粘 土 科 学 第17巻 第4号 117∼139(1977) 117
粘土お よび粘 土鉱物の研究課 題
―― 化 学 的 親 和 性 を 中 心 と して――
須
藤
俊
男*;東
京教育大 学名誉教授
Studies
on clays
and clay
minerals
with
special
reference
to the chemical
affinity
Toshio SUDO ; 3-20-7, Miyasaka,
Setagaya-ku,
Tokyo (Emeritus
Professor
of
Tokyo University
of Education)
Abstract
In considering
the historical
information
about the development
of the studies
on clays and
clay minerals,
it is known that there are several
large trends
of studies which started in olden
times and have kept on developing
till the present,
and will promise
to make
further
advance
in future,
having interesting
fundamentals,
high potentialities,
and wide application.
Attention
may first be drawn
to the development
of the field of the studies on the chemical
affinity of
clay minerals.
This article attempts
to account
the outline of the studies
in this
field.
The
contents,
however,
are slightly
different
from
the traditional
review
the object is, rather,
to
see what
light
may be thrown
on typical
phenomena
in this field by a general
and inclusive
concept.
(1) In the first place, the writer gave a brief account
of the special
quality
of the
studies
on"acid
clay"
performed
by K. Kobayashi
(the late Emeritus
Professor
of Waseda
University)
and his collaborators.
The studies
are regarded
to be the foremost
works
in this
field.
(2) The role of the chemical affinity of clay minerals
has been demonstrated
in various
chemical
reactions
between
clay minerals
and inorganic
or organic materials.
In the second
place, therefore,
the nature of clay-organic
complexes
or clay-organic
derivatives
was briefly
explained
with special reference
to their structural
implications.
(3) The chemical
and
struc-tural
behaviours
resulted
from
the chemical
affinity of clay
minerals
have been studied in
several
aspects
in terms of surface-chemical
and topochemical
reactions,
epitaxy,
and catalysis.
In the third place, the writer
gave a brief account of the studies
on epitaxy
observed
among
various
kinds
of materials,
and stressed
its significant
in clay mineralogy.
(4) In the fourth
place, the writer
stressed
that it is significant
and interesting
to study the typical
phenomena
resulted
from
the chemical
affinity
of clay
minerals
from
a point of view standing
on the
general
and inclusive
concept, that is, the template
theory
("Matrizenprincips")
set fourth by
H. Seifert.
(5) In learning
the current
studies
concerning
the role of clays and clay minerals
in the aspects
such as the generation
of petroleum,
the origin of life, and the environmental
science,
particular
attention
was paid on the facts and concepts that clay mineral
have acted
as templates.
序 言 粘 土 お よび 粘 土 鉱 物 の研 究 が,粘 土 科 学 とい う大 き い総 合 科学 に まで 発 展 した現 状 で は,現 代 な らび に 将 来 の重 要 な研 究 課 題 を,全 般 にわ た り,適 切 に 指 摘 す る こ とは 容 易 で な い 。 少 し古 い方 法 と思 われ るが,筆 者 は,こ の よ うな 研 究 課 題 を見 出 す 素 地 を,粘 土 研 究 * 156 世 田 谷 区 宮 坂3-20-7史 に 求 め て み よ う と 考 え た 。 そ こ で 筆 者 が 取 り上 げ た い と思 う課 題 は,古 く よ り今 日 ま で 発 展 の 一 途 を た ど っ て い る研 究 の 大 き い 流 れ に 見 ら れ る も の で あ る 。 尽 き る こ と な く大 き い 流 れ と し て 発 展 し て い る 研 究 に は,大 き い 興 味 と 重 要 性 が 間 断 な く生 れ て い て,更 に 今 後 も新 し い 発 展 が 期 待 で き る も の と 考 え ら れ る。 粘 土 研 究 史 を み る と,古 くか ら今 日 ま で 発 展 の 一 途 を た ど っ て い る 研 究 に は,2つ の 大 き い 流 れ が あ る こ と に 気 付 く。 一 つ は 「粘 土 と は 何 か 」 と い う研 究 の 流 れ で あ り,他 の 一 つ は,粘 土,粘 土 鉱 物 の 持 つ 化 学 的 親 和 性 に 関 す る 研 究 で あ る 。 こ の 化 学 的 親 和 性 に つ い て の 研 究 は,古 くか ら,科 学,工 学,農 学 の す べ て を 通 じ,研 究 分 野 の わ く を 超 越 し て 発 展 し,粘 土 研 究 の 分 野 を,今 日 の よ うに,大 き い 総 合 科 学 に 発 展 さ せ る に,格 別 の 寄 与 が あ っ た も の と 考 え られ る。 粘 土 の 利 用 の は じ ま り も,そ の 化 学 的 親 和 性 に 深 い 関 係 が あ る も の が 多 か っ た よ う に 思 わ れ る。 す な わ ち, 「粘 土 は よ く物 を 吸 い 取 る 」(吸 着)と か,「 粘 土 は 衣 類 な ど の 汚 れ を お と して くれ る 」(漂 白)と して,人 々 の 注 意 を 集 め た の で あ る。PlinyのNaturalHistory
(29A.D.)の39巻(Plinius Secundus (29A.D.), The natural historie,book35,translated by Philemon, Holland (1601),London,tome5,p.560)に,ギ
リ シ ヤ のCimolia島 か ら で る 「土 」 が,衣 類 を き れ い に す る の に 用 い ら れ て い た と 記 さ れ て い る と い う (Kerr,1951)。 こ の 「土 」 は 当 時 か ら,fuller's earth (漂 布 土)と 呼 ば れ て い た が,M.H.Klaproth(1801) は,原 産 地 名 を と り,こ れ をcimoliteと 名 付 け た 。 い う ま で も な く,こ れ ら の 名 は,当 時,特 定 の 鉱 物 の 存 在 を 確 認 し て つ け ら れ た も の で は な か っ た 。 1800年 代 に,同 様 な 特牲 を 持 つ 「土 」 が 世 界 各 地 で 発 見 さ れ 利 用 さ れ た 。Fuller'searth(イ ギ リ ス, Hampshire),Florida earth(ア メ リ カ,Florida), Walkerde(ド イ ツ),terra a foulon(フ ラ ン ス), Bentonite(ア メ リ カ,Wyoming),そ して 日 本 の 酸 性 白土(acid clay)な ど で あ る 。 当 時 既 に,こ れ ら の 「土 」 の 特 性 の 原 点 は,粒 径 の 最 も 細 か い 範 囲 の 粒 子―― 粘 土 粒 子―― に あ る こ と か ら,更 に 進 ん で,そ の 粒 子 の 主 成 分 で あ る 特 定 の 鉱 物―― 粘 土 鉱 物―― に あ る こ と も,次 第 に 指 摘 さ れ は じ め て い た 。 こ こ で 先 ず 酸 性 白 土 に つ い て 筆 を 進 め て み よ う。 酸 性 白 土 新 潟 県東 蒲 原 郡 川 東 村小 戸地 内 は 酸 性 白土 発 祥 の地 とい わ れ て い る。 明 治26年 頃 よ り,こ の 白土 は,土 地 の人 達 に よ り,洗 粉 と して使 用 され て い た。 当時,東 京 大 学 に て石 油 の 脱 硫 法 に関 す る研 究 計画 を立 て られ てい た小 林 久 平 氏 は,こ の研 究 に,こ の 「土 」―― 最 初 は 「蒲 原 土 」 とい う名 前 で呼 ば れ た―― が 役 立 つ か も しれ ない と考 え られ,試 料 を入 手 され研 究 を は じめ られ た。 明 治32年 の ことで あ る。 この時 か ら,こ の 「土 」に つ い て の小 林 氏 の ラ イ フ ワ ー クが は じめ られ た 。海 外 に 対 して は,Kambaraearthと して,1912 年 に発 表 され(Kobayashi,1912),そ の 後,こ の 土 の 持 つ 酸 性 特性 を 強 調 す る 意 味 で 酸 性 白土 と名 付 け ら れ,海 外 に 対 しては,1929年,acid clayと して,当 時 まで の研 究 成 果 を発 表 され た(Koyayashi, 1929)。 そ して,酸 性 白土 の 研究 は,そ の 後,数 多 くの論 文 と 共 に 「酸性 白土 」 とい う著 書(初 版,1919)に 集 大 成 され た。 こ の研 究 は,実 に,早 稲 田大 学 の小 林久 平 教 授 と,そ の 共 同 研 究 者 に よ り,日 本 では 勿 論 の こ と, 世界 を通 じて も,は じめ て 樹 立 され た粘 土 研究,特 に 粘 土 工 学 の 柱 で あ っ た と考 え られ る。 そ の 特 色 を紹 介 す れば 次 の よ うで あ る。 (a) 小林 教 授 の酸 性 白土 の研 究 は,こ の 白土 を通 じ て,粘 土 化 学 工 業 の大 成 に示 され て い るが,一 足 と び に利 用 研究 に進 まれ た の で は な く,ま ず 「酸 性 白土 」 とは 何 ぞ や,と い う,基 礎 的 研 究 を,実 に綿 密 に進 め られ た。 そ して,こ の基 礎,応 用 の研 究 を通 じ,あ ら ゆ る分野 の知 識 を 活 用 され た。 化 学,物 理,鉱 物 学, 結 晶 学,な どの方 面 に関 す る特 性 に つ い て,ま た今 日 の 粘土 レオ ロジ ー に 関す る研 究 につ い て,更 に また産 地,産 状,成 因 に 関す る地 質 学 的 の問 題 に つ い て も, 調 査 考 察 を 進 め られ た。 これ らを 基 盤 と して,石 油 化 学 工 業 え の 酸 性 白土 の利 用研 究 を大 成 され た ので あ る が,一 方 で,こ れ らの 研究 を も とに して,石 油 成 因 説 を提 唱 され た 。 (b) 当時,国 外 の第 一 線 の研 究 とな らんで,こ れ ら と独立 に行 わ れ た 重 要 研究 が 多 か っ た。 そ して,こ れ らの研 究 が 詳 細 な解 決 に導 か れ た の は,内 外 を通 じて, 実 に最 近 の こ と で あ る。 一 例 を あ げ れ ば,初 期 に,酸 性 白土 の 特 性,特 に そ の酸 性 の 起 源 に つ い て活 溌な 研 究 が行 な わ れ,当 時 の小 林博 士 の 研 究 に お い ては,既
粘土 および粘土鉱物の研究課題
119 に 今 日で い う固体 酸 の 本 質 を示 す 成 果 が 得 ら れ て い た 。 こ の酸 性 は,吸 着,イ オ ン交換 と密接 に 関 係 す る こ とが 示 され,こ の 酸性 が 外 部 液 へ移 行 して,そ こで 認 め られ る よ うに な る と き,常 に 明 らか に,ア ル ミニ ウム が 遊 離 して い る こ とを認 め られ,ア ル ミニ ウム塩 の加 水 分解 が 酸性 の主 た る起 源 で は なか ろ うか とい う 見 解 を 発 表 され た。 (c) 酸 性 白土 の特 性 は,酸 性 の み な らず す べ て につ い て,一 口 で い えば,吸 着 性 な らびに,そ れ と密接 に 関 連 して 発 現 され る特 性 で あ る こ とが 次 第 に 明 らか に され た 。 (c-1) 多 くの 無 機,有 機 物 質(気 体,液 体 の別 を問 わ な い)の 吸 着。 た とえ ば,吸 湿,脱 水,ガ ス 吸着, 色 素 の 脱 色,ア ル カ ロイ ド,「ビタ ミンB」 の吸 着 な ど。 脱 水 作 用 に よっ て促 進 され る化 学 反 応 の寄 与 。 た とえ ば,ア ル コール よ りエ チ レ ン,エ ー テル え の変 化 。 (c-2) ビタ ミ ンA,カ ロチ ン,ベ ン ジ ジ ン に対 す る 呈 色 反 応 。 (c-3) 酸 の存 在 下 で進 む 化 学 反応(エ ス テ ル 化)。 庶 糖 の転 化,澱 粉 の糖 化 え の寄 与 。 (c-4) 重 合,縮 合,異 性 化,接 触 分解 反 応 え の 寄与 。 「ビ タ ミンA」,カ ロチ ン色 素 に 対 す る 呈 色 反 応 は,酸 性 白土 の鑑 別 法 と して有 効 で あ る こ とが強 調 され て い た が,一 方 で この両 物 質 が構 造 的 に 密接 な 関 係 に あ る ら しい とい う当 時 の報 告 を 重 要 視 され,そ の 機構 につ い て も見 解 を 述 べ られ て い て,ま た ベ ンジ ジ ンの 呈色 反 応 に つ い て は,当 時,「 酸 化 酵 素 的 作 用 」 とい う興 味 あ る表 現 で 報 告 され て い る。 「ビタ ミンB」 の 吸着 に つ い て は,当 時,外 国 で もfuller's earthに つ い て 報 告 され て い た が,よ く知 られ てい る よ うに,当 時, 日本 で は,鈴 木 梅 太 郎 博 士 に よ り 「オ リザ ニ ン」 が 発 見 さ れ て い た。 酸 性 白土 が 「オ リザ ニ ン」 の濃 縮 精 製 に 大 きい 役 割 を果 した こ とは い うま で もな い 。 数 多 く の 重 質 油 の分 解,人 造 石 油 の合 成,な どの 研 究 え 発 展 し て,石 油 工 業 に つ い て の 酸 性 白土 工 業 と もい うべ き 巨 塔 がつ く られ てい った 。 そ して,一 方 で提 唱 され た 石 油 成 因説 は 魚 油 根源 説 と もい わ れ る。 魚類 の生 棲, 酸 性 白土 の生 成,海 洋,火 山 活 動(熱),地 向斜 堆 積 な どの 総 合 環 境 下 で,白 土 の 接解 分 解 作用 に よ り,魚 油 の天 然 乾 溜 と もい うべ き反 応 が起 り,石 油 が 生 成 され た で あ ろ うとの見 解 で あ る。 この成 因説 に達 せ られ る ま で に,日 本 の油 田 の分 布(特 に酸 性 白土 との関 係), 含 油 層 の 特性,化 石 な どの地 質 学 的 事 実 につ い て,実 地 調 査,な らび に文 献 に よ っ て,詳 細 な検 討 が 行 わ れ て い た こ とは 印象 深 い こ とで あ る。 (d) 物 理 化学,界 面 化 学,コ ロイ ド化 学,有 機,無 機 化 学,地 質学,鉱 物 学,結 晶 化 学,土 壌 学 な どか ら, 更 に広 い工 業 全 般 に わ た り,酸 性 白土 の 研 究 が 影 響 を 及 ぼ した分 野 は 広 い が,中 で も土 壌 化 学 とは 酸 性 土壌 の研 究 を通 じて,理 論,実 験,材 料 の 諸 点 を 通 じて 深 い交 流 が あ っ た。 1910年 代 に,日 本 で は 世 界 に一 歩 先 が け て,酸 性土 壌 の本 質 につ い て活 溌 な 研 究 が 展 開 され て い た 。 明 治 45年,大 工 原 銀 次 郎 氏 は,酸 性 土 壌 を 中 性 塩 で 処理 す る と き,酸 性 は 源 液 に 移 り,同 時 に,ア ル ミニ ウム が 浸 出 され,こ の 酸 を 中 和 す るに 要 す るアル カ リ量 は, 戸 液 中 に浸 出 した アル ミニ ウム イ オ ン と当量 で あ る こ とを 認 め られ,酸 性 の 起源 を 酸 性 土 壌 中 に 存 在 す る (存在 状 態 は 当 時 明 らか で な か った)ア ル ミニ ウム とさ れ た 。 一 方 で,大 杉繁 氏 は風 化 に よっ て生 じた 「塩 基 未 飽 和 体 」 が,酸 性 の起 源 で あ る とさ れ,庶 糖 の転 化 能 に よ り直 接 定量 さ る べ き もの との見 解 を 示 さ れ た (Rice and Osugi,1918)。筆 者 が大 陸 に勤 務 してい た と き,思 い が け な くも鈴 木 梅 太 郎先 生 に間 接 的 に御 指 導 を い ただ く機 会 に 恵 ま れ た と き,最 初 に伺 っ た お話 は,大 陸 で酸 性 白土 を さ が して も らい た い,酸 性 白土 は 小 林 久 平 博 士 が 研 究 し て い る が,ビ タ ミンBの よ い 吸着 剤 で あ る,と い うこ とで あ っ た。 鈴 木 梅 太 郎 先 生 の ビ タ ミンB(当 時 の 名 は 「オ リザ ニ ン」)の 第 一 報 は,1911年 東 京 化 学 会 誌 に 発 表 さ れ て い る こ とは よ く知 られ てい る。 また 柴 田 雄 次 先 生 の お手 紙 に よれ ば,小 林 久 平 博 士 とそ の 共 同 研 究 者 の方 々に よ る酸 性 白土 の研 究 が 全 盛 で あ った 頃 は,「 粘 土 をや らな け れ ば だ め だ 」 とい うよ うな 時 代 で あ っ た とい う。 ま こ とに 感 銘 深 い こ とで あ る。 粘 土 の 正 体 粘 土 の 化 学 的親 和性 の 研 究 に つ い て は,こ の特 性 が 粘土 の 表 面 で 見 られ る場 合 で あ っ て も,更 に 内部 に ま で及 ん で見 られ る場 合 で あ っ て も,何 れ に せ よ,粘 土 の 正体 が 問題 とな っ て くる。 そ こで,粘 土 の正 体 の解 明 とい う研 究 の流 れ は,い つ しか 化 学 的 親 和 性 の研 究 の流 れ と密 に交 流 す る よ うに な っ た。 そ して,粘 土 と は 何 ぞ や の研 究 の流 れ に は,非 晶 質 か,結 晶 質 か,ま た両 者 の共 存 体 か,と い う論 議 の波 が 見 られ る ので あ る。
古 くkaolinite(い うまで もな く,当 時 は,化 学 成 分 が 分 類 の主 な よ り どこ ろで あ った と思 わ れ る)が 粘 土 の主 構成 物 と考 え られ てい た。 恐 ら く,白 くて,ア ル ミニ ウムの 多 い カ オ リン粘 土 が,利 用 の面 で,粘 土 の 中 で特 に人 目に つ き易 か った た め で あ ろ う。 しか し,一 方 で,細 かい 粒 子 で あ る粘 土 の研 究 に は, コ ロイ ド化学 の知 識 が 導入 され てい た。 古 く,コ ロイ ドは非 晶 質 と考 え られ て い た ので,粘 土 もま た全 体 が 非 晶 質 と考 え られ た 時 代 が あ った 。 しか し,粘 土 の諸 性 質 が次 第 に 詳 細 に調 べ られ て く る と,必 ず し も単 純 な 答 で はす ま さ れ ず,「 す べ て非 晶 質 で あ ろ う」 とい う考 え か ら,「 一 部 は 結 晶 質 で あ ろ う」,「一 つ の 化 合 物 で あ ろ う」,「い くつ か の 化合 物 で あ ろ う」 と,Van Bemmelen(1888),Stremme (1912)の 研 究 で 代 表 され る よ うに,当 時 の 研 究 者 は 思 案 にあ まっ てい た よ うに見 受 け られ る。 こ こでH. Le Chatelierは,1887年,既 に,粘 土 は 限 られ た 数 の結 晶 性物 質 よ りで きて い る とい う考 え を持 っ てい た と いわ れ るが,い う まで もな く,当 時 の結 晶 とい う考 え に つい て,規 則 正 しい原 子 配 列 は,イ メ ー ジに す ぎ ず,論 証 の き め手 と して は,一 定 の化 学 成 分 を持 つ こ とが認 め られ る か否 か とい う点 に か か っ て い た と思 わ れ る。 1912年,M.v.Laueに よ り,結 晶 の特 性 で あ る規 則 正 しい原 子 配 列―― 結 晶構 造―― の 実 証 手段 が与 え られ た。 す な わ ち,X線 分析 で あ る。 そ れ よ り10年 ほ どた って,Hadding(1923)は,粘 土 のX線 分 析 の結 果 を 発表 し,粘 土 の 主 構 成 物 が結 晶 質 で あ る こ とを 明 らか に した。 そ し て,ア メ リカ の地 質 調 査 所 のRoss とShannon(1925;1926)は,粘 土 は 一 般 に 限 られ た 数 の 結晶 質 物 質 よ りで きて い る こ とを 明 らか に し, 今 日 の粘土 鉱 物 の 礎 石 を置 い た 。 この 頃 「粘 土 も また 結 晶 質 で あ る」 とい う事 実 に 対 す る関 心 が 科 学 者 の 心 を 強 く支 配 した よ うに見 受 け られ る。 しか し一方 で,1913年 に,既 に,関 豊 太 郎(Seki, 1913)は,allophaneが,火 山 灰 土 の構 成 物 と して重 要 な地 歩 を 占 め る こ と を指 摘 し,1934年,Rossと Kerr(1934)は,allophaneの 鉱 物 学 的 の研 究 を ま と め た 。 また,1938年Mattson(1938)は,土 壌 中の コ ロイ ド粒 子 の 特性 を 説 明 す る た め に,結 晶 粒 子 の核 の まわ りに,非 晶 質 層 が 囲 ん で い る よ うな モ デル を 考 え て い て,粘 上 や 土 壌 と非 晶物 質 との 関 係 に つ い て の 関 心 は決 して衰 え たわ け で は なか った 。 か くして,1940年 頃,Hendricks(1940)は,特 に 粘 土 鉱 物 の 結 晶 に,い ろ い ろ な型 や程 度 の不 規 則性 が 認 め られ る こ とに つ い て 活 濃 な研 究 を展 開 した。 終 戦 後,再 び非 晶 質 粘 土 鉱 物 に つ い て 日本,New Zealandな どで活 溌 な 研 究 が は じ め ら れ た(Sudo, 1954;Fieldes,1957)。 非 晶 質 物 質 え の 関 心 とい う方 向 へ,振 子 は 極 端 に 振 れ て,古 い 時 代 の 考 え に 我 々を 引 き も どす,と,Mackenzie(1963)は 述 べ て い る。 こ こでGrim(1953)の 考 えが 筆 者 の注 意 を ひ く。 こ の 考 え を 多少 修 飾 して述 べ る と次 の よ うに な る で あ ろ う。 非 晶 質物 質 は,量 の 多少 を問 わ ず,い ま ま で考 え られ て い た よ り もも っ と普 遍 的 に,粘 土 の 中 に存 在 す るの で は な い か?粘 土 の持 つ特 性 は,僅 か な非 晶質 物 質 の 混 在 に よっ て も著 し く左 右 され る場 合 が あ る の で は な い かPし か も,非 晶 質 物 質 の検 出は(少 量 存 在 す る と きは な お さ らの こ と,多 量 含 まれ てい る と きで も 時 に は)大 へ ん むず か しい。 この的 確 な検 出 は どの よ うに した ら よい か,な どの 問 に よっ て代 表 さ れ る で あ ろ う。 そ して,ひ い て は,不 規則 構 造 と一 口 で い っ て も,時 に は そ の 不 規 則 度 に 大 きい 幅 が あ っ て,こ の 幅 の 一 端 で は,非 晶 質 と結 晶 質 の 間 に 明 らか な一 線 を画 す る こ とが で きな い 場 合 が あ るの で は な い か,と い う 問 題 は,「 粘 土 とは 何 ぞ や 」 とい う問題 の 将 来 へ の課 題 に 結 び つ くの で は な か ろ うか 。 化 学 的親 和 性 の発 現 の 場 「粘 土 とは 何 ぞ や 」 の 研 究 の流 れ と,化 学 的 親 和 性 の研 究 の流 れ の接 触 に よ っ て,化 学 的 親 和 性 の発 現 の 場 所 が,粘 土 の正 体 の どの よ うな部 分 で あ るか に つ い て,よ り詳 細 な解 決 が 要 求 され る よ うに な った 。 本 稿 の は じめか ら,化 学 的 親 和 性 とい うブ ロ ー ドな, しか し便 利 な言 葉 を用 い て きた が,こ の辺 で,そ の具 体 的 な 事 柄 を あげ ね ば な らな い。 ここ では 吸 着 お よび そ れ と密 接 な 関連 す る事 柄 を論 旨の主 た る 目標 に しよ うと思 う の で あ る。 この 方 面 の 研究 は,Thompson (1850),Way(1850)等 に よ り開 始 され,土 壌 に見 ら れ る吸 着 現 象 は,イ オ ン交 換 に よっ て生 じ,そ の起 源 は 土 壌 中 の細 か い 粒 子 に あ る こ とが指 摘 され た 。 イ オ ン交 換 に つ い て の そ の 後 の 研 究 の 流 れ の 中 に,今 日で は い うま で もな く古 典 的 で あ るが,当 時 と して は 特 色 あ りと され たS.Mattson学 派 の思 想 が生 れ,イ ン ド
粘土お よび粘土 鉱物 の研究課題
121 に お い て 活 溌 な 研 究 が 生 れ た。 しか し当 時 は,粘 土 鉱 物 の 正 体 を十 分 解 明 で き る時 代 に は 到達 して い な か っ た 。 吸 着 体(ま た は 吸 着 媒)を 球 体 モ デル で表 わ し, これ に よ り吸 着 機 構 が 論 じ られ たが,こ れ は コロ イ ド 化 学 の 一 つ の方 法 で あ った。 粘 土 鉱 物 の性 質 が,次 第 に 明 らか に され るに 伴 って,吸 着 体 と して は,よ り現 実 的 な大 き さ と形 を 持 つ 粘土 鉱 物 粒子 に つ い て考 え ら れ る よ うに な った 。 す な わ ち,一 つ の 結 晶 粒子 の,ど の よ うな部 分 に,ど の よ うな化 学 結 合 で,と い うよ う な 研究 の進 め方 で あ る。 そ して,粘 土 の化 学 的 親 和 性 の 問 題 は,次 第 に近 代 的 の研 究 へ と導 か れ,基 礎,応 用 の両 方 面 で発 展 の一 途 を た ど り今 日 に到 っ てい る。 近 代 の研 究 で 明 らか に な っ た こ とは,粘 土 鉱 物 の 中 で も,ま ず,結 晶 性 粘土 鉱物 につ い て は,smectite, vermiculiteの 群 が,他 に比 し,格 段 に 強 い 化 学的 親 和 性 を容 易 に示 す こ とが 知 られ て い る。 これ らの鉱 物 は,粒 子 表 面 ま た は 層間 域(内 面)に,水 分 子,交 換 性 陽 イオ ンを 保 有 し,こ れ らの 分 布 密 度 や,配 置形 態 が,外 囲 条 件 の変 化 に著 し く鋭 敏 に 対 応 して 変化 す る こ とが 多 い 。 しか も,交 換 容量 は 他 の 粘土 鉱物 に比 して大 きい 。 親 和 性 の手 が さ しの べ られ て い る部 分 に は,粒 子 外 表 面 と と もに層 間 域(内 面)が あ る。 これ らの 部 分 に 招 ね か れ る物 質 の種 類 は 多 く,し か も そ の 中 に 多 くの有 機 物 質 も含 まれ て い る。 これ らの物 質 は, 層 間 域 に お い て,ま た 粒 子 表 面 で は,そ れ を構 成 す る 各 結 晶 子 の 層 に 平 行 な 表 面 の近 傍 に お い て,定 向配 列 す る。 した が って 水 と ヶイ 酸塩 層 とが,ま たは 無 機 物 質 で あ る ヶ イ 酸 塩 層 と有 機物 質 とが,常 温,常 圧 下 で, 短 時 間 の うち に 一 つ の 結 晶 を つ くる とい え る の で あ る。 そ して,smectite群 の 中で も,montmorillonite-beidelliteの 系 列 が,基 礎,応 用 の両 方 面 で,他 に 比 して多 く研 究 材 料 と して用 い られ,化 学 的 親 和 性 の 研 究 を 独 占 して い る とい って よい よ うに 思 わ れ る。 この 系 列 に 属 す る粘 土 鉱 物 は,smectiteの 中 で は,他 に 比 して,大 きい 規 模 に ま とま っ て産 出す る(粘 土 鉱 床 を つ くる)こ とが 多 い 。 前 に述 べ たfuller's earthと か,こ れ に類 す る 「土 」 の 中に も,こ の系 列 に 属 す る 種 が,粘 土 分 の 主 要 構 成物 と して 含 まれ てい る こ とは, 今 日一 般 的 事 実 と して 認 め られ てい る。 酸 性 白土 の 正 体 につ い て も,初 期 に は い ろ い ろ論 議 が あ った が,小 林 久 平 博 士 の研 究 を 中 心 と して,上 記 の系 列 の 粘 土 鉱 物 で あ ろ うと の 考 え に 導 かれ てい た 。 一 方 で ,非 晶質 の粘土鉱物は,全 般的 に,化 学的親 和 性 が強 い。 そ の 代 表 例 であ るallophaneに つ い て 数 多 くの研 究 が あ る(和 田光 史(1967,1970),江 川 友 治(1967)の 総 説 を 参 照 され た い)。 結 晶 性 の 粘土 鉱 物 の 場 合 と異 な り,吸 着 に よ り特 殊 な 結 晶 生 成 物 に導 か れ る こ とは な い が,吸 着 機 構 につ い て は 結 晶 性 粘土 鉱 物 とは 異 った 様 相 を 示 す こ とが多 く,研 究 課 題 が尽 き な い。 そ して 火 山 灰 土 中 に 時 に認 め られ る腐 植 の集 積 とい う大 きい 問 題 に 当 面 す る。 以 上 述 べ た よ うに,結 晶性 で あれ,非 結 晶 性 で あれ, 容 易 に,し か も顕 著 に,化 学的 親 和 性 の 発 現 が見 られ る粘 土 鉱 物 の 種 類 は 限 られ て い る。 に もか か わ らず, 長 い研 究 史 の 上 で,化 学 的親 和 性 につ い て の 研究 が 一 向 に衰 え を 見 せ な い の は,上 記 の 鉱 物 に 招 か れ る物 質 の 種 の 数 が 尽 きな い こ と,結 合 機 構,形 態 な どに次 々 と多 くの 問 題 が提 供 され るか らで あ ろ う。 相 入 れな い も のを 「水 と油 の よ うに 」 とい っ て,無 機 物 を有 機 物 に 対 比 させ て い る この た とえは,こ こで は 通 用 しな い の であ る。粘 土 鉱 物 全 般 は非 粘 土 鉱 物 と比 べ ものに な らな い ほ ど多 くの特 性 を持 ち,そ れ が 応 用 面 を拡 大 し て い るが,こ の特 性 の 中 で特 に 大 きい 部 面 を,限 られ た い くつ か の粘 土 鉱 物 が 背 負 って い る とい う感 じで あ る。 さて こ こで まず 有 機 分 子 に 対 す る親 和 性 を取 り上 げ て み よ う。 それ は 化 学 的 親 和 性 の 中 で,粘 土 と有 機物 の 結合 ほ ど近 年 に 到 る まで 大 きい研 究 と して取 り上 げ られ た もの は な く,将 来 の 研 究課 題 と して も重 要 と思 わ れ るか らで あ る。 粘 土 有 機複 合 体 粘 土 と有 機 分 子 の 複 合 体 は一 般 に粘 土 一有 機 複合 体 と呼 ば れ,内 面 複 合 体 と外 面 複合 体 に分 け られ る。 結 晶 性 粘 土 鉱 物 に つ い て 内 面 複合 体 は 層 間 複 合 体 とい っ て も よ い。 外 面 複 合 体 の 形成 場 所 は 結 晶 粒 の 外面 と見 る ことが で き る。 そ れ は 層面 に平 行 な外 面 と,こ れ に 傾 く外 面 ―― 一 般 にedge surfaceと か 破 断 面 とい う―― が あ る。 非 晶 質 粘土 鉱 物 に つ い て は この よ うな は っ き り した 区 別 は な くな る。 機 構 に 関 す る面 か らは,有 機 分 子 が イ オ ンの形 で 複 合 体 を つ くる 場合 と,極 性 分 子 が 複 合 体 を つ くる場 合 に分 け られ る。有 機 イ オ ン と の 複 合 体 Smith(1934)はmontomorillonite-有 機 イ オ ン 複 合 体 の 形 成 が イ オ ン 交 換 に よ り行 わ れ る こ と を 明 ら か に した 。 こ の と き 有 機 イ オ ン の 正 電 荷 と,層 間 に 生 ず る(ヶ イ 酸 塩 層 中 の イ オ ン の 同 形 置 換 の 結 果 生 ず る) 負 電 荷―― 層 間 電 荷―― の 間 の イ オ ン結 合 が 主 要 な 役 割 を 果 す で あ ろ う。Gieseking(1939)の 研 究 は 代 表 的 な 一 つ の 成 果 で あ る 。 こ の 複 合 体 の 形 成 に あ た り, 底 面 間 隙(d(001))―― 単 位 構 造 の 高 さ と い っ て も よ い―― が 影 響 を 受 け る こ と が 指 摘 さ れ(Hofmann, Endell,and Wilm,1934;Bradley,1945),こ の 影 響 は,同 一 群 の 有 機 分 子 の 中 で も,炭 素 数 に よ る こ と が 示 さ れ た(Jordan,1949,a)。Jordan(1949,a)に よ る 鎖 式 脂 肪 族 第 一 級 ア ミ ン(CH3(CH2)nNH2)と montmori110niteの 複 合 体 の 研 究 は 有 名 で あ る 。炭 素 の 数5∼10ま で はd=4Aで あ る が,12∼18の 範 囲 で は,d=8Aえ と階 段 的 に 変 化 す る。 この 変 化 は, メ チ ル 基(-CH3)一 個 の 大 き さ が,約4Aで あ る こ と か ら,ア ミ ン 分 子 層 が,一 層 よ り二 層 へ と変 化 す る た め と解 釈 さ れ た 。 Smectiteの 交 換 性 イ オ ン 比(W)は,1価 イ オ ン で 代 表 さ せ た と き,単 位 構 造 あ た り――O20(OH)4に 対 して で あ っ て,単 位 胞 と は 必 ず し も一 致 しな い―― 2/3=0.67(平 均)で あ る こ と(Ross and Hendricks, 1945)は,現 在 で は 一 般 論 と し て 了 承 さ れ て い る 。 理 想 式 でmontmorilloniteは W2/3(Al10/3Mg2/3)Si8O20(OH)4・nH2O beidelliteは W2/3Al4(Si2213A12/3)O20(OH)4・nH2O で 示 さ れ,こ のseriesは,単 位 構 造 の 半 分 で 示 す と W1/3(Al2-x-yMgx)(Si11/3+x-3y Al1/3-x+3y)O10(OH)2・nH2O と示 され る 。 直 六 方 格 子 を と り,a0=5.15A,b0=8.9Aと す れ ば,一 価 の 交 換 性 陽 イ オ ン 一 個 に よ っ て 利 用 さ れ る 表 面 積 は,2×(5.15×8.9)/0.67=136A2/ionで,一 っ の 層 間 域 に つ い て は こ の 半 分68A2/ionと な る 。 さ て,上 記 の ア ミ ン 複 合 体 の 場 合 は,ア ミ ノ 基 (-NH2)が,そ の 強 いbasicityの た め 水 素 イ オ ン の 供 与 を 受 け-NH3+と な り,CH3(CH2)nNH3+の 形 を と る もの と 考 え ら れ,そ の 意 味 で 上 記 の 複 合 体 は ア ル キ ル ア ン モ ニ ウ ム イ オ ン-montmorillonite複 合 体 と い え る。 有 機 分 子 の 大 き さは大 小 さ まざ まで あ る。 イ オ ン交 換 反 応 は イ オ ン間 結 合 に よ り生 ず る もの で あ るが,こ の イ メー ジ その もの が 想 定 され る場合 は,水 に溶 け て い る低 分 子 量 の 有 機 イ オ ンの 場 合 で あ ろ う。 イ オ ン交 換 と され て い る複 合 体 の 形成 に あ た っ て,有 機 分 子 の 最 大 吸 着 量 がmontmorilloniteの 交 換 容量(CEC)と 当量 で な く,過 剰 の 場 合,ま た不 足 の 場合 も多 く報 告 され て い る。Hendricks(1941)は,ア ル カ ロイ ドの ブル シ ン(C23H26N2O4)や,コ デ イ ン(C18H21NO3) の よ うな 大 きい分 子 は,そ の強 いbasicityに か か わ らず,montmorilloniteのCEC以 下 に しか 吸 着 さ れ な い こ と を示 し,こ れ らの 大 きい 分 子 が,一 つ以 上 の 交 換siteを 蔽 っ てい るた め(cover-up-effect)と し た 。 これ は 有 機化 学 反 応 の 一 つ の 立 体 障 害(steric hindrance)と 見 られ る もの で あ ろ う。 そ してHend-ricksは,大 きい 分 子 に つ い て の イ オ ン反 応 とい わ れ てい る もの は,必 ず しも純 粋 な イオ ン結 合 に よ る もの で は な く,分 極 力 も加 わ った もの で あ ろ うと考 え て い る。 Montmorilloniteに 吸 着 され て い る大 き い有 機 イ オ ンは,小 さい イ オ ンでは 交 換 され に く く,強 く吸 着 され て い る とい う一 般 的 事 実 が 認 め られ て い る。 極 性 有 機 分 子 と の複 合 体 この 場 合 の 結 合機 構 は 一 般 に極 め て複 雑 で あ る。 ま ず 吸 着 物 質 で あ る有 機 分 子 の 側 には,分 極 性 に よ り正 負の 電 荷 中 心 が 分 かれ て い る。 一 方 で吸 着 体 で あ る粘 土 鉱 物 の 層 間 域 で は,酸 素 面 が対 峙 してい るが,こ こ では 層 間 電 荷 が あ り,ま た酸 素 自体 につ い て も,Si-O の結 合 に可 成 の(約50%)の 共 有 性 が あ るか ら,負 電 荷 中心 が 層 間 域 の 側 に形 成 され て い る で あ ろ う。 ま た 一 方 で 有 機 分 子 に は,C-H,N-H,O-Hの 結 合 が 見 られ る 。 これ らを 総 合 す るに,双 極 子 一双 極 子,イ オ ン-双 極 子,水 素 結 合 な どが 考 え られ る。 鎖 式 飽 和1価 アル コー ル(CH3(CH2)n(OH))に つ い て の 研 究 は 初 期 の 代 表 的 な 研 究 で あ る。 脂 肪 族 多価 アル コー ル―― エ チ レン グ リコル((CH2)2(OH)2),グ リセ リン(CH(CH2)2(OH)3)―― な どに つ い ての 研 究 は よ く知 られ て い る。 有 機 極 性 分 子 との 複合 体 の 場 合 に,有 機 イ オ ンの 複 合 体 と同 じよ うに,炭 素(C)数 の 変 化 と底面 間 隙(d) の 変 化 との 関 係 が 指 摘 され た 。 そ れ も階 段 的 の変 化 で
粘土お よび粘土鉱物の研究課 題
123 あ っ て(し か し こ こで は まずCの 増加 に伴 っ てdの 減 少 が認 め られ る),有 機 分 子 が 層 面 に 沿 うて定 向配 列 し,有 機 分 子 配 列 層 をつ く り,こ の 層 の厚 さ の最 小 単 位 は有 機 分 子 が底 面 に平 行 に重 な らな い で な ら んだ も の で示 され,こ の 層 が二 枚,三 枚 と重 な る ため に 生 ず るd(001)の 規 則 正 しい階 段 的 変 化 と見 られ た。 これ らは単 分 子 層,二 分 子 層 な ど と呼 ば れ て い る。Mont・ morilloniteで は,脂 肪 族 多 価 アル コール に つ い て二 分 子 層 の形 成 が 見 られ る が,halloysite-10Aで は, 単 分 子 層 の形 成 に と どま る。 この解 釈 と しては,よ く 知 られ てい る よ うに,montmorilloniteの 層 間 で は 負 の イオ ン電 荷,ま た は 電 荷 中心 が対 峙 して い るが, halloysiteで は,電 荷 中 心 の 一 方 は 正,一 方 は 負 で あ る た め と考 え られ て い る(MacEwan,1948)。 さ て上 に 述 べ た よ うに,ま ず 有 機 分 子 が 重 な らな い で,底 面 に 平 行 に 定 向 配 列 す るが,こ の と き,有 機 分 子 の 形 は 球 では 必 ず しもな い か ら,定 向配 列 す る各 分 子 の 方 位 が 問 題 に な るわ け で あ る。 この 方 位 如 何 に よ り,有 機 分 子 の 配 列 の 単位 層 の 厚 さ も,ま た そ の 積 み 重 な りの 結 果 認 め ら るべ き階 段 的 変 化 の大 き さ も変 化 す るは ず で あ る。 特 に この こ とは 長 い 鎖 の 分 子(炭 素 数 の 多 い)で は 問 題 に な るは ず で あ る。 極 性有 機分 子 に つ い て,炭 素 の 数 とd(001)の 関係 は,有 機 イ オ ンの 場 合 とは 同 じ傾 向 で な か っ た が, Barshad(1952)は,炭 素 の数 が8以 上 に な る と,底 面 間 隙 が飛 躍 的 に 異常 な増 加 を示 す こ とを報 告 した。 この よ うな 異常 な増 加 は,層 の 積 み 重 な りの増 加 のみ で は説 明 で きず,長 鎖 状 有 機 分 子 が,底 面 に垂 直 に 立 つ た め で あ ろ うとの 考 えが 有 力 とな った(勿 論,配 列 が 全 く乱 れ る の で は な く,定 向 配 列 は保 たれ てい るの で あ る)。Cano RuizとMacEwan(1956)は,液 状 の 鎖式 ア ミン(中 性)-graphiticacid複 合体 に 同 様 の 事 実 を 認 め,こ れ を β-型複 合 体 と名 付 けた("stand-ing normally to the layers of the sorbate"と い
う表 現 で あ る)。 そ して,こ の型 は,montmorillonite との間 に も形 成 され る こ とが 報 告 さ れ た(Aragon,
Cano Ruiz and MacEwan,1959)。 鎖 が 垂 直 に立 っ
た と き,単 分 子 層 の場 合 に,炭 素 が 一 個 増 加 す る こ と に,dは1.35A(C-C問 の 平 均 距 離)だ け 増 加 す る 。 か く し て,1900年 の 後 半 に か け て,montmorillo-niteま た はvermiculiteと,鎖 状 ア ル キ ル 鎖 を 持 つ 有 機 分 子 との 複 合 体 に つ い て,ア ル キ ル 鎖 が 層 面 に 平 行 な場 合 か ら,垂 直 まで い ろ い ろ な 特定 の 角度 で傾 い て い る例 が 明 らか に され,こ の よ うな 傾斜 配 列 は,鎖 状 有 機 イ オ ンに つ い て も認 め られ る よ うにな った 。 長 鎖状 分 子 が 特 定 の 傾 斜 角 を もっ て定 向 配列 す る とい う 事 実 の発 見 な らび に そ の研 究 の進 歩 は,粘 土 研 究 史 の 上 に特 筆 さる べ き革 期的 な事 柄 で あ る と思 わ れ る。 この よ うな 傾斜 配 列体 が 形 成 さ れ る ときは,特 定 の 分 子 層 につ い て,炭 素数 の増 加 と共 に,dの 値 が 特 定 の値 ず つ 階 段 的 に 増加 す るが,炭 素 が1個 ず つ 増 加 す る毎 に常 にdも 増 加 す るか ら,dと 炭 素 数 の関 係 を示 す 図 表 で,こ の 関 係 は傾 斜 した 直 線 関 係 で 示 され る 。 炭 素 原 子 数 を示 す 軸 に対 す る この 直 線 の 傾 斜 は,ア ル コー ル(CH3(CH2)nOH)で 最 大 で あ り,中 性 ア ミン (CH3(CH2)nNH2),ア ル キル ア ン モ ニ ウム イオ ン(CH3 (CH2)nNH3+)の 順 に よ り小 さ くな る とい う興 味 あ る
事 実 が 報 告 さ て れ い る(Johns and Sen Gupta,1967)。
ま た近 年Weiss(1963)は,鎖 状 分 子 の 鎖 の方 向 と底 面 との 傾 斜 角は,同 じ炭 素 数 の 有 機 分 子 で も,層 間 電 荷 が 大 き くな る ほ ど大 きい とい う興 味 あ る事 実 を報 告 した 。 これ ま で,複 合 体 は,主 と して層 間 電荷 の比 較 的 小 さいmontmorilloniteに つ い て 研 究 され て い た が,実 は 層 間 電 荷 の大 きい雲 母 で も複 合 体 が で きる 。 但 しそ の 生 成 完 結 ま での 時 間 が,montmorilloniteで は せ い ぜ い 数 時 間 で あ るが,雲 母 で は 十 数 ヶ月 も か か る との こ とで あ る。 か く して,Weissは この傾 斜 角 の 値 か ら層 問 電 荷 を推 定 で きる こ とを指 摘 した 。 傾 斜 角 は炭 素 一 個 あ た りのdの 増 加 を測 定 す れば よい わ け で あ る が,こ こで 分 子 層 の枚 数 は予 め知 らね ば な ら な い 。Weiss,Becker,Lagaly(1969)は,n-ア ル キル ァ ンモ ニ ウム ーallevardite複 合 体 を 研 究 し,規 則 的 混 合 層 鉱 物 の成 因 説 の一 つ で あ る電 気的 極 性 説(Sudo, Hayashi,andShimoda,1962)を 検 討 す るに有 効 な ら ん とい う興 味 あ る推 論 を 発 表 して い る。 結 晶 構 造 解 析 以 上 述 べ た よ うに粘 土-有 機 複 合 体 に お け る有 機 分 子 の 配 置 形 態 は,微 に入 り細 に 入 っ て変 化 に 富 み興 味 深 い もの が あ る。 何 れ に せ よ,こ の 複 合 体 は,ま ぎ れ もな き一 つ の 結 晶 で あ って,ま さに 無 機 物 と有 機 物 の 「合 い の 子 」 の 結 晶 とい え る。 更 に そ の 実体 を明 らか に す るた め に3次 元 的 の 構造 解 析 が 望 ま しいが,こ の た め に 必 要 な 肉 眼 的 の 単一 結 晶 は,montmorillonite か ら得 る こ とは 無 理 で あ る。 そ れ でmontmorillonite
と の 複 合 体 に つ い て は,1次 元 の フ ー リエ 合 成 に よ る 電 子 密度 分 布 に よ り,構 造 的 知 見 が 得 ら れ て い る 。 例 え ばBrindley(1956)は,エ チ レ ン グ リ コル-alle-vardite複 合 体 に つ い て,エ チ レ ン グ リ コル 分 子 が, allevarditeの 混 合 層 構 造 のmontmorillonite層 の 層 間 に,ア ル キ ル 鎖 を 底 面 に 平 行 に し て 定 向 配 列 し, こ の よ うな 分 子 層 が 二 層 重 な っ て い る こ と を 示 し た 。 ま たJohnsとSenGupta(1967)は,ヘ キ シ ル ア ミ ン (CH3(CH2)5NH2)-vermiculite複 合 体 に つ い て,次 の よ うな 構 造 知 見 を 得 て い る 。 す な わ ちNH3+の Nと,そ れ に 接 す るCと の 結 合 方 向(C-N)は,底 面 に 垂 直 に な っ て い て,NH3+は 底 面 の 酸 素 の 六 角 形 の 穴 の 直 上 に あ り,N-H…Oの3つ の 水 素 結 合 に よ り結 ば れ,こ の 部 分 は,close packingの 様 相 を 示 し,ア ル キ ル 鎖 は 底 面 と約55° の 傾 斜 を 示 し て い る 。 Vermiculiteは 肉 眼 的 の 単 一 結 晶 が 得 られ る の で,3 次 元 に わ た る 詳 細 な 構 造 解 析 はvermiculiteと の 複 合 体 に つ い て 行 わ れ て い る。 た と え ば,hexamethyl-enediamine-vermiculite複 合 体(Haase,Weiss, andSteinfink,1963),6aminohexanoicacid-ver-miculite複 合 体(金 丸 文 一,1968)の 結 晶 構 造 解 析 は 代 表 的 の も の で あ る 。 鎖 式 有 機 分 子 が,層 面 に 対 して,い ろ い ろ な 特 定 の 角 度 で 傾 斜 し,定 向 配 列 を 示 す と い う興 味 あ る 事 実 の 成 因 は,複 雑 で,一 義 的 に は 考 え ら れ な い よ う で あ る 。 層 間 電 荷 と の 関 係 か ら み る と,cover-up-effectを 避 け る た め の 結 果 で あ る よ うに も 見 え る 。 しか し,結 晶 構 造 解 析 の 例 で 明 ら か に さ れ て い る よ5に,鎖 の 端 部 の ア ミ ノ基 や,カ ル ボ キ シ ル 基 と 底 辺 酸 素 と の 間 に 形 成 さ れ る 化 学 結 合(た と え ば 水 素 結 合)に よ り,ア ル キ ル 基 の 方 位 が 規 定 さ れ る 場 合 も あ る よ うに 思 わ れ る。 ま た 時 に,ア ル カ リ鎖 の 中 間 に 物 質 が 存 在 す る 場 合 は,そ れ が 鎖 に 特 定 の 傾 斜 角 を 与 え て,特 定 の 方 位 に 安 定 化 さ せ て い る場 合 で あ る よ うに も 考 え られ る 。 ま た 層 間 が 広 く開 か れ 得 る と い う条 件 が 与 え られ る こ と が 前 提 と な っ て い る場 合 も あ る よ うに 思 わ れ る 。 た とへ ば 極 性 の 鎖 状 分 子 の 場 合,そ の 一 端 が 酸 素 面 に 結 合 し,そ の 他 端 の 電 荷 中 心 が,層 間 を ひ き し め て い る 交 換 性 イ オ ン の 正 電 荷 を 中 和 す る た め,層 間 が 広 く開 く よ うに な り,鎖 状 分 子 が 広 く開 い た 層 間 に ブ リ ッ ジ を つ くる と い う考 え で あ る 。 極 め て 多 くの 種 類 の 有 機 分 子 が 層 間 複 合 体 を つ く り 得 る こ とが知 られ る よ うに な り,そ の 中 に は,分 子 量 の 極 め て大 きい もの,ま た生 体 に 密接 に 関係 す る有 機 物 まで認 め られ る よ うに な った 。 蛋 白,ア ミノ酸 類 は そ の 例 で あ る。 蛋 白 との複 合 体 の 場 合 で も,一 分 子 層, 二 分 子 層 とい うよ うな表 現 が と られ て い るが,蛋 白分 子 の 形 は大 へ ん 複 雑 で あ るか ら,吸 着状 態 の 構造 的 知 見 は 未 だ 明 らか で な い。 ま た ア ミ ノ酸 の よ うな両 性 イ オ ンの 性 質 を 示 す もの で は,イ オ ン反応 と して,ま た 実 効 電荷 の な い 中 性 の 場合 に は,極 性 反 応 と して,複 合 体 が 形 成 され,こ の 変 化 は,pHに よ り規 定 され る ことが 多 い 。 よ っ て,ア ミノ酸 の 吸 着 特 性 は 等 電 点 を 境 と して異 な る。 土 壌 中 の 腐 植 物 質 に つ い て は,層 間 複 合 体 と して 報 告 され てい る もの は ない よ うで あ るが,比 較 的 分 子 量 の小 さ い フル ボ酸 が,外 液 のpHが 酸 性 の と き,層 間 複合 体 を形 成 す る こ とが 報 告 され て い る(Schnitzer
and Kodama, 1966)。 この と き,酸 性 下 で は,-CCOH
の解 離 が お さ え られ る ため と考 え られ て い る。 一 般 的 事 実 と して土 壌 中 に あ る有 機 物 は,単 独 に あ る場 合 に 比 して,生 物 学的 の分 解 に 対 し抵 抗 性 が あ る こ とが 古 くか ら知 られ て い て,そ の た め,土 壌 中 の有 機 分 子 は, 何 らか の化 学 結 合 で土 壌 粒 子(土 壌 中 の粘 土 粒子)と 結 ば れ て い る だ ろ うと考 え られ て きた 。 外 面複 合 体 外 面 の 中 で,層 面 に 平行 な結 晶 外 面 に つ い て の 吸 着 特 性 は,層 間 域 と異 質 な もの は な い と思 わ れ る。 しか しこれ は 表 面 の 近 傍 で の こ とで あ って,そ れ よ り離 れ る につ れ て 吸 着 物 質 の 配 列 は,次 第 に 乱 され る もの と 思 われ る。 破 断 面 に な る と,層 間 内 面 や,層 面 に平 行 な外 面 と は 異 っ た様 相 を 呈す る もの と考 え られ て い る。 恐 ら く 破 端断 面 に は 原 子価 が満 足 され て い な い 酸素 が 露 出 し て い る こ とに な る。 これ に 気 体 や 液 体 が 接す る場 合 に しか もそ れ ら接 す る物質 の 中に,正 の イ オ ン電 荷 を持 つ 粒 子 が あ っ た 場 合 に は,こ れ を 引 きつ け,原 子 価 を 満 足 させ る もの と考 え られ る。 た とえ ばpHの 小 さい 液 体 と接 す る と き,A1-OHの よ うな未 解 離 の基 が 形 成 され,更 に 〔A1-OH2〕+の よ うな 正 電 荷 が生 ず る も の と考 え られ る。 一 方 アル カ リ性 に な る と,(Al-OH) +OH-→(A1-O-)+H2Oの よ うに,負 電荷 が生 ず る も の と考 え られ る。 この よ うに,電 荷 を生 ず る場 所 は, 有 機 分 子 の 中 で は,有 機 イ オ ンの 吸 着 の場 所 と して有
粘土 および粘土鉱物 の研究課題
125 効 な わ け で あ る。 しか し,生 ず る電 荷 の 正 負 が,有 機 分 子 の 側 で もpHに よ り変 化 す る場 合 に は,吸 着 を生 じさせ る た め に,pHを 特 定 の 範 囲 に 制 御 す る必 要 が あ る。 た とえば,-COOH基 を持 つ 有 機 分 子 を 破 断 面 に 結 合 させ よ うとす る と きは,中 性 か ら アル カ リ性 え の 範 囲 で,-COO-の よ うな 負電 荷 を生 ず るか ら,こ の 場 合 の吸 着 は,pHの 限 られ た特 定 の範 囲 で生 ず る。 pHを 特 定 な範 囲 に 制 御 し,有 機 分 子 が破 断 面 に 選 択 的 に 結 合 す る条 件 をつ く り出 す 。 そ して 同時 に,イ オ ン化 した有 機分 子 を鎖 の方 向 に連 結 す る こ とが で き る な らば,粘 土 粒子 同志 は 長 い有 機 分 子 の鎖 で連 結 す る こ とに な り,粒 子 の集 合 体 を 力 学 的 に 安定 化 す る に役 立 つ 。 これ は有 機物 に よる土 壌 安 定 化 の一 つ の方 針 で あ る(喜 田 大 三,川 口桂 三 郎,1961)。 粘 土 一有 機 複 合 体 は,水 に 対 す る親 和 性(親 水 性), 水 中 で の 膨 潤 性 を 失 な い,そ の代 わ りに 特 定 の 有 機 溶 媒 との 親 和 性 は 高 ま り,そ の 中 で著 し く膨 潤 す る よ う に な る。 この 特 性 は 粘 土 一有 機 複 合 体 の 大 きい応 用 面 を 開 拓 したが,応 用 研 究 はHauserに よ りは じめ られ (Hauser(1955)参 照),Jordan(1949,a,b)に よ っ て詳 細 に 行 わ れ た。 Jordanに よ れ ば,鎖 状 ア ル キ ル ア ンモ ニ ウム ー montmorillonite複 合 体 の 例 で は,有 機 溶 媒 中 で の 膨 潤 容 積 が,炭 素 の 数 の 増 加 と共 に増 加 す る傾 向 に あ り,こ の 傾 向 は,溶 媒 の 透 電 恒 数 の増 加 に伴 っ て著 し くな る とい う。 調 べ られ た 中 で は,ニ トロベ ン ゼ ンが 最 高 の 膨 潤度 を示 してい る。 しか も この と き,膨 潤 容 積 は,母 体 で あ るmontmorilloniteの 陽 イオ ン交 換 容 量 に 関 係 し,こ の 容 量 の 最 大 値 の と ころ で膨 潤 容 量 は最 高 で あ る とい う結 果 が 得 られ て い る。 有 機 溶 媒 に 対 す る親 媒性 は,organophileと い え るの で,mont-morillonite-有 機 複 合 体 は,bentoniteを 用 い てつ く られ,organophilic bentoniteと 呼 ば れ る ことが あ る(こ の よ うな 呼 び 名 は 利用 面 で用 い られ る こ とが 多 い)。 ま た,商 品 と し て"Bentone"(National Lead社 製 品 で,い くつ か の 種 が あ る)と い う名 前 も あ る。Bentone-34はdimethyldioctadecylammon-ium-bentoniteで あ る。 日 本 で は 白石 工 業 よ り製 造 され た"Orben"が あ っ た(長 谷 川 博,近 藤 三 二, 1958)。 この もの は アル キル ア ンモ ニ ウム(た とえ ば, trimethyloctadecylammonium)の 塩 化 物 に,ス テ ア リン酸 ア ミ ド(CH3(CH2)16CONH2)の よ う な 極 性 化 合 物 を 加 え た有 機 ベ ン トナ イ トで あ って,有 機 溶 媒 (た と えば トル エ ン)中 の膨 潤 は,こ の極 性 化 合 物 を 加 え る こ とに よ り改 良 さ れ,Bentolleよ り良好 に な る こ とが報 告 され て い た。 オ ク タ デ シル ア ミン ・ス テ ア リン酸 ア ミ ド ーベ ン トナ イ トの特 性 は,X線 分 析,赤 外 線 吸 収 ス ペ ク トル,DTAな どに よ り,詳 細 な研 究 が 行 わ れ て い る(荒 川 正文,1970)。 こ の 研 究 に よれ ば,僅 か に40mg当 量 の ス テ ア リン酸 ア ミ ドの 添 加 で,底 面 間 隙 は22Aえ 増加 す る。 この場 合,鎖 状 ア ル キ ル 鎖 が 層 面 に平 行 に 配 列 す るに 十 分 な広 さが あ る と考 え られ る に か か わ らず,面 間 隙 の この よ うな飛 躍 的 の 増 加 が み られ る こ とに つ い ては,ス テ ア リン酸 ア ミ ドが,層 間 域 に特 定 の 傾 斜 角 で定 向 配 列 す る よ う に な る た め と 考 え ら れ た。 この とき1端 のNHは N-H…Oの 水 素 結 合 を な し,他 端 のNHは 恐 ら く Si-OH(シ ラ ノール 基)と 水 素 結 合 を 形成 して い る の で あ ろ う との 見 解 が示 され て い る。 カ オ リン 鉱 物 と の複 合 体 の発 現 1900年 中 頃 か ら,新 しい重 要 な研 究 が生 れ た。 そ れ は カ オ リナ イ ト群 に つ い て で あ る。1956∼1959年 の 頃, 特定 の塩(た とえ ば アル カ リ金 属 の塩 化 物)がhalloy-site中 に 著 し く集 積 す る こ と が 発 見 され た(Wada,1958;NVeiss,1956;Garrett and Walker,1959)。
そ して,こ の 場 合,塩 類 は単 分 子層 と して層 間 に 定 向 配 列 す る こ とが 明 らか に され た(Wada,1958)。 や が て 酷 酸 カ リウム が カオ リナ イ トと層 間 複合 体 をつ く り 得 る こ とが 発 見 され た(Wada,1961)。 この 新 事 実 は, kaoliniteと この試 薬 を乳 鉢 の 上 で,15∼30分 間 磨 砕 して一 昼 夜 ほ ど放 置 す る とい う手順 の結 果 か ら確 認 さ れ た 。 そ して,こ の 発 見 はintersalationと い う言 葉 を生 ん だ 。 そ れ まで 層 間 に物 が侵 入 す る現 象 を意 味 す る語 に,intercalationと い う用 語 が あ った が,こ れ に 対 しintersalationは 「塩 類(salt)が 入 る こ と」 を強 調 した 意 味 の 用 語 で あ る。 これ まで,粘 土 一有 機 複 合 体 の形 成 に見 る よ うな, 化 学的 親 和 性 に 富 む 粘土 鉱 物,し か もそ の 中 で,層 間 複 合 体 を も形 成 し得 る も の に は,smectiteとver-miculiteが 主 な もの で あ った 。 こ の 両 群 の鉱 物 は, 層 間 に は 水 分 や 交 換 性 イ オ ンを 持 ち,そ の 中 で水 分 の 量 は,温 度,湿 度 に よ り著 し く変 化 し,そ の た び に 層 間 隙 は拡 が っ た り縮 ま った りす る。 い か に も これ らの 鉱 物 の 層 間 域 は,い ろ い ろ な 客(guest)に 対 して 門
戸 が開 か れ て い る場 所 とい って よい。 これ らの 鉱 物 は, 外 囲 の条件 に よ っ ては,層 間 が開 か れ る とい う意 味 で, expandableな 粘 土 鉱 物 と呼 ば れ て い た。 しか るに, kaoliniteは,そ れ ま で,non-expandableで あ る と な され て いた 。 しか し,こ こで,特 定 の アル カ リ塩 類 (潮解 性 が 顕著 で あ る)が,常 温,常 圧 下 でkaolinite の 層 間 を開 い て そ こへ 侵入 し,し か も層 間 に単位 結 晶 層,ま たは 単 分 子 層 とい え る結 晶 層 と して納 ま る こ と が 明 らかに 示 され た の で あ る。 この 発 見 は 粘 土 研 究 史 上,特 筆 さ るべ き成 果 と考 え られ る。 次 い で,Weiss(1961)は,尿 素 が,ま たWeissと そ の共 同研 究 者(Weiss,Thielepapo,eta1.,1963) は,フ オ ル ム ア ミ ド,ヒ ドラ ジ ンが,kaoliniteの 層 間 を 開 い て侵入 し,そ こに 結 晶 層 と して納 まる こ とを 発 見 した。 交 換 性 イ オ ンを 有 す る こ と もな く,平 素 は 開 かれ る こ との ない 場 所 と され て い たkaoliniteの 層 間 域 が, 何 故 に,か く もい ろ い ろな 物質 に よ って 開 かれ る よ う に な るの で あ ろ うか 。 この点 未 だ十 分 明 らか に され て い ない が,一一つ の 興 味 あ る推 論 が あ る。 元来,尿 素 や ヒ ドラ ジンは,そ れ 自体,強 い水 素 結 合 能 を持 ち,蛋 白質 の 変性 を起 こす こ とが知 られ て い る。 す なわ ち, これ らの物 質 に よ り,蛋 白 の 内部 構 造 を維 持 す る上 で 大 切 な水素 結 合 が 切 られ て し ま うか らで あ る。kaoli-niteの 層 間 を 引 き し め て い るO-H…Oの 水 素結 合 が,尿 素 や ヒ ドラ ジ ン で切 られ,そ の結 果,kaolinite の 層 間 が開 か れ る こ とは 無理 な く考 え られ る と ころ で あ ろ う。 Kaolinite-尿 素 複合 体 の発 見 は また 興 味 深 い推 論 を 生 ん だ。 陶 器 の 歴 史 の上 で一 つ の 黄 金 時 代 であ った 中 国 宋 代 に,器 壁 を通 して 中の 水 の 輝 き を見 る こ とが で き る とい う極 め て 薄 手 の磁 器 が あ る。 そ して,そ れ は 粗 粒 の結 晶 度 の よ いkaoliniteか ら主 と して つ くられ た こ とが 確 め られ た とい う。 こ こで 乾 燥 強 度 と可 塑 性 に 乏 しい この材 料 か ら,ど う して,薄 手 の 磁器 がつ く られ たか とい う疑 問 が続 くの で あ る。 宋 代 に原 料 は 尿 の 中 に貯 え られ て い た(い わ ゆ る 粘土 の 「寝 かせ 」)と い う。 尿 素 で処 理 した後 に磨 砕 したkaoliniteで は, 通 常 の湿 式 磨砕 を 行 っ た場 合 と比 べ もの に な らぬ ぐ ら い,結 晶 は 薄 い 片 々 に剥 離 され,乾 燥 強 度,比 表 面 積 な どが著 し く増 加 す る よ うに な る こ と をWeiss(1963) は 示 した。以 上 述 べ た よ うな 原料 の 「寝 か せ 」に よ っ て尿 素 複 合体 の 形成 が,kaoliniteの 水 性 試 験 特 性 を 改 良 す る に役 立 っ た の で あ ろ うと推 論 が成 り立 つ の で あ る。 粘 土-有 機誘 導 体 粘土-有 機 複 合 体 の研 究 が一 つ の ピー クに 達 してい た1900年 代 の 中頃,一 方 で粘 土-有 機 誘 導 体 とい う名 の も とに活 溌 な研 究 が生 れ て い た 。 これ に つ い て は Deue1(1957)に よ る総 説 が あ る。 この研 究 は,化 学 的 親 和 性 に基 くとい う点 で は粘 土 一有 機 複 合 体 と軌 を一 に す る もの で あ るが,具 体 的 の事 柄 では 少 し相 異 す る。結 晶性 粘土 鉱 物 以 外 に,シ リカ ゲル が 広 く用 い られ て い る。 生 成 目標 の モ デル と しては,ど の よ うな 原 料 で あ ろ うと,そ の 粒 子 の表 面 を有 機 物 で 包ん だ よ うな もの が考 え られ て い る 。実 際 に 層 間 複 合体 も出 来 て い る可 能 性 が あ るが,そ の方 面 か らの 考察 は 少 な い 。全 体 と して表 面 化 学反 応 を意 図 してい るが,そ の 中 に は単 な る交 換 反 応 以 外 に,一 歩 進 んだ 化 学反 応 が 研 究 され て い る。 た とえ ばSi-O-C の 結 合 か ら,更 に進 ん で,Si-cの 結 合 を 持 つ 生 成 物 を 得 よ う とす る方 針 で あ る。 この よ うな意 味 か ら,単 に 「複合 体 」 とい うよ りは,「 誘 導 体 」と い う言 葉 が 適 切 の よ うに 思 わ れ る。 最 初 の研 究 は,Berger(1941)に よ る もの と思 わ れ る。Bergerは 水 素型 のmontmorilloniteに ジ ア ゾ メタ ン(CH2N2)を 作 用 させ の よ うな 反 応 に よ り,メ チ ル エ ス テ ル と も い うべ き 誘 導 体 を つ く っ た 。 Si-Cの 結 合 を 有 す る 誘 導 体 を つ く る に は,塩 化 チ オ ニ ル(SOCl2)を 用 い る 方 法 が あ る(Deueland Huber,1951)。 た と え ば,Na型montmorillonite を 塩 化 チ オ ニ ル と 共 に 還 流 冷 却 器 の 中 で 化 合 させ る と, (Si-O-Na)十SOCl2→(Si-C1)十SO2十NaC1 の 反 応 が 進 む 。 過 剰 の 塩 化 チ オ ニ ル は 蒸 溜 に よ り取 り の ぞ き,水 洗 して 亜 硫 酸(H2SO3)を 取 りの ぞ く。 残 渣 を 乾 か した も の に は 約80me/1009の 塩 素 が 含 ま れ,Na型 のmontmorilloniteは,montmorillonite chlorideと も い うべ き もの に 変 っ て い る 。 こ れ を AICI3を 触 媒 と し て ベ ン ゼ ン と 共 に 別 の 還 流 冷 却 器 中 で 処 理 す れ ば(Friedel-Craftsの 反 応 で あ る),
粘土 および粘土 鉱物の研究課 題
127 の 反 応 で フエ ニル ーmontmorilloniteと い うべ き も の が で き る。 生 成 物 は110℃,0.001mmHgの 条 件 下 で約15時 間 処 理 して取 り出す 。 粘 土 一有 機 誘 導 体 につ い て は 極 め て多 くの報 告 が あ る が,中 心 的 の 役 割 を果 した人 達 は,H.Deuel教 授 とそ の 共 同 研 究 者 で あ る。 筆者 が1961年ZUrichに て 同教 授 の研 究 室 を たず ね た と き,不 幸 に して同 教 授 は重 い病 の 床 に あ った が,数 人 の 弟 子 の方 々が 多 くの 時 間 を さい て 研 究 成 果 を 紹介 さ れ,研 究 室 の希 望 と誇 りが 満 ち て い た と感 じた こ とは,記 憶 に新 た な と ころ で あ る。 酸 性 以 上 述 べ て きた よ うに,粘 土 と有 機 分 子 の 親 和 性 の 近 代 的 研究 は,古 く か ら 粘 土 に知 られ てい た 吸 着 性 (時 に漂 白性)特 に 有 機物 との吸 着 性 の 正体 を明 らか に した もの と見 る こ とが で きる。 特 に そ の成 果 の中 で, 構 造 的 の 知 見 は 興 味 あ る と ころ で あ る。 しか し,こ こ に 論 ず べ き残 され た問 題 と して 粘 土 の 酸性 の 問題 が あ る。 既 に古 く,特 に 日本 では 小 林 久 平 博 士 の 酸性 白土 の 研 究,ま た土 壌 化 学 の分 野 で は 酸 性 土 壌 の 研 究 を 中 心 と して,土 の酸 性 の 研究 が 活 溌 に 行 わ れ てい て,粘 土 の酸 性 は そ の 化 学 的 親 和性 を格 段 に高 め る もの で あ る こ と も よ く認 め られ て い た。 しか も この酸 性 は 粘 土 の 吸 着 性 を高 め るの み な らず,重 合,縮 合,接 触 分 解 な どの 反 応 を 速 進 す るに 役 立 つ こ と も知 られ,そ の た め 粘 土 の触 媒 能 が指 摘 され た 。 そ して人 為 的 に酸 処 理 を して,そ の 吸 着 能,触 媒 能 を高 め て利 用 す る こ と もは じめ られ た。 活 性 白土 は これ で あ る。 粘 土 粒子 に 見 られ る よ うな酸 性 は,一 般 に固 体 酸 の 一 例 と見 られ る よ うに な り,ま た表 面 酸性,置 換 酸 性 とい うよ うな 呼 び 方 もあ る。 土 壌 化 学 の方 面 では,潜 酸 性 とい う言 葉 が 用 い られ て い るが,こ の意 味 す る 内 容 に は,腐 植 に 基 因す る酸性 も含 まれ てい る よ うで あ る。 特 に 土 壌 化 学 では,強 酸,強 塩 基 よ りな る 中性 塩 を加 え た とき示 さ れ る交 換 酸 性 とか,ま た 弱 酸,強 塩 基 よ りな る塩(た とえば 酢 酸 カル シ ウ ム)を 加 え た と き示 さ れ る加 水 酸 度 を も含 め て,交 換 全 酸 度 と して 求 め られ る こ とが あ る。 そ して この よ うな 酸性 につ い て は,水 素 イオ ンを 生 ず る物 質 を 酸 とい い,水 酸 イ オ ンを生 ず る物 質 を塩 基 とす る古 い 酸 一塩 基 の 定 義 よ り進 ん で,酸 とは プ ロ ト ンを 出 す 傾 向 に あ る物 質,塩 基 とは これ を得 ん とす る 傾 向 の あ る物 質 とす るBrnostedの 定 義 に包 含 され て 取 扱 わ れ る よ うに な っ た。 す なわ ち プ ロ トンの供 与, 受 容 の 関 係 で あ る。 これ は ま た酸 一塩 基 の 関係 を電 子 受 容 体 一電 子 供 与 体 とす るLewis説 と も密 接 に 関係 す る。 一 方 で原 子 また は 原 子 団 か ら電 子 を 取 り去 る こ と (酸化)と,そ れ ら え電 子 を 加 え る こ と(還 元)と も密 接 な 関係 に あ る。 小 林久 平 博 士 に よ り指 摘 され た ビ タ ミ ンA,カ ロチ ン, ベ ンジ ジ ンな ど とに対 す る酸 性 白土 の 呈 色反 応 に つ い て,そ の 後,い くつ か の 研究 が 発 表 され た が(Taka-hashi(1935),山 本 大 生(1959)),Weil-Malherbe とWeiss(1948)は,ビ タ ミ ンA,カ ロチ ンに 対す る 呈 色反 応 は,酸 一アル カ リ反 応 と解 し,ベ ン ジ ジ ンに つ い て は,酸 化 一還 元 反応 と し,ま た水 素 型montmorillo-niteの 酸 性,酸 化 力 の 起 源 と し て 八 面 体 シー ト中 の Fe3+を 考 え て い る(加 藤 忠蔵(1967)の 総 説 を 参 照 さ れ た い)。 小 林 久平 博 士 や 日本 の土 壌 化 学 者 が,極 め て古 くか ら指 摘 し,研 究 され て い た,ア ル ミニ ウム 溶脱(中 性 塩 で処 理 す る場 合),な らび に そ れ と粘 土 酸性 の関 係 に つ い ては,現 代 次 の よ うな 見 解 に 達 してい る。 pH<4以 下 の条 件 では,水 素 イ オ ン は 粘 土 粒子 の 破 断面 に作 用 し,ア ル ミニ ウム を 溶 出せ しめ る。 これ は 〔A1(H2O)6〕3+の 形 で,粘 土 鉱 物 に吸 着 され,中 性 塩 で 処理 す る と,陽 イ オ ン と交 換 さ れ 溶 出 す る。 この も のの 酸 性 はpK=5で 酢 酸 に 匹 敵 す る。 ここでKは, 酸 の電 離 恒 数 で,pK=-log10Kで あ り,溶 液 中 の酸 と塩基 の濃 度 が等 しい と き は 〔H+〕=KでpH=pK とな る。 この とき求 め られ る置 換 酸 度 は,溶 出 され た 〔A1(H2O)6〕3+の 中和 に 要 す る アル カ リの量 であ るの で, の 進 行 で 示 さ れ る 。pH>5で は,〔A1(H2O)6〕3+は 更 に 重 合 しは じめ る 。 た と え ば, の よ うで あ る 。 これ ら のaluminohydroniumと も い うべ き物 質 は,重 合 し て い る も の で も,ま た し て い な い も の で も,そ れ ら が 吸 着 さ れ る 場 所 に は,層 間 域 が 含 ま れ て い る と の 考 え で あ る 。 し か し 重 合 が 進 む と,容 積 の 増 大,荷 電 数 の 増 加 の た め に,強 く保 持 さ れ, 全 体 と し て は,交 換 され に く くな り,溶 液 中 の 陽 イ オ ン と交 換 す る も の は,主 と し てH+で あ る と 考 え ら れ て い る。 上 記 の 考 え は,Jackson(1966)に よ り,土 壌 成 因 論 の 一 つ に 取 り入 れ ら れ た 。 少 しわ き 道 に そ れ る が,1956年 筆 者 と林(Sudoand Hayashi,1956)は,日 本 の 酸 性 白 土 鉱 床 に,halloy-siteの よ うな カ オ リ ン 鉱 物 と,montmorilloniteの 複 雑 な 混 合 層 鉱 物 ら し き も の が,し ば し ば 伴 っ て 見 出 さ れ る こ とに 気 付 い た 。 当 時,日 本 の 粘 土,土 壌 の 開 拓 的 研 究 者 に よ り指 摘 さ れ て い た,置 換 酸 性 と ア ル ミ ニ ウ ム の 溶 脱 と の 関 係 に 注 目 し て,こ の 混 合 層 鉱 物 は 酸 性 条 件 下 で,montmorillonite(2:1型)が カ オ リ ン鉱 物(1:1型)え 変 化 す る 途 中 の 産 物 で あ ろ うか と 考 え を め ぐ ら し た こ とが あ る 。 今 後 の 研 究 が 待 た れ る 一 つ の 課 題 で あ る よ うに 思 わ れ る。 近 年montmorilloniteの 吸 着 水 が,残 留 吸 着 水 と で も い うべ き状 態 に な っ た と き,恐 ら く1∼2層 の 水 分 子 層 の 程 度 そ の 解 離 度 は,流 動 水 の そ れ に 比 し著 し く高 い と い う こ と が 発 見 さ れ た(Ducros and DuPont,1962;Fripiat,Telli, eta1.,1965)。 そ し て この 解 離 に 基 くprotonationが,montmorillonite の 吸 着 に 大 き い 役 割 を 果 し て い る と考 え ら れ る よ うに な っ た 。BaileyとWhite(1970)に よ れ ば, の よ うな一 般 式 で 示 され て い る 。NH3ガ スがNH4+ の形 で吸着 さ れ る(Mortland,Fripiat,eta1.,1963) な ど多 くの 例 が 研 究 され て い る。 Epitaxy 粘土 の 化 学 的 親 和 性 とい う問 題 に つ い て は,い ろい ろ と強 調 で き る事 柄 が あ っ た。 た しか に 全体 と して, 粘 土 鉱 物 は非 粘 土 鉱 物 に比 べ て化 学 的親 和性 に富 ん で い る。 粘土 鉱 物 に 吸 着 され る物 質 の種 類 は,分 類 上 の わ くを越 え て 多 く,ま た吸 着 の 形 態 に つ い て も多 くの 興 味 あ る事 実 が 明 らか に され た 。 この 特性 は 基 礎,応 用 両 面 で,粘 土 研 究 の門 戸 を大 き く開 くに役 立 って い る。 しか し鉱 物 学 全 体 の知 識 に 照 して見 る と きは,化 学 的 親 和性 は,大 小 の 変化 は あ っ て も,鉱 物 全 般 に通 じ て見 られ る特 性 で あ る。 Epitaxy―― 配 向 重 複結 晶 成 長―― は 古 くか ら鉱 物 界 に知 られ て い る(Seifert,1953;Kleber,1958,a)。 一 つ の結 晶 の 特 定 の 面 の 上 に ,他 の種 の結 晶 が,結 晶 学的 平 行 関 係 を 保 って で き上 る こ とで あ る。 主 な例 を 第一 表 に示 す 。 この 表 か ら知 られ る こ とは,ま ず 結 合 し合 う結 晶 の 間 に は,分 類 上 のわ くを越 え て幅 広 い 変 化 が認 め られ る。Epitaxyは 天 然 鉱 物 に 見 られ,ま た実 験 に よ っ て も見 る こ とが で き る。 天 然 鉱 物 の 場 合 には,高 温,高 圧 下 で生 成 した もの が 多 い で あ ろ う。 これ らは 平 行 連 晶 と して 我 々の 目に ふ れ る の み で あ る。 しか し実 験 室 内 では,高 温 高 圧 下 の 実験 条 件 とは 比 較 に な らな い ほ ど簡 単 な 実験 条 件 下 で,ま の あ た り epitaxyを 見 る こ とが で き る。 土 台(基 盤)に な っ て い る結 晶 を 主 人(host),そ の 上 に エ ピタ ク シー す る 物―― 外 来 物 質―― を客(guest)と い うこ と もあ る。 実験 条 件 と して は,こ の外 来 物 を空 気 中 で加 熱,昇 華 させ,こ れ を 基 盤 に 接触 させ る こ と,ま たは 減 圧 下 で 蒸発 させ,そ の 蒸 気 を基 盤 に接 触 させ る こ と,ま た 溶 液 に して そ の一 滴 を基 盤 の上 に た ら して,乾 か した だ け で も で き る こ とが あ る。 しか し何 れ の 場 合 で も,な るべ く薄 い 膜 を基 盤 の上 に つ く ら せ る こ とが 望 ま し く,溶 液 を 用 い る と きに生 ず る膜 の 薄 さは,溶 媒 の種 に よっ て左 右 され る こ とが 多 い。 Epitaxyが 生 ず る条 件 と もい うべ き もの は ,基 盤に つ い て,ま た そ れ に結 び つ く物 質 が結 晶 に な った 場 合 に その 結 晶 につ い て,そ の双 方 に 近 似 した 原 子 面―― 原 子 の 配 列 周期 に つ い て―― が あ り,し か も この 両 原 子 面 の 間 に,何 らか の化 学 結 合 が 生 じ得 る特性 が あ る とい うこ と であ る。 原 子 間 距 離 は,全 く一致 す る こ と は 必 ず しも必 要 で な く,10%程 度 の差 が許 容 され る。 しか も この 両 原 子 面 を 対 比 させ て 見 た場 合 に,一 方 の 原 子 面 と,他 方 の 面 の 原 子 との 間 に,何 等 か の化 学 結 合 が生 じ得 る よ うな条 件―― た とえ ば イ オ ン結 合,水 素 結 合 な ど―― が そ なわ っ て い る こ とで あ る。 た とえ ば 白雲 母(M)の 底 面 の2次 元 対 称 は6方 対 称 で あ っ て,直 六方 軸 を と れ ば,a0=5.15A,b0= 8.92Aで あ る。 ヨ ー ドカ リは,岩 塩 型 の 結 晶 で あ っ て,そ の 八 面 体 の 面 の2次 元 対 称 は 三 回 対 称 を 示 し, 直 六 方 軸 を と れ ば,イ オ ン 配 列 周 期 は,8.81A,5.09 Aと な り,白 雲 母 の 底 面 の 上 に,ヨ ー ドカ リは そ の 八 面 体 の 面 を 平 行 に し て,epitaxyが 認 め ら れ る 。 こ の と き,白 雲 母 の 酸 素 と ヨ ー ドカ リ のKの 間 の 結 合 が 役 立 つ も の で あ ろ う。 PbS-NaBrの 場 合 は,PbSのd(100)は5.93Aで あ