左派 右派 左翼党 社会党 政治運動 En Mar che ! 共和党 国民戦線 ジャン・リュック メランション ブノワ アモン エマニュエル マクロン フランソワ フィヨン マリーヌ ルペン 創設者 党首 前国民 教育相 前経済・産業 デジタル相 元首相 党首 欧州は政治の季節に入りました。3月15日には オランダで下院・総選挙が開かれるほか、4月 23日および5月7日にフランス大統領選挙(第一 回および決選投票)、9月24日にはドイツ連邦 議会総選挙が行われます。昨年のBrexit(英国 のEU離脱)や米国でのトランプ大統領の誕生な どにみる世界的な右傾化と移民排斥の動きは、 欧州でもポピュリズムを勢いづかせ、EU離脱を 訴える極右政党を優位に立たせています。 オ ラ ン ダ総 選 挙で は 与党 の 自由 民 主国 民党 (VVD)と労働党(PvdA)が大幅に議席を失い、 代わって自由党(PVV)が躍進する見込みです。 PVVを率いるウィルダース党首はBrexitとトラ ンプ大統領誕生を称賛し、オランダのEU離脱や 反イスラムを掲げています。下院150議席のう ち、PVVは現有の15議席から倍増の30近くまで 議席を伸ばすと予想されています。 ただ、他の政党がPVVとの連立を拒否しており、 政権樹立は困難とみられます。第一次ルッテ政 権と同様、他の政党が連立与党を樹立しつつ、 PVVに閣外協力を求めるという落としどころに なるのではないでしょうか。 ただそれでもオランダでの右派の躍進は、同志 と も い える フ ラン ス の極 右 政党 ・国民 戦線 (FN)のルペン党首や、ドイツの「ドイツのた めの選択肢(AfD)」のペトリ党首を勢いづか せるでしょう。この3党は1月21日にドイツで合 同の政治集会を開催し、欧州の右派の結束を呼 びかけ、トランプ氏に続けと気勢を上げたばか りです。 フランスを見れば、大統領選挙の第一回投票が 約8週間後に迫る中、主に5人の候補による選挙 戦となっています(図表1)。 1 ソニーフィナンシャルホールディングス 金融市場調査部 エコノミスト
渡辺 浩志
2017
年2
月22
日No.008フランス大統領選挙:ルペン氏勝利でもEU離脱はない?
仏大統領選まであと8週間。敵失もあり極右政党・ルペン氏の支持率が上昇し、金融市場は動揺 移民への国民の不満は高いが、ECBの緩和的な金融政策や割安な通貨ユーロのメリットは絶大 EU離脱なら金利上昇・新フラン高でポピュリスト政治家には痛手。EU残留なら円高も一過性か 高まる欧州の政治リスク ソニーフィナンシャルホールディングス調査レポート ルペン氏当選も絵空事ではない 図表1 フランス大統領選:候補者の顔ぶれ 出所: SonyFH2 図表3 ドイツとフランスの国債利回り格差 出所: Bloomberg, SonyFH 図表2 フランス大統領選:各候補の当選確率 出所: Oddschecker, SonyFH 選挙戦では、当初優勢と思われていた共和党の フィヨン氏が汚職疑惑で劣勢に回り、漁夫の利 を得た政治運動・En Marche!(前進!)のマク ロン氏も不倫疑惑から支持率は一時の勢いを 失っています。さらに、共闘を模索していた左 翼党のメランション氏と社会党のアモン氏の交 渉が決裂。こうした敵失もある中、フランス国 民 に 耳 触 り の 良 い 政 策 を 並 べ つ つ EU 離 脱 (Frexit)を唱える国民戦線のルペン氏の当選 が絵空事ではない状況になっています。世論調 査によっては第一回投票における支持率でルペ ン氏が筆頭に立っています。また、ブックメー カーの賭け率から算出した当選確率でもルペン 氏は着実に上昇してきています(図表2)。 もっとも、決選投票では左派候補支持者が中道 候補に鞍替えするとみられ、極右のルペン氏が 勝利する可能性は極めて低いとの見方が一般的 です。それでも万が一ルペン氏が当選すれば、 次に問題となるのは公約であるEU離脱の国民投 票が実際に行えるのかという点です。これにつ いては「可能性は極めて低いがゼロではない」 と言えます。EU離脱については、何種類かある 国民投票のうち「憲法改正の国民投票」を行う ことが適当ですが、この発議は議会上下両院の 決議承認が必要なことからほぼ不可能でしょう。 ただし、大統領主導で発議できる「立法に関す る国民投票」は実施可能です。かつてこの方法 でドゴール大統領(1962年当時)が憲法改正に 漕ぎ着けた経緯があります。なお、米国議会と 異なり、フランス議会は国家反逆罪を除いて大 統領への弾劾裁判権を持ちません。そのためル ペン氏が一度政権を握れば、Frexitが実現して しまうかもしれません。さらに、EU拠出金の約 1割を負担する英国がEU離脱を決めている中、 約16%を負担するフランスが離脱することにな れば、EUの運営が立ち行かなくなるか、そこま で行かずとも残された国の負担が跳ね上がり、 その不満からEU離脱の連鎖が起こりかねません。 金融市場ではこうした欧州の政治不安を背景に 安全資産需要が高まり、ドイツ国債が買われフ ランスなどの国債が売られる展開となっていま す(ドイツ国債利回りが低下し、フランス等の 国債利回りが上昇)。独仏国債利回り格差の拡 大は、もはやリーマン・ショック時を上回るも のとなっています(図表3)。こうした不安は米 国やアジア諸国の株式市場にも波及し、リスク 回避的な取引が一段と広がりって円高・日本株 安の可能性を高めることになるでしょう。 0 10 20 30 40 50 60
20-Jan 30-Jan 9-Feb 19-Feb 1-Mar マクロン ルペン フィヨン アモン メランション (%) (月日) フィヨン氏 汚職疑惑 マクロン氏 不倫疑惑 アモン・メランション氏 左派連合決裂 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 (仏金利-独金利、Bps) (年) リーマン・ショック 欧州債務危機 Brexit トランプ大統領誕生 欧州の右傾化
3 市場では仮にルペン氏が大統領に当選したとして も、EU離脱はないとの見方が広がっています。 多くは上述の通り、国民投票の実施が技術的に困 難との見方です。また一部には、EU発足を主導 したフランスがそれを反故にするはずがない、と いう見方もありますが、説得力に欠けます。やは り、焦点は昨年6月にEU離脱を決断した英国と同 様に「移民に対する国民感情」と「EU離脱に伴 う経済的な損失」のバランスにあると思われます。 まず、「国民感情」についてです。欧州で最初に EU離脱の機運が高まったギリシャ、そして現在 のオランダやフランスに共通しているのは、移民 の多さと失業率の高さです。移民が国内の雇用を 奪い、国民を苦しめているという考えが根底にあ ると思われます。そこで、移民人口比率と失業率 を合わせた「移民ミザリー指数」を試算してみま した。これを見てみると、確かにこの数字が高い 国ほど移民への反感が強く、EU離脱を訴える右 派政党が台頭しやすいと思われます(図表4)。 ただ、フランスの移民ミザリー指数が英国をはじ め他国と比べて際立って高いかといえば、そうで もありません。 では、「経済損失」の方はどうでしょうか。フラ ンスがEUから離脱した場合の損失は、英国のそ れと共通するところが多いと思われます。たとえ ば、(1)EU市場への自由なアクセスができずEU 域内向け輸出が減少すること、(2)対仏直接投資 や移民の減少が長期的な経済成長を阻害すること、 (3)欧州の金融機関が欧州域内で自由に業務を行 える「パスポート制度」を失うこと、などが挙げ られます。 ただ、これら以上に深刻なのは、フランスがECB の緩和的な金融政策(低金利やフランス国債の購 入)から外れ、通貨ユーロも使えなくなることで しょう。よくドイツは経済実態に比べて緩和的な 金融政策の下で超割安なユーロを使って輸出を伸 ばし、ボロ儲けしていると言われますが、フラン スも似たような立場にあるのです。それを端的に 表すのは、欧州各国の経済実態に照らした適正金 利と実際のECB政策金利との乖離です。ここで各 国にとっての適正金利はテーラー・ルール金利で 見ることができます。これは各国の潜在成長率と 物価、雇用情勢から適正金利を導出するモデルで す。それを推計し描いたのが図表5です。 ルペン氏勝利でもFrexitはない? 図表4 欧州の「移民ミザリー指数」 注: NAIRUはインフレ非加速的失業率。完全雇用状態の自然失業率とほぼ同義 出所: Bloomberg, SonyFH 図表5 ECB政策金利とテーラー・ルールに基づく各国適正金利 出所: Bloomberg, SonyFH -4 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 ギ リ シ ャ オ ラ ン ダ フ ラ ン ス イ タ リ ア ベ ル ギ ー ス ぺ イ ン 英国 ド イ ツ ポ ル ト ガ ル ア イ ル ラ ン ド 失業率-NAIRU ユーロ圏外からの移民人口比率 移民ミザリー指数 (移民ミザリー指数、%pt) -21 -18 -15 -12 -9 -6 -3 0 3 6 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 ECB政策金利 (%) (年) ドイツ アイルランド フランス オランダ ポルトガル イタリア スペイン キプロス ギリシャ
4 図表5の通り、欧州域内では各国で経済情勢がま ちまちなため、ECBの政策金利は各国事情の平 均的な部分を捉えていながらも、実態的にはど の国にも当てはまらないものとなっています。 その結果、実際の政策金利より適正金利が上に くる国にとっては、実体経済に比べて低すぎる 政策金利が設備投資や住宅投資を刺激し、安す ぎるユーロが輸出ドライブをかけて経済を盛り 上げているといえます。すなわちドイツや、近 年劇的な景気回復を遂げたアイルランド、そし てフランスにとっては、ECBの傘下に安住する ことで絶大なメリットを得られるといえます。 ECBの傘下になく割安なユーロのメリットを受 けていなかった英国とは大きな違いです。 逆にフランスがEUを離脱することになれば、フ ランス中央銀行は経済実態に合わせ、ECBより 高いところに政策金利を設定する必要がありま す。また、新たに導入される「新フランス・フ ラン」は金利差の観点から対ユーロで増価する と思われ、輸出や企業収益がダメージを受けか ねません。これはフランス企業やフランスの雇 用を守ろうとするポピュリストの政治家にとっ ては致命的なダメージとなりかねません。 昨年はBrexitやトランプ氏の当選など金融市場 がテール・リスクと考えていた事態が次々と現 実のものとなりました。いきおい今年フランス でルペン氏が大統領に当選することもあり得な い話ではないでしょう。ただ、フランスではEU 離 脱 の 経 済損 失 は 英国よ り 遥 か に大 き く、 Frexitが実現する可能性は高くないと思われま す。また、そうであれば欧州の政治不安の鎮静 化も早く、為替が円高に振れたとしても長くは 続かないのではないかと思われます。 渡辺浩志 欧州不安の円高は一時的か
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