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心理学ワールド 78号 小特集 カウンセリングにおける「秘密」 ─クライエントの秘密 金沢 吉展(明治学院大学) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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27 小特集 私の秘密  カウンセリングや心理療法は, 他人に言えない悩みについてクラ イエントが話し,援助を得ようと する場である。したがってカウン セリングにおいては,自分が思っ ていること,体験していることを クライエントが自由に,隠すこと なく話すということが前提となっ ているように思われる。  カウンセラーには職業倫理を守 ることが義務づけられており,そ の中でも秘密保持とインフォーム ド・コンセントは重要な原則であ る。カウンセラーは,自傷他害の 明確な危険が存在するなどのいく つかの例外状況を除き,たとえど んな内容であっても,クライエン トから知り得た事柄について他 者に漏らすことを禁じられてい る。そして,秘密保持を含めた職 業倫理のルールをクライエントに 伝えて合意を得たうえで,カウン セリングの目的・内容についてク ライエントと約束(契約)を交わ す(インフォームド・コンセン ト)ことが求められている(金 沢, 2006)。  このようなルールが守られるの であれば,クライエントは安心し てカウンセラーに何でも話ができ るように思われる。しかしクライ エントから見た場合,見ず知らず の他人に対して,自身の悩みや問 題といった,他者には話しにくい 事柄を"包み隠さず話す"という ことは容易ではないことが想像で きる。「この先生は私の言うこと を分かってくれるだろうか」「私 の問題を解決してくれるのだろう か」など,クライエントがカウン セラーに対して様々な不安や葛藤 を抱くことも理解できる。  そうなると,"話しにくいクラ イエントvs話すことを求めるカ ウンセラー "という図式でカウン セリングの場を見ることができ る。この視点で考えると,職業倫 理の遵守に加えて,話しにくいク ライエントにとって話をしやすい 関係を作ることは,カウンセラー の大切な役割であると言える。 クライエントはカウンセラーに 対して「秘密」を持っているの か?  どのぐらいのクライエントが, 自分のカウンセラーに対して,自 分自身の問題に関すること,ある いは自分が受けているカウンセリ ングに関する事柄について話さず にいるのだろうか。このテーマに 関する研究のレビュー(Farber, 2003)によれば,約半数のクライ エントが,自身のカウンセリング に関係する事柄について秘密にし ていることがあると回答してお り,とりわけ,性的な事柄,攻撃, 虐待に関する事柄,および失敗に 関する事柄についてはカウンセ ラーに話さない傾向が強いことが 示されている。秘密にする理由と しては,それらについて話すこと に対する恥や怖さ,カウンセラー を傷つけたくない気持ち,あるい は,クライエント自身にとっては それらの事柄が重要と思われない など,様々な理由が挙げられてい る。最近の調査も,約半数のクラ イエントがカウンセラーに対して 秘密を有していることを示してい る。それによれば,秘密にしてい る事柄の多くは性的な事柄に関す ることであり,理由としては恥ず かしさや困惑などが挙げられてい る(Baumann & Hill, 2016)。  別の研究では,クライエントは 単に秘密にしているだけではな く,カウンセラーに対して偽った り,実際とは異なる内容を話した りすることも分かっている。この 研究によれば,93パーセントの クライエントがカウンセラーに 対して偽っていることが示され ており,クライエントによる"偽 り"の典型的な例として,カウン セラーのコメントを好意的に受け 止めている,あるいはカウンセリ ングが有益であるといった発言 や,面接予約への遅刻・欠席の理 由が挙げられている(Blanchard & Farber, 2016)。筆者らの調査 でも,クライエントは不満を感じ ていてもそれをカウンセラーに表

カウンセリングにおける「秘密」

クライエントの秘密

明治学院大学心理学部 教授

金沢吉展

(かなざわ よしのぶ) Profile─金沢吉展 1990年,米国テンプル大学大学院博士課程修了。筑波大学心理学系助教授など を経て現職。専門は心理療法の効果とプロセス,心理臨床家の発達と教育訓練, 職業倫理,健康心理学。著書は『カウンセリング・心理療法の基礎』(編著,有 斐閣),『臨床心理学の倫理をまなぶ』(東京大学出版会)など。

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C l i e n t c o n c e a l m e n t a n d disclosure of secrets in outpatient psychotherapy. Counselling Psychology Quarterly, 29 , 53-75. Blanchard, M. & Farber, B. A.(2016)

Lying in psychotherapy: Why and what clients don't tell their therapist about therapy and their relationship. Counselling Psychology Quarterly, 29 , 90-112. B o r d i n , E . S . ( 1 9 7 9 ) T h e

g e n e r a l i z a b i l i t y o f t h e psychoanalytic concept of the working alliance. Psychotherapy, 16 , 252-260.

Farber, B. A.(2003)Patient self-disclosure: A review of the research. Journal of Clinical Psychology, 59 , 589-600.

Farber, B. A., Berano, K. C. & Capobianco, J. A.(2004) Clients’ perceptions of the process and consequences of self-disclosure in psychotherapy. Journal of Counseling Psychology, 51 , 340-346. F a r b e r , B . A . & S o h n , A . E . ( 2 0 0 7 )P a t t e r n s o f s e l f -disclosure in psychotherapy and marriage. Psychotherapy: Theory, Research, Practice, Training, 44 , 226-231. 金沢吉展(2006)『臨床心理学の倫 理をまなぶ』東京大学出版会 金沢吉展・上野まどか・石橋明美・ 遠藤野恵美・中山愛美・岩壁茂 (2015)臨床心理面接におけるカ ウンセラー・クライエントの体 験に関する研究(1).『日本心理 臨床学会第34回秋季大会論文集』 181. 上野まどか・金沢吉展・中山愛美・ 石橋明美・岩壁茂(in press)臨 床 心 理 面 接 に お け る カ ウ ン セ ラー・クライエントの体験に関 する研究(3):クライエント3名 のカウンセリング体験のインタ ビューを通して.『日本心理臨床 学会第36回秋季大会論文集』 明するのではなく,カウンセラー を傷つけたくない気持ちから,満 足を装い,カウンセラーに合わせ てカウンセリングを進めていくこ とが示唆されている(金沢ほか, 2015;上野ほか, in press)。  これらの研究結果を見ると,相 手に対して何を話すか・話さない かという視点で見た場合,カウン セリングも他の対人関係と大きく 異なるわけではないことが想像で きる。通常の人間関係であって も,性的な事柄や自身の攻撃性に ついては話しづらいであろう。見 ず知らずの他人であるカウンセ ラーに対しても同じような抵抗感 を感じるのは無理もないと言え る。自分のために一生懸命にカウ ンセリングを行ってくれるカウン セラーに対して,ネガティブなこ とを言わないよう気遣いをするの は理解できる。 クライエントがカウンセラーに 対して秘密を持つことは,カウ ンセリングの効果とどのように 関係するのか?  クライエントが自分自身につい ての秘密を持つことや,相手が気 を悪くしないよう振る舞うことは 理解できるとしても,カウンセリ ングの場で偽ったり,大切な事柄 について話をしないのであれば, クライエントに関わる重要な事柄 についてカウンセラーが知ること ができず,結局はクライエントの 不利益につながるのではないか。  クライエントがカウンセラーに 対して秘密を持つことの反対の行 いである,クライエントによる自 己開示は,カウンセリングの効果 と関連していることが示されてい る(Farber & Sohn, 2007)。また クライエントは,カウンセラーに 対して秘密を話す前と話している 最中は不安を感じ,話した直後は 傷つきやすさを感じるものの,そ れ以後は,安心感,開放感,誇 り,自分らしさを感じるのみなら ず,自分が秘密にしていることを カウンセラーに話したことによっ て,自分の家族や友人に対しても 自己開示をするようになることが 示唆されている(Farber, Berano & Capobianco, 2004)。これらの 研究を通して,クライエントに よる自己開示を促す要因として, 作 業 同 盟 の 強 さ(Farber, 2003; Farber, Berano & Capobianco, 2004; Farber & Sohn, 2007)が一 貫して示されていることは興味深 い。  作業同盟とは,カウンセリング におけるカウンセラー−クライエ ント間の協働関係を指す用語であ り,作業同盟は,カウンセラー− クライエント両者の間における, カウンセリングの目標に関する合 意,カウンセリングにおける課 題(カウンセリングにおいて行わ れる事柄)についての合意,およ び,両者の間に形成される情緒的 絆の3要素から成るとされている (Bordin, 1979)。したがってカウ ンセラーには,良好な作業同盟を 築き,クライエントが抱えている 秘密を話すことができるよう,両 者の関係を建設的なものにしてい くことが求められると言える。  カウンセラーが秘密保持とイン フォームド・コンセントの原則を 守ることは,クライエントが安心 して自己開示することのできる枠 組みを作るために必須の条件であ る。この枠組みの中で,両者が良 好な作業同盟を築いていくことが クライエントの自己開示を促し, カウンセリングを有益なものにし ていくことができると言えよう。 文 献

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