お問合せ先
茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係
http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html
Title
アレルギー疾患に関する認識調査と基礎的理解
Author(s)
石井, 千尋 / 石原, 研治
Citation
茨城大学教育学部紀要. 教育科学, 61: 337-349
Issue Date
2012
URL
http://hdl.handle.net/10109/3216
Rights
このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作権者に帰属
します。引用、転載、複製等される場合は、著作権法を遵守してください。
アレルギー疾患に関する認識調査と基礎的理解
石井 千尋 *・石原 研治 **
(2011 年 11 月 25 日受理)
Understanding of Various Allergic Inflammation
on Students in Course for School Nurse Teacher
Chihiro ISHII* and Kenji ISHIHARA**
(Received November 25,2011) はじめに 環境や食生活の変化に伴い,花粉症やアトピー性皮膚炎に代表されるアレルギー疾患は増加傾向 にある1)。学校現場においても同様に増加しており,アレルギー疾患に対して注目が集まっている。 アレルギー疾患と一言で言ってもさまざまなものがある。花粉症やアトピー性皮膚炎などは,有 病率が高く主な症状や対応も多くの人が知っているが,患者本人にしか分からない苦しさがあるこ とを忘れられがちである。逆に,食物依存性運動誘発アナフィラキシーや口腔アレルギーといった 有病者の少ないアレルギー疾患などは,知識がないため見逃され,何度も発作を繰り返しつらい生 活を送っている2)。学校現場において重要な存在となるのが養護教諭である。養護教諭は,アレル ギー疾患を抱えている児童生徒に対し,迅速かつ的確な判断や処置を行い,受容し励ましの言葉を かけ,保健指導を行う。アレルギー疾患に限ったことではないが,児童生徒が訴えてくる痛みやつ らさは養護教諭自身が味わったことのないつらさであることが多い。味わったことのないつらさを 受容し,迅速かつ的確な判断・処置をするためには正しい知識が必要である。しかし,養護教諭と して働きはじめると職務に追われ,時間をかけて疾患について学ぶことが難しくなる。結果として, 見逃しや判断ミスを起こすことが考えられる。見逃しなどを未然に防ぐために,時間を自由に使う ことのできる学生のうちに多くの疾患において知識が不足している部分を明らかにし,知識不足を 解消することが重要であると感じた。正しい知識や対処法を学ぶことで,養護教諭として働く際の 自信にもつながり,児童生徒が快適な学校生活を送ることに貢献できる。
北茨城市立明徳小学校(〒 319-1545 北茨城市磯原町木皿 726 ; Meitoku Elementary School, Kita ibaraki 319-1545, Japan).
茨城大学教育学部教育保健教室(〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1 ; Faculty of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512, Japan).
* **
そこで,本研究ではアレルギー疾患を抱え生活している児童生徒が快適な学校生活を送れるよう考 察することを目的とし,養護教諭を目指している学生がアレルギー疾患に対してどの程度の関心や 知識を持っているのかを調査した。その結果,アレルギー疾患全体の知識よりも個々のアレルギー 疾患に対しての知識が不足していることが明らかになった。 アレルギー疾患 (1)疫学3,4) アレルギーには,気管支喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎(花粉症),アレルギー性 結膜炎,食物アレルギー,アナフィラキシーなどがある。文部科学省が全国の小・中・高等学校 の児童生徒(n=12,773,554)のアレルギー有病率を調査した結果が報告されており,気管支喘息が 5.7%,アトピー性皮膚炎が5.5%,アレルギー性鼻炎が9.2%,アレルギー性結膜炎が3.5%,食物 アレルギーが2.6%,アナフィラキシーが0.14%である。また,6歳から12歳児(n=35,582)にお ける気管支喘息,アトピー性皮膚炎およびアレルギー性鼻炎の合併頻度を調査した結果が報告され ている(図1)。 図1.3つのアレルギー疾患の合併頻度3) (2)治療・管理の目標3) アレルギー疾患の治療・管理の目標は以下のように, [1]健康人と変わらない日常生活を遅れること。小児では正常な発育が保たれていること。 [2]正常に近い呼吸機能,組織,粘膜の状態を維持し,不可逆性の変化を防ぐこと。 [3]気道,皮膚,粘膜症状がなく,十分な夜間睡眠が可能なこと。 [4]急性増悪を起こさないこと。 [5]他の合併症を引き起こさないこと。 [6]治療薬による副作用がないこと。 とされている。
(3)気管支喘息2-5) 小児の気管支喘息は,「発作性の呼吸困難,喘鳴,咳などの気道閉塞による症状の繰り返す病気 であり,その背景として多くは気道の過敏性を伴う環境アレルゲンによる慢性のアレルギー性炎症 が存在する5)」と定義されている。上述したように有病率は5.7%であるが,男女別では男子が6.8%, 女子が4.6%であり,男子の方が女子よりその割合が高い6)。症状は軽い咳から喘鳴,呼吸困難と 多彩であり,重症な発作の場合は死に至ることもある。チアノーゼが出ることも少なくない。発作 は小発作・中発作・大発作・呼吸不全と分けられ,発作の程度に応じて対応が異なるため,養護教 諭には発作の程度を医学的に見極め,対処できる能力が求められている。また,小児気管支喘息が 思春期になっても軽快しない要因の一つとして心理的因子の関与があげられ,各年齢にみられやす い心理的因子を早期に処理することができれば難治化が予防できると報告されている3)。従って, 養護教諭は心理的負担を早期発見できるようアンテナを張って生徒と関わることが重要であると言 える。 (4)アトピー性皮膚炎2,3,6,7) アトピー性皮膚炎は「増悪・寛解を繰り返す,掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者 の多くはアトピー素因をもつ」と定義されている。男女差はない6)。また,アトピー素因とは,[1] 家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎のいずれかまたは複 数),[2]IgE抗体を産生しやすい素因のことであり,医学的に「アトピー」という言葉は,アトピー 性皮膚炎の略語ではない。アトピー性皮膚炎の原因には,[1]アトピー体質,[2]肌の性質(遺伝に よるもの),[3]悪化因子(気候,発汗,体調など)に大きく分けられる。発症部位は,顔,首,肘 の内側,膝の裏側などによく現れ,ひどくなると全身に広がる。軽症では皮膚ががさがさと乾燥す る程度であるが,悪化すると水分が出てきたり皮膚が硬く厚くなったりすることが多い。かゆみを 生じるとともに,増悪・寛解を繰り返すが,適切な治療によって症状はコントロールでき,他の生 徒と同じように学校生活を送ることができる。 学校現場においての配慮として,一日の大半を過ごす学校にはさまざまな悪化因子が存在するに もかかわらず,学校において十分な治療及びスキンケアが行えない場合が多い。従って,養護教諭 は患児たちが快適な学校生活を送ることができるよう支援していくことが重要である。具体的には, [1]症状悪化のために保健室に来室した際の保健指導,[2]悪化因子の除去や環境整備,[3]必要な 設備(シャワーなど)やスキンケアへの時間の確保の働きかけ,[4]関係者との密な連絡などがあ げられる。症状緩和の処置やスキンケアのみならず,精神的ストレスにも目を向けた配慮が養護教 諭には求められている。また,長期にわたって寛解・再燃を繰り返す病状に気長に向き合えるセル フケア能力を身につけさせる保健指導を関係者全員で実現させていくことを目的とすべきである。 (5)アレルギー性結膜炎・アレルギー性鼻炎・花粉症2,3,8) アレルギー性結膜炎は「Ⅰ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で何らかの自他覚症状を伴 うもの10)」と定義されている。男女差はない6)。アレルギー性結膜炎には重症度や臨床所見が異な るいくつかのタイプがある。[1]通年性アレルギー性結膜炎,[2]季節性アレルギー性結膜炎(花粉 症),[3]春季カタル,[4]アトピー性角結膜炎,[5]その他の5つに分けることができる。アレルギー
性鼻炎は「鼻に入ってくるアレルゲンに対しアレルギー反応を起こし,発作性で反復性のくしゃみ, 鼻水,鼻づまりなどの症状を引き起こす疾患」と定義されている。上述したように有病率は9.2% であるが,男女別では男子が10.8%,女子が7.6%であり,男子の方が女子よりその割合が高い6)。 アレルギー性鼻炎は[1]通年性アレルギー性鼻炎と[2]季節性アレルギー性鼻炎の2つに分類され, 後者は一般的に花粉症と呼ばれる。花粉症は,植物の花粉が鼻や目の粘膜に侵入しそれによってお こるアレルギー性の疾患であり,上に述べたようにアレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎の中の 一つのタイプとしてとらえることができる。 症状については,アレルギー性結膜炎は目のかゆみ,異物感,充血,涙目,眼脂(めやに)であ る。春季カタルなどの重症例で角膜障害を伴うと,眼痛や視力低下も現れる。アレルギー性鼻炎は 発作性反復性のくしゃみ,鼻水,鼻づまりが基本症状である。花粉症はくしゃみ,鼻水,鼻づまり, 目のかゆみ,流涙,結膜の充血などを伴い身体にさまざまな不快感や苦痛をもたらす。 学校現場においての配慮として,3つの治療の基本がアレルゲンの除去や回避であることからセ ルフケア能力を高める必要があるということである。児童生徒の感じている症状のつらさを理解し, 全体を捉えたうえでその人に合った保健指導を実施することが重要である。また,必要に応じて点 眼薬,点鼻薬を気兼ねなく使用できる場所として保健室を提供することも大切である。花粉症は, 鼻や目の症状だけでなく精神的に落ち込むなどQOLの低下や生活への悪影響をも引き起こしてい る。従って,養護教諭には表面的な治療,セルフケアについての知識を与えるだけではなく,快適 な学校生活を送れるための支援が求められている。 (6)食物アレルギー・アナフィラキシー2,3,9,10) 食物アレルギーは「原因食物を摂取した後に免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状(皮 膚・粘膜・消化器・呼吸器・アナフィラキシー)などが引き起こされる現象」と定義されている。 男女差はない。アナフィラキシーは「アレルギー反応により皮膚症状,消化器症状,呼吸器症状が, 複数同時かつ急激に出現した状態」と定義されている。また,「その中でも,血圧が低下して意識 の低下や脱力を来すような場合」をアナフィラキシーショックという。原因食物は多岐にわたり, 学童期では鶏卵,乳製品で全体の約半数を占めているが,年齢が増すとともに消失する傾向にある ものの,そば,ピーナツあるいは甲殻類などは生涯持続する傾向がある。食物アレルギーにより引 き起こされる症状とその頻度は,皮膚粘膜症状>消化器症状>上気道症状>下気道症状>全身症状 であるが,摂取するアレルゲン量や年齢によっても出現の仕方は異なる。 学校現場においての配慮として,食物アレルギーを持った児童生徒に特に配慮が必要な場面は給 食の時間である。除去食,代用食あるいは家庭から持参した弁当を食べている児童生徒にとって, 給食の時間が苦痛の時間にならないように配慮することが重要である。仲間外れやいじめの標的に ならないように周りの児童生徒に正しい知識を与えることも必要である。養護教諭,栄養教諭,学 級担任が密に連絡を取り合い最善の対応を心がけなければならない。また,万が一アレルゲンを摂 取してしまった場合は,養護教諭には迅速かつ適切な対応が求められる。主治医と連絡を取るなど して普段から情報収集に努めなければならない。
(7)食物依存性運動誘発アナフィラキシー2,3,10,11) 食物依存性運動誘発アナフィラキシーは「ある特定の食物摂取後の運動負荷などにより全身の蕁 麻疹,血管性浮腫,呼吸困難,血圧低下,意識障害などのアナフィラキシー症状が誘発される比較 的稀な疾患である」とされている。食物摂取,運動負荷単独では症状の発現は認められない。頻度 の高いアレルゲンは小麦,魚介類などである。近年は果物や野菜による症例も増加してきている。 男女比は1.5:1で男性に多い。10~20歳代で発症ピークをむかえる。全身の蕁麻疹,血管性浮腫, 紅斑などの皮膚症状がほぼ全例に認められる。喘鳴,咳嗽,呼吸困難などの呼吸器症状は約70% に認められ,血圧低下,意識レベルの低下などのショック症状は約50%に認められる。発症時の 対応は他のアナフィラキシーショックと同様である。学校現場においての配慮として,児童生徒に おける食物依存性運動誘発アナフィラキシーの有病率は比較的低いため,疾患の認知度が低く診断 が遅れ頻回の発症につながっている。有病率が低くてもこの疾患を抱えている児童生徒に出会うこ とはありうるので,養護教諭には出会った際に正しい対応ができるようこの疾患の知識・情報を得 る必要がある。 方法 2010年10-11月にI大学教育学部養護教諭養成課程に在籍する学生126名対象に質問紙調査を 実施した。アレルギー疾患の有無,罹患しているアレルギーの種類,関心のある疾患(養護教諭 /普段の生活),アレルギー疾患の理解度,アレルギー疾患に関する知識である。なお,質問紙によ り得た情報は研究のみに使用し,記入された内容はパーソナルコンピュータに入力する。総合的に 統計処理を行い,個人が特定されることがないことをあらかじめ口頭で説明した。 結果 (1)対象者の背景 本研究は,養護教諭を目指す学生がアレルギー疾患に対してどの程度の認識を持つか明らかにす ることを目的とした。対象者は養護教諭養成課程に在籍する学生126名で,その性別は女性のみ であった。 (2)アレルギー疾患の有無 対象者のアレルギー疾患の有無を明気にする目的で,「あなたはなんらかのアレルギー疾患を持っ ていますか」という質問を行った。その結果,図1に示すように,「はい」と回答したものは64.3%(81 名),「いいえ」と回答したものは34.9%(44名),現在調査中が0.8%(1名)であった。従って, 今回調査したものの約3分の2が何らかのアレルギー疾患に罹患していることが明らかになった。
図2.アレルギー疾患の有無(n=126) (3)罹患しているアレルギーの種類 (2)でアレルギー疾患を抱えていると答えた81名に対して,「あなたはどんなアレルギー疾患 を持っていますか。当てはまるものに○をつけて下さい(複数回答可)」という質問を行った。罹 患しているアレルギー疾患を15項目(気管支喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,花粉症, アレルギー性結膜炎,食物アレルギー,アナフィラキシー,金属アレルギー,動物アレルギー,薬 剤アレルギー,ハチ毒アレルギー,食物依存性運動誘発アナフィラキシー,口腔アレルギー,光ア レルギー,その他)から複数回答可で選択してもらった。 その結果,花粉症が55.6%(45名)で一番多く,次いでアレルギー性鼻炎37.0%(30名),アトピー 性皮膚炎23.5%(19名),動物アレルギー17.3%(14名),気管支喘息・アレルギー性結膜炎13.6%(11 名),食物アレルギー11.1%(9名),金属アレルギー・薬剤アレルギー6.2%(5名),光アレルギー 3.7%(3名),食物依存性運動誘発アナフィラキシー・口腔アレルギー1.2%(1名),その他のア レルギー8.6%(7名)という結果であった。その他の内訳として,ハウスダストアレルギーが3名, 蕁麻疹が1名,ゴムアレルギーが1名,蚊アレルギーが1名,不明(春と秋に発疹)が1名であっ た。アナフィラキシー,ハチ毒アレルギーに罹患している者はいなかった(図3)。
図3.罹患しているアレルギーの種類(n=81) (4)関心のある疾患 普段の生活で関心のある疾患と養護教諭としての立場から関心のある疾患に違いがあるのかを 調査する目的で,「以下の疾患に関して,養護教諭として関心のある疾患に○をつけて下さい。ま た,養護教諭としてではなく,あなたが普段の生活を送る中で関心を持っている疾患にも○をつけ て下さい(複数回答可)。」という質問を行った。その結果,養護教諭としての立場から関心のある 疾患のうち8割を超えた疾患が,アレルギー疾患・自閉症100名(87.3%),貧血107名(84.9%), 食中毒・性行為感染症・インフルエンザ102名(81.0%),う歯101名(80.2%)であった。一方, 普段の生活において関心のある疾患の中で8割を超えたものはなかった。口内炎78名(61.9%), 貧血76名(60.3%),子宮筋腫70名(55.6%)と上位の疾患でも6割前後であった(図4)。
(5)アレルギー疾患の理解度 それぞれのアレルギー疾患に対してどの程度の知識を持っているのかを調査する目的で,選択式 の質問をした。理解度をみる目安として以下の7項目の中で今の自分の理解度に一番近い項目を選 択してもらう方式で調査した。 理解度1…名前を聞いたことがない。(1点) 理解度2…名前を聞いたことがあるような気がする。(2点) 理解度3…名前を知っている。(3点) 理解度4…症状は知っているが説明する自信はない。(4点) 理解度5…症状を説明できる。(5点) 理解度6…対応まで知っているが,説明する自信はない。(6点) 理解度7…対応まで説明できる。(7点) それぞれのアレルギー疾患の間で,理解度にどの程度の差があるのかを調査する目的で理解度ご とに点数をつけ,それをもとに記述統計を行った。その結果,図5に示すように,理解度の平均点 が最も高かったのは花粉症で5.5点,次いで食物アレルギーが5.0点,アナフィラキシー,気管支 喘息およびアトピー性皮膚炎が4.8点,アレルギー性鼻炎が4.6点,動物アレルギーおよびアレル ギー性結膜炎が4.3点,金属アレルギーが4.2点,薬剤アレルギー,食物依存性運動誘発アナフィ ラキシー,ハチ毒アレルギーが3.9点,光アレルギーが3.4点,口腔アレルギーが2.7点であった。 すべてのアレルギーの理解度の平均は4.3点であった。理解度の平均が最高点を示している花粉症 と理解度の平均が最低点を示している口腔アレルギーとでは,花粉症の平均が口腔アレルギーの平 均の約2倍になった。
図5.アレルギー疾患の理解度(n=126) (6)アレルギー疾患に関する知識 アレルギー疾患に関して,正しい知識を持っているのかを調査するために二件法(はい/いい え)の質問をした。その結果,表1に示すように,「[1]二種類以上のアレルギー疾患を持つこと はない。」や「[2]アレルゲンは年齢により変化していくことがある。」のようなアレルギーの総 論に関する正答率は高い傾向にあったが,「[9]口腔アレルギーと花粉症にはなんらかの関係があ ると言われている。」のようなあまりなじみのないアレルギーアレルギー疾患に関する問題の正 解率が低かった。
表1.アレルギー疾患に関する知識問題の正解と正答率 考察 本研究は,養護教諭を目指す学生がアレルギー疾患に対してどの程度の関心や知識を持っている のかを明らかにすることである。近年,アレルギー罹患者は国民の3人に1人となり1),アレルギー 疾患に注目が集まってきているが,罹患者のニーズにすべて応えられているわけではない。アレル ギー疾患は生活環境や生活習慣の改善,日常服薬管理,緊急時の対応の方法などのセルフケアが重 要な疾患である。セルフケア能力の向上がアレルギー疾患を抱える児童生徒のQOL向上に直接つ ながるが,管理がおろそかであったり情報の氾濫によって正しい知識が得られていない場合も多い 1)。養護教諭にはセルフケア能力の育成と正しい情報を児童生徒に与える役割があると考えられる。 本研究で対象とした養護教諭を目指す学生の約3分の2が何らかのアレルギー疾患に罹患してい ること(図2)が明らかになった。これは厚生労働省が平成4年度から6年度に行った全国調査の 結果,3人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱えているという結果1)と比べると多い。養護教諭 を目指す学生には自身がアレルギーで苦しんだ経験をもとに将来子どもたちのケアにあたりたいと 考える学生も少なくないためであると思われる。しかし,自分が抱えているアレルギー疾患と比較 してそれ以外のアレルギー疾患の知識や対処方法などは格段に少ないと思われるが,養護教諭にな
るということは自分には想像もつかないようなつらい思いをしている児童生徒に対して保健指導を したり,受容し励ましの言葉をかけるということであるため,多数の疾患に対して関心を持ち,知 識を持つことが必要となる。図4では,普段の生活で関心のある疾患と養護教諭としての立場から 関心のある疾患それぞれで,選択した割合を比較した。その結果,アレルギー疾患をはじめとして 自閉症,食中毒,てんかんなど多くの疾患において養護教諭として関心があると答えた人数が普段 の生活から関心があると答えた人数の約2倍であるということが明らかになった。これらの疾患は 学校現場で出会ったり,注意が必要な疾患がほとんどである。逆に普段の生活から関心があると答 えた人の人数が養護教諭として関心があると答えた人数より多い疾患には子宮筋腫,悪性新生物(が ん),脳梗塞があり,比較的学校現場で遭遇することの少ない疾患なのが分かる。養護教諭は,学 校内で医学のスペシャリストでなければならないという専門性を学んでいることから,今のうちか ら学校現場で出会うことのある疾患に対して関心を持たなければならない。このことがはっきりと 表れた結果であると言える。 アレルギー疾患の理解度に関して,図5に示すように,花粉症の平均点は5.5点であり,ハチ毒 アレルギーの平均点は3.9点であった。一方,図3に示すように,花粉症の罹患者は55.6%(45 名),ハチ毒アレルギーの罹患者は0.0%(0名)であった。これに対し,食物アレルギーおよび アナフィラキシーの罹患者数はそれぞれ11.1%(9名)および0.0%(0名)と低いものの(図3), 理解度の平均点はそれぞれ5.0および4.8と上位であった(図5)。これらの結果から,その要因と して[1]アレルギー疾患に関する認識の高さはそのアレルギー疾患の罹患者数と情報の多さに影響 を受ける,[2]学校現場においてアレルギー疾患の中でも特に注目されている疾患は大学の講義で もたびたび学ぶために平均値が高い結果になったと考えられる。従って,養護教諭になってから は,頻度の低いアレルギーに関しても極力情報を収集するように努め,大学では教員が頻度の低い アレルギーも積極的に解説する必要がある。また,アレルギー疾患に関する知識については,アレ ルギー全体に関する質問である設問[1]『2種類以上のアレルギー疾患を持つことはない。』(正答 率98.4%)や設問[2]『アレルゲンは年齢により変化していくことがある。』(正答率96.8%)など のほうが,個々のアレルギー疾患に関する質問である設問[8]『「アトピー」という言葉は,医学的 に「アトピー性皮膚炎」の略称である。』(正答率40.5%)や設問[9]『口腔アレルギーと花粉症に はなんらかの関係があると言われている。』(正答率33.3%)などより正答率が高いという結果が明 らかとなった。アレルギー全体の知識ももちろん必要であるが,それと同時に養護教諭には個々の アレルギー疾患の症状や学校での配慮などの知識も必要と考えられる。ほとんどのアレルギー疾患 において,まずは養護教諭が迅速かつ適切な判断・処置ができるようアレルギー疾患に対して正し い知識を持つことが重要である。表面上の知識だけではアレルギー疾患を持つ児童生徒の快適な学 校生活のサポートができず,保護者の悩みや苦労を理解することができない。正しく深い知識を持 つことで児童生徒,保護者の不安や心配ごとを解消することができる。また,アレルギー疾患は長 期管理が重要な疾患であるため,セルフケア能力の育成にも力を入れなければならない。保護者や 学級担任,主治医と連絡を密にすることも重要である。気管支喘息では,長期入院後の児童生徒が 一般校に転入することもあり,教職員はもちろん,クラスメイトにも正しい知識を持たせることが 重要である。食物アレルギーやアトピー性皮膚炎においては,学校で発作や症状の悪化が起きた場 合に安心して児童生徒が処置できるよう,薬剤治療の場として保健室を使用させることも養護教諭
として重要な役割である。 謝辞 本稿をまとめるにあって,ご協力くだった先生方や学生の皆様に心より感謝の気持ちを申し上げ ます。本研究は,茨城大学教育学部研究費特別配分の助成を受けて実施しました。 注 1) 厚生科学委員会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会 .『リウマチ・アレルギー対策委員会報告書』. (http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/chu/hotai.htm) 2) 日本学校保健会 .『学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン』.2008. 3) 社団法人アレルギー学会 .『アレルギー疾患診断・治療ガイドライン』.(協和企画).2010. 4) 西岡三馨 .「学校のアレルギー疾患のガイドライン」.『日本小児科学会誌』.113:1545-1556.2009. 5) 橘稚佳子 , 保坂亨 .「「気管支喘息児」への養護教諭の対応」.『千葉大学教育学部研究紀要』46:35-43.(1998). 6) 佐藤伸子 , 永尾真紀 , 永田憲行 .「アトピー性皮膚炎を有する児童・生徒に対する保健指導のあり方」.『熊本 大学教育学部紀要』.50:129-139.(2001). 7) 日本アトピー協会 .(http://www.nihonatopy.join-us.jp/index.html) 8) 松尾理恵 , 和泉京子他 .「花粉症をもつ人の生活実態と症状の変化に関連する要因の検討」.『大阪府立大 学看護学部紀要』14(1):17-23.(2008). 9) 小谷スミ子 , 伊藤知子 , 内藤照美 .「小学校教員のアレルギー児に対する理解と対応第 3 報学校給食におけ る食物アレルギー児への対応」.『新潟大学教育人間科学部紀要』6(1):61-80.(2003). 10) 日本学校保健会 .「食物アレルギーによるアナフィラキシー学校対応マニュアル」.(2005). (http://www.iscb.net/JSPACI/download/20050414_01.pdf#search=' 食物アレルギーによるアナフィラキシー 学校対応マニュアル ') 11) 相原雄幸 .「食物依存性運動誘発アナフィラキシーの疫学と診断」.『臨床免疫・アレルギー』49(5):564-571.(2007).