栃木県における地域間結合網の構造
―県内人口移動流分析―
The Structure of Regional Connections Network within Tochigi Prefecture:
An Analysis of Local Migratory Flows
奥井 正俊
OKUI Masatoshi
概要(Summary)
This report attempts to elucidate the structure of regional connections network within
Tochigi Prefecture, Eastern-Central Japan, based on inter-municipality migratory flows
for every year of from 1983 to 2015. Graph theoretical dominant-flow analysis after the
Nystuen-Dacey method is used to extract the nodal fl ow structure, or the skeleton of spatial
organization of the study area. This report also investigates the similarity and difference of
structural patterns of fl ows between the migration and the commuting by means of principal
component analysis and distance-decay function analysis in order to identify some properties
related to the local population movement
.キーワード:人口移動 (Migration), 最大流動分析 (Dominant-flow analysis), 栃木県 (Tochigi Prefecture), 地域間結合網 (Regional connections network)
1.は し が き
本報告はローカルな人口移動流の分析をもとにして,栃木県における地域間結合網の構造を明ら かにするものである。ここに改めて述べるまでもないが,人口流動や財貨流通など種々の空間的相 互作用によって成り立つ地域間結合網の解明は,地理学に固有する伝統的にしてかつ中心的な研究 課題の一つである。研究史をふり返れば,この種の地域構造論的研究が前世紀半ば以降今日に至る まで着実に深化発展をとげてきたことは周知の事実であり,とりわけ計量地理学の台頭期において, 新手の分析ツールを装着した数多の研究群1) がめざましい成果を収めたことは記憶に新しいところ である。 従来,栃木県内の地域間結合網に関する地理学的研究は,地誌と系統地理の両分野において地道 に続けられている。県内の主要都市や地方町をめぐる通勤圏,小売商圏,交通圏を画定し,その内 容を記述した報告2) ,全県的交通網に重点を置いて中心地の結合関係を描出した報告3) があり,用 いられた指標も方法もさまざまである。これらの先行研究によって,県内地域間結合の組織構造は 次第に解明されつつあるが,しかし,個々の関係圏の研究と全県的スケールでの機能地域構造―そ れとも結節地域構造―の研究とを見比べると,後者はいまだに後れをとっているように思われる。 ところで,栃木県のような府県スケールの1個の地域全体における,空間的相互作用の既存統計 資料はきわめて少数の種類に限られてしまうのが実状である。人口流動の現象面では,国勢調査そ の他による人口移動(転居行動)と通勤通学の基礎資料が公表されていて,市区町村間OD表の作 成が十分に可能である。一方,財貨流通・通信の現象面では既存統計が希少であり,むろんのこと資料の自作は無理に近い。また,その他の現象面では,道路交通センサスによる自動車流動の市町 村間OD表が作成されていて価値は大であるけれども,資料の利用上に制約がつきまとう4) 。この ようなわけで,ローカルな地域間結合網の解明という課題の地理学的研究に関しては,人口流動こ そが必要不可欠の重要な分析指標となるものである。 この報告では,既往の報告例に乏しい栃木県内の人口移動現象を軸に据え置き,関連ある二つの 検討課題について統計的アプローチを試みる。すなわち,第1は人口移動の地域間流動構造とその パターンの時間的変化の検討,第2は人口移動と通勤通学とにおける地域間流動構造の比較検討で ある。
2.資料および統計分析のツール
2-1 人口移動資料 本報告に用いる人口移動資料は,栃木県が1983年以来,『栃木県の人口』として発表する年刊 の統計表である。この資料は毎年10月から翌年9月までの1年間の,同県内における市町村間人口 移動OD表(四角表)を掲載していて有用である。ただし,市町村内移動および他府県との移動に ついては集計表章を欠いている。 この資料集に収録される上記のOD表によって,人口移動の指向率を配列した n × n 正方行列 M を,対象期間(1983∼2015年)の各年次について作成する(n
は市町村数)。この行列の要素で ある指向率Mijは,各年次におけるOD表の要素 xij(i ≠ j)をその行和 xij(xii=0)で除した百 分比,すなわち,栃木県内の市町村 i に発し同県内の他市町村に着する総移動量のうち,市町村 j への移動量がどれだけの割合を占めるかという構成比率を示す。それは,すなわち⑴ Mij =(xij/ xij)×100, i ≠ j, として定義される。
ところで,栃木県では2005年に始まった平成の大合併〔the big merger of Heisei〕以来,地域 統計単位である市町村の総数が減少し(表1),その区画フレームに大きな変化が生じてきたので, 県内地域間結合網の考察にとっては,全対象期間を区画フレームに応じて数期に区分し,各期の状 態を個別段階的に調べるという分析手続きが適合していよう。
表1 栃木県における市町村合併の状況(2005年∼)
合併年月 新市町名 合併した旧市町村名 合併後の市町村数 2005年 1月 〃 2月 〃 3月 〃 10月 〃 10月 〃 10月 2006年 1月 〃 1月 〃 3月 2007年 3月 2009年 3月 2010年 3月 2011年10月 2014年 4月 那須塩原市 佐野市 さくら市 那須烏山市 那珂川町 大田原市 下野市 鹿沼市 日光市 宇都宮市 真岡市 栃木市 〃 〃 黒磯市,西那須野町,塩原町 佐野市,田沼町,葛生町 氏家町,喜連川町 南那須町,烏山町 馬頭町,小川町 大田原市,湯津上村,黒羽町 南河内町,石橋町,国分寺町 鹿沼市,粟野町 今市市,足尾町,藤原町,栗山村,日光市 宇都宮市,上河内町,河内町 真岡市,二宮町 栃木市,大平町,藤岡町,都賀町 栃木市,西方町 栃木市,岩舟町 47 45 44 43 42 40 38 37 33 31 30 27 26 25 ∑nj=1 ∑nj=1 (資料) 市町村要覧編集委員会『全国市町村要覧』第一法規,により作成。この手続きにしたがえば,対象期間の33年間は8期に区分される(表2)。この際,複数年次 からなる4期について人口移動指向率行列 M の年次間相似性を調べたところ,そこには十分に高 度な相関関係が推定されたので,これらの1983∼2004年,2007∼2008年,2011∼2013年およ び2014∼2015年の各4期については, n × n 人口移動指向率行列 M を重ね合わせることによっ て,一つずつの (n2−n)×t 相互交流型行列を作り,それぞれにT-技法dyad主成分分析を施して,各 行列の次元縮小を図ることにした(t は年次数)。他方,単数年次となる4期についてはそれぞれ に,人口移動指向率行列 M を (n2−n)×1 相互交流型行列(この場合は列ベクトル)に組み替える。
表2 相互交流型行列の次数と要素数
年次区分 次 数 要素数 1983∼2004年 2005年 2006年 2007∼2008年 2009年 2010年 2011∼2013年 2014∼2015年 (492 −49)×22 (402 −40) ×1 (332 −33) ×1 (312 −31) ×2 (302 −30) ×1 (272 −27) ×1 (262 −26) ×3 (252 −25) ×2 51 744 1 560 1 056 1 860 870 702 1 950 1 200 2-2 通勤通学資料――比較分析に用いる統計資料 2000年および2010年『国勢調査報告』の従業地・通学地集計結果によれば,15歳以上就業者と 全通学者の流動量を集計した市区町村間通勤通学OD表(双方向の四角表)が得られるので, ここか ら,栃木県の市町村 i に発し同県内の他市町村 j に着するという通勤通学指向率 Cij(百分比)を, 既述した人口移動指向率の場合と同じように算出し,これらを配列した n × n 正方行列 C を年次 別に作成する。こうして求まる二つの通勤通学指向率行列 C の次数は,2000年期における 49× 49,2010年期における27×27である。 2-3 最大流動分析 ここでの最大流動分析〔dominant-fl ow analysis〕は,都市階層区分における新しいアプローチ の方法として Nystuen and Dacey (1961) が創案した統計分析のツールである5)。その主なる要点 を記せば次のとおりである。すなわち,n 個の都市群からなる研究地域において,都市 i に発しそ の他の都市 j に着する空間的相互作用の流動量(sij, j=1,2,…,n,i ≠ j )のうち,最大規模の流動
(max sij ),つまり都市 i からみて最も重要な流動を見出し,このような結節流〔nodal fl ow〕をグ
ラフのアーク〔arc〕になぞらえて地図上に落とす,という操作法を全都市について繰り返し適用 する。これにより,流動網の全体的構造を一つの平面図形に抽象化して表現しようとしたものであ る。 最大流動分析の一番の利点は流動網の全体的構造,換言すれば空間的組織化の骨格〔skeleton〕 を幾何学的ネットワークとして簡単に表わせることにあるが,しかし,その反面,その簡単化のゆ えに,このツールは流動網に内在する重層構造を描出しえないという欠点を必然的に抱えている。 2-4 Q-技法主成分分析―比較分析に用いるツール 多変量解析の1手法である主成分分析(または因子分析)は上述の最大流動分析とともに,機能
地域あるいは結節地域設定のための有用なツールである。ひとくちに空間的相互作用の主成分分析 といってもさまざまであるが,ここで用いるのは取引型行列に対するQ-技法主成分分析である。 一般に n × n 取引型行列(OD表)に対するQ-技法主成分分析では,行方向に並ぶ発地を中心に して,つまり,行ベクトル間の相関を重視して行列を統計処理する。それゆえ,Q-技法主成分分析 では,主成分の負荷量が重要な発地群を,主成分のスコアが重要な着地群を識別してくれよう(キ ング著,奥野・西岡訳, 1973, p.224)。ただし,本報告での適用対象は通常のOD表ではなく,流 動の規模の影響を調整した変形OD表,つまり,既述した n × n 指向率行列 M と C である。 主成分分析の実際では,本報告に用いる資料集合がすべて同じ単位で測定されていることを考慮 し,それに適した分散・共分散行列から出発する計算方式を用いてみよう。一連の統計演算は,イ ンターネット上の汎用統計パッケージ・R環境[1]のprcomp 関数6) を用いて行われる。
3.人口移動における結節流の分析―1983∼2015年―
この節では対象期間を区分した全8期ごとに,人口移動指向率行列 M を組み替えた相互交流型 行列に対して最大流動分析を適用するが,これにより,県内人口移動網の流動構造を幾何学的な有 向グラフ〔directed graph〕のネットワークとして地図上に表現するとともに,その特徴の表われ 方を読みとり,その上にネットワーク構造の時間的変化について検討を加える。 3-1 相互交流型行列の次元縮小 最大流動分析に先立って,複数年次からなる4期の相互交流型行列にT-技法dyad主成分分析を 施した7) 。その計算結果を表3に示す。この表によれば,いずれの第1主成分も寄与率(分散説明 量)にして90パーセント台後半の情報量を集め,文字どおりの総合特性値となっていることがわ かる。また,主成分負荷量は年次間相関の際立った高さを示している。 表3に併記される固有ベクトルを用いて,4期ごとの,市町村のペアー(双方向)ごとの第1主 成分スコアを求めるが,このスコアは4期ごとに平均0,標準偏差1となるように基準化される。 これに合わせて,単数年次の4期における指向率も各期内で基準化スコアに変換される。表3 T-技法dyad主成分分析により求めた4期ごとの第1主成分
⑴ 固有値と寄与率 年次区分 固 有 値 寄 与 率 1983∼2004年 2007∼2008年 2011∼2013年 2014∼2015年 728.20 110.78 214.29 145.81 .9598 .9899 .9896 .9909 ⑵ 固有ベクトルと主成分負荷量 変量 E L 変量 E L 1983年 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 .219 .227 .219 .225 .222 .221 .219 .217 .211 .210 .207 .974 .978 .977 .977 .978 .980 .980 .982 .981 .981 .977 1994年 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 .208 .208 .210 .209 .212 .206 .210 .207 .205 .207 .210 .976 .980 .984 .983 .983 .977 .985 .982 .978 .980 .982 (注)Eは固有ベクトル,Lは主成分負荷量。 変量 E L 2007年 2008 .703 .711 .995 .995 変量 E L 2011年 2012 2013 .574 .590 .568 .995 .996 .994 変量 E L 2014年 2015 .702 .712 .995 .9963-2 結節流のネットワーク地図 人口移動指向率の基準化スコアまたは基準化された主成分スコアを配列した相互交流型行列に最 大流動分析を適用し,全8期ごとに,各市町村から出る結節流を判定した。この結果をもとに,結 節流の配置を有向グラフ(アークの集合体)として表現したものが図1のネットワーク地図である。 その際,結節流に対応するスコアの度数分布を調べたところ,全体の96.6パーセントが2.0以上の 値を示しており,これを下回る低スコアはわずかに僅少であった(表4)。ここから,低スコアに 対応する結節流8) は重要性が比較的小さなものと見なしうると判断して,図1ではこれらを除いた。
表4 結節流に対応する指向率(基準化スコア)の度数分布
年次区分 ∼0.0 ∼1.0 ∼2.0 ∼3.0 ∼4.0 ∼5.0 ∼6.0 ∼7.0 ∼8.0 ∼9.0 9.0∼ 計 1983∼2004年 2005年 2006年 2007∼2008年 2009年 2010年 2011∼2013年 2014∼2015年 -1 1 1 1 1 1 1 2 -1 2 2 3 6 3 5 6 10 9 12 8 6 11 9 8 8 8 7 9 10 5 3 4 10 10 4 5 3 4 4 4 9 7 3 3 2 2 3 2 5 -1 2 2 1 1 -2 1 1 -3 2 1 -49 40 33 31 30 27 26 25 (注)1983∼2004年,2007∼2008年,2011∼2013年および2014∼2015年の4期は基準化された主成分スコアの度数分布。 3-3 諸特徴 図1にみるように,個々の結節流は数個の独立的なネットワーク9)として組織化されている。こ とに平成の大合併以降では,ほぼ三つのネットワークからなる状態が継続しており,そこにさした る変化は認められない(図1-d∼h)。 その第1のネットワークは県中心都市宇都宮の吸引圏に相当し,その圏域は県央部一円に及び最 大規模の広がりを示している。同市を最終結節点(集中点)とするこのネットワークは全体として 一極構造をなすが,傘下には半独立的な小規模のネットワークをいくつか包含している。 平成の市町村合併以前にあたる1983∼2004年期において,県西部の今市,県南部の小山と真岡 の3市は,宇都宮市に流入する向心型アークの始点であると同時に,近隣市町村から流出する向心 型アークの終点であることが読みとれる(図1-a)。栃木と鹿沼の両市もこれと同じ状況にある。 大局的にみれば,この第1のネットワークでは,県副心都市(≒旧郡中心)を分岐点や中間結節点 とする階層的な巣ごもり構造〔nesting〕の発達が顕著である。しかし,この複雑な巣状構造は市 町村合併に含みこまれるようになって,特徴的な分岐形態が次第に不明確になりつつある。ネット ワーク圏域の広がりの点では,対象期間においてわずかな変化しかみられない。 第2,第3は県北東部と県南西部にある比較的小規模のネットワークである。いずれも宇都宮市 のほぼ30キロメートル圏外に位置し,上述した同市吸引圏とは一線を画している。県北東部のも のは那須地域北部一円に広がり,その範囲は不変である。当初は分立していた二つのネットワーク は市町村合併にともなって一体化し,この状態が期末まで持続する。他方,県南西部のものは終始 一つのネットワークとして存続するが,その範囲は縮小し,2010年期には安足地域の区画まで狭 まった。 この第2,第3のネットワークでは,県副心都市を相互に結ぶ往復型とアークと二極並立が特徴 的である。県北東部における大田原市⇆西那須野町(1983∼2004年期),大田原市⇆那須塩原市図1 最大流動分析による人口移動のネットワーク地図(その1)
(注)基準化スコア2.0以上の結節流を示す。(a)(d)は基準化された主成分スコア2.0以上。 (2005年期以降),県南西部における佐野市⇆足利市(2005年期以降)の結びつきが具体例とし てあげられる。これらの往復型アークは個々のネットワークの土台をなすものであると考えられる。 以上に述べたように,人口移動の結節流では県内主要都市を指向する向心型アーク,いいかえれ ば第1のネットワークにおける末端市町村→県副心都市→県中心都市,末端市町村→県中心都市, 第2と第3のネットワークにおける末端市町村→県副心都市が,大半を占めている。加えて,少数図1 最大流動分析による人口移動のネットワーク地図(その2)
(注)(g)(h)は基準化された主成分スコア2.0以上を示す。 がら県副心都市を相互に結ぶ往復型アーク,つまり県副心都市⇆県副心都市の結節流が見出される。 その一方,岩舟町→大平町(2005年,2007∼2008年,2009年の各期),南河内町→国分寺町 (2005年期)のように,末端の地域同士を相互に結ぶアークも例外的なものとして認められる (図1-b,d,e)。この一部例外の背景については今のところ不明であるが,着地(アークの終点) の側の宅地開発にともなう転居流入を第一の近因として想定しておこう。3-4 時間的安定性 以上の分析結果を考慮すれば,全県的な結節流のネットワーク構造は対象期間を通じて安定的に 推移したという可能性が高いといえるであろう。そこで次には,この点をきちんと確かめるために, 期首の1983年および期央の1999年のOD表を期末の2015年の区画フレームで組み替えて指向率行 列を作り直し,これらの3年次において,最大流動分析を再度適用してみた。その結果を述べれば, 以下のとおりである。 とりあえずは,上記の方法で設定した個々の結節流に対応する指向率の基準化スコアについて, 度数分布表を作ってみると(表5),大部分のスコアは2.0以上の値をとり(全体の96.0パーセン ト),これより小さな低スコア10) はわずかであった。ここから,前掲の図1と同じ理由によって, 低スコアに対応する結節流はネットワークの図面から除くことにした。
表5 期末の区画フレームで再設定した結節流に対応する
指向率(基準化スコア)の度数分布
年次区分 ∼0.0 ∼1.0 ∼2.0 ∼3.0 ∼4.0 ∼5.0 ∼6.0 ∼7.0 ∼8.0 ∼9.0 9.0∼ 計 期首 1983年 期央 1999年 期末 2015年 -1 1 1 -6 5 5 2 9 8 9 4 5 5 3 4 2 2 2 -1 -25 25 25 図2は,期末の区画フレームで再設定した結節流の,3年次別ネットワークを図式的に描いたも のである11)。この一組の樹状図において,人口移動網のネットワーク構造を年次的に比較してみ ると,変化は非常に少ないように思われる。始点と終点が期首と期央で一致するアークは 22個 (全体の88.0パーセント)をかぞえ,期央と期末の間では24個(96.0パーセント)をかぞえるし, これらの3年次を通して指向先を変化させなかった区画は全25区画中,22区画の多数を占めるか らである。指向先を変化させた区画は栃木,矢板および那須塩原の3市であった。 その上に,独立したネットワーク(部分グラフ)の数を比較すると,期首から期央にかけては一 つの増加,期央から期末にかけては変化なし,となる。この前半期におけるネットワークの増加は, 矢板市と那須塩原市から流出する各アークの終点,第1対地の変化によって生じたものである。す なわち,矢板市の第1対地は宇都宮市から那須塩原市への変化,那須塩原市の第1対地は宇都宮市 から大田原市への変化である。だがしかし,この現象はドラスティックな構造変化の表われという よりも,暫時の食い違い―通常からのズレ―と見なすことの方が適当であろう。指向率の時系列プ ロットをみれば(図3),矢板市では期央と1994年を除く合計31年次の第1対地は常に宇都宮市 であること,那須塩原市では期首と1989年を除く合計31年次の第1対地は常に大田原市であるこ とが明白である。その一方,前半期の栃木市における第1対地の変化はむしろ同市の小山市に対す る指向強化を端的に物語るものであろう。 これまでに述べたことを合わせて考えると,最大流動分析の結果は,結節流のネットワーク構造 が栃木県全体として時間安定的に推移したという可能性を強く示唆している。もっともこの点につ いては,全年次におけるOD表の組み替えという困難を乗りこえて検討をやり遂げる必要がある。4.人口移動と通勤通学との比較分析―2000年および2010年―
この節では,人口移動と通勤通学の2種類の地域間流動構造を比較対照する。2000年期および 2010年期の二つのクロスセクションにおいて,流動の規模の影響を調整した指向率行列(変形OD 表)M と C に対してQ-技法主成分分析を適用し,地域間流動網の全体的構造を幾何学的ネットワ図2 期末の区画フレームで再設定した結節流のネットワーク樹状図
(注)基準化スコア2.0以上の結節流を示す。期首と期央の区画名には期末における市町名を用いた。図3 期末の区画フレームで再計算した指向率の経年変化
(注)区画名の説明は図2に同じ。3市の主要対地三つずつを例示。20 ークとして地図上に描出するが,それとともに,2種類のネットワーク構造の類似点と相違点を見 出し,この点について検討を加える。 4-1 Q-技法主成分分析の計算結果 四つの資料行列に対してQ-技法主成分分析の計算プログラムを適用したところ,それぞれに解釈 可能な二つないし三つの主成分を抽出し得た。年次別の計算結果(一部抜粋)を表6および表7に 示す。各主成分による寄与率の合計は,2000年期における人口移動の50.6パーセント,通勤通学 の52.0パーセント,2010年期における人口移動の77.2パーセント,通勤通学の55.1パーセントに 上った。
表6
Q-技法主成分分析により求めた主成分の負荷量とスコア(2000年)
6-1 人口移動 小 川 .597 - 河 内 .977 -6-1-1 第1主成分(39.0%) 黒 羽 .424 - 西 方 .419 -市 町 村 名 L S 6-1-2 第2主成分(11.6%) 益 子 .541 -宇 都 宮 - 6.51 市 町 村 名 L S 茂 木 .685 -足 利 .628 - 足 利 −.551 - 市 貝 .824 -栃 木 .558 - 栃 木 −.472 −2.27 芳 賀 .958 -鹿 沼 .959 - 佐 野 - −3.45 壬 生 .932 -日 光 .599 - 小 山 - −3.31 石 橋 .893 -今 市 .882 - 大 田 原 .401 2.25 国 分 寺 .540 -小 山 .853 - 黒 磯 - 2.01 塩 谷 .672 -真 岡 .767 - 国 分 寺 −.487 - 氏 家 .913 -矢 板 .734 - 野 木 −.534 - 高 根 沢 .921 -黒 磯 .472 - 大 平 −.678 - 喜 連 川 .681 -上 三 川 .869 - 藤 岡 −.746 - 南 那 須 .821 -南 河 内 .525 - 岩 舟 −.728 - 烏 山 .810 -上 河 内 .951 - 都 賀 −.421 - 6-2-2 第2主成分(12.6%) 河 内 .964 - 湯 津 上 .476 - 市町村名 L S 西 方 .466 - 黒 羽 .492 - 足 利 −.750 −1.15 足 尾 .686 - 西 那 須 野 .415 2.14 栃 木 −.411 −2.36 二 宮 .508 - 塩 原 .485 - 佐 野 - −4.54 益 子 .706 - 田 沼 −.547 - 小 山 - −2.33 茂 木 .914 - 葛 生 −.593 - 大 田 原 - 2.39 市 貝 .881 - 6-2 通勤通学 黒 磯 - 1.55 芳 賀 .949 - 6-2-1 第1主成分(39.4%) 野 木 −.445 -壬 生 .916 - 市 町 村 名 L S 大 平 −.603 -石 橋 .811 - 宇 都 宮 - 6.65 藤 岡 −.851 -国 分 寺 .423 - 栃 木 .548 - 岩 舟 −.823 -栗 山 .604 - 鹿 沼 .972 - 都 賀 −.440 -藤 原 .527 - 日 光 .530 - 湯 津 上 .477 -塩 谷 .742 - 今 市 .812 - 黒 羽 .499 -氏 家 .916 - 小 山 .700 - 西 那 須 野 .442 1.52 高 根 沢 .905 - 真 岡 .904 - 塩 原 .452 -喜 連 川 .685 - 矢 板 .668 - 田 沼 −.723 -南 那 須 .776 - 上 三 川 .959 - 葛 生 −.748 -烏 山 .842 - 南 河 内 .783 -馬 頭 .579 - 上 河 内 .963 -(注)Lは主成分負荷量,Sは基準化された主成分スコア。¦L¦>0.4, ¦S¦>1.0 を示す。( )は寄与率。表7
Q-技法主成分分析により求めた主成分の負荷量とスコア(2010年)
7-1 人口移動 7-1-2 第2主成分(15.9%) さ く ら .902 -7-1-1 第1主成分(51.2%) 市 町 名 L S 那 須 烏 山 .871 -市 町 名 L S 大 田 原 .906 - 下 野 .796 -宇 都 宮 - 4.80 矢 板 .524 - 上 三 川 .951 -足 利 .460 - 那 須 塩 原 - 4.72 益 子 .564 -栃 木 .627 - 那 須 .945 - 茂 木 .704 -佐 野 .467 - 7-1-3 第3主成分(10.1%) 市 貝 .831 -鹿 沼 .960 - 市 町 名 L S 芳 賀 .958 -日 光 .949 - 宇 都 宮 .405 - 壬 生 .886 -小 山 .787 - 足 利 .425 - 塩 谷 .612 -真 岡 .926 - 栃 木 .470 2.51 高 根 沢 .911 -矢 板 .660 - 佐 野 - 1.47 7-2-2 第2主成分(15.7%) 那 須 塩 原 .520 - 小 山 - 3.12 市 町 名 L S さ く ら .943 - 西 方 .446 - 足 利 −.526 -那 須 烏 山 .826 - 野 木 .695 - 栃 木 −.502 −2.02 下 野 .875 - 岩 舟 .719 - 佐 野 - −2.18 上 三 川 .949 - 7-2 通勤通学 小 山 −.405 −1.65 西 方 .531 - 7-2-1 第1主成分(39.4%) 大 田 原 .686 1.44 益 子 .572 - 市 町 名 L S 矢 板 .549 -茂 木 .825 - 宇 都 宮 - 4.85 那 須 塩 原 - 3.21 市 貝 .856 - 栃 木 .406 - 西 方 −.446 -芳 賀 .927 - 鹿 沼 .959 - 野 木 −.458 -壬 生 .900 - 日 光 .904 - 岩 舟 −.695 -塩 谷 .845 - 小 山 .526 - 那 須 .712 -高 根 沢 .937 - 真 岡 .925 - 那 珂 川 .402 -那 珂 川 .781 - 矢 板 .518 -(注)記号の説明は表6に同じ。 4-2 人口流動のネットワーク地図 Q-技法主成分分析の出力を用いて,流動網の全体的構造を図示すると,図4および図5のように なる。主成分の負荷量およびスコア(いずれも絶対値)の取捨選択のための基準値については,先 行研究で得られた経験則をふまえて検討し12) ,負荷量の0.40以上,スコアの1.00以上を適度なレ ベルとして用いることにした。 4-2-1 2000年期のネットワーク地図 人口移動の流動構造を示した図4-aの第1主成分において,0.40以上の高い負荷量をもつ34の 市町村はこの主成分における重要な発地である。それらは県央部とそれを取り巻く周辺地域とに広 く分布するが,一部は県北東部と県南西部に飛地状で分布する。ただし,宇都宮市(負荷量0.08) はこの中に含まれていない。他方,1.00以上の高いスコアは重要な着地であり,ただ一つ宇都宮市 がこれにあたる。これらのことから,第1主成分は同市の人口吸引圏(人口移動流入圏)に相当す る。また,第2主成分は両極性で,プラスの方向軸に県北東部の6市町村が,マイナスの方向軸に 県南部の12市町がそれぞれに位置を占める。前者は大田原,黒磯,西那須野3市町への流入圏群, 後者は佐野,小山,栃木3市への流入圏群を示す。 一方,通勤通学の流動構造における第1主成分は宇都宮市の人口吸引圏(通勤通学流入圏)に相 当し,圏域は25の市町からなる(図4-b)。第2主成分は両極性をもち,プラスの方向軸には県 北東部の6市町村が,マイナスの方向軸には県南部の11市町が位置する。前者は大田原,黒磯,西那須野3市町への流入圏群,後者は佐野,栃木,小山,足利4市への流入圏群を示す。
図4
Q-技法主成分分析による人口移動と通勤通学のネットワーク地図:2000年
(注)両極主成分のPは正の方向軸,Nは負の方向軸を示す。4-2-2 2010年期のネットワーク地図 人口移動の流動構造は図5-aにみるとおりである。第1主成分は宇都宮市の人口吸引圏(人口移 動流入圏)に相当する。その圏域は22の市町から構成され,ほぼ全県的な広がりを示している。 第2主成分は県北東部の4市町からなり,那須塩原市への流入圏に相当する。第3主成分は県南部 の8市町からなるが,小山,栃木,佐野3市への流入圏群を示す。 また,通勤通学の流動構造における第1主成分は,宇都宮市の人口吸引圏(通勤通学流入圏)に
図5
Q-技法主成分分析による人口移動と通勤通学のネットワーク地図:2010年
(注)記号の説明は図4に同じ。相当し,圏域は17市町からなる(図5-b)。第2主成分は両極性で,プラスの方向軸には県北東 部の5市町が,マイナスの方向軸には県南部の7市町がそれぞれに位置を占める。前者は那須塩原, 大田原2市への流入圏群,後者は佐野,栃木,小山3市への流入圏群を示している。 4-3 諸特徴 上掲の図4-aとbとを,また,図5-aとbとを各々比較観察すると,人口移動と通勤通学のネット ワーク構造には明白な類似点と相違点とが見出される。これらを要約すれば次のとおりである。 4-3-1 類似点 栃木県内における人口流動網は三つの独立的なネットワークから構成されている。その第1は県 都宇都宮市の人口吸引圏(流入圏)である。分岐点または中間結節点をもたない典型的な集中ネッ トワーク〔centralized network〕であり,その圏域は県土全体のかなりの部分を占めている13) 。こ の二つの宇都宮吸引圏はいずれも最大固有値〔dominant root〕の第1主成分に対応する最も重要 な組織構造である。第2と第3は,県北東部と県南部の県副心都市を圏中心とする比較的小規模な ネットワークであり,少数副心都市の人口流入圏が組み合わさった複合体組織というべき多極化構 造を示している。また,以上の三つのネットワークの,第1と第2の間,および第1と第3の間に は空間的に重層化した部分が存在する。このようにみると,結局のところ,流動の種類や統計の年 次区分,区画フレームの諸点で違っても,大小三つのネットワークからなる基本の構図は同じであ る。 4-3-2 相違点 主成分分析から抽出された2000年期および2010年期の,合計四つの第1主成分は一様に宇都宮 吸引圏を切り出したものであった。これらの人口流入圏はいずれも広範囲に及んでいるが,流動の 種類の相違によって圏域の規模には大小の差が生じている。 2000年期の宇都宮吸引圏では,人口移動流入圏の方が明らかに広い。それは那須地域の4市町, 日光地域の3町村などという県周縁部にまで到達している(図4-a)。これに対して,これらの7 市町村に足利と二宮の2市町を加えた遠方の諸地域を,通勤通学流入圏は包含していない(図4 -b)。また,2010年期についてもこれと同様のことがいえる。人口移動流入圏は遠方の足利,佐 野や那須塩原など4市町を飛地状に包含しているのに対して(図5-a),通勤通学流入圏はこれら をもたない(図5-b)。 以上のように,流動の種類の相違によって人口流入圏の広がりは大小の差を示している。この圏 域の広狭差を生ぜしめた要因に関しては,指向率に対して作用する距離摩擦の大きさ,すなわち, 距離減衰の勾配〔gradient of distance-decay〕がその決定力を握っていると考えられる。以下では, この点について検討を加えてみよう。 4-4 宇都宮吸引圏 人口移動と通勤通学における距離減衰の勾配をグラフに表現するため,宇都宮市に例をとって, 同市への指向率を距離14) と対比させてプロットしたのが図6である。この図にみるように,距離に ともなう指向率の減衰状態は明瞭である。一見したところ,人口移動と通勤通学のプロットは混在
し,そこには何ら規則性がないようにみえる。しかし,注意深く観察すると,近距離に通勤通学の 指向率が高く,遠距離に人口移動の指向率が高くなっていて,およそ20ないし30キロメートルの 距離帯を境目に両者の大小関係は逆転するようにみえる(図6-a, b)。 そこで,距離減衰の勾配を数値的に確かめるために,指向率と距離の関数関係を設定する。図6 で示されるプロットから,2変量の間には,線形と非線形の二つの関係の仮定が立てられそうであ る。よって,距離減衰の定式化にあたっては,線形回帰式
⑵ MiU =α+β・xiU+ ɛi,
⑶ CiU =α+β・xiU+ ɛi,
と,非線形回帰式(パワー関数) ⑷ MiU =α・xiU + ɛi, ⑸ CiU =α・xiU + ɛi, の2種類のモデルを想定しなければならない。ここに MiU は市町村 i から宇都宮市への人口移動 指向率,CiU は市町村 i から同市への通勤通学指向率,xiU は市町村 i と宇都宮市を隔てる距離, α,β はパラメータ,ɛi は加法的な誤差項である。 表8はモデル推定15) の結果を示したものである。パラメータ値とその限界水準に加えて,モデ ルの評価基準が併記される。この表によれば,四つのすべての資料集合において,モデル推定の出 来はまずまず良好である。勾配係数は高度に有意であり,予期されたようにマイナス符号をともな う。また,勾配係数のパラメータ値(絶対値)は人口移動の方が通勤通学よりも常に小である。こ のことは,人口移動の方が指向率曲線の勾配はゆるやかであることを示している。さらにモデル選 択の点では,残差の標準誤差(RSE)と情報量規準(AIC)によって,パワー関数の方が当てはま りは良好であると知られる。以上をもとに総合的に判断した結果16) ,図6のプロットに対する回 帰線の当てはめにはパワー関数を適用してみよう。 β β
図6 距離と指向率の関係:宇都宮市の人口吸引圏
(注)N は標本数を示す。表8 宇都宮市への指向率に関する距離減衰モデルの推定結果
資料集合 モデルの種類 および推定法 標本数 切片係数 α 勾配係数 β r^2 RSE AIC 残差分布の Moran' sI 2000年 人口移動 〃 線形回帰 OLS パワー関数 NLS 48 48 40.019 (.000) 348.63 (.017) −0.639 (.000) −0.872 (.001) .319 ― 10.13 9.16 362.49 352.84 .430 (.000) .476 (.000) 2000年 通勤通学 〃 線形回帰 OLS パワー関数 NLS 48 48 57.103 (.000) 2074.7 (.012) −1.235 (.000) −1.449 (.001) .567 ― 11.87 9.44 377.66 355.69 .335 (.001) .368 (.001) 2010年 人口移動 〃 線形回帰 OLS パワー関数 NLS 26 26 51.244 (.000) 327.87 (.024) −0.799 (.000) −0.765 (.000) .526 ― 8.68 8.23 190.06 187.31 .168 (.098) .225 (.052) 2010年 人口移動 〃 線形回帰 OLS パワー関数 NLS 26 26 58.516 (.000) 973.51 (.112) −1.156 (.000) −1.147 (.000) .580 ― 11.29 10.92 203.74 202.03 .036 (.337) .135 (.125) (注) 2r^ は自由度修正決定係数,RSEは残差の標準誤差,AICは赤池情報量規準,Moran' s I は空間的自己相関のモラン統計量, ( ) は限界水準。 この非線形回帰式による予測値のプロットを示したものが図7である。この図にみるように,二 つの年次とも,人口移動の方が通勤通学よりも指向率曲線の勾配はゆるやかであり,2本の曲線は 交差する。交点KとK の横方向座標は各々22.0キロメートル(2000年),22.8キロメートル (2010年)の近い値をとる。また,交点の左側の宇都宮市により近い距離帯では通勤通学の方が 指向率は高く,その反対側では人口移動の方が指向率は高くなる,逆転現象が明白である。さらに は指向率の下限を,たとえば10パーセントや5パーセントのようにやや低めの水準に設定すれば, 人口移動の方が通勤通学よりも流入圏は広くなるという相違性が見出される。これらは上に述べて きた 予想 の裏づけである。それではなぜ流動の種類の相違によって,指向率曲線の勾配は緩急の 差をみせるのか。推測の域を脱し得ないが,この点については時間地理学の一般論17) をもとに, 人の行動範囲を枠づける物理的制約条件―1日24時間と利用可能交通手段―の影響度合の差に基 因するところが大であると考えてさしつかえないであろう。図7 パワー関数による指向率曲線:宇都宮市の人口吸引圏
(注)K, K’は曲線の交点を示す。5.要約とあとがき
人口移動の側面からみた場合,栃木県内の地域間結合網は大小三つの独立したネットワークから 成り立っている。第1は県の首座都市が中枢を司る集中ネットワーク型の宇都宮吸引圏である。そ の圏域は県央部一帯に広く行き渡り,県内最大の組織構造として重要な位置を占める。また,第2 と第3の二つのネットワークは県北東部と県南部とに局限される比較的小さな組織構造である。い ずれも県副心都市の二三を圏中心としていて複合都市圏の様相を呈している。以上これらの三つの ネットワークが織り成す地理的布置の構図は,人口流動の一方の要素である通勤通学の側面からみ た場合ともかなりの部分で一致するところの地域秩序の仕組みである。 このような人口移動の側面からみた県内地域間結合網の根本構造は,過去30余年にわたって持 続状態を保っているようであると考えられる。しかし,事実がどうであったか,このことを必要十 分に検証するのは難しい。それというのも,平成の市町村合併にともなう地域統計単位の度重なる 変更,区画フレームの大枠化のために,利用しうる資料のサイズと情報量がいちじるしく縮小して しまったからである。したがって,地域間結合網の中長期的変化という検討課題の解決に向けては, 本報告で試みたのとは異なるレベルのアプローチ,たとえば中心地体系を構成する企業・事業所や 官公署等の配置網と連絡網の経年変化分析のごとき,よりミクロなレベルの研究方法が求められよ う。 〔付記〕資料収集にあたっては宇都宮市立中央図書館,上三川町立図書館,栃木県民プラザおよび 政府統計の総合窓口 e-Stat を利用した。また,電子計算機による統計演算に際してはインターネ ット上の無償公開ソフトR環境およびGeoDaを利用した。ここに記して謝意を表する次第である。 <注> 1)枚挙にいとまがないが,わが国での初期の研究に奥野(1972)と林(1974)がある。 2)たとえば,宇都宮市の通勤圏に関する篠崎(1966)および日本地誌研究所(1968, p.557), 宇 都 宮 市 の 小 売 商 圏 と 県 南 都 市 群 の 通 勤 圏 に 関 す る 斎 藤 ほ か 編 集 ( 2 0 0 9 , p p . 2 2 6 - 2 2 7 , pp.239-240),小山市・烏山町・今市市・大田原市・田沼町のバス交通圏に関する宇都宮大学 地理学教室編(1980・1982・1983・1986・1988)がある。 3)近現代におけるバス路線網の変遷過程をたどった神山(1990)は数少ない報告例の一つであ る。乗合バスはかつてローカル交通の担い手として中心的役割を果たしていたが,モータリゼー ションの進展にともなって後退し,バス輸送は優位性を失った。栃木県の場合,2013年のバス 輸送量は44年前のピーク(1969年)と比べて,走行キロではほぼ半減,輸送人員では約8分の 1に縮小した(『栃木県統計年鑑』による)。このように今現在では,バス輸送を地域間結合の 適切な指標と見なすことは難しくなったようである。 4)道路交通センサスで集計されるOD表の数値(自動車類台数)が標本抽出調査にもとづく推計 値である点,加えて,OD表の表示方式が三角表である点に基因する。本文中にふれるように, 人口移動と通勤通学のOD表は全数調査の結果であり,表示方式が四角表である。 5)ナイスチェン等は都市の階層構成に関する分析操作の例証のために,米国ワシントン州におけ る経験的事例を提示した。長距離電話の通話OD表をもとに,都市間の直接的結合に加えて行列 の累乗計算で得られる間接的結合の強度を測定し,これらにより,都市階層の機能的組織を地図上に表現している。ただし本報告では,奥野(1972, 1987)による分析手続きである,間接的 結合を加算しない簡便な方法にしたがうことにする。 6)R環境下のprcomp関数は特異値分解による。OD表のように変量数と個体数が等しい場合の資 料行列に対しても適用可能である(青木, 2009, pp.196-197, pp.294-296)。 7)全変量は同じ単位(パーセント)で測定されているから,本文中に後述するQ-技法主成分分析 のように,分散・共分散行列から出発する計算プログラムを選択した。 8)次の9ケースが該当する。1983∼2004年期の宇都宮市→河内町,2005年期の宇都宮市→鹿 沼市,2006年期の宇都宮市→鹿沼市と栃木市→小山市,2007∼2008年期の宇都宮市→鹿沼市, 2009年期の宇都宮市→鹿沼市,2010年期の宇都宮市→鹿沼市,2011∼2013年期の宇都宮市→ 鹿沼市,2014∼2015年期の宇都宮市→鹿沼市。宇都宮市から出る遠心型アークが常に小さな指 向率を示している。 9)いずれも集中ネットワーク型であり,循環ネットワーク型は含まれていない。 10)すべて宇都宮市→鹿沼市の遠心型アーク。 11)図中の期首と期央の区画名には,便宜上,期末における市町名を用いた。 12)この分野の初期の諸研究が採用した負荷量とスコアの基準値を記せば,次のとおりである。 Illeris et al.(1968) Goddard(1970) 林(1974) 藤目(1977)
流動の種類 電話通話 タクシー 自動車 パーソントリップ 負荷量 L 0.25 L 0.50 L 0.20 ¦L¦ 0.30 スコア S 0.00 S 1.00 S 1.00 ¦S¦ 1.00 13)県総面積に対する圏域面積(宇都宮市を除く)の割合を記せば,人口移動の流入圏(2000 年)の71.3パーセント,同(2010年)の81.0パーセント,通勤通学の流入圏(2000年)の 42.5パーセント,同(2010年)の59.9パーセントとなる。 14)県内の市役所・町村役場所在地点と宇都宮市庁舎所在地点間の直線距離。 15)線形回帰式(2)と(3)は通常最小二乗法(OLS)により推定し,非線形回帰式(4)と(5)は逐次解法 の非線形最小二乗法(NLS)により推定した。推定計算はR環境下のlm関数,nls関数によって行 われた。NLSの計算方式はデフォルトのガウス・ニュートン法である。 16)モデル評価基準のうち,残差分布のモラン統計量は回帰モデルに含まれる誤差項の独立性をチ ェックするための統計量。推定計算にはインターネット上の空間統計パッケージGeoDa[2]を用 いた。その際,標本の空間位置座標としては市役所・町村役場所在地点の経緯度を用いた。本文 中の表8にみるように,有意なモラン統計量も少なくはないが,この程度の相関の強さであれば, モデル推定にかかる深刻なバイアスの可能性は低いと思われる。 17)石水(1976, pp.219-223),高阪(1985),杉浦(1985)を参照されたい。 <文献> 青木繁伸(2009):『R による統計解析』オーム社 . 石水照雄(1976):『計量地理学概説』古今書院 . 宇都宮大学地理学教室編(1980・1982・1983・1986・1988):『地理学実地調査報告』16, 18, 19, 22, 24. 奥野隆史(1972):自動車交通流からみた中京地域の連結体系 , 伊藤郷平編著『中京圏』大明堂 ,
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<URL>
[1] http://www.r-project.org [2] http://geoda.uiuc.edu