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古きよき時代の留学生の独り言

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Academic year: 2021

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生化学 第 92 巻第 4 号,pp. 481(2020) * 奈良女子大学名誉教授・龍谷大学教授 DOI: 10.14952/SEIKAGAKU.2020.920481 © 2020 公益社団法人日本生化学会

古きよき時代の留学生の独り言

植野 洋志*

巻頭言の依頼を引き受けることにした.だれが 「生化学」を読んでいるのか? を考えたところ, これから人生を長く歩む若者に一言残そうという気 になった. 以前,「浦島太郎が描く研究者として歩む大学の 道」という題でアトモスフィアを執筆させていただ いたが,そもそもなぜ浦島太郎であったのか,とい うと,20年あまりの海外生活をしていたからであ る.その成り行きと体験からの一言にしたい. そもそも落ちこぼれ学生であった折,機会があっ て留学という道があることを知った.幸いに力のある 先生方の推薦状のお陰で,ボストン郊外のユダヤ人 が創立した大学の大学院に受け入れてもらえること になった.当時では珍しい学部を持たない大学院だ けの「生化学教室」であり,同期生は7名だけであっ た.その1人は後に「Lehningerの新生化学」の著者 になっている.私以外は全員所謂Full scholarshipをも らっていた.私も,ということでChairmanに頼んで みたところ,お前はアメリカ人ではないのでダメと言 われたが,授業料を全額免除してもらえた.留学す るにあたっていろんな奨学金制度があっただろう,と 思われるだろうが,4回生の秋に急に留学するぞ,と いうことでは,ほとんどの奨学金への応募期間が過ぎ ており,さらに,いわゆる人気のある目的の大学院へ の申請に関しても締め切りを逃していたので,留学で きたこと自体が奇跡であったと思うしかなかった.当 時,書類のやり取りは船便か高い航空郵便だけであ り,急な知らせは電報であった.FAX,宅急便,それ に電子メールなどなかった時代のお話である. 大学院生活は極めて新鮮であった.生化学(科目 名は「Biochem101」)の授業は通年であり,月曜日か ら金曜日まで朝の9時から10時まで3名の教授が分 担していた.多少のPhysiology的な内容もあったが, ほぼ通年のEnzymologyと考えてよい.水曜日だけは チューターといって大学院の高学年の学生が1週間の 復習と小テストを担当していた.そう,高校の授業 のように毎日授業があったのにはびっくりであった. さらにびっくりしたのは,毎日,その日の講義内容の 元となる原著論文を10編ほど黒板の端に列挙された ことである.授業が終わると皆図書館に直行してそ の論文を読むという毎日であった.驚くなかれ,その うちのいくつかはまだ図書館には並んでいなかった. つまり雑誌の印刷には回っており,ページ番号がわ かっている,いままさに出版されようという論文が含 まれていたのである.何いわんや,教授たちはJACS, PNAS, Biochemistryという生化学のトップジャーナル の編集者たちで,たぶん,論文を審査した関係でそ のようなことができたのであろう.生化学には他学科 からの学生たちも受講していた.もちろん記述式の 筆記試験で,中間試験と期末試験があった.ところ が,生化学専攻の学生だけには,口頭試験もあった. 2人の教授が個別に学生1人づつに対して口頭で質疑 応答をした.ほぼ1時間づつであっただろうか.この 科目で評点Bをもらうと,翌年,奨学金の給付が打 ち切られるということで,全員必死であった.残念な がら,3名がBをもらい,他大学(医学部など)へ転 出していった.私? 私は再履修させられた. 当時はアメリカの生化学は最先端なので,アメリ カの院生は何でもできると考えがちだが,そうではな い.一つ,思い出したので書き記す.大学院なので, いずれ学位の研究をするために研究室に配属される. しかし,研究室選びの参考として最初の2年間で六つ の研究室に体験入室し,それから希望の研究室に配 属するという制度であった.ローテーションと呼んで いた.教授の側も学生を選べるので,両想いでない と駄目なようである.ローテーションで脳内でのアン モニアの代謝に関する酵素の研究をしている研究室 に入室した折,その酵素を精製するのにアフィニティ レジンをつくる,というプロジェクトをさせられた. レジンにATPを結合させ,まず,きちんとATPが結合 したかをペーパークロマトグラフィーで確認するとい う実験テーマであった.ATPを結合させたレジンを酸 で加熱分解処理したあと,ろ紙にスポットしてから, クロマトチャンバーで泳動してスポットの動きで標準 のATPと泳動距離を比較するのである.私は,当時, 学部では量子化学の研究室にいたので,ほぼ生化学 の知識がなく,酸で分解した液をそのままろ紙にス ポットしていた.もちろん酸でろ紙が焼けて穴が開い たのである.同室の先輩に問題解決を願い出たのだ が,まったくもって役に立たない先輩であった.もう すぐ博士号を取得しようというのに! 酸は塩酸だっ たので,ロータリーエバポレーターなどで飛ばせばよ かったのだが,無知な時であったということで. 珍道中とは違うが,賢明な読者が読むとアホなこと ばかりしてきたが,何とか「自殺基質の反応機構」の 解明でいくつかの論文を出し学位を得て,ニューヨー クの大学でポジションを得ることができた.何とか今 まで研究活動を続けてこれたのはこの経験からか.若 い諸君,飛び出せJapan !

アトモスフィア

参照

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