• 検索結果がありません。

北の国から'16訪問―北海道大学大学院文学研究科心理システム科学講座―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "北の国から'16訪問―北海道大学大学院文学研究科心理システム科学講座―"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.35.19 81 河原: 北大文学部研究科心理システム

北の国から’

16訪問

―北海道大学大学院文学研究科心理システム科学講座―

河 原 純 一 郎

北海道大学大学院文学研究科

Department of Psychology, Graduate School of Letters, Hokkaido University

Jun-ichiro Kawahara

Department of Psychology, Graduate School of Letters, Hokkaido University

は じ め に この稿では,基礎心理学研究の読者の中で主として大 学院生や学部生を対象に,心理学を学ぶ場所としての北 海道大学を紹介します。五郎も蛍も出てきませんが,進 学先として北海道大学大学院文学研究科の修士・博士課 程を選ぶときを想定して書いています。また,一般論と して進学先を選ぶときの留意点についても触れてゆきた いと思います。 大学院進学先を選ぶ 大学院進学を決意した心理学系の学部生にとって,進 学先の選び方はいくつもあります。具体的な研究テーマ が決まっていれば,それに一致したところを選ぶのが妥 当な選択でしょう。そのテーマを専門に研究論文をいく つも発表している教員を探します。一方,そのテーマに 近いことをしている研究室が見つからない場合は,テー マが曖昧すぎるかもしれません。あるいは,あなたのし たいことが非常に独創的すぎるのかもしれません(ある いはそう錯覚している危険もあります)。そのような場 合は,現在の指導教員などに相談し,助言を得ましょう。 大学等の公式webページには表面的な案内しか載って いない場合があります。そこで,研究室や教員の個人 ページを隅々まで見ましょう。学部生・大学院生の数 (男女比,場合によっては留学生比)は?院生の論文数 は?教員とテーマが大幅に離れていて,かつ論文が多産 な院生がいれば,その院生さんは優秀で,のびのびと好 きなことがやれる研究室だということが推測できます。 このほか,研究室の雰囲気,設備などもわかるでしょ う。同時に,他の研究室も見てみましょう。心理学隣接 領域の研究室はあるでしょうか。もしあれば,進学後は その教員に教わったり,学位論文の副指導をお願いする かもしれません。また,いざというときの頼れる助言者 になってもらえるかもしれません。 研究室を訪問する 十分に情報収集して進学先を絞ったら,その教員に 会ってみるのもよいかもしれません。講演会や学会等で 講演を聞くチャンスを探しましょう。場合によっては研 究室を訪問します。これらは必須ではありませんが,入 学してからミスマッチに気づいても遅すぎます。研究室 訪問は単なる観光ではありません(札幌は立派な観光地 ですが)。訪問は学生と教員双方が,進学/受け入れを したら幸せになれるかを知るお見合いのようなものです。 教員はwebに載せられなかった研究・教育への思いを熱 く語るかもしれません。また,訪問者の適性を見極めた いと思うでしょう。そのため,自分の研究データは必須 です。できれば刊行論文の別刷りが(望むらくは複数) あるとよいですね。 北海道大学大学院文学研究科 心理システム科学講座を訪問する そうはいっても北海道へ行くのは都内での移動ほど気 楽ではないでしょう。そこで,この場を借りて北大大学 院文学研究科心理システム科学講座への仮想研究室訪問

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2016, Vol. 35, No. 1, 81–84

紹  介

Copyright 2016. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of Psychology, Faculty

of Letters, Hokkaido University, N10W7, Kita, Sapporo, Hokkaido 060–0810, Japan. E-mail: jkawa@let.hokudai.ac.jp 講 座 案 内 http://www.let.hokudai.ac.jp/research/human-sciences/4-1psychology/

(2)

82 基礎心理学研究 第35巻 第1号 体験をしていただきます。われわれの講座には8名の教 育・研究スタッフがいます。 音楽心理学の安達真由美教授は,ピアノ教師を経て北 米に渡り研究者になった変わり種です。ピアノ教育学, 音楽教育学,心理音楽学で学位を修得したことから,研 究者としての立ち位置は音楽と心理学の中間にあり,本 人曰く,よく言えば学際的,悪く言えばmarginalな存在 です。キーワードは音楽と発達で,これらに関する実証 研究を行ってきました。研究対象は,胎児を含む赤ちゃ ん,妊婦を含む母親,父親,幼児,児童・生徒,大学生, プロの音楽家など様々で,研究のフィールドも実験室か ら自宅や幼稚園まで,それぞれの課題において最も生態 学的に妥当なデータが得られる場を選んでいます。現在 はピアノの初見視奏,アンサンブルでの非言語コミュニ ケーション,音楽に対する幼児の身体反応の胎児起源な どに関する研究に加え,歌唱能力発達に関する国際共同 研究も進行中です。また,留学を目指す学生のための英 会話サロンや,学生の英語発音力アップのための音読練 習ゼミなど,国際的な人材育成にも力を入れています。 川端康弘教授は色覚における時空間特性に着目して実 験研究と計算論的モデル化を行っています。色順応に応 じた視覚特性の変化,2色型と変性3色型色覚の特徴, 色と他のモジュールの相互作用といった問題を扱ってい ます。また見ることの熟達化に関連して色識別の個人差 も調べています。しかし学生達の多くは色のもたらす心 理的効果に興味があるようで,教員の志向とは多少異な るので,最初はがっかりするようです。ただ先輩たちの 的確なアドバイス(?)などで,結局自分の好むことを テーマにしています。「デザインの配色に対するノスタ ルジーの印象評価」,「感情語と色相の関連が記憶に及ぼ す影響」,「対象物による色選択基準の変動」,「架空の事 物を用いた色分布の学習と典型色性」,「温度感覚に及ぼ す空間の配色効果」が最近の卒論や修論の題目例です。 ゼミでは週1で勉強会を開催していますが,金曜午後と いうこともあって終了後は夜のすすきのに繰り出すこと もあります。 認知行動科学の河原純一郎特任准教授は主として行動 実験と調査法を使います。特に力を入れているのが注意 と記憶です。認知資源,メタ注意,ストレス,魅力と顔 認知,潜在的知覚がキーワードです。この業界は“最後 は君の腕次第”ですので,院生が認知心理学の内容学と 方法学と自信を身につけて修了できるよう,研究室は支 援します。院生個人の研究テーマは二本立てを推奨しま す。在学期間中に成果が出せる堅実なものと,自由な発 想に基づく冒険プロジェクトです。前者の例は 「定常的 注意と自己モニタリング」,「心的努力と注意の解放」, 後者は 「顔魅力への衛生マスク効果」,「低濃度アルコー ル摂取事態での潜在的気分測定」 などです。基礎研究だ けでなく,社会との接点を意識したいわゆる第2種基礎 研究もカバーします。テンション高めで,学生さんが今 しかできない,したいことをできるように,年間約600 名の被験者実験ができる環境を整備しました。きっとど こまでも楽しめるはずです。 森本 助教は,複数感覚に跨る情報処理過程,ワーキ ングメモリ,長期記憶,心的イメージを中心に研究して います。現在は(a) 視覚的,触運動覚的,運動入力と いった複数モダリティの情報に適用可能なワーキングメ モリのモデルの構築,(b) 視覚や触覚における様々な刺 激要素を長期に記憶しておくために,各要素に対してど のような符号化処理が有効か,(c) 視覚的イメージと視 覚的ワーキングメモリ,空間的操作,長期記憶との関係 に焦点を当てています。 認知発達心理学の仲真紀子教授は,子どもの語彙獲得, 出来事の記憶・自伝的記憶・目撃証言,大人と子どもの コミュニケーション,面接法などの研究をしています。 子どもは大人との対話のなかでどうやって言葉を学ぶの だろう?親はどうやって子どもから体験を聞いているの だろう?などの研究をしています。仲教授は子どもの供 述の信用性の検討を依頼されたことを契機に研究の社会 的意義に気づいたとのこと。その後,司法面接(誘導・ 暗示をかけることなく,面接の負担を最小限にしつつ, 正確な供述引き出すことを目指した面接法)に結びつけ てこうした研究を行うようになりました。現在のテーマ は司法面接やその効果,質問の効果,感情語や時間を表 す語彙の習得,出来事の報告,自伝的記憶,顔の再認で す。成果を受けて作成されたガイドラインは広く福祉・ 司法の専門家によって用いられ,研修も行っています。 修了者には法務省,科捜研,児童相談所等で子どもの支 援に関わる仕事をしている人もいます。 認知神経科学の小川健二准教授は,脳イメージング (fMRI)を使って認知機構の脳内メカニズムを調べてい ます。ひとつのテーマは運動学習です。ヒトは経験を 通じて多様な運動スキルを身につけたり,新しい環境に 適応できたりします。このような手続き記憶の脳内基盤 について調べるとともに,脳活動を自分で操作するこ と(ニューロフィードバック)で学習を促進する方法も 探っています。ただしテーマは,学生の興味に応じて比 較的自由に考えてもらっています。具体的には「顔と名 前の連合記憶」や「バイリンガルの脳」などです。認知 と関連した脳の仕組みについて考えるテーマであれば,

(3)

83 河原: 北大文学部研究科心理システム 各自の責任で自由に設定してもらう方針です。実験には 最新の研究専用の MRI装置を使っています。時間もわ りと自由に使え,かつ研究室の建物から歩いてすぐとい う全国的に見てもかなり恵まれた環境です。北大は脳科 学研究教育センターの授業も受講でき,心理実験に加え て脳の仕組みを調べたい人には最適の環境です。 田山忠行教授は感覚・知覚・注意を研究しています。 そのなかでも,これまでは運動視と時間知覚の研究に関 心を寄せてきました。運動視の研究としては,速度弁別, 速度順応,速度対比など,速度の符号化をテーマとした 心理物理学的研究を行っています。最近では,運動に限 らず,色や形など様々な視覚属性の変化にいつ気がつく のかをテーマとした実験を行っています。これは「注意 の見落し」とも関係があります。時間知覚の研究では, 主に持続時間の情報をどのように保存し,比較し,判断 しているのかに注目しています。同じものを長い時間見 ているとその時間が短く見えるという現象やスポーツ審 判のエラーに関わる時間順序判断についても関心があり ます。そのほかの研究テーマとしては「単純接触効果」, 「嘘をつく顔の表情の知覚」「視線知覚における非対称性」 「両義性の知覚」があります。 和田博美教授は動物実験を行っており,ネズミの社会 性や認知機能の発達を研究しています。最近特に力を入 れているのが超音波発声に着目した社会性の研究です。 ネズミは超音波を使って会話を行っています。例えば, 赤ちゃんネズミは一人になると超音波を発してお母さん ネズミを呼びます。仲間同士でじゃれ合って遊ぶときや, カップルになって交尾をするときにも超音波を使います。 認知機能の研究では,オペラント条件づけを使ってネズ ミを訓練します。すぐにもらえる小さな報酬と後からも らえる大きな報酬のどちらを好むか,刺激Aから刺激B に注意を移動できるか,刺激AとBに同時に注意を向け ることができるか,隠された避難所の位置を記憶できる かといった認知機能を研究しています。ネズミは初めて という学生さんも,世話をするうちに仲良しになれます。 とくに赤ちゃんネズミはマシュマロか雪見大福!かわい いこと請け合いです。 研究室訪問のポイント 先方は忙しいはずですから,相応の依頼・連絡の仕方 があるはずです。コンタクト方法がわからないときは, 現在の指導教員に助言を求めましょう。先述したように 自分の研究能力を示すことができる証拠を持っていくこ とが必須です。そしてよく見て,話をしてきましょう。 目標の教員だけでなく,できればその研究室や近隣研究 室の学部生・大学院生とも話す機会があるとよいでしょ う。大学によっては別の講座や研究科にも心理学や関連 領域の研究室があるかもしれません。北大文学研究科に は心理システム科学講座のほかに,行動システム科学講 座があり,社会心理学を専門とする 7名の教員がいま す。このほか,教育学研究院,他医学研究科と保健科学 研究院にも十数名の関連領域の教員がいます。こうした 心理学の関連コミュニティがあると,大学院の共通授業 や各種の研究会に参加できる機会が増えます。 訪問中は多くの人と話し,新しいことを聞くことで注 意容量のオーバーフローが起きるかもしれません。大事 なことを忘れないよう,予習して質問は用意しておきま しょう。自分が実際に院生として生活する場面を想像し ながら考えておきます。例えば,研究室のミーティング や指導教員との個別の打ち合わせの頻度,時間は?院生 室は研究室ごとか,合同か?修論・博論審査のやり方 は?進捗報告会等の講座行事の頻度から活動性がわかり ます。研究室の院生間の交流は?実験室は専用ブースが 貰えるか?共有ならばスケジューリング方法は?被験者 の募集方法は?どのくらい人数が集まるか?北大文学研 究科心理システム科学講座では,行動システム科学講座 と共通の大規模な被験者プールに加えて,学内掲示板に よる募集が可能です。聞きたいことはいくらでもありま すね。 訪問と同時に,大学院教務係や掲示板等で数々の奨学 金や大学院生支援制度のこともわかります。北大文学研 究科では,入学料免除(徴収猶予)・授業料免除制度が あります。日本学生支援機構第一種奨学金受給者のうち, 大学院在学中に教育研究活動で特に優れた業績を修めた 人には,奨学金受給額の全額もしくは半額の返還が免除 される制度があり,毎年数名の適用者がいます。このほ か,「共生の人文学」 プロジェクトとして院生の学会発 表のための旅費支援や,国際学術誌等への投稿原稿等の 校閲料の支給制度があります。さらに,文学研究科研究 推進委員会による大学院生のための学振DC・PD申請書 の書き方セミナー等の企画も随時行われています。これ らの支援によって修士課程在学中の研究活動が認められ 奨学金が全額免除になったうえ,学振 DCを得られた ケースが複数あります。 お わ り に もちろん,ここで挙げた研究室の選び方,訪問の仕方 はひとつの目安で,唯一の正解ではありません。ご自分 で納得のいく方法で探してください。大学院進学を決め たのならば,前向き一番,目標を掲げて確実に進みま

(4)

84 基礎心理学研究 第35巻 第1号 しょう。ちょびっと不安かもしれませんが,そこはもう ちょっと我慢で,適切な努力をすればたいていはうまく いくことのほうが多いと思います。自分のアカデミック 人生の中で,進学先の大学は故郷となり,出身研究室は 実家となります。ここで紹介した北大文学研究科心理シ ステム科学講座は,その有力な候補となりうる場所だと 思います。ピコーンときた皆さんからのお問い合わせを 講座教員一同,お待ちしています。 北海道大学大学院文学研究科古河講堂 (撮影: 博士課程3年・伊藤博晃さん)

参照

関連したドキュメント

NGF)ファミリー分子の総称で、NGF以外に脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフ

Fo川・thly,sinceOCTNItrmsportsorganiccationsbyusingH+gradientandwaslocalizedat

menumberofpatientswitllendstagerenalfhilmrehasbeenincreasing

「心理学基礎研究の地域貢献を考える」が開かれた。フォー

金沢大学学際科学実験センター アイソトープ総合研究施設 千葉大学大学院医学研究院

東京大学 大学院情報理工学系研究科 数理情報学専攻. hirai@mist.i.u-tokyo.ac.jp

東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上

社会学文献講読・文献研究(英) A・B 社会心理学文献講義/研究(英) A・B 文化人類学・民俗学文献講義/研究(英)