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近赤外線反射特性に優れたZnFe₂O₄結晶の調製

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Academic year: 2021

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近赤外線反射特性に優れた

ZnFe

2

O

4

結晶の調製

[研究代表者]小林雄一(工学部応用化学科)

[共同研究者]溝口一輝(工学部応用化学科)

研究成果の概要 化石燃料の消費に伴う大気中の二酸化炭素濃度増加による温暖化に加えて,人工排熱量の増加,日射によって温めら れた建造物の輻射に起因する都市の気温が周辺に比べて高くなる「ヒートアイランド現象」が顕在化している。太陽 光を反射し易い白色系塗料や建築材料を使用すれば建造物の蓄熱を抑制できるが,反射光により近隣住民の快適な生 活環境を阻害する恐れがあるため,国内では濃彩色が採用されるケースが多い。可視光域の色調とは別に,日射エネ ルギーの約半分を占める近赤外線を選択的に反射する無機顔料を塗料等の建築材料に使用して建造物の蓄熱を防止す ることによりヒートアイランド現象を抑制する事が可能である。我々は,酸化鉄を含む様々な化合物結晶を合成し, 近赤外光を選択的に反射する様々な色彩を持った顔料を合成してきた。本研究では,酸化亜鉛と酸化鉄から赤外線反 射特性に優れたスピネル結晶の合成条件について検討した。 研究分野:セラミックス 無機固体化学 キーワード:遮熱顔料,低蓄熱顔料,スピネル結晶,近赤外線選択反射,高日射反射率 1.研究開始当初の背景 化石燃料の消費による大気中の二酸化炭素濃度増加 による温暖化に加えて,人工排熱量の増加,日射によっ て温められた建造物の輻射に起因して都市の気温が周 辺に比べて高くなる「ヒートアイランド現象」が顕在化 している。気象庁の調査1)では東京の平均気温は二十世 紀の100 年間で約 2.4℃,8 月の気温は 1.8℃上昇してお り,特に夏場の気温上昇による建物内のエアコン使用に よる排熱がヒートアイランド現象を加速させている。可 視光から赤外線までの光を反射しやすい白色系の顔料 や塗料を建造物に施せば太陽光による建造物の温度上 昇や蓄熱を防ぐことは可能であるが,反射する可視光は 近隣住民や社会にとっては不快となる場合も多い。その ため日本では建物のカラーデザインとして暗色系また は濃彩色系の塗料や屋根材の使用が好まれる。しかし, 多くの暗色系顔料や塗料は可視光のみならず赤外線も 吸収するので蓄熱して温度上昇を引き起こしやすい。こ の様な背景から日射による温度上昇を抑制できる暗色 系又は濃彩色系の顔料や塗料の開発が喫緊の課題とさ れている。 2.研究の目的 日射エネルギーの約半分を占める近赤外線を選択的 に反射し,日射エネルギーの残り半分である可視光を吸 収する濃彩色顔料を開発して外装に使用する事によっ て,建物の温度上昇を抑制してヒートアイランド現象対 策が可能であると考えられる。有機系の濃彩色顔料を使 った塗料の報告例はあるものの,多くは耐久性に劣るた め,定期的な補修が必要とされている。物理的,化学的 に安定な顔料として遷移金属酸化物を構成成分とする 様々な無機化合物が知られている。本研究では,比較的 安価な遷移金属酸化物である酸化鉄との組み合わせに よる近赤外線反射特性に優れた濃彩色無機顔料の合成 を目的とした。 3.研究の方法 (1) 実験方法 試薬の酸化鉄(Ⅲ)と酸化亜鉛(Ⅱ)を等モルのスピネル 組成ZnFe2O4となるように秤量し,アルミナ乳鉢により 約30 分間粉砕混合した。その後,大気雰囲気下の電気 炉中で5℃/min の速度で加熱し,700~1400℃の各温度 84

(2)

1 時間保持した後,炉内放冷した。熱処理後にアルミ ナ乳鉢によって指頭に感じなくなるまで粉砕した。 (2) 測定方法 得られた粉末試料の生成結晶相を粉末 X 線回折法に より同定した。また,紫外・可視・近赤外分光光度計(島 津製作所SolidSpec-3700)を使用して標準白板 SRS-99- 020 (Labosphere 社製)を基準として積分球法により分光 反射率を測定した。それぞれの波長における反射率と, JIS-R-3106(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日 射熱取得率の試験方法)の重価係数から,日射反射率 (300~2500nm),可視光反射率(380~780nm),赤外 線反射率(780~2500nm)を求めた。色の表現にはマン セル,L*a*b*,XYZ(Yxy)等様々な表色系がある。本研 究では,明度を L*,色相や彩度を a*,b*,c*で表す CIE1976L*a*b* 色空間(別名 CIELAB,JIS Z 8781-4) を使用した。 4.研究成果 ZnO と Fe2O3の等モル組成混合物を700~1400℃で熱 処理した試料の粉末X 線回折結果を Fig.1 に示す。700℃ ではZnFe2O4回折線のピークはまだ低く,未反応のZnOFe2O3の回折線が多数観察された。しかし,800℃でZnO と Fe2O3の回折線は消失してZnFe2O4の回折線 のみが観察された。

Fig.1 X-ray diffraction patterns of heat-treated specimens in composition of ZnFe2O4.

ZnO と Fe2O3の等モル組成混合物を700~1400℃で熱 処理した試料および原料であるZnO や Fe2O3の分光反 射率曲線をFig.2 に示す。 0 20 40 60 80 100 120 500 1000 1500 2000 2500 Ref lect an ce / % Wave length / nm

Mixture of ZnO and Fe2O3 1000℃

1100℃ 800℃ 1200℃ 1400℃ ZnO Fe2O3 800℃ 1100℃ 700℃ 780 380

Fig.2 Spectral reflectance of heat-treated specimens in composition of ZnFe2O4. ZnO はバンドギャップが 3.37eV の半導体酸化物であ り,368nm 以下の紫外光を吸収するが,可視光から近 赤外線の広い範囲では約100%の反射率を示した。一方, Fe2O3のバンドギャップは2.2eV であり, 563nm 以下の 可視光及び紫外光を吸収し,黄色や赤に相当する長波長 側の光を反射するので赤色系の色彩を有する。また, 600nm 及び 850nm 付近に弱い d-d 吸収が観察された4) 700℃で熱処理した試料では,600nm,850nm,1200nm に強い吸収が観察された。600nm と 850nm 付近の吸収 は未反応のFe2O3に由来し,1200nm 付近の吸収は新た に生成したZnFe2O4によると考えられる。800~1200℃ で熱処理した試料は ZnFe2O4 スピネル単相であること から,800nm と 1200nm の二つの吸収ピークはこのスピ ネルによるものと推察される。 1200℃以上で熱処理した試料では,可視光から近赤外 線に至る全波長域で反射率が低下した。高温では結晶中 の欠陥や Fe3+の一部が Fe2+に変化して広い波長域の光 を吸収したと考えられる。マグネタイトFe3O4が広い波 長域で光を吸収することが知られておりこの結果と一 致する。 得られた試料の分光反射率曲線から国際的に使用さ れる頻度の高いCIE 1976 L*a*b*色空間により求めた 色座標値をFig.3 に示す。明度指数 L*は概ね可視光反 射率と同じ傾向を示した。一方, ZnFe2O4の色相は X -ray in tens ity / a.u. 60 50 40 30 20 10 2°CuK 700℃ 800℃ 1000℃ ZnFe2O4 Fe2O3 ZnO 1100℃ 1200℃ 1400℃ 85

(3)

近赤外線反射特性に優れたZnFe2O4結晶の調製 Fe2O3と比較してa*が幾分小さくなり b*が大きくなっ ており,赤みの強いオレンジ色から明るい山吹色へ変化 した。1200℃以上では色座標が原点に近づいており暗 くなると共に彩度は低くなった。 35 40 45 50 55 60 L* 1000 oC 800 oC 1100 oC 700 oC 1200 oC Mixture 1400 oC -20 -10 0 10 20 30 40 50 -10 0 10 20 30 b* a* RED YELLOW GREEN BLUE 1400℃ 1200℃ 800℃ 700℃ Mixture 1100℃ 1000℃

Fig. 3 Lightness and color coordinates of heat- treated specimens 日本工業規格 JIS-K5602:2008「塗膜の日射反射率 の求め方」にしたがって,近紫外及び可視光波長域(300 ~781nm),近赤外域(780~2500nm,),全日射反射 率(300~2500nm,)として Fig.4 に示す。 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 600 800 1000 1200 1400 Ref le ct an ce / % Heat-treatment temperature / oC Near infrared Solar Visible

Fig. 4 Visible, near infrared and solar reflectance of solar radiation. ZnFe2O4スピネルの生成に伴い可視光反射率が幾分 増加した。Fe2O3と比較して500nm からの立ち上がり が大きく600~780nm での反射率が高くなったためで ある。一方1000~1500nm の範囲では Fe2O3と比べて 反射率が低くなり,近赤外線反射率としては Fe2O3単 独の値(65.7%)とほとんど同じであった。全日射反射 率としては Fe2O3単独の値(42.4%)よりも幾分大き くなった。1100℃以上で熱処理した場合はいずれの反 射率も低くなり,近赤外線高反射顔料としての特性は得 られなかった。 日本工業規格 JIS-K5675:2011「屋根用高日射反射 率塗料」では,高日射反射率塗料の品質を明度L*と赤 外線波長域日射反射率ρIR (%)との関係から次のよう に定義している。 (i) 高明度(L*≧80.0)では,ρIR (%)≧80.0 (ii) 中明度(80.0>L*>40.0)では,ρIR (%)≧L* (iii) 低明度(40.0≧L*)では,ρIR (%)≧40.0 Fig.5 にこれまで得た試料の明度 L*と赤外線波長域日 射反射率の関係を示す。 0 20 40 60 80 100 35 40 45 50 55 60 In frar ed ref le ct ion / % L* Thresfold line in JIS K5675 Mixture ZnO+Fe2O3 700 oC 800 oC 1000 oC 1100 oC 1200 oC 1400 oC

Fig. 5 Relationship between L* and near-infrared reflectance. 800~1100℃で熱処理してスピネル単相になった試 料はいずれも高日射反射率塗料としての品質をクリア していることが分かる。 引用文献 1) http://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html 2) 近藤,長澤,入交,“高反射率塗料による日射熱負 荷軽減とヒートハイランド現象緩和に関する研究”, 空気調和・衛生工学会論文集,No.78(2000 年 7 月) 3) 日本工業規格 JIS-K5602:2008「塗膜の日射反射率の 求め方」

4) David M. Sherman, “The Electronic Structure of Fe3+ Coordination Sites in Iron Oxides; Applications to Spectra, Bonding, and Magnetism”, Phys. Chem. Minerals, Vol.12,161-175 (1985)

Fig. 3 Lightness and color coordinates of heat-  treated specimens  日本工業規格 JIS-K5602 : 2008 「塗膜の日射反射率 の求め方」にしたがって,近紫外及び可視光波長域( 300 ~ 781nm ),近赤外域( 780 ~ 2500nm ,),全日射反射 率( 300 ~ 2500nm , )として Fig.4 に示す。 0 1020304050607080 0 600 800 1000 1200 1400Reflectanc

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