1.は じ め に 文部科学省選定事業「次世代火山研究・人材育成総合 プロジェクト」の一環として 2016 年より開始された火 山研究人材育成コンソーシアム構築事業「次世代火山研 究者育成プログラム」では,2017 年より毎年イタリア国 ストロンボリ島で海外研修を実施している.2017 年, 2018 年の海外研修はプログラムの受講生である日本人 学生のみが参加し,イタリア国フィレンツェ大学の協力 の下,主に地球物理学的な観測実習が行われてきた.3 回目となる今回,本海外研修はフィレンツェ大学やフラ ンス国クレルモン・オーベルニュ大学,National Institute of Geophysics and Volcanology と連携し,また,イタリア 火山学会,日本火山学会の協力を得て,International School of Volcanology 2019 ‒ Working on an active volcano: learn-ing tools of modern volcanology という国際的な観測実習 プログラムとなった.2019 年 6 月 15 日から 6 月 22 日 の日程で,岩石・地質学,地球物理学,地球化学,社会 科学の講義やフィールドワーク等が行われた(Table 1). 今回,この International School には総勢 20 名の学生が 参加し,その内訳は日本・イタリア・フランスから 5 名 ずつ,ドイツ・メキシコ・ポルトガルから合わせて 5 名 であった.International School では受講生同士の国際交 流が重視され,ホテルの部屋は 5,6 名が共同で,実習中 のグループワークは国籍や専攻分野が重ならないように 振り分けられるなど様々な工夫がなされていた. 開催地となったストロンボリ火山は,イタリア南部に 位置する世界的に有名な火山であり,現在も数分おきに 噴火している.その活発な火山活動は,世界中の火山学 者に注目され,様々な観測によって,ストロンボリ火山 の噴火メカニズムに迫る研究が盛んに行われている.ま た,最新の観測手法の実験の場としても使われており, 例えば Mori and Burton (2009) は,紫外線 CCD カメラを
用いて SO2を可視化する新しい観測装置をストロンボ リ火山で試験し,SO2ガス放出量の観測に成功した.ス トロンボリ島で International School を開催することで, 様々な分野の最先端の火山研究について学ぶことができ る.本 稿 で は,International School で 行 わ れ た 講 義, フィールドワーク,ロールプレイについて,特に印象に 残った事について掘り下げながら報告する. (鈴木真奈美) 2.講 義 講義では,岩石・地質学,地球物理学,地球化学の各 分野における複数の観測手法が紹介された.いずれの講 義でも様々な火山における実際の観測データを示しなが らの丁寧な説明がなされ,各観測手法の概要について理 解を深めることができた.さらに,それらの複数の手法 を組み合わせた多項目観測によるストロンボリ火山のモ ニタリングシステムも紹介された(Fig. 1). 岩石・地質学の講義の中で,Francalanci 氏と Landi 氏 により興味深い知見が紹介された.それは火道浅部には 脱ガスして結晶化が進んだマグマ溜りが存在すること,そ *〒980-0845 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-3 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
Department of Geophysics,Graduate School of Sciences, 6-3 Aramaki Aza-Aoba,Aoba-ku,Sendai 980-8578,Japan.
**〒113-0032 東京都文京区弥生 1-1-1
東京大学地震研究所
Earthquake Research Institute,University of Tokyo,1-1-1 Yayoi,Bunkyo-ku,Tokyo 113-0032,Japan. Corresponding author: Manami Suzuki e-mail: [email protected]
してそのマグマ溜りにおいて噴火様式ごとに異なるマグ マ混合プロセスがあったというものであった(Bragagni et al.,2014 など). 地球物理学的観測から得られた結果の中で興味深かっ たものとして,例えばストロンボリ火山の大規模噴火で ある Paroxysm の直前に熱放出量が低下したこと(Ripepe and Harris,2008)やエトナ火山でストロンボリ式噴火か ら溶岩噴泉へ推移する直前に空振の最大振幅やパルス数 が増加したこと(Ulivieri et al.,2013)などがあった.ま た Ripepe 氏の講義では,ストロンボリ火山の多様な噴 火様式を網羅する火山噴火モデルが示された.このモデ ルは,ストロンボリ火山で実施されている多項目の観測 データ(地震計・空振計・GNSS・傾斜計・赤外線カメ ラ・ガス観測など)を組み合わせて得られたものであっ た.この講義を受けて,多項目観測の実施とその結果を 組み合わせることが多くの重要な情報をもたらすことを 改めて実感した. また,上記の理学的観点からの講義に加えて,社会科 学的視点からの講義もあった.具体的には,火山噴火発 生時の情報伝達過程と,その中で研究者がどのような言 葉で危険性を伝えるべきかについて IAVCEI のプロトコ ルを提示しながら考察する Risk Management に関する講 義等があった.これらの講義を通して,火山の噴火現象 を明らかにするという視点のみならず,得られた知識を 防災へどのようにつなげるかについての知見も得ること ができた. (岩橋くるみ) 3.フィールドワーク
本実習ではストロンボリ中腹での Sciara del Fuoco 巡 検,山頂付近での地震計・空振計設置及び撤収,ボート トリップ,火山ガス観測及び夜間噴火観測の合計 4 つの フィールドワークが行われた(Table 1).また Fig. 2 に Bertolaso et al. (2009) のストロンボリの地形図に,実習 を行った地名を記入した地図を示した. 実習 2 日目,ストロンボリ中腹(標高 200〜400 m)で 巡検が実施された(Fig. 3).3 日目以降の足慣らしを兼 ねたこの巡検では,ストロンボリ中腹(Vallonazzo〜 Sciara del Fuoco)を歩き,いくつかの露頭を観察した. 露頭では,溶岩流・スパター・スコリア等の堆積物を観 Fig. 1. The students attending a lecture of data processing
by Ripepe (7th day).
Fig. 3. Field trip for observation of geomorphology,struc-tures,activity and tephra deposits between Vallonazzo and Sciara del Fuoco (2nd day).
Fig. 2. Map of Stromboli Island modified from Bertolaso
et al. (2009). Thin and thick arrows indicate routes of
the field trip (2nd day) and the field work (4th and 6th day),respectively. White star indicates location of the Civil Protection Center (COA).
察し,Francalanci 氏と Landi 氏から解説を受けた.Sciara del Fuoco 到着後はイタリアの学生・研究者による研究紹 介と議論の場が設けられた.ここでは,溶岩の年代測定 の結果とストロンボリ火山周辺に見られる津波堆積物の 研究発表がなされ,それらに対して活発な質問や議論が なされた.また,この地点からは噴火を間近に望め,爆 発音と共に火口から噴煙が上がる様子がしばしば見られ た.下山後は島北部 Stromboli Village 内の Labronzo とい うレストランで食事をとった.このレストランでは,噴 火を観察しながら夕食をとることができた.日が沈み暗 くなるにつれ,噴火の際に赤い火柱が立ち上る様子が見 え始め,それらが見えるたびに歓声と拍手が起こった. 実習 4 日目は観測機器等を持って山頂付近の Fossetta まで登り,地震計と空振計を設置した(Figs. 4, 5).標高 差約 800 m を 3 時間で登る行程は日頃運動をしている私 にとっては何も感じないものであったが,大変そうにし ている人は少なくなく,励まし合う様子が見られた.山 頂手前で,各自持参した昼食を食べた後,学生 4 名とス タッフ 1 名の班,計 5 班に分かれて地震計・空振計の設 置のため Fossetta に向かった.設置場所に向かう途中, 山頂の Pizzo を通過したが,そこでは噴火の様子を数 100 m の距離で斜め上から眺めることができ,誰もが足 を止めて噴火に見入っていた.Fossetta に着くとスタッ フからの指導を受けながら学生たちで機材を設置した. 観測機器の動作確認のためパソコン画面にデータを表示 し,噴火時の地震計・空振計の波形データを,リアルタ イムで見ることができた.下山途中にはフィレンツェ大 学の観測所に立ち寄り,全員で登山後のビールを楽しん だ. 実習 5 日目,日の入り前後の時間帯にモーターボート に乗ってストロンボリ島を一周した(Fig. 6).海上から山 体崩壊やマグマ水蒸気噴火の形跡を観察し,Francalanci 氏と Landi 氏から解説を受けた.また,島の北西では津 波ブイを間近に見ることができ,Ripepe 氏による津波監
視システムについての説明があった.そこでは海から噴 火を眺めることができ,夕暮れ時に薄く赤みを帯びた火 柱を見ることができた.ボートの上では飽き足らず,水 着を着て海に飛び込み,噴火を眺める学生までいた. 実習 6 日目,山頂周辺で火山ガス,熱観測の実習,地 震計・空振計の撤収,夜の噴火観察を行った(Figs. 7, 8). はじめに,山頂付近で火山ガス・熱観測の実習を行った. スタッフの指導を受けながら Multi-GAS(火山ガスに含 まれる化学種の濃度を測定する装置)や UV カメラ(SO2 の濃度を測定する装置)と赤外線カメラを使用し,周辺 の火山ガス濃度や噴煙の温度分布などを観測した.次 に,実習 4 日目に設置した地震計・空振計を撤収した. その後,夕暮れから日没後にかけて山頂の Pizzo で噴火 を観察した.轟音とともにマグマのしぶきが数 100 m の 高さまで上昇する様子や,噴火口によって噴火様式が異 なる様子などを観察した.さらに,スタッフが設置した Fig. 4. Group photo taken after climbing to the Pizzo
(4th day).
Fig. 5. Installation of a seismometer and an infrasonic sensor at Fossetta (4th day).
Fig. 6. Boat trip around Stromboli Island,for observation of the geomorphic futures of the island from the sea (5th day).
Fig. 7. Real-time monitoring of earthquakes,infrasound, SO2,and thermal activities at the summit,which starts
from the evening (6th day).
Fig. 8. A Strombolian eruption observed from Pizzo at night (6th day).
4.グループワーク International School を締め括る総合的な実習として, (1)観測データに基づく火山活動評価,(2)リスクマネ ジメントに関するロールプレイの 2 つのグループ演習を 行った. (1)の火山活動評価演習では,過去のある期間の実際 の観測データが班ごとに割り当てられ,それらを解析し, 火山活動報告書(Daily Report)を作成した(Fig. 9).ま ず観測データから 10 項目(地震微動の振幅,VLP の発生 頻度・振幅・発生位置, 爆発的空振の振幅,Puffing の振 幅・発生位置, 火口熱放出頻度, 地表熱流量,SO2ガス放 出量)の活動度をそれぞれ 4 段階(low,medium,high, very high)で判定し,その結果から総合的な火山活動度 を決定した.総合的な活動度の評価において,地震活動 度が high の一方で空振活動度が medium など,項目ごと に活動度が異なる場合には,違いを解釈して重視する項 目を決定しなければならない.この当然の事実は,疑似 体験とはいえ判断の責任を負う当事者となると想像以上 に厄介であった.加えて,班は多国籍のメンバーで構成 されており,この複雑な状況を英語で議論すること自体 が難しかった. (2)のリスクマネジメントのロールプレイ演習では, 班ごとに Scientist(火山学者),Decision Maker(自治体等 の意思決定者)のいずれかの役割が振り分けられ,火山 活動度評価から行政対応決定までに両者間で行われる協 議を体験した.Scientist は火山活動評価演習の際と同 様,与えられた観測データから火山活動度を判定して Decision Maker に報告し,Decision Maker は Scientist から の報告を参考に警戒レベルと住民への対応を決定した. ‘A LATE DECISION IS ALWAYS A BAD DECISION’ の 言葉とともに,危険が迫った状況での迅速な意思決定の 重要さが強調され,班内での議論の時間は短く設定され た.ロールプレイながら,厳しい指摘をぶつけあう討論 には臨場感が漂った. ストロンボリ火山では山頂火口における噴火の他,山 腹からの溶岩流出や地滑り,地滑りによる津波の発生な ど,想定されるシナリオは多岐にわたる.また,山頂火 口で噴火が活発化したならば標高の高い区域への規制を かけ,山腹において地殻変動が確認されれば地滑りと津 波に備えて海沿い区域への対応をとる等,シナリオごと に避難区域や必要な対応は大きく変化する.加えて,数 日前に見られた活動の活発化が現在は沈静化している場 合など,レベルの判定に迷う状況もあった.このように 単純ではない火山活動に対し,限られた情報と時間の中 で素早く現状を把握し,適切な決断を下すことは想像以 上に難しかった.日頃から実際に活動度評価や噴火対応 に携わる先生方の指導を受けながら,このような実践的 な演習に取り組めたことは貴重な経験であった. 海外の学生は全員が流暢に英語を話すことができ,講 義や討論において臆せず自分の意見を発していた点が印 象的であった.海外にも火山研究者を目指す優秀な学生 が多くいることを実感し,積極的な自己主張の重要性を 再認識した. (手嶌法子) 5.総 括 この International School では,開催地がストロンボリ 火山であることが最大限に生かされていた.Interna-tional School 全体を通して火山に関するあらゆる実習が 実施され,島内や山頂から噴火を観察しながら巡検や観 測を行い,多項目の観測データを解析して火山活動度を 評価し,さらに過去に起きた多様な実際の噴火事例を 使って噴火対応のロールプレイを行った.数分間隔で噴 火が発生し,多様な噴火事例の多項目データを豊富に持 つというストロンボリだからこそ可能な,貴重な実習を 受けることができた.
Fig. 9. Group work for data processing for interpretation of eruptive activities and report preparation (7th day).
最後に,International School の 2 週間後,2019 年 7 月 3 日に発生したストロンボリ観測史上最大規模の Parox-ysm について少し述べる.夕方,登山を始める時間帯に 起こった噴火であり,不幸にも登山中の観光客一名の命 が奪われてしまった.この噴火によって山頂はもちろ ん,山腹の植生地帯の一部までも焼き払われており,も しも観光客が山頂に溢れる夜に噴火していたならば,被 害は比較にならなかっただろう.講義では Paroxysm の 前 に 様々 な 兆 候 が 見 ら れ る と さ れ て い た.し か し Paroxysm 発生後に観測データを確認したところ,噴火の 兆候としてその日のうちに解釈・公表できた現象は,噴 火 8 分前から始まる山体膨張と,噴火 2 分前から始まる 微動レベルの増大の 2 つだけであった1.噴火直後は少 数の観測点しか稼働していなかったが,フィレンツェ大 学の精力的な活動により,現在は観測網がかなり復旧し ている.噴火後の活動推移に関しても,山頂から溶岩が 溢れて流れ出すだけでなく,微動レベルが大きく日変動 し,同年 8 月 28 日と 29 日に再び Paroxysm を起こすと いう,これまでにない活動推移を辿っている.講義と実 習で最新の知見に触れたものの,火山現象の詳しい理解 にはまだ遠いことを痛感させられた. 多岐に渡る火山学の諸分野に関する講義と実習,行政 対応をも取り入れた高い臨場感のロールプレイ,その後 の Paroxysm も合わせて,International School によって火 山全般の理解を深め,多様な背景を持つ様々な研究者と 触れ合い,そして火山学の面白さ,複雑さ,難しさを経 験することが出来た.このような取り組みが今後も続 き,火山研究を志す学生に貴重な経験を与えていくこと を祈る. (山河和也) 謝 辞 International School 参加にあたり次世代火山研究者育 成プログラムに支援していただきました.東北大学の西 村太志氏,北海道大学の青山 裕氏,東京大学の森 俊哉 氏には海外実習を共にし,本稿の執筆でも写真提供や貴 重なご意見をいただくなど大変お世話になりました.杉 村俊輔氏には本稿の執筆に際し貴重なご意見をいただき ました.記して感謝いたします.最後に我々に貴重な経 験をする機会を与えてくださった Ripepe 氏をはじめと する International School の運営陣及び講師陣に深く感謝 申し上げます.また,担当編集委員の三輪学央氏と宮縁 育夫氏には投稿にあたり有益なご助言をいただき,心よ り感謝申し上げます. 引 用 文 献 Bertolaso,G.,Bernardinis,B.,Bosi,V.,Cardaci,C.,Ciolli,S., Colozza,R.,Cristiani,C.,Mangione,D.,Ricciardi,A., Rosi,M.,Scalzo,A. and Soddu,P. (2009) Civil protection preparedness and response to the 2007 eruptive crisis of Stromboli volcano,Italy. J. Volcanol. Geotherm. Res., 182, 269-277.
Bragagni,A.,Avanzinelli,R.,Freymuth,H. and Francalanci, L. (2014) Recycling of crystal mush-derived melts and short magma residence times revealed by U-series disequi-libria at Stromboli volcano. Earth Planet. Sci. Lett., 404, 206-219.
Mori,T. and Burton,M. (2009) Quanification of the gas mass emitted during single explosions on Stromboli with the SO2
imaging camera. J. Volcanol. Geotherm. Res., 188,395-400.
Ripepe,M. and Harris,A. J. (2008) Dynamics of the 5 April 2003 explosive paroxysm observed at Stromboli by a near-vent thermal,seismic and infrasonic array. Geophys.
Res. Lett., 35 (7),L07306.
Ulivieri,G.,Ripepe,M. and Marchetti,E. (2013) Infrasound reveals transition to oscillatory discharge regime during lava fountaining: Implication for early warning. Geophys.
Res. Lett., 40,3008-3013.
(編集担当 宮縁育夫)
1フィレンツェ大学地球物理学研究室ホームページ