リハビリテーション科専門研修プログラム(2014 年度)
Ⅰ.リハビリ科専門研修プログラムの目標
本プログラムの目標はリハビリ専門医資格の取得とその後のキャリアサポートです。専門医受験資 格取得には初期臨床研修 2 年に引き続くレジデント 3 年間、合計 5 年間が最低限、必要となりま す。その間に、日本リハビリ医学会が定める内容の研修、業績をクリアしなければなりません。専 門医資格は 1 つの区切りですが、それで終わりというわけではありません。関連病院でさらに臨床 経験を深め、病院の中のリハビリ部門統括者として活躍することもキャリア形成には重要です。チ ャレンジではありますが、学位取得、留学という道もありますし、訪問や通所リハビリを柱とした開業 も時流の 1 つです。Ⅱ.リハビリ医学の展望と杏林大学での位置付け
1.リハビリ医学について リハビリ科が関わるのは、麻痺や高次脳機能障害などの機能障害(impairment)と、それによって 起こる歩行障害や日常生活動作困難などの能力低下(disability)です。主体は能力低下の方に あり、機能障害も能力低下につながるものに焦点を当てます。つまり、身の回り動作自体の障害と その原因を作った麻痺等を扱う実用医学です。これら障害を分析し、評価(grading)し、治療計画 を立て、理学・作業・言語療法を中心としたリハビリを行うわけです。もちろん、一般的な画像診断、 生理機能検査なども基礎にします。特に重要なのが、動けないこと(dismobility)に関連する診断 や予後判定で、筋電図を初めとする電気診断は歴史的にも大きな位置を占めています。 2.対象疾患について リハビリという言葉を用いるのはリハビリ科の世界に限りません。眼科や精神科でも用いられますが、 リハビリ科では身体障害を起こす疾患が対象の中心になります。これは全世界共通です。日本リ ハビリ医学会は、(1) 脳血管障害、脳外傷、(2) 脊髄損傷、脊髄疾患、(3) 関節リウマチを含む 骨関節疾患、(4) 脳性麻痺を含む小児疾患、(5) 末梢・中枢神経を含めた神経筋疾患、(6) 切 断、(7) 呼吸器・循環器疾患、を挙げています。なお、身体障害は活動低下を介して、付加的な 問題として廃用症候群を惹起します。それゆえに、リハビリ科では昔から廃用症候群の予防に力 を入れています。廃用は、身体障害を生じる疾患に限らず、多くの急性期疾患や術後病態におい ても、特に高齢者では大きな課題になります。 3.リハビリ科医師について 日本リハビリ医学会の創設されたのが 1963 年で、当初は整形外科や内科医がリハビリ科に転向し て始まりました。そのため年輩のリハビリ科医においては、「整形外科疾患のリハビリ処方は書けま すが、内科系疾患はわかりません」、「脳卒中片麻痺はいいですけど、脊髄損傷対麻痺のリハビリ はわかりません」というように、偏ることがありました。しかし、リハビリを片手間にやる時代は終わり、 米国を例にした専門医制度が発足した 1980 年以降はリハビリ科として独立し、また講座を構える 大学も増えてきました。高齢化社会を迎え、脳卒中による障害者の増加、急性期在院日数の短縮 圧力、回復期リハビリ病床の増加を反映して、病院におけるリハビリ科専門医の需要は急増してい る現状にあります。脳卒中から義足まで、学会の掲げる全疾患のリハビリの理屈がわからなければ、 療法士スタッフから信頼されません。病院経営の面からも特定の疾患しか診られないのでは雇用 効率が悪いといえます。 4.杏林大学医学部附属病院におけるリハビリ科の実績と展望 杏林大学医学部において、リハビリ専門医による 2 つの柱、すなわちリハビリ医学教室と付属病院 リハビリ科は平成 13 年 7 月にできたばかりです。一方、付属病院の看板である救急医療には歴史があり、全国ランキングでもトップに位置しています。救急が入口であれば、障害をもった患者にと ってリハビリ科は出口にあたります。「リハビリと言えば温泉地」という時代もありましたが、近年は急 性期病院と都市近郊の回復期病院で効率的に行うリハビリが普通になっています。とくに医療費 抑制のための入院期間短縮という社会的要請があり、リハビリ主導で早期離床を行うことが急性期 病院に求められています。図1は当院のリハビリ科新患数の推移ですが、年々増す一方で、この 10 年間で 3 倍近くなり、それに連れて診療報酬も急上昇しています。対象疾患も図2のごとく多様 で、専門医研修に必須な領域をすべて満たしています。療法スタッフ数は現在、PT 19 名、OT 7 名、ST 5 名と大学病院の中では多い方に位置づけられます。保健学部に療法士を養成する学科 が作られ、高い入学倍率となっていることも強みと考えています。 付属病院脳卒中センターは平成 18 年 5 月に開棟しましたが、リハビリスタッフの積極的な介入と 病棟チームワークによって短期間で効果的なリハビリを展開し、全国でも高い評価を得ています。 また平成 19 年 8 月に開棟した新外科棟脳外科病棟においては癌患者のリハビリの一環として脳 腫瘍リハビリに焦点をあてた積極介入を始めているところです。一方、付属病院が位置する東京 西部では、高齢化社会に加えて病院淘汰の時代に至ったことを睨んで、一般病床を回復期リハビ リ病床や療養型病床に変更する病院が多くなってきています。しかし、リハビリ専門医の供給は足 りないため、回復期リハビリ病床にもかかわらず専門外の医師が専任しているという有様です。今 後、回復期リハビリ病床が増え、急性期病床と同じように質が問われる時代となれば、リハビリ専門 医の需要に拍車がかかると思います。急性期の効率的リハビリ、また回復期での質の高いリハビリ を主導できる専門医を育成するのが我々の目標です。リハビリ医学は実践医学であり、杏林大学 医学部が従来、掲げている「臨床家を育成する」という理念が正に反映される領域といえます。
Ⅲ.リハビリ専門医制度の概観
1.リハビリ専門医の動向 規制緩和の流れの中、専門医広告が認められました。前提として専門医の質が保証されなけれ ばなりません。この点については従来、日本医師会、日本医学会、学会認定医制協議会の 3 者が 協議してきましたが、平成 12 年には専門医認定制協議会が発足して、その任が移されました。協 議会では、第Ⅰ群(基本的領域の学会で、三者承認対象の学会群)、第Ⅱ群(subspecialty の学 会で、基盤とする領域の認定に上積み研修方式の学会群)、第Ⅲ群(Ⅰ及びⅡ群以外)が示され、 日本リハビリ医学会は第Ⅰ群として位置付けられました。つまり、リハビリ医学は内科、外科と同様 に、医学として基本的な specialty とされたわけです。現在、この協議会は学会から独立した専門 医認定を掲げ、日本専門医制評価・認定機構と改名していますが、リハビリ医学専門医が内科や 中枢神経 廃用症候群 骨関節 循環器 呼吸器 摂食 小児神経 末梢神経 その他 熱傷 膠原病 32.9% 25.8% 13.8% 13.3% 8.6% 図2.リハビリ患者の疾患別内訳(24年度) 図1.リハビリ新規依頼患者数(入院・外来)の動向 人 年 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 外来 入院外科などと同様に基本領域に位置づけられていることには変わりありません。 現在、リハビリ医学専門医数は 1941 人(平成 25 年 3 月時点)と人口比を加味しても米国の専門医 の約 7000 人に比べ少ない状況にあり、需要>供給は救急科以上ということがマスコミで話題にな りました(朝日新聞 H22.9/29, 9/30)。需要を喚起した要因の 1 つは平成 12 年度に国が設けた“回 復期リハビリ病床”という集中的なリハビリを行う専門病床の存在にあります。リハビリのニードが高 まり、リハビリ専門医の絶対的不足に拍車がかかることになりました。内科や外科医師がリハビリ科 に転向して、リハビリ病床を担っているという例も多くなっていますが、適切なリハビリ計画・処方が 出せず、療法士任せとなってしまっているようです。なお、平成 18 年度の診療報酬改正ではリハ ビリの診療報酬に勾配が設けられ、ハード面でのリハビリ基準を満たしても、疾患ごとにリハビリ医 療の経験を証明できない非専門医がリハビリ医療に携わっても報酬は安くなることになりました。 つまり、リハビリ専門医資格が診療報酬上も重視されるようになっています。 2.日本リハビリ医学会専門医試験 試験は筆記と口頭試問からなります。受験資格では、医師免許取得後 5 年以上(初期臨床研修を 含む)、学会入会後 3 年以上の経験が必要で、また日本リハビリ医学会集会での主演者発表 2 回、 リハビリ医学に関する筆頭著者論文 1 篇以上の業績がなければなりません。対象疾患の項で記し た 7 大疾患について、各最低 3 症例、全体として 30 症例のリハビリ経過報告書とともに、申請しま す 。 最 近 の 試 験 合 格 率 は 70 ~80%です。なお、 試験の詳細につい ては、学会の URL: http://www.jarm.or.jp/を参考にしてください。なお、将来的には学会から独立した第三者機関、す なわち日本専門医制評価・認定機構が専門医認定業務を担うことになっています。
Ⅳ.研修目標
1.一般目標:一言で言うなら「リハビリ医学に精通した臨床医になる」ということです。 1) 日本リハビリ医学会が掲げる疾患・病態における障害の構造を理解できる。その疾患患者の 診察を通して、機能障害/能力低下を分けて、定量的に評価できる。それをもとにリハビリ実施 後の機能予後を判定できる。それに向けて、リハビリ処方を記述できる。 2) 上記 1)に関連して、急性期-回復期-維持期の病床役割分担や家庭や家屋状況などの環境因 子もリハビリ計画・処方に反映できる。また、患者・家族の障害受容の心理過程を理解して、適 切に応対できる。 3) リハビリコメディカルの手技・技術について、EBM の観点で科学的に説明できるリハビリ基礎医 学の知識をもつ。また、リハビリチームリーダーとしてコメディカルを統括できる。 4) 維持期については、障害者の社会的支援として介護保険サービス、福祉としての身体障害者 認定などを理解し、それに関わることができる。 2.行動目標:目標を達するために「何を行うべきか」です。 1) 脳血管障害、脳外傷、脊髄損傷、脊髄疾患、関節リウマチを含む骨関節疾患、脳性麻痺を含 む小児疾患、末梢・中枢神経疾患、筋疾患、切断、呼吸器・循環器疾患の主治医、担当医、コ ンサルタント医となる。 2) 上記疾患について目標を示した段階的なリハビリ処方を出すとともに、フォローアップして、リ ハビリコメディカルとカンファレンスをもち、適宜、修正する。 3) 神経伝導・針筋電図検査を解釈もしくは実施し、病巣診断・重症度診断・予後判定を行い、コ メントを記載する。 4) 嚥下造影・内視鏡検査や膀胱機能検査結果を解釈し、患者・家族に説明し、結果に応じたリ ハビリ処方を出す。 5) 痙縮に対して、適切な内服薬投与やボツリヌス毒素やフェノールによるブロックを実施する。 6) 主だった装具、義足の処方と適合判定を行う。7) 肢体不自由の身体障害者手帳など、リハビリに関連する公的書類を書く。 8) 日本リハビリ医学会専門医受験資格に合わせて、学術集会において、リハビリ症例報告と臨床 研究報告を最低各 1 回づつ行い、何れかについて筆頭著者として論文を執筆する。
Ⅴ.杏林大学での研修システム
1.教室専門医スタッフの陣容 リハビリ医学教室は平成 13 年 7 月に創設されましたが、リハビリ科が対外的に独立したのは平成 14 年 11 月からになります。平成 23 年 1 月現在、診療科長/教授 1 名、医局長/講師 1 名、レジデ ント 2 名、非常勤講師 3 名、専攻医 3 名(関連病院出張)とスタッフは少ないですが、大学常勤職 員は学位を有するリハビリ専門医・指導医です。リハビリ医学の中でも、運動学(kinesiology)、麻 痺電気診断、ADL 評価などが得意な領域で、疾患単位では脳卒中、頭部外傷、脊損、廃用症候 群、末梢神経障害などに特に精通しています。診療科長、医局長は日本リハビリ医学会のなかで は編集委員会、教育委員会、国際委員会、広報委員会、専門医試験特別委員会などに所属した 経歴を有しています。 専門医氏名 職位 出身 専門領域 岡島 康友 教授・診療科長 慶応大学卒(S55 年) リハ全般、電気診断、脊損 山田 深 講師・医局長 慶応大学卒(H9 年) リハ全般、ADL、脳卒中 川上 純範 非常勤講師 杏林大学卒(S53 年) リハ全般、整形疾患 高橋 秀寿 非常勤講師 慶応大学卒(S61 年) リハ全般、小児リハ 團 志朗 専攻医 名古屋市立大学卒(H9 年) リハ全般、痙縮治療 2.研修施設(関連病院)と待遇 大学病院勤務中の待遇は病院の規程に従います。大学病院以外の研修病院として、現在、山梨 リハビリテーション病院、多摩北部医療センター、永生病院などが受入れ対象ですが、今後の展 開でさらにいろいろの選択肢ができてくると思われます。いずれの病院でもリハビリ科への配属で あり、待遇は個々の病院の規定によります。なお、大学病院は急性期のみのリハビリにしか関与で きず、またリハビリ科専用入院床がないので、レジデント 3 年間のうち少なくとも 1 年は関連病院で の研修を予定しています。 3.大学病院での研修 大学病院リハビリ科週間スケジュール(平成 25 年 4 月現在) 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 時 月 リハ室 連絡会 外来、入院患者リハビリ 診察および計画・処方 入院患者フ ォロー 筋電図検査 医局勉強会 火 脳 卒 中 カ ンファレンス 外来、入院患者リハビリ 診察および計画・処方 新入患診察 神経内科カンフ ァレンス 小児神経カンファ レンス 嚥下カンフ ァレンス 水 脳 外 科 カ ンファレンス 外来、入院患者リハビリ 診察および計画・処方 学生実習、 筋電図検査 リハ科診/研修者勉強会 整形連絡会 木 脳 卒 中 カ ンファレンス 外来、入院患者リハビリ 診察および計画・処方 嚥下センター VFG 検査 装具外来 SU 病棟症例検討会 金 脳 卒 中 カ ンファレンス 外来、入院患者リハビリ 診察および計画・処方 新入患診察 嚥下センター VE 検査 病棟看護-リハ室・カンファ レンス 土 脳 卒 中 カ ンファレンス 外来、入院患者リハビリ 診察および計画・処方 大学病院ではリハビリ医学の基礎的知識・技術を得るとともに、障害を適切に診断・評価する診察 法を習得し、機能予後診断、リハビリの計画と処方に精通します。筋電図等の電気診断技術の修練も大学病院が主な場となります。入院についてはコンサルタントあるいは併診医としてリハビリに 関するすべてを担当します。主な病棟は脳卒中科、脳神経外科、整形外科、神経内科、高齢医 学科です。とくに脳卒中センターはリハビリ科が密に関与する病棟となっています。主治医、病棟 看護、療法士を一同にしたカンファレンスは方針の統一の観点でも重要で、脳卒中科、脳外科な ど複雑な病態患者の治療にあたる病棟では頻繁に行います。なお大学病院では急性期の廃用 予防、早期離床といった単純ですが効率のよいリハビリを展開する必要があります。機能障害より 能力低下に重点をおいたリハビリの場であり、「じっくり気の済むまで」というリハビリは許されませ ん。外来については週 1~2 コマを担当してもらいます。入院から外来に移行した患者については 適切な外来リハビリを組んでフォローアップします。なお、脳卒中センターでは一時的に脳卒中科 に属して、脳卒中を基本から学ぶことを勧めています。 4.外部研修病院での研修 外部研修病院は回復期リハビリ病院あるいは一般病院ですが、そこではリハビリ科の主治医となり 入院医療に携わります。リハビリ科といっても大学病院のように専門領域だけを診るという訳には 参りません。一般医としても対処する必要があります。そのベースは初期臨床研修 2 年間ですが、 その後の経験も重要であり、絶えず自分が一般医である自覚のもと修練していく必要があります。 もちろんリハビリ医学と関連診療科領域については一層の磨きをかける場でもあります。なお、一 般病院のリハビリ科は回復期と比べ、療法士数は少なく、規模は小さいのが通例です。研修の身 とは言え、そこではリハビリ部門管理者としてリハビリコメディカルを統括する立場を与えられること もあります。臨床におけるリハビリチームリーダーの役割と同様、部門の収支管理などの経営的側 面も研修の一部として重要な内容です。