報
文
抗 炎症 薬 α川
及 び β一グ リシル リチ ン酸 塩 の
両親 媒 性 と ミセ ル構 造
小 出 操 *1・ 宇 川 仁 太 *2・ 小 高 明 人 *1・ 太 垣 和 一 郎 *2・ 玉 垣 誠 三 *2 *1 ライ オ ン株 式 会社 研 究 開発 本 部 薬 品研 究所(〒256小 田原 市 田島100) *2 大 阪 市 立 大 学 工 学部 生 物 応 用 化 学 科(〒558大 阪市 住 吉 区 杉 本3前3438)Amphiphilic
Aspects and Micellar Structures
of Anti-inflammatory
Agents a -and $-Glycyrrhizinate
Misao KoiDE*1, Jinta UKAWA*2,
Akito ODAKA*1,
Waichiro TAGAKI*2,
and Seizo TAMAGAKI*2
*1 Pharmaceutical Research Laboratories of Lion Corporation
(100, Tajima, Odawara-shi, Kanagawa-ken, 〒256)
*2 Department of Bioapplied Chemistry, Faculty of Engineering, Osaka City University
(3-3-138, Sugimoto, Sumiyoshi-ku, Osaka-shi, 〒558)
Abstract
: Micellar solutions of dipotassium
/3- glycyrrhizinate
(GK2) have been studied by
measuring
surface tension, solubilization,
fluorescence,
circular
dichroism,
and light-scattering.
To better understand
particularly
the role played by the triterpenoidal
carboxyl group of GK2,
the physico-properties
of its methyl ester derivative of glycyrrhizinate
(GMe) have also been
ex-amined for comparison
; GK2 and GMe each forms a relatively small micelle with the
aggrega-tion number of 20 to 25 at pH 7.4 slightly above each cmc. An increasing
pH makes the cmc
val-ues larger.
At higher concentrations
GK2 forms larger
micelles with a core of alcohol-like
po-larity, while relatively more hydrophobic
GMe forms cylindrical
aggregates
with a closed,
dehy-drated core. Meanwhile,
the origin of the facile gelation
of GK2 is implicated
by Molecular
Me-chanics (MM) calculations.
Furthermore,
partitioning
of the GK2 derivatives
between the water and 1-octanol phases is
examined
at various pHs in the absence and presence of phase transfer
catalysts
of various
ty-pes. Some kinds of the cationic catalysts
facilitated
the water-to-1-octanol
phase transfer
of GK
2 and GMe even at pH 5 to 7.
Key words : dipotassium
,8-glycyrrhizinate,
critical
micelle
concentration,
micelle
forma-tion, drug carrier
1 緒 言 甘 草根 中 に存 在 す る ト リテ ル ペ ノ イ ドサ ポニ ンで あ る β一グ リ シ ル リチ ン酸 は,親 水 部 と して ジ グ ル ク ロ ン 酸,疎 水部 と して トリテ ル ペ ノイ ド骨格 を有 す る三 塩 基 酸(pKa=3.3,4.7,8.5)で,抗 炎 ・抗 か い よ う(潰 瘍)・ 解 毒 の 顕 著 な3主 要 要 素 を 始 め と して,抗 がん(癌)・ 抗 ア レル ギ ー ・脱 コ レス テ ロ ール 作 用 等 そ の 薬理 効 果 は多 種 多 彩 で,し か も反 復 服 用 に よ って 薬 剤 耐性 が認 め られ な い こ と もあ り,長 期 に わ た り広 く活 用 され て き た。 今 な お そ の薬 理 薬 効 ・薬物 動 態 な ど が盛 ん に研 究 され て お り1),注 射 剤 や 点 眼剤 の 成 分 と して 不 可 欠 な 薬物 とな っ て い る。通 常,水 に 溶 けや す いニ カ リウ ム塩,す な わ ち β一グ リシル リチ ン酸 ニ カ リウ ム(GK2)と して 実 用 に 供 さ れ る。そ の 一方 で,昨 今,薬 物 送 達 系(DDS)の 有 用 性 が 認 識 され 方 法 論 が 確 立 さ れ る に つ れ て,GK2 も DDSリ ボ ソー ム 製剤 の二 分 子 膜 成 分 と して 利 用 され 2), ま た 薬 の作 用 機 序 を 分 子 レベ ル で 明 らか にす る 目 的で, この二 分 子 膜 内で の 動 的 挙 動 が ス ピ ンラ ベ ル法 に よ って 調 べ られ て い る 3)。 しか しな が ら,界 面 活 性 物 質 で も あ るGK2の 基 本 的 連絡者:小 出 操 29
物性 に つ いて の報 告 は少 な い。例 え ば,大 塚 らに よ って 界 面 化 学 的 性 質 で あ る 臨 界 ミセ ル 濃 度(cmc)約 0.2 mM(pH5.1,イ オ ン強 度0.1,表 面 張 力 法)が 報 告 され て い る程 度 にす ぎ な い4)。 更 に 天 然 体 の グ リシル リチ ン 酸 に は,既 述 の18β 川型(シ ス型)の β川GK2(以 下 特 に 断 らな い 限 りGK2と 記 す)の 他 に,そ の立 体 異 性 体 で あ る18α-型(ト ラ ン ス型)の α-GK2も 存 在 す る が, その 物 理 化 学 的性 質 や薬 理 効 果 は よ り一 層 知 られ て い な い 5)。 我 々 はGK2類 が,薬 物 の 可 溶 化 剤 や 経 皮 吸収 促 進 剤 な ど と して併 用 さ れ る非 イオ ン界 面 活 性剤 ポ リオ キ シエ チ レ ン硬 化 ひ ま し油(HCO-60)を 触 媒 的 に加 水 分 解 し て,ア ナ フラ キ シー シ ョ ック な ど の副 作 用6)を 引 き起 こ す 可 能 性 の あ る12一 ヒ ドロキ シス テ ア リン酸 の 生 成 を 促 進 す る こと を見 い だす と共 に,そ の 酸触 媒 作 用 機 構 を 解 明 した7)。 更 に,こ の 注 射 剤 や 点 眼 剤 中で 経 時 的 に起 こ るHCO-60の 加 水 分 解 を,シ ク ロ デ キ ス ト リ ン 類 (CyDs)が 有 効 に抑 制 す る こ と も明 らか に した8)。 本 論 文 で は,紫 外 部 吸収(UV)・ 円二 色 性(CD)・ 蛍 光 及 び 光 散 乱 ス ペ ク トル を駆 使 してGK2そ の もの の 水 溶 液 中 で の 物 理 化 学 的,特 に 界 面 化 学 的 挙 動 を,α-GK2や β一GK2の モ ノ メチ ル 誘 導 体 β一グ リシル リチ ン 酸 モ ノ メチ ル エ ス テ ル(GMe)の 挙動 と比較 しな が ら, 詳 細 に検 討 した の で報 告 す る。 冒 頭 に も 述 べ た よ う に,GK2は 医 薬 品 と して も ユ ニ ー クで,特 に 点 眼剤 と して 繁 用 され て お り,そ の投 与 後 の 吸 収 経 路 の確 立,す なわ ち角 膜 等 へ の 吸収 効 率 の改 善 は 薬 理 学 ・薬 物 療 法 上,極 め て 重 要 な 問題 とな る。 本 報 で は,1一 オ ク タ ノ ー ル を疎 水 膜(角 膜)モ デル と して 選 び,GK2及 び そ の 誘 導 体 に つ い て 水 か ら1-オ ク タ ノー ル へ の移 行 性 を調 べ た の で 併 せ て報 告す る。 GK2類 の 界 面 化 学 的性 質 を 始 め とす る様 々 な 物 理 化 学 的 性 質 を 明 らか にす る こ とは,GK2の み な らず 類 似 の 構造 を持 つ 薬 剤 の 効 果 を 分 子 レベ ル で理 解 し,ま た 製 剤 特 性 を改 善 す る上 で 有 用 な 指 針 を提 供 す る もの と考 え る 。 2 実 験 及 び 計 算 2・1 試 料 GK2は 丸 善 製 薬 株 式 会 社,ク エ ン酸(特 級)は 東 京 化 成 工 業 株 式 会 社 か らそ れ ぞれ 購 入 した もの を そ の ま ま 使 用 した。 テ トラ ヒ ドロ フ ラ ン(THF)は 市 販 品 を リチ ウ ム アル ミニ ウム ヒ ドリ ドと環 流 したの ち蒸 留 して 用 い た。 過 塩 素 酸 テ トラ ブ チ ル ア ンモニ ウ ム(TBAP),塩 化 ス テ ア リル ト リブチ ル ア ンモ ニ ウ ム(STAC),塩 化 ジ ス テ ア リル ジ メ チ ル(DSAC)は,東 京 化 成 工 業 株 式 会 社 か ら購 入 しそ の ま ま用 い た。 GMeは 次 の 経 路 で 合 成 し た 。 グ ル ク ロ ン酸 部( 糖 部)の2つ の カ ル ボ キ シル 基 を ジ メ チ ル ホ ル ム ア ミ ド (DMF)中 で臭 化 ベ ン ジル と反 応 させ,生 成 物 を ク ロ ロ ホ ル ム/メ タ ノ ール(10:1)を 溶 出溶 媒 に して カ ラム ク ロマ トグ ラ フ ィ ー に よ り精 製 し,糖 部 ジベ ンジル エ ス テ ル を得 た。次 いで,ト リテ ル ペ ノ イ ド部 の カル ボキ シル 基 を各 々等 モル の ト リメチ ル オ キ ソ ニ ウ ム テ トラ フル オ ロ ボ レー トとNV一エ チ ル イ ソプ ロ ピル ア ミ ンと で メ チ ル エ ス テ ル 化 し,ク ロ ロ ホル ム/メ タ ノ ー ル(10:1)で カ ラ ム ク ロマ ト精 製 して 単 品 を得 た。 最 後 に,メ タ ノ ー ル 中10%Pd/Cを 触 媒 に して 水 素 化 脱 ベ ン ジル した。 原 料 が 薄 層 ク ロ マ トグ ラ フ ィー(TLC)上 で 消 失 し た後, Pd/Cを 炉 過 で 除 き溶 媒 を留 去 して 白色 の粉 末GMe を 得 た 。 詳 細 は前 報9)を 参 照 され た い 。 ジ ア ザ ビ シ ク ロ[2.2.2]オ ク タ ン(DABCO)の ジ ス テ ア リル ア ン モ ニ ウ ム臭 素 化 物 塩(DABCO2+) は, 臭 化 ス テ ア リル10.39,DABCO1-559を20mLエ タ ノー ル 中で72h加 熱 還 流 し,溶 媒 留 去 後,エ ー テ ル で 洗 浄,イ ソプ ロ ピル アル コ ール か ら再 結 晶 して 得 た。 収 率 は85%,分 解 温 度 は285∼288℃ で あ っ た。 2・2 実 験 及 び 計 算 各 種 実 験 は,ク エ ン酸 ま た は酢 酸 緩 衝液 中で 行 った 。 cmc値 は大 塚 らの論 文4)を 参 考 に して 求 め た。 Table 1 のcmc値 の う ち,表 面 張 力 法 で は2回 測 定 を 繰 り返 し,そ れ らの 値 を 単 純 平 均 した 。 そ の 一 例 を)Fig.1 に 示 した。 そ の 他 の 値 は1回 の測 定 の み で 得 た 。 表 面 張 力 は株 式 会 社 島 津 製 作 所Surface Tensome-terST-1型(ウ イ ル ヘ ル ミー タ イ プ),UVス ペ ク トル は株 式 会 社 島 津 製 作 所UV-16CA分 光 光 度 計,CD ス ペ ク トル は 日本 分 光 株 式 会 社JASCOJ-720ス ペ ク ト ロポ ー ラ リメ ー タ ー を用 いて そ れ ぞ れ 測 定 した。 蛍 光 法 に よ るcmc測 定 は,10-3rnMの ピ レ ンを 蛍光 プ ロ ー ブ
Fig. 1 Plots of Surface Tension at pH 4.9 in 0 .1 M Citrate Buffer vs. the Logarithms of GK 2 and GMe Concentrations.
と して 株 式 会 社 島津 製 作 所 分 光 蛍光 光 度 計RF-5000 に よ っ て行 い,第 一 吸 収 強 度(371nm)と 第 三 吸 収 強 度 (381nm)と の 比 か らcmcを 求 め た10)。 ミセ ル サ イ ズ及 び 形 状 の 測定 に は,大 塚 電 子 株 式 会 社 DLS-700を 用 い た。す な わ ち,ア ル ゴ ン レーザ を光 源 とす る光 散 乱 計 に よ り,散 乱 角90。で の ミセ ル の拡 散 定 数1)を 計 測 した 後,EinsteirStokes式 に 代 入 し, 流体 力 学 的半 径 を 算 出す る こ とに よ り ミセル サ イ ズ を 求 め,形 状 は測 定 角度 を60゚∼120゚に 変 化 さ せ た とき の 散 乱 強 度 の 角 度 依 存 性 を 指 標 と して 推 定 した 。 ミセ ル 量 は,大 塚 電 子 株 式 会 社SLS-600Rに よ り散 乱 角90゚ で の散 乱 強 度 を測 定 し,Debye式 よ り算 出 した。 分 子 力 場 計 算 は,ハ ー ドウ ェ ア と して INDIGO R-400(SiliconGraphicsInc.,USA)を 用 い , CHAR-Mmver22/QuANTA ver 3.3 (Polygen Corpora-tion,USA)の 構 成 か らな る ソ フ トウ ェア で 実 施 した。 CHARMm及 びQuANTAは ソ フ トウ ェアパ ッケ ー ジ で あ り,前 者 は,Molecular Dynamic Simulation と Molecular Mechanics,後 者 は,Molecular Graphics に 関す る もので あ る。 本 研 究 で は,分 子 内結 合 体 を デ ザ イ ン して,そ の 相 互 作 用 力 を計 算 し,最 安 定 状 態 で の 全 エ ネ ル ギ ー を求 め た 。 3 結 果 及 び 考 察 3・1 臨 界 ミセ ル 濃 度 の 決 定 ま ず,基 幹 物 質 で あ るGK2と そ の β一20-メチ ル エ ス テ ル 誘 導 体GMeのcmcを 検 討 した 。 冒 頭 に も述 べ た よ うに 大 塚 らが,3つ の 異 な る方 法,す な わ ち表 面 張 力 法 ・ヨ ー ド法 ・ロ ー ダ ミ ン6G染 料 法 に よ って, GK2 のcmcを 様 々 な イ オ ン強 度(0.02∼0.15)やpH 4.2∼ 5.5で 既 に 測 定 して い る が,ど の 方 法 で もほ と ん ど の cmc値 は,ほ ぼ0.2mMに 近 く,条 件 に よ って は最 小 0.1mM,最 大0.35mMと 報 告 され て い る。そ の 他, 0.56mM(pH4.9)11)や8.01mM(pH7)12)の 事 例 も あ った。 と ころ が,我 々 のUVス ペ ク トル 測 定 に よ る と, GK 2で も今 回 合 成 し た誘 導 体GMe水 溶 液 で も, 280nm (π前π*)で のUV測 定 限 界 の 吸 収 強 度 に 相 当 す る 0.2 mMま で の 濃 度 変 化 とUV吸 収 強 度 との 間 に きれ い な 直線 関 係 が 認 め られ た。従 って,cmcは0.2mM以 下 で は あ り得 な い と 推 定 さ れ た 。 す な わ ち,関 連 実 験 の Fig・2が 示 す よ うに,THF前 水 混 合 溶 媒 のTHFの 割 合 が増 す と,言 い換 え る とGK2分 子 の エ ノ ン基 が 疎 水 環 境 下 に あれ ば,大 き な短 波長 シ フ トと吸 収 強度 低 下 が見 られ る はず で あ り,上 記 の よ うな 直 線 関 係 は得 られ な い と考 え た わ けで あ る 。 そ こで,表 面 張力 法 ・ヨ ー ド法 ・ロー ダ ミン染 料 法 の 各 方 法 で新 た にcmcを 測 定 し,そ の値 をTable1に ま と め た 。GK2に つ い て は,表 面 張 力 法 の0.64 mM, ヨー ド法 の0.73mM,蛍 光 法 の0.70mMと が よ く一・致 した が,ロ ー ダ ミン法 で は1.OmMと や や 高 か った。 そ れ らの 平 均 値 は0.77±0.16rnMで あ った ゜ 一 方 ,GMeのcmc値 はGK2よ り低 く,平 均0.26± 0.08mMと な った(Table1)。 これ は,GMeの 疎 水性 がGK2自 身 よ り も高 い た め と考 え られ た ゜ な お,蛍 光 法 に よ り計 測 した 蛍 光 強 度-濃 度 プ ロ ッ トに お い て は, cmc値 を 与 え る 変 曲 点 が観 察 され ず,そ の 値 を 決 定 す る こ と が で きな か った 。 以 上 述 べ た よ う に,cmc値 は測 定 方 法 ・条 件 に よ っ て や や 異 な った が,pH4.9,0.1mMク エ ン酸 緩 衝 液 中 で は,GK2のcmcは0.7∼0.8mM,GMeの そ れ は 0.2∼0.3mMが 妥 当 で あ る と考 え られ る 。 3・2 会 合 状 態 の 特 性 3・2・1 会 合 状 態 の検 討 静 的 光 散 乱 法 を 用 い,前 章 で求 め たcmcで の GK2 及 びGMeミ セ ル の 会 合 数 をDebyeplot(Fig.3)よ り 求 め た 。 次 に,動 的 光 散 乱 法 に よ りcmc近 傍 で の ミセ
Fig. 2 Plots of Amax and Absorbance vs. THF vol% in Aqueous THF.
●:λmax, ○: absorbance (257.5nm) for GK2
■:λmax, □: absorbance (256.Onm) for GMe
Table 1 cmc Values of GK 2 and GMe in 0.1 M
Citrate Buffer (pH 4.9).
a)
Not determined.
ル の大 き さ及 び形 状 を 推 定 し,結 果 をTable2に 示 し た 。 会 合 数 と会 合 状 態 は,GK2とGMeと で 異 な り, pH に も依 存 した 。GK2は,ジ ア ニ オ ン型 を と るpH 7,4 で,会 合 数 約20(Fig.3)の 球 状(散 乱 強 度 に角 度 依 存 性 な し,直 径 約45A)ミ セ ル を 形 成 す る の に 対 し,モ ノ アニ オ ン型 が か な り共 存す るpH4.9で は,会 合 数 は 約130(Fig.3)と 増 加 し,形 状 は,散 乱 強 度 に 角 度 依 存 性 が 認 め られ始 め た た め,棒 状 で あ る もの と推 定 さ れ た。 また,極 め て ゆ っ く りで は あ るが,ゲ ル 化 の影 響 を 受 けて 経 時 的 に 会合 数 の増 加 傾 向が 見 られ た 。 一 方,GK2の 疎 水 部 トリテ ル ペ ン末 端 カ ル ボ キ シ ル 基 を メ チ ル化 して 疎 水 性 を高 め たGMe体 は,pH7.4 で はGK2と は異 な り散 乱 強 度 にわ ず か な角 度 依 存 性 が観 察 さ れ た た め,だ(楕)円 状 の ミセ ル 会 合 状 態(会 合 数 25)を と る もの と考 え られ た。 こ れ は,疎 水 部 と親 水部 バ ラ ンス の悪 さ と,疎 水部 の堅 固 さ の た め に,球 状 を と りに く く回転 楕 円状 に な る もの と推 察 され た 。 光 散 乱 法 で 得 られ た ミセ ル構 造 につ いて の 結 論 を 検 証 す る た め に,UVス ペ ク トル とCDス ペ ク トル を 用 い て 濃 度 やpH変 化 の ミセ ル構 造 に及 ぼす 影 響 につ い て 以 下 さ らに検 討 を 加 え た。 3・2・2 会 合 状 態 の 濃 度依 存 性 GK2類 の 構 造 中 に は,ト リテ ル ペ ン骨 格 す な わ ち疎 水 部 の ほぼ 中央 に エ ノ ン基 が 存 在 す る。 この エ ノ ン基 か らの スペ ク トル 情 報 はGK2分 子 の 存 在 形 態 を 知 る上 で 極 め て 貴 重 で あ る。)Fig.2及 び 前 報9)で 示 した 通 り, UVス ペ ク トル 吸収 の 位 置 ・強 度 が エ ノ ン基 の周 りの極 性 につ い て の 情報 を提 供 した よ う に,不 斉 エ ノ ン発 色 団 に起 因す るCDコ ッ トン吸収 スペ ク トルか ら,UVで は 測 定 不 能 な 濃厚 な基 質 溶 液 につ いて の 知 見 が 得 られ る 。 特 に,360nmで のCDス ペ ク トル の 吸 収 強 度 は周 囲 の 環 境 の 極 性 に敏 感 で あ り,疎 水 環 境 にな る と と もに 吸収 強 度 は低 下 す る7),8)。そ こで 本 節 で は,UV及 びCD ス ペ ク トル を 用 い て 会合 状 態 の濃 度 依 存 性 につ い て 更 に検 討 を進 め た 。 Fig.4に は,ヨ ー ド濃 度 一 定 下 で そ れ ぞ れGK2 と GMeの 濃 度 を増 加 さ せ た とき の,例 え ば ヨ ー ド分 子 の 410nmで の 吸収 強 度 変 化 及 びUV最 大 吸 収 波長 位 置 の 変 化 を示 した。GK2で は,濃 度 の 上 昇 に伴 い,GK2 が 存 在 しな い 時 に見 られ た460nmの 吸 収 は徐 々 に 小 さ く は な る が 共 存 した ま ま,360nmま で は格 別 目立 った 他 の 吸 収 もな く全 体 的 に ブ ロ ー ドな 吸 収 の み が現 れ た(吸 収 位 置 の特 定 が で きな い た め,デ ー タ は未 記 載)。
Fig. 3 Debye Plots of a -and 1e-GK2 Derivatives.
K : constant,
Rgo : scattering
intensity,
C : [GK2] or [GMe]-cmc
Fig. 4 Plots of Absorbance at 410 nm vs. GK 2 or GMe Concentration and Amax vs. GMe Concentration.
12=35 mg/L, pH4 acetate buffer, ● : GK2, ■: GMe (0.01 M buffer)
Table 2 Micellar Weight, Aggregation Number, Size and Shape of a -and B-GK 2 Derivatives a).
一 方GMeで は,GMe濃 度 の 増 加 に つ れ て460 nm (無添 加)か ら まず 一 挙 に390nmに シ フ トし,次 い で 疎 水 性 溶 媒 中の 極 大 吸 収 位 置 で あ る360nmへ と連 続 的 に シ フ トした(Fig.4)。 これ に 対 して,ヨ ー ド分 子 の 410nmに お け る 吸収 強 度 変 化 は ,GK2で は強 度 が 0.6 mM以 上 で 急 激 に増 加 し,ほ ぼ 飽 和 に 達 した が, GMe で は最 大 吸 収 波長 は 吸 収 強 度 変 化 と明 確 に連 動 し, 0.21 mM付 近 で 急 激 な 増 加 が 見 られ,ほ ぼ0.6mMで 飽 和 し,そ の 後1mM以 上 か らゆ っ く り減 少 に転 じた(Fig. 4)。 これ らの 吸 収 強 度 や位 置 の変 化 は,会 合 状 態 の変 遷 を よ く反 映 して い る と考 え られ る。す な わ ち,初 期 段 階 に 現 れ るGMeに お け る小 さ な短 波長 シフ トは,ヨ ー ド分 子 に関 して,溶 媒 で あ る水 よ りもや や 疎 水性 の高 い ミク ロ環 境 場 を 提供 して い る こ と を示 唆 して い る。 つ ま り, 1mM濃 度 付近 で はGK2,GMe共 に よ く似 た疎 水 性 を も ち,比 較 的水 性 に富 ん だ ル ー ズ な ミセ ル核 を形 成 して い る もの と考 え られ よ う。GMeで,更 に 濃度 を 増 加 さ せ る と 吸収 強度 の 減 少 が 観 察 さ れ た(Fig.4)の は, 代 表 的 な ア ニ オ ン界 面 活 性 剤 で あ る硫 酸 ラ ウ リル=ナ トリ ウム(SLS)で の,会 合 数 が一 定 で ミセ ル の数 の み が 増 加 す る現 象 とは 異 な り10),内 部 の パ ッキ ン グ構 造 が よ り コ ンパ ク トで,従 って よ り内部 が疎 水 的な ミセ ル へ と 連続 的 に状 態 変 化 して い くこ とを示 して い る。
Fig.5にGK2(直 線a,曲 線b)及 びGMe(曲 線c, d)濃 度 とCD強 度 の 関係 を 示 した。 前 者 のpH 7.4 で はcmc以 上 で あ れ ば 吸収 強度 は 直 線 的 に増 加 した。 こ の 直 線 性,つ ま り ミセ ル 内 のGK2単 位 濃 度 あ た りの CD強 度 は,高 濃 度 に お い て も ミセ ル の大 き さ が本 質 的 に変 わ らな い こ とを示 して お り,ま た 単 位 濃 度 あ た りの CD強 度 が 大 き い の は,ミ セ ル 形 成 後 で さえ も,モ ノ マ ー状 態 に似 てGK2分 子 中の 各 エ ノ ン部 分 が 非 常 に極 性 の 高 い 環 境場 に位 置 す る こ とを 示 す もの と考 え られ, ミセ ル 中 で も疎 水 部 の カ ル ボ キ シル 基(pKa=8.5)が エ ノ ン基 と分 子 間 で 水 素 結 合 して い る と 推 察 さ れ る。 Fig.6に そ の模 式 図 を 描 い た 。pH4.9の 場 合,プ ロ ッ トが 直 線 か らや や下 方 に 外 れ るの は,GMe単 位 濃 度 あ た りのCD強 度 の 減 少,つ ま り疎 水 性 の 増 加 を 意 味 し て お り,ミ セ ル の 変 化,例 え ば ミセル 自体 の 形 状 変 化 か あ る い は ミセ ル 同士 の 融 合 が 起 こ っ て い る に ち が い な い。 従 って,一 般 的 に,GK2分 子 の340nmで の コ ッ トン吸収 の 発 現 に は,バ ル ク水 中 にお い て は,エ ノ ン基 酸 素 と水 の よ うな プ ロ トン供 与 体 との 水 素 結 合 が,ま た ミセ ル 中で は,上 記 エ ノ ン基 酸 素 と ト リテ ル ペ ノ イ ド上 の18一 位 の 弱 酸 性 カ ル ボ キ シ ル 基 と の 分 子 間 水 素 結 合 ネ ッ トワー クの生 成 が 関与 す る もの と考 え られ る。 と こ ろ が,GMeはGK2と 異 な り,Fig.5が 示 す よ う にcmcを 超 え る と吸 収 強 度 の 増 加 を ほ とん ど示 さ な か った 。 同 図 内 の 曲 線cに 示 したCD強 度 を単 位 GMe
Fig. 5 Variation
of Observed 340 nm CD
Intensi-ty (a, b : GK2, c, d : GMe) as a Function
of GK2 and GMe Concentrations.
a, c : pH 7.4, 0.1 M phosphate
buffer ; b, d
: pH 4.9, 0.1 M citrate buffer.
Fig. 6 Over-simplified Pictures of Micellar Structures' of GK2 and GMe at a Neutral pH.
濃 度 あ た り に換 算 す る と,cmc以 上 で は換 算CD強 度 は急 速 に 減 少 した。 この 両 現 象 は,GMeミ セ ル が,濃 度 を 高 くす る とUV測 定 の結 果 よ り既 に 議 論 した よ う に,ル ーズ な パ ッキ ン グ状 態 か ら,よ りコ ンパ ク トで よ り疎 水 的な 内部 構 造 を 有 す る会 合 数 の大 きな 集 合 体 へ と 連 続 的 に変 化 し,同 じ会 合数 の ミセ ル数 が増 え るの で は な い こ と を 示 して い る13)。す な わ ち,逆 コ ー ン型 の SLS分 子 が 球 状 ミセ ル を作 りや す い の と は異 な り,剛 直 で 円 筒型 の分 子 で あ るGMeは,濃 度 が 低 い と会 合 数 が小 さ くす き(隙)間 の 多 い 楕 円 状 ミセ ル しか 作 れ な い と い う3・2・1節 の 光 散 乱 測 定 よ りの 結 果 を 支 持 し て お り,濃 度増 加 と共 に 隙 間を 埋 め る た め に徐 々 に会 合 数 が 大 き くな り,疎 水 性 の 高 い 内部 核 を 持 つ柱 状 ま た は小 円 盤 状 ミセ ルへ と変 わ る もの と推 察 され よ う。 3・2・3 ミセ ル会 合 状 態 へ のpHの 影 響 GK2とGMeの 差 異 は,言 う ま で もな く トリテ ル ペ ノイ ド部 の非 解 離 の カ ル ボキ シル 基 とメ トキ シカ ル ボ ニ ル 基 の 水素 結 合能 の違 い に あ るが,も と も とそ れ らの疎 水 性(Hanschの 疎 水 定数 π=10gP/Poの 差 で0.3,メ チ ル 基1っ の 差 で も0.5)に は,カ ル ボ キ シ レー トアニ オ ンと メ トキ シカ ル ボ ニ ル基 との 間(△ π=1.7)ほ どの大 き な 差 は な い14)。 従 っ て,酸 性 条 件 で 糖 部 カ ル ボ キ シ レー ト基 が プ ロ トン化 され る と分 子 全 体 が よ り疎 水 的 と な り,集 合 状 態 に 違 い が あ って も,両 者 間 のCDス ペ ク トル 強 度 のpH変 化 に は本 質 的 な 差 が現 れ な い もの と 予 想 され る。 事 実,GK2とGMe水 溶 液 のCD吸 収 強 度 のpH 依 存 性 を 更 に 詳 細 に 調 べ た と こ ろ,pHが 下 が る につ れ て 糖 部 カ ル ボ キ シ レー トイ オ ン(pKa=4.7,3.3)に プ ロ ト ン化 が 起 こ り,ど ち らのCD吸 収 強 度 も低 下 した 。 一 つ 目の糖 部 カル ボキ シ レー ト基 へ の プ ロ トン化 が ほぼ 終 わ るpH4で は,吸 収 強 度 はGK2で3.3(pH4・9で は 20も あ る)だ が,GMeで は 完 全 にゼ ロ(pH4.9で 8) とな り,pH3.5で はGK2で さえ もゼ ロ とな った 。 二 つ の カ ル ボ キ シ レー トア ニ オ ンの うち 一つ が プ ロ トン化 さ れ る だ け で も分 子 全 体 の 疎 水 性 が 大 き く変 わ り,そ の 結 果,ミ セ ル の 形 状 に変 化 を もた ら し,CDス ペ ク トル に も大 き な影 響 を及 ぼす 。 従 って,親 水 一疎 水 バ ラ ンスが 疎 水 性 側 に傾 くと,同 様 の バ ラ ンス を 有 す る両 親 媒 性 物 質 の バ ル ク水 相 か ら ミセル を 形 成 す る相 へ の移 行 が容 易 にな る と推 測 さ れ る。GK2類 の 二 相 間分 配 へ のpH 効 果 に関 して は次 節 で詳 細 に述 べ る。 一 方 ,GK2の モ ノ ア ニ オ ン体 が 主 成 分 で あ る弱 酸 性 条 件 下(pH4∼5)で は,3・2・1節 で 得 た結 果 (Table 2) が 示 す よ う に,初 期 段 階 で は,GK2は 直 径 約240 A 程 度 の 比 較 的 サ イ ズ の小 さ な ミセ ル を 作 って い る 。 これ は,親 水 的 な ジグ ル クロ ン酸 部 の 負 電 荷 間 に 反 発 が存 在 す る ため に ミセ ル 同士 の融 合 が 阻止 され,疎 水 的 な トリ テ ル ペ ノ イ ド部 を コア ー と した ミセ ル を形 成 して い るた め と考 え られ る。 この こ とは,既 に述 べ た よ う に ジア ニ オ ン型GK2が 主 成 分 とな る中性 条 件 下 で,cmc値 (1.0 mM,pH7.4)がpH5の 場 合 よ り大 き くな る事 実 か ら 支 持 さ れ よ う。ジ アニ オ ンで は水 素 結 合 ネ ッ トワ ー ク に よ る親 水 部 の安 定 化 が 全 く期 待 で き な い上 に,糖 部 で の 大 き な負 電荷 同士 の 分 子 間 反 発 に よ って ミセル が 形 成 さ れ に く くな る た め にcmc値 が 大 き くな り,逆 に ミセ ル 量 は 小 さ くな る。と こ ろで,こ のpH領 域 で は,経 時 と と も にゆ っ く り とゲ ル 化 が 進 行 し10000Aを 超 え る大 き な 凝 集体(ミ セ ル)が 動 的光 散 乱 に よ って観 察 さ れ た。 こ の 時,ジ グ ル ク ロ ン酸 部 は疎 水 的 な ミセ ル コア ー の周 り に水 素 結 合 ネ ッ トワ ー ク を形 成 して,ミ セ ル を補 助 的 に 安 定 化 す る役 割 を果 た して い る可 能 性 が あ る 。 こ の ゲ ル 形 成 機 構 に つ い て は,本 節 の 後 半 で 詳 述 す る。 一 方, GMeが 分 子 の 疎 水 性 が 高 い た め に 小 さい ミセ ル 量 の会 合 体 と して 存在 し うる可 能 性 が 大 き く,そ の 形状 は, 親 水 性 と疎 水 性 のバ ラ ンス が良 くな いた め に球 状 に な りに く く,楕 円状 とな る もの と考 え られ る (Table 2)。 上 述 の ゲ ル 化 は,更 に ゲ ル化 を促 進 し,最 終 的 に は沈 殿 が 生 成 した 。 ゲ ル の 生 成 は,GK2の 非 解 離 型 カ ル ボ キ シ ル基 同士 の 会 合 が,特 に疎 水 基 の近 傍 で は よ り強 化 さ れ るた め に15),水 和 した水 分 子 を 排 除 して 起 こる 。 この よ う に カル ボ キ シル 基 同士 の会 合 が,水 とカ ル ボ キ シル基 との 相 互 作 用 よ り優 先 さ れ る ほ どで あ るか ら,エ ノ ンカ ル ボニ ル 酸 素 とカ ル ボ キ シル基 と の水 素 結 合 は ほ とん ど起 こ らな い と推 察 さ れ る 。pHの 低 下 と共 に CD 吸 収 強 度 が ゼ ロ に 近 づ くの は,こ の 推 定 を 支 持 して い る。 pH4以 下 の 酸 性 条 件 下 で ゲ ル を 形 成 す るGK2 で は,ト リテ ルペ ノ イ ド部 の 非 解 離 カ ル ボ キ シ ル基 の 介 入 が,ゲ ル 形 成 に 必 須 で あ る と言 わ れ て い る16)。 これ は, GMeが 全 くゲ ル 化 しな い事 実 か ら強 く支 持 で き るが, 同 じpH条 件 下 でGK2の 異 性 体 で あ る α-GK2が ゲ ル 化 しな い説 明 が は っき り して い な い。α-と β前グ リチ ル リチ ン酸(α-,β-GH2)の 界 面 科 学 的違 い は,吉 岡 ら に よ って も ス ピ ン プ ロ ー ブ法 を 用 い て 見 い だ さ れ て お り,α 一GH2で は25∼70℃ の 範 囲 で そ の ス ペ ク トル変 化 が 全 く見 られ な い の に対 し,β一GH2で は50∼60℃ の 間 で ゾル ーゲ ル 転 移 に 因 る もの と見 られ る スペ ク トル変 化 を示 して い る17)。 我 々 は この 違 い を 明 らか に す るた め に,α 一GH2 と β -GH2の 分 子 力 場 計 算 を 行 った。 結 果 をTable3に ま と め た。 α前型GH2で は,分 子 の 両 端 の カ ル ボ キ シル基 同士 が 分 子 内水 素 結 合 す る と分 子 全 体 が 約 8 kcal/mol 安 定 化 す る。逆 に β一型 で は,水 素 結 合 に よ り分 子 全 体 が2kcal/mol不 安 定 化 す る。 つ ま り,α 一型GH2が ゲ ル 化 しな い の は,分 子 内 だ け で 水 素 結 合 す る か らで あ
り,β 一GH2が ゲ ル 化 す る の は 三 つ の カ ル ボ キ シル基, な か で も糖 部 カ ル ボ キ シル基 と疎 水 部 カル ボ キ シル基 と が互 い に協 調 して,分 子 間 で水 素 結 合 の ネ ッ トワー クを 形 成 す る か らで あ る 。 この ゲ ル 化 が シ ク ロ デ キ ス トリ ン,な か で も γ一シ ク ロ デ キ ス トリ ンを 等 モ ル 加 え る と 完 全 に抑 え られ る事 実 は,ゲ ル 化 に上 述 の ネ ッ トワー ク 形 成 が 不 可 欠 で あ る こ と と矛 盾 しな い。 シ ク ロデ キ ス ト リ ンとGK2類 と の相 互 作 用 につ い て は 次報 に譲 る 18)。 3・3 水/1-オ クタ ノリ ル2相 系 で のGK2類 の分 配 GK2は 点 眼剤 に繁 用 され るが,投 与 部 位 で あ る角 膜 は疎 水 的 な 上 皮 層及 び 内皮 層 とそ れ らに 挟 ま った親 水 的 な実 質 層 か らな る複 雑 な構 造 を と る。GK2が 眼 内部 で 薬 効 を 発 現 す る た め に は,角 膜 を 透 過 して 眼 内 に移 行 す る こ とが 不 可 欠 と な る。す な わ ち,第 一 にGK2は 角 膜 最 表 層 の2分 子膜 表 面 と相 互 作 用 し,更 に そ の膜 の疎 水 層 を 透 過 しな け れ ば な ら な い19)。 水 相 か ら疎 水 相 へ の 移 行 や 透 過 に は,動 的パ ラ メ ー タ ー と して 拡散 係 数 が 関 与 し,熱 力 学 的 に は疎 水 層 へ の 分 配 係 数 に よ って評 価 さ れ る20)。 この 角 膜 透 過 速 度 は,主 に分 配 係 数 と良 く相 関す る と報 告 され21),ま た 角 膜 に はGK2に 対 して 特 異 的 に 働 く運 搬 体 が 存 在 す る と は 考 え に くい こ と も あ り,本 研 究 で は 角 膜 内 移 送 モ デ ル と して,水 か ら1- オ ク タ ノ ー ル へ の 分 配 を選 定 し,GK2類 の 移 送 挙 動 につ いて 検 討 した。1一オ ク タ ノ ール は,そ の 極 性 が 生 体 の 2 分 子 膜 内 の そ れ に似 て い る ので,膜 の 疎 水層 モ デ ル溶 媒 と して よ く用 い られ て い る。 点 眼剤 のpHは 通 常,涙 液 に近 い ほ ぼ7.4に 調 製 され て い る が,こ のpHでGK2は,1― オ ク タ ノー ル に ほ と ん ど 移 行 しな か った()Fig.7)。こ のpH領 域 で は 算 術 的 にGK2の99.8%が 二 価 ア ニ オ ン型,0.2%が 一 価 ア ニ オ ン型 と して存 在 す るた め,最 も多 量 に存 在 す る前 者 の 親 水 性 の高 い二 価 ア ニ オ ン(GK22-)は 全 く移 行 しな い こ とが 分 か った。 こ の傾 向 は ト リテ ル ペ ン部 の カル ボ キ シル 基 を メ チ ル化 して よ り分 子 を 疎 水 的 に した GMe で も変 わ ら なか った(Fig.7)。 メ チ ル 化 の 効 果 は,二 価 カ チ オ ン系 の 相 間 移 動 触 媒 (PTC)の DABCO2+ 存 在 下 で 強 く現 れ22),30%のGMeが 移 行 した (Fig.7)。 存 在 比 か ら考 え,二 価 ア ニ オ ンGMe2一 と して 移 行 した と言 え よ う。 二 価 カ チ オ ン系 と違 い,一 価 カ チ オ ン系 PTC〔 ス テ ア リル ト リメ チ ル ア ンモ ニ ウ ム ク ロ リ ド (STAC+)や ジス テ ア リル ジ メチ ル ア ンモ ニ ウム ク ロ リ ド(DSAC+)〕 で の 移 送 は少 な か った。GK2の 二 価 ア ニ オ ンを疎 水 環 境 内で 安 定 化 す る の に,対 イオ ン と して -一価 カ チ オ ン系PTCを2個 使 うよ り,構 造 の 堅 固 な 二 価 カ チ オ ンPTCを1つ 使 う ほ うが 移 動 に よ るエ ン トロ
Table 3 Molecular Mechanics
Stabilization
Energies of a-and 13-GK2 .
HB : intramolecular hydrogen-bonding. MM : Molecular mechanics .
Fig. 7 pH Dependency of % GK2 and GMe Trans-ferred from the Water Layer to 1-Octanol Layer.
1 : TBAP, 2 : DABCO2+, 3 : DSAC, 4 : STAC, 5 : 18-crown 6-ether
ピー の 低 下 を 最 小 限 に 抑 え る こ と が で き,自 由 エ ネ ル ギ ー的 に有利 に な る と考 え られ よ う。 次 にpH6.0で は,PTC不 在 で もGK2は1%以 下 と か な り値 は低 い も の の 移 行 現 象 が 見 られ た。 算 術 的 に 95.1%が 二 価 アニ オ ン型,4.7%が 一 価 ア ニ オ ン型 で存 在 す る が,極 め て 微 量 の 非 解 離 型 も0.01%存 在 す る た め に,若 干 の 移 行 が 生 じ た も の と 推 察 さ れ る。 一 方 GMeの 移 行 は,更 に 大 き く15%に な っ た。 こ こで 一 価 ア ニ オ ンGK2一 が充 分 水 層 に 存 在 しな が ら,実 際 に 観 察 され る移 行率 が著 し く低 か っ たが,こ れ は 随伴 す る 対 イ オ ンがK+で は 親 水 的 過 ぎ て 不 適 格 で あ る こ とを示 唆 して い よ う。 この仮 説 は,一 価 アニ オ ンの 移動 が脂 溶 性 一 価 カ チオ ンPTCの 添 加 に よ って 著 し く促 進 さ れ る こ とか ら も支 持 され る もの と考 え る。 一 価 カ チ オ ンに よ る一 価 ア ニ オ ンの輸 送 は,一 価 カ チオ ン によ る二 価 ア ニ オ ンの 輸 送 とは 異 な り,エ ン トロ ピ ー効 果 に よ る不利 さ を全 く生 じな い た め で あ ろ う。 更 にpH5.0に な る と,GK2の30%, GMeの 70% が 移 行 した 。 このpHで は,算 術 的 に二 価 ア ニ オ ン と一 価 アニ オ ン とが そ れ ぞ れ66.6%,32.7%存 在 し,非 解離 型 も0.7%存 在 す る よ う にな る。す な わ ち,酸 型 が この程 度 の 割 合 で 存 在 す る と,PTCが な く と もか な り高 い 移 行 が な され る わ け で あ る。一 価PTCを 添 加 す る と,両 者 と も90%以 上 の 移 行 を示 した の で,新 た に移 った イ オ ン種 は,そ れ ぞ れ 一 価 ア ニ オ ンGK2-,GMe-で あ る。 こ こで,こ のPTC不 在 の と き の移 行 分 子 種 を特 定 す る た め に,pHを そ の ま ま に保 ち,大 量 のLic1や KC1 を加 え た。 そ の 結 果,移 行 量 は,そ れ ぞ れ1/3と1/8 に 減 少 し た。一 価 ア ニ オ ンGK2一 やGMetが)Li+や K+ 塩 を対 イオ ンと して 移 行 で き る の で あ れ ば,そ の 割 合 が 増 加 す る もの と考 え られ る が,事 実 は反 対 で 移 行 抑 制 さ れ た こ とか ら,移 行 種 は,ほ とん ど酸 型 で あ る。 更 にpHを 下 げ4.0で は,80∼90%移 行 した。算 術 的 に,二 価 ア ニ オ ン は16.6%'70.8%が 一 価 ア ニ オ ン, 12.6%が 酸 型 で 存 在 す る このpHで は,PTCが 存 在 し な く と も上 記 の平 衡 を 保 持 しな が ら,や は り酸 型 の み が 移 行 した と言 え よ う。 この 酸 型 が 良 く移 る傾 向 は,算 術 的 に 二価 ア ニオ ンが3.8%,一 価 ア ニ オ ン型48.1%,酸 型 が48.1%存 在 す るpH3.3で もほ と ん ど変 わ らな か っ た 。 以 上,有 機 層1一 オ ク タ ノ ール へ の 分 配 率 は,水 層 の pHと 密 接 に 関連 す るGK2の 存 在 状 態 と存 在 割 合 に著 し く依 存 す る こ とが 判 明 した 。 二 価 ア ニ オ ン型GK22川 は,PTC不 存 在 下 で は も ち ろ ん,ど のPTC存 在 下 で も全 く1一オ ク タ ノ ー ル 相 へ 抽 出 され な か った が,二 価 ア ニ オ ン型GMe2一 は,長 鎖 二 価 ジ カ チ オ ンPTC2+ と イオ ンペ ア を 形 成 して よ く抽 出 され た。一 方,GK2 及 びGMeの 非 解 離 型 は,PTCの 存 在 と は無 関 係 に移 行 した。 要 す る に,二 価 アニ オ ン型 で あ る 時 に,GMe と GK2の 間 に 著 し い性 質 の 差 が 出現 した 。 こ の こ と か ら,DABCO2+の よ うな 二 価 ア ニ オ ン を パ ッ キ ン グ し たHPLC用 カ ラ ムを 活 用 す る と,GK2か らGMeを 簡 単 に分 離 精 製 す る こ とが で き る もの と考 え る。 ま た, 一 価 アニ オ ン型GK2-やGMe一 は,PTC存 在 下 で のみ 移 行 した 。 4 総 括 抗 炎 症 作 用 を有 す るGK2及 び そ の メ チ ルエ ス テ ル誘 導 体 で あ るGMeの 界 面科 学 的性 質 を 中心 と した物 性 を 調 べ た と こ ろ,以 下 の こ とが判 明 した。 1) GK2及 びGMe共 に界 面 活 性 能 を 有 し,そ れ ぞ れ のcmcは,0.7∼0.8mM,0.2∼0.3mMで あ る。 2) GK2,GMeが ジア ニ オ ン構 造 を形 成 す るpH 7.4 に お い て,両 者 と も にcmc近 傍 で は比 較 的会 合 数 の 小 さ い(約20∼25)ミ セ ル を 形 成 し,形 状 はGK2が 球 状,GMeが 楕 円 状 で あ る。 ま た, 溶 質 濃 度 の 増 加 と共 に,前 者 が ミセ ル 融 合 を 起 こ し,よ り大 きな ミセ ルへ と変 化 す るの に対 し,後 者 は分 子 そ の もの の疎 水 性 の高 さの ため,疎 水 度 の高 い 中心 核 を 持 つ 柱状 ま た は小 円盤 状 ミセ ル へ と変 わ る。 3) GK2の ミセ ル形 成 性 は,pHと 共 に大 き く変 化 す る。す な わ ち,(1)pH7.4付 近 で は ジア ニ オ ン型 と して存 在 す るた め,親 水 部 で あ る糖 部 の 負 電 荷 同士 の分 子 間反 発 に よ って ミセ ル が比 較 的 形 成 さ れ に く く,cmcは 高 く,会 合 数 は小 さ い。(2)モ ノ ア ニ オ ン型 を と るpH5∼6で は,ト リテ ル ペ ノ イ ド部 を 疎 水 コ アー と した棒 状 の ミセル を 形 成 す る。(3)pH3∼4で は 非 解 離 型 で 存 在 し,糖 部 の非 解 離 型 カル ボキ シル 基 同士 の会 合 が,特 に親 水 基 の近 傍 で強 ま るた め,水 和 した水 分 子 を排 除 して,ミ セ ルを 形 成 せ ず に ゲ ル化 す る。 4) GK2の ゲ ル 化 は,ト リテ ル ペ ン上 の カ ル ボ キ シ ル 基 と隣 接 す る異 な るGK2分 子 の 糖 上 の カル ボ キ シル 基 が 連 続 的 に水 素 結 合 す る こ と に起 因 す る。 5) GK2類 の 角膜 内部 へ の 移 行 性 を 模 した1-オ ク タ ノ ール へ の分 配 挙 動 は,GK2類 の 水 中 で の 存 在 状 態 を支 配 す るpHに 著 し く依 存 す る。 (受付:1996年6月18日,受 理:1996年 8月 21日) 文 献
1) Maruzen Pharmaceuticals Co., LTD., Dipotassi-um Glycyrrhizinate, March (1994);富 沢 摂 夫, 原
幸 男,応 用 薬 理,11,677(1976);熊 谷 •@朗,
Minopha-gen Medical Reviews, 25, 185 (1980).
2) 際 田弘 志,辻 秀 樹,公 開特 許,平3-106896.
3) H. Yoshioka, T. Fujita, A. Goto, J. Colloid Inter-face Sci., 133, 442 (1989).
4) 大 塚 昭信,米 沢 頼 信,伊 庭 克 英,巽 恒 治,砂 田久 一,
薬 学 雑 誌,96,203 (1976); A. Otsuka, Y. Yoneza-wa, Y. Nakamura, J. Pharm. Sci., 67, 151 (1978) ;
大 塚 昭 信,米 沢 頼 信,薬 学 雑 誌, 101, 829 (1981).
5) K. Tsubone, S. Ohnishi, T. Yoneda, J. Chro-matogr., 248, 1982 (1982).
6) 厚 生 省,薬 の 副 作 用 情 報,No.78(1986).
7) M. Koide, J. Ukawa, W. Tagaki, S. Tamagaki, J. Am. Oil Chem. Soc. in press, "Hydrolysis of Non-ionic Ester Surfactants Facilitated by Potassium Glycyrrihizinate : Implication of Catalytic Func-tions Played by the Carboxyl Groups"
8) S. Tamagaki, M. Koide, M. Takahashi, T. Mizu-shima, J. Ukawa, W. Tagaki, J. Chem. Soc., Per-kin Trans. 2, 1996, 1257.
9) M. Koide, J. Ukawa, W. Tagaki, S. Tamagaki, J. Am. Oil Chem. Soc., 73, 913 (1996).
10) N.J. Turro, P.L. Kuo, P. Somasundaran, K. Wong, J. Phys. Chem., 90, 288 (1986) ; K. Kalya-nasundaran, J. K. Thomas, J. Am. Chem. Soc., 99, 2039 (1977) ; A. Nak6jima, Bull. Chem. Soc. Jpn., 44, 3272 (1971).
11) 小 出 操,そ の 他,未 発表 .
12) 丸 善 製 薬 株 式 会 社 技 術 資料"グ リチル リチ ン界 面 活性 作
用 に つ い て".
13) BcBain, Boldusn, J. Phys. Chem., 47, 94 (1943) ; W.D. Harkins, J. Am. Chem. Soc., 68, 220 (1946). ; D. P. Kerjee, J. Phys. Chem., 62, 390 (1958) ; P. Mukerjee, ibid. 76, 565 (1972).
14) T. Fujita, J. Iwasa, C. Hansch, J. Am. Chem. Soc., 86, 5175 (1964).
15) K. Kano, S. Arimoto, T. Ishihara, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1995, 1661.
16) 近 藤 光 男,南 野 博 美,奥 山源 一 郎,本 田 計 一,永 沢 久 直,大 谷 泰 永, J. Cosmet. Chem. Japan, 17, 15 (1983) ; H. Yoshioka, K. Honda, M. Kondo, ibid, 63, 540 (1983).
17) H. Yoshioka, J. Colloid Interface Sci., 105, 65 (1985) ; E. Azae, R. Segal, Pharm. Acta., Helv., 55, 183 (1980).
18) 小 出 操,そ の 他,未 発 表. 19) 岩 田 修 造, Mfmbrane, 4, 289 (1979). 20) 岸 田 健 一,日 本 眼 科 紀 要, 25, 795 (1974).
21) D.G. Cogan, E. 0. Hirsch, The Cornea W. Perme-ability to Weak Electrolytes, Arch. Ophthal, 32,
276 (1944) ; K. G. Swan, N. G. White, Corneal Permeability of Drugs into the Cornea, Ann. J.
Ophthal, 25, 1043 (1943).
22) I. Tabushi, J. Imuta, N. Seko, Y. Robuke, J. Am. Chem. Soc., 100, 6287 (1978).
さ らに,自 動 酸 化 期 間 中 にT)LCで 追 跡 した ス ペ ル ミ ン量 が260h以 内 に急 激 に減 少 す る に も拘 らず,自 動 酸 化 基 質 の 誘 導期 は1200h以 上 に わ た って 続 き,Toc量 もそ の 間残 存 した。こ れ らの 事 実 か ら,Tocは ス ペ ル ミンの ア ミノ水 素 か らの 水 素 供 与 を経 て,ト コ フ ェ ロキ シル ラ ジカ ル か ら再 生 され る と考 え られ た ゜ な お,ス ペ ル ミンか ら生 成 したス ペ ル ミン ラ ジカ ル は脂 質 ラ ジ カル や 脂 質 ペ ル オ キ シル ラ ジ カル を 捕 捉 して 脂 質複 合体 を形 成 す る と推 察 した。(連 絡 者:戸 谷 洋 一 郎)Vo1.45,No.12, 1327 (1996). [報 文] 超 音 波 音 速 測 定 に よ る パ ー ム 油 含 有0/W エ マ ル シ ョ ン の 油 脂 結 晶 化 の 観 察 甫 立 善 明 ・上 野 聡 ・矢 野 淳 子 ・吉 本 則 之*1・ 葛 城 俊 哉*2・ 佐 藤 清 隆 広 島大 学 生 物 生 産 学 部(〒739東 広 島市 鏡 山1-4-4) *1 岩 手 大 学 工 学部(〒020盛 岡市 上 田4-3-5) *2 三 菱 化 学 フー ズ株 式 会 社(〒104東 京 都 中 央 区銀 座1-3-9) 0/Wエ マ ル シ ョ ン中 に 分散 させ た パ ー ム 油 の 結 晶 化 温 度(Tc)お よ び結 晶成 長 速 度(Rcg)を 測 定 した。 結 晶化 の そ の 場 観 察 の た め,超 音 波 音 速 測 定 法 を用 い た。こ の 方 法 は,0/Wエ マ ル シ ョ ン中 の 油 脂 結 晶 化 を 短 時 間 で非 破 壊 的 に 測定 可 能 な点 で 有 効 で あ る。 測 定結 果 は,以 下 の2点 で あ る。 (1) パ ー ム油 の み の系(バ ル ク)で は,Tr。 は32℃ で あ った。一 方,エ マ ル シ ョ ン中 のパ ー ム 油 のTrcは11℃ で あ った。 (2) O/Wエ マ ル シ ョンに お いて,10℃ で のR。gは,急 冷 後 始 め の500minは 著 し く増 加 した が,そ の 後 は しだ い に 減少 した。 これ らの 結 果 は以 下 の こ とを 示 唆 して い る。O/Wエ マ ル シ ョン 中の パ ー ム油 結 晶化 に お い て,バ ル クに お け る 結 晶 化 に 比 べ て,核 形 成 過 程 は抑 制 され 著 し く遅 くな った が,核 形 成 後 の 結 晶成 長 は,特 に抑 制 を 受 けず バ ル クに お け る場 合 と同 じ程 度 に進 行 した 。(連 絡 者:上 野 聡)Vol.45,No.12, 1333 (1996).