Cancer22: 51-55 (2013)
深海の海綿を宿主とするエビ類
S h r i m ps inhabiting in the d eep-sea sp o n ge h osts斉藤知己
l T o m o m i Saito 本稿では深海の海綿として,普通海綿類などは含 めずに六放海綿綱 Hexactinellida に限定した. また, エビ類はコ エ ビ下目 Caridea とオト ヒメエ ビ下目 Stenopodideaとした. アナジャ コ類には六放海綿類 に共生する種がかなりあるが, いずれも記載に要し た標本がわずかに記録される程度に希少で,共生関 係を論じ られるような生態情報 はあまり知られてい ない. よって,いつか機会が得られれば稿を起こす として今回はこれを除いた. 深海の海綿に共生する アナジャコ類につい てはKomai & Tsuchida (2012) を参照されたい. 文献を調べていくうちに,幾っかそれが本当に深 海の海綿に共生していたのかどうか,本来の生息状 況が定かではない事例に行きあた った. 例えば,私 は主 に底引き漁の混獲物として深海の海綿と エ ビを 収 集 し て き た (図 1 ). 図 1C の左中央部に六放海綿 が見えるが,そ の基部 は嬢れて いる . こ のような場 合,胃腔内に エ ビがみられたとしても,それが本当 に共生していたと 言 ってよいのだろうか. 網を引き 揚げる際,その中で採集物が採まれているうちに自 由生活性の種が破損部から入り込んでしまったとも 考えられるからだ. 定置網で とれたブリが口いっぱ いにアジやサパを頬張っていたとしても ,袋網を 絞ってい く過程でこれが入り込んだと考えら れ,捕 食したものとは判断しにくいのと同様である . ま た, 壊れた宿主から エビが外に出てしま ったケース もあるだろう . 共生していると認められた個体が本 l 高知大学総合研究センタ ー海洋生物研究教育施設 干78 1- 1164 高知県土佐市字佐町井尻 194U sa M arine Bio1ogica1 lnstitute, K ochi University 194 Inoshiri, U sa, Tosa, Kochi 78 1- 11 64, Japan
E -mai1: t-saito@ kochi-u.ac.jp
C arcinological Socie砂ofJapan
来の員数,サイズ構成を示しているかどうかも分か らないので,生態を詳しく調べるには重要な情報を 見過ごしてし まう可能性がある . ゆえに,宿主が完 全な形状で採集さ れた場合のデータは貴重である. 深海生物を採集する漁具としては,他 にドレッジな どがあるが,その場合も採集物は甲板に 引 きあげ ら れるまでに網の中で探まれ,脆い個体は破損してい ることがよくある. さて,深海の海綿に共生する エ ビ類として,コエ ビ下目では,テナガ エビ科カク レエ ビ亜科に Hamiger novaezealandiae (Borradai1e, 1916), P ericlimenes for-cipulatus Bruce, 199 1の2 種, モエ ビ不}に Paralebbeus zotheculatus Bruce & Chace, 1986, P. zy gius C hace,
1997の2 種, テッポウエビ科に B annereus anomalus Bruce, 1988, Batella praecipua, Vexillipar repandum C hace, 1988の3 種が知られる( 図 2 A). さらに, 注 意深い研究者によって,先述の理由から確証は得 ら れていないが,採集時の状況から深海の海綿への共 生が見込まれる種に,カクレエビ、亜科の M esopontonia m onodactylus Bruce, 199 1,モエヒ。科の Lebbeus sp ongiaris Komai, 2001 ,テ ッポウ エ ビ科の Batella leptocarpus Chace, 1988, B. parvimanus (Bate, 1888)の4 種があ る. カクレエ ビ亜科はご存知のように実に多くの共 生種か らなっ ているグループであるが,深海の海綿 に共生する種というのは約 600 種中の 2 種しかない. 同様にテッポウ エビ科 も多くの共生種を含む科であ るが,このうち深海の海綿からは3 種しか知られて し、なし 、 一方,オトヒメエビ下目には,オト ヒメエビ科に コエビ下目の例と同様にクリ ーナーや多くの共生種 を含む4 属 31 種が確認されるが,そのうち深海の海 綿に 共 生するのはわずかに Odontozona spongicola 日 本 甲 殻 類 学 会 物 酬'JS
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中の壊れた海綿. ヒゲナガ エヒ" H aliporoides sibogae を主要な漁獲物としていて,稀に六放海綿類が混獲 される
(Alcock & Anderson, 1899), Richardina ohtsukai Saito Globospongicola, Spong iocaris, Spongicoloides の 5 属 & Komatsu, 2009, R. parvioculata Saito & Komatsu, 27 種が深海の海綿 に共生す ることが知られている . 2009 の3 種である( 図 2 8). 最も多くの海綿共生種 すなわち , ドウケツ エ ビ科以外の分類群では,様々 を含むのが ドウケ ツエビ科で,現在,全部で 7属 39 な動物を宿主とする共生種がある 中で,深海の海綿 種 が 認 め ら れ る が, 自 由 生 活 す る Engystenopω, に 共 生 す る 種 は ご く わ ず か し か 知 ら れ て い な い -Microprosthem a を除き,Paraspongicola, Spongicola, 方, ドウケツエ ビ類はその多くが海綿の胃腔 とい う
深海の海綿を宿主とするエピ類
図2. 六放海綿に共生するエビ類. A , シンエンテァポウエビ Vexi/lipar repandum ; B, コマナコリュウジンエ
ビRichardina parviocu/a/a.
表1 . 六放海綿類に共生するエビ類. 各科 ・亜科の属 ・種数はD e Grave & Fransen (2011)によった コエビ下目
カクレエビ亜科(116属586種)
Hamiger novaezea/andiae, Peric/imenes forcipu/a/us
* Mesopon/onia monodactylus モエビ科 (37属 336種)
Para/ebbeus zo/hecu/a/us, P zygius *Lebbeus spりngzarzs
テッポウエビ科 (47属659種)
Banne陀us anoma/us, Ba/e/la praecipua, repandum
* Bate/la /ep/ocarpus,
*
B. parvimanus オトヒメエビ下目オトヒメエビ科 (4属 3 1種)
Odon/ozona spongico/a, Richardina oh/sukai, R. parviocu/ata
ドウケツエビ科 (5属 27種〕 種名を省略し,属名の後の括弧内に種数を記す.
P'araspongico/a (3), Spongico/a (9), G/obospongiω/a (2), Spongiocaris (4), Spongic%ides (9). * . 確証は得られていないが,採集時の状況から六放海綿類を宿主とすることが見込まれる種.
独特なハビタッ卜で適応放散し,その多様性を認識 は興味深い. また,特定の宿主からしか見つかって
できる好対象といえる. いない種もあれば,複数種の海綿から確認される種
もある . Spongicola のうち S. cubanicus Ortiz, G o m e z . ド ウ ケ ツ エ ビ 科 の 共 生 種 & Lalana, 1994 を除く 3 種は小卵多産でゾエアをふ では, ドウケ ツエヒ‘科エビ類の共生関係について の知見を紹介したい . ドウケツエビ類は六放海綿類 の胃腔という特殊な閉鎖環境下に, 通常,成熟した 雌雄のつがいで、すみついている. このエビにみられ る卵数と卵径の関係は,Spongicola, Paraspongicola ではほとんどが,j¥卵多産型,Globospongico/a, Spon-g iocaris, Spongicoloides は大卵少産型と, 2 欝に分か れる. それぞれの分布は,広範なものから地域に国 有なものまであり , その加入,成長,分散等の生態 出するタイプで CWillemoes-Suhm,1876),複数穫の 宿主から発見されている . 一方,G/obospongicola, Spongiocaris の4 種は大卵少産型であり,ほぼ親と 同じ形態の幼体をふ出する( 表2,3),多くは特定 の宿主からしか見つかっていないので宿主特異性が あるとしたいところであるが,そもそも見つかって いる標本自体が少ない事を考慮する必要がある. 利害 ・栄養関係からドウケツエビ類の共生関係を 定義すると,海綿がエビから受ける利益は不明であ るので, エビ のみに利のある偏利共生とみなされて
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Spongicola cubanicus Spongicola goyi Spongicola lev伊 lus Spongicol日 開, nuslus G lobospongicola spinulalus Spongiocaris hexactinellicola Spongiocaris koeleri Spongiocaris yaldw yni。
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D: D actylocalyx, E: Euplectella, P: P heronem a, R : R egadrella,
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共生が確認された. オトヒメエビ下目エビ類の主な特徴 表3. 外肢 眼 宿主特異性 卵径 ・数 鰐 式 顎脚 Tαxα I I I II 黒色素。
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大卵少産 大卵少産。
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? 小卵多産 小卵多産 大卵少産 小卵多産/ 大卵少産 大卵少産 大卵少産 [1 9+7e] [1 9+7e] [1 9+7e] [19+7e] [1 9+7e] 19+7e] [1 9+7e] 19+3e) I/r 11ーr
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ー Stenopodidea オトヒメエビ下目 Stenopodidae オトヒメエビ科 Odonlozona spongicola RichardinaSpo叩n屯g lω
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lCOOωIi耐e ドウ ケツエビ干科ヰ Engystenopus M icroprosthema Paraspongicola G lobospong icola Spongicola Spongiocaris Spongicoloides かみられる( 斉藤,2008). また,十脚甲殻類の二 次性徴として,朝倉 (1999) は交尾前ガードを行う 種において雄のはさみ脚の発達が雌のそれよりも著 しいことを報告しているが,対照的にヒメドウケツ エビSpongicolajaponicus K u b o, 1942では最大のはさ み脚である第3 歩脚の相対成長が雄で一定なのに対 し,雌で成熟後から低下するという傾向を示した. 同様の傾向が一部の共生種にもみられる (Johnson & Liang, 1966; Saito, 2002). 両者の違いは,雄が雌 を獲得するプロ セスにお ける雄間闘争の有無あるい はその程度によるものであろう . 雌はほぼ年中,全 個体が抱卵しており ,卵への投資が大きい. これと0 :
認められる ,ー. 認められない, r.退化的, e:副肢. いる . 一方,エビの受ける利として は,第一に捕食 者からの攻撃を免れるすみかを得ていることが挙げ られる. さらに,浅海 の普通海綿類の 例 CHendler, 1984 ; Braekman & Daloze, 1986) から考える と,こ のすみかには環境水の浄化, 抗菌等に関わる何らか の機能があるのではな いだ ろうか. ドウケツ エビ類 では第3 顎脚や第 l歩脚の剛毛などの体の身づくろ いに関する器官 に退化傾向がみられる. 外部と比べ て海綿の胃腔内 は清浄な 環境と考えられ,そのよう な器官が不要となったのか. そ の他にも第2・
3 顎 脚の外肢,鯨,体各部の練の退化など,宿主との共 生関係から派生したと考えられる顕著な形態が幾つ Cancer 22 (2013)54
引き換えに幾つかの器官が退化していると考えられ る. 成熟後に棲小化していくはさみ脚はその一つで あろう. 雄のはさみ脚の成長はぺア雌のそれをわず かに上回ってサイズ 的優位 をかろうじて保ってい る. 宿 主 内 に 共 生 し て い る 事 で 他 の 雄 の 進 入 が 無 く,雄間闘争とも無縁にみえる. ドウケツエビ類は宿主への依存性の高い生活様式 を示し,宿主の必要性からその共生関係を定義すれ ば,絶対共生とみなされよう . . お わ り に オ 卜ヒ メエビ科の深海の海綿に共生する種もぺア ですみついているようだが情報は不足している 発 生 様 式 は 大 卵 少 産 型 で あ る が CSaito & Komatsu,
2009),顎脚外肢や鯛などの形態にドウケツエビ類 にみられたような傾向はない( 表3). 海綿共生種といえば,テ ッポウエビ科のツノテッ ポ ウ エ ビ 類 で 最 大300個 体 に お よ ぶ 血 縁 関 係 の グ ループが共生し,真社会性が発達していることが有 名である CD u百
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,1996). Westinga&
H o eりes (1981) は浅海の普通海綿の一種に共生する生物の規模,数 量が増大した一因として,海綿が一次生産の高い浅 海域で大型化するとともに内部の水溝も複雑化した ことを挙げている . ドウケツエビ類では直接発生す る種も多く,血縁関係個体が同居する機会を有する という点では社会性が発達する素地はあるのだが, 現在のところそのような報告はない. 深海では一次 生産が低くて大型の宿主海綿も存在しにくいことか ら,共生個体もペアを中心とした小規模のものしか 発達しなかったのではないだろうか. 深海の海綿を宿主とするエビ類は多様な生態,形 態,行動,分布,進化を観察できる対象生物といえ るが,いずれもが希少な種ば、かりでなかなか標本を 得にくい. しかし,今後は深海探査機などを利用し た,共生が確実と見なされる事例が増えるだろうか ら,分類学的研究のさらなる進展を基軸として,各 種の生活様式や宿主選択性等も明らかにされていく だろう. また,それにともなって宿主と共生生物と の種間関係、や進化の過程が解明され,共生現象への 理解が深まることを期待したい. 深海の海綿を宿主とするエピ類園 語 辞
本研究の実施には,財団法人名古屋みなと振興財 団名古屋港水族館,無脊椎動物研 究所,成茂科学基 金,学術振興会奨励研究の援助を受けた. 大阪工業 大学の三橋雅子氏,千葉県立中央博物館分館海の博 物館の奥野淳見氏,千葉県立中央博物館の駒井智幸 氏には貴重な情報を提供していただいた. この場を 借りてお礼を申し上げます. 文 献 朝倉彰, 1999. 十脚甲殻類の配偶様式の類型化( 予 察) . 海洋と生物, 21・516-521.Braekman, J. C ., & Daloze, D., 1986. Chemical defence in sponges. Pure and Applied C hemis甘y,58(3): 357-364
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