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表情の真偽判断における発達的機序の検討

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Academic year: 2021

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私たちは日々生活する中で,様々な感情を経験 することだろう。そうして経験された感情は,表 情のみなど単一の情報としてだけ表出されるこ とは稀であり (Planalp, DeFrancisco, & Rutherford, 1996),表情や音声,体の動きなど複数の箇所か ら表出され,また複数の情報として表出された感 情は, どれか一つのみが認識されるわけではな く, 統合された上で認識される (e.g., Bänziger, Grandjean, & Scherer, 2009;Schirmer & Adolphs, 2017)。例えば 5 か月児でも,喜びの音声が聴こ えてきたときに,怒りの姿勢ではなく喜びの姿勢 の方を長く見るなど,乳児期から複数の表出に注 意を向け,それらの整合性を認識することはでき (e.g., Heck et al., 2018;Vaillant-Molina, Bahrick, &

Flom, 2013;Zieber et al., 2014a, 2014b), その後幼 児期や児童期を通し,情報に重みづけをしなが ら統合的に感情を読み取るようになっていく (Blanck et al., 1982;Bugental et al., 1970;Gil,

Hattouti, & Laval, 2016;池田・針生, 2016)。この ように私たちは,他者の感情を読み取る際,複数

の手がかりに注意を向けているが,その中でも表 情は特に重視される手がかりである (Collignon et al., 2008;Massaro & Egan, 1996;Van den Stock, Righart, & de Gelder, 2007)。例えば大人を対象と した研究では,表情と同時に,言語内容は「どう しよう」など中立だが口調は感情を伝えるような 音声を提示した時,それらの伝える感情が不一致 だと,口調よりも表情の感情の方が重視されるこ とが示されている(渡辺・望月, 2004)。そして, この表情という手がかりは,子どもにとっても感 情を読み取りやすいものである。例えば,提示さ れた感情語が示す表情図を選択肢の中から選ぶ ことは,幾つかの表情に関しては 2 歳児でも可能 であり (Denham, 1986;櫻庭・今泉, 2001),その 後 3 歳以降に発達していくとされている (Pons, Harris, & Rosnay, 2004)。一方で,音声からの感情 認識は,3 歳児にも可能であるものの(池田・針 生, 2018),2, 3 歳の時点でも表情に比べると難 しいことが指摘されている (Quam & Swingley, 2012)。また, 体の動きからの感情認識も4歳以降 に発達していくこと (Boone & Cunningham, 1998) が示されている。ラベルを用いた感情認識は幼児

表情の真偽判断における発達的機序の検討

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池 田 慎之介

東京大学

The development of judging the authenticity of facial expressions

Shinnosuke IKEDA The University of Tokyo

This paper investigated the developmental process by which children learn to appropriately judge the authenticity of a facial expression that is deliberately controlled. The results showed that difficulty in judg-ment varied, depending on the type of facial expression, and that smiles were easy to judge. However, chil-dren cannot scan the eyes, which provide a useful cue for smiles. Through reviewing previous studies, the following process was suggested. Children are initially poor at scanning facial expressions and do not know which part of the face they need to look at. Children then generally start to look at the eyes when they are about to recognize an emotion from a facial expression. Furthermore, they compare the situation and the facial expression and notice inconsistencies between them. They thereafter learn that the eyes appear different when a person does not actually feel happy. Finally, future research directions are discussed.

Key words: facial expression, authenticity, emotion recognition, development キーワード:表情,真実性,感情認識,発達

1) 本研究は JSPS 特別研究員奨励費(課題番号 17J03631) の助成を受けた。

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期以降に可能になっていくが(Berman, Chambers, & Graham, 2016),やはり子どもにとっては,そ の他の感情表出に比べ,表情からは感情を読み取 りやすいと言える。 では,大人が重視し,かつ子どもも感情を読み 取りやすい手がかりである表情は,常に信頼でき る手がかりなのかというと,実はそういうわけで はない。大人も,子どもですら,表情を調整し本 当の感情を隠すことができ (e.g., Cole, 1986;池 田, 2018b;Matsumoto et al., 1998),また表情は音 声や体の動きなどに比べ比較的操作しやすいとも されている(Rosenthal & DePaulo, 1979)。そのた め,大人は感情の手がかりとして,表情以外に も,その表出がなされている状況が参照可能な場 合,その状況が表情を操作させるようなものかど うかを考慮した上で(Nakamura, Buck, & Kenny, 1990),時には表情よりも状況の方を重視して感 情を読み取っている (Goldberg, 1951;Goodenough & Tinker, 1931;Kayyal, Widen, & Russell, 2015; Munn, 1940)。子どもも,例えば 3 歳児も状況の 描かれたシナリオから登場人物の感情を読み取れ るなど,状況から感情を読み取れるようになって いく (DeConti & Dickerson, 1994;Stein & Levine, 1989)。更に,表情が状況によっては操作されう ることを理解するにつれ,(例えば呈示されたシ ナリオと表情が異なる感情を示すときにシナリオ を重視するなど)次第に状況を考慮しながら表情 から感情を読み取るようになっていく (Gross & Ballif 1991;Hortaçsu & Ekinci, 1992;Reichenbach & Masters, 1983)。 このように,私たちは表情が操作されうること に鑑み,時に表情を疑いながら,状況と照合して 表出者の感情を読み取っていると言える。ただ し,状況が常に表情を凌駕する手がかりになるか というと,またしてもそういうわけでもない。例 えばプレゼントや料理がたまたま自分の好みでは なかった際など,意図的にネガティブな表出を抑 えポジティブ感情を表出することは多い(Soppe, 1988)。このように,必ずしも状況をもとに偽り のポジティブ表出を看破できるわけではなく,本 当に喜んでいるかどうかわからない笑顔というの は, 日常に溢れていると言える (Bugental, 1986)。 他者の立場にたって感情を理解することは対人関 係において大切であるため (e.g., Iannotti, 1978), こういった場面においても,他者の偽の表出を看 破し,本当の感情を読み取ることは重要であると 考えられる。 では,こうした偽の表情は見破ることができな いのだろうか。実のところ,表情は比較的操作し やすいものではあるものの,私たちが意図的に操 作し表出した偽の表情は真の表情2)に比べ不完全 であることが指摘されている(Ekman, 1992b)。 特にその日常での接する頻度から,偽の笑顔が真 の笑顔とどう異なるか,或いはその違いから真偽 判断が正確にできるかについて多くの研究がな されている (McKeown, Sneddon, & Curran, 2015)。 例えば Quadflieg, Vermeulen, and Rossion (2013) は, 真の笑顔と偽の笑顔を提示し,それらの表出者が どれくらい楽しそうかや,その笑顔がどれくらい 自然であるかなどを 9 件法で回答させた。その 結果,真の笑顔の方が有意に,表出者が楽しそう であり笑顔も自然なものであると回答されてい た。また,大人はこうした笑顔の真偽判断を,主 に目の部位に注目して行っている一方で(Ekman, Friesen, & O’Sullivan, 1988),子どもは主に笑顔の 表出強度に基づいて真偽を判断しており,目など の部位を手がかりにできるのは 10 歳頃からだ とされている (Del Giudice & Colle, 2007;Thibault et al., 2009)。表出強度が弱いからといって,必ず しもそれが偽の表情とは限らないことを踏まえる と,ある表情内での部位の食い違いの方が,より 正確な手がかりであると考えられる。こうした部 位間の食い違いをもとに表情の真偽を判断できる ようになるのは,比較的遅いと言える。 確かに,細かな部位間の食い違いをもとに表情 の真偽を判断するのは難しいだろう。我々は,喜 びや怒りといった表情について,ある程度は幅を 持っている一方で,異なる感情との間に明確な境 界が存在するような表情のカテゴリーを有してお り,その中の典型例,すなわちプロトタイプと比 2) 内面の感情と一致した自発的な表情や笑顔は, genuine, authentic, Duchenne smile, enjoyment smile などと表現され, そうではない表情や笑顔は,fake, posed, simulated, polite smile, nonenjoyment smile などと表現される。本稿では特に 断りのない限り,前者にあたる内面の感情と一致した表情 を真の表情,後者にあたる意図的に作られた表情を偽の表 情と呼称することとする。また後述するが,表情の真偽判 断を実験的に求める研究では,実際に気分誘導をすること で真の表情を生じさせ,また単にその表情のふりをするよ う求めることで,偽の表情を生じさせている。

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がかりとすることが重要である可能性に触れ,そ うした真偽判断が,社会的にどのように学習され ていくかについて考察する。

1.表情のカテゴリカルな認識

1.1 大人を対象とした研究 初めに,そもそも大人がどのように表情を認識 しているのか,表情カテゴリーという観点から検 討したい。大人は感情を表すような表情につい て,特定のカテゴリーに当てはめ,カテゴリカル に認識しているとされている (Fugate, 2013)。例 えば Fujimura et al. (2012) は,喜びと恐れ,或い は怒りと嫌悪を表す典型表情の写真を合成し,喜 び顔からなだらかに恐れ顔へと,或いは怒り顔か ら嫌悪顔へと変化していくそれぞれ 9 枚ずつの画 像群を作成した。その中には,例えば喜びが 12.5%,恐れが 87.5% の割合で合成された表情や, 怒りが 62.5%,嫌悪が 37.5% の割合で合成された 表情写真などが含まれていた。それらの写真を大 人に提示し,2 択で表情の示す感情を回答させた ところ,喜びも怒りも,それらが 62.5% の割合で 合成された表情になると選択される割合が上昇 し,それ以下の割合で合成された表情ではもう一 方の感情を選択する割合が高かった。これは,異 なる表情が混ざっていても,ある濃度を境に特定 の表情としてカテゴリカルに認識していたことを 意味している。また Roberson et al. (2007) は,恐 れ,喜び,怒りの表情写真について,その特徴が さらに強調されるよう加工することで,誇張され た表情写真を作成し,それがどのように認識され るかを検討した。その結果,誇張された表情もそ の表情カテゴリーにおけるプロトタイプに近づけ られて認識されることが示された。これは,恐れ や喜びが誇張された表情についても,見たままの (つまりプロトタイプを逸脱している)表情とし て捉えるわけでなく,それが緩和された,典型的 な表情に近づけて捉えられていることを意味して いる。つまり我々は,幾つかの表情カテゴリーに ついてそのプロトタイプを保持しており,様々な 表情をそのプロトタイプに照らし合わせ,表情を 認識していると考えられる (Rutherford & McIntosh, 2007)。

較することで種々の表情から感情を同定している と思われる (Matsumoto & Hwang, 2014;Roberson, Damjanovic, & Pilling, 2007)。子どもが部位間の 食い違いを手がかりとして表情の真偽を判断でき ないのは,表情のカテゴリーやプロトタイプが未 だ未形成なためであり,それらを参照可能になる まで 10 歳までという長い時間が必要になってし まうのだろうか。しかし実は,乳児期から既にい くつかの表情についてはそのカテゴリーを有して おり (山口,2000;Walker-Andrews, 1997),例え ば笑顔の構造的特徴やその他の表情との違いは, 1 歳前の乳児にも認識できると考えられている。 つまり,乳児期において既に笑顔のカテゴリーを 獲得しているように思われる。その一方で,幼児 期から児童期においては,そのカテゴリーからの 逸脱を手がかりとして表情の真偽を判断すること は難しいのである。ではなぜ,目などの部位を手 がかりとして表情の真偽判断ができるようになる までには長い時間がかかるのだろうか。乳児期に どのように表情カテゴリーが獲得され,また幼児 期から児童期に何を学ぶことによって,部位間の 食い違いなどをもとに表情の真偽が判断できるよ うになるのか,その発達プロセスは明らかにされ ていない。本稿では,乳児期,幼児期,児童期, そして成人を対象とした研究を広く検討し,ヒト が表情のカテゴリーを獲得してから,その逸脱を 検出し,真偽判断ができるようになっていくまで の発達プロセスについて考究を試みたい。尚,表 情を偽ることができるようになっていく発達(池 田, 2018b)や,普遍的な表情カテゴリーが存在 するかどうかについての議論(遠藤, 2000, 2013) については,既存のレビューを参考されたい。本 稿では,幾つかの表情にある程度の普遍性があり つつ,表情のカテゴリーは各文化やその言語に よって形成されるという立場(池田, 2019)に基 づき,その文化圏で正とされる表情カテゴリーを 獲得していく過程,及びそのカテゴリーや文化固 有のルールに基づいて真偽判断を行うようになっ ていく発達過程について論じる。以下ではまず, 日々目にする様々な表情がどのように認識される のか,大人と子どもを対象にした研究から示唆を 得る。次いで,そうした表情の真偽をどのような 手がかりから判断できるようになるのかを検討す る。更に,表情の真偽判断においては「目」を手

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情を示す重要な手がかりとされており (Ekman & Friesen, 1975;Ekman et al., 1988),特に笑顔にお いては,目の周辺の運動を司る眼輪筋という筋肉 の活動がデュシェンヌマーカーと呼ばれている (e.g., Frank et al., 1993)。デュシェンヌマーカーを 伴う真の笑顔の方が偽の笑顔よりも楽しそうだと 評定されることは先に述べたが(Quadflieg et al., 2013), より潜在的な指標においても, それらが区 別されうることが報告されている。例えば Miles and Johnston (2007) は,デュシェンヌマーカーを 伴う真の笑顔,伴わない偽の笑顔,そしてニュー トラルな表情の 3 種類の表情のうちいずれかを画 面上に提示し,その後に提示される語がポジティ ブなものかネガティブなものかを,できるだけ速 くかつ正確に回答させるという課題を行った。そ の結果,真の笑顔を観察した後は,ニュートラル な表情を観察した後に比べ,ポジティブ語に対す る反応が有意に速かった。その一方で,偽の笑顔 とニュートラルな表情とでは差が見られなかっ た。真の恐れ顔と偽の恐れ顔を用いた研究でも同 様の結果が示されており (McLellan et al., 2010), このことからプライミングといったより潜在的 な指標でも,真の表情と偽の表情は区別されてい ると言える。その他,観察者の顔面筋の反応や (Surakka & Hietanen, 1998),感情知覚に関わる脳 部位の活性(McLellan et al., 2012) においても, デュシェンヌマーカーを伴う真の笑顔と伴わない 偽の笑顔は区別されることが示されている。これ らの知見から,単にそれらの表情を楽しそうと思 うかどうかという顕在的な指標だけでなく,より 潜在的なレベルで,表情の真偽は判断されている と考えられる。 確かに,デュシェンヌマーカーを伴えば必ず喜 び感情が生じている, と断言できるわけではない。 真の笑顔も意図的に表出できうること (Gosselin, Kirouac, & Doré, 1995;Krumhuber & Manstead, 2009)や,或いは偽の表情も必ずしも見破れるわ けではないこと (Hess & Kleck, 1994) も示されて いる。しかし,その確率的な有用性からか,大人 は目が笑っているかどうかを手がかりとして表情 の真偽を判断しているようである。尚,笑顔,悲 しみ顔,恐れ顔についてその真偽判断を求めた研 究(Dawel et al., 2015) では,恐れ顔に比べ悲し み顔の方が,また悲しみ顔に比べ笑顔の方が正確 1.2 大人における表情の真偽判断 では,大人が表情をそのプロトタイプと比較す ることで,偽の表情と真の表情を区別しているこ とは,どのような研究によって示されているのだ ろうか。偽の表情と真の表情は幾つかの点で異 なることが指摘されており (Porter & ten Brinke, 2008;Porter, ten Brinke, & Wallace, 2012),例えば, 表情の部位によって操作しやすさが異なるために 部位同士で一貫性が無くなったり (Ekman, 1992a; Ekman & Friesen, 1975;Ekman et al., 1988;Gunnery & Ruben, 2016),表情の持続時間やその推移が不 自然であったり (Frank, Ekman, & Friesen, 1993; Hess & Kleck, 1990;Krumhuber & Kappas, 2005), 或いは左右が非対称であったり (Hager & Ekman, 1985;Perron & Roy-Charland, 2013) することが示 されている。これらはいずれもその真偽を見破る 際の手がかりになるが,部位間の一貫性,すなわ ち笑顔で言えば口周辺は笑顔を湛えている一方, 目周辺にはそれがないことは,特に有用な手がか りであるとされている(Ekman & Friesen, 1975; Ekman et al., 1988)。 表 情 自 体 は 包 括 的 に 処 理 されるものであるが(e.g., Wegrzyn, Bruckhaus, & Kissler, 2015),それは必ずしも部分に注目しない ということ意味するわけではなく,表情によって 注目する部位や(Williams et al., 2001),重視され る部位が異なることが示されている (Calder et al., 2000;Eisenbarth & Alpers, 2011;郷田・宮本, 2000;Wegrzyn et al., 2017)。例えば,目のみが喜 びを表している表情と口のみが喜びを表している 表情では,後者の方がより強く喜びが認識される 一方,悲しみ表情の場合は逆に,目のみが悲しみ を表す方がより強く悲しみが認識されることが示 されている(池田, 2018a)。これは一見,笑顔の 真偽判断では目が重視されるという知見と矛盾す る。しかしここで示されているのは,あくまで真 の表情において,どの部位が観察可能であるとそ の感情が認識しやすいか,ということである。そ のため,目は,口に比べると相対的に喜びを読み 取りづらい手がかりではあるが,真偽判断におい ては重視されるようになるのだろう。 表情によって真偽判断の手がかりとなる部位は 異なるが (Kontsevich & Tyler, 2004;McLellan et al., 2010), 目周辺の眼輪筋は口周辺の大頬骨筋に比 べ意図的に操作しづらいことから,目は本当の感

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を指摘している。またその後の乳児期を対象とし た研究では,概ね早くて 3 か月頃から幾つかの表 情を区別できることが示されている(Barrera & Maurer, 1981;Young-Browne, Rosenfeld, & Horowitz, 1977)。例えば Barrera and Maurer (1981) は, 3 か月 児に対し, 笑顔(smiling expression) と, しかめ面 (frowning expression) の写真を提示することで,

これらの表情を区別できるか検討している。そ の結果,母親の写真でも見知らぬ人の写真でも, 2 つの表情を区別できることが示された。また, Young- Browne et al. (1977) においても,喜び顔や 悲しみ顔から驚き顔を区別できることが示されて いる。しかし,実のところ,これらの研究に対し てもその方法論的な問題が指摘されている。上述 の研究は,表情刺激として単一の表情写真を用い ており,このデザインでは,乳児が表情を喜びや 怒りなどの感情カテゴリーに基づいて区別してい たのか,或いは連続的に提示された2つの表情を, 目の大きさや眉毛の角度など,表情としてはカテ ゴリー化されていない構造上の違いで区別して いたのか,弁別できないことが指摘されている (Nelson & Dolgin, 1985)。このことから,この問 題点を克服したうえで,いつ頃から表情のカテゴ リーを獲得できるか検討する研究が行われた。

Kaneshige and Haryu (2015) は,複数のモデル による喜び顔と怒り顔を用いることで,構造的特 徴による区別の可能性を回避している。この研究 では,4 か月児に対し,3 人の女性モデルの喜び 顔か怒り顔を提示し,馴化させた上で,さらに別 の女性がもう一方の表情を表出している写真を提 示し,注視時間を測定している。いずれの表情も 異なる女性によって産出されているため,乳児が 表情写真に馴化したり,或いは新たな表情に対し て脱馴化したりすれば,それは乳児が単に構造的 な違いに注目していたわけではなく,喜びや怒り のカテゴリーとして認識できていたことを意味す る。結果,4 か月児も喜び表情と怒り表情を区別 できていた。また Caron, Caron, and Myers (1982) も,4 人の女性モデルによる表情写真を用いる ことで,5.5 か月児が驚き顔から喜び顔を区別で きることを示している。Bornstein and Arterberry (2003) も,5 か月児が複数の女性による,強度の 異なる笑顔を同一カテゴリーとして認識し,恐れ 顔と区別できたことを示している。更に 7 か月 に真偽が判断できており,また恐れ顔の正答率は チャンスレベルにとどまったことから,表情に よって真偽判断のしやすさには差があると思われ る。笑顔が最も判断しやすかったのは,その偽の 表情を日ごろよく目にするため(Bugental, 1986) かもしれない。このように私たちは,ある表情を 目にしたとき,その表情カテゴリーにおけるプロ トタイプと照らし合わせて認識し,また特定の逸 脱が見られた場合には,日頃の経験に基づいた知 識や,或いはより潜在的なレベルによってそれを 偽物であると判断することができるようである。 ではその表情カテゴリーやプロトタイプは,いつ 頃,どのように獲得されるのであろうか。乳児期 を対象とした研究から示唆を得たい。 1.3 乳児を対象とした研究 乳児期に表情のカテゴリーが獲得されていく過 程について,乳児の表情知覚研究を基に示唆を得 る。異なる表情を区別できるのは非常に早く,新 生児期においても,表情の違いに気付けることが 示されている (Field et al., 1983;Field et al., 1982)。 Field et al.(1982)は,生後 36 時間の新生児に対 し, モデルが様々な表情を見せたときの注視時間 を測定した。ここでは,喜び,悲しみ,驚きの表 情を順番に見せ,その際にそれぞれの表情をどれ くらい注視するか調べた。その結果,表情が変わ ると新生児の注視時間が回復しており,このこと から,新生児でも表情を区別できたと主張されて いる。ただしこの実験では,モデルが表情を実 演したため表情に対する統制が取れていない (山口, 2000),モデルが乳児を抱いていたために 表情以外の手がかりが影響している (Walker-Andrews, 1997) など,方法論的な問題点が幾つ か指摘されている。そのため, より厳密な統制を 行った研究から,いつ頃表情カテゴリーが獲得さ れるのか,見ていく必要があると思われる。 Farroni et al. (2007) は,生後 5 日以内の新生児 を対象に,恐れ表情と中立表情,或いは恐れ表情 と喜び表情を区別できるか,写真刺激を用いて検 討した。その結果,恐れ表情と中立表情は区別し なかったが,喜び表情と恐れ表情は区別すること が示された。この結果から,Farroni et al. (2007) は,新生児が生後数日の経験で,よく目にする喜 び表情を学習し選好するようになっていく可能性

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恐れ,驚き,嫌悪の 6 感情について,その感情語 に対応する表情を選ばせる課題を行った。その結 果,年齢が上がるごとに正答率も上昇した。これ らのことから,2 歳児になると表情を感情語によ るカテゴリーと対応づけて認識することができる ようになり,またその正確さは幼児期から児童期 にかけて上昇していくと考えられる。ただしこれ らの研究は,特定の感情語を提示したうえで当て はまる表情を選択肢の中から選ばせるといった手 続きを用いており,そうした手続きでは幼児は消 去法を用いることで実際には感情を読み取れな い表情についても正答出来てしまうことが指摘 されている(Nelson & Russell, 2016;Nelson et al., 2018)。そういった問題を回避するため,表情を 提示し自由にラベリング,或いは分類させる課題 を用いると,幼児期前期にはネガティブ表情を全 て怒りか悲しみとして認識するなど,その表情が ポジティブかネガティブかといった大雑把な分類 をしており (Widen, 2013)次第に個々のカテゴ リーに区別されるようになっていくという指摘も ある (Nook et al, 2017)。つまり,乳児期において もいくつかの表情をカテゴリカルに区別できては いるが,それらはあくまで知覚的特徴や視覚的学 習に基づく分類であり,喜びや怒り,悲しみと いった個々の感情語と紐づいたカテゴリーとして 認識することは,2 歳以降に段々と可能になって いくと言えるだろう(池田, 2019)。 1.5 幼児期・児童期における表情の真偽判断 ここまで,子どもは乳児期から既にいくつかの 表情をカテゴリカルに認識しており,また 2 歳頃 から次第に個々の感情語と一致させて表情を認 識できるようになっていくことを見てきた。で は,幼児期以降,そのカテゴリーと照らし合わせ る中で,子どもたちはどのように表情の真偽判断 ができるようになっていくのだろうか。Gosselin, Perron et al. (2002) は, 6–7 歳, 9–10 歳, 19–20 歳 の 3 つの年齢群に対し,デュシェンヌマーカーを 伴う真の笑顔と伴わない偽の笑顔を 1 つずつ提示 し,それぞれの表出者が本当に喜んでいるか,そ れとも喜んでいるふりをしているだけかを回答さ せた。その結果,9–10 歳群と 19–20 歳群は,偽 の笑顔よりも真の笑顔に対してを本当に喜んでい ると回答できていたが,6–7 歳群では両者に対す 児においても,複数のモデルによる笑顔と恐れ 顔が区別されることも示されている (Nelson & Dolgin, 1985;Nelson, Morse, & Leavitt, 1979)。加 えて,表出している人の違いだけでなく,例えば 同じ感情を表す表情でも歯が見えているかどうか といった構造的な違いを許容できることも,表情 をカテゴリーとして認識できていることの証拠と なるだろう (Phillips et al., 1990)。7 か月児は歯な ど顕著な手がかりがあるとそちらに頼って表情を 区別してしまうが(Kestenbaum & Nelson, 1990), 8–9 か月頃になると,歯が見えているかどうかに 関わらず笑顔を同等視できる(が,共に歯が見え ていると笑顔と怒り表情は区別しない)ことが示 されている (Caron, Caron, & Myers, 1985)。この ように,乳児は 4 か月頃から異なる人物の同じ表 情や違う表情を弁別するなど,段々と表情カテゴ リーを獲得していき,更には歯が見えているかど うかといった構造的な違いも乗り越えて,同じ感 情を表す表情を同一視できるようになっていくよ うである。では,その後の幼児期において,表情 カテゴリーの獲得はどのように進んでいくのだろ うか。 1.4 幼児期を対象とした研究 以下では,幼児を対象として,表情の区別や表 情と感情語との対応付けを検討した研究を概観す る。Denham and Couchoud (1990) は,2–4 歳児に 対し,喜び,悲しみ,怒り,恐れの感情語に当て はまる表情図を選ばせている。その結果,平均 35.6 か月の年少群でも,喜びは 75%,悲しみは 62%,怒りは 50%,恐れは 46% で正答しており, また平均 46.4 か月の年長群はそれよりも成績が よかった。櫻庭・今泉(2001)は,2–4 歳児に対 し,喜び,悲しみ,怒り,驚きの感情語に当ては まる表情図を選ばせている。その結果,2 歳児で も喜びは 63%,悲しみは 60%,怒りは 46% で正 答しており,年齢が上がるにつれ正答率も上がっ ていた。また菊地(2004)は,年少児,年中児, 年長児に対し,喜び,悲しみ,怒りの感情語に当 てはまる表情図を選ばせている。その結果,年少 児においても,全ての表情をチャンスレベル以上 の確率で正確に選べていた。より多くの感情を 扱った研究として,Markham and Adams(1992) は,4, 6, 8 歳児を対象に,喜び,悲しみ,怒り,

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検討している。この研究では,3 歳児と 4 歳児に 対し,真の笑顔と偽の笑顔を対にして同時に提示 し,どちらが本当に笑っているかを回答させてい る。先述した Gosselin, Perron et al. (2002) は表情 を 1 枚ずつ提示していたが,この研究では 2 枚を 対提示し,見比べながら判断できる点で,参加児 にかかる負荷が軽減されていると言える。その結 果,4 歳児はチャンスレベル以上の確率で真の笑 顔を選択できていた。さらに,言語報告ではチャ ンスレベルと同程度に正答できなかった 3 歳児 も,2 枚の表情対を自由に観察させ,その注視時 間を調べると,真の笑顔の方を有意に長く見てい たことが明らかになった。つまり,言語報告はで きなくとも,注視時間という潜在的な指標では, 真の笑顔の方を選好していたと言える。更に 2 歳 児に対しても同様の検討をしたところ,2 歳児で は注視時間に偏りは見られなかった。このことか ら,3 歳児は潜在的には真の笑顔を偽の笑顔を区 別している一方,2 歳児は潜在的にもそれらを区 別できていない可能性が示唆された。 これらの研究から,子どもにとっては笑顔につ いて真偽を判断しやすく,見比べることができれ ば 4 歳児から,見比べられないと 10 歳以降に, 目を手がかりとして真偽が判断できることが示さ れた。3 歳児が潜在的には真の笑顔を注視して いたという結果は,恐れ顔についての真偽判断は できない(Dawel et al., 2015)一方で,恐れ顔の 真偽によってプライミングに差が見られること (McLellan et al., 2010) とも整合性が高いと言える だろう。また,6 歳児も真の笑顔と偽の笑顔で目 が異なることには気づいているが,それを手がか りにはできていなかった(Gosselin, Perron et al., 2002)。このように,意識的に目を手がかりとし て表情,特に笑顔の真偽を判断できるようになる のは比較的遅い。では子どもたちは,どのような 発達によって,デュシェンヌマーカーなどを手が かりに表情の真偽を判断をすることができるよう になるのだろうか。次節では,表情をそのカテゴ リーに照らし合わせて真偽判断をするために必要 な要因について考える。 る回答に有意な差は見られなかった。この結果か ら,6–7 歳児では,目を手がかりにして喜びの真 偽判断はできないことが指摘されている。しかし その一方で,それらの表情において何か違いが あったかを聞いた際には,6–7 歳児も大人と同様 に,目が違うことに言及できていた。つまり 6–7 歳児は,目の違い自体には気付いていながら,そ れを笑顔の真偽を示す手がかりとして適切に使用 できなかったと考えられる。 また,Dawel et al. (2015) は,10 歳児と成人に 対し,内的感情を伴う真の喜び顔,悲しみ顔,恐 れ顔と,内的感情を伴わない偽の喜び顔,悲しみ 顔,恐れ顔のそれぞれをペアにして連続的に提示 し,2 枚のうちどちらが本当の感情を伴っている ものか回答させた。ここで,内的感情を伴う表情 は,写真や音声,音楽を提示したり,或いは過去 の出来事を思い出させたりすることで該当の感情 を生じさせて撮影したものであり,またその際の 気分状態についても自己報告させることで妥当性 も確認している。一方で内的感情を伴わない表情 は,その表情のふりをするよう求めて撮影したも のであり,こちらも自己報告によってその感情を 感じてはいなかったことは確認されている。結 果,喜び顔については 10 歳児もその真偽を判断 できていたが,悲しみ顔については成人しか判断 できておらず,また恐れ顔についてはチャンスレ ベルに留まった。加えてこの研究では,それぞれ の表情の表出強度についても,9 件法で回答さ せ,強度評定と表情の真偽判断の関連を検討して いる。分析の結果,成人は目など強度以外の手が かりも用いて真偽を判断している一方で, 10 歳児 は強度を手がかりとする (強度が高いと真の表情 だと判断しやすい) ことが示された。このように, 子どもは児童期を通して真の表情と偽物の表情 (特に笑顔について) を適切に見分けられるよう になっていくが (Gosselin, Beaupré, & Boissonneault, 2002;Gosselin, Perron, & Maassarani, 2010), 10 歳 を過ぎるまでは主に表出の強度を手がかりにする とされている (Del Giudice & Colle, 2007;Thibault et al., 2009)。

では,10 歳以前の子どもは,目を手がかりと して表情の真偽を判断することは全くできない のだろうか。この点について,Song, Over, and Carpernter (2016) は,課題の負荷を下げることで

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いことから,表情の真偽判断ができないのだろう か。しかし実のところ,表情模倣については,新 生児期から見られることが示されている。生後間 もない新生児であっても,舌を出す,口を突き出 すといった表情を模倣することが報告されている (Meltzoff & Moore, 1977, 1983)。新生児模倣に関 しては,舌出しのみしか再現されないこと,さら には舌出し自体も模倣ではなく探索行動である可 能性も指摘されているが(Anisfield, 1996;Jones, 1996, 2006),喜び,悲しみ,驚きといった感情を 表すような表情に対して新生児が模倣すること も観察されている (Field et al., 1983;Field et al., 1982)。つまり,表情の自動的な模倣は新生児期 から見られており,幼児や児童がこうした模倣が できず,それによって表情の真偽が判断できない と考えるのは難しいだろう。子どもの抱える難し さは,こうした自動的な働きではなく,より意識 的な働きによるものと考えられる。 2.2 表情の“ゆれ” を手がかりとするために 大人は,特に喜び表情において,目を手がかり にその真偽判断を行うことができるが,なぜ子ど もたちは目を手がかりにできないのだろうか。そ の理由として,少なくとも以下の 2 つが想定でき る。1 つ目は,そもそも目が笑っていないことに 気付けないためであり,2 つ目は,目が笑ってい ないことには気付いているがその意味がわからな いためである。では,子どもはいつから目が笑っ ていないことに気付けるのだろうか。6 歳児は 目の違いを言語報告できること (Gosselin, Perron et al., 2002) から,遅くともこの頃には気付けて いると言える。また,3 歳児も真の笑顔を長く見 ること (Song et al., 2016)から,潜在的には目が 笑っていないことに気付いているのかもしれな い。一方で 2 歳児は,真の笑顔と偽物の笑顔で注 視時間に差がなかったため,目の違いに気付いて いない可能性がある。ただ,注視時間に差がな かったからといって,必ずしも 2 歳児はその違い に気付いていないと言うことはできない。いつ頃 から目の違いに気付けていそうかを考えるため に,2 歳以前の乳児期において,どのように表情 の内部特徴を見ているか,関連する研究から示唆 を得たい。

2.表情の真偽判断をするために

2.1 表情模倣の影響 我々は表情を目にした際,自発的にそれを模倣 してしまうとされている(Dimberg, 1982;Sato & Yoshikawa, 2007)。例えば Dimberg (1982) は, 表 情を観察しているときの生理状態を測定するため と目的を偽ったうえで,怒り顔と喜び顔の観察し ている際の表情筋の動きを測定した。その結果, 怒り顔を観察しているときは眉間の筋肉が,喜び 顔を観察しているときは頬の筋肉がよく動くこと が示された。こうした模倣反応は,表情を目にす ると迅速に行われ(Dimberg & Thunberg, 1998), また閾下提示によりその表情を意識できなかった 際にも無意識的に行われる (Dimberg, Thunberg, & Elmehed, 2000) とされている。表情を目にした際 の自発的な表情筋の動きがその表情からの感情認 識の成績を予測するなど(Künecke et al., 2014; Sato et al., 2013),こうした自発的な表情模倣は感 情認識と関係していることも指摘されている。ま た,こうした自発的な表情模倣は自閉症者には見 られにくく,模倣の生じにくさと社会的障害の強 さが関連し,表情模倣が生じないことでその感情 が認識しづらく,他者に共感しづらくなる可能性 も指摘されている (Yoshimura et al., 2015)。この ように,表情の自発的な模倣は,他者の感情を読 み取るために重要であると考えられている。 そして大人を対象とした研究から,表情の真偽 判断を行うためにも模倣が重要であることが示唆 されている (Korb et al., 2014;Maringer et al, 2011)。 例えば Maringer et al. (2011) は,参加者にペンを 横向きに咥えさせることで口周辺の模倣を阻害 し,真の笑顔と偽の笑顔を提示してそれらがどれ くらい本物であると思うか,5 件法で回答させた。 その結果,ペンを咥えている条件だと真の笑顔と 偽の笑顔で評定値に差は見られなかった。また Korb et al. (2014) は,様々な笑顔の画像を人工的 に作成し,参加者がそれらの真偽判断をする際の 顔面筋の電位を測定した。その結果,口角周辺を 司る大頬骨筋や,目の周辺を司る眼輪筋による模 倣が,真の笑顔と判断する傾向を予測していた。 これらから,表情の自発的な模倣が,笑顔の真偽 判断に影響していると考えられる。 では,子どもは大人のように表情を模倣できな

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であると気付けるかもしれない。そしてその中 で,表情のカテゴリーや偽の表情における規則を 統計的に学習していくのかもしれない(Aslin & Newport, 2012)。乳児期において,表情の部位ご とに重視のされ方が異なることはないか,或いは 潜在的に真偽判断を行っていないか,今後検討し ていく必要があるだろう。 2.4 目が違うことの意味を知るために 既にみてきた通り,3 歳児も潜在的には目の違 いに気付いており (Song et al., 2016),6 歳にな ると目の違いに言及することもできる (Gosselin, Perron et al., 2002)。では,真の笑顔と偽の笑顔に ついて,目が異なることに気付いたのち,それが 真偽判断の手がかりとして有用であると,どのよ うにして知っていくのであろうか。そもそも,偽 の表情の手がかりについて学習するためには,つ まり目が笑っていないときには本当に喜んでいる わけではないという関係に気付くためには,状況 など表情以外の手がかりから表出者が本当は喜ん ではいないことを推測した上で,そういったとき には目が笑っていないということを経験的に学習 していかなくてはいけないだろう。2 歳前には既 に,状況を手がかりとしてふりとしての感情表出 と実際の感情表出を区別できているが(Walle & Campos, 2014),幼児期以降には更に,状況と表 情に重みづけをしながら感情を読み取ることがで きるようになっていくとされており (e.g., Gross & Ballif, 1991;Theurel et al., 2016), また, この 4–6 歳頃に,表情を調整できるようになったり(Cole, 1986;Saarni, 1984),或いは表情は状況に合わ せて調整されうるものだと理解していったりする (Harris et al., 1986;Gosselin, Warren, & Diotte,

2002)。つまりこの頃になると, コミュニケーショ ンの中で,意図的に操作された偽の表情を目にす る機会が増え,また状況と照らし合わせる中で, その表情が偽のものであると気付いくこともでき るようになると考えられる (Jack, Garrod, & Schyns, 2014)。例えば 3 歳児が真の笑顔を長く見る (潜 在的に選好している) という結果(Song et al., 2016) も,目が笑っている笑顔の方がよりポジ ティブな場面で目にすることから,目の笑ってい る笑顔に対してそうでない笑顔よりもポジティブ な印象を抱いており,そのために長く注視すると 2.3 目の違いに気付くために 新生児も,目が二つに口が一つという顔のよう な内部特徴を持つ図形を選好したり (Farroni et al., 2005;Simion et al., 2007),或いは目を逸らしてい る逸視顔よりも自分の方に視線を向けている直視 顔を選好したりすること (Farroni et al., 2002)か ら,新生児期においても既に顔の内部特徴や目を 見てはいると考えられる。ただしこの頃は,輪郭 に頼って母親を弁別するなど(Bartrip, Morton, & de Shonen, 2001),まだ外部特徴の方を優先的に 処理しており (Turati, Simion, & Leo, 2013),内部 特徴に注目して処理し始めるのは 5–6 か月頃から であると考えられている (Bhatt et al., 2005;Sakuta et al., 2014)。つまり,5–6 か月頃から,人の顔を 見た際,目など内部の特徴に注目するようになっ ていくと言える。

また先述の通り,乳児も 4 か月頃には表情をカ テゴリカルに認識しており (Kaneshige & Haryu, 2015),1 歳前の時期には幾つかの表情について そのカテゴリーを有していると考えられている (Nelson, 1987;山口, 2000)。その証左として, 先 述したが,7–9 か月頃には,歯が見えているかや 強度が異なるかといった,表情のカテゴリーを跨 がないような構造上の違いを無視して,表情を区 別することが示されている(Caron et al., 1985; Kestenbaum & Nelson, 1990)。そのため,この時 期にはむしろ,目や口などの構造的な細かな違い を無視して大雑把なカテゴリーを形成し,またそ れに沿って知覚,区別するよう発達が進むのかも しれない。いつ頃から,そういった部位間におい ても無視していいものとそうでないものがあるこ と,例えば笑顔の真偽判断において歯が見えるか よりも目が笑っているかの方が重要であることを 理解し始めるかは,今後検討する必要があるだろ う。ただし,18 か月児は,ニュートラルな表情 をしている他者も内面は悲しんでいる可能性が あることをわかっていたり(Chiarella & Poulin-Dubois, 2015),19 か月児も,状況などの手がか りによって他者の表出が単なるふりであると理 解していたりする(Walle & Campos, 2014)。つま り,2 歳頃には既に,他者の表出が必ずしも内的 な感情を反映しているものであると信じているわ けではないと言える。だとするならば,日々の生 活の中で偽の表出を目にした際,それが偽のもの

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とっては,表情のカテゴリーが未確立であること も,表情から特定の感情を同定することを難しく してしまっていると思われる。これらの理由か ら,表情と特定の感情とを紐づけることに容量が 割かれてしまい,表情自体を精査したり目を手が かりに表情の真偽を判断したりすることはできな いのかもしれない。そして,より利用しやすい手 がかりとして,表情の表出強度を利用して,表情 の真偽を判断してしまうのかもしれない。 さて,真の表情と偽の表情において目が判別の 手がかりとなることに気付くためには,表情から 感情を読み取る際に,ある程度は目に注目してい ないといけないだろう。何故なら,そもそも感情 を読み取る際に注目しないような部位について は,その差異に気付けるはずもないからである。 では,私たちは他者の表情から感情を読み取る 際,どれくらい目に注目しているのだろうか。

3.表情からの感情認識における目への注目

表情から感情を読み取る際に目に注目するか どうか,ということについては,実のところ,文 化差が報告されている。例えば,喜び顔と悲しみ 顔の目周辺を切り取り,もう一方の感情を表す表 情に貼り付けることで,目周辺と口周辺が異な る感情を表すような表情写真を作成し,そこから どのように感情を読み取るかを検討した Yuki, Maddux, and Masuda(2007)では,日本人は目を 重視して感情を読み取る一方,アメリカ人は口を 重視して感情を読み取ることが示されている。ま た,表情写真から感情を読み取る際の視線を調べ た Jack et al. (2009) でも,同様に,西洋人は目と 口を同じくらい見る一方で,東洋人は口に比べ目 の方を長く見ることが示されている。これらの知 見から,表情から感情を読み取る際,目に注目す るかどうかには文化差があり,東洋人は目をよく 見ていると言えるかもしれない。 ただ,上述の研究で述べているのは,あくまで 東洋と西洋を比べた際に,ということである。東 洋人も,感情を読み取る際には西洋人に比べ目を 見ているが,顔の再認課題を行う場合にはむしろ 鼻を注視するようになり,西洋人の方が目と口を 注視することも示されている(Blais et al., 2008; Caldara, Zhou, & Miellet, 2010)。また,西洋人に いうことがあるのかもしれない。しかし,表情の 真偽を判断するうえで目が有用であることは,誰 かから明示的に教わるものではないため,経験的 に気付いていく必要があると思われる。そのた め,それを手がかりとできるようになるまで,10 歳頃までという長い時間がかかるのかもしれな い。実際,笑顔の真偽判断に目を用いるかどう かには文化差も報告されており (Elfenbein et al., 2007;Thibault et al, 2012),目の役割については 社会の中で学習していくという考え方とも整合性 があるだろう。 また,目を手がかりにできるまでに長い時間が かかる理由として,子どもにとっては各表情のカ テゴリーやプロトタイプが確立されておらず,表 情がそれほどわかりやすい手がかりではない可能 性も指摘できるだろう。つまり,子どもにとって 表情とは,大人のように容易に各カテゴリーに分 類できるような自明な手がかりではなく,そのた め,感情を読み取ること自体の負荷が大きくなっ てしまい,表情を精査することが難しいのかもし れない。例えば,4, 8, 12 歳児と大学生に対して, 表情と姿勢をセットにした刺激から感情を読み取 る際の視線を調べた研究(Leitzke & Pollak, 2016) では,年齢が上がるごとに表情への相対的な注視 時間が増し,逆に年齢が低いほど表情以外の手が かりにも注目していたことが示された。この結果 について,4 歳児は表情から感情を読み取るのが それほど得意ではないため,他の情報も参照して いる可能性が考察されている。また,表情写真の 空間周波数を操作し,感情を読み取るために必要 な情報量を検討した研究(Ewing et al., 2017)で も,幼い子どもほど多くの情報が必要であり,ま た大人ほど少ない情報で正確に感情が読み取れて いたことから,日々表情を目にすることで少ない 情報でも感情を同定できるようになっていくこと が指摘されている。このように,子どもは大人 程,表情を確固たる手がかりにはできないと考え られる (Bugental et al., 1970)。更に, 子どもは pax という新奇な(本当は存在しない)表情も,選択 肢に紛れ込ませることで他の表情と同様に学習し てしまう (Nelson & Russell, 2016) など,子ども にとって表情のカテゴリーは大人程しっかりと確 立されたものではないとも考えられる (Widen, 2013)。つまり,幼児期から児童期の子どもに

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表情が必ずしも本当の感情を表していないという ことの理解の発達にも文化差が指摘されており, 個人主義のドイツよりも集団主義のイタリアの方 がその理解が早く (Molina et al., 2014),さらに同 じ集団主義でもイタリアよりも東洋の中国の方が 早いことが示されている(Tang et al., 2017)。こ れらの集団主義的な文化圏では,集団での調和を 保つために感情を隠すことに関して親から社会化 がされやすい可能性があり,それが影響して本当 の感情について早くから理解できるのかもしれ ない。親からの言葉かけ(社会化)が子どもの感 情についての理解に影響することについては,親 からの感情に関する言葉かけがその後の子ども の感情に関わる実行機能の発達を予測すること (Kahle et al., 2017) も傍証となるだろう。このよ うに,社会的な慣習が親からの言葉かけに介さ れ,どれくらい表情を操作するかといった個人差 の発達に影響していく可能性もあるだろう。であ るならば,文化によって,偽の表情や手がかり同 士が食い違う表出を目にする機会も異なるだろ う。実際,複数の食い違う表出からどのように感 情を読み取るか(Koeda et al., 2013;曹・杉森・ 高, 2018;Tanaka et al., 2010)や,表情から感情 を読み取る際にどれくらいその背景や文脈情報に 影響されるか(Ishii, Rule, & Toriyama, 2017;Ko et al., 2011;Masuda et al., 2008) には文化差がある ことも報告されている。これは,その文化におい て表情がどれくらい信用できるかを反映している と言えるだろう。また,同一の文化内でも,大人 が子どもと接する際にどれくらい笑顔を表出しよ うとするかには個人差があることも指摘されてい る (Bugental, 1986)。各文化や親の個人特性で, 偽の表情への接触頻度やそれへの対処の仕方が異 なる可能性もあり,今後,体系的に文化差や個人 差,或いはその世代間伝達について検討していく 必要があるだろう。 また,個人差として,社会性や対人認知に問題 を抱えるような非定型発達者に関する知見も有用 であろう。統合失調症や情動障害の傾向がある と,表情から適切に感情を読み取ることに困難を 抱えるが,その視線を計測すると,手がかりとな るべき部位を適切に注視できていないことが示さ れている(Loughland, Williams, & Gordon, 2002)。 また,自閉症者も顔の処理が定型発達者とは異な おいても,今何をしているか,ということを話す

ときに比べ,相手の感情を読み取ろうとすると きには, より目に注目することも示されている (Hutchins & Brien, 2016)。

つまりこれらの知見から,目を見る度合いにつ いては東洋と西洋で差があるかもしれないが,少 なくとも,相手の感情を読み取ろうとすると,私 たちは目に注目するようになると言えるだろう。 複数の表情を合成したような複雑な表情写真から 感情を読み取る際には目への注視時間が増えるこ と (Calvo et al., 2013) も,感情を読み取ろうとす ると目に注目するという考えと整合性のあるもの だろう。 では,子どもも同じように,相手の感情を読み 取ろうとすると目に注目するのだろうか。Pollux, Hall, and Guo(2014) は,8 歳 児 と 成 人 に 対 し, 表情写真からその感情を回答させ,フィードバッ クを返すという訓練課題と,その後に新たな表情 写真から感情を読み取らせるというテスト課題を 行い,その際の視線を計測している。その結果, 大人は全ての課題において目によく注目した一 方,子どもも試行を繰り返すごとに段々と目に注 目するようになっていき,さらにそれに伴って正 答率も上がっていた。つまり,子どもは経験を通 して,表情から感情を読み取る際に目が有用であ ることに気付いていく可能性があると言えるだろ う。そうしてその結果として,相手の感情を読み 取ろうとするときにはより目に注目するという傾 向が生じてくると考えられる。

4.表情の真偽判断の学習

ここまで,子どもが表情カテゴリーを獲得し, またデュシェンヌマーカーなど個別の部位の意味 を社会的経験の中で次第に学習していく可能性に ついて述べてきた。本節ではその傍証として,表 情の真偽判断における個人差について概観する。 例えば,社会の中で手がかりの有用性を学習す るのであれば,そこには社会における差,すなわ ち文化差が見られるはずである。実際,笑顔の真 偽性を判断する際に目を用いるかどうかや,他者 の表情から感情を読み取る際にどこに注目するか ということには,文化差があることが指摘されて いる(Thibault et al., 2012;Xia et al., 2017)。また,

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ようになっていくことの例としては,ネガティブ 反芻傾向が高い者や (Johnston, Carter, & McLellan, 2011),抑うつ傾向が高い者(Douglas, Porter, & Johnston, 2012),或いは幼少期にトラウマ経験が ある者(McLellan & McKinlay. 2013)は,真の悲 しみ顔と偽の悲しみ顔の区別ができない,という 知見も挙げられる。ネガティブ反芻傾向が高い者 らは,他者の表情をネガティブなものとして解釈 しやすいと考えられる。その結果,悲しみといっ たネガティブな表情を見ると,その相手が本当は 悲しんでいないのでは, といったポジティブな疑 いを持つことをせず,悲しんでいるに違いないと 思い込んでしまうため,その真偽を判断すること ができないのだと考えられる。ただし興味深いこ とに,彼らは笑顔に関しては,その真偽を判断で きていた。つまり,ポジティブな表情もネガティ ブな表情もいずれもネガティブに捉える (つま り,笑顔は全て偽物で,悲しみ顔は全て本物と考 える)わけではなく,ネガティブな表出を見た際 にのみ,それを疑おうとしないといった選択的な 傾向があると思われる。こういった結果からも, 表情の真偽判断が適切にできるようになるため には,やはり日々人と接する中で,その表出をど う意味づけるか,学習していく要素が大きいと言 える。

5.まとめと今後の展望

最後に,ここまで論じてきた表情の真偽判断の 発達プロセスをまとめ,今後なされるべき研究に ついて述べたい。新生児期から,人の顔のような 内部特徴を持つ図形を選好するが,目や口に注目 し始めるのは 5–6 か月頃からであると考えられる (Bhatt et al., 2005)。更にこの頃から 1 歳前までに, 基本的な表情のカテゴリーが生成され (Caron et al., 1985),その後,感情語と紐付けられながら 幼児期・児童期を通して個別的な表情のカテゴ リーが形成されていく(Nook et al., 2017)。3 歳 になると偽の笑顔より真の笑顔を選好するように なり (Song et al., 2016),その後,顕在的にも表情 の真偽が判断できるようになっていく (Dawel et al., 2015)。乳児期には,その表情においては重要 な意味を持たない構造上の違いを無視してカテゴ リカルに認識できるか,といったことが検討され り (Klin et al., 1999),表情から感情を読み取る際

に目をあまり見ず (Hutchins & Brien, 2016;Spezio et al., 2007),それと比例して感情認識に関わる脳 部位の活性も低くなるとされている (Dalton et al., 2005)。さらに,複雑な表情から感情を読み取ろ うとするとき,定型発達者は目に注目するように なるが(Calvo et al., 2013),自閉症者はそういっ た場合にも目に注目したりはせず(Rutherford & Towns, 2008),表情の部位の形などから規則に基 づいて感情をラベリングしていると考えられてい る (Rutherord & McIntosh, 2007)。さらに自閉症者 は,定型発達者に比べ,デュシェンヌマーカーを 伴う真の笑顔と伴わない偽の笑顔を区別できない ことが示されている (Boraston et al., 2008)。ただ し,ここで興味深いのは,自閉症者の成績の悪さ は,目への注視時間の短さとは関連しておらず, むしろ社会性の低さと関連していたことである。 つまり,目を見ないために刺激である笑顔の真偽 を見極められなかったわけではなく,そもそも社 会性に問題を抱えるため,日ごろの対人関係の中 で目が笑っていないことの意味を学習できていな かった可能性が考えられる。このことからも,注 視によって単にカテゴリーからの逸脱に気付くだ けでなく,その意味を学習していくこと重要であ ると言えるだろう。 この,自閉症者が社会関係の中で表情の真偽や 意味を学ぶことができない可能性については,そ の他の研究からも示唆を得ることができる(Oruc, Shafai, & Iarocci, 2018)。例えば,自閉症者は,表 情や動作から,特に悲しみの感情を認識すること が苦手であることが示されている (Boraston et al., 2007)。悲しみについては,乳児期に母親との離 別ややりとりの中断を経験することで感じるよう になっていくとする考えもあり (Lewis, 2008), 一 方で自閉症児は,養育者と安定的なアタッチメン トを形成しづらいことも指摘されている(Rutgers et al., 2004)。つまり自閉症者は,乳児期に安定的 なアタッチメントが形成されないために,悲しみ という感情を経験しづらく,そのためにその後に おいても悲しみについての理解について遅れてし まうのかもしれない。これも,自閉症者が社会関 係の中で感情について学ぶことが難しいことの傍 証と言えるだろう。 また,社会経験の中で表情の真偽判断ができる

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て重要だと考えられているが (Ekman & Friesen, 1975),表情によってその真偽判断に用いられる 部 位 が 異 な る こ と も 示 唆 さ れ て お り (Ekman, 2003),今後,他の表情についても,どのように 真偽判断がなされているのか,またどのように真 偽判断ができるようになっていくのか,より広範 に検討する必要があるだろう。 もっとも,感情の表出のされ方は文化によって 異なるため (Elfenbein et al., 2007),目の手がかり としての有用性も文化によって異なり (Thibault et al., 2012),また個人の特性によってはそもそも 偽の表出を疑うことも無いかもしれない (Johnston et al., 2011)。そういう意味で,表情の真偽判断 は,個人ごとに経験の中で習得されていくものだ と言えるだろう。この点について,例えば,楽観 的な特性を持つ個人は喜び顔を疑わないため,笑 顔の真偽判断ができないということがあるかもし れない。今後は,どのような特性を持つ個人がど のような表情の真偽判断を得意・苦手とするの か,更なる検討が必要であろう。 また,表情が本当の感情を反映していないこと については,集団主義的な国や,或いは東洋の方 が早くから理解されていることが示されている (Molina et al., 2014;Tang et al., 2017)。だとする ならば,他者の表出を疑うことについても,集団 主義の国や東洋の方が早くから行うため,表情の 真偽判断の発達の速度も異なるかもしれない。実 際,成人を対象とし,笑顔と中立顔の合成動画か ら,どの時点で笑顔が消えたと判断されるか検討 した Ishii et al. (2011) では,アメリカ人に比べ日 本人の方が,早い段階で笑顔が消失したと判断す ることが示されている。日本人にとって笑顔が重 要であることも指摘されており (Rychlowska et al., 2015),各文化における笑顔の真偽判断やその発 達についても検討していくことが重要であると考 えられる。 加えて,本稿で検討した表情の真偽判断研究 は,必ずしも自然場面と整合性の高いものだけで はない。例えば,自然場面での表情は,「喜び」 や「悲しみ」といった個別的なものだけではな く,悲喜交交,複数の感情が入り混じったような 複雑なものも見られるだろう。そうした表情も存 在することを考えると,単に表情のみを手がかり としてそれが真か偽かを判断するアプローチに ているが,この 9 か月から 3 歳までの間に,無視 してよい違いとそうではない違いを区別できるよ うになっていくのか,今後検討していく必要があ るだろう。 3 歳頃から潜在的に目の違いに気付けるように なると,その後 10 歳くらいまでの間に,目を手 がかりとして真の笑顔と偽の笑顔を区別できるよ うになっていく(Gosselin, Perron et al., 2002)。た だし10 歳児は,笑顔の真偽判断はできても悲し み顔の真偽判断はできない (Dawel et al., 2015) な ど,真偽判断はその表情ごとに習得されていくも のであると考えらえる。3 歳から 10 歳の間に表 情のカテゴリーやそのプロトタイプが個別化して 獲得されていき(Widen, 2013),さらに表情は操 作されうることを知り (Harris et al., 1986), 状況と 表情を照らし合わせることで (Jack et al., 2014), 他者が内面とは異なる偽の表情を表出していると きには,特定部位が逸脱する傾向にあると気付け るようになっていくのだろう。ただしこの点にお いて,乳児期及び幼児期初期には,他者の表情に ついて適切に真偽判断できないまま,それらを材 料として表情カテゴリーを形成していくため,そ の表情カテゴリー内のプロトタイプが真偽入り混 じったものである可能性が指摘できる。しかしそ の後,状況を手がかりに表情の真偽を判断できる ようになることで,その状況にそぐわない表情を カテゴリーから分離させ,プロトタイプを洗練さ せていく過程があるのかもしれない。そのため に,幼児期にはまだ目といった部分的な特徴を手 がかりとして表情の真偽を判断することができな い可能性もあるだろう。 また,段々と表情から感情を読み取ることに長 けてくると (Ewing et al., 2017),目が有用な手が かりであることに気付き (Leitzke & Pollak, 2016), 感情を読み取る際に目に注目するようになってく る (Hutchins & Brien, 2016)。そうする中で,状況 にそぐわず笑顔が表出されているとき,その目が 笑っていないことに段々と気付いていくのかもし れない。なお本稿では,偽の表情として笑顔を 扱った研究が多く (McKeown et al., 2015),また 大人においても笑顔以外の真偽判断は比較的難し いことから (Dawel et al., 2015),特に笑顔の真偽 判断及びそのための重要な手がかりである目に ついて検討してきた。目は表情の真偽判断におい

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と,単独で判断させる時よりも正答率があがるこ とも示されている (Lavan & McGettingan, 2017)。 今後は,より自然場面に近づけ,複雑な表情に関 する判断を求めたり,或いは複数の手がかりをど のように統合するか調べたりするなど,音声や体 の動きも用いた真偽判断や解釈バイアスについて も検討していく必要があるだろう。 本稿では,表情の真偽判断の発達プロセスにつ いて,特に笑顔を中心に据えながら論考し,その 真偽判断のルールが社会関係の中で学習されてい く可能性を示唆した。表情の形態や,偽の表情の 特徴がどこに表れやすいか自体,その文化や社会 によって異なるものであろう。そうした中で,乳 児期には表情のカテゴリーを形成し,幼児期にな るとそれらを感情語ラベルと対応づけられるよう になっていく。さらに児童期以降,その文化や社 会に即したルールを獲得し,表情の真偽を判断す るようになっていくのだろう。今後は,文化比較 や縦断的な視座から,個人の中でどのように表情 の真偽判断がなされるようになっていくのか,審 らかにされることが望まれる (Manera et al., 2011)。 文化差については,表情の真偽判断ルールが学習 された結果である大人を対象とした紹介しか行わ れておらず,そういった文化差・個人差がどのよ うに形成されていくのかも調べる必要がある。今 後,子どもたちがどのように他者の表情の真偽を 判断できるようになっていくのか,より詳細に検 討していかなくてはならないだろう。 文   献

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真偽判断において,音声や体の動きといった他の 表出も手がかりとなりうるだろう。例えば,表 情と音声による感情表出(de Gelder & Bertelson, 2003;de Gelder, Morris, & Dolan, 2005;de Gelder & Vroomen, 2000) や,表情と体の動きによる感 情表出(de Gelder et al., 2004;Stekelenburg & de Gelder, 2004) は統合的に認識され,それらが整合 性を持つかどうかによって感情認識に関わる扁桃 体や上側頭溝の反応が異なること(Kreifelts et al., 2007;Müller et al., 2012;Müller et al., 2011) も示 されている。ただし,その場合の脳活動を見る と,不一致や葛藤を検出するような反応は生じ ていないことも示されている(de Gelder et al., 1999)。表情とその他の手がかりが異なる感情を 表出しているにもかかわらず,なぜ葛藤を検出す るような反応が見られないのであろうか。この点 について,口調と言語内容が異なる感情を伝える ような発話音声の認識を調べた研究が示唆的で あろう (Mitchell, 2006;Wambacq & Jerger, 2004)。 Mitchell (2006) は,口調と言語内容が異なる感情 を伝える音声を提示し,口調が伝える感情を回答 させる際の脳活動を計測した。その結果,葛藤を 検出するような前帯状皮質や背外側前頭前野では なく,意味分析を行う下前頭回が反応していた。 つまり,こういった感情を表す手がかり間の非整 合性は,単なる食い違いではなく,その葛藤自体 が意味を持つものとして処理されていると考えら れる。そのため,表情と音声や体の動きについて もそれらの食い違いを意味のあるものとして処理 している可能性がある。こうした複数の手がかり からの感情認識においても,例えば統合失調症 者は表情と音声から感情を読み取る際,音声の影 響を受けづらいことや(de Gelder, Vroomen et al., 2005),或いは特性不安が高いと怒りに解釈しや すい (Koizumi et al., 2011) など,幾つかの個人差 やバイアスが報告されている。これらは,複数の 手がかりから相手の感情を読み取る際,何を相手 の本当の感情とするかに個人差があることを示し ていると言える。これらの知見を踏まえると,偽 の表情についても,それが単にカテゴリーから逸 脱したものと見做されるだけではなく,それ自体 の意味が考えられているのかもしれない。また, 表情と音声を併せて提示し,真偽判断をさせる

参照

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