所,助産所),1年間の分娩数,助産師数,病院の 場合は病棟の形態に関する質問を設定した。これらの 質問の前に,「主にローリスク妊産婦に対する分娩期 ケアの方針についてお伺いします」と明示した。なお, 助産ガイドラインのクリニカルクエッションは,パブ リックコメント等を基に随時修正を加えたため,公表 された助産ガイドラインのクリニカルクエッションと 本調査の質問項目は一致していない部分もある。 3.調査方法 近年,分娩取り扱い施設の変動が大きいため,以下 の方法で分娩取り扱い施設の正確な把握に努めた。ま ずインターネットサイトのiタウンページ(NTTタウ ンページ株式会社)で,東京都,神奈川県,埼玉県, 千葉県の産科を有する病院,診療所,助産所を検索し た。病院,診療所については,分娩取扱い施設検索(周 産期の広場)にて現在分娩を取り扱っている施設の追 加および削除を行った。同様に,助産所についても, 全国助産院マップにて現在分娩を取り扱っている施設 を確認した。その結果を基に,2011年6月までに把握 できた分娩取り扱い施設に研究協力依頼を行った。調 査期間は,2010年10月から2011年7月までであった。 データ分析は,IBM SPSS Statistics 19.0を使用し, 記述統計量を算出し,施設の区分(病院,診療所,助 産所)にてχ2検定またはフィッシャーの直接検定を行 った(両側検定,p<0.05)。 4.倫理的配慮 本調査は無記名式の質問紙調査であり,調査用紙の 回答および投函をもって研究協力の同意とした。研究 協力の依頼では,研究協力は自由意思であること,プ ライバシーの保持,匿名性の厳守,得られたデータの 安全な保存と処理,研究論文の公開の可能性について, 文書で説明した。なお,本研究は聖路加看護大学倫理 審査委員会において承認された研究計画書に基づいて 行った(承認番号10-1002)。Ⅲ.結 果
1.研究協力施設の特性 2011年6月の時点で把握できた分娩取り扱い施設は, 病院235件,診療所318件,助産所131件であった。研 究協力の同意が得られた施設は,病院118件(回収率 50.2%),診療所66件(回収率20.8%),助産所71件(回 収率54.2%)であり,合計255件であり全体の回収率 は37.3%であった。なお,同意が得られなかった病院 のうち2件は,ハイリスク妊産婦のみ扱っていること を理由として記していた。 研究協力施設の平均年間分娩数は,病院737.7件(SD表1 助産ガイドラインの分娩第1期に関するクリニカルクエッション・エビデンスと解説(要約) クリニカルクエッション エビデンスと解説(要約) 【分娩誘発法】 予定日超過における陣痛誘 発方針は? 合併症を伴わない妊婦においては,予定日超過における分娩誘発の陣痛誘発群と待機的分娩群を比較した場合,41週以降 の場合の周産期死亡率は低下するが,帝王切開率等の分娩アウトカムに関する有意差はなかった。 NICEガイドラインは,コクランレビュの結果から「41週以降での陣痛誘発方針」により周産期死亡率の低下がもたらされ ることが示されている。一方,合併症を伴わない妊婦においては,陣痛誘発群と待機的分娩群を比較した場合,分娩のア ウトカムに対して有意な差はなかったとのRCTの結果から,合併症を伴わない妊婦に対しては自然分娩の機会が提供さ れることを推奨している。合併症を伴わない妊婦には,薬や器械を用いない分娩の機会が提供されることが望ましいが, 41週0日∼6日の間は頸管熟化度を考慮して薬や器械を用いた陣痛誘発を検討し,42週以降は陣痛誘発方針をとることが 求められる。 卵膜剥離は,分娩誘発の効 果があるか? 40週以降の妊婦に対し,薬や器械による陣痛誘発を行う前に,内診による卵膜剥離の実施は陣痛誘発の方法として効果 がある。NICEガイドラインより,子宮頚管未成熟の妊婦に対する卵膜剥離は,回数にかかわらず,41週および42週以降 の妊娠を減らし,薬剤による陣痛誘発を減少させるというエビデンスがあった。卵膜剥離を実施しても,帝王切開および 母体と胎児への感染リスクについて差は認められなかった。卵膜剥離した女性の方が,内診時の不快感が高く,出血や不 規則な陣痛といったリスクがあった。卵膜剥離の目的,方法,効果,リスク(痛みおよび出血)等について妊婦に十分説 明し,同意を得なくてはならない。 乳房/乳頭刺激は,分娩誘 発の効果があるか? 乳房/乳頭の刺激は,ローリスクの妊婦に陣痛誘発の効果が認められた。しかし,ハイリスクの妊婦に対しては,陣痛誘発の効果もなく,周産期死亡例も報告されていることから,用いるべきではないと考える。 指圧・鍼は,分娩誘発の効 果があるか? 指圧による分娩誘発効果を検証した研究はなかった。鍼療法による分娩誘発の有効性は認められなかった。指圧や鍼療法による陣痛誘発効果・安全性の根拠はなく,陣痛誘発方法として指圧・鍼療法を積極的に勧めることはできない。 【胎児のモニタリング法】 分娩のため入院した際の胎 児心拍の確認方法はどのよ うにしたらよいか? 入院時のCTGの装着は,間欠的な胎児心音聴取と比較して,分娩時の介入(器械分娩,帝王切開等)が多いことが報告さ れている。一方で,児のアウトカムに差はなく,CTG装着の方が間欠的な胎児心音聴取よりも優れている,というエビ デンスはない。しかし,産婦人科診療ガイドライン,科学的根拠に基づく快適な妊娠・出産のためのガイドラインでは, 入院時の胎児の健康状態と分娩開始後のリスクを評価することが望ましいとしている。助産所から病院へ搬送した際に, 搬送先でCTGモニターの記録提出が求められてることがあるため,入院時にはCTGの装着が奨められる。 分娩期の間欠的聴取法と持 続的モニタリングでは,母 子の予後に違いがあるか? ドップラーによる間歇的聴取に比べ持続的モニタリングは,新生児痙攣のリスクを低下させるが,脳性麻痺発症を有意に 低下させるわけではなく,帝王切開や器械分娩の発現割合を高くするというエビデンスがある。過去のRCTとそれらの SR,観察研究結果から,分娩第1期には,ドップラーによる間歇的聴診(活動期までは30分ごと,活動期以降は5∼15分 ごと,1回あたり1分以上)でも可と考えられるが,分娩第2期およびハイリスクに移行する可能性がある場合は持続的モ ニタリングが必要である。 【産痛緩和法の有効性】 硬膜外麻酔の効果と副作用 は? 硬膜外麻酔による産痛緩和効果はほぼ確実であり,分娩第1期時間が短縮するという利益が期待される反面,器械分娩が 増加する可能性があるとのエビデンスが得られている。妊婦に対しては,産痛緩和効果とともに,硬膜外麻酔による器械 分娩の増加等に関する情報提供を十分に行ったうえで,かつリスクに十分対応できる施設で行う必要がある。 分娩第1期にお湯につかる ことは,和痛効果がある か? 分娩中にお湯につかることによって,分娩第1期の所要時間が短くなっており,分娩第1期の産痛緩和効果も認められた。 最新のコクランレビュより,分娩第1期にお湯につかった場合,分娩第1期の所要時間が短くなっており,硬膜外・脊椎 麻酔の使用頻度が減少し,産痛緩和効果が認められた。また,お湯につかるのは,子宮口の開大5cm以上が,産痛緩和効 果は大きかった。よって,臨床で適用するに当たり選択肢の一つとなりうると考える。 指圧・鍼は,和痛効果があ るか? 三陰交への指圧は産痛緩和を目的とした薬剤の使用を減少させるほどの効果はないものの,三陰交に触れるだけの場合に 比べ痛みスコアを下げるというエビデンスはあった。また,LI4(合谷),BL67(至陰)の指圧は,産痛緩和効果が報告さ れている。しかしSRでは,対象者数が少なくエビデンスは,十分でないと結論づけている。また鍼療法は,SRによると 療法によって痛みの強度を下げる効果がある研究と効果がない研究があった。産痛緩和を目的とした薬剤使用に関しては, 対照群がプラセボ群またはスタンダードケア群である場合,鍼療法を行うことにより減少すると報告されている。 SP6(三陰交),LI4(合谷),BL67(至陰)への指圧は産痛緩和効果を期待できるため,産婦が希望すれば施行が奨められる。 鍼療法は産痛緩和効果を期待できるが,鍼の使用に関しては市販の鍼を使用する以外は,鍼灸師免許が必要であり,鍼灸 師免許を持つ者と協働して行う。 【薬剤を用いない陣痛促進法の有効性】 分娩進行中に飲食制限をす る必要はあるか? 分娩中の飲食については,摂取制限をする場合としない場合で,分娩時のアウトカムに違いは認められなかった。 分娩中に体力を維持するのに水分や食べ物を摂取するということは必要なことだと考えられている一方で,通常の分娩で も,帝王切開のための麻酔などの医療介入の可能性を考慮して,飲食を制限する施設も多い。 NICEガイドラインでは,分娩進行中に食事を摂取した場合,生化学的に母体にはメリットがあるが,嘔吐量が2倍にな るという害が報告されている。しかし,それ以降に報告された,コクランレビュによると,飲食制限した群と飲食した群 を比較したものでは,メリットとデメリットの両面から有意差はなかった。よって,産婦の希望にそって,飲食は自由に 摂取できるようにすべきであり,制限すべきものでも,強く勧めるべきものでもないと考える。 分娩第1期の歩行は,陣痛 促進に効果があるか? 分娩第1期での歩行により分娩第1期の時間が短縮する可能性は示されているが,その他の分娩アウトカムを改善すると いう結果はなく,分娩促進を目的とした歩行を積極的に勧めるだけのエビデンスはない。NICEガイドラインでは,分娩 促進の効果について示されてはいないが,異なるRCTにおける共通の結果として,仰臥位のほうが他の体位に比べて快 適であるとする産婦はいない。よって,分娩期を通して動くことや最も楽な姿勢をとることが奨められる。 分娩第1期に人工破膜をし た場合,遷延分娩を予防で きるか? 正常に経過している産婦に対する分娩第1期の人工破膜は,遷延分娩を予防するというエビデンスはない。人工破膜の実 施は,人工破膜を行わなかった場合と比較して,分娩の進行異常を減らすという研究はあったが,人工破膜の適用が明確 ではなく,研究の対象者に子宮口開大3cmの産婦を含んでおり,日本の現状には当てはまらなかった。 分娩第1期の浣腸は,陣痛 促進効果があるか? 分娩第1期に浣腸を実施することで分娩が促進されるというエビデンスはない。コクランレビュにて,分娩第1期の浣腸 は分娩所要時間を短くするという根拠は示されなかった。浣腸は不快な処置であり,分娩促進を目的に施されるべきでは ない。 指圧・鍼は,陣痛促進効果 があるか? 鍼による分娩促進効果については,鍼療法を行った群の方が,行わなかった場合よりも介入開始から児娩出までの時間は 短かった。指圧による分娩促進効果については,同様に,指圧を行った群の方が,行わなかった群よりも分娩所要時間が 短かった。しかし,指圧・鍼による分娩促進効果を調べた研究は少なく,今回検討した3文献とも研究協力者の人数が少 ないため,分娩促進効果の有無を明らかにするには今後の研究が待たれる。SP6(三陰交),LI4(合谷),BL67(至陰)への 指圧・鍼療法は分娩促進効果を期待でき,分娩促進方法の選択肢の一つとして考えられる。
=528.1),診療所371件(SD=288.7),助産所37.3件 (SD=44.7)であった。非常勤を含む平均助産師数は, 病院21.9名(SD=17.9),診療所7.2名(SD=5.1),助 産所3.2名(SD=15.1)であった。病院における病棟の 形態は,産科病棟46件(39.0%),産婦人科病棟36件 (30.5%),産婦人科以外の混合病棟36件(30.5%)であ った。 2.妊娠中から分娩期までのケア実施者の同一性 妊娠期から分娩期まで同じ医療者が継続ケアを実施 しているかについては,「ほぼ全例に行っている」との 回答は,病院が15.3%と低く,診療所54.7%,助産所 では92.9%と高い割合を示した。 3.分娩誘発 分娩誘発目的の卵膜剥離について,「ほぼ全例に行 っている」施設は少なく,病院0.8%,診療所3.0%, 助産所1.4%であり,施設区分による有意な差はなか った。どの施設区分でも「ケースにより実施」が6割前 後と多く,病院33.1%,診療所35.4%,助産所47.9% は「行っていない」と回答した。 分娩誘発のための乳頭マッサージについて,ほぼ全 例に実施している病院はなく,診療所1.5%,助産所 5.6%と低い割合を示した。どの施設区分でも「行って いない」が最も多く,病院58.5%,診療所74.2%,助 産所52.1%であった。 過期産予防のための器械および薬剤による分娩誘発 を実施しているのは,病院95.8%,診療所87.9%,助 産所は1件のみであった。実施している施設での実施 時期は,妊娠41週(64.2%)が最も多く,次いで42週 (31.8%),40週(19.9%)であった。 4.胎児心拍モニタリング法 入院時の胎児モニタリング法として,ほぼ全例に 分娩監視装置を装着すると回答したのは,病院100%, 診療所95.5%と高い割合を示したが,助産所は38.0% と低かった。 入院時の分娩監視装置の装着に引き続き,分娩第1 期はほぼ全例に分娩監視装置にて児心音の持続的聴取 を行うと回答した病院は13.6%,診療所では31.3%で 表2 分娩第1期のケア方針 ケア n(%)病院 診療所n(%) 助産所n(%) p 同一の医療者による継続ケア ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=118 18(15.3) 34(28.8) 66(55.9) n=64 35(54.7) 12(18.8) 17(26.6) n=70 65(92.9) 1(1.4) 4(5.7) <0.001 分娩誘発法 卵膜剥離 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=118 1(0.8) 78(66.1) 39(33.1) n=65 2(3.1) 40(61.5) 23(35.4) n=71 1(1.4) 36(50.7) 34(47.9) 0.214 乳頭マッサージ ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=118 0(0) 49(41.5) 69(58.5) n=66 1(1.5) 16(24.2) 49(74.2) n=71 4(5.6) 30(42.3) 37(52.1) 0.006 過期産予防の器械・薬剤による分娩誘発 実施している 実施していない n=118 113(95.8) 5(4.2) n=66 58(87.9) 8(12.1) n=68 1(1.5) 67(98.5) <0.001 胎児心拍モニタリング法 入院時の分娩監視装置の使用 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=118 118(100) 0(0) 0(0) n=66 63(95.5) 3(4.5) 0(0) n=71 27(38.0) 21(29.6) 23(32.4) <0.001 入院中の胎児モニタリング法 ドップラー/トラウベのみ 分娩監視装置とドップラーを併用 分娩監視装置の連続的使用 n=118 23(19.5) 79(67.0) 16(13.6) n=64 10(15.6) 34(53.1) 20(31.3) n=66 52(78.8) 14(21.2) 0(0) <0.001 χ2 testまたはFisher's exact test
あったが,助産所では0件であった。児心音の間欠的 聴取の場合,主にドプラーまたはトラウベのみを使用 しているのは,病院19.5%,診療所15.6%であったが, 助産所では78.8%と最も多かった。間欠的聴取に分娩 監視装置とドップラー/トラウベを併用しているのは, 病院は67.0%,診療所53.1%と多く,助産所21.2%で あった。間欠的聴取の場合,分娩第1期における聴 取の間隔は,「1時間おき」(41.8%)が最も多く,次に 方針としては「特に決めていない」(30.1%)が多かっ た。間欠的聴取から持続的聴取に切り替えるケースに ついて複数回答では,「児心音異常」(84.9%)が最も多 く,続いて「分娩第2期から」(62.0%),「陣痛促進薬の 表3 分娩第1期のケア方針(続き) ケア 病院(N=118)n(%) 診療所(N=66)n(%) 助産所(N=71)n(%) p 産痛緩和ケア 硬膜外麻酔 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=117 1(0.9) 37(31.6) 79(67.5) n=64 0(0) 20(31.3) 44(68.8) n=65 0(0) 0(0) 65(100.0) <0.001 入浴 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=117 1(0.8) 56(47.5) 61(51.7) n=66 1(1.5) 14(21.2) 51(77.3) n=69 1(1.4) 63(91.3) 5(7.2) <0.001 産婦は自由に動ける 実施している 実施していない n=117 98(83.8) 19(16.2) n=66 42(63.6) 24(36.4) n=69 68(98.6) 1(1.4) <0.001 陣痛促進ケア 乳頭マッサージ ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=117 59(50.4) 23(19.7) 35(29.9) n=66 18(27.3) 27(40.9) 21(31.8) n=69 25(36.2) 26(37.7) 18(26.1) 0.006 歩行の推奨 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=116 31(26.3) 85(72.0) 2(1.7) n=65 23(35.4) 36(55.4) 6(9.2) n=71 30(42.3) 40(56.3) 1(1.4) 0.007 鍼灸 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=118 0(0) 10(8.5) 108(91.5) n=66 0(0) 5(7.6) 61(92.4) n=68 4(5.9) 36(52.9) 28(41.2) <0.001 三陰交への指圧 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=117 0(0) 67(57.3) 50(42.7) n=65 0(0) 18(27.7) 47(72.3) n=69 5(7.2) 50(72.5) 14(20.3) <0.001 食事制限 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=117 4(3.4) 12(10.3) 101(86.3) n=66 4(6.1) 7(10.6) 55(83.3) n=70 0(0) 5(7.1) 65(92.9) 0.294 飲水制限 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施していない n=118 4(3.4) 5(4.2) 109(92.4) n=66 1(1.5) 3(4.5) 62(93.9) n=70 1(1.4) 2(2.9) 67(95.7) 0.855 浣腸 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=116 2(1.7) 38(32.8) 76(65.5) n=66 6(9.1) 27(40.9) 33(50.0) n=70 1(1.4) 11(15.7) 58(82.9) <0.001 人工破膜 ほぼ全例に実施 ケースにより実施 実施しない n=117 0(0) 106(90.6) 11(9.4) n=66 0(0) 64(97.0) 2(3.0) n=69 0(0) 40(58.0) 29(42.0) <0.001 χ2testまたはFisher's exact test
開始」(54.7%),「羊水混濁」(53.1%),「破水したとき」 (14.1%)であった。 5.産痛緩和ケア 産痛緩和ケアとして,硬膜外麻酔を「ほぼ全例に実 施している」施設は病院1件のみであった。「ケースに よって使用する」と回答したのは,病院31.6%,診療 所31.3%と同程度であった。助産所では行われてい なかった。入浴を「ほぼ全例に実施している」のは助 産所1件のみであった。ケースによって実施するのは, 病院47.5%,診療所21.2%,助産所91.3%であり,助 産所では入浴を産痛緩和ケアのひとつとして多く用 いられていることがわかった。産婦が自由に動ける ことをケア方針にしているのは,病院83.8%,診療所 63.6%,助産所98.6%であった。 施設で実施している産痛緩和ケアの種類について 複数回答にて問うと,最も多くの施設で採択されて いたのは体位変換(94.5%)であり,続いてマッサー ジ(87.7%), 温 罨 法(73.9%), 歩 行(60.9%), 指 圧 (58.1%),アロマセラピー(50.2%),入浴(45.1%)で あった。 6.陣痛促進ケア 薬剤を用いないで陣痛を促進するためのケアとして, 乳頭マッサージをほぼ全例に行っていると回答したの は,病院50.4%,診療所27.3%,助産所36.2%であり, 診療所が最も低かった。分娩第1期に歩行をほぼ全例 に奨めているのは,病院26.3%,診療所35.4%,助産 所42.3%であった。陣痛を強めるために鍼灸をほぼ全 例に行っていると回答したのは,4件(5.9%)の助産所 のみであった。ケースによって行っているのは,病院 8.5%,診療所7.6%,助産所52.9%であった。三陰交 等への指圧について,ほぼ全例に行う方針なのは5件 (7.2%)の助産所のみであったが,ケースによって行 っていると回答したのは,病院57.3%,診療所27.7%, 助産所72.5%であった。ほぼ全例に食事制限をして いると回答したのは病院3.4%,診療所6.1%のみであ り,施設区分での有意な差はなくすべての施設で8割 以上が「行っていない」と回答された。ほぼ全例に水 分制限している施設も病院3.4%,診療所1件,助産所 1件であり,施設区分での有意な差はなく9割以上が 「行っていない」と回答された。陣痛を促進するため に浣腸をほぼ全例に実施する方針であるのは,病院2 件(1.7%),診療所6件(9.1%),助産所1件(1.4%)で 低い割合であった。逆に,陣痛を促進するための浣腸 は行っていないと回答したのは,病院65.5%,診療所 50.0%,助産所82.9%であった。人工破膜についてほ ぼ全例におこなっている施設はなかった。ケースによ って行っていると回答したのは,病院90.6%,診療所 97.0%,助産所58.0%であり,助産所が最も低かった。
Ⅳ.考 察
本研究では,分娩誘発,分娩促進,産痛緩和ケアな どの分娩第1期のケア方針に関して,助産ガイドライ ンにて推奨されているケアがどの程度の施設にてル チーンケアとされているかという現状が明らかになっ た。本研究では,既存研究では示されていないケアの 現状が示された点で意義があり,今後助産ガイドライ ンの評価を行う際の基準としても活用することができ る。考察では,推奨されているケアと現状のケアのギ ャップについて,その要因と今後の方向性を検討する。 1.妊娠期から分娩期までのケアの継続性 妊娠期から分娩期までのケアの継続の実態に関する 既存研究は見あたらなかった。本研究では,ほぼ全例 に「妊娠期から分娩期にかけて同一の医療者がケアを 行っている」と回答したのは,助産所が約9割と多く, 診療所は約5割であり,病院では1割強という結果で あった。小規模で同じ医療者が外来および分娩室で勤 務しているなど勤務者の調整がしやすい助産所や診療 所では,ケアの継続性は保たれやすいことがわかった。 一方,病院は,規模が大きく多数の勤務者の確保が必 要となり,勤務形態によって一人の医師・助産師が妊 娠中から分娩期までのケアを継続して行うことが難し いことが理由として考えられる。しかし,妊娠期から 継続的に産婦をサポートする医療者の存在により,分 娩所要時間の短縮,薬剤と硬膜外麻酔の使用頻度の減 少,アプガースコア7点未満の新生児割合の減少,吸 引分娩や鉗子分娩などの器械分娩の減少など,様々な メリットがランダム化比較試験のシステマティックレ ビュにて報告されている(Hodnett, Gates, Hofmeyr et al., 2012, pp.12-19)。継続ケアを成功させる一例として チーム制による助産師による継続ケアを試みも報告さ れている(堀内,2011, p.702)。今後,病院という大規 模な組織の中で継続ケアを推進するために,それぞれ の施設の状況にあった実際的な管理方法を検討および 提案していく必要がある。2.分娩誘発法 卵膜剥離は,陣痛を人工的に誘発するため,分娩予 定日の近い妊婦に対して行われている内診時の処置の ひとつである。野口・石井・江守(2005, p.36)による 病院勤務助産師への調査の結果,分娩予定日に近い 妊婦に慣例的に卵膜剥離を行っているのは1.7%であ り,選択的に行っているのは59.6%,行っていないの は38.7%と報告されている。本研究においても「ほぼ 全例に実施している」施設は少なく,どの施設区分に おいても「ケースにより実施」が6割前後と多い傾向で, 既存研究とほぼ同じ結果であった。卵膜剥離について 「産婦人科ガイドライン」では記載はないが,助産ガ イドラインでは,陣痛誘発のための卵膜剥離の有効性 が示されており,薬剤におる分娩誘発前の卵膜剥離の 実施は効果的な方法として奨められている。しかしな がら,本研究では助産所の約5割は卵膜剥離を行って いないという結果であった。卵膜剥離は痛みや出血を 伴う可能性が高いため,胎児のアセスメントそして妊 婦のインフォームドチョイスは必須である。また,助 産師は適切な方法で卵膜剥離が実施できるようトレー ニングも必要となるだろう。これらを踏まえた上で卵 膜剥離は,推奨される介入であると考えられる。 また,陣痛誘発のための乳頭刺激について助産ガイ ドラインでは,乳房/乳頭刺激は72時間以内に分娩 に至る妊婦を増やし,分娩後の多量出血を減少させる ことが記述されている。これまでに乳頭刺激に関する 実態調査は報告されていないが,本研究では,ほぼ全 例に実施している施設は各施設区分とも1割もなかっ た。オキシトシン等の薬剤や器械を用いて分娩誘発し ない助産所等の施設において乳頭刺激の実施は,卵膜 剥離と同様に安全性および連携が確保された上での普 及が望まれる。 3.胎児心拍モニタリング法 入院時の分娩監視装置の使用については,病院およ び診療所と助産所で結果が大きく異なっていた。ほと んどの病院と診療所が,ほぼ全例に入院時分娩監視装 置を使用すると回答していたが,助産所は3割であっ た。これまでの調査では,入院時の胎児アセスメント として分娩監視装置の装着の実施状況についての報 告は見あたらない。入院時の分娩監視装置による持続 的モニタリングは,間歇的聴取をする場合と比較し て,児のアウトカムに差はないが,帝王切開が増加す ることがシステマティックレビュにて報告されている
(Devane, Lalor, Daly, et al., pp.9-10)。WHOガ イ ド ラ インやNICEガイドラインではこのエビデンスを採択 し,入院時の胎児アセスメント法として連続的モニタ リングではなく,間歇的聴取を推奨している。一方助 産ガイドラインでは,入院時には分娩監視装置を装着 し,連続的モニタリングで胎児アセスメントする方法 が奨められている。さらに分娩第1期には,ドップラー による間歇的聴取も可とされているが,分娩第2期お よびハイリスクに移行する可能性がある場合(羊水混 濁,胎児心拍異常,母体発熱,児娩出前の出血,分娩 促進剤使用時)は持続的モニタリングに切り替えるこ とが示されている。つまり,助産ガイドラインでは, エビデンスと推奨の間にギャップがあるということに なる。これについては,助産ガイドラインのみならず, 「産婦人科診療ガイドライン」や「快適な妊娠出産ケア のためのガイドライン」においても同様であった。こ の理由として,現在日本では,入院時の胎児の健康状 態を客観的に示す証拠を残すこと,または緊急搬送時 に入院時のモニタリング結果を要求されるため,入院 時に分娩監視装置の装着が必要とされている。これは, 社会的な要請およびニーズと言うこともできる。しか し,近年の産科医療訴訟に対する過剰な対応により, このような状況が作られたとも考察できるため,今後, ケアの方針についてコンセンサスに至るまで,医療者 および利用者からの様々な視点からのディスカッショ ンが必要である。 4.産痛緩和ケア 産痛緩和のための硬膜外麻酔の使用に関する既存文 献において,病院および診療所において,慣例的に硬 膜外麻酔を使用しているのは1%未満であった(野口 ・石井・江守,2005, p.38;岩谷・赤井・内山他,2006, p.670)。本研究でも,ほぼ全例に実施しているのは, 病院1件のみであった。病院および診療所では,3割程 度がケースによって実施すると回答している。NICE ガイドラインと同様に,助産ガイドラインは,硬膜外 麻酔による産痛緩和は効果的であり,分娩第1期が短 縮するという利益が期待される反面,器械分娩が増加 するリスクがあると述べている。助産師は,硬膜外麻 酔に関する正確な知識を持ち,女性への情報提供とし てベネフィットとリスクの両方を説明する必要がある。 分娩進行とリスクの適切なアセスメントを基に,女性 が持つ力を十分に発揮できるようケアをした上で,必 要時には麻酔を受ける女性と家族を支え,納得のいく
出産体験ができるよう支援することが重要である。 既存研究において分娩第1期の産痛緩和のための入 浴を行っていた病院では4割であったことが報告され ている(野口・石井・江守,2005, p.38)。本研究では, 産痛緩和として分娩第1期にケースにより入浴を実施 しているのが,助産所で9割と多く,病院は4割,診 療所2割と少なかった。病院での実施については,10 年前とほとんど変わっていないことがわかる。助産ガ イドラインでは,分娩第1期に湯につかることによる 和痛効果のエビデンスを示し,特に子宮口5cm以上で の実施が推奨されていた。多くの助産所における入浴 というケア方針はエビデンスに基づいていると言うこ とができ,病院および診療所にも普及することが今後 の課題である。 5.陣痛促進ケア 陣痛を促進するための分娩第1期の歩行は,病院2 割,診療所3割,助産所4割が「ほぼ全例に奨めている」 と回答された。既存研究がないため比較はできないが, 分娩第1期での歩行は分娩所要時間を短縮する可能性 は示されているが,現在のところは分娩促進を目的 とした歩行を積極的に奨めるだけのエビデンスはない。 しかし,NICEガイドラインでは,分娩促進の効果は ないものの,仰臥位は他の体位を比べて快適性が低い ため,分娩中に自由に体を動かせることや,最も楽な 姿勢をとることが奨められ,医療者はその援助をする 必要があると示されている。現在実施されているすべ てのケアについて,十分なエビデンスが確立している わけではない。第1期の歩行の分娩進行効果もその一 例である。今後,助産師の行っているケアについてエ ビデンスを作る努力も今後の課題である。 「分娩中の飲食制限をしないこと」については, WHOガイドラインの発刊後,その普及が進んでいる ことが明らかとなった。「分娩中の飲水」についてその 推移をみると,2000年から2003年の調査では全例ま たは慣例的に奨めているのは65.0∼75.0%であったが (赤井・岩谷・内山他,2004, p.71;岩谷・赤井・内山 他,2006, p.670;野口・石井・江守,2005, p.38),2007 年には81.0%と高くなっている(岩谷・内山・山川他, 2009, p.286)。また「分娩中の食事制限」について,制 限をしていないと回答したのは約55.0∼75.0%であっ た(赤井・岩谷・内山他,2004, p.73;岩谷・赤井・内 山他,2006, p.670;野口・石井・江守,2005, p.38)。本 研究では,ほぼ全例に水分摂取を制限している施設は, 病院3.4%で,診療所,助産所に1件ずつであり,食事 制限をしているのは,病院で3.4%,診療所6.1%のみ であった。飲食の制限をしている施設はさらに減少し ていることがわかる。一方で,NICEガイドラインでは, 分娩中の食事摂取は,生化学的に母体へのメリットは あるが,嘔吐量が2倍になるが,飲食の摂取制限をす る場合としない場合とでは,分娩所要時間などの母子 の分娩アウトカムに違いは認められなかったというエ ビデンスが示されている。したがって,飲食制限をす る必要はないが,もし気分不快等があった場合は,無 理に奨める必要はない。飲食の摂取は自由に摂取でき るようにすべきであり,制限すべきものでもなく,強 く奨めるものでもないと考えられる。 陣痛を促進するための浣腸についても,実施する方 針の施設は減少傾向にある。浣腸は,明らかにベネフ ィットがないとされながらも,施設別の全例・慣例的 な浣腸の実施は,病院48.7%,助産所16.0%(蛭田・ 斉藤・末原,2002b, p.421),診療所24.7%であり(赤井 ・岩谷・内山他,2004, p.72),病院での実施率が最も 高かった。しかし,病院における実施は年々減少して おり,2000年前後に調査された研究では45.0%であっ たが(蛭田・斉藤・末原,2002b, p.421),2007年には 2.7%となり(岩谷・内山・山川他,2009, p.287) 7年間 で40%以上減少している。これは,WHOガイドライ ンによりエビデンスに基づくケアが普及したよい例で あると言えるだろう。本研究でも浣腸をルチーンケア としていたのは,病院および助産所では1%台と非常 に少なく,診療所は9%であった。この割合は,これ までの調査の中では最も低かったことから,エビデン スに基づくケアの方針が定着したという肯定的な結果 とみることができるだろう。 陣痛促進のための人工破膜については,既存文献に おいて,ルチーンの実施は,病院0.2%(岩谷・赤井・ 内山他,2006, p.670;野口・石井・江守,2005, p.38), 診療所1.6%であり(赤井・岩谷・内山他,2004, p.72), 助産所の実態は報告されていなかった。本研究では, ほぼ全例に行っている施設はなく,病院と診療所の9 割,助産所の5割はケースによって行っていた。助産 ガイドラインでは,正常に経過している産婦に対す る分娩第1期の人工破膜が遷延分娩を予防するという エビデンスはないとしている。また,コクランシステ マティックレビュ(Smyth, Alldred & Markham, 2013, pp13-15)より分娩の進行異常を減らすという報告はあ ったが,研究の対象者に子宮口3cmの産婦を含んでお
り,助産所でのケアの現状に当てはまらない。NICE ガイドラインでは,分娩第1期の分娩進行に遅れがあ る場合は,人工破膜により時間の短縮がみられるとい うエビデンスを採択している。また,産婦人科診療ガ イドラインでも,微弱陣痛が原因と考えられる遷延分 娩の対応について,臍帯脱出,感染率上昇の危険等を 挙げ,人工破膜実施に当たっては慎重に判断するとし ている。今後,助産師として人工破膜の適切かつ安全 な適用および時期について検討してく必要がある。 6.ガイドラインの普及と実施 これまで示してきたケアには,エビデンスに基づい たガイドラインの普及に伴って実施されるようになっ てきた場合と,エビデンスは周知されているものの臨 床の状況から実践に至らない場合,また,エビデンス が周知されていない場合など,エビデンスの活用が徹 底していない現状がみてとれる。 ガイドラインの普及によりケアが変わったのは,分 娩第1期の飲食制限や浣腸をルチーンで行わなくなっ たことである。また,一方で,分娩誘発のための卵膜 剥離や乳頭マッサージは,エビデンスが十分に周知さ れていないということが考えられる。 また,臨床の状況から実施に至らないもの,もしく はガイドラインに推奨の違いが生じているものがいく つかある。その特徴的なものが,胎児心拍モニタリン グ方法に関わる事象である。このガイドラインの推奨 の違いには「防衛医療」つまり医療訴訟からの回避と いう考え方が大きく関連していると推察する。本研究 の結果から,分娩監視装置を持続的モニタリングとし て使用する現状はエビデンスとのギャップがあり,日 本でも医療訴訟対策としての医療行為が行われるよう になってきていることが伺える。過剰な医療が提供さ れることとなれば,一人ひとりの女性やその家族にと って最善の医療は提供できないことになる。この現状 から,確かで安全な医療を醸成する環境をつくること が喫緊の課題であるといえる。母子の安全と医療者自 身の安全を求めるならば,その事象にかかわる医療者, 利用者,第3者など互いに異なる視点での検討を経た コンセンサスを得ることや,日本でのさらなる研究の 蓄積が必要であるだろう。 本研究では,調査対象を病院,診療所,助産所の管 理者もしくは分娩期のケア方針を知っている医療者と したため,回答者の職種や職位によって回答傾向が異 なりバイアスが生じている可能性がある。また,本研 究は施設の種類によって分析を行ったが,助産師数で 分けては行っていない。今後,ケア方針に影響を及ぼ す他の要因についても検討する必要がある。本研究で は4都県の分娩取り扱い施設の3分の1から協力を得た が,回収率を上げることも今後の課題である。さらに, 全国のケア方針の現状を把握し,地域差を含め母子の アウトカムを測定する等助産ガイドラインの普及およ び効果に関する評価を行う必要がある。 なお,本研究は2011年度聖路加看護大学大学院課 題研究の一部である。平成22年度文部科学省科学研 究費補助金(課題番号21659524)にて行った。 引用文献 赤井由紀子,岩谷澄香,内山和美,鍵谷英明,山川正 信(2004). わ が 国 に お け る Care in normal birth: a practical guide の実態 有床診療所の調査.母性衛生, 45(1),67-76.
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