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被災前の世帯の社会的脆弱性がすまいの再建に与える影響

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 8 かに,地域の新たな防災資源として,民間施設の駐車場を活用 することに着目し,その可能性を名古屋市を事例として量的, 質的で検討した.本研究で得られた結果を以下に述べる.  ① 駐車場を活用した収容可能キャパシティは人 ~人で,津波を考慮すると人~人で ある.全店舗利用することを前提にすると,~,津 波を考慮すると~の災害対応力の向上することがで きる.また,パチンコヶ所当たりの平均キャパシティは 約人前後で,指定避難所の収容人数の平均人より 多く収容でき,まとまった避難空間ができることで,一定 規模以上のキャパシティを増やすことができると言える. これにより,災害の規模に応じて,柔軟かつ,適切な災害 対応が可能になると考えられ,指定避難所の需要を減らし劣 悪な避難所の環境改善を図れることも考えられる.また,密 の劣悪な避難所環境を改善することが可能になり,&29,'や インフルエンザ等の感染症の拡散を防げることも考えられる. ②パチンコ駐車場を活用することによって,車中泊の 避難をすると,家族と一緒に,プライバシーもある避難 生活環境を提供することができると考えられる. ③パチンコ店にはコミュニティ避難拠点として有効な サービス機能を持つ店舗が全体の%であり,指定避難 所にはできない避難生活支援ができると考えられる. このようなサービス施設により,車中泊避難の大きなリ スクであるエコノミークラス症候群に対する緩和策になり 得ると考えられる.なお,エコノミークラス症候群は同じ 姿勢で長時間,座っていることが一番大きな原因であり, 定期的に体を動かすことにより,防ぐことが可能である. パチンコ店が持っているサービス機能の利用と連携するこ とで十分対応できると考えられる.またパチンコの規模に 応じてサービス施設が多く,規模によってコミュニティ避 難拠点の必要な機能を分け,対応することも考えられる. 6.終わりに 本研究で,パチンコ店は量的に相当な避難収容キャパシ ティを増やすことができる上,避難生活支援に対しても, 質のいい環境を提供することができるという結果となった. 一方,課題としては,指定避難所のように運営体制が整わ ないので,トラブルが発生した場合対処が難しいという問 題がある.また,地震の後,最低限の避難生活のためのイ ンフラ供給ができるかどうかの問題等がある.防災計画上, 新たに位置づけた車中泊駐車場に付随する建築物の耐震性 とライフライン機能確保を官民連携で進める必要がある. 本研究で得られた定量的分析結果の知見と課題を踏ま えて,今後の研究としては,まず,*,6を用いてパチンコ の立地と周辺市街地との連携性等,空間分析を行い,空 間的立地の特性を把握する予定である.また,活用可能 性の実現性を高めるため,パチンコ店関係者にヒアリン グ調査を実施し,防災意識や地域社会貢献の意識などを 把握した上で,総合的にパチンコ店の駐車場のコミュニ ティ避難拠点としての活用可能性を検討する予定である.   謝辞  本研究を進めるにあたり,建物や土地利用に関する貴重なデータを提 供していただくと同時に内容に関して協力と貴重な意見をいただいた名 古屋市防災危機管理局危機管理企画室の方々に深く感謝いたします.ま たパチンコ業界の防災備蓄運動や緊急時の駐車場解放等災害時の社会貢 献活動について各事例等紹介していただいた特定非営利活動法人日本ソ フトインフラ研究センターの関係者の方々に深く感謝致します.   参考文献  1) 国際大学グローバルコミュニケーションセンター:災害時の二次 被害を「現場起点」で改善する―近年における災害対応の実態・ 課題と情報共有での改善―,2018,http://www.innovation-nippon.jp/rep orts/2018Disaster_Report.pdf(2020.4.9 閲覧) 2) 日本弁護士連合会:災害関連死の事例の集積,分析,公表を求め る意見書,2018.8.23.,https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/repo rt/data/2018/opinion_180823_3.pdf(2020.4.9 閲覧) 3) 震災関連死に関する検討会:東日本大震災における震災関連死に 関する報告,https://www.reconstruction.go.jp/topics/240821_higashinihond aishinsainiokerushinsaikanrenshinikansuruhoukoku.pdf(2020.4.9 閲覧) 4) 後藤 健一, 岡本 文雄:熊本地震避難所における感染性胃腸炎流行と 感染対策, 感染症学雑誌, 2017, 91 巻, 5 号, p. 790-795 5) 難民支援協会:スフィア・ハンドブック 2011年版-人道憲章と人道 対応に関する最低基準,https://www.refugee.or.jp/sphere/The_Sphere_Pr oject_Handbook_2011_J.pdf(2020.4.9 閲覧) 6) 金 栽滸, 金 池潤, 永島 佑樹, 加藤 孝明: 浦項(ポハン)地震時の災 害対応事例から見た韓国の地震災害対応の現況と特徴, 日本建築 学会技術報告集, 2018, 24 巻, 58 号, p. 1319-1324 7) 稲月 正:熊本地震における車中避難者の実態とその後の支援につ いて,第12回福岡県防災講演会,https://www.bousai.pref.fukuoka.jp/ spc/images/2016bousaikouen/4inatsuki.pdf,(2020.4.9 閲覧)

8) Webster’s Third New International Dictionary:https://www.merriam-webster.c om/dictionary/capacity(2020.8.9 閲覧) 9) 池田 鉄哉, 吉谷 純一, 寺川 陽, 洪水ハザードマップを活用した我が国 の洪水災害への適応力向上に関する一考察, 水文・水資源学会誌, 2 005, 18 巻, 5 号, p. 627-633 10) 有友 春樹, 井面 仁志, 白木 渡:災害時のレジリエントな対応力向 上のための参加型避難シミュレーションの活用, 土木学会論文集 F6(安全問題), 2015, 71巻, 2号, pp.I27-I32 11) 川端寛文:地域コミュニティを対象にした防災まちづくりマネジ メントシステムの開発に関する研究,日本建築学会計画系論文 集,2008,第73巻,第631号,pp.1899-1906 12) 国土交通省:駐車場設計・施工指針について,改正 平成6年9月2 8日,https://www.mlit.go.jp/road/sign/kijyun/pdf/19920610tyuusyajou.pdf (2020.4.12 閲覧) 13) 内閣府:指定緊急避難場所の指定に関する手引き,平成29年3月,h ttp://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/pdf/shiteitebiki.pdf(2020.8.12 閲覧) 14) 「自販機,パチンコやめちまえ」 石原都知事の発言が大反響:J-CASTニュース,2011年4月11日,https://news.livedoor.com/article/detail /5482546/(2020.8.9. 閲覧) 15) 被災地でパチンコ店が繁盛,ニュースだけでは伝わらないツイー トで伝える現地の様子:NAVERまとめ,2012年3月12日,https://m atome.naver.jp/odai/2133152293435724101?&page=1(2020.8.9. 閲覧) 16) 愛知県の防災安全局:災害対策基本法第49条の4に基づく指定緊 急避難場所(平成29年4月1日時点),https://www.pref.aichi.jp/bousai/ boukei/fuzoku/29fuzoku/29_fuzoku_09.pdf(2020.4.12 閲覧)

17) Peong Gang Park, Chang Hyup Kim, Yoon Heo, Tae Suk Kim, Chan Woo Par k, Choong-Hyo Kim:Out-of-Hospital Cohort Treatment of Coronavirus Dise ase 2019 Patients with Mild Symptoms in Korea:an Experience from a Single Community Treatment Center, J Korean Med Sci. 2020 Apr 6;35(13):e140

(原稿受付 2020.5.16) (登載決定 2020.8.29)

地域安全学会論文集

No.37, 2020.11

被災前の世帯の社会的脆弱性がすまいの再建に与える影響

Effects of pre-disaster household social vulnerability on housing recovery

川見

文紀

1

,松川

杏寧

2

,佐藤

翔輔

3

,立木

茂雄

4

Fuminori KAWAMI

1

, Anna MATSUKAWA

2

, Shosuke SATO

3

and Shigeo TATSUKI

4

1 同志社大学大学院社会学研究科・日本学術振興会特別研究員

Graduate School of Sociology, Doshisha University. 2 人と防災未来センター

Disaster Reduction and Human Renovation Institution. 3 東北大学 災害科学国際研究所

International Research Institute of Disaster Science, Tohoku University 4 同志社大学 社会学部

Department of Sociology, Doshisha University.

This study aims to investigate how pre-disaster household social vulnerability affectlong-term housing recovery after the 2011 Great East Japan Earthquake. This study used Natori City data (N=936) consisted of the 2015 Natori City Life Recovery Population Survey Data and the entire record of temporary housing residency in Natori City. The result shows that household vulnerabilities such as family size, pre-disaster job, pre-disaster home ownership, gender and their interaction terms affect speed of permanent housing recovery. Finally, the application of results to disaster case management and recovery planning is discussed.

Keywords: housing recovery, post-disaster long-term recovery, social vulnerability, survival analysis

1.はじめに

(1)研究の背景 大規模災害後の被災者の生活再建において,すまいの 再建はもっとも重要な要素の一つである.住宅はただ居 住するための建造物であるだけではなく,日々の活動の 基礎であり,住宅の再建の遅れは,他の側面の生活再建 の遅れを引き起こす(Peacock et al. 2006)1).阪神・淡路大 震災で,実際に被害を受けた被災者自身も,生活の再建 を考える上でも重要な要素として,住まいの再建を挙げ たと報告されている(立木・林 2001)2) 日本の災害施策においても,住宅の確保は被災者支援 の重要な要素として位置づけられており,大規模な災害 が発生した際には,国,行政,支援団体などが,生活再 建の起点となる避難所の開設,仮設住宅の供給や住まい の再建支援を行っている. こうした住宅再建支援を考えるうえで,東日本大震災 は,1 つの大きな転換点となった.東日本大震災では, 特に津波による被害が広域に渡ったことから,大量の住 宅需要が発生した.この大量の住宅需要に対応するため に,初めて借り上げ(みなし)仮設住宅が制度的に,かつ 大量に導入されることとなった.このように災害の状況 に合わせて,被災者のすまい再建のための支援は行われ ているものの,自立的にすまいの再建を進めていくこと ができる世帯と,なかなかすまいを再建することができ ない世帯との格差が問題となってきている. 本研究では,東日本大震災の被災地である名取市を例 に,すまい再建における格差と関連する要因について分 析を行う.具体的には,震災前の世帯の社会的属性・状 況が被災後のすまいの再建の早さに与える影響を分析す る.本研究の結論として,すまいの再建の早さは震災前 の世帯の社会的属性・状況に影響を受けていることを計 量的に示す(1) (2)理論枠組みおよび先行研究 Wisner ほか(2004)3)によれば,災害はその素因となるハ ザード(地震,台風,大雨など)によってのみ引き起こさ れるのではなく,社会の脆弱性(Vulnerability)と掛け合わ さることで被害が発生する.脆弱性は社会の中で様々な 形として現れ,階層,人種・エスニシティ,ジェンダー, 年齢,障がい,健康,識字能力,家族・世帯のあり方な どのさまざまな社会的属性と関連している(Phillips and Fordman 2010)4)Wisner ほかはこの災害におけるハザー ドと脆弱性の関係について Pressure and Release モデル (Wisner et al. 2004)3)として理論化しており,多くの災害研 究でこのモデルが援用されている.こうした脆弱性に注 目したアプローチの研究では,主にハザードが社会の脆 弱な部分を襲うことによって被害が発生する,その前後 の状況・変数に注目して分析が行われている (たとえば 近藤・葛西 2009, 松本・立木 2012 など)5)6) 脆弱性についての議論と関連して,復旧・復興に関す る研究では,発災後から長期的な復興が完遂するまでの

地域安全学会論文集

No.37, 2020.11

(2)

時間経過についても注目されてきた.古典的には,J. E. Haas などが提示した Recovery Activity モデル(Haas et al.

1977)7)では,発災からの時間経過とともに復旧・復興の 活動が質的・量的に変容していく様子を描きだしている. 日本においても,酒田大火後の生活支障の時間推移つい ての研究(中林 1998, 1999)8)9)がおこなわれ,阪神・淡路大 震災の被災者へのインタビュー調査では,被災者の生活 時間が,10 時間のべき乗ごとのフェーズの存在を明らか にしている(青野ほか 1998; 田中ほか 1999)10)11).またそれ らの研究に基づき,木村ほかは復興カレンダーという手 法を用いて,時間の経過とともに被災者の生活再建や住 宅 再 建 の 様 子 を 分 析 し て い る( 木 村 ほ か 1999, 2004, 2005)12)13)14).以上のように,国内外の災害復興の研究に おいて,時間軸が 1 つの重要な変数として分析が行われ てきた. Peacock ほか(2014)15)は,こうした時間軸を重要な変数 として位置づけた上で,脆弱性と被災者の長期的な住宅 再建と関連付けた概念的なモデルを提示している(図 1). このモデルでは,ハザード(Impact)が発生したとき,被災 前の生活状況の格差(Pre-Existing Inequality)が,脆弱性と して被害の大きさの差異を生み出し,さらに社会的な格 差を悪化させる過程を示している.このモデルにおいて 重要な点は以下の2 点である.第一に,1 時点でのすま いの再建状況,居住満足度などを分析するのではなく, すまいの再建を長期的な災害過程として分析を行う点で ある.そして2 つ目に,その復興過程を説明する変数と して,同時点の被災後の復興/生活状況ではなく,被災前 の社会的属性を用いることある.後述する本研究の目的 である被災前の属性と長期的なすまい再建との関連を分 析する上で,このモデルは有用であり,このモデルを理 論的枠組み,および仮説モデルとして応用する. 1 住宅再建過程での格差拡大の概念・仮説モデル (Peacock et al. 2014 より引用) 日本での研究に目を移すと,住宅再建過程を詳細に記 述している研究は多く存在しているが(近年の研究では, 小川 2017, 土屋ほか 2018, 米野 2018a, 2018b など) 16)17)18)1 9)Peacock ほかのモデルのような,世帯の脆弱性と住宅 再建との関連を分析した研究は多くはない.数少ない研 究として,近藤・葛西の研究(2009)5)では,母子家庭世帯 の住まいの再建について検討し,母子家庭世帯では,親 族の近さや子供の通学を重視した住宅再建を重視するこ とから,平時の居住ニーズが災害時においても同じ形で 現れることを示している.また松川ほかの研究(2017)20) では,1 年間に仮設住宅から住宅再建した世帯の特徴を 明らかにしている.長期的な住宅の再建過程と脆弱性と の関連についての検討は行われていない. また本稿で分 析するデータは,川見ほか(2019)21)と同一のデータであ る.川見ほか(2019)は仮設住宅種別に着目し,すまい再 建までの日数に与える影響について研究である一方,本 研究は,世帯の脆弱性からすまい再建までの日数を予測 する研究であり,異なる研究関心に基づく研究である. (3)研究の目的 被災前の世帯の社会的脆弱性が,すまいの再建にどの ような影響を与えるかを検討する.前述したように,災 害後の住宅の再建は,その他の生活再建の側面に大きな 影響を与える.そうであるならば,理想的には,すべて の被災世帯が平等にいち早く住宅の再建を成し遂げるこ とが望ましい.反対に,特定の世帯において,住宅の再 建が遅れるのであれば,それは被災者支援上の配慮を要 する格差である可能性がある. 本研究の意義は,これまで十分に検討されてこなかっ た,災害からの復興過程における被災者間の住宅再建上 の格差の存在を計量的に明らかにすることである.言い 換えれば,前兆もなく,同じように住宅を失った人々 が,その生活の再建さえも,住宅を失う前の社会的状況 によって左右される現状について実証的に示すことであ る.また実務上の示唆として,以上の点を指摘すること によって,将来予想される災害において,被災者が,い ち早い住宅再建を行うことができるような環境を整備す るための資料となる.具体的には,災害ケースマネジメ ントなどの被災後の生活再建支援が,いち早く行われる ためのスクリーニングへの応用や,被災前の時点から個 人・世帯の生活再建計画の策定への応用可能性などにつ いても議論する.

2.方法

(1)リサーチデザイン Peacockほかが提示した住宅再建過程での格差拡大の概 念・仮説モデル(Peacock et al. 2014)15)が示している要点は, 長期的な住宅再建が被災前の世帯の脆弱性に影響される 点を仮説として設定している点である.本稿ではこのモ デルの仮説を参考にし,「恒久住宅の再建の早さが被災 前の世帯の脆弱性に影響されるか.影響している場合, とくに効果が大きい要因は何か」をリサーチクエスチョ ンとして設定した. 前述のように住宅の再建がその他の生活再建の側面に 与える影響の大きいことから,住宅の再建の速度の格差 は,その他の側面の生活再建の格差を引き起こすと考え られる.つまりここでみられる格差は,住宅再建のみの格 差だけで終わるのではなく,被災者の生活再建全体での 格差となりうる.本研究では,恒久住宅への到達の早さ の操作的な定義として,発災日(2011年3月11日)から恒久 住宅への移行までにかかる日数(分析における変数名とし ては,「すまいの再建までの日数」)を用いる.恒久住宅 への移行した日の定義としては,仮設住宅から退去した 日を設定した. (2)使用するデータ 本研究で用いるデータは 2 つのデータを統合したもの である(2)1 つ目のデータは名取市から提供を受けた仮設 住宅への入退居日データ(N=3,088)である.このデータは 名取市における,世帯主,被災程度,世帯人数,仮設住 宅の種別(プレハブ仮設住宅か借り上げ仮設住宅か),仮 設住宅への入居日,仮設住宅から他の住宅に転居済みか

(3)

否か,(転居済みの場合)仮設住宅からの退去日の情報か ら構成されている.仮説住宅への入居日および退去日に ついては,2011 年 3 月 11 日からデータの提供を受けた 2017 年 7 月 31 日までの間の値をとる.分析に際して,プ レハブ仮設住宅から借り上げ仮設住宅への移行もしくは 借り上げ仮設住宅からプレハブ仮設住宅へ移行を行った 例外的な世帯についてはデータから除外している. 2 つ目のデータは 2015 年度名取市現況調査(以下,2015 年度現況調査と呼ぶ)によって得られたデータである. 2015 年度現況調査は 2016 年 1 月 15 日から 3 月 9 日に実 施された質問紙郵送調査である.この調査は,名取市に おいて仮設住宅に入居していた全世帯(調査時点で住宅を 再建済みの世帯も含む)を対象とした全数調査である.調 査票は世帯単位で配布された. 各世帯には,2 種類の調査票が配布された.1 つは世帯 票であり,世帯の震災前後の状況についてたずねている. この世帯票は各世帯に 1 部のみ配布され,世帯代表者に 回答を求めた.もう一つの調査票は個人票であり,調査 時に満18 歳以上であった世帯員全員に回答を求めている. 実際には,名取市が把握している世帯員数に 1 を足した 数の個人票を配布した.世帯票は 2331 世帯に配布し, 1695世帯から回答を得ている(回収率 72.7%).個人票は配 布数が把握できないため,回収率は未知であるが,回収 数は3154 票である. 本研究では,世帯の住宅再建について分析を行うこと から,世帯の情報(世帯調査票から得られた回答)と世帯 主の個人票への回答を分析に用いる.本調査では,世帯 票と個人票は世帯ID で紐付けされている.よって世帯数 と同数である1695 世帯主の回答および世帯情報が得られ ている. 本研究の分析では,2015 年現況調査の世帯(主)データ と入退居日データとを統合し,両データ間で世帯を突合 できたケースのみを分析対象とする.この統合後のデー タを統合データと呼ぶ.この統合データのうち,欠損値 があるケースを除いた936 ケースを分析対象とした.図 2 に統合データのサンプルサイズのフローを示す.データ の都合上,本研究の分析対象は,仮設住宅を利用した被 災世帯のみとなっている.仮設住宅を利用せずに,すま の再建をした世帯については,分析対象となっていない. 被災者台帳に載っている 全世帯 条件1),2)以外の世帯 N=3,088 ⼊退居⽇データ 2015年名取市現況調査 個⼈票回収数 N=3154 2015年現況調査の 世帯主のみ N=1460 統合データ N=936 世帯主のみを抽出 除外条件 1)仮設住宅に⼊居していない 2)仮設住宅間を移動するなどの例外 的な世帯 ⼊退居⽇データ、2015現況調査 のマッチしたケースのみ抽出2 データ統合のフロー (3)分析に用いる変数 表1に本研究で分析に用いる変数を示す.左列から順に, 変数名,その値,度数分布,変数の種別,データソース を示している.個人に関する変数(震災時年齢,性別,震 災前の職業)については,すべて世帯主の回答を使用して る点に注意を要する.また年齢については,分析モデル において,高い共線性が確認されたことから,高齢ダミ ー(65-74歳ダミーと75歳以上ダミー)としている.従属変 数となる「すまいの再建までの日数」および「打ち切り」 については,次節で分析方法とともに説明を行う. (4)分析方法 本研究では被災前の世帯の社会的脆弱性がすまい再建 の早さに与える影響を分析する方法として,生存時間分 析を用いる.生存時間分析は,医学分野や工学分野で広 く利用されている分析手法であり,ある 1 時点から,特 定のイベントが起こるまでの時間の長さを分析する手法 である.典型的には,観察対象の死亡や故障などのイベ ント(failure)の発生までの時間を分析するために用いられ る分析である. 観察を開始してから,注目するイベントが 発生するまでの時間を生存時間(failure time)と呼び,生存 時間分析では,この生存時間を従属変数として,独立変 数が与える影響を分析する. 他の統計解析手法ではなく生存時間分析を行う利点は, 打ち切り(censoring)が存在しているデータを扱うことが できる点である.打ち切りとは,観察期間中にイベント が発生しなかった場合のことを指す.つまり打ち切りで あるケースについては,イベント発生までの生存時間が 未知であり,「観察開始から観察期間終了時間まではイ ベントが発生していない」ということのみが明らかとな っている.生存時間分析では,この打ち切りを考慮した モデルが設定されている.本研究でのリサーチデザイン において,2017 年 8 月 1 日時点で仮設住宅に入居してい た世帯は,この打ち切りケースとして分析を行っている. 表 1 の打ち切りは,この打ち切りケースが否かを示す変 数である. 図 3 には,本研究における生存時間の概念図を示して いる.本研究では,東日本大震災発災日である2011 年 311 日を観察開始時点とし,恒久住宅への移行(図 3 の● 1 分析に用いる変数 変数名 値 度数 % 変数の役割 データソース すまいの再建 までの日数 連続変量 従属変数 仮設住宅供給方式 借り上げ仮設住宅 545 58.23 プレハブ仮設住宅 391 41.77 家屋被害 全壊・全焼 713 76.18 大規模半壊 42 4.49 半壊・半焼 85 9.08 他市町村から転入のため 被害程度不明・その他 96 10.26 世帯人数 1人 215 22.97 2人 295 31.52 3人 183 19.55 4人 148 15.81 5人以上 95 10.15 入居時期 2011年4月以前に入居(借り上げ仮設のみ) 146 15.6 2011年5月~8月に入居 674 72.01 2011年9月以降に入居 116 12.39 打ち切り 打ち切り変数 該当 329 35.15 非該当 607 64.85 世帯主の 震災時年齢 64歳以下 524 55.98 65-74歳 245 26.17 75歳以上 167 17.84 世帯主の性別 男性 699 74.68 女性 237 25.32 震災前の 世帯主の職業 農漁業 55 5.88 自営業 139 14.85 会社員(事務) 89 9.51 会社員(労務) 265 28.31 団体職員 26 2.78 公務員 40 4.27 パート・アルバイト 94 10.04 学生 7 0.75 退職者 158 16.88 失業中 35 3.74 専業主婦 18 1.92 その他 10 1.07 震災前の 住宅の所有形態 土地・家屋とも所有 686 73.29 土地は借地・家屋は所有 17 1.82 賃貸 195 20.83 その他 38 4.06 計 936 100 独立変数 独立変数 独立変数 名取市 入退居日データ 2015年度 名取市現況調査 統制変数 統制変数 独立変数 統制変数 独立変数

(4)

)をイベントと定義する.このとき青の矢印で示されて いる長さの「すまい再建までの日数」が生存時間となる. 本研究では,すまいの再建の早さを示す変数としてこの すまい再建までの日数を用いる.生存時間の取りうる値 の範囲は,東日本大震災が発災した2011 年 3 月 11 日か ら,データ提供を受けた前日の2017 年 7 月 31 日まであ る. 先述のように,2017 年 7 月 31 日時点で仮設住宅に 入居している世帯については,打ち切りケースとした.

発災日

2011/3/11

観察終了

2017 /7/31

イベント発生 (恒久住宅への移行) 打ち切り (現在も仮設居住中) 従属変数:すまい再建までの日数 図3 本研究における従属変数のイメージ 以下の分析では,回帰分析によって独立変数間の影響 を統制した上で,各変数の効果について検討する. 生存 時間分析における回帰分析はさまざまな方法が提案され ているが,本研究では,ワイブル回帰モデルによる分析 を行う.ワイブル回帰モデルで分析を行う利点は,以下 の3点である.1)ワイブル分布は,医学分野や工学分野な どで広く応用されてる分布であり,かつその様々な生存 時間に対して順応性の高いモデルであること(Klein and Moeschberger 2003=2012)22)2)共変量の係数の解釈が容 易であること,3)比例ハザード性の仮定(3)を必要としな いことである. ワイブル回帰モデル(4)では,生存時間(T)を共変量の関 数 と し て , 以 下 の よ う に 表 さ れ る(Zhang 2016; Hosmer 2008=2014)23)24) ln�𝑇𝑇� � �������� ����� σは形状パラメータである.このモデルでは,共変量 の効果が時間スケールで乗算的に増えていくことから加 速モデル(accelerated failure-time model: AFT)と呼ばれる (Hosmer et al. 2008=2014) 24). 回帰係数の解釈については次 章の冒頭で詳述する.

. 結果

2 は,被災から住宅再建までの日数を従属変数とし たワイブル回帰分析の結果を示している(5).ワイブル回 帰の加速モデルにおいては,回帰係数は,「生存時間は EXP(回帰係数)倍になる」と解釈できる.たとえば,モ デル 1 の世帯人数が 5 人以上の世帯ダミーの回帰係数は -.747 であり,これは,EXP(-.747)=.473 である.つまり 5 人以上の世帯員がいる世帯では,1 人世帯に比べて生存 時間(すまい再建までの時間)が 0.473 倍かかることを意味 する.ここから明らかなように,回帰係数が負の場合は, 生存時間を短くする(すまい再建が早くなる)ことを示し, 一方で回帰係数が正のときには,生存時間は長くなる(す まい再建が遅くなる)ことを示している. 上記の係数の解釈に加えて,より解釈が容易になるよ うに,1 – EXP(回帰係数)とすることで,生存時間が何% 短くなる(長くなる)と表現できる.先ほどの 5 人世帯の係 数を再び例にとると,1- EXP(-.747)=.527 であり,つまり 5 人以上の世帯員がいる世帯では,1 人世帯に比べて生存 時間が52%短くなることを示している. まずモデル 1 において,有意な効果を示しているのは, り災程度,被災前の住宅形態,世帯人数,被災前の職業 である.それぞれダミー変数単位で確認していくと,半 壊世帯においては,全壊の被害を受けた世帯と比べて有 意に早く恒久住宅に移行している(p<0.01).被災前の住宅 所 有 に つ い て は , 持 ち 家 世 帯 に 比 べ て , 賃 貸 世 帯 (p<.001), その他(p<.01)で有意に遅く恒久住宅に移行して いたことが示されている.世帯人数については,世帯人 数が多いほど早く恒久住宅に移行している(p<.001).被 災 前 の 職 業 に つ い て は , 農 林 漁 業 に 対 し て , 自 営 業 (p<.05),会社員(労務)(p<.10)ではすまいの再建が遅れる ことが示されている. 続いてモデル 2 では,世帯の脆弱性に関する項目の交 互作用項をモデルに投入している.この交互作用効果を 検討することで,世帯の複数の脆弱性が掛け合わさるこ とで表面化する,すまいの再建の遅れを分析することが 可能になる.具体的には,モデル 2 では,世帯主の性別, 年齢,被災前の職業,世帯人数との交互作用を検討した. その結果として,2 人世帯と性別(p<.05),3 人世帯と性別 (p<.10),被災前の失業と性別の交互作用(p<.05)で有意な 効果がみられた.それぞれの効果の方向を確認すると, まず世帯人数と性別の交互作用項の係数は,2 人世帯と 性別項で.278,3 人世帯と性別項で.309 と,住まいの再建 を遅らせる方向の効果を示している.つまりこの世帯人 数と性別の交互作用項の係数が示しているのは,女性が 世帯主である場合では,1 人世帯の場合より,2 人,3 人 世帯の方が,すまいの再建が遅れる.反対に男性世帯主 の場合は,単身世帯の場合に,2 人世帯,3 人世帯に比べ てすまい再建が遅れることが示されている.失業者ダミ ーと女性ダミーについて,交互作用項の係数は,-.586 で ある.つまり,被災前に失業していた女性と,被災前に 失業したいた男性を比べた場合,男性の方がすまいの再 建が遅れることを示している.

4.考察

以下では,表 2 の結果をもとに,その解釈と災害・復 興施策への示唆を議論する.モデル 1 では,被害程度, 住宅の所有形態,震災前の職業,世帯人数が有意にすま いの再建の早さに影響を与えていた.それぞれ順に検討 を行う. まず被害程度については,分析前から想定された結果 通りであるといえる.本来,仮設住宅は住宅が全壊・流 出した世帯を対象に供与されるものであり,それ以外の 世帯には,個別の世帯状況に応じて,供与の判断がされ ることになる.半壊世帯については,本来は仮設住宅供 与の対象とならない世帯であり,その世帯がもつ特殊な 事情が解決され次第,早い段階で仮設住宅から退去し, 恒久住宅に移行していたと考えられる.一方で,筆者ら が関わる災害ケースマネジメント現場では,仮設の解消

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表 2 すまいの再建までの日数を従属変数としたワイブル回帰分析 標準誤差 標準誤差 家屋被害 基準(全壊・全焼) 大規模半壊 -.012 .102 -.015 .101 半壊・半焼 -.443*** .074 -.449*** .075 他市町村から転入のため 被害程度不明・その他 .008 .073 .018 .074 震災前の 基準(持家持地) 住宅の所有形態 土地は借地・家屋は所有 .225 .168 .209 .167 賃貸 .373*** .058 .372*** .058 その他 .363*** .122 .347*** .121 世帯主の性別 基準(男性) 女性 .071 .058 -.120 .138 世帯主の 基準(64歳以下) 震災時年齢 65歳~74歳 -.028 .055 -.024 .060 75歳以上 -.109 .071 -.100 .079 震災前の 基準(農林漁業) 世帯主の職業 自営業 .208** .092 .203** .094 会社員事務 .092 .102 .087 .101 会社員労務 .163* .087 .171** .087 団体職員 .155 .140 .137 .140 公務員 .064 .123 .067 .122 パート・アルバイト .157 .108 .131 .110 学生 .234 .299 .212 .300 退職者 .085 .093 .074 .093 失業者 .208 .137 .831** .419 専業主婦 .144 .183 .142 .187 その他 -.142 .224 -.106 .226 世帯人数 基準(1人世帯) 2人世帯 -.341*** .067 -.435*** .089 3人世帯 -.487*** .072 -.563*** .093 4人世帯 -.635*** .076 -.698*** .093 5人以上の世帯 -.747*** .085 -.798*** .100 交互作用項 65歳~74歳 ×女性世帯主 .072 .133 年齢×世帯主性別 75歳以上×女性世帯主  .054 .130 交互作用項 2人世帯×女性世帯主  .278** .140 世帯人数×世帯主性別 3人世帯×女性世帯主  .309* .158 4人世帯×女性世帯主  .143 .202 5人以上世帯×女性世帯主  .230 .281 交互作用項 自営業×女性世帯主  -.013 .154 被災前職業×世帯主性別 会社員労務×女性世帯主  -.147 .178 失業者×女性世帯主  -.586* .318 統制変数 プレハブ仮設住宅ダミー .010 .049 .004 .049 2011年5月~8月入居ダミー .039 .062 .048 .062 2011年9月以降入居ダミー .009 .085 .037 .086 p(形状パラメータ) 2.025 .071 1.891 2.168 1/p .494 .017 .461 .529 Constant 7.900*** .113 7.956*** .123 *** p<0.01 , ** p<0.05 , * p<0.1 変数 値 モデル1 モデル2 回帰係数 回帰係数

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して,「家屋被害は半壊であり,特例での入居したケー ス」が見られることも経験的に知られている.本分析で は,検討できなかったが,特例入居世帯ではすまいの再 建の早さが二極化している可能性がある. 住宅の所有形態については,持ち家世帯に対して,民 間賃貸に居住していた世帯は,すまいの再建に長い時間 を要していた.この理由としては 2 つの要因が存在して いると考えられる.1 つ目には,世帯の経済的な状況と の関連が考えられる.すなわち震災前からの持ち家層は, 賃貸住宅に居住している層よりも,平均的には経済的な 余裕があることによって,比較的に早く,すまい再建に ついての選択や生活再建自体ができた可能性である.本 研究では,世帯の経済状況を直接的に統制できていない ため,こうした経済的状況の影響が,震災前の住宅の所 有形態を通して現れている可能性がある. ただし持ち家世 帯においては,再建にあたって二重ローンを抱えること になるケースも多く存在する.とくに名取市において, 住宅ローンが残っていないことや,地震保険などで再建 先の土地代を賄うことができた世帯が早期に内陸側で住 宅再建を果たしたとのエスノグラフィー(田中ほか 2017, 立木 2017)25)26)が報告されていることなどから,今後は被 災前からのローンの有無や,保険加入の有無など変数に ついても分析モデルに加えていく必要がある. 2 つ目の要因として,震災前に民間賃貸に居住してい た世帯にとって,仮設住宅(とりわけ借り上げ仮設住宅) から退居することの動機が少ないことが上げられる.民 間賃貸に居住していた世帯にとっては,借り上げ仮設住 宅に住んでいる限り,震災前と同程度の住宅に住んでい たとしても家賃の支払いがなく,反対に借り上げ仮設住 宅から通常の民間賃貸住宅に移ることによって新たに家 賃の支払いの必要がでてくる.この点については,重川 ほか(2013)27)が,従前の賃貸住宅居住者が,借り上げ仮 設住宅に居住することにより,家賃がなくなることに対 する,ほかの被災者からの苦情の存在についても指摘し ている..このような仮設住宅を退去することのインセン ティブが少ないことが,仮設住宅入居期間が長くなる理 由の 1 つと考えられる.重川ほかは借り上げ仮設住宅運 用上の課題として「入居期間が 2 年以上の長期になる場 合には,被災者の意識は応急仮設住宅というより家賃補 助の意識が強まる.このため,ある一定以上の期間経過 後は災害救助法に基づく仮設住宅の位置づけから切り離 し,年収などの要件により相応の家賃負担を求めるなど, 別の制度を創設して対応することが望まれる.」と提言 している(重川ほか 2013)27) 以上をまとめると,住宅の所有形態については,持ち 家世帯と民間賃貸に住んでいた世帯との社会的不平等が すまい再建までの日数に与え,格差が広がっていく側面 が一方に存在している(要因 1).そしてその一方で,被災 世帯のある種の合理的選択として仮設住宅に長く入居す る世帯の存在が存在している(要因 2).ただし注意すべき は,住宅を失った被災者は自身の取りうる行動の選択肢 の中から,合理的な選択をしている点である.ここで必 要となるのは,仮設住宅にできるだけ長く居住する被災 者に退去を促すという個別の対応を中心に行うのではな く,重川ほか(2013)27)が指摘するような仮設住宅制度の 制度的・構造的な改善が必要であると考えられる. 続いて,震災前の職業がすまい再建までの日数に与え る影響についてである.分析結果では,世帯主の震災前 の職業が,自営業,会社員(労務)において有意に,住宅 再建に長い時間を要することが示された.この 2 職種に ついては,収入が地域経済に大きく影響を受ける共通点 がある.同様の知見は,阪神・淡路大震災時の生活復興 調査でも確認されている(Tatsuki and Hayashi 2002)28).ま た点について玄田(2013)29)は「相対的に所得水準が低く, 雇用機会が不安定な層において震災が仕事に与える影響 が大きい」と指摘しており,職業上の不安定さが所得を 経由して,住宅の再建にも影響を与えていたと考えられ る. 世帯人数の効果については,特に 1 人世帯で,住まい の再建が遅くなっていることから,こうした単身世帯に 対しては,行政や支援団体からの別途の住宅再建の意思 決定に関する支援が必要となるだろう.特に借り上げ仮 設住宅入居世帯においては,プレハブ仮設住宅入居世帯 と比べて,さまざまな情報が回ってこないような状況も 指摘されているため(田中・重川 2015)30),特に1人世帯に ついては,すまいの再建についての情報保証が必要にな る.世帯人数の影響については,モデル 2 での交互作用 項とともにさらに検討していく. モデル 2 では,世帯人数と性別,失業ダミーと性別と の交互作用を検討した.まず女性が世帯主である世帯に おいて,単身世帯に比べて2 人,3 人世帯でにおいて,す まいの再建が遅れていた理由を検討する.女性世帯主で, 2 人世帯,3 人世帯の典型的な家族類型は,シングルマザ ー世帯であると考えられる.こうした世帯においては, 単身女性の世帯と比べて,経済的な状況が厳しいことが 多く,そうしたなかで,家賃や子供の通学等の条件に合 致する住宅を見つけるか,復興公営住宅の完成を仮設住 宅で待つことが必要となる.こうした経済的な事情など から,女性世帯主の場合においては,世帯人数が2 人,3 人の場合において,すまいの再建が遅れざるを得なかっ たと考えられる.反対に,男性においては,2 人世帯や 3 人世帯に比べて,単身の場合に住まいの再建が遅れてい ことも,世帯類型が関連していると考えられる.男性が 世帯主で2 人,3 人世帯の典型的な世帯類型は,夫婦世帯 や核家族世帯であり,こうした世帯に対して,単身男性 世帯では,経済的な脆弱性の問題や,仮設住宅から退去 することのインセンティブが比較的弱いことなどが,理 由として考えられる. 失業と性別との交互作用については,世帯人数とは反 対の効果が見られた.つまり被災前に失業していた女性 と,被災前に失業していた男性を比べた場合,男性の方 がすまいの再建が遅れることを示している.本研究では, 被災後の職業状況や,家計などの変数はモデルに投入で きていないことから,その結果の解釈は難しい.この点 については,被災前後での職業変化のジェンダー差につ いて研究が必要になり,本研究のやり残した課題である. 最後に,本研究の結果の災害・復興施策上の示唆につ いて述べる.本研究は,被災前の世帯の社会的脆弱性(と くに属性)がすまいの再建に与える影響を分析してきた. この研究関心は,被災後の生活再建困難世帯が,被災前 の世帯の状況から予測できるとの考えによるものである. 実際に本研究では,いくつかの脆弱性に関する変数が, すまいの再建の早さを予測できることを示した.被災前 からの生活再建要支援世帯の予測を実務レベルで行うに は,本研究は,まだ基礎な段階といえるが,今後の予測 の精度を上げていくことで,以下のような 2 つの応用が 考えられる. 1 つ目は,現在多くの被災地で行われている災害ケー スマネジメントの対象世帯のスクリーニングに応用が可 能になる.佐藤ほか(2015)31)では,被災前後の変数で支

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援対象のセグメント化の可能性を検討したが,本研究で は,特に被災前の変数から要支援世帯の検討を行った. 今後,本研究のようなモデルの予測精度が高まれば,特 に生活再建が遅れる可能性が高い世帯については,一般 的な世帯に対するスクリーニング調査に先立って,決め 打ちで支援を行うことも可能になる.こうした比較的早 い段階からの支援の実践例として,菅野(2017)32)によれ ば,熊本地震時には,「要介護認定 3~5,身体障碍者手1・2 級,療育手帳 A,精神障害保健福祉手帳 1・2 級, 指定難病医療受給者(既認定重症含む),妊婦,当選時 点で 1 歳未満の乳児」がいる世帯に対して,それぞれの ニーズに合わせて,行政による仮設住宅のマッチングが 行われたと報告している.本研究は,このような被災後 の早い段階からの支援スクリーニングを,よりさまざま な脆弱性の評価に基づいて行うことを可能にする足がか りとなる研究である. 2 つ目の示唆としては,今後より精度の高い予測が可 能になれば,特に生活再建上の困難が予想される世帯に ついては,被災前から支援計画を準備しておくことが可 能になる.このような事前の生活再建計画は,障がい者 を対象に,個別支援計画の延長として「災害時ケアプラ ン」の名前で,実際に全国での展開が始まっている(立木 2020)26).こうした被災前からの支援計画を障がい者を対 象としたものだけではなく,複合的な脆弱性を抱えてい て,災害時には生活再建が困難になる可能性が極めて高 い世帯については,個人・世帯版の復興計画というよう な,被災前からの支援計画の策定も検討することも可能 になると考えられる.

5.本研究の課題

最後に本研究の課題を示す.第 1 に,使用できる変数 の制約である.本研究はリサーチクエスチョンを設定後 に,そのリサーチクエスチョンにあわせて調査票を設計 する一次分析に基づく研究ではなく,二次分析による研 究である.よって分析に使用できる変数には制限があり, 本来であれば効果を検討すべき変数,もしくは統制すべ き変数が分析モデルにおいて考慮されていない可能性が ある.具体的には,震災前の世帯の経済的状況,保険加 入の有無,貯金,被災前に受けていた公的な福祉支援, 世帯属性としての要配慮者世帯員の有無などである.こ れらの変数がモデルに含まれると,より精度の高い,生 活再建用配慮世帯の 予測が可能になると考えられる. 第 2 に,本研究はすまいの再建の早さを分析するとい う研究目的から,そのほかの生活再建のアウトカムにつ いては,被災前のから変数による予測の妥当性について は言及できない.考察の後半で述べたような,生活再建 上の要配慮世帯をスクリーニング,もしくは事前に予測 するという目的を考慮すると,住宅再建以外のさまざま なアウトカム(家計,心身の健康,主観的な復興感,自立 的な生活)を検討する必要があると考えられる.

(1)本稿は,筆頭著者である川見が 2017年に同志社大学に提出し た修士論文「仮設住宅からのすまいの再建における格差 ――Lens of Vulnerability モデルに基づく実証的研究――」を 元に再分析・加筆修正を行ったものである. (2)前述のように,本研究は,川見(2019a)21)と同一のデータを用 いているため,使用するデータの記述には,重複がある. (3)比例ハザード性とは,共変量と時間との間に交互作用がなく, ハ ザ ー ド 比 が 時 間 か か わ ら ず 一 定 で あ る こ と(筒井ほか 2011)34)を指す. 生存時間分析のセミパラメトリックな回帰 分析であるCox 回帰分析は,この比例ハザード性を重要な仮 定とされている.なお本稿のデータを用いた予備的な分析で は,この比例ハザード性が満たされなかったことから,ワイ ブル回帰分析等のパラメトリックな回帰分析よるアプローチ を試みた. (4)加速モデルにおけるワイブル回帰モデルのハザード関数は以 下のように表される. ℎ�𝑡𝑡𝑡 𝑡𝑡𝑡 𝑡𝑡𝑡 𝑡𝑡� � 𝑡𝑡��𝑡𝑡𝑒𝑒������𝑒𝑒���� γ=exp(-β/σ)は尺度パラメータと呼ばれ,λ(=1/σ)は形状パラ メータである.本研究の回帰分析結果では,形状パラメータ はp として推定されていること(StataCorp 2017)35)に注意を要 する.また分野によっては,形状パラメータはm とも表され る(例えば真壁 2010 など)36). (5)モデル 1, モデル 2 のそれぞれの形状パラメータ p が 1 を超え ていることから,イベント発生率が時間とともに増加してい く「摩耗故障型」(真壁 2010) 36)のハザード関数がフィッティ ングされていることが読み取れる.これは仙台市のすまい再 建率の推移の記述的な分析結果(川見ほか 2019b)37)と適合する. (6)本研究の課題として,移行先の恒久住宅の種別を変数に加え るべきとの指摘も考えられる.たしかに恒久住宅の種別によ る影響も検討する意義のある論点であるといえる.しかし本 研究の目的は,被災前からの社会的属性からすまい再建を予 測することである.仮に被災前からの社会的属性が恒久住宅 の種別を媒介して,住まいの再建に影響していた場合,恒久 住宅の種別をモデルに含めることによって,被災前からの社 会的属性の効果を過小に評価してしまう可能性がある.

謝辞

この研究は,JST RISTEX SDGsの達成に向けた共創的研究開 発プログラム〔ソリューション創出フェーズ〕「福祉専門職と 共に進める「誰一人取り残さない防災」の全国展開のための基 盤技術の開発」(JPMJRX19I8)(2019 年 11 月 15 日~2023 年3 月31 日、研究代表:立木茂雄),(基盤研究(A))「インクルー シブ防災学の構築と体系的実装(JP17H00851)」 (研究代表者:立木 茂雄)および(特別研究員奨励費)「大規模災害による生活再建要 支援世帯に対する支援・資源活用の介入効果の検討(JP20J15550)」 の成果である.

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『生存時間分析入門[原書第2 版]』東京大学出版.) 25)田中聡・重川希志依・河本 尋子編,2017,『災害エスノグラ フィーシリーズ 東日本大震災編』常葉大学社会災害研究セ ンター. 26)立木茂雄,2016a, 『戦略的創造研究推進事業(社会技術研 究開発)コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創 造研究開発領域研究開発プロジェクト「借り上げ仮設住宅被 災者の生活再建支援方策の体系化」研究開発実施終了報告書』 27) 重川希志依・田中聡・河本尋子・佐藤翔輔,2013,「借上げ 仮設住宅施策の住宅再建に関する考察-恒久住宅への円滑な 移行を目的とした住環境の分析-」『住総研研究論文集』 41:145-156.

28)S. Tatsuki and H. Hayashi, 2002, “Seven Critical Element Model of Life Recovery: General Linear Model Analysis of the 2001 Kobe Panel Survey Data”, Proceedings of 2nd Workshop for Comparative Study on Urban Earthquake Disaster Management (February 14-15,) 29) 玄田有史,2014,「東日本大震災が仕事に与えた影響につい て」『日本労働研究雑誌』56(12): 100-120. 30) 田中聡・重川希志依,2015,「生活再建支援員への調査から 明らかになった借り上げ仮設住宅入居者の生活再建に関する 課題」『地域安全学会梗概集』36: 55-56 31) 佐藤翔輔・松川杏寧・立木茂雄,2015,「被災者の生活再建 支援を目的にした 被災者のセグメント化と行政対応戦略の 検討手法の提案:-東日本大震災で被災した名取市の事例-」 『地域安全学会論文集』27: 65-74. 32) 菅野拓, 2017, 「借り上げ仮設を主体とした仮設住宅供与およ び災害ケースマネジメントの意義と論点―東日本大震災の研 究成果を応用したアクションリサーチを中心に―」『地域安 全学会論文集』31:177-186. 33) 立木茂雄,2020,「災害時の要配慮者への対策は 30 年以上 にわたり、なぜ見立てを誤ってきたのか?〜人口オーナス期 に特有の事態として捉え、根本的な対策を提案する〜」『21 世紀ひょうご』28: 21-38. 34) 筒井淳也・平井裕久・水落正明・秋吉美都・様元和靖・福田 亘考,2011,『Stata で計量経済学入門 第 2 版』ミネルヴァ書 房.

35)StataCorp. 2017. Stata 15 Base Reference Manual. College Station, TX: Stata Press. 36)真壁肇編,2010,『新版 信頼性工学入門』日本規格協会. 37)川見文紀・松川杏寧・佐藤翔輔・立木茂雄,2019b,「世帯 の脆弱性がすまい再建に与える影響: 仙台市仮設住宅に関す るオープンデータの分析から」『地域安全学会東日本大震災 特別論文集』8: 51-56. (原稿受付 2020.05.16) (登載決定 2020.08.29) 地域安全学会論文集 No.37, 2020.11

広域物資輸送拠点と地域内輸送拠点の兼用による効果評価と改善提案

~令和元年台風第

19号災害の長野県における物資拠点運営事例から~

Report on Operation of Logistics Bases for Relief Goods

~ A case study of the Nagano region at the heavy rain event in October 2019~

宇田川真之

1

Saneyuki UDAGAWA

1国立研究開発法人 防災科学技術研究所 災害過程研究部門

Disaster Resilience Research Division, National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience Purpose of this paper is to propose a method of operating a logistics facility to provide relief supplies to victims. We investigated the case of a material base that operated both as a regional base and a wide-area base in the area affected by the heavy rain in 2019.The results of the interview survey with the related organizations and the analysis of the storage data showed that this method was useful. And we showed the division of roles of the related organizations and work methods as necessary conditions.In addition, we proposed improvements for adoption in other areas.

Keywords: relief goods, emergency logistics, information sharing, distribution center

1.はじめに 我が国で発生の懸念されている大規模災害である南海 トラフ地震と首都圏直下地震については,国による具体 的な応急対応計画(以下,「具体計画」)が策定されて いる1) 2).具体計画のなかでは,市民の生命維持に必要と 想定される救援物資を,被災自治体からの要請を待つこ となく,国がプッシュ型で提供する計画が策定されてい る.その際の国の役割は,物資の調達と被災都道府県に 設置される広域物資輸送拠点までの輸送が基本となって いる.そして,被災地における広域物資輸送拠点の運営 や避難所への輸配送は,原則的には地方自治体が担うこ とが基本的な役割とされている. この国のプッシュ型物資支援は,2012年に改正された 災害対策基本法に基づき,近年では2016年の熊本地震以 降,大規模災害の際にも現実に実施されるようになった. しかし,これら実際の大規模災害時の救援物資対応では, 被災者への円滑な物資供給に支障が生じたことが報告さ れている.その主な原因は,国が調達する物資量の不足 ではなく,地方自治体が担う被災地内での物流システム に問題が多いことが指摘されている3)4). 大規模災害時の,地方自治体における物流システムの 課題については,東日本大震災時の救援物資物流を対象 に多くの調査検討が行われている5)6).国による検証では, 物資拠点となった施設の機能不足,情報の錯綜,体制の 不備などが,解決すべき課題点として指摘されている7). そして改善方針として,適切な物流拠点の確保,物流事 業者との連携体制の強化,情報交換様式の一元化などが 国によって整理されている8). この改善方針に従い,各地域で適切な広域物資輸送拠 点を確保し,民間物流事業者の協力を得た運用が行える よう,地方運輸局が事務局となって,国と都道府県,ト ラック協会や倉庫協会などが参画した検討が行われてい る9).こうした取り組みによって,近年では地方自治体 のなかでも都道府県レベルでは支援物資物流の事前準備 体制が改善していることが報告されている10).全国の都 道府県と市町村(東京23区を含む)を対象とした調査結 果では,都道府県が設置する広域物資輸送拠点について はフォークリフトを利用できるなど物流機能の高い施設 を確保している団体が9割に及ぶ.また,施設の運営に物 流事業者に委託できる協定を締結している団体も半数に 達している. しかしその一方で,市町村が設置し避難所への配送を 担う地域内輸送拠点については,事前準備が進んでいな い調査結果であった10).地域内輸送拠点として物流機能 の高い施設を確保している市町村は4割に満たない.また, 最近の災害時の実態でも,2018年の西日本豪雨で,都道 府県に比べ市町村の拠点運営で課題が生じていたことが 報告されている11) 12).地域内輸送拠点の運営に支障が生 じると,被災者への物資提供に多くの時間や人手等を要 するのみならず,入出庫や在庫の情報管理が行えずに情 報の錯綜の要因にもなり一層の救援物資物流の滞りを招 く.すなわち,市町村の地域内輸送拠点が,救援物資物 流のボトルネックとなっている13). しかし規模の小さな市町村が独力で,物流機能の高い 施設を地域内輸送拠点として確保し,運営体制を構築す ることは現実には容易ではない.そこで改善の方策とし て,市町村単独での拠点の確保運用を目指す方法以外に,

表 2 すまいの再建までの日数を従属変数としたワイブル回帰分析  標準誤差 標準誤差 家屋被害 基準(全壊・全焼) 大規模半壊 -.012 .102 -.015 .101 半壊・半焼 -.443 *** .074 -.449 *** .075 他市町村から転入のため 被害程度不明・その他 .008 .073 .018 .074 震災前の 基準(持家持地) 住宅の所有形態 土地は借地・家屋は所有 .225 .168 .209 .167  賃貸  .373 *** .058 .372 *** .058 その他

参照

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