Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
高 齢 社 会
に
お け る デ ザ
イ
ン の
橋 渡 し
デ ザイ ンと人 間工学
Mediation
of
Desi
n
in
theAdvanced
A
e
Socie
上野 義雪 千 葉工業 大 学 はじめに 日本の社 会は、 高 齢 化 社 会に突入 し た といわれて いる が、 その実 態 をみ ると高 齢化で はな く
、
もは や 高 齢 社 会に突入 している。最 近
、
「高齢 社会
に より交通 渋 滞 が激 増 した」とい うと、 ま さ か と 思 われるか も知 れ ない が、 歩 道 な ど の通路におい て は まさ しくそ の通 りで あ る。 東 京駅 の地 下コ ン コー
ス な どで は、
お年 寄 りを見 か け るこ とが 多 く、
お 年寄りが 歩い て いる と、
その先を追 い 越し て 行けないの で あ る。 無理 して追い越そうとす る と、
お年 寄 りの 肩や 腕、 手 荷 物 など に自分の身 体 を ぶっ けないと 追い越せ な い。電 車の 中でお 年 寄 りの 数 を 数えてびっ
く
りす るこ とがある。
や が て は、
シルバー
シー
トをな くして し まうのか、
逆 に全席 をシルバー
シー
トにしな け れ ば な らないの か、
今後 は、
同様な ケー
スが多 く生 じて くるであ ろ う。広 義の意 味で社
会
環境を高 齢者に対応 させ る場 合、 環 境 整備やデザ イ ン に携わる側の責 務は極めて重 要 にな る。 デザ インに おける 人間工 学の意 味人 間工学は
、
分 野 に よっ て解釈の仕 方が異な る が、 概ね一
人 間の 能 力と限 界 を 明ら か にし、 物や環 境 を その 能 力 や 限界 内にお さ める一
と考え てよい。 簡単 に定 義 する な らば、
小原二 郎 氏の 解 釈 する1
使い勝 手の科 学」である。 人 間工 学は本 来、
便 利さを 追 求 することで はな く、
使い勝 手の追求が役 割となる。 私の小 学生の頃は、
筆 記用 具 は鉛 筆であっ た が、
そ の後シヤー
プペ ン シル や ボー
ルペ ンなど、 便 利 な 筆 記 用具が 生 ま れ た が、 日頃使っ て いるこれ らの 筆記 用 具は使いやすいかとい う と、
必ず し も そ うでは な い。 こ の様に筆記 用 で は、書
き やすさの追求が 重要 に な る。 高 齢 者 社 会において も同様で、
まずは安全 性の 確Ueno
Yoshiyuki
Chiba lnstitute of Tech冂elogy
保
、
次に使い やすさ の 追求になる。 使い やすさ の追 求で重 要 なこと は、
設 計 者が使用者の ニー
ズをいか に捉え るか ということ で、
両 者の 問において 物 や 環 境に対す る考
え方に ギャ ップが あっ ては な ら ない。 こ の谷 間 を うまく埋めるもの が、 人間工学である。 高 齢 者に関 する資 料数年 前
、
あ る資格 試 験の 更 新セ ミナー
におい て、
高 齢 者をテー
マ に話を す る機会
が あっ た,, 仕 事上、
高 齢 者に関する資料 を 収 集しておい たの で、
これらを 基に資 料 集 をつ く り、 配布 しk
,,セ ミナー
終了後、 受 講者の感 想 を 聞いたところ、
これ 程資 料のあ るこ と を 知 ら ず、
これ らの 資 料を参 考に、
設計 を す るこ と の 難 し さを痛 感し た ということであるt
; 現 在、
高 齢 者 対 応の製 品が多 くみ られるよ うに なっ たが、
設 計 者や企 業は・
体 何を考え てい るの か、
はなは だ疑 問である。 こ れ らの原 因の一
つ には、
教 育の問題が考え られ る。 教 育とは学 校のみ な らず、 企 業 内の教 育 も含 ま れ る。
私が大 学で 担 当 す る 科 目では、
通常入手 しに くい資 料を 配布 し、
説明を す ることに して い る. 学 生 か ら は、
極めて評 判が 悪い。 資 料が.
多す ぎる とい うの である。 要する に、 教 育機関 に おいて は、
現 在の カ リ キユ ラ ムが社会
の 変化に対応で きて い ない こ と と、
企業 では、
勉強不足である こと が、
高齢者に関する資 料 の存 在 を 知 らない原 因 をつ くっ て しま うの で はない か と も考え ら れ る。
高 齢 者の特 性 高 齢 社 会におい て、 環境 整 備 を 貝 体 的にす すめ る 上で重 要 なことは、
高齢 者の特 性 を総 合 的に、
かつ 正 しく
理解す るこ とであ る。 例 え ば、
建築的に高齢者を 配 慮 する場 合、
手摺 り を 用 意し たり、
車 椅 子で生活で きる ように室 内のス ペー
スを 広 く してお けば よい という、 矩 絡 的 な 判 断 が成さ れ る 場合が多い、
,
これ は、
高齢 者につ いて少6SPECIAL ISSUE OF JSSD Vol
.
4 No.
4 1997 デ ザ イ ン学 研 究 特 纂 号Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
ない知識や情 報で配 慮 を して し まうこ とが原 因と考 え られ る
。
高齢 者の特 性には
、
視 覚、
聴覚、
嗅覚、
味覚、
触覚
な ど五感の他、 医 学・
解剖学、 身 体 特 性や動 作 特性、 心理 特 性な ど多 くが あ り、 これ らを総合 的に理 解し ておく必要がある。 まず 問 題になるのは、
高 齢 者 とは何 を 意 味 する か というこ とである。
国 連の 定 義で は、
65
歳以上 を 指 して い る。 現状で は、 高 齢 者の Il−
1に健 康 高齢
者 も多 く存 在して い るため、 年 齢で分 け るのは、 便宜 上で あ り、 こ の物 差し に他の物 差しを 加え てこそ、 物や 環境 整備に対応 させ るこ と がで き る は ず で あ る。 五 感にお け る特 性 人 間 が 日常生 活 を行 う上で、
外 部か ら受容す る 刺 激 や 情報のう ち、8
〜
9
割は、 視 覚 情 報によ り視 覚 す るといわれてお り、
視 覚 機 能の低 下 は、
牛活 トの不 便 さ を 大 きくする。 高 齢 者の視 覚 特 性は、 視 力の低 下 をは じめ、 近点 距離の増 大、 黄 色 系の識 別 能 力 低 下な ど が あげられ る。 近 点 距離と は、
文字な どを、
どの 程度近 くで読み とれる か、 そ の距 離 を 意 味 し、 こ の距 離が33cm
以上 になると老 視 という。 遠く
の 物や 近く
の物にピン ト を 合わ せ難 くな り、暗
いと見えない、 明 るす ぎては ま ぶ し さ を 感 じる、色 を 十 分に識別できないな ど、
視 覚 情 報の需 要 性に相 反 し、
目の衰 えは、
か な り大 き いD聴覚で は
、
大 き な音でないと聞こえ ない、
高音 域 が聞 き取 り難 しくな る など があ げ られ、 非 常ベ ルや 車の クラクショ ン、
家電製 品の作 動 終了時や異
常 時 の シグナル音な ど、
生 死に関 わ る 場 合 も あ る。嗅
覚
では、 臭いが分か りにく くな るため、 物の焦 げて い る 臭いが分か らず、
火 災の犠牲 者になること もある。 食 事は、 味 覚と嗅 覚の 両者に よ り味わいを 知 覚 するので、美味
し さ が分か りにくく
な るこ とも あげられる。 味覚と物との関わ りは少ない。痴 呆症 な どの 場合、
常識では考え られ ない 物 を口 にする 場合が あ る。
こ の対応 として、
ロ にし た ら 吐 き出す ような味を、
予 め物に付 加さ せることも考 え られ る。 触 覚には、
圧点、
痛 点、
温 点、
冷点 な どの皮 膚感覚 が あり、
何 れの 感覚機 能 も 低 ドする。 熱い物を 持 っ て も熱い とは感 じず、
コ タツの iliで低 温 やけどを し て も感 じな い な ど、
触 覚に対 し て具 体 的に 配慮 をさ れて いない場 合が多い のが 実情であ る,
、
寝た き りの 場合、 褥そ う を生 じて も分か ら ないの もこ の一
例で ある。 医 学 的に は、40
歳以 上 が高齢 者で、
これは、
内 臓や各 器 官 など、
身 体の多 くに つ い て いえる ことで、
2G
歳 前 後か ら確 実にこれらの機 能は低 ドして いる。 高齢
にな る と疾 病率が高く
な り、
菌に対 す る抵抗 力 も低 下 する。 身 体や動 作 特 性では、 筋 力や発 揮 力の低 ド、 関節 が曲が りにくく
な る、動
作の敏しょ う性低 ド、
L
体 の前 傾 姿 勢、身
長の 縮小 な ど が あげられ、
動作に時 聞を 要し、
ぎこち ない動きにな る,
、
物 を掴みに くく な り、 つ まず きやす くなる ため、 安・
令性に刔 する配 慮が必要 に な る、
心 理的には、 もの 覚え が不 得意、
新しい ことに馴 染み難 し い、 判 断に多 くの時 間 を 要するな ど、 視 覚 や操 作に関 係 する物の設 計には、
卜分な配慮 が 必要 にな る。特に リモコ ンな どの ように1
ボ タン多 機 能」 は、 操 作 を 複 雑に し操 作 時 問が長 くな り、 誤操 作 を 生 むことにな る。 最 近の 電 気 製 品の 多 くは、 ボ タンを 押し たり回し て操 作 する方 向か ら、
ボタン に軽 く触 れる方 向に変 わ りつ つ ある。
タ ッチ式画 面 で切符 を購人する新型 の券 売 機よ りも、
従来の ボタン式 券 売 機の方に旅行 者が群が る実 態を 黙認 する わけにはいか ない。 こ の 様 な操 作に関 しては、 「ポピュ レー
ショ ン・
ステレオ タ イプー
の応用が重要な 意 味をもつ.
,
ま と め 高 齢 者に対 応 する環 境 や 物の設 計には、 高齢 者の 特 性 を 十 分に明らか にし、
高 齢 者の層 を 設 定 するこ とが、
手始めの作 業に な る。 しか し、
世の中に は高 齢 者以 外に、 幼児や子 供、身
障 者、
妊姉
な ど、
不 特定多 数の人が使 用 する場 合に は、 これらの人の特 性 を も 考慮 して、
総合 的な 立 場か ら設計条 件 を整理 してお く必 要 が あ る。
普段 か ら高 齢 者につ いて よく観 察 する 習慣 をつ け ること が、 意 外と ヒン トになる。
デザ イン学 研 究特集号 SPECIAL ISSUEOF JSSD VoF