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JAIST Repository: サイエンス型産業における持続的発展の研究 : 「知識と人」産学循環モデル

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Academic year: 2021

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JAIST Repository

https://dspace.jaist.ac.jp/ Title サイエンス型産業における持続的発展の研究 : 「知識 と人」産学循環モデル Author(s) 飯嶋, 秀樹; 中田, 喜文; 山口, 栄一 Citation 年次学術大会講演要旨集, 30: 332-335 Issue Date 2015-10-10

Type Conference Paper Text version publisher

URL http://hdl.handle.net/10119/13288

Rights

本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Science Policy and Research Management.

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2A24

サイエンス型産業における持続的発展の研究:

「知識と人」産学循環モデル

○飯嶋秀樹,中田喜文(同志社大学大学院),山口栄一(京都大学大学院) 要旨 日本の物理分野の論文数が2003 年から突然、減少した。1990 年代前半に企業論文数が減少したあと 1996 年に大学院博士課程で学生数が減少し始め、2003 年から大学論文数が減少した――このような連 鎖反応の進行は、大学と企業を囲む研究・開発環境の構造と性質に起因すると考える。大学院博士課程 学生数と論文数のあいだに高い相関性があるが、学生数の変動は高校物理の履修率の低下や高校生世代 人口の減少の影響を受けている可能性がある。そこで上級物理科目(理系志望者が学習)の履修率と高 校生世代人口の変動を考慮して「物理系大学院博士課程進学率」(物理系進学率)を求めた。物理系進 学率は学生数と同様に1996 年から減少しており、論文数とのあいだに高い相関性があった。同様に評 価した1990 年代後半の化学系進学率は反対に上昇しており、物理分野と化学分野における研究・開発 環境の構造的な違いが示唆された。大学と企業のあいだには、「知識」と「人」が流れる3つの経路が あり、「知識」と「人」は質と形を変えながら大学と企業のあいだを往還し循環していると考える。こ れを“「知識と人」産学循環モデル”として提唱した。今後、このモデルを用いてサイエンス型産業に おける持続的発展の在り方を探る。 1. はじめに 物理系大学院博士課程の学生数と物理論文数のピークの6年のずれを考慮すると、学生数と論文数は 高い相関性を示すことを報告した*1。学生数は世代人口の変動、高校における物理科目の履修率に影響 される変数である。学生数と論文数のずれ年数の意味や両者の増減の因果関係について議論する際には、 これら諸要因の影響を排除して規格化した学生数(規格化学生数)を求める必要がある。 本発表では、(1)高等学校の生徒数と高校物理の履修率の変動を考慮して大学院博士課程への進学 率を求め、これを「規格化学生数」とする。つぎに、(2)日本の物理系ならびに化学系の大学院博士 課程の学生数と進学率(規格化学生数)を比較して、両系の類似点と相違点を分析し、大学と企業を取 り巻く研究・開発環境の基本的な構造を明らかにする。さらに、(3)知識と人が往還する“「知識と人」 産学循環モデル”を提唱し、物理論文数の減少について、1990 年代後半の日本の物理分野の研究・開発 環境を構造的視点から考察する。 2. 物理系大学院志望予備群 1) 高校物理の履修率の低下 物理系大学院博士課程の学生数に影響 するひとつの要因として、高校物理の 履修率の変動が考えられる。高等学校 の学習指導要領は 1956~2013 年のあ いだにほぼ 10 年ごとに合計 7 回の改訂 が実施され、必修・選択の規定の変更 は履修率に大きな影響を与えた。 図1に物理の初級科目と上級科目の 履修率の合計《初級+上級》(×;赤太 線)と上級科目の履修率《上級》(○; 青太線)の推移を示す*2-6。A期では、 普通高校においては理科4科目(物理、 化学、生物、地学)が必修だったが、 図1.高校の物理履修率の推移(1963-2013):△、初級物理; ○、上級物理;×、(初級+上級);青枠領域、物理系大学院 志望予備群の上級物理履修率。 図1.高校の物理履修率の推移(1963 2013):△、初級物理;

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B期以降、理科2科目あるいは1科目選択の「選択時代」に入った。初級科目(物理A、物理Ⅰ、物理 基礎)と上級科目(物理B、物理Ⅱ、物理)の履修率の合計は、高校生の物理リテラシー(物理学の理 解力)を推測する指標として注目されてきた。《初級+上級》の履修率はA期、B期でほぼ 100%だった が、C期で《初級+上級》の履修率が突然 30 数%に低下し、物理教育関係者に大きな衝撃を与えた*7 C期は「ゆとり教育」時代と呼ばれており、上級と初級の区別がなくなり、「物理」、「化学」、「生物」、 「地学」の4科目から 1 科目を選択すればよかった。D期、E期では初級と上級の区別が復活し、《初 級+上級》の履修率は 50~60%まで回復した。直近の 2013 年は 90%近くまで上昇した*6 2) 上級物理の履修率の変動:物理系大学院志望予備群 大学院博士課程学生数の増減に影響するのは上級科目の履修率の変動である。本研究では「上級物理 を履修した高校生群」を「物理系大学院志望予備群」(以下、物理系予備群)と呼び、高校生人口に対 する物理系予備群の比率は上級物理の履修率に等しいと仮定した。 B期とD期では理科2科目あるいは理科1科目の選択必修であったから、上級物理(物理Ⅱ)の履修 者はほぼ物理系予備群と考えてよい。これら3期の《上級》の履修率はいずれも 15%前後であった。一 方、A期では理科4科目が必修であり、上級物理(物理B)の履修者(30 数%)には化学系あるいは生 物系予備群が含まれていたと推測される。またC期では上級と初級の区別がなく、物理科目「物理」の 履修率は前後のB期やC期の上級物理と比較して2倍以上もあり、C期の「物理」履修者(30 数%)が すべて物理系予備群とは考えにくい。A期~E期を通して《上級》の履修率は 15%前後であり、物理系 予備群の比率(xp)も一貫して 15%前後であったと考えられる。上級化学の履修率と化学系予備群の比率 (xc)もA期~E期を通して 20~25%程度であったと考えられる。 3. 大学院博士課程進学率と博士課程学生数の推移 ある年度に物理系博士課程(3学年) に在籍した学生(人数 Zp)が高等学校に 在学していたと考えられる期間におけ る物理系大学院志望予備群の生徒数を Ypとする。Ypに対する Zpの比率(Zp/Yp) を「物理系博士課程進学率」(dp)とし た。Ypは物理系大学院志望予備群の比 率(xp)と高校生の総数(H)を用いて 求めたので、世代人口の変動と物理履 修率の変動の影響は含まない。したが って、進学率 dpは「規格化学生数」で ある。同様に化学系大学院志望予備群 の比率(xc)と H からその年度の化学 系大学院志望予備群の生徒数(Yc)を 求め、Ycに対する Zcの比率(Yc/Zc)を 「化学系博士課程進学率」(dc)とした。 図2に物理系・化学系の大学院博士 課程進学率...(実線;dpと dc)と博士課 程学生数...(破線)の推移を示す。図の 左縦軸の数値(進学率の 10,000 倍)は 各系大学院志望予備群の高校生 1 万人 当りの大学院進学者数に相当する。物 理系では進学率の推移は学生数の実数 の推移とほとんど同じであり、物理系 進学率と物理論文数のピークの6年間 のずれを考慮すれば、論文数と進学率 は高い相関性を示した。物理系・化学 系の大学院博士課程の学生数と進学率 図2.大学院博士課程の進学率と学生数の推移:

a

、物理系;

b

、化学系;実線、大学院博士進学率;破線、大学院博士課 程学生数。

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を比較すると、1997~2004 年の期間において、物理系と化学系の進学率の推移は正反対であった:物理 系進学率は減少し続け、化学系進学率は上昇に転じた。この期間はちょうど第1期科学技術基本計画 (1996~2000)の一部として「ポストドクター等1万人支援計画」が実施された時期と重なっている。 解明すべき問題は、(1)物理系、化学系のいずれにおいても 1996~1997 年に進学率が減少したメカニ ズムと、(2)1975~1996 年頃と 2005 年以降の進学率の変動における類似性と、1996~2005 年の相違 性の原因を物理分野・化学分野の研究・開発環境の構造的視点から説明することである。 4. 「知識と人」産学循環モデル 1) 物理論文数の減少から見えた「雪崩現象」と大学・企業間における「知識と人」の往還 図3に日本の電機・半導体産業の上位9企業の物理論文数の減少(1994)から始まり、日本の上位 10 大学の物理論文の減少(2003)に至る連鎖反応の軌跡を示す。バブル崩壊(1991~1993)のあと断行さ れた民間企業の研究開発における「選択と集中」により、日本の企業は研究開発機能を縮小させ、その 結果、企業の学会発表件数が減り*8、論文数が減った*9。これは企業研究の衰退が物理系大学院博士課程 学生数の減少を介して大学の若手研究者数の減少に繋がり、さらに数年後に大学論文数の減少という未 曾有の事態となって顕在化したと考えられる。日本の物理論文数の減少は、僅か1割だった企業の物理 論文数の減少(1994~1996)をきっかけに始まった「雪崩現象」の結末であった。 このような反応の連鎖は、物理分野の研究・開発環境の構造に起因すると考えられる。この構造の基 本は、学生と学界を介して大学と企業のあいだを「知識と人」が流れる経路である。複数の経路を乗り 継いで「知識と人」が流れることにより、連鎖的に反応が起こる。図4にサイエンス型産業(電機・半 導体)の「企業経営」から大学の「博士誕生」までの経路を示した。企業の研究成果(「知識」)が学会 発表あるいは学術論文として学界へ流れ、「知識」が直接的あるいは間接的に学生の向学心を刺激し、 学生(「人」)が大学院博士課程を志向して博士が誕生する…という流れである。 図3.企業の物理論文数の減少から大学の物理論 文の減少に至る連鎖反応:青実線、上位9企業論 文数;紫実線、物理系大学院修士課程学生数;緑 実線、物理系大学院博士課程学生数;赤太線、上 位 10 大学論文数;n、博士課程学生数のピーク 年(1997)からのずれ年数;破線矢印、連鎖反応 の軌跡;(注)論文数に適当な倍率を掛けた。 図4.サイエンス型産業・学界・大学の関係:企 業経営から博士誕生までの直接・間接的な連鎖反 応の経路; 、直接; 、直接・間接。 2) 「知識と人」産学循環モデル 大学と企業のあいだには、「知識」と「人」が流れる3つの経路が存在する(図5)。第1の経路は、 大学の研究成果である「知識」を企業へ運ぶ経路である(Flow I)。図4で見えた経路では、企業が生 み出した「知識」が学界を経由するとき「人」に形を変えて大学に流れる。これが第2の経路(Flow II) である。第3の経路は、大学で育った修士人材や博士人材が企業に就職する(流れる)経路(Flow III) である。個々の経路は始点から終点に向かって一方通行であるが、「知識」や「人」は終点に止まるの ではなく、質あるいは形を変えて別の経路に乗り換えて始点へ還ってゆく。3つの経路は大学あるいは 企業で連結しており、「知識」と「人」は質と形を変えながら大学と企業のあいだを循環している。 図4.サイエンス型産業・学界・大学の関係:企

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「知識と人」が質や形を換えて大学と企業のあいだを循環しながら往還する様子を“「知識と人」産 学循環モデル”(図5)と名付ける。日本の物理分野の「知識と人」産学循環は、バブル崩壊のあと企 業から大学に向かう第2経路が機能しなくなり、1997 年頃から負の循環に入ったと考えられる。 図5.大学と企業の間を循環する「知識と人」の3つの流れ“「知識と人」産学循環モデル:Flow I、 知識(新しい知識や考え方、新しい技術の可能性などの研究成果);Flow II、知識と人(製品/特許と 学術論文などの企業の研究・開発力とそれに動機付けられた学生);Flow III、人(博士号保持者)。 5. まとめ 1) 日本の物理論文数と物理系大学院博士課程の学生数との相関性を検討するために、高校生の世 代人口と高校の上級物理(理系志望者向け)の履修率の変動を考慮して、物理系大学院志望予備群 に対する博士課程学生数の比率(物理系大学院博士課程への進学率=規格化学生数)を求めた。 2)上級物理の履修率(物理系大学院志望予備群の比率)は 1963 年以来、15%前後で安定的に推移し た。同様に上級化学の履修率(化学系大学院志望予備群の比率)も一貫して 20~25%で推移した。 3)物理系進学率は学生数(実数)と同様に 1996 年から急減しており、論文数と進学率のあいだに高 い相関性が存在した。同様に評価した 1990 年代後半の化学系大学院博士課程進学率は上昇してお り、物理分野と化学分野における研究・開発環境の構造的な違いが示唆された。 4)大学と企業のあいだには、「知識」と「人」が流れる3つの経路が存在する。第1経路を通って大 学の研究成果が企業へ流れる;第2経路を通って企業の「知識」が「人」に形を変えて大学へ流れ る;第3経路を通って大学で育った人材(修士・博士)が企業へ流れる。3つの経路のネッ トワークの中を「知識」と「人」は質と形を変えて循環しながら往還する。これを“「知識と人」 産学循環モデル”として提唱した。 5)今後、このモデルの改良を図りながら、(1)物理系、化学系の進学率が 1996~1997 年に減 少したメカニズムと(2)物理系・化学系進学率の変動における類似性と相違性の原因を明らかに し、サイエンス型産業における持続的発展の在り方を探る。 参考文献 1 飯嶋秀樹、山口栄一、日本の論文数はなぜ減少したのか:その前に「なぜ論文を書くのか」、研究・技 術計画学会年次学術大会講演要旨集、Vol.29th Page.ROMBUNNO.2F15(2014.10.18)。 2 唐木 宏、『第4巻 実践記録;新.物理カリキュラムを』講談社出版サービスセンター(2000)。 3 物理教育実情調査研究委員会、高校における物理履修率の変遷、物理教育、38(4)、pp319-322(1990). 4 村田吉彦、教科書需要からみた新旧教育課程における理科の履修率、化学と教育、45(1)pp47-48 (1997)。 5 鈴木享、教科書採択から見た高校物理の履修率、大学の物理教育、11、pp133-135(2005)。 6 増子 寛、学習指導要領改訂後の物理教育、応用物理、83(9)、pp728-731(2014)。 7 唐木 宏、危機に立つ高校物理教育、パリティ、5(6)、pp60-63(1990)。

8 永峯英行、山口栄一、選択と集中のジレンマ、ITEC Working Paper Series、No.07-10、pp1-25(2007)。 9 山口栄一、『イノベーション 破壊と共鳴』NTT出版(2006)。

参照

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