1.はじめに: ジョン万次郎に向けられる「方言英語」の疑惑 ジョン万次郎(1827 ∼ 1898 年:図1)は江戸 時代末期,漁に出た後遭難し,漂流しているとこ ろをアメリカ人船長に助けられ,アメリカ東海岸 の教育を受け,自力で日本に帰国した後,通訳な どをして活躍した日本人である。 帰国した後に彼が記した実用英会話集『英米對たい 話わしょう捷徑けい(=近道)』(1859)には現代日本語のカ タカナ表記とは異なるanything(エネセンキ) や well(ウワエル)などの表記があり,その面 白さから「万次郎英語」としてよく新聞記事やテ レビなどで取りあげられることが多い。意外にも これらは英語らしい抑揚をつけて発音すると英語 話者に通じる場合が多く,「いかにも耳から聞く 音を示」し,「正確な発音を伝えようと」してい るものと評価する意見(高梨 1965)がある。私 は日・英対照音声学・音韻論の観点から個別の例 を提示し,「万次郎式カタカナ英語表記」が現代 日本語のカタカナ表記よりも正確に,英語の音 声・韻律をトレースしている場合があることを科 学的に証明する発表を何件かしてきたが,その都 度,必ずと言っていいほど「ジョン万次郎は高知 県の出身であり,標準語を話せなかっただろうか ら,その英語も土佐方言に影響をうけていわゆる 万次郎式表記になったのではないか」という趣旨 の質問が出ていた。 私の基本的な仮説は,通訳などを務めたほどで あったからジョン万次郎の発音が英語話者に通じ ていなかったはずがなく,そのため,彼の発音し ていた英語も土佐方言の強い影響を受けて特定の 音韻上の癖があったとは考えにくい,というもの である。したがって,万次郎式カタカナ英語表記 が生まれた主な原因は,英語による発話を日本語 による記述で忠実に再現しようとしながら,どの カタカナを選んで組み合わせるか,という試行錯 誤を行った結果によるものであり,土佐方言の混 じった英語発音をしていたことによるものではな い,と考えている。しかしながら,ジョン万次郎 の英語発音に関し,手がかりとして残っているの は記述資料のみであり,それも主に 1800 年代後 半という古い時代までさかのぼらなくてはいけな い。当然のことながら,彼の肉声を録音した音声 資料などは存在せず,現代の我々にはその発音を 「推測」するという作業しかできない。 したがって本稿では,土佐方言がジョン万次郎 の英語発音にどの程度入り込んでいたのかという 論議に入る前の段階として,まず,実例をあげな がら万次郎式カタカナ英語表記が英語の実際の発 音・韻律を忠実に記述していることを示そうと思 う。次に「ジョン万次郎が土佐方言混じりの英語 を話していたから万次郎式カタカナ英語表記にな った」と直感的に考えてしまうような,いわゆる 「ジョン万次郎への『方言英語』疑惑」が強くな
ジョン万次郎の英語発音を推測する:
土佐方言の混じった英語だったのだろうか?
堀 口 誠 信
* *短期大学部言語コミュニケーション学科教授 図1 ジョン万次郎 27 歳(1854 年)の肖像 (高知県土佐清水市・ジョン万ハウスにて撮影)る原因がどこから発生するのかについて,観念 的・感情的にではなく,言語学的な見地から機械 的に考察してみたい。なお,それら 2 つの議論 の前提として,言語資料として扱われている万次 郎式カタカナ英語表記がいつ頃,どのような作業 を経て生じたものなのかをジョン万次郎の略歴と ともに,次に示すことにする(中浜 2005,清原 編 2007 に基づく)。 2.口述筆記という作業におけるからくり まず,ジョン万次郎の生涯を簡単に説明すると, 足摺岬のある現在の高知県土佐清水市(当時の中 ノ浜)で 1827 年に生まれ,14 歳の時,現在の 高知県土佐市(宇佐町)の港から 4 人の仲間と ともに漁に出て土佐沖で遭難・漂流する。太平洋 上の鳥島で 140 日余りの無人島暮らしをした後 にアメリカの捕鯨船ジョン・ハウランド号に救助 され,ハワイに上陸することとなった。その時, 捕鯨船のホイットフィールド船長は 5 人のうち 最年少の万次郎の才気活発なことを見抜き,彼だ けをハワイからアメリカ本土の東部フェアヘブン に連れて行く。 そこでは John Mung と名乗り英語や航海術を 勉強し,21 歳で一等航海士(副船長)になり, アメリカから捕鯨航海に出るなどした後,1850 年にはゴールドラッシュに沸くサンフランシスコ に行き,金山で帰国のための資金稼ぎをした。サ ンフランシスコからハワイまで航海し,そこでボ ートを買う。ハワイから琉球(沖縄)の手前まで 来たところで船を降り,自分のボートを漕いで帰 国したのが 24 歳の時(1851 年)であった。当 時,日本は鎖国下にあり,海外に一旦出てから戻 ることを意味する帰国は最悪の場合,死刑を意味 するものだったため,幕府の直轄地とは異なる琉 球(薩摩藩の支配下にある独立国)を選んだので ある。沖縄から鹿児島へ送られた彼は薩摩藩の尋 問を受けるはずだったが,西洋文化・技術に興味 を持っていた藩主の島津斉彬は手厚く歓迎する。 続いて 1852 年には長崎・高知を経由して,実家 (現在の土佐清水市)に戻ったのち,土佐藩の学 校で英語教員をしていた。 また,土佐藩では取り調べをするというよりは, 海外事情の話を聞かせてもらえるという歓迎ムー ドの中,役人の吉田正誉が万次郎の英語まじりの 説明を口述筆記した。これをまとめたのが『漂客 談奇』全 3 巻で,この巻末に収録されている 「亜あ墨め利り加かことば詞 乾けん坤こん(=天地)時候之部」以降の, 一般に「亜墨利加詞」と称されている部分が英単 語集になっており,日本語の隣にカタカナ表記に よる英単語が併記してある。また,蘭学の素養が ある画家の河田小龍が万次郎の話を口述筆記した ものが『漂巽紀略』全 4 巻であり,これにはカ ラフルなイラストが多数,挿入されている。(両 方とも翌 1853 年頃に出版。図2 は前者『漂客談 奇』よりテレカラーフ[telegraph]に関するも ので,電気による通信を伝えきれなかったのか, 「書状を針金につけ継場[中継地点]から継場へ 飛ばす図としてある。中濱 2005: p.118 より複 写。)同じ頃,長崎の鈍どん通つう子しによる『大日本土佐 国漁師漂流譚』(いわゆる万次郎漂流記)が流布 している。 この,万次郎漂流記が流布した同じ年に,ペリ ー率いるアメリカ艦隊 4 隻が日本に来航した。 次にまた彼らが来航する場合に備えるため,万次 郎は江戸に呼び出され,幕府の家臣に登用され中 浜万次郎を名乗るようになる。翌年の 1854 年に 図 2 テレカラーフ(telegraph) の 図 左 下 に 「 ポ ヲ シ タ ン (push down)」,右下に「ソヲ ダ(sounder)=電音送信機」, 「ツナベ(tune up)」とある
は日米和親条約が締結されるが,その時,通訳と して表立った活躍はしていない。アメリカ側に味 方するかもしれないので交渉の席に着かせる訳に
はゆかない,という理由からであった。(図 3 の
ペリー提督肖像[Matthew Calbraith Perry]は
高知県土佐清水市・ジョン万ハウスにて撮影。)
続いて 1857 年(30歳の時)には Nathaniel Bowditch による The New American Practical
Navigator という航海書を『亜美理加合衆国航海 学書』として翻訳し,1859 年(32 歳の時)に 『英米對話捷徑』(実用英会話集)を出版している。 その後,1860 年には日米修好通商条約の書類交 換のため通訳者として咸臨丸に乗り込み,サンフ ランシスコを訪問した。日本が江戸時代から明治 時代に移行してからは,開成学校(現・東大の前 身のひとつ)の教授として 1870 年にヨーロッパ 出張も行っている。フランスとドイツの戦争を視 察するためであった。 翌年の 1871 年,44 歳で脳卒中を経験してか ら 1898 年に 71 歳で没するまでは目立った活躍 を見せていないが,それまでの間に,捕鯨のため 函館や小笠原島に赴き,船の購入のため長崎や上 海へも行っているなど,行動範囲はとても広い。 以上をまとめると,ジョン万次郎自身が出版し た本は 2 冊で(下の 1e-f),その他は口述筆記か, 他人による著作である(下の 1a-d): (1) a.『漂客談奇』(1853 年・26 歳) 吉田正誉による口述筆記 b.『漂巽紀略』(1853 年・26 歳) 河田小龍による口述筆記 c.『大日本土佐国漁師漂流譚』 (1853 年・26 歳) 鈍通子による著作 d.「亜墨利加詞」(1853 年・26 歳) 口述筆記 e.『亜美理加合衆国航海学書』 (1857 年・30 歳) 翻訳の執筆 f. 『英米對話捷徑』(1859 年・32 歳) 実用英会話集の執筆 ここで,いわゆる万次郎式カタカナ英語表記とし て取りあげられることの多い言語資料は (1d) と (1f) であるが,川澄編(1988: p.751)などは特 に (1d) の「亜墨利加詞」をもとに,次のような 例を万次郎による土佐方言の証拠としてあげてい る: (2) a. snow(雪):スノー → シノヲ b. summer(夏):サマー → シャマ c. sun(日):サン → シャン d. stocking(足袋):ストッキング → シタキ しかし,口述筆記による表記であることを考慮す ると,万次郎の英語発音は土佐方言を含まない普 通のもので,「筆記者の方言による誤記」(高梨 1965: p.87)が原因でこのような表記になってい るという可能性もある。 これらの例に関し,私は土佐清水市の 80 歳の 男性 1 人,79 歳の女性 1 人に,例えば「スノー」 (snow)を土佐方言で発音した場合,「シノヲ」 になるのか,といった質問で調査を実施した。結 果はいずれの場合も,土佐方言によってそのよう な変化が起こることはない,ということだった。 まだパイロット版の調査であり,母集団を増や さなければいけないのだが,この限られた調査は 次のことを示唆する。すなわち,四国の別地域, 例えば徳島在住で「ジェイアール(JR)」を「ゼ イアール」と発音する人が実際おり,その場合の 図3 ペリー(ペルリ)提督の肖像
発音には明らかに「ジェ」を「ゼ」で置き換える 「徳島方言」があると言えるが,ジョン万次郎が snow を発音する時,「シ」で「ス」を置き換え る「土佐方言」によって「シノヲ」と発音するこ とはない,ということになる。また,筆記者が 「土佐方言」を持っていると仮定しても,snow を「シノヲ」と変化させて認識することはないの で,筆記者の「土佐方言」による誤記の可能性も ないことになる。 すると,残された可能性は,万次郎による英語 の [s] がはっきりと日本語の「サ」に相当するか 「シャ」に近いのかと考えながら筆記者が試行錯 誤した中で,これを「サ」ではなく「シャ」とし て確定した,というものとなる。 また,川澄編は同じく「亜墨利加詞」から次の ような例もあげ,万次郎による土佐方言の証拠と している: (3) a. fire(火):ファイアー → サヤ b. far(遠):ファー → サア c. knife(包丁):ナイフ → ナイス d. life(命):ライフ → ライス (4) a. tea(茶):リ°イ(ティー?) b. India(天竺):インラ″ヤ (インディア?) c. ink(墨):イン″カ(インク?) 上記 (3a-d) に関しても,「ファー」(far)を土 佐方言で発音した場合,「サア」になるのか,と いう同様の調査でことごとくこの可能性は否定さ れている。さらにこの場合,日本語に存在しない [f] という子音に関するものなので,これを何で 置き換えて記述するか,と考えた末,[s] で記述 することに落ち着いたと見ることができる1)。す なわち,方言の産物と考えるより,英語の口述筆 記における苦難の産物であると考えたほうが自然 である。また,「リ°」・「ラ″」・「ン″」な ども方言というよりはむしろ,英語を口述筆記す る際の苦労を物語るものであると言えよう。 いずれにせよ,帰国直後に土佐藩(高知市内) で口述筆記された,すなわち他人に記述してもら った「亜墨利加詞」(並びに『漂客談奇』・『漂 巽紀略』・『中濱萬次郎漂流記』)と,その数年 後,まがりなりにも自分の判断で,自分の言葉を 使って執筆した『英米對話捷徑』(並びに『亜美 理加合衆国航海学書』)は区別して扱う必要があ るだろう2)。 3.「万次郎式」音声・韻律トレース法 次に,万次郎式カタカナ英語表記が英語の実際 の発音・韻律を忠実に写し取っていることを,発 音の面からは子音・母音に関し,韻律の面からは 音節構造とアクセントに関し,実例を示しながら 見てゆこうと思う。 まず,ジョン万次郎自身の執筆による『英米對 話捷徑』(1859)からの例をあげると,子音の連 続([-tr-] や [-dr-])に関して,次のように特徴的 な例がある: (5) a. contrary:カンツレ(コントラリー?) b. hundred:ハンヅレ(ハンドレッド?) 下線部分に違和感を覚えるかもしれないが,調音 音声学の視点,すなわち聴き取りの観点からでは なく,発音する側の観点から考えると (5a-b) は むしろ現代的な「コントラリー」や「ハンドレッ ド」よりも正確な表記かも知れないことが判明す る。これらの子音連続では,アメリカ英語,イギ リス英語を問わず,[t] や [d] から [r] の調音動作 に移る時,舌の位置を後方にずらすような動きを す る 過 程 で ( 図 4 を 参 照 ), [r] に 摩 擦 音 化 (friction)が生じ(Kenyon 1989: p.162; Gimson & Cruttenden 1994: p.187),結果としてそれぞ れ [t] は [ts] に,[d] は [dz] に近い発音(Gimson 図4 [-tr-] や [-dr-]
& Cruttenden 1994: p.147)となる。また,東後 (1993: pp.68-69)なども,つづりの上で [t] + [r] + 母音の順番に並んでいる英語の発音の場合,例 え ば 「 ト レ イ ン 」 や 「 ト ラ ッ ク 」 よ り も 次 の (6a-b) のような表記の方が英語に近いと述べてい る。また,[-dr-] の例として島岡(1991: p.156) が扱っている例をこれにならって (6c) にあげる と次のようになる: (6) a. train:ツレイン(=トレイン) b. truck:ツラック(=トラック) c. drive:ヅライブ(=ドライブ) これはまさしく万次郎式カタカナ英語表記と同じ ものである。また,同じく [t] と [d] に関しては, 次のような万次郎式表記も多く目にする: (7) a. twenty:ツーエンテ(トウェンティー?) b. thirteen:サアチン(サーティーン?) c. today:ツデイ(トゥデイ?) d. gentleman:ジャンツルメーン (ジェントルマン?) e. little:レツル(リトル?) f. do:ヅー(ドゥー?) ここでの下線部分には,ジョン万次郎が実際に発 音していたであろうアメリカ東海岸フェアヘブン の地域的方言の影響が見られる,と私は推測して い る 。 イ ギ リ ス 英 語 の 特 定 の 地 域 的 方 言 (Ladefoged 1982: p.152; 東後 1977: p.160)やア メ リ カ 英 語 の 特 定 の 地 域 的 方 言 ( Bronstein 1960: p.76)には,[t] や[d] の発音の時に,図 5 −[左]に示されたような,英語の本来的な調音 形式(Brown 1977: p.23: 城生 1989: p.65)と違 って,舌が口蓋側に接する面積が広く,鈍い調音 動作(Catford 1988: pp.88-89)になる場合(図 5 −[右])がある。その場合,本来,閉鎖音であ る [t] や [d] は摩擦音の [s] や [z] をそれぞれ後方 に 伴 っ た [ts] や [dz] に 移 行 す る 破 擦 音 化 (affrication)を引き起こしやすい(Gimson & Cruttenden 1994: p.147)3)。 こ れ ら [ts] や [dz] を 含 ん だ 例 ( Gimson & Cruttenden 1994: p.151; 東後 1977: pp.159-160) を日本語式にまとめると次のようになり,これら もまた,まさしく万次郎式カタカナ英語表記と同 じものになっているのがわかる: (8) a. time:ツァイム(タイム) b. important:インポーツァント (インポータント) c. some tea:スムツィー(サムティー) d. day:ヅェイ(ゼイ) その他,子音に関しては,同じ単語でも場合によ って,無声子音と有声子音のどちらで表記するか を統一していないところがあり,現代なら有声子 音で表記するところを無声子音で表記している部 分がよく見られる(次の下線部分): (9) a. great:グレイト or クレイト b. does:ドーシ or トーシ c. good:グーリ or クーリ これは,ジョン万次郎が英語を話す際,アクセン トのある部分に関しては気息音(aspiration)を 伴って日本語より強く発音していた結果だと考え ることができる。通常,無声子音を発音する時, 呼気圧を高めて強く発音すれば,図 6 のように 目の前の紙が吹き飛ぶくらいの勢いとなり,その 際,子音には一吹きの [h] に似た,無声の呼気が 漏れる音が伴う。これが気息音化した子音の発音 となるわけなのだが,このようにアクセントのあ る部分を思いきり強く発音するようなメリハリの 図5 一般的な英語[左]と特定地域の英語[右]
ある発音の場合,有声子音([b, d, g] など)が無 声子音([p, t, k] など)に近づく場合がある。ジ ョン万次郎はこのようなメリハリのある発音を, 場合によっては行っていた可能性が高く,その場 合,[b, d, g] のような有声子音が,たまたま [p, t, k] のような無声子音に近くなっていたものと見 られる。野中(2005)はこのような発音を「肺 ポンプ」を使った「ラッパ式発音」と判りやすく 説明しており,これにより日本人には「耳障り」 なほどの強い子音を英語話者が生み出している, としている。ジョン万次郎は,ちょうどこのよう な英語話者の発音を実践していたことになろう。 続いて,英語に特有の,単語の終わりが子音だ けになっている場合や,子音が連続する場合,こ れらを万次郎英語表記ではどのように処理してい るかを見てみることにする。普通,これらを外来 語として日本語で表記する際には,語末に母音を 付加する(sleep の語末 [p] に [u] を補って「スリ ープ」)か,語中に母音を挿入する(length の語 中 [g] に [u] を補って「レングス」)方法をとる。 この場合,現代の日本語では付加母音・挿入母音 ともに [u] と [i] が多いわけだが,万次郎英語表 記でも同じような傾向が見られる: (10) a. [p] の後 + [u] or [i] sleep: スリープ or sleep: スリーピ b. [k] の後 + [u] or [i] spoke: スポク or weak: ウイキ c. [k] の後 + [u] or [i] stomach: シタマク or headache: ヘデイキ d. [g] の後 + [u] or [i] fog: フホーグ or length: レンギズ e. [tS] の後 + [u] or [i] much: マチュ or church: チョチ 特に,(10a) の sleep のように,同じ単語でも付 加母音(挿入母音)として [u] と [i] のどちらを 使うか統一されておらず,場合によって異なる例 は,次にあげる現代語の例と類似している: (11) a. ストライク or ストライキ b. インク or インキ c. スカッシュ or スカッシ d. カモフラージュ or カモフラージ また,挿入母音が [-iks-] や [-eks-] の途中,[k] と [s] の間に来る場合,『英米對話捷徑』では次のよ うに,[i] が来る例が多い: (12) a. exceeding:エキシデン (エクシーディング?) b. exercise:エキササイシ (エクササイズ?) c. six:セキシ(シックス?) 現代の日本語ではこのような場合,挿入母音が [i] だけになる例 (13a-b) の他,[u] と [i] のどちら もあり得る例 (14a-d) も存在する: (13) a. エキス ex(tract) b. エキゾチック (14) a. エクスプレス or エキスプレス b. エクストラ or エキストラ c. テクスト or テキスト d. エクスパンダー or エキスパンダー 次に,万次郎式英語表記の中から母音に関する ものを見てみることにする。英語における弛緩母 音(緊張を伴って発音されない,鋭くない響きの 母音)に分類される [i] は,日本語における「イ」 に相当するというよりは「イ」と「エ」の中間と 見なすのが適当である。次の万次郎式英語表記は このことを反映し,英語の [i] を「エ」で表記し 図6 気息音(aspiration)を伴う激しい子音の 発音
ているものと言える: (15) a. thick:セッケ(シック?) b. imagine:エマジン(イマジン?) c. anything:エネセンキ(エニシング?) d. coming:カメン(カミング?) e. happy:ハペ(ハッピー?) 同様に,英語の [u] は「ウ」に相当するというよ りは「ウ」と「オ」の中間となる。次の万次郎式 英語表記はこのことを反映し,英語の [u] を「オ」 で表記している: (16) a. book:ボック(ブック?) b. look:ロック(ルック?) ここまでは,ジョン万次郎直筆の『英米對話捷 徑』からの例を見てきたが,次に,口述筆記によ る「亜墨利加詞」からの例を見てみたい。ここで は,前田編(1988, pp.50-59)に収録されている もの(活字になおしたものでなく,江戸時代の毛 筆字体のままの形)から引用することとする。 まず,子音に関しては,呼気圧を高めて強く発 音するようなメリハリのある発音で,有声子音 ([b, d, g] など)が無声子音([p, t, k] など)に近 づく場合の例が『英米對話捷徑』と同様,「亜墨 利加詞」にも見られる: (17) a. grandchildren:クランチルレン (グランドチルドレン?) b. breakfast:プレクハアス (ブレックファースト?) 次にあげるのは [t] が「ラ」行・「ダ」行で記 述されている万次郎式英語表記である: (18) a. city:シルイ(シティ?) b. winter:ウインダ(ウィンター?) 英語(特にアメリカ英語)において,アクセント のない音節の [t] を素早く発音する際,口蓋をパ チンと弾く調音動作となるため,日本語の「ラ」 行・「ダ」行の音に聞こえてくる(弾音化)場合 がある。万次郎式英語表記はつづりの t にこだわ らず,聞こえてくる印象をもとにこれを記述した ものと言える。また,「亜墨利加詞」には他に [d] を「ラ」行で表記した needle:ニロ(ニード ル?)や middle-night:メルナイ(ミドルナイ ト?)などの例があるが,これらも [d] から [l] に移行する際の素早い調音動作を,聴覚印象の通 りに記述した結果と見ることができる。 次に,母音に関しては,あいまい母音の [E] を 必ずしも「ア」段で置き換えず,省略したり, 「ア」段以外の別の母音で置き換えたりした例が ある: (19) a. America: メリケ(アメリカ?) b. tobacco:トバコ(タバコ?) このように,万次郎英語表記は聴覚印象の通り に記述することを優先させている点で,現代のカ タカナ外来語表記を作り出すプロセスと異なって いる。現代のカタカナ外来語の生成プロセスは, Katayama(1998)によると,例えば英語を日 本語に取り込んで外来語として定着させる場合, 日本語に存在しない子音([f] や [
†
] など)や母音 ([A] や [ú] など)をまず,日本語特有の子音([h] や [s] など)や母音([a] など)で置き換え,その 後,母音挿入を行ったり,二重母音を短母音に変 えたりするプロセスを経て,韻律構造すなわちア クセントや音節の構造を日本語特有のものにして ゆくことになる。一方,万次郎英語表記の成立で は,これら 2 つの段階のうち,まず,第一段階 において置き換える子音や母音の選択が現代での 場合と違って,英語の綴り字通りというよりは耳 で聞いた印象に基づいている。そして,第二段階 の,日本語の韻律構造への変換については,これ を配慮することより元の英語の韻律構造をそのま ま残すことを優先させている。 この,第二段階のプロセスには代表的なものが いくつかあるが(Quackenbush 1977),これら を無視して英語の聴覚印象を優先させている例を 「亜墨利加詞」から見てみることにする。まず, 英語の [w-] ではじまる部分を,現代のカタカナ表 記 で は 単 に 母 音 で 置 き 換 え る の が 普 通 (whisky:ウイスキー)だが,これを [w] 特有の 半母音的要素を保持しながら記述しようとした例 が次である: (20) a. well:ウワエル(ウェル?) b. watch:ヲワチ(ウォッチ?) c. wheel:フィル(ホイール?) d. wide:ウワイタ(ワイド?) e. language:ラングイチ(ランゲージ?) また,二重母音を短母音に短縮せず,二重母音の まま記述しようとした例も見られる: (21) a. ground:グラオン(グランド?) b. house:ハヲス(ハウス?) 特に (21b) では,「ハウ」より「ハヲ(オ)」の方 が調音位置の移動がなめらかで,それだけ二重母 音を明確にしやすくなっている。 短い英単語に限定した場合,万次郎式英語表記 と現代のカタカナ表記の違いは個々の子音や母音 において際だっているが,次のような比較的長い 英単語や複合語などを見てみると,韻律構造にお いての違いが見えてくる: (22) a. stocking:シタキ(ストッキング?) b. narrow:ナアロ(ナロー) c. lightening:ライツネン(ライトニング?) d. earthquake:アアサコエ (アースクウェイク?) e. breakfast:プレクハアス (ブレックファースト?) f. grandchildren:クランチルレン (グランドチルドレン?) g. flying fish:フライニフイシ (フライイングフィッシュ?) 一般的に万次郎式英語表記の方が,綴り字に忠実 な挿入母音がなかったり,聞こえにくい部分を省 略していたりするため短く,英語本来の音節構造 を保持している。逆に,現代日本語の外来語表記 の方が全体として長くなりがちで,アクセントの 位置も英語とずれてくる結果となっている。 4.「進歩的発音・保守的発音」と「規範的外来 語・異端的外来語」 日本語においては,少なくとも太平洋戦争以前 くらいから現在に至るまでの間,新しい子音や母 音は登場していない。新しく登場しているのは旧 来から存在する子音や旧来から存在する母音の, 今までになかった組み合わせである。すなわち, 英語における [f] や [
†
] などの子音が日本語にも 新しく登場した,というようなことはいまだかつ てない。ただし,[t] という子音は [a] という母音 と結合して昔から [ta](「タ」)として存在してい たのに対し,[t] が [i] と結合した [ti](「ティ」) は昔からあったものではなく,外来語の,例えば tissue を「ティッシュ」と表記する必要に迫られ て新しく登場したものである。このようにして新 しく認知されるようになった「子音+母音の組み 合わせ」の例として,[t] に関するものを次にあ げてみた(下線部分が新しく登場したもの): (23) a. [t]: タ ティ トゥ テ ト b. [tS]: チャ チ チュ チェ チョ c. [ts]: ツァ ツィ ツ ツェ ツォ d. [tj]: × × テュ × × これらはそれぞれ,「ティッシュ」・「アップト ゥーデート」(23a) ,「チェック」(23b) ,「ピッ ツ ァ 」 ・ 「 テ ィ ツ ィ ア ー ノ 」 ・ 「 フ ィ レ ン ツ ェ 」 ・ 「 カ ン ツ ォ ー ネ 」 (23c) ,「 テ ュ ー バ 」 (23d)などの表記が必要で登場した 8 箇所の「進 歩的発音」である。このうち (23d) においては, [tja](仮に「テャ」とでもする)などを含め,ま だ一般化していない部分 4 箇所が×で空欄のま まになっている。この分布を考慮に入れながら almighty と Truman 大統領(Harry S. Truman) の 2 語を外来語として,現在どのように表記し ているか,以下に考えてみることにする:(24) a. オールマイティー:[t] b. オールマイテー:[t]
c. オールマイチー:[tS] (25) a. トゥルーマン大統領:[t] b. ツルーマン大統領:[ts] c. トルーマン大統領:[t] 上記 (24a-c) で (24c) の「チ」,(25a-c) で (25b) の「ツ」がそれぞれ「保守的発音」として古めか しく感じられるのは,子音そのものが [t] からず れてしまっている([tS] ならびに [ts])からであ ろ う 。 ま た , (25a) の 「 ト ゥ ル ー マ ン 」 よ り (25c) の「トルーマン」の方がむしろ一般的に使 われていることから,「進歩的発音」(「トゥ」)が 含まれていても,その発音そのものの定着率が日 本語の中で高くなければ,「規範的外来語」(「ト ルーマン」)には必ずしもなれない,ということ がわかる。(一般的に見て,「トゥ」は「ティ」ほ ど定着率が高くないと言える。) 万 次 郎 式 英 語 表 記 に あ る 「 カ ン ツ レ 」 (contrary)や「ツーエンテ」(twenty)は (25b) に見られるような「保守的発音」(「ツ」)を含ん でおり,(25c) のような「規範的外来語」の表記 (「ト」)を使っていない。よって「保守的発音」 を使ったままの「異端的外来語」として「土佐方 言の影響を受けている」などの扱いを受けてしま うのではないかと考える。 同様に [d] に関するものについて,新しく登場 した「子音+母音の組み合わせ」を考えてみたい (下線部分が新しく登場したもの): (26) a. [d]: ダ ディ ドゥ デ ド b. [dZ]:ジャ ジ ジュ ジェ ジョ c. [dz]: × × × × × d. [dj] : × × デュ × × 「ディレクター」・「ヒンドゥー教」(26a) ,「ジ ェット」(26b) ,「デュエット」(26d) などを記述 する必要から「進歩的発音」が登場しているが, この分布の中で,「ヅァ・ヅィ・ヅ・ヅェ・ヅォ」 ([dz] + 母音)は現代日本語の「ザ・ジ・ズ・ ゼ・ゾ」([z] + 母音)で置き換えているため存在 しない。ここでも,英語の director と drink を 現代日本語でどう表記しているか見てみる: (27) a. ディレクター:[d] b. デレクター:[d] c. ヅィレクター:[dz](ジレクター) (28) a. ドゥリンク:[d] b. ヅリンク:[dz](ズリンク) c. ドリンク:[d] 上記 (27c) で [d] からずれてしまった [dz](「ヅ ィ」),(27b) で [d] からずれてしまった [dz](「ヅ」) がそれぞれ「保守的発音」であり,(27a)「ディ レクター」が「進歩的発音」(「ディ」)を含む 「規範的外来語」,(28c)「ドリンク」が「保守的 発音」(「ド」)を含むものの,「規範的外来語」と 見なされる単語である。(すなわち,「ディ」ほど 「ドゥ」は日本語において定着率が高くない。)万 次郎式英語表記で考えれば,「ハンヅレ」(=ハン ズレ: hundred)や「ヅー」(=ズー:do)は (28b) と同様,「保守的発音」(「ヅ」)を含む「異 端的外来語」(「ドリンク」の「ド」のような表記 を使用していない単語)となる。 なお,「規範的外来語」と日本語の枠内で見な されるには,英語の綴り字にある程度忠実なこと が条件になりそうである。例えば,万次郎式表記 の 「 エ ネ セ ン キ 」( anything) や 「 カ メ ン 」 (coming) は綴り字通りの母音でないため,英語 の元の発音に近いにも関わらず,「異端的外来語」 なのである。また,「シタキ(=ストッキング)」 や「アアサコエ(アースクウェイク)」のように, 元の英語の韻律構造を保持し,音節構造やアクセ ントの位置を英語に近くしている万次郎式英語表 記も,結果的には綴り字に忠実でない(アクセン トがなく,聞こえにくい部分を大幅にカットして いる)ため,「異端的外来語」の扱いをうけてし まう。 このように見てくると,万次郎式カタカナ英語 表記が日本の「土佐方言」の影響を受けていると いった扱いを受ける原因を考える際には,「進歩 的発音・保守的発音」という基準の他に「規範的 外来語・異端的外来語」という基準も必要である。
そしてそれらはあくまで英語ではなく,日本語の 枠組みで適応される判定基準であることを忘れて はいけない。ジョン万次郎が「保守的発音」の表 記しか使っていないことは,時代を考えると当然 であり,子音・母音・韻律構造の面で「異端的外 来語」の表記になっているのも当然だが,これら は,彼が英語話者に通じないような「異端」の英 語を話していたことを示すものでは全くない。そ のような英語を話していたように思われることが あるとすれば,それは日本語の枠組みの中におい てである。 5.おわりに:「源内式」舶来風カタカナ造語法 最後に,「規範的外来語」の表記を確立して行 く過程において重要な役割を果たしたと考えられ るオランダ語からの外来語,そして日本語を組み 合わせて外来語風に作る「舶来風カタカナ語」に 触れておきたい。代表的な例は,江戸時代の平賀 源内に関係する著作物に見ることができる。 平賀源内(1728∼1779 年)は現在の香川県さ ぬき市志度町の出身で,博物学者やエンジニアと して有名である。長崎で蘭学に触れた経験もあり, オランダ語からの外来語をよく使用している(以 下の 29a-c は杉本 1987 より)。また,彼の弟子 が書いた本(森島中良[1754∼1810 年]による 1787 年の著作『紅こう毛もう[=オランダ]雑話』)にも 似 た よ う な 博 物 学 ・ 舶 来 品 に 関 す る 外 来 語 (30a-d など)が掲載されている(杉本 1972 よ り): (29) a. スランガステイン(龍骨):
slangesteen(蘭);reptile mineral(英) b. タルモメイトル(温度計): thermometer(蘭);thermometer(英) c. エレキテル(静電気発生装置): electri (citeit)(蘭);electricity(英) (30) a. ストロイスホーゲル(ダチョウ): striusvogel(蘭);ostrich(英) b. コンストホンテイン(噴水):
kunstfontein(蘭);artistic fountain(英)
c. ミコラスコーピユム(顕微鏡): microscopium(蘭);microscope(英) d. ワートルハルナス(潜水服): waterharnas(蘭);diving suit(英) これらは万次郎式英語表記と違って「規範的外来 語」に近い印象をうける。この当時の蘭学者が, 会話を通じて耳で聴いたオランダ語の発音を写し 取るのではなく,主に書物から知識を吸収するた め,綴り字を参考に外来語を日本語に写し取って いたということを考えれば当然の結果と言える。 特に (29c)「エレキテル」(静電気発生装置)など は,若井・井上(2002)によれば,機械の名称 ではなく「エレキテル・セエリテイト」(前半が 名字で後半が名前)という発明者の人物名である と当時,信じられており,その省略形として定着 したという,何とも和製英語的な性質を持ってい る。(下図 7 のエレキテルの裏蓋には「セエリテ イト[名前]・エレキテル[名字]」の順番に刻印 したらしき痕跡が見られる。西洋人の姓・名は日 本人のものと逆,ということからである。) さらに『一つゑり志いのみ袋(一つ選り椎の実 袋)・巻七』(蜂屋茂橘[1795∼1873 年]によ る 1841 年の著作)には,源内が作った架空のオ ランダ語(=見知らぬ魚の名称:以下の 31a-b) が記載されている。また,『理斎随筆』(志賀理斎 [1686 ∼ 1841 年]による 1824 年の著作:日本 随筆大成編輯部編 1976 に基づく)には,源内が 図7 平賀源内のエレキテル (東京・逓信総合博物館にて撮影)
命名した機械(蚊取り線香を使ったもの)の名称 として (32a) が,それに類似した言葉の使い方の 例として (32b-d) が紹介されている: (31) a. ギンギラス(銀色にギラギラした魚?) b. クロロコ(黒々としている魚?) (32) a. マアストカアトル(回すと蚊を取る?) b. オストデール(押すと出る?) c. エフトホエル(笑むと吼える?) d. スポントワースル(スポンと忘れる?) このうち,(32b) は「昔のチューブ式糊」,(32c) は「泣き上戸」,そして (32d) は「物覚えの悪い 人」を意味している。このような,一見だじゃれ のようにも見える「源内式」舶来風カタカナ造語 法は,彼の専門である博物学の分野における動植 物の名称や,発明の分野における舶来品や機械の 名称として使っていたオランダ語から得た語感を もとに,日本語の枠組みで形成されたと言える。 その造語法は,江戸時代から明治時代に移行する と医薬品やテクノロジー関係の用語や商品名に波 及し,戦後の所得倍増計画・アメリカンライフ指 向期において,純粋な外来語とともに飛躍的に増 えていった。 このように,現代のジャパニーズ・イングリッ シュと呼ばれるものには外国語を元にした純粋な 外来語の他,舶来風に作られたカタカナ語が含ま れる。ジャパニーズ・イングリッシュが単なる西 洋のまねごとから生まれた借用語でなく,日本語 話者が自分たちで創造し,自分たちに合うように 使っているものである(Stanlaw 2004),という ことになる。そして,「純粋な外来語」と「舶来 風に作られたカタカナ語」の両方とも日本語の枠 組みの中で「規範的外来語」として確立してきた のに対し,万次郎式カタカナ英語表記は異端だっ たし,現在も異端のままなのである。これは「万 次郎型」音声・韻律トレース法が「源内型」舶来 風カタカナ造語法よりおよそ 100 年も後になっ て新しく登場したものであり,さらに英語の元の 音声・韻律には近いことを考えると皮肉な結果で ある。 注 1 )これはもちろん,ジョン万次郎が [f] の発音 をほぼ正確にできていたという前提が必要と なろう。 2 )特に,ジョン万次郎は少年時代に寺子屋で日 本語の読み書きを学習した経験もなく,帰国 して数年の間も「漢字の練習と思われるもの」 を 紙 に 何 度 も 書 い て い る こ と か ら ( 中 濱 2005: p.182),帰国直後に自分の英語の発音 をカタカナでどう表記したら良いかを,自分 一人では判断できなかったのではないかと推 測される。 3 )調音動作が鈍いという理由で [t] や [d] が [ts] や [dz] に近くなりやすい他,もともと英語 においての方が [t] や [d] の調音位置は後方 になりがち(城生 1989: p.66)である。この 傾向が強いとするならば,摩擦音の場合にお いては,[s] が [S] になりやすいということに なる。これはジョン万次郎が暮らしていたア メリカ東海岸・フェアヘブン付近の英語の特 徴(中濱 2005: p.170 による)であり,「サ 行」を「シャ行」にする傾向があると言う。 したがって「シャマ」(summer)のような 万次郎式カタカナ英語表記は,万次郎による 発音が「現地の英語に近い」ことが原因であ り,ますます,万次郎による「土佐方言」の 発音や「土佐方言」のある口述筆記者による 可能性が低くなろう。 参考文献
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