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2013年CAP改革の経緯と結果

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Academic year: 2021

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Ⅰ 課題と構成 2013年6月26日に欧州委員会は「共通農業政策 の新たな方向に関する政治的合意」1)に関するプ レスリリースを発表、2013年12月16日に「共通農 業政策:欧州理事会で認可された改革案」2)(以 下、最終案)が公表され、CAP改革(以下、「2013 年改革」)の内容が決定した。2010年11月18日の 「農相閣僚理事会、欧州議会、欧州経済社会委員 会、欧州地域委員会に対する欧州委員会からのコ ミュニケーションペーパー」3)(以下、コミュニケ ーションペーパー)の提出から3年以上もかかっ た。今回の改革の遅れはガットやWTO交渉のよ うな「外圧」がなかったためだが(安藤(2011a))、 2013年改革の推進力は専らEUの内部事情に基づ

The Process and Consequence of 2013 CAP Reform

ANDO, Mitsuyoshi

The University of Tokyo Abstract:

The purpose of this study is to grasp and evaluate the process and consequence of the 2013 CAP Reform, through which prediction of the future of the CAP reforms can be based. First, we presents a survey of the history of CAP Reform since 1992 and identify its basic direction. We find that it is on a trajectory of market-oriented policy, by deepening decoupled payment and shifting budget of pillar 1 to pillar 2. Second, we compare and examine the original plan of the 2013 CAP Reform versus the final plan. The point of the reform is greening, which means strengthening the agro-environmental scheme of pillar 1 rather than pillar 2 in order to maintain direct payment whose origin was as compensation payments when the 1992 Mcsharry Reform introduced. It will take much time to dissolve the difference of payment level among member states. According to the final plan, the budget share of recoupled payment increases and redistributive payment is established. We may be able to say that the 2013 CAP Reform has an option to boost small and medium farmers, especially family farming. Finally we observe the trends of policy implementation of UK and France. The former is planning to improve and enhance agro-environmental scheme more than ever. The latter will introduce redistributive payment to protect livestock farming and hilly and mountainous areas. Renationalisation of CAP will be bolstered by this reform.

〔Key words〕 CAP, direct payment, greening

*東京大学(E-mail:[email protected])  キーワード:共通農業政策、直接支払い、環境 重視

《論文》

2013 年 CAP 改革の経緯と結果

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くもので、EU内の政治力学を強く反映したもの と考えることができる。本稿の課題は、欧州委員 会等が公開した資料とAgra Europeなどの報道を 素材として、2013年CAP改革の評価を試み、今 後を展望することである。 本稿は次の3部から構成される。最初に、1992 年マクシャリー改革以降、CAP改革が辿ってき た道筋を簡単に概括し、CAP改革の基本的な方 向を確認する。これが2013年改革の評価の1つの 参照基準となる。次に、欧州委員会の当初の CAP改革案と最終的な合意案の比較検討を行う。 外圧不在の改革であったことから、両者の違いは そのままEUの内部事情を反映していると考える ことができる。具体的な変更は直接支払い金額の 上限設定の大幅な後退、再分配支払いの導入、カ ップル支払いの若干の拡大などである。最後に、 この改革案を受けた加盟国─特に対照的な英仏─ の国内政策の整備の方向をみることで、今後の行 方を展望する。また、それに先立ち、2013年改革 を、これまでのCAP改革に関する研究からみて どのように把握することができるのかを示しなが ら評価を行う。 Ⅱ CAP 改革の基本的な方向 1992年のマクシャリー改革が現在に至るCAP 改革の出発点となった。ガット・ウルグアイラウ ンド交渉の渦中に行われた同改革は、現在、第1 の柱と呼ばれる農業生産支持政策を、義務的休耕 の実施を要件に、価格支持政策から直接支払いに 置き換えるという一大変革であった。そのため当 時は「補償支払い」と呼ばれていた(森田(2006))。 続く1999年のアジェンダ2000改革は価格支持水 準をさらに引き下げ、それに伴う農業生産者の損 失の補償は半分に止めるという改革を行った。こ こで重要なのは、第1の柱の予算の一部と加盟国 の予算の共同拠出によって、任意措置ながらも農 村振興政策(第2の柱)が加盟国の裁量の下で実 施できるようになったことである。以降、CAP は2つの柱から構成されるようになる。 2003年のフィシュラー改革はアジェンダ2000改 革を一層推し進めた。クロスコンプライアンス(環 境遵守)と農村振興政策の実施を義務化するとと もに、品目ごとに分かれていた直接支払いを統合 して単一支払いとして生産とのリンクを断ち切り、 2000〜2002年の支払い実績に直接支払いの支給額 を固定した。これはWTOドーハラウンドを射程 に入れ、直接支払いを緑の政策とするための改革 でもあった(Swinbank and Daugbjerg(2006))。 2008年のヘルスチェックは2003年の改革の深化 を図り、デカップリングの実施対象の拡大、直接 支払いの高額受給者への累進的な削減措置の導 入、第1の柱から第2の柱への義務的な予算移行 幅の増加、気候変動・再生エネルギー・生物多様 性など新しい課題の導入による第2の柱の強化な どが実施された。 以上、簡単にこれまでのCAP改革の道筋を辿 ったが、ここから導き出される改革の方向は次の 2点である。1つは市場志向型政策への傾斜であ る。価格支持政策や輸出補助金を大幅に縮小し、 域内農産物価格の国際価格水準へ引き下げ、直接 支払いの水準も引き下げていくという方向であ る。義務的休耕や生産割当制の廃止など生産の自 由化による農業競争力の強化とセットではある が、究極的には直接支払いの縮小、解体を目指す ものであり、その方策としてボンドスキームが提 唱されている(Swinbank and Tranter(2004))。 もう1つは、第1の柱から第2の柱への予算の 移行幅の拡大を進めて農村振興政策の領域の拡充 を図り、加盟国の政策の裁量性を増大させ、国別 政策化を推進する方向である。この背景にあるの が農業生産支持政策だけが膨張したCAPの是正 を求める動きである(Lowe et al (2002))。 CAP改革の方向は、直接支払いの縮小であり、 農村振興政策の拡大である。国際交渉という外圧 不在の下で、こうした方向がどこまで貫徹された かが、2013年改革を評価する際の1つの参照基準 となる。 Ⅲ 2013 年改革の当初案と最終案の比較 検討 1 2013年改革の経緯 CAP改革は欧州委員会が提出した改革案を基 に農相閣僚理事会や欧州議会での検討を経た後、 最終案が決定されるというプロセスを辿る。改革

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の主導権は草案を提出する欧州委員会にある。 2013年改革は2010年11月18日にコミュニケーシ ョンペーパーが提出され、改革の方向として次の 3つの選択肢が提示された。1つは斬新的な改革 であり、加盟国間に存在する直接支払い予算の配 分の不均衡─旧加盟国と新規加盟国との間の格差 ─の調整と改善を目指すものである。もう1つは EU市民の理解を得られるよう分かりやすい目的 をCAPにもたせる改革を行うものである。最後 は所得支持政策を廃止し、環境対策や気候変動対 策へのシフトを図るというものである。この時、 明確ではなかったが、直接支払いのグリーニング と支払い金額への上限設定が示唆された。これが 2013年改革のキックオフとなった。 その後、1年間の議論を経て欧州委員会は2番 目の選択肢を基本とし、2011年10月12日に「欧州 と農業者のパートナーシップの欧州委員会の提 案」4)(以下、当初案)を提出し、次項でみるよう な具体的な改革案が示されることになった。 この改革が決着するまで3年以上を要したが、 これは1992年改革や2003年改革の時のような国際 交渉という外圧が存在していなかったことに加え て、リスボン条約の発効に伴う欧州議会の関与が 増大したこと、CAP予算を規定する2014年から 2020年にかけての多年度財政枠組みの決着が遅れ たことなどによる。 以下では2013年改革の当初案と最終案の比較検 討を行うことにする。 2 当初案のポイント 最終案との関係から当初案で注目されるのは次 の9点である。 ⑴ 直接支払いの単価の加盟国間および国内で の平準化:単位面積当たりの直接支払い額がEU 平均の90%未満の加盟国は、現行の直接支払いの 水準との差の3分の1が徐々に増額される。例え ば、ある加盟国の単位面積当たりの平均受取額が EU平均の75%だとすると、目標となるEU平均の 90%と現行の75%との差の15%の3分の1にあた る5%の予算が増額され、最終的に2020年に80% 水準を実現することになる。国内でも同様の措置 が講ぜられる。これは2010年のペーパーの第1の 選択肢に沿うものであり、2008年のヘルスチェッ クで盛り込むことのできなかった課題である。 ⑵ 直接支払い受給の条件としてのグリーニン グの導入:第1の柱の予算の30%がこの支払いに 充てられ、次の3点を義務とする。既存の永年牧 草地の維持、栽培作物の多様化(輪作)、農地の 7%以上を休閑地やビオトープ、植林など生態学 的重点用地に当てることである。生態学的重点用 地は義務的休耕がもたらす環境便益が評価され、 それを義務化するものである。有機農業などはグ リーニングと同等の措置として認められる。 ⑶ 条件不利地域支払い:自然的制約条件の厳 しい地域に対する支払いとして第1の柱の予算の 5%までを充てることが可能となる。 ⑷ 青年農業者への直接支払い:新規に農業を 始めた40歳未満の若手農業者に対して経営開始後 5年間にわたって直接支払いの金額を25%上乗せ して支払うことができる。第1の柱の予算の2% までを使うことが可能である。 ⑸ 小規模農業者制度:年間の支払い金額が 500〜1000ユーロの小規模農家に対する直接支払 いについてはクロスコンプライアンスよりも緩や かな条件で支払いを行うことができる。これには 第1の柱の予算の最大10%を充てることができ る。これは小規模農家への直接支払いの行政コス トを削減する意味がある。 ⑹ カップル支払い:国内での直接支払い単価 の平準化に伴う影響を緩和するため、第1の柱の 予算の5%までを生産とリンクした支払いに充て ることができる。ただし、これまで第1の柱の予 算の5%以上をこの支払いに充てた実績のある加 盟国の上限は10%とする。 ⑺ 第1の柱と第2の柱の間の予算移転:第1 の柱の予算の最大10%までを第2の柱の予算に移 転することができる。反対に、単位面積当たりの 直接支払い金額がEU平均の90%未満の加盟国は 第2の柱の予算の最大5%を第1の柱の予算に移 行することができる。これは⑴が不十分であるこ とに対する新規加盟国向けの措置である。 ⑻ 直接支払いの上限設定:基礎支払い(グリ ーニング支払いやその他の支払いを除いた直接支 払い)については年間30万ユーロを上限とする。 この計算方法は複雑で、25万ユーロを超え、30万 ユーロ以下の部分については70%が、20万ユーロ

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を超え、25万ユーロ以下の部分については40%が、 15万ユーロを超え、20万ユーロ以下の部分につい ては20%が削減されるというものである。例えば 33万ユーロの受給権がある農場が受け取る補助金 の金額は、15万ユーロ+5万ユーロ×0.8(15〜 20万ユーロ部分の削減率20%)+5万ユーロ×0.6 (20〜25万ユーロ部分の削減率40%)+5万ユー ロ×0.3(25〜30万ユーロ部分の削減率70%)+ 3万ユーロ×0(30万ユーロ以上は全額削減)= 23万5千ユーロとなる。 ⑼ 実体のある農業者への直接支払いの限定: 実質的な農業生産を行っている農業者に直接支払 いを限定する。これはゴルフ場や線路敷地などへ の支払いを避けるものである。 この時点での最大の改革として注目を集めたの はグリーニング支払いであり、環境公共財供給に よる直接支払いの正当化であった(平澤(2012))。 当初案に対しては、加盟国間の直接支払い金額 の格差の縮小を求める新規加盟国、特にバルト諸 国から強い批判が起こり、直接支払いの上限設定 については大規模農場を抱える英国、ドイツ、チ ェコから反対意見が出された。若手農業者への直 接支払いの義務化にも反対の声があがっていた。 改革の目玉であるグリーニングに対しても、農業 生産に足枷をかけるものだとする農業団体からの 批判や既に第2の柱で実施している農業環境施策 との関係の整理が難しいとする批判が寄せられて いた。このように難航を極めたが、2013年に入っ てようやく最終的な合意ラインがみえてくる。 3 最終案のポイント 最終案のポイントは次の6点である。 ⑴ 直接支払いの平準化:CAP予算の大幅な 再配分を意味する加盟国間の直接支払いの平準化 は当初案のままとなった。加盟国間の平等までの 道のりは遠退き、先送りとされ、独仏を中心とす る旧加盟国の意向が尊重される結果となった。一 方、国内の平準化は、2019年までに直接支払いの 面積単価が国内平均水準の60%以上となることを 条件に加盟国の裁量に委ねられることになった。 ただし、面積単価がこれまでよりも30%以上減少 してしまう地域を抱える加盟国については、60% という水準を下回ることが特例として認められ た。これは国内での平準化は難しいと主張してい たフランスに対する配慮である。 ⑵ グリーニングの緩和:生態学的重点用地の 設置は15ha以上の耕地に限定するとともに、そ の割合は5%とし、7%への引き上げは2017年以 降とされた。また、グリーニングと同等の行為が 加盟国の事情に応じて認められることになった。 ⑶ 再分配支払いの導入:直接支払いの受給資 格のある小規模農家に対して、一定面積(最大 30ha。平均農場規模が30haを超える加盟国間で は平均規模。これを基準面積と呼ぶ)までの直接 支払いの面積単価を最大65%まで増額することが できる。これに充てることのできる予算の上限は 第1の柱の30%である。ただし、任意施策であ り、実施するかどうかは加盟国の裁量に任されて いる。これは2013年6月28日の合意時点では頭出 し状態で、最終段階で確定したものである。中小 規模経営─その多くは家族経営─を強力に支援す る施策であり、2013年改革は直接支払いの正当化 のため環境支払いへの傾斜を強めた以上の内容の ものとなる可能性が出てきた。山岳地域の小規模 農家や経営面積の小さい畜産農家を数多く抱えて いる加盟国にとってはメリットのある措置である。 こうした中小規模への配分単価を厚くする手法は フランスの条件不利地域施策で既に実施されてお り(石井(2011))、実際、この再分配支払いはフ ランスの要求に基づくものであった(平澤(2013))。 ⑷ カップル支払いの拡充:全ての加盟国が第 1の柱の予算の8%までを生産とリンクした支払 いに充てることが可能とされ、2010年から2014年 までの間に1年でもこの支払いの割合が5%を超 えたことのある加盟国は13%まで、同じく10%を 超えたことのある加盟国は欧州委員会の承認を受 けることで13%以上の予算を充てられるようにな った。また、豆類などに対してはさらに2%の上 乗せが認められた。このカップル支払いの増額は 条件不利地域対策、小規模農家対策でもある。 ⑸ 直接支払いの上限設定の後退:直接支払い のうち基礎支払いについては15万ユーロを超えた 部分については一律5%の削減となった。例えば 33万ユーロの受給権を持つ農場は、15万ユーロ+ (33−15)万ユーロ×(1−0.05)=32.1万ユーロ の直接支払いが支給されることになった。ただ

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し、再分配支払いを採用し、第1の柱の予算の5 %以上をこれに支出している加盟国は、この5% の削減も免除される。大規模農場─規模の経済を 享受し、競争力もあると想定される農場─への支 払いを減じたいという当初案からは大幅な後退で ある。ドイツと英国の反対が大きかったためだと 推測される。 ⑹ 柱間の予算の移転割合の拡大:第1の柱と 第2の柱の予算の移転割合は双方向とも15%まで 拡大された。また、単位面積当たりの直接支払い 金額がEU平均の90%未満の加盟国は第2の柱の 予算の最大25%を第1の柱の予算に移行すること ができることになった。この措置を講ずることが できるのはブルガリア、エストニア、スペイン、 ラトヴィア、リトアニア、ポーランド、ポルトガ ル、スロヴァキア、フィンランド、スウェーデ ン、英国の12ヶ国である。柱間の予算の移転は国 別政策化を強化し、旧加盟国の一部は第2の柱へ の一層のシフトを進める一方、新規加盟国は第1 の柱の予算を増やし、直接支払いを補填すること が可能となった。 2013年改革の最終案においても直接支払いの正 当化のためのグリーニングの導入が目玉だが、最 終的には、加盟国の任意措置だが、再分配支払い の導入とカップル支払いの拡充によって直接支払 いが中小規模の経営や家族経営を下支えする性格 を帯びるようになったといえる。そして、それが はっきりと見えてきたのは改革の最終段階になっ てからのことであった。 Ⅳ 2013 年改革の評価と展望 2013年改革はグリーニングによって直接支払い 水準の引き下げに歯止めがかかり、カップル支払 いも当初案から増加したためOECDに近い研究者 の評価は低いが(Tangerman(2011))、旧加盟 国と新規加盟国との間で予算配分を巡る対立をは らみながらも直接支払いの今後の存続を確定する ものであった。この点は、新規加盟国を差別的に 扱うことはできないし(フェネル(1999)、pp.515 〜516)、2000年以降も直接支払いの撤廃は困難だ ろう(ガードナー(1998)、pp.125〜126)という 先行研究の予想通りである。ただし、今回の改革 の結果が示すように直接支払い水準の差が解消さ れるまでは相当な時間がかかりそうである。 今回の改革の最終段階で登場した再分配支払い は、加盟国の任意措置とはいえ、直接支払いが中 小規模経営の下支えとなる可能性があり注目され る。この措置をフランスが率先して導入している ことの意味は大きい。直接支払いが有する「生存 権を補償するような社会政策的な補償原理」(石井 (2002)、p.232)が採用される道筋がつけられた と理解することもできるからである。 これまでの改革の推進という点では国別政策化 の深化が注目される。加盟国の事情に応じてグリ ーニングでの同等の行為の承認、カップル支払い の裁量性の拡大など第1の柱でも加盟国の裁量性 が拡大しただけでなく、柱間の予算の移転割合も 増加し、予算面でも加盟国の自由度が増すことに なった。また、これは今まであまり注目されてい なかったが、村田(2006、pp.350〜354)が指摘 するように2003年改革の単一支払いはデカップリ ングのみならず、加盟国の裁量性を認めた政策で あり、2013年改革もその延長線上に位置づけるこ ともできるだろう。第2の柱で進められてきた国 別政策化が第1の柱でも本格化したのが2013年改 革という解釈である。 最終案を受けて各国は国内制度の整備を進めて いる。対照的な英国とフランスの状況を、本稿の 投稿時点で分かる範囲で確認しておきたい。 英国は環境政策への一層のシフトと自由主義的 競争の貫徹という特徴がより強まった。これまで 入門事業と上級レベル事業の2つに分かれていた 環境管理助成制度を1つに統合する方向で検討を 進めている。これは第1の柱にグリーニングが導 入されたため、これまで第2の柱で実施してきた 農業環境施策との重複が問題となることへの対応 でもある。グリーニングと同等の行為も設ける予 定だが、違反による直接支払い返金のリスクを避 けるため最小限度にとどめたいという方針であ る。柱間の予算移転措置は第1の柱の予算の12% を第2の柱に移転し、その87%を農業環境支払い に充てる(これまでは83%)。当初は15%だった が、農業団体の強い反発があって12%に引き下げ た。再分配支払いは導入せず、カップル支払いも 高地を抱えるスコットランドを除いて実施しない

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予定である5) これに対してフランスは中小規模の経営、畜産 経営を重視する方針を打ち出した。再分配支払い を導入し、当初は第1の柱の予算の5%だが、 2016年には10%、2018年には18%にまで拡大する 予定である。また、カップル支払いに第1の柱の 予算の上限の13%を充てる。オランド大統領の演 説によれば総額9,820万ユーロで、このうち6,750 万ユーロが肉用牛、1,400万ユーロが酪農に支払 われることになっている。自然的制約がある地域 への支払いを3億ユーロから11億ユーロに大きく 増やすことも表明されている。一方、第1の柱か ら第2の柱に移転される予算の割合は3%にとど まる予定である6) CAPはEU加盟国に共通する農業政策だが、 2013年改革によって国別政策化が進み、各国の施 策を詳細にみないと全体像の把握が難しくなっ た。その場合のポイントは、再分配支払いの実施 の有無とその予算割合、柱間の予算の移転の状況 の2つである。ドイツも第1の柱から第2の柱へ の予算の移転割合は数パーセントにとどまり、再 分配支払いを導入するとしている7)。新規加盟国 の代表のポーランドは第2の柱の25%を第1の柱 に移転するとともに、再分配支払いを導入すると のことである8)。各国の全貌が公開されるまでま だ時間がかかるが、最終的な結果次第では、今回 の改革はグリーニングを先導役とした直接支払い の確保と中小規模の家族経営の重視への道を拓い たという評価ができる可能性もある。独仏を中心 とする大陸ヨーロッパの動向が注目される。 注 1)European Commission(2013)。

2)Council of the European Union(2013)。 3)安藤(2011b)に翻訳が収録されている。 4)安藤(2011c)に翻訳が収録されている。 5)Agra Europe(2013a)(2013c)(2013d)(2014c)

に基づく。

6)Agra Europe(2013b)(2014a)に基づく。 7)Agra Europe(2014b)に基づく。 8)Agra Europe(2014d)に基づく。

参考文献

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[6] Agra Europe, “Germany finalises CAP subsidy implementation plans”, June 20, 2014b

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