日本社会学会会員の専攻分野の〈近さ〉と〈遠さ〉
――クラスター分析を用いた社会学知の構造分析 ――
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1 これまでの研究と本稿の問い
1.1 戦後日本の社会学史はいかに記述されてきたか 日本で研究活動を展開する多くの社会学者が所属する日本社会学会は、1924 年(大正 13 年) に設立された。現在ではおおよそ 3,600 人の会員がいる。設立の翌年の 1925 年以降、第 2 次大戦末期を除き、ほぼ毎年学会大会を開催し、2018 年度で 91 回を数える。また、学会誌 として 1924 年から『社会学雑誌』を刊行し、幾度の名称変更を経たのち、1950 年から現在 に至るまで『社会学評論』を刊行し続けている。『社会学評論』は、2018 年 12 月現在、275 号を数える(日本社会学会 2018)。2024 年には、日本社会学会 100 周年を迎えることになる。 2018 年現在、さまざまな研究テーマが、さまざまな方法論のもと、社会学的研究の名の もとに実施されている。『社会学評論』の掲載論文タイトルや、学会大会時の報告要旨集に 掲載されている報告テーマをみると、社会学者の問題関心の多様化や拡散という、たびたび*
キーワード:日本社会学会、クラスター分析、名簿分析、知の構造、専攻分野**
岡山大学 [email protected]齋 藤 圭 介
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1 これまでの研究と本稿の問い 1.1 戦後日本の社会学史はいかに記述さ れてきたか 1.2 専攻分野の選択数から専攻分野の組 み合わせへ 1.3 クラスター分析を用いた社会学史の 試み 1.4 本稿の問い 2 分析の対象と方法 2.1 日本社会学会名簿の特徴 2.2 対象とする名簿の概要 2.3 分析対象のデータセットの詳細 3 分析結果 3.1 1973 年の名簿分析 3.2 1982 年の名簿分析 3.3 1991 年の名簿分析 3.4 2002 年の名簿分析 3.5 2010 年の名簿分析 4 結論に代えて <研究ノート> 年報 科学・技術・社会 第28巻(2019)、47-67 頁Japanese Journal for Science, Technology & Society
繰り返されてきた主張が説得的に聞こえる。社会学として、何らかの中心的主題や問題関心 のまとまりを想定することさえも困難にみえてくる。 その一方、問題関心が多様化し拡散しているかのようにみえる社会学的諸研究の根底に、 ほかの学問領域とは区別されうる社会学としての中心的主題や問題関心のまとまりを本当に 想定できないのか、という疑問も生じる。もしそうした主題やまとまりを想定できるとした ら、それはどのようなものなのだろうか。経験的に検証できる問いに換言すれば、1924 年 の日本社会学会発足からこれまでのあいだ、所属する社会学者たちはどのような問題関心の もと研究活動を展開してきたのだろうか。 日本の社会学者の問題関心を通時的に記述する試みは、これまで主に以下の 2 つの方法で 行われてきた。1 つは、とくに研究キャリアが長い研究者による主観的なストーリーに基づ く回顧的な記述である。もう 1 つは、経験的なデータに基づく計量的な記述である。後者の 研究群には、学会の会員名簿に記載されている会員の専攻分野の選択数の増減という視点か ら、社会学者が取り組んできた対象を考察する一連の系譜がある。日本社会学会を対象にし たものでは、1945 年以前、1946-60 年、1961-73 年の 3 時点を扱った福武(1974:270)を嚆 矢に、1978 年と 1998 年を扱った西原・杉本(2001:9)、1998 年を扱った川合(2003:408) と Hogetsu(2000:8)、そして 2010 年を扱った齋藤(2015)がある(1)。こうした研究群は、 専攻分野ごとに選択数が増えた/減ったという視点から、会員の問題関心のトレンドを明確 に描くことができる。 たとえば、日本社会学会の伝統的な問題関心の分野として、農村・都市・家族研究がある と指摘されることがある(たとえば富永 1993: 40)。その時代を生きていた当事者による回 顧的な主張はきわめて貴重であるものの、ときとして経験的データによる根拠が曖昧な場合 がある。名簿の専攻分野の選択数を用いることで、こうした回顧的な主張の妥当性を反証可 能性を確保したかたちで検討できる(2)(齋藤 2015:176-8)。 他方、名簿に記載されている専攻分野の選択数を単純集計し、その専攻分野の選択数の増 減という数の視点で議論を展開する先行研究群では、ある専攻分野がほかのどの専攻分野と 一緒に選択されているのかということは考察できない。すなわちこれまでの専攻分野ごとの 選択数の増減4 4 4 4 4 4 という問題関心では、専攻分野の組み合わせ4 4 4 4 4 という問題関心を扱うことができ ていなかった。 1.2 専攻分野の選択数から専攻分野の組み合わせへ そこで本稿は、社会学者の問題関心の構造に、社会学の専攻分野ごとの量的増減からのア プローチではなく、専攻分野の組み合わせからアプローチする。専攻分野の選択数の増減と いうデータに加え、専攻分野の組み合わせというデータがあれば、より精緻に社会学者の問 題関心の構造や布置を記述・考察することができる。専攻分野間の組み合わせという視点か
ら、社会学者の問題関心の構造を明らかにすることは、社会学の下位構造――専攻分野間の 境界線――を探索する試みとしても位置づけることができるだろう。 たとえば前述したとおり、日本社会学の伝統的な専攻分野の 1 つとして〈農山漁村・地域 社会〉があるといわれるが、齋藤(2015:176-8)によると、〈農山漁村・地域社会〉を選択 する会員は年々減少傾向にあるという。齋藤(2015)では、専攻分野の選択数からこうした 減少トレンドを明確に示すことができている一方で、〈農山漁村・地域社会〉を選択する会 員が同時に選択する専攻分野には変化が生じているのか/いないのかという点は扱えていな い。〈農山漁村・地域社会〉を選択する会員は同時に何を選択してきたのか、また一緒に選 ばれてきた専攻分野には変化があるのか/ないのか。こうした問いを明らかにするためには、 会員名簿に記載されている専攻分野のパターンを収集し分析することで、専攻分野ごとにほ かのどの専攻分野と一緒に選択されているのかという、その組み合わせのパターンを読み解 かなくてはならない。 専攻分野間の関係にはなんらかの組み合わせのパターンを想定できる――たとえば、関心 が近い専攻分野を複数選択している会員、方法論と対象をそれぞれ選択している会員、ある いはぎゃくの想定として量的方法論の分野と質的方法論の分野は一緒には選択されにくいな ど。ある専攻分野が、別の専攻分野と一緒に選択される頻度が高い場合、社会学全体の問題 関心の構造のなかでそれらの専攻分野の近接度は高い(=問題関心は〈近い〉)といえる。ぎゃ くにある専攻分野が別の専攻分野と一緒に選択されることがほとんどないのであれば、専攻 分野間の近接度は低く、問題関心の断絶が生じていると解釈できる(=問題関心は〈遠い〉)。 こうした専攻分野間の選択パターンの想定を、クラスター分析を用いると経験的に検証できる。 1.3 クラスター分析を用いた社会学史の試み 会員名簿に記載されている専攻分野をもとに、計量分析を用いた研究はすでに行われて いる。たとえば、クラスター分析や多次元尺度構成法を用いてアメリカ社会学会会員の問題 関心を視覚的に表現した研究として、Ennis(1992)と Cappell and Guterbock(1992)がある。 Ennis(1992)は,1990 年刊行のアメリカ社会学会の会員名簿を用いて,研究者個人や個々 の研究業績に着目するのではなく、会員の専攻分野――選択数が極端に少なかった visual sociology を除き、残りの 53 の分野――を単位としてその関係を考察することから、アメリ カ社会学会会員の専攻分野の構造をクラスター分析と多次元尺度構成法を用いて可視化し ている。Cappell and Guterbock(1992)も同時期の American Sociological Association の部会の メンバーシップの重複をもとに、Ennis と同様の問題関心のもと分析を行っている。さらに Ennis(1992)と Cappell and Guterbock(1992)の研究関心を継ぐかたちで Daipha(2001)は、 単年度のいわばスナップショット的分析ではなく、1990 年の 27 部会と 1997 年の 38 部会の それぞれで、部会間でメンバーシップがどれほど重複しているのかという視点から、2 時点
の時系列の比較分析を試みている(Daipha 2001:75)。 日本社会学会についても、上記と近い問題関心のもと栗田(1997)や太郎丸(2014)によっ て先駆的な研究が行われている。彼らは、専攻分野の選択数の増減という数の問題のみでは なく、専攻分野の組み合わせという視点を積極的に分析に導入することで、社会学者の問題 関心の構造について考察を加えている。ただ、いずれも単年度の会員名簿を用いてその名簿 刊行年の会員の問題関心の構造を考察するものであるため、問題関心の構造の時系列の変化 についてはいまだ問いとして残されている。 本稿は、Daipha(2001)および栗田(1997)と太郎丸(2009, 2010, 2014)の研究を踏まえ、 社会学者の問題関心の構造の時系列変化に着目をする。日本社会学会の会員名簿に会員の専 攻分野が記載されるようになったのは 1973(昭和 48)年からである。そこで、本稿はおお よそ 10 年ごとの名簿情報のデータ入力を行い、1973 年、1982 年、1991 年、2002 年、そし て 2010 年の 5 時点の名簿を対象に専攻分野の選択パターンを考察していく。 1.4 本稿の問い 本稿は、齋藤(2015)が行った会員名簿を用いた専攻分野の選択数の増減とその推移とい う問題関心をさらに展開し、会員名簿に記載されている専攻分野を対象に、その専攻分野間 の構造を明らかにするものである。その方法として、クラスター分析を用いて専攻分野間 の〈近さ〉と〈遠さ〉を可視化することで、専攻分野間の構造とその時系列変化を考察する。 そして、多様にみえる社会学的研究の根底に問題関心のまとまりがあるか否かを検証し、も しあるのであればそれらの析出を目指すものである。 太郎丸(2014:117)が述べるように、計量的な手法は「個々の数字を見ていてはイメージ しにくいような『全体』像を見せてくれる」ことから、計量分析のアウトプットをもとに私 たちは「統計的想像力」を発揮することができる。本稿もまた「統計的想像力」を用いるこ とで、社会学の内部構造をより精緻に明らかにしたのち、専攻分野の選択パターンを解釈す ることで、社会学知について新たな視点から考察を加えることを目指すものである。本稿の 知見を通して、経験的データに基づく社会学史の記述がより豊潤なものになると同時に、戦 後日本の社会学者の問題関心の構造の変遷をより精緻に議論するための基礎的データを得る ことができる。
2 分析の対象と方法
2.1 日本社会学会名簿の特徴 2018 年現在、日本社会学会に入会を希望するものは、1 人の推薦人を得て申請書を学会に 提出する。入会希望者は、32 の専攻分野(表 1)から原則 3 つまで選択できる。選択した専攻分野は、会員名簿に記載される(表 2)。 2018 年度現在の会員名簿には表 1 のとおり 32 の専攻分野がある。この 32 の専攻分野の リストは、学会発足からこれまでのあいだ一貫していたわけではない。1976 年以前の専攻 分野数は 26 であり、現在よりも 6 分野少ない。追加された専攻分野は以下のとおりである。 1979 年名簿に 27 個目の分野として「その他」が初めて記載され、1982 年名簿に 28 個目と して「差別問題」、1985 年名簿に 29、30、31 個目として「生活構造」、「性・世代」、「知識・ 科学」、そして 1994 年名簿に 32 個目として「環境」である。なお、1985 年名簿では、3 つ の専攻分野の追加と同時に専攻分野名のやや大幅な見直しが行われている。1985 年以降も 専攻分野名の微修正が行われており、1994 年名簿においてはじめて現在の 32 の専攻分野数 と専攻分野名と同じになった。 こうした専攻分野の追加と専攻分野名の修正という経緯自体が、戦後日本の社会学知の問 題関心の変遷の一端をあらわしているといえよう(3)。会員名簿の専攻分野は、学会を辞めな いかぎり名簿に記載されることになっており、一度登録をするとほとんどの会員は変更する 表 1 専攻分野一覧 1.社会哲学・社会思想・社会学史 17.コミュニケーション・情報・シンボル 2.一般理論 18.社会病理・社会問題 3.社会変動論 19.社会福祉・社会保障・医療 4.社会集団・組織論 20.計画・開発 5.階級・階層・社会移動 21.社会学研究法・調査法・測定法 6.家族 22.経済 7.農山漁村・地域社会 23.社会史・民族・生活史 8.都市 24.法律 9.生活構造 25.民族問題・ナショナリズム 10.政治・国際関係 26.比較社会・地域研究(エリアスタディ) 11.社会運動・集合行動 27.差別問題 12.経営・産業・労働 28.性・世代 13.人口 29.知識・科学 14.教育 30.余暇・スポーツ 15.文化・宗教・道徳 31.環境 16.社会心理・社会意識 32.その他 表 2 名簿の仮想例 氏名 所属機関 自宅住所 専攻分野 社会学 花子 シャカイガク ハナコ 所属大学: 郵便番号: 1. 16. 28 郵便番号: Tel/Fax: Tel/Fax: Email: Email: 社会学 太郎 シャカイガク タロウ 所属大学: 郵便番号: 4. 19 郵便番号: Tel/Fax: Tel/Fax: Email: Email:
ことがないと想定できる。そのためおおよそ 30 年なり 40 年単位でしか専攻分野の総入れ替 えは生じない。学会全体として専攻分野の変化が生じる主な理由は、会員の退会者(主には 所属機関の定年など)と新規入会者(主には大学院生)の入れ替えによって生じる世代効果 だと考えることができる。 2.2 対象とする名簿の概要 本稿は専攻分野の組み合わせを分析するので、名簿に記載されている専攻分野数が 2 つ以 上の会員のみを対象にする必要がある。そのさい、社会運動論という視座から会員名簿を用 いて緻密な分析を行った栗田(1997)のように、クラスター分析結果の解釈可能性を高める ため、選択数が 90 未満の専攻分野を除くことや「その他」を選択していない会員のみを対 象にすることも考えられる。選択数の少ない専攻分野を分析から除くという判断は、本稿の 問いである専攻分野間の関係をより明示的に提示できる点からも妥当である。そこで本稿は 栗田(1997:89, 94)を参考にして、専攻分野が 2 つ以上(最大 3 つ)の会員のみを分析の対 象とし、かつ 3 章で詳述するように選択数が各年度で下位 25% の専攻分野を分析から除外 した。ただし、社会学者の問題関心の多様さの 1 つの指標といえる「その他」――残余カテ ゴリーであるからこそ社会学者の問題関心の構造を把握するさいの重要な指標とみなせる― ―は、選択数の下位 25%に位置づけられていないかぎり分析の対象に含めた。 分析に用いた各名簿の概要は表 3 のとおりである(4)。 2.3 分析対象のデータセットの詳細 分析に用いたデータセットは、Ennis(1992:260)と太郎丸(2009)を参考に以下の手順 で作成した。たとえば 1973 年名簿であれば、専攻分野は 26 ある。会員はここから最大で 3 つを選んでいる。会員一人ずつに対し、この 26 の分野すべてにおいて選択している〈1〉 /選択していない〈0〉というように 26 個のダミー変数を作る。たとえば x 番目の会員が 1、 16、28 を選んでいたとすれば、1 から 26 の計 26 列のうち、1、16、28 の各列に 1 を入力 し、残りの列に 0 を入力する。この作業を全会員に対して行う。1973 年名簿には 1,191 人が 表 3 分析対象の名簿概要 名簿刊行年 会員数 専攻分野数 総選択数 備考 1973 1,191 26 2,129 ・優先順位を反映 1982 1,816 28 3,762 ・優先順位を反映 ・不明個所1 箇所 1991 2,339 31 5,829 ・優先順位を反映 2002 3,443 32 9,270 ・優先順位を反映 2010 3,616 32 9,438 ・優先順位は反映なし ・3 つ以上記載が 3 名 ・賛助会員が3 団体
記載されているので、1,191 × 26 のデータセットが得られることになる。そうして得られた データセットをもとに、1 を選んだ人が同時に 2 を選んでいる頻度、1 を選んだ人が同時に 3 を選んでいる頻度、……をすべて求め、26 × 25/2 の近接度を示すデータセットを作成する。 したがって、本稿の分析単位は会員ではなく専攻分野となる。 このデータセットを、統計ソフト R を用いてクラスター分析をした。クラスター分析は、 階層的クラスター分析を用いた(Ward 法、距離はユークリッド距離)。階層的クラスター分 析は、個体間の距離(類似度・非類似度)に基づきクラスターを順次作っていく手法である。 どの専攻分野が同じクラスターに位置づけられやすいのか、あるいはどの専攻分野間には大 きな隔たりがあるのかに注目をし、解釈していく。
3 分 析 結 果
3.1 1973 年の名簿分析 1973 年名簿に記載されている会員 1,191 人の各専攻分野の選択数は表 4 のとおりである。 専攻分野欄に 1 つも専攻分野の記載がない会員が一定数いるものの、専攻分野を 1 つ以上選 択している会員は 866 人(72.7%)、2 つ以上選択している会員は 771 人(64.7%)である。 まず単純集計の結果について確認する。もっとも多く選ばれているのは〈7.農漁山村・ 地域社会〉222 人であり、1973 年名簿では〈7.農漁山村・地域社会〉はおおよそ 5 人に 1 人弱(18.6%)が選択する人気の専攻分野であったことがわかる。続いて〈6.家族〉162 人、〈1. 社会哲学・社会思想・社会学史〉149 人が続く。戦後日本の社会学者の問題関心は農村や家 族にあったことは広く指摘されている。単純集計の結果からも、農村や家族に関心をもって 表 4 1973 年名簿の専攻分野の選択数(N=2,129) 専攻分野 N 専攻分野 N 1.社会哲学・社会思想・社会学史 149 14.教育 103 2.一般理論 124 15.文化・宗教 121 3.社会変動論 70 16.社会心理・社会意識 131 4.社会集団・組織論 91 17.コミュニケーション・情報・シンボル 72 5.階級・階層・社会移動 81 18.社会病理・社会問題 134 6.家族 162 19.医療・社会福祉 116 7.農漁山村・地域社会 222 20.計画・開発 40 8.都市 112 21.調査法・測定法 43 9.国際関係論・地域研究(エリア・スタディ) 61 22.経済 18 10.政治 59 23.社会史 3 11.社会運動・運動論 36 24.法律 5 12.経営・産業・労働 135 25.民族・民俗 8 13.人口 30 26.余暇・スポーツ 3いた社会学者が多くいたことを確認できる。 本稿の関心は、こうした専攻分野がいかにほかの専攻分野と同時に選ばれていたのか/い ないのかという専攻分野の組み合わせである。そこで以下ではクラスター分析の解釈可能性 を高めるため、全 26 の専攻分野をすべて分析対象にはせずに、選択数が下位 25%となる〈13. 人口〉、〈22.経済〉、〈23.社会史〉、〈24.法律〉、〈25.民族・民俗〉、〈26.余暇・スポーツ〉 の 6 分野を除いて、残りの専攻分野(N = 2,062)のみで分析を進めた。また上記の 6 分野 を除くことで専攻分野が 0 か 1 つのみとなった会員も、専攻分野の組み合わせを検討できな いため除いた。最終的な分析対象は 757 人(63.6%)である。757 人の会員の専攻分野(N = 1,955)を対象にクラスター分析をした(図 1)。 図 1 からは 5 つのクラスターを確認することができる。上から、〈8.都市〉から〈20.計画・ 開発〉までの選択数が少なく特徴的なまとまりがない【その他クラスター】、〈15.文化・宗教〉 から〈2.一般理論〉までの【哲学・理論クラスター】、〈16.社会心理・社会意識〉から〈12. 経営・産業・労働〉までの【集団論クラスター】、〈7.農漁山村・地域社会〉のみで 1 つの クラスターを構成している【農村クラスター】、そして〈6.家族〉から〈19.医療・社会福 祉〉までの【家族・福祉クラスター】である。 1973 年名簿で特徴的なことは、もっとも多い 222 人が選択をした〈7.農漁山村・地域社会〉 が、独立して 1 つのクラスターを構成していることだ。【農村クラスター】は、同様に選択 8.都市(112) 14.教育(103) 5.階級・階層・移動(81) 3.社会変動論(70) 17.コミュ・情報・シンボル(72) 9.国際関係・地域(61) 10.政治(59) 21.調査・測定法(43) 11.社会運動(36) 20.計画・開発(40) 15.文化・宗教(121) 1.哲学・思想・学史(149) 2.一般理論(124) 16.社会心理・意識(131) 4.社会集団・組織論(91) 12.経営・産業・労働(135) 7.農漁山村・地域(222) 6.家族(162) 18.社会病理・問題(134) 19.医療・福祉(116) 50 100 150 200 250 300 350 図1 1973年名簿の専攻分野のクラスター分析
数が多い【家族・福祉クラスター】と近い問題関心を有していることも確認できる。ともに 選択数が多いということだけではなく、農村研究と家族研究は 1970 年代までの研究者には 主流の問題関心の組み合わせとして考えられていたといえよう。 また現在に通じるクラスターとしては、いわゆる理論系のクラスター――【哲学・理論ク ラスター】と【集団論クラスター】――が、ほかのクラスターから独立してまとまりがある ことが確認できる。後述するが、【哲学・理論クラスター】の独立性は戦後一貫して現在ま で続いている。これは問題関心のうえで、ほかの専攻分野と重複が生じにくく、断絶がある ことを示唆していると解釈することもできよう。さらに、〈15.文化・宗教〉は 2010 年名簿 にかけて選択する会員が大幅に増える専攻分野であり、2018 年現在に近付くにつれ〈1.社 会哲学・社会思想・社会学史〉と〈2.一般理論〉とは異なる独立したクラスターを構成し ていく。そのことを考えると、現在ではそれぞれ独立した問題関心だと思われているものが、 1973 年名簿においては【哲学・理論クラスター】として結びつきが強いことは興味深い。 3.2 1982 年の名簿分析 1982 年名簿に記載されている会員 1,816 人の各専攻分野の選択数は表 5 のとおりである。 1,816 人のうち、専攻分野を 1 つ以上選択している会員は 1,439 人(79.2%)、2 つ以上選択 している会員は 1,324 人(72.9%)である。1973 年名簿と同様にクラスター分析の解釈可能 性を高めるため、全 28 分野のうち選択数が下位 25%の専攻分野――〈13.人口〉、〈22.経 済〉、〈23.社会史〉、〈24.法律〉、〈26.余暇・スポーツ〉、〈27.差別〉、〈28.その他〉―― を分析から除き、残りの専攻分野(N = 3,502)のみで分析を進めた。また上記の 7 分野を 除くことで専攻分野が 0 か 1 つのみとなった会員も専攻分野の組み合わせを検討できないた 表 5 1982 年名簿の専攻分野の選択数(N=3,762) 専攻分野 N 専攻分野 N 1.社会哲学・社会思想・社会学史 209 15.文化・宗教 189 2.一般理論 262 16.社会心理・社会意識 245 3.社会変動論 91 17.コミュニケーション・情報・シンボル 141 4.社会集団・組織論 162 18.社会病理・社会問題 229 5.階級・階層・社会移動 125 19.医療・社会福祉 230 6.家族 274 20.計画・開発 62 7.農漁山村・地域社会 338 21.調査法・測定法 76 8.都市 179 22.経済 38 9.国際関係論・地域研究(エリア・スタディ) 85 23.社会史 53 10.政治 80 24.法律 27 11.社会運動・運動論 67 25.民族・民俗 81 12.経営・産業・労働 193 26.余暇・スポーツ 30 13.人口 36 27.差別問題 26 14.教育 184 28.その他 50
め除いた。最終的な分析対象は 1,280 人(70.5%)である。1,280 人の会員の専攻分野(N = 3,357)を対象にクラスター分析をした(図 2)。 1982 年名簿において、もっとも多く選択されている専攻分野は依然として〈7.農漁山村・ 地域社会〉338 人である。ついで、〈6.家族〉274 人、〈2.一般理論〉262 人となる。1973 年名簿に続き、〈7.農漁山村・地域社会〉は 1 つの分野で独立したクラスターを構成している。 会員比で考えると、依然として 5 人に 1 人弱(18.6%)が選択している分野といえる。1980 年代においても【農村クラスター】と【家族・福祉クラスター】の関係には大きな変化は生 じておらず、専攻分野の組み合わせとしてはもっともオーソドックスなものの 1 つであった ことが伺える。 また、1973 年名簿にあった【集団論クラスター】は解消し、〈4.社会集団・組織論〉と〈12. 経営・産業・労働〉は上端に小クラスターを作っているが、〈16.社会心理・社会意識〉は〈15. 文化・宗教〉と〈17.コミュニケーション・情報・シンボル〉とともに【コミュニケーション・ クラスター】を作っている。のちに専攻分野の選択数でトップクラスになる〈17.コミュニ ケーション・情報・シンボル〉が【その他クラスター】から【コミュニケーション・クラスター】 に入ってきている。そして、この【コミュニケーション・クラスター】は、1982 年以降じょ じょに学会内の最大クラスターの 1 つにまで成長していく。1982 年名簿以降、【哲学・理論 4.社会集団・組織論(162) 12.経営・産業・労働(193) 14.教育(184) 8.都市(179) 5.階級・階層・移動(125) 3.社会変動論(91) 25.民族・民俗(81) 21.調査・測定法(76) 11.社会運動(67) 20.計画・開発(62) 9.国際関係・地域(85) 10.政治(80) 1.哲学・思想・学史(209) 2.一般理論(262) 16.社会心理・意識(245) 15.文化・宗教(189) 17.コミュ・情報・シンボル(141) 7.農漁山村・地域(338) 6.家族(274) 18.社会病理・問題(229) 19.医療・福祉(230) 0 100 200 300 400 500 図2 1982年名簿の専攻分野のクラスター分析
表 6 1991 年名簿の専攻分野の選択数(N=5,829) 専攻分野 N 専攻分野 N 1.社会哲学・社会思想・社会学史 324 17.コミュニケーション・情報・シンボル 280 2.一般理論 367 18.社会病理・社会問題 252 3.社会変動論 139 19.社会福祉・社会保障・医療 348 4.社会集団・組織論 160 20.計画・開発 89 5.階級・階層・社会移動 149 21.社会学研究法・調査法・測定法 134 6.家族 388 22.経済 52 7.農漁山村・地域社会 396 23.社会史・民俗・生活史 212 8.都市 223 24.法律 35 9.生活構造 109 25.民族問題・ナショナリズム 82 10.政治・国際関係 140 26.比較社会・地域研究(エリア・スタディ) 220 11.社会運動・集合行動 108 27.差別問題 80 12.経営・産業・労働 284 28.性・世代 140 13.人口 46 29.知識・科学 69 14.教育 261 30.余暇・スポーツ 44 15.文化・宗教・道徳 305 31.その他 70 16.社会心理・社会意識 323 クラスター】と【コミュニケーション・クラスター】は、一貫してほかの専攻分野とは距離 がある。 専攻分野の組み合わせという観点からは、【農村クラスター】、【家族・福祉クラスター】、 そして【哲学・理論クラスター】は伝統的なクラスターといえよう。これらは、日本社会学 会の伝統的な問題関心のまとまりであると指摘できる。 3.3 1991 年の名簿分析 1991 年名簿に記載されている会員 2,339 人の各専攻分野の選択数は表 6 のとおりである。 このうち、専攻分野を 1 つ以上選択している会員は 2,212 人(95.0%)、2 つ以上選択してい る会員は 2,033 人(86.9%)である。これまでと同様に全 31 分野のうち選択数が下位 25% の専攻分野――〈13.人口〉、〈22.経済〉、〈24.法律〉、〈27.差別問題〉、〈29.知識・科学〉、 〈30.余暇・スポーツ〉、〈31.その他〉――を分析から除き、残りの専攻分野(N = 5,433) のみで分析を進めた。また上記の 7 分野を除くことで専攻分野が 0 か 1 つのみとなった会員 も専攻分野の組み合わせを検討できないため除いた。最終的な分析対象は 1,951 人(83.4%) である。1,951 人の会員の専攻分野(N = 5,189)を対象にクラスター分析をした(図 3)。 これまでもっとも多くの会員が選択してきた〈7.農漁山村・地域社会〉は 1991 年名簿に おいても 396 人が選択しており、いまだ【農村クラスター】として独立している。しかし、〈6. 家族〉388 人、〈2.一般理論〉367 人などが迫る勢いとなり、もはや突出した専攻分野であ るとはいえなくなった。
1.哲学・思想・学史(324) 2.一般理論(367) 15.文化・宗教・道徳(305) 16.社会心理・意識(323) 17.コミュ・情報・シンボル(280) 4.社会集団・組織論(160) 12.経営・産業・労働(284) 8.都市(223) 23.社会・民俗・生活(212) 26.比較・地域研究(220) 14.教育(261) 28.性・世代(140) 5.階級・階層・移動(149) 21.研究・調査・測定法(134) 3.社会変動論(139) 10.政治・国際関係(140) 9.生活構造(109) 11.社会運動(108) 20.計画・開発(89) 25.民族・ナショナリズム(82) 7.農漁山村・地域(396) 6.家族(388) 18.社会病理・問題(252) 19.福祉・保障・医療(348) 400 500 600 100 200 300 図3 1991年名簿の専攻分野のクラスター分析 他方、【農村クラスター】と【家族・福祉クラスター】の関係にはいまだ大きな変化はない。 1973 年名簿から大きな変化がないということは、【農村クラスター】と【家族・福祉クラス ター】の問題関心の〈近さ〉がそれだけ強固であったことを示唆している。同様に変化の少 なさという点では、【哲学・理論クラスター】と【コミュニケーション・クラスター】がほ かの専攻分野から相対的に距離があることも、日本社会学の問題関心のまとまりという点か ら注目に値する。 1982 年名簿と 1991 年名簿の大きな違いは専攻分野ごとの選択数である。1982 年名簿では 〈7.農漁山村・地域社会〉が総選択数のうち9.0%を占めていたが、1991年名簿になると選択数・ 率で突出した専攻分野がなくなり、最大の〈7.農漁山村・地域社会〉396 人(総選択数の 6.8%) につづき、300 人以上に選択されている専攻分野が 7 つある。会員の問題関心が、これまで の〈7.農漁山村・地域社会〉への一極集中から、複数の専攻分野へと多様化・拡散していっ ている様子を伺い知ることができる。 次いで、【哲学・理論クラスター】と【コミュニケーション・クラスター】の独立性も注 目に値する。1973 年名簿から【哲学・理論クラスター】と【集団論】(と【コミュニケーション・
クラスター】)の相対的独立の構図はほぼ一貫しているが、1991 年名簿になるとさらに大き な変化が生じている。これまで全体を大きく 2 つのクラスターに分けると、【農村クラスター】 と【家族・福祉クラスター】で 1 つのまとまりを作り、【農村・家族・福祉】とそれ以外の まとまりであった。1991 年名簿以降は、全体を大きく 2 つのクラスターにわけると、【哲学・ 理論クラスター】と【コミュニケーション・クラスター】で 1 つのまとまりを作り、【哲学・ 理論・コミュニケーション】とそれ以外のまとまりとなる。日本社会学会の問題関心の特徴 という観点からいえば、【農村・家族・福祉】のまとまりに代わり【哲学・理論・コミュニケー ション】のまとまりが、選択数の上でも組み合わせの上でも特徴的な専攻分野群となったと いえるだろう。 なお、1982 年名簿と 1991 年名簿のあいだの 1985 年には、会員名簿に記載している専攻 分野数・分野名の大幅な見直しが行われている。クラスター分析の結果をみるかぎり、追加 された専攻分野の影響は、社会学(者)全体の問題関心の構造については限定的であったと いえる。 3.4 2002 年の名簿分析 2002 年名簿に記載されている会員 3,443 人の各専攻分野の選択数は表 7 のとおりである。 このうち、専攻分野を 1 つ以上選択している会員は 3,362 人(97.6%)、2 つ以上選択してい る会員は 3,200 人である(92.9%)。これまでと同様に全 32 分野のうち下位 25%の専攻分野 ――〈9.生活構造〉、〈13.人口〉、〈20.計画・開発〉、〈22.経済〉、〈24.法律〉、〈29.知識・ 表 7 2002 年名簿の専攻分野の選択数(N=9,270) 専攻分野 N 専攻分野 N 1.社会哲学・社会思想・社会学史 518 17.コミュニケーション・情報・シンボル 560 2.一般理論 502 18.社会病理・社会問題 340 3.社会変動論 185 19.社会福祉・社会保障・医療 572 4.社会集団・組織論 245 20.計画・開発 112 5.階級・階層・社会移動 221 21.社会学研究法・調査法・測定法 202 6.家族 525 22.経済 88 7.農山漁村・地域社会 441 23.社会史・民族・生活史 391 8.都市 313 24.法律 59 9.生活構造 123 25.民族問題・ナショナリズム 271 10.政治・国際関係 204 26.比較社会・地域研究(エリア・スタディ) 438 11.社会運動・集合行動 210 27.差別問題 157 12.経営・産業・労働 360 28.性・世代 357 13.人口 50 29.知識・科学 141 14.教育 355 30.余暇・スポーツ 84 15.文化・宗教・道徳 532 31.環境 164 16.社会心理・社会意識 460 32.その他 90
1.哲学・思想・学史(518) 2.一般理論(502) 15.文化・宗教・道徳(532) 16.社会心理・意識(460) 17.コミュ・情報・シンボル(560) 19.福祉・保障・医療(572) 6.家族(525) 28.性・世代(357) 4.社会集団・組織論(245) 12.経営・産業・労働(360) 8.都市(313) 25.民族・ナショナリズム(271) 5.階級・階層・移動(221) 21.研究・調査・測定法(202) 11.社会運動(210) 31.環境(164) 10.政治・国際関係(204) 3.社会変動論(185) 27.差別問題(157) 14.教育(355) 18.社会病理・問題(340) 26.比較・地域研究(438) 7.農山漁村・地域(441) 23.社会・民族・生活(391) 400 600 800 1000 200 図4 2002年名簿の専攻分野のクラスター分析 科学〉、〈30.余暇・スポーツ〉、〈32.その他〉――を分析から除き、残りの専攻分野(N = 8,523) のみで分析を進めた。また上記の 8 分野を除くことで専攻分野が 0 か 1 つのみとなった会員 も専攻分野の組み合わせを検討できないため除いた。最終的な分析対象は 3,082 人(89.5%) である。3,082 人の会員の専攻分野(N = 8,249)を対象にクラスター分析をした(図 4)。 2002 年になると〈7.農山漁村・地域社会〉441 人はもはや選択数において 1 位ではない。 これまで〈7.農山漁村・地域社会〉は社会学者の主要な問題関心と考えられてきたが、も はや 2002 年においては数ある専攻分野の 1 つに過ぎなくなってしまった。代わって、〈19. 社会福祉・社会保障・医療〉572 人、〈17.コミュニケーション・情報・シンボル〉560 人、〈15. 文化・宗教・道徳〉532 人、〈6.家族〉525 人、〈1.社会哲学・社会思想・社会学史〉518 人、 〈2.一般理論〉502 人、〈16.社会心理・社会意識〉460 人が台頭しており、これまで 1 位を 堅持してきた〈1.農山漁村・地域社会〉は 8 位になっている。 なにより注目に値するのが〈19.社会福祉・社会保障・医療〉と〈17.コミュニケーション・ 情報・シンボル〉の選択数が急増していることである。なぜ会員はこれらの専攻分野を選択 するようになったのか。日本社会学会では 1980 年代以降、新規入会の会員数はゆるやかに
増加してきており、2010 年あたりまでは順調に会員数が増えていた(齋藤 2012:10)。また、 1991 年には大学院の量的整備と重点化政策が実施され、大量の大学院生がこの時期以降に 続々と入会したことが考えられる(齋藤 2013:88)。とくに選択数が多い上位 2 つの専攻分 野をみると、〈19.社会福祉・社会保障・医療〉は若手社会学者の問題関心が社会問題を反 映する傾向が強くなった(あるいは社会学者が考える社会問題が福祉系に移っていった)可 能性がある。また、〈17.コミュニケーション・情報・シンボル〉は、いわゆるポスト構造 主義などの現代思想がこの時期の社会学者の問題関心に大きな影響を与えた可能性や、サブ カル研究などの人気も影響しているのかもしれない。 こうした選択数の大きな変化はクラスター分析の結果にも影響を与えており、これまでの 5 つのクラスターの枠組みでは解釈が難しくなってきている。まず【農村クラスター】はこ れまでのクラスター分析の結果と比べてまったく異なる様相を呈している。〈7.農山漁村・ 地域社会〉が【家族・福祉クラスター】と分離し、もはや独立した 1 つのクラスターではな く、〈23.社会史・民俗・生活史〉と〈26.比較社会・地域研究(エリア・スタディ)〉に近 い問題関心になり【地域クラスター】とでも呼べるクラスターを構成している。 また、【家族・福祉クラスター】もまとまりがある専攻分野として選択されてはいるが、 組み合わせには変化が生じている。同時に選択される専攻分野はこれまでの〈18.社会病理・ 社会問題〉ではなく、〈28.性・世代〉となった。この変化の要因として、ジェンダー研究 の隆盛や、女性研究者の増加が影響している可能性がある。 選択数のうえでもクラスター分析結果の上でも相変わらず目をひくのは【哲学・理論クラ スター】と【コミュニケーション・クラスター】である。問題関心をほかの専攻分野と共有 しにくいと考えられるこの 2 つのクラスターの独立性は、日本社会学の一貫した問題関心の 構造だといえる。さらに、クラスター分析の樹形図の各専攻分野をつなぐ縦線が長くなって いることから、各専攻分野の違いが大きくなっている(=専攻分野ごとの独立性が高まって いる)可能性が示唆されている。 3.5 2010 年の名簿分析 2010 年名簿に記載されている会員 3,613 人の各専攻分野の選択数は表 8 のとおりである。 このうち、専攻分野を 1 つ以上選択している会員は 3,512 人(97.2%)、2 つ以上選択してい る会員は 3,279 人(90.8%)である。これまでどおり全 32 分野のうち下位 25%の専攻分野― ―〈3.社会変動論〉、〈9.生活構造〉、〈13.人口〉、〈20.計画・開発〉、〈22.経済〉、〈24.法律〉、 〈30.余暇・スポーツ〉、〈32.その他〉――を分析から除き、残りの専攻分野(N=8,746)の みで分析を進めた。また上記の 8 分野を除くことで専攻分野が 0 か 1 つのみとなった会員も 専攻分野の組み合わせを考慮することができないため除いた。最終的な分析対象は 3,163 人 (87.5%)である。3,163人の会員の専攻分野(N=8,420)を対象にクラスター分析をした(図 5)。
表 8 2010 年名簿の専攻分野の選択数(N=9,438) 専攻分野 N 専攻分野 N 1.社会哲学・社会思想・社会学史 493 17.コミュニケーション・情報・シンボル 577 2.一般理論 476 18.社会病理・社会問題 324 3.社会変動論 125 19.社会福祉・社会保障・医療 629 4.社会集団・組織論 229 20.計画・開発 92 5.階級・階層・社会移動 238 21.社会学研究法・調査法・測定法 268 6.家族 530 22.経済 64 7.農山漁村・地域社会 463 23.社会史・民族・生活史 399 8.都市 342 24.法律 43 9.生活構造 106 25.民族問題・ナショナリズム 290 10.政治・国際関係 206 26.比較社会・地域研究(エリア・スタディ) 455 11.社会運動・集合行動 211 27.差別問題 186 12.経営・産業・労働 349 28.性・世代 397 13.人口 51 29.知識・科学 133 14.教育 364 30.余暇・スポーツ 102 15.文化・宗教・道徳 560 31.環境 193 16.社会心理・社会意識 434 32.その他 109 1.哲学・思想・学史(493) 2.一般理論(476) 15.文化・宗教・道徳(560) 16.社会心理・意識(434) 17.コミュ・情報・シンボル(577) 19.福祉・保障・医療(629) 6.家族(530) 28.性・世代(397) 14.教育(364) 18.社会病理・問題(324) 4.社会集団・組織論(229) 12.経営・産業・労働(349) 25.民族・ナショナリズム(290) 11.社会運動(211) 31.環境(193) 10.政治・国際関係(206) 27.差別問題(186) 29.知識・科学(133) 5.階級・階層・移動(238) 21.研究・調査・測定法(268) 26.比較・地域研究(455) 23.社会・民族・生活(399) 7.農山漁村・地域(463) 8.都市(342) 400 600 800 1000 200 図5 2010年名簿の専攻分野のクラスター分析
クラスターの大きなまとまりとして、上から【哲学・理論クラスター】、【コミュニケーショ ン・クラスター】、【家族・福祉クラスター】、〈14.教育〉から〈21.社会学研究法・調査法・ 測定法〉までの【その他クラスター】、そして【地域クラスター】(〈8.都市〉が加わる)と なっている。 なかでももっとも選択されている〈19.社会福祉・社会保障・医療〉629 人を含む【家 族・福祉クラスター】や、ついで選択数の多い〈17.コミュニケーション・情報・シンボル〉 577 人を含む【コミュニケーション・クラスター】の台頭は 2002 年に続き顕著である。 とくに〈19.社会福祉・社会保障・医療〉は、もっとも多くの 629 人が選択しており注 目に値する。会員比で考えると 17.4%が選択していることになり、1973 年名簿のさいに〈7. 農山漁村・地域社会〉が有していたであろう社会学者の問題関心の主流のポジションにいま は〈19.社会福祉・社会保障・医療〉があるといえるのかもしれない。〈19.社会福祉・社 会保障・医療〉は、〈6.家族〉と〈28.性・世代〉と近い問題関心となっている。1991 年 に引き続きジェンダー研究の隆盛、女性研究者の増加に加え、さらに社会問題としての社会 福祉という論点の浮上や、社会福祉関係の実務家の参入も要因の 1 つといえる。科学研究費 助成事業において社会学の分科の下に細目として社会学と社会福祉学があることからも〈19. 社会福祉・保健・医療〉の勢いについては納得がしやすい。他方で、戦後長くつづいてきた 〈7.農山漁村・地域社会〉の覇権は、すでに終わってしまったと考えることが妥当だろう。
4 結論に代えて
本稿は、日本社会学会の会員名簿に記載されている専攻分野を対象に、社会学(者)の問 題関心の構造をクラスター分析を用いて視覚化し、分析・考察してきた。各年度の名簿に記 載されている専攻分野は、社会学者の問題関心を反映していると考えることができる。そし てクラスター分析の結果は個々の社会学者の問題関心を集約して扱っていることから、社会 学という学問の集合的な水準での問題関心を反映していると考えることができる。したがっ て、本稿は会員の専攻分野の組み合わせをとおして社会学の問題関心の構造を析出できたと いえる。ここまで議論してきたとおり、社会学の問題関心の構造にはいくつかの特定のパター ンがあることがわかった。 1973 年名簿から 2010 年名簿までの変化を踏まえると、戦後日本の社会学者の問題関心は、 安定した専攻分野のまとまりが一部に確認できる一方で、多くの問題関心のまとまりは強固 には固定化されていないことを確認できた。具体的には〈7.農山漁村・地域社会〉が日本 の社会学者の一大問題関心であった 1970 年代から、じょじょに専攻分野としての中心性を 失っていく様子を記述することができた。さらに、〈7.農山漁村・地域社会〉と一緒に選択 されてきた専攻分野が、選択数が多い〈6.家族〉を中心としたものから、相対的に選択数が少ない専攻分野に移っていくことも記述できた。これは〈7.農山漁村・地域社会〉の選 択数が減少してきて学会内の問題関心としての脱中心化が進んだということだけではなく、 〈6.家族〉の選択のされかたが、〈28.性・世代〉や〈19.社会福祉・社会保障・医療〉と いったほかの専攻分野とより強く結びつくかたちで選択されることが増え、とくに〈19.社 会福祉・社会保障・医療〉の選択数が急激に上昇していくなかで〈7.農山漁村・地域社会〉 と決別をしたというストーリーを読み取ることができよう。 他方、〈17.コミュニケーション・情報・シンボル〉に着目をすると、1973 年名簿では【そ の他クラスター】に位置づけられ、選択数という点でも会員にとって主たる専攻分野とは 決して呼べなかった。しかし、じょじょに選択数が増え、〈15.文化・宗教・道徳〉と〈16. 社会心理・社会意識〉とともに【コミュニケーション・クラスター】を構成し、学会内の問 題関心の一大派閥になっていく様子を記述することができた。 もちろん本稿はありうる解釈の数例を示せたに過ぎないが、本稿の知見の意義は 3 つにま とめることができる。1 つは、専攻分野の選択数の増減という数に着目をしてきたこれまで の研究群に対して、社会学者の問題関心の構造の変化を専攻分野の組み合わせという視点か ら捉えたこと。この視点によってはじめて、日本社会学会の会員が有する問題関心の〈近 さ〉と〈遠さ〉という構造的な見取り図を提示することができた。2 つに、専攻分野間の関 係・断絶に問題関心をもっていた研究群に対しては、単年度のスナップショット分析ではな く、時系列変化を提示しえたこと。これにより、社会学知の内実により迫ることが可能となっ た。3 つに、社会学的研究は多様だといわれるが、その多様さのなかにも、特定のいくつか の問題関心の組み合わせが見出せることを示せた。 今回の分析を踏まえ、以下の 3 点でさらなる継続的な分析・考察が求められる。1 つに、 多変量解析の別の手法を試すことで結果の解釈をより多面的・多層的に行い、解釈の妥当性 を高める必要がある。今回は複数の手法の結果を比較できなかった。もとより、クラスター 分析でも複数の方法で行うことが可能である。クラスター分析では、出力結果そのものに意 味があるというよりも、それらを踏まえどのような解釈を導くのか――本稿に即していえば、 どのようなストーリーで社会学史を記述するのか――がより重要であろう。また会員名簿を 用いた先行研究では、多次元尺度構成法をクラスター分析と併用した研究も多い。齋藤(2018) は、日本社会学会の名簿分析において、多次元尺度構成法を用いた視覚化とその解釈を試み ている。多次元尺度構成法を用いることで、今回の分析とは別の角度から専攻分野間の構造 を捉えることができる。本稿の知見と照合することで、社会学者の問題関心の構造をさらに 立体的に記述することができるようになるだろう(5)。 2 つに、会員名簿を用いた分析が、ほかの外的な条件とどのような関係にあるのかを明ら かにする必要がある。日本社会学会内のデータとの関連でいえば、たとえば学会誌の掲載論 文タイトルの推移や学会報告の報告テーマの推移と本稿の結果を突き合わせることで、より
重層的な解釈が可能となる。またより広い文脈で考えれば、会員の専攻分野は、日本社会学 会と隣接する諸学問領域の動向や関連学会の動向とも無縁ではない。必要に応じて、日本社 会学会外のデータとの関係も考察に含む必要がある。 3 つに、本稿の分析では、年齢、性別、職位(身分)、地域などの属性を解釈のさいに加 味していない。これらによる違いも無視できない可能性がある(Ennis 1992:264)。専攻分 野ごとに性差や年齢差などの偏りがあるのだとしたら、それらも分析すべき対象といえるか らだ(Daipha 2001:89)。データ上の制約があるが、とくに年齢ごとに分析ができるならば、 日本の社会学者の問題関心の構造を分析するさい、世代間の差異についてより深い考察が可 能となるだろう。ほかの外的要因とあわせてさらに検討していくことが望まれる。 このようにさらなる展開の余地は大いにあるが、本稿は会員名簿を対象に社会学者の問題 関心の構造を記述すると同時に、将来の問題関心のトレンドの推移についても経験的に議論 をするための基礎的なデータを提供することができた。こうした経験的データによる日本の 戦後社会学史の記述の試みが続くことで、日本の社会学者の問題関心はもとより、学問とし ての社会学の問題関心の構造もまた立体的に記述することが可能になるだろう。本稿もそう した研究の一助となれば幸いである。 註 (1)会員名簿の専攻分野の選択数の増減から、学会内の問題関心のトレンドを分析しようという 試みは日本以外でも行われている。たとえば、イギリス社会学の例として Halsey(2004)、ア メリカ社会学の例として Kinloch(1988)、そして韓国社会学の例として Lim(2000)を挙げる ことができる。 (2)本稿は決して主観的なストーリーに基づく社会学史の記述に批判的なわけではない。主観的 なストーリーに基づく学史と、経験的データに基づく学史の 2 つは対立的なものでも、まし てや排他的なものでもないと考えている。むしろ、経験的データを解釈するさいには、主観 的なストーリーに基づく学史を参照点とせねばならないことのほうが多い。これらの方法論 に基づく学史は相互に補い合うことで、学史の記述が豊かになるのであって、どちらも必要 な方法論であると考えるべきであろう。 (3)日本社会学会の専攻分野の追加・修正の詳細については、齋藤(2015)に詳しい。会員名簿 を用いた分析の実施やその結果を解釈するさいには、専攻分野数・専攻分野名の変更を加味 する必要があり、単純な経年比較には慎重になるべきである。 (4)2010 年名簿には、専攻分野を 3 つ以上記載している会員が 3 人いる。また、賛助会員が 3 団 体ある。この 3 人と 3 団体については、表 3 の会員数には含めているが分析のさいにはあら かじめ除いている。 (5)Daipha(2001:88)が述べるように、学会会員の分析を、社会学そのものの分析と解釈するこ とには慎重になる必要がある。本稿は、日本社会学会の会員名簿をもとに、学会の問題関心 の構造の変化を、1973 年名簿からその後おおよそ 10 年単位で記述した。本稿の分析結果であ る日本社会学会の問題関心の構造が、日本の社会学の問題関心の構造とどこまで同一視でき るかは、別の経験的データとの照らし合わせを経る必要がある。
参考文献
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The Japan Sociological Society Members’ Field Choices
and their Fields’ Similarities
― Structural Analysis of Sociological Knowledge Using a Cluster Analysis ―
by
Saito Keisuke
Okayama University
Keywords: The Japan Sociological Society, cluster analysis, directory analysis, structure of
knowledge, major field
What are the major topics studied by sociologists? This question has always attracted the attention of many researchers. Empirical data of The Japan Sociological Society (JSS) provide a large body of research that can be used to address this question using two main methods. The first method involves focusing on changes in the number of selections concerning certain specialties that sociologists study. The second involves an analysis from the perspective of the similarities between sociologists’ selected fields; we approach these topics by using a multivariate analysis such as a cluster analysis and multidimensional scaling. We gathered data from the list of the major sociology fields described in the membership list of the JSS and presented a solution to this research question by using a cluster analysis. This study analyzed the similarities between the fields selected by JSS members. The selected rosters that this paper analyzed were published in 1973, 1982, 1991, 2002, and 2010. We arranged the analysis results for the individual years in chronological order and discussed it. Based on the analysis, topics such as “rural areas” and “families” have been among the main concerns of sociologists since the 1970s. It also seems as if current mainstream interests are changing to “culture” and “communication.” These results also showed that sociologists with diverse research interests fall into certain patterns concerning their points of interest. This study’s description of the structure of sociological topics provides useful data for discussing future concerns in the field.