刑事再審理由の判断方法
著者
田中 輝和
号
36
発行年
1997
た
田
肋
中
罵
輝
ず ロ μか
禾
学 位 の 種 類
学 位 記 番 号
学位授与年月 日
学位授与 の要件
博
士(法
学)
法
博
第36号
平 成9年11月19日
学 位 規 則 第4条
第2項
該 当
学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員
刑事再審理 由の判断方法
(主査)
教
授
小 田中
聰
樹
教
授
岡 本
勝
教
授
川
崎
英
明
論
文
内 容
の 要
旨
1.刑 事 訴 訟 法435条 が 規 定 す る再 審 開 始 要 件 の 中 で 、 同 条6号 の 新 証 拠(ノ ヴ ァ)の 明 白 性 の 判 断 方 法 は、 再 審 の 分 野 に お け る重 要 な理 論 的争 点 で あ り、 同 時 に現 実 的 争 点 で もあ る。 本 論 文 は20年 に わ た っ て こ の 問 題 に つ い て 研 究 を重 ね て き た 著 者 の 研 究 成 果 を集 大 成 した もの で あ る。 本 論 文 は 、 松 山 事 件 を 中 心 と した 再 審 運 用 の 実 態 分 析(第1編)、 ドイ ッ の 学 説 お よ び 判 例 の 展 開 を検 討 した 比 較 法 的分 析(第2編)、 治 罪 法 か ら旧刑 事 訴 訟 法 に 至 る わ が 国 の 再 審 法 制 の 発 展 過 程 を 検 討 した歴 史 的分 析(第3編)、 最 高 裁 ・白鳥 決 定(最:決 昭 和50年5月20日 刑 集29巻5 号177頁)と 同 ・財 田川 決 定(最 決 昭 和51年10月12日 刑 集30巻9号1673頁)と を 踏 ま え て わ が 国 の 再 審 法 の 解 釈 論 を 展 開 した 解 釈 論 的 分 析(第4編)か ら構 成 さ れ て い る。 2.ま ず 、若 干 の 評 価 を ま じえ な が ら、 本 論 文 の 具 体 的 な 内 容 を確 認 す る こ と と した い。 第1編 「実 態 と問 題 点 」 は全6章 で 構 成 さ れ て い る。 本 編 で は、 松 山事 件 を 素 材 と し て 、1979 年12月6日 の 仙 台 地 裁 再 審 開 始 決 定 に至 る ま で の再 審 運 用 の実 態 が 分 析 さ れ て い る 。 そ こで は 、 再 審 開 始 決 定 以 前 の 再 審 請 求 棄 却 決 定 が 、 明 白性 の判 断 方 法 にっ いて 心 証 引 継 説 に立 脚 して い た こ と が 確 認 さ れ る。 本 論 文 に よ れ ば 、 心 証 引 継 説 と は 、① 新 証 拠 に証 拠 価 値 が な い場 合 、 確 定 判 決 が 維 持 され る とい う意 味 で 心 証 を 受 け継 ぐ こ と、② 新 証 拠 の 価 値 を判 断 す る 際 に も、 直 接 に争 わ れ て い る事 実 以 外 の事 実 に 関 わ る 旧 証 拠 につ い て は、 確 定 判 決 の 証 拠 評 価 に 拘:束さ れ る こ と、③ 確 定 判 決 に至 る判 決 お よ び再 審 請 求 審(棄 却)決 定 の 心 証 が す べ て 引 き継 が れ る こ と を意 味 し て い る。 しか し、 こ の心 証 引 継 説 は、 ① の 点 で は、 確 定 判 決 の誤 った 証 拠 評 価 を 引 き継 ぐ こ と に よ っ て、 誤 判 を 維 持 す る役 割 を果 た す もの で あ る こ と、 ② の 点 で は、 最 高 裁 ・白 鳥 決 定 が 指 摘 し た よ う に、 総 合 認 定 と して の 事 実 認 定 の性 格 上 各 証 拠 は 相 互 に連 関 す る とい う事 理 に反 す る もの で あ る こ と、 ③ の 点 で は、 各 判 決 や 決 定 に お い て 同 一 で は な い 心 証 を 引 き継 ぐ こ とが で き る の か に疑 問 が あ る こ と、 が 確 認 さ れ る。 こ う して 、 第1編 所 収 の6本 の 論 文 を通 して 、 白鳥 ・財 田 川 決 定 前 の再 審 実 務 が 明 白性 の 判 断 方 法 に つ い て 心 証 引 継 説 に立 脚 して い た こ と、 お よ び心 証 引 継 説 の 意 味 ・内 容 と そ れ が 果 た して き た 役 割 とが 実 証 的 に 明 らか に され て い る。 こ れ らの論 文 は い ず れ も1975年 か ら1979年 に か け て 執 筆 さ れ た 比 較 的 初 期 の論 文 で あ る が、 心 証 引 継 説 の 意 味 ・内 容 とそ れ が 抱 え る 問 題 性 と を 解 明 した もの と して 、 そ の 成 果 は そ の後 の 学 説 に お い て 共 有 さ れ る こ と とな った 。 第2編 「比 較 法 的 考 察 」 は 全2章 と付 録 とか ら構 成 さ れ て い る。 本 編 で は、 明 白性 の 判 断 方 法 に 関 す る ドイ ツ の判 例 と学 説 の見 解 が 検 討 さ れ て い る。 そ こで は 、 ドイ ッ の学 説 と判 例 に お け る 総 合 評 価 の 方 法 を め ぐ る対 立 が 原 裁 判 官 説(原 裁 判 官 の立 場 か らの 判 断 方 法)と 再 審 裁 判 官 説 (再 審 裁 判 官 の立 場 か らの 判 断 方 法)と の対 立 で あ る こ と、 原 裁 判 官 説 と は 確 定 判 決 の 証 拠 評 価 の拘 束 力 を 肯 定 す る もの で あ る が 、 現 在 で は新 証 拠 と直 接 に 関 連 しな い 証 拠 に っ い て の み 部 分 的 に 拘 束 力 を 認 め る に と ど ま っ て お り、 そ の場 合 で も確 定 判 決 の証 拠 評 価 に 重 大 な 欠 陥 が あ る と き は 拘 束 力 を 否 定 す る修 正 説 が 登 場 して い る こ と、再 審 裁 判 官 説 と は原 裁 判 官 の証 拠 評 価 の 拘 束 力 を 全 面 的 に否 定 す る(旧 証 拠 の 全 面 的 再 評 価 を 認 め る)も の で あ るが 、 現 在 で は請 求 人 に 利 益 な 方 向 で の み 無 限 定 に再 評 価 を 認 め る見 解 で あ る こ と、 ドイ ッで は この再 審 裁 判 官 説 が 急 速 に 台 頭 し て い る こ と、 が 確 認 され る。 こ の こ との 確 認 の 上 で 、 心 証 引 継 か 再 評 価 か と い う形 で論 じ られ て き た わ が 国 に お け る明 白性 の判 断 方 法 にっ い て も、 ドイ ッ法 と同 様 の 理 論 的 枠 組 み で論 ず べ き で あ る と さ れ て い る。 そ こ に は、 ドイ ッ法 は わ が 国 再 審 法 の母 法 で あ り、 ドイ ッ の学 説 と 理 論 は 白 鳥 決 定 に影 響 を 与 え た とい う認 識 が あ る。 こ う して 、 第2編 を通 して 、 本 論 文 が提 言 す る 明 白性 の 判 断 方 法 の枠 組 み、 す な わ ち 原 裁 判 官 説 か 再 審 裁 判 官 説 か と い う枠 組 み が 比 較 法 的 に基 礎 づ け ら れ て い る 。 本 編 所 収 の2本 の 論 文 は 1991年 に 執 筆 さ れ た も の で あ り、 再 審 法 に 関 す る新 し い比 較 法 的 知 見 を も た らす も の で あ っ た 。 が 、 そ れ に と ど ま らず 、 こ の よ うな 比 較 法 的 知 見 か ら得 た枠 組 み を わ が 国 再 審 法 の解 釈 論 に 自覚 的 に 持 ち 込 も う と した と こ ろ に 、 本 論 文 の特 徴 が あ る。 わ が 国 の実 務 家 が 主 張 す る 限 定 付 き 再 評 価 説 を原 裁 判 官 説 に位 置 づ け た 点 は、 そ の ユ ニ ー ク な 成 果 で あ っ た と い う こ とが で き る。 第3編 「歴 史 的 考 察 」 は 、1994年 と!995年 に執 筆 され た3本 の 論 文 と付 録 とか ら構 成 さ れ て い る。 第1章 「ヘ ル ム ー ト ・マ ィ ア ー の 刑 事 再 審 論 」 は歴 史 的 分 析 の方 法 的 基 礎 を確 認 す る も の と
して 位 置 づ け られ て お り、 そ の 上 に 、第2章 と第3章 に お い て わ が 国 の 再 審 法 制 の 歴 史 的 展 開 が 解 明 され て い る。 第2章 で は、 治 罪 法 と 旧 々 刑 事 訴 訟 法 に お け る再 審 理 由 につ い て、 不 利 益 再 審 は認 め な か っ た もの の、 フ ァル サ 型 再 審 を 採 用 して再 審 理 由 を 限 定 し、 新 証 拠 の み で 「無 実 の 明 確 性 」 を 要 求 した 点 で 再 審 の 「非 常 例 外 性 」 の 考 え 方 に立 って い た こ とが 指 摘 さ れ て い る 。 そ し て 、 治 罪 法 お よ び 旧 々 刑 事 訴 訟 法 が 倣 った フ ラ ンス刑 事 訴 訟 法 は 「陪 審 の無 謬 性 」 の思 想 に 立 脚 す る もの で あ っ た が 、 わ が 国 の 学 説 に お い て は、 この 「非 常 例 外 性 」 の 考 え 方 が 「確 定 力 は真 実 とみ な さ れ る」 と い う命 題 の 下 に説 明 され る こ と とな った こ とが 指 摘 さ れ る。 第3章 で は、 ドイ ッ法 に 倣 っ て不 利 益 再 審 と ノ ヴ ァ型 再 審 を導 入 し た 旧 刑 事 訴 訟 法 の再 審 規 定 の立 法 過 程 が 分 析 さ れ 、 新 証 拠 そ れ 自体 が 「無 実 」 を証 明 す べ き 「明 確 ナ証 拠 」 で な け れ ば な らな い か の よ う な 規 定 が 採 用 さ れ た点 に お い て 、 治 罪 法 お よ び 旧 々 刑 事 訴 訟 法 以 来 の 再 審 の 「非 常 例 外 性 」 の 考 え 方 が 旧 刑 事 訴 訟 法 に影 響 を残 して い る こ とが 確 認 さ れ る。 しか し、 立 法 過 程 に お い て は、 ドイ ッ法 と 同 様 に 「明 確 性 」 と は無 実 の証 明 で は な く無 罪 の証 明 で あ る こ とを 明 らか に す る文 言(「 無 罪 ・ ・ ヲ言 渡 ・ ・ス ヘ キ」)が 挿 入 さ れ 、 さ ら に は 新 証 拠 そ れ 自体 が 「明 確 ナ証 拠 」 で な け れ ば な ら な い こ とを 明 示 す る文言 が 削 除 され た こ とが着 目 され、 旧刑 事訴 訟 法 は ドイ ッ刑 事 訴 訟 法 と同 じく ノ ヴ ァ 型 再 審 に つ い て は総 合評 価 説 を採 用 した と解 す る のが 立 法趣 旨 に沿 った解 釈 で あ る と さ れ て い る。 わ が 国 の 再 審 法 制 の沿 革 につ い て は若 干 の理 論 的 蓄 積 が存 在 す る が 、 本 編 は この 蓄 積 の 上 に初 め て本 格 的 に再 審 法 制 の 沿 革 を 明 らか に した点 に お い て 、 高 い 価 値 を 持 っ て い る。 同 時 に、 旧 刑 事 訴 訟 法 で 採 用 さ れ た ノ ヴ ァ型 再 審 が ドイ ッ 法 の総 合 評 価 説 を 採 用 した も の で あ る と い う指 摘 は、 第2編 で 展 開 さ れ た 明 白性 判 断 に お け る ドイ ツ法 の理 論 的枠 組 み の わ が 国 へ の援 用 可 能 性 を 根 拠 づ け る伏 線 と して位 置 づ け られ て い る。 全4章 か ら構 成 さ れ る第4編 「現 行 法 の解 釈 と立 法 」 は、 本 論 文 の結 論 部 分 で あ り、 新 証 拠 の 明 白性 の判 断 方 法 に関 す る解 釈 論 と立 法 論 が 展 開 さ れ て い る。 こ こで は、最 高 裁 ・白鳥 決 定 と の 対 比 に お い て最 高 裁 ・財 田川 決 定 の意 義 が 分 析 さ れ て い る第2章 に続 き、 第3章 に お い て 、 弘 前 事 件 と松 山 事 件 の実 態 分 析 を 通 して、 確 定 判 決 の誤 りが 証 拠 の 不 足 で は な く判 断 主 体 の判 断 の 誤 り に 起 因 して い る こ とが 確 認 さ れ た上 で 、 明 白性 判 断 の 方 法 と して の総 合 評 価 の 実 質 的 正 当性 が 論 証 さ れ て い る。 こ の こ と は 同 時 に 、 再 審 開 始 要 件 と して の 新 証 拠 を 再 審 と上 訴 と を 区 別 す る た め の要 件 と し て の み 位 置 づ け る こ と にっ な が って い る。 この 実 質 論 を前 提 と して 、 第4章 に お い て は、 刑 事 訴 訟 法435条6号 の 新 証 拠 の 明 白 性 は、 同 条 の 沿:革お よ び 憲 法 と刑 事 訴 訟 法 の 精 神 と 目 的 と に 照 ら して 、 旧証 拠 の 全 面 的 再 評 価 を 認 め る再 審 裁 判 官 説 に立 っ た も の と解 釈 す べ き も の で あ る こ と、 全 面 的 再 評 価 に お い て は 旧 証 拠 の 不 利 益 再 評 価 と証 拠 構 造 の不 利 益 変 更 は禁 止 さ れ る こ と、 最 高 裁 ・白 鳥 決 定 と同 ・財 田川 決 定 は そ の 一 般 的 判 示 か らみ て 原 裁 判 官 説 に 立 脚 した も の と解 さ ざ る を得 な い が 、 しか しそ の修 正 説 に立 っ て請 求 人 に利 益 な 限 度 で 旧 証 拠 の全 面 的 再 評
価 を認 め て い る点 で は実 質 的 に は再 審 裁 判 官 説 で あ る こ と が主 張 さ れ て い る。 この 第4章 は1996 年 に執 筆 さ れ た論 文 を 収 録 した も の で あ るが 、 最 高 裁 ・白鳥 決 定 を原 裁 判 官 説 に た っ もの と の み 捉 え た、 本 編 第2章 収 録 の1986年 論 文 の 見 解 を 修 正 した もの と な っ て い る。 な お 、 本 編 第1章 は、 明 白性 判 断 に お け る総 合 評 価 を 実 効 化 さ せ る上 で 重 要 な 役 割 を 果 た す 不 提 出証 拠 に っ い て 、 松 山 事 件 を 手 掛 か り と して 、 そ の必 要 性 と理 論 的根 拠 を 解 明 しよ う と した も の で あ る。 こ う して 、 第1編 か ら第3編 ま で の実 態 、 歴 史 、 比 較 法 の 視 点 か らの 分 析 の成 果 が 、 第4編 に お い て 、 わ が 国 の 明 白性 の 判 断 方 法 の あ り方 へ と昇 華 さ れ る形 で ま さ に統 括 さ れ て い る。 そ の 特 徴 は、 孤 立 評 価 ・心 証 引継 説 か 全 面 的 再 評 価 説 か 、 あ る い は全 面 的 再 評 価 説 か 限 定 付 き再 評 価 説 か と い う従 来 の 枠 組 み を 根 本 的 に組 み 替 え て 、 原 裁 判 官 説 か再 審 裁 判 官 説 か と い う形 で 明 白 性 の 判 断 方 法 の 基 本 的 対 立 を 把 握 し、 そ の よ うな新 た な 枠 組 み の下 で 、 刑 事 訴 訟 法435条6号 は再 審 裁 判 官 説 を 採 用 した も の と解 釈 す べ きで あ り、 そ の 観 点 か らみ て 、 修 正 原 裁 判 官 説 に立 った 最 高 裁 ・白 鳥 決 定 お よ び 同 ・財 田 川 決 定 は実 質 的 に は再 審 裁 判 官 説 に立 っ た も の と して 正 当 性 が 認 あ られ る と主 張 して い る点 に あ る。