解説:特集
分散協調型エネルギー管理システム構築電力全面自由化を前にした消費者の電力選択意識の調査
依 田 高 典
*
・村 上 佳 世
**
*京都大学大学院経済学研究科 京都府京都市左京区吉田本町 **筑紫女学園大学現代社会学部 福岡県太宰府市石坂 2-12-1*Graduate School of Economics, Kyoto University, Yoshida, Sakyo, Kyoto, Japan
**Chikushi Jogakuen University, 2-12-1 Ishizaka, Dazaifu, Fukuoka, Japan *E-mail: [email protected]
キーワード:スマートグリッド (smart grids),電力自由化 (electricity dereg-ulation),ダイナミックプライシング (dynamic pricing),需要分析 (demand side management),選択型モデル (choice experiment).
JL 0007/16/5507–05982016 SICEC
1
.
はじめに
2000
年3
月に工場などの大口消費者から始まった電力 小売り自由化は,その対象を段階的に拡大してきた.そ して,2016
年4
月1
日には,小規模商店や事業所,家庭 を含むすべての消費者が電力会社や料金メニューを自由 に選択できる電力の小売り全面自由化が開始された.こ れにより,従来は各地域の電力会社が独占的に電気を供 給していた約8
兆円規模(
家庭の契約7800
万件,小規模 商店や事業所約700
万件(
資源エネルギー庁,2015
1)))
の 電力市場が開放され,さまざまな事業者がこの小売市場 に参入できるようになった.全面自由化後は,競争がよ り活性化し,消費者のライフスタイルに対応した多様な 料金プランが登場することも期待されている. 現在,家庭が契約している料金プランの多くは従量電 灯料金であり,利用時間帯にかかわらず電気料金は一定 で,利用総量に応じて支払金額が決まる仕組みになって いる.他方,自由化後に一般家庭への普及が期待されてい る時間帯別料金は,たとえば,電力需要が逼迫するピーク 時間帯の電力料金を高めに設定し,そのほかのオフピー ク時間帯の料金を通常より安く設定するなど,時間帯別 の発電コストに見合った単価を適用する仕組みになって いる.従量電灯料金から,時間帯別料金に移行すること で,特にオフピーク時間帯の電力消費量の割合が大きい 家庭は電気料金の大幅な節約が期待できる.2000
年以降 に米国で実施された15
のフィールド実験のサーベイを 行ったFaruqui and Sergici (2010)
2)によれば,このよ うな時間帯別料金の導入によるピーク時間帯の電力消費 量の削減率は3
∼6%
であり,自由化後に家庭が料金プラ ンを時間帯別料金に移行することによって,社会全体の ピーク時電力需要を抑制する効果も期待できる. しかしながら,これまで一つの電力会社の限られた料 金プランを利用してきた家庭にとって,新たな電力会社 との契約や,新料金プランへの移行には,心理的な負担 が伴う.仮に,新料金プランに移行することで電気代が節 約できるとわかっていても,現状維持バイアスと呼ばれ る心理的保守傾向のために行動変容に踏み切れないケー スが予測できる.たとえば,米国カリフォルニア州都サ クラメントで社会実験を行ったSMUD (2014)
3)は,節 電プログラムに協力できる人が参加するオプトイン式と, 初期設定を節電協力にして協力できない場合に辞退を申 請するオプトアウト式とを比較し,それぞれの新電力料 金加入率が約20% (
オプトイン)
と約90% (
オプトアウ ト)
で大きな差があることを実証的に明らかにしている. この実証実験の結果からも,料金プラン移行における現 状維持バイアスをいかに緩和していくかが,デマンドレ スポンスを日本の社会に実装化するための主要な課題の 一つといえよう. 本研究では,電力の小売り全面自由化後,消費者が料 金プランを選択する際にどのような項目が重視されるか, また,どの程度の消費者が時間帯別料金プランへの移行 を検討するかを定量的に把握することを目的に,インター ネットを通じて日本の消費者を対象に選択型実験を実施 した.また,従量電灯料金が初期設定されている日本の 社会においては,新料金プランを希望する人が移行を申 請するオプトイン式で新料金プランを普及させる必要が あることを踏まえ,本研究では,料金プラン移行に関す る追加的な情報を提示した場合に消費者の新料金の選択 確率が増加するかどうかも検証した. 電力料金プランに関する消費者行動について選択型実 験を利用した研究は複数あるが,それらは主に電力の安 定供給(
停電の防止など) (e.g. Pepermans, 2011
4),
Ab-dullah and Mariel, 2010
5), Carlsson and Martinsson,
2008
6), Goett et al., 2000
7))
や再生可能エネルギーの比 率(e.g. Murakami et al., 2015
8), Cicia et al., 2012
9))
に関するもので,ダイナミックプライシングを扱った研 究は,欧米の小規模サンプルを対象にしたBuryk et al.
(2015)
10)に限られる.Buryk et al. (2015)
10)は,時間 帯別料金などのダイナミックプライシングへ移行するこ とで得られる便益について情報提供したり,回答者がラ イフスタイルを料金プランに合わせて容易に変化させら れると認識しているような場合には,積極的にダイナミッ クプライシングを選択する傾向があることを明らかにし ているが,調査対象としたサンプルは160
と小規模であ り,社会全体の普及率を推定するには至っていない. 本研究から得られた知見は以下のとおりである.まず, 現在一般的な従量電灯料金から別の料金プランに切り替 える際には,現状の契約に対する現状維持バイアスが観察されたものの,その程度は月額
100
円未満に留まって いた.また,現在契約中の電力会社から新電力会社への 乗り換えには相対的に大きい抵抗感が観察され,月額500
円程度安いだけでは既存の電力会社との契約を継続しよ うとする傾向が見られた.他方,新料金である時間帯別 料金プランについては,むしろ積極的に選択する態度が 観察され,平均的に月額200
円程度の値上がりが予測さ れたとしても新料金に切り替えようとする傾向が観察さ れた.さらに,時間帯別料金プランや新電力会社への乗 り換えについて,電力不足の解消や電気代抑制の可能性 などの長所を述べる「積極的」情報を提示すると,現状 維持バイアスが緩和されたり,時間帯別料金をより積極 的に選択しようとする傾向が見られたりする一方で,新 電力会社への乗り換えを後押しするほどの効果は見られ なかった.また,ピーク時の電気代値上がりやライフス タイルによっては支払額が増加する可能性などの短所を 述べる「消極的」情報を提示すると,現状維持バイアスが より強く観察されたり,時間帯別料金の選択に消極的に なったりするなど,情報提示の質によって消費者の反応に は違いが見られた.電源構成については,再生可能エネ ルギーの比率が多いほど,原発由来のエネルギーが少な いほど,消費者にとって魅力的な料金プランであること が明らかになった.さらに,5%
の電気代削減が可能な時 間帯別料金を新プランとして導入する場合には,新電力 会社だけが新型プランを導入する場合の普及率が30%
未 満であるのに対して,新電力会社と既存の電力会社の双 方が時間帯別料金プランを導入する場合には70%
を超え るダイナミックプライシングの普及率が期待できること が明らかになった.2
.
調査設計と分析手法
調査は,株式会社マイボイス登録モニタ―のうち全国 の20
歳以上成人男女11,000
名を対象に2016
年1
月5
日から13
日にかけて実施した.性別・年代の人口構成比(
平成27
年1
月住民基本台帳に基づく)
で割り付けをし た上で,ランダムサンプリングを行った.本章では,調 査設計の詳細と計量経済分析モデルについて述べる.2.1
基本的な調査設計 調査票は,コンジョイント分析のための選択型実験を 中心に全17
問で構成した.まず,回答者の現状を把握す るために,夏の平均的な月額電気料金,現在の契約プラ ンの種別,自家発電システムの有無,電力の小売り自由 化の認知度をたずねた.つぎに,電力の小売り自由化の 概要を説明した上で,自由化後に別の電力会社への乗り 換えを検討するかどうか,また,その際に重視する項目 について質問した.別の電力会社へ乗り換えたくないと 答えた回答者にはその理由も合わせて回答をお願いした. さらに,時間帯別料金プランの概要を説明した上で,月 額電気料金がどの程度下がれば,時間帯別料金プランへ の変更や現在の契約会社以外の電力会社への切り替えを 検討するかをたずねた.最後に,仮想的な3
種類の電気 料金プランから望ましいものを一つ選択する選択型質問 を8
問提示し,回答を得た.回答者の所得や学歴などの 基本的な属性は,調査会社に登録済みのものを入手した. 選択型実験で考慮した料金プランの属性と水準は表1
に示すとおりである.まず,料金プランを提供する主体 は,現在契約中の既存の電力会社と自由化後に参入する 新規の電力会社の2
水準とした.料金プランについては, 現在最も一般的な従量電灯料金と自由化後に家庭への普 及が期待される時間帯別料金の2
水準を採用した.さら に,再生可能エネルギーや原子力発電の比率などの電源 構成についても,おのおの0%
から20%
までの3
水準を 設定した.月額電気料金については,予測される割引率 を提示し,現状と変わらない0%
減から20%
減までの3
水準で設定した. 図1
は,回答者に提示した選択型質問の一例である. 回答のしやすさを考慮し,すべての設問で,第一選択肢 は新電力会社による料金プラン,第二選択肢は既存の電 力会社が提供する新しい料金プラン,第三選択肢は既存 の電力会社が提供する一般的な従量電灯料金プランで固 定した.また,第三選択肢は,再生可能エネルギー比率10%
,原発比率10%
,現状のままの電気料金で固定し, 回答者が常に現状の一般的な料金プランとの比較ができ るように設計した.ただし,すでに時間帯別料金で契約 している回答者については,一般的な従量電灯料金(
第 三選択肢)
を契約中と仮定して回答してもらった.2.2
情報提供実験 調査では,回答者を以下の3
つのグループにランダム に分割し,情報提供実験も同時に行った.グループ1
に は,全回答者のうち半分(5,500)
を割り当て,前節で説 明した基本的なアンケートのみを行った.グループ2
に は,全回答者の4
分の1 (2,750)
を割り当て,基本的な 表1 選択型実験の属性と水準 図1 選択型実験の質問例表2 グループ2のみに提示した「積極的」情報 表3 グループ3のみに提示した「消極的」情報 アンケートに加えて,時間帯別料金や新電力会社に切り 替えることの長所を「積極的」情報
(
表2)
として,関連 する質問の前に提示した.グループ3
には,全回答者の4
分の1 (2,750)
を割り当て,基本的なアンケートに加え て,時間帯別料金や新電力会社に切り替えることの短所 を「消極的」情報(
表3)
として関連する質問の前に提示 し,回答をしてもらった.2.3
計量経済モデル 調査で得た回答データをもとに,ランダムパラメーター ロジット(RPL)
モデルを用いて以下の効用関数を推定 した.U
i=
β
nx
it+
γm
it+
δI
it+
ε
i( 1 )
関数U
i は,料金プランi
を選択した場合の効用を表わ している.x
it は質問t(t = 1,2, · · · , 8)
で提示した料 金プランi
の各属性水準を表わす変数,m
it は貨幣属性(
月額電気料金)
,I
it は第三選択肢(
現状)
を選択した場 合に1
となる指示関数である.したがって,推定されるβ
n は回答者n
の各属性1
単位の変化に対する限界効用 のベクトル,γ
は回答者の貨幣属性1
単位の変化(
月額 電気料金の増減)
に対する限界効用,δ
は現状料金プラ ン(
第三選択肢)
に対する基本効用と解釈することができ る.ε
i は,データからは観察することができない誤差項 である. このモデルでは,複数の選択肢の中から回答者が選択 肢i
を選択するのは,選択肢i
を選んだ時の効用がその ほかの選択肢k(k=i)
を選んだ場合の効用よりも高いと きであると仮定して推定を行う.誤差項に第一種極値分 布を仮定すると,料金プランi
の選択確率は以下で表わ すことができる.P r[i] = P r[U
i> U
k, k = i]
=
exp(
β
nx
it+
γm
it+
δI
it)
kexp(
β
nx
kt+
γm
kt+
δI
kt)
( 2 )
この選択確率に基づいて,(1)
式の効用関数を最尤法で 推定する.限界効用β
には確率分布f(β)
として正規分 布を仮定した. 料金プランの各属性の変化が月間電気料金何円分に相 当するかを意味する限界支払意思額は,各属性1
単位の 変化に対する限界効用β
と貨幣(
月額電気料金の増減)
に対する限界効用の比率から求めることができる.さら に,限界効用β
を所与とすると,回答者n
が料金プラ ンi
を選ぶ確率は,(3)
式のようにロジット形式で記述 される.L
i(
β) =
exp(
U
i(
β))
iexp(
U
i(
β))
( 3 )
限界効用β
が確率的な分布f(β)
をもつために,RPL
モデルの選択確率はf(β)
上のL
i(
β)
の積分値で表わさ れる.この選択確率から,各属性の水準を所与とした場 合の選択確率をシミュレーションすることができる.3
.
結果
本章では,回答者の記述統計と推計結果について述べ, 推定されたパラメータに基づいた新電気料金の普及率に ついて議論する.3.1
記述統計 回答者の基本的な属性については,調査会社に登録済 みのデータを入手し,電気料金に関連する項目について はアンケート調査から回答を得た.表4
は要約統計量で ある.回答者の平均的な世帯年収は約600
万円,7
割の 回答者がもち家を所有し,5
割の回答者が大卒以上の学 歴を取得,平均的な世帯人数は3
人未満である.性別に ついてはサンプリングの際に割付を行っているため,半 分が男性の回答者である.夏季の平均的な月額電気料金 は,9,200
円から9,400
円で,7
割の回答者が月額10,000
円以下であった.回答者の中には,すでに,従来の従量 電灯料金ではなく,なんらかの時間帯別料金を契約して いる世帯があり,その割合は全体の約15%
である.自家 発電システムを所有する世帯は全体の10%
未満で,その 多くが太陽光発電を所有していた.ランダムにグループ を割り付けたため,グループ間に大きな偏りはない. 表5
に,電力の小売り自由化に関する回答を示した.「電 力の小売り自由化」について「知っている(25%)
」「認知 しているが詳しい内容は知らない(66
∼68%)
」のどちら かを答えた回答者は全体の9
割以上をしめ,過去の調査(70% (
資源エネルギー庁,2014
年4
月11))
,81% (
博報 堂,2014
年9
月12))
,85% (
トッパン・フォームズ,2015
表4 回答者の要約統計量 表5 電力の小売り自由化に関する回答 *1 *2 年
1
月13)))
と比較すると,一般への認知は広がっている. また,自由化後に別の電力会社への乗り換えを検討した いと答えた回答者は全体の30%
,乗り換えたくないと答 えた回答者は10%
,明確な意思をもたない回答者は全体 の60%
近くいた.乗り換えたくない理由には,手続きが 面倒(25%)
,現状に不満がない(30%)
,電気代が抑制さ れるとは思わない(12%)
のほかに,「選び方がわからな い」「具体的にイメージできない」といった理由をあげた 回答者も25%
おり,乗り換えを検討するかどうかは,具 体的なプランや選択時の情報にも左右されることが予測 できる.選択時に重視する項目としては,電力供給の安 定性(16%)
,メニューや手続きのわかりやすさ(14%)
, 自分のライフスタイルにあっているかどうか(13%)
,料 金メニューの豊富さ(12%)
,途中契約解除の制約がない こと(11%)
,電源構成(8%)
,電力会社(8%)
,顧客対応 などのサービス(7%)
があり,その中で電気料金の安さ をあげた回答者は6%
未満であった. 時間帯別料金プランについて,グループ2
に「積極的」 情報を,グループ3
に「消極的」情報を提示した後に,電 気代がどの程度安くなれば時間帯別料金プランに切り替 えるかについて回答を得た(
表6)
.また,新電力会社へ の切り替えについても,グループ2
に「積極的」情報を, グループ3
に「消極的」情報を提示した後に,電気代が どの程度安くなれば新電力会社に乗り換えるかについて 回答を得た(
表7)
.どのグループでも,電気代が10%
安 くなれば約半分の回答者が,20%
安くなれば90%
以上の 回答者がプラン変更や新電力会社への乗り換えを検討す 表6 料金プラン選択と電気料金 表7 電力会社選択と電気料金 ると答えている. どちらの回答においても,グループ間で大きな違いは 観察されないが,「料金が下がるとしても替えない」と答 える回答者は全体の10%
程度おり,その割合は,「中立的」 情報だけを与えたグループ1
と比較して,「積極的」情報 を与えたグループ2
では少なく,「消極的」情報を与えた グループ3
では多くなっている.3.2
推定結果(1)
式の効用関数をグループごとに推計した結果を表8
に示した.疑似決定係数R
は0.28
∼0.30
で十分に高く, 推定値はすべて1%
有意であった.電気代の支払いに対す るパラメータは負であるため,回答者にとって電気代は 安いほうが望ましい.また,現状を維持することに対す るパラメータは正であり,料金プランの選択には現状維 持バイアスが伴うことがわかる.同様に,新規企業の料 金プランを選択することには抵抗感がある一方で,時間 帯別料金プランへの切り替えには積極的である.電源構 成は,再生可能エネルギーの比率は大きいほうが,原発 由来のエネルギーの比率は少ないほうが,回答者にとっ て望ましいといえる. 表8
で得られた各属性1
単位の増減に対する限界効用 を,貨幣(1
円)
に対する限界効用で除した値(
限界支払 意思額)
を表9
に示した.これらの値は,料金プランの各 属性の変化が,月間電気料金何円分に相当するかを意味 する.まず,全グループにおいて,現状の契約に対する 現状維持バイアスが観察されるものの,その程度は月額100
円未満に留まっている.また,「中立的」情報しか与 えなかったグループ1
と比較して,「積極的」情報を与え たグループ2
の現状維持バイアスは緩和され,「消極的」 情報を与えたグループ3
では強まっている.なお,前者 の緩和の度合いよりも,後者によって強まるバイアスの 程度の方が小さいことから,選択の長短所を合わせて提 示することで,現状維持バイアスが全体として緩和され ることが推測できる.表8 効用関数の推計結果 表9 各属性への支払意思額 新規企業の料金プランに切り替えることには強い抵抗 感があり,月額
500
円程度安いだけであれば,既存の電 力会社との契約を継続したいと平均的には考えられてい る.新規企業への乗り換えについては,どちらのグルー プも追加の情報提示によって抵抗感は増しており,「消極 的」情報を与えたグループ3
で特にそれが顕著である. すなわち,既存の電力会社から新電力会社へ乗り換えを 検討する際には,その抵抗感を上回る料金プランそのも のの魅力が必要といえよう. 他方,時間帯別料金プランの選択には積極的で,平均 的に月額200
円程度の電気代値上がりが予測されたとし ても,回答者は時間帯別料金プランへ切り替えたいと考 えている.時間帯別料金プランの方が自分のライフスタ イルにあっている,あるいは,プランに合わせて自分の ライフスタイルを調整することができるような節電ポテ ンシャルの高い回答者は,平均的に予測される値上がり 以上の割引が個人的に得られる可能性を期待しているの であろう.また,「中立的」情報だけを与えたグループ1
と比較して,「積極的」情報を与えたグループ2
ではより 表10 電気代5%減が期待できる場合の時間帯別料金普及率 積極的に,「消極的」情報を与えたグループ3
ではより消 極的になる傾向が見られた. 電源構成については,再生可能エネルギーの比率が1%
増加するなら,月額電気料金が22
∼25
円程度増加し てもよいと考えられている(10%
なら月額220
∼250
円に 相当)
.他方,原発由来のエネルギーの場合は,その比率 が1%
増加するなら月額電気料金が40
∼46
円程度安くな らなければ受け入れられないと考えられている(10%
な ら月額400
∼460
円に相当)
.日本人を対象にした過去の 調査でも,再生可能エネルギーに関しては1%
増につき13
∼54
円,原発由来のエネルギーに関しては1%
増につ き-72
円が観察されており,本研究の結果はそれらの知 見ともおおむね整合的である(Murakami et al. 2015
8) に実際の調査と過去のレビューが掲載されている)
.3.3
新電気料金普及率(3)
式に表8
の推計結果を代入して新料金プランの普及 率をシミュレートした結果を表10
に示した.これらの値 は,自由化後の新料金プランとして,従来の従量電灯料 金よりも月額電気料金が5%
安くなることが期待できる時 間帯別料金プランを電力会社が導入した場合に,消費者 の何%
がその新プランへ移行するかを意味している.ま ず,「中立的」情報のみを提示したグループ1
では,新規 の電力会社だけが時間帯別料金プランを導入し,既存の 企業がこれまで通り従量電灯料金プランのみを提供する 場合には,27.2%
の顧客が新規の電力会社の新料金プラ ンに移行する.時間帯別料金プランを提供するのが既存 の電力会社であれば,契約会社を変更する必要がないた めに,52.9%
の顧客が時間帯別料金プランに移行するこ とが予測される.さらに,新規の電力会社と既存の電力会 社の双方が時間帯別料金プランを導入すれば,73.0%
の 顧客がそのどちらかの時間帯別料金プランに移行すると 考えられる. 時間帯別料金プランへの切り替えや,新電力会社への 乗り換えについて「積極的」情報を追加的に提示したグ ループ2
では,グループ1
と比較して各条件での普及率 が微増している.他方,「消極的」情報を追加的に提示し たグループ3
では,特に新規の電力会社への抵抗感が増 した影響により,普及率は微減している.しかしながら, どちらの情報を提示した場合でも,新規の電力会社だけ でなく,既存の電力会社が新プランとして時間帯別料金 プランを積極的に導入することで,新料金プランへの移行は促進され,
7
割程度の普及率が期待できるというこ とが本研究から明らかになった.4
.
おわりに
本研究では,日本における電力小売り全面自由化に向 けて,消費者が電気料金を選択する際に重視する項目や 新料金プランの普及率を,インターネットを利用した選 択型実験を実施することで定量的に推定した.これによ り,ダイナミックプライシングの社会実装化を促進する ための課題がいくつか明らかになった. まず,新電力料金に移行することでいくらかの電気代 削減が期待できるとしても,消費者には現状の契約を続 けようとする現状維持バイアスがある.しかしながら,そ の長所など「積極的」情報を追加的に与えることで,その バイアスはある程度緩和することができる.つぎに,電 力の小売り全面自由化後に参入する新規の電力会社との 契約に対しては,回答者の中に根強い抵抗感があり,新 電力会社の長所を伝えてもその抵抗感は簡単には払拭で きない.新電力会社は,この抵抗感を上回る魅力のある 料金プランを提供するか自由化後に時間をかけて信頼を 築いていく必要があろう.他方,時間帯別料金への移行 には全体として積極的な姿勢が見られ,月額電気代が平 均的には200
円程度高くなることが予測されていても進 んで移行しようとする傾向があった. 最後に,新料金プランの普及率の推定から明らかなよ うに,新規の電力会社がダイナミックプライシングを導 入するだけでは,実装化は促進されない.既存の電力会社 が積極的に新型料金を導入し,新電力会社と競合するこ とが,実装化の実現において重要なポイントといえよう. (2016 年 3 月 30 日受付) 参 考 文 献 1) 資源エネルギー庁:電力の小売り全面自由化の概要 (2015) 2) Faruqui, A. and S. Sergici: Household response to dynamicpricing of electricity: a survey of 15 experiments, Journal of
Regulatory Economics, 38, 193/225 (2010)
3) SMUD: Smart Pricing Options Final Evaluation: The final report on pilot design, implementation, and evaluation of the Sacramento Municipal Utility District’s Consumer Behavior Study (2014)
4) G. Pepermans: The value of continuous power supply for Flemish households, Energy Policy,39–12, 7853/7864 (2011)
5) S. Abdullah and P. Mariel: Choice experiment study on the willingness to pay to improve electricity service, Energy
Pol-icy, 38–8, 4570/4581 (2010)
6) F. Carlsson and P. Martinsson: Does it matter when a power utage occurs? –a choice experiment study on the willing-ness to pay to avoid power outage, Energy Economics,30–3, 1232/1245 (2008)
7) A. Goett, K. Hudson, and K. Train: Customers’ choice among retail energy suppliers: the willingness-to-pay for service at-tributes, Energy Journal,21–4, 1/28 (2000)
8) K. Murakami, T. Ida, M. Tanaka, and L. Friedman: Con-sumers’ willingness to pay for renewable and nuclear energy: A comparative analysis between the US and Japan, Energy
Economics, 50, 178/189 (2015)
9) G. Cicia, L. Cembalo, T. Del Giudice, and A. Palladino: Fossil energy versus nuclear, wind, solar and agricultural biomass: Insights from an Italian national survey, Energy Policy, 42, 59/66 (2012)
10) S. Buryk, D. Mead, S. Mourato, and J. Torriti: Investigating preferences for dynamic electricity tariffs: The effect of envi-ronmental and system benefit disclosure, Energy Policy, 80, 190/195 (2015) 11) 資源エネルギー庁:小売り自由化に対する国民意識調査 (2014) 12) 博報堂:第 5 回エネルギーに関する生活者調査 (2014) 13) トッパン・フォームズ LABOLIS:「電力」に関する調査 (2015) [著 者 紹 介] い 依 だ 田 たか 高 のり 典 君 1995 年京都大学大学院経済学研究科博士課程 修了,博士 (経済学).第 6 回日本学術振興会賞. 専門 応用経済学.主要論文:Tanaka, M. and T. Ida: Voluntary Electricity Conservation of Households after the Great East Japan Earth-quake: A Stated Preference Analysis, Energy
Economics, 39, 296/304 (2013).
むら
村 かみ上 佳か 世 君よ
2011年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了. 博士 (経済学).専門 環境経済学.主要論文:Mu-rakami, K., T. Ida, M. Tanaka, and L. Friedman: Consumers’ Willingness to Pay for Renewable and Nuclear Energy: A Comparative Analysis between the US and Japan, Energy Economics,