• 検索結果がありません。

リスク評価にかかわらない監査手続の性格と監査保証 : 監査リスク・モデルを用いたリスク評価に対応する監査手続との比較から

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "リスク評価にかかわらない監査手続の性格と監査保証 : 監査リスク・モデルを用いたリスク評価に対応する監査手続との比較から"

Copied!
14
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

リスク評価にかかわらない監査手続の性格と監査保

証 : 監査リスク・モデルを用いたリスク評価に対

応する監査手続との比較から

著者

上田 耕治

雑誌名

商学論究

66

4

ページ

271-283

発行年

2019-03-10

URL

http://hdl.handle.net/10236/00027936

(2)

 はじめに

財務諸表監査の監査人は、 一連の監査業務において監査リスクを構成する リスク1)のほか、 不正リスク、 特別な検討を必要とするリスクなど多くのリ

− 271 − 1) 監査リスクの構成リスクは、 重要な虚偽表示リスクおよび発見リスクをいう (監基報 200第12項)。

リスク評価にかかわらない

監査手続の性格と監査保証

監査リスク・モデルを用いたリスク評価に対応する

監査手続との比較から

要 旨 財務諸表監査は、 監査リスク・モデルを適用した重要な虚偽表示リスク の評価にもとづく確認的監査手続と不正リスクの識別評価にもとづく探索 的監査手続を組み合わせて実施される。 確認的監査手続は虚偽表示に関連 する例外がないことを検証し、 探索的監査手続は例外があることを検証す る監査手続である。 現在の監査リスク・アプローチの思考は、 探索的監査 手続からの監査保証を社会の期待に適応させるものではないことから、 確 認的監査手続と探索的監査手続の組み合わせを決定する新たな監査手続の 枠組みが必要である。

キーワード:確認的監査手続 (confirmatory audit procedures)、 探索的監 査手続 (exploratory audit procedures)、 監査リスク・モデル (audit risk model)、 不正リスク (risk of fraud)、 監査保証 (assurance)

(3)

スクを評価し、 それらに対応する監査手続を実施する。 財務諸表監査の監査 手続の枠組みは、 監査リスク・アプローチと称されるが、 それは、 監査リス ク・モデルを適用した重要な虚偽表示リスクの評価とそれへの対応の手続を 中心とし、 その一環として、 または、 それとは別個に不正リスクを識別評価 して監査手続を立案実施する2)。 また、 不正リスクに関連する経営者による 内部統制を無効化するリスクへの対応においては、 そのリスクに対する監査 人の評価にかかわらず、 所定の監査手続が立案実施され、 いわば、 不正を予 断なく発見するような監査手続手法が採用されている (監基報240第3132項)。 このほかにも監査業務には多くのリスク概念が介在しているが、 現在の監査 手続の枠組みは、 このように、 監査リスク・モデルを適用したリスク評価に 対応する監査手続と監査リスク・モデルを適用したリスク評価にかかわらな い監査手続の2種類の監査手続を用いて監査上の各種のリスクに複合的に対 応する監査実務を規定している。 本稿では、 リスク評価にかかわらない監査手続に注目し、 この2種類の監 査手続が、 監査の検証結果や監査保証にどのような影響を及ぼすかについて 論じている。 現行の監査実務は、 監査基準等の順次の設定改正による監査リ スク・アプローチの改訂からなっていることから、 不正対応に合わせて採用 されたリスク評価にかかわらない監査手続の検討を通して監査制度の方向性 もうかがいたい。

 リスク評価にかかわらない監査手続

1. 確認的監査手続と探索的監査手続 監査リスク・モデルのリスク評価の実施の有無という観点から監査手続を 整理する。 監査リスク・アプローチは、 監査人に重要な虚偽表示リスクの暫 定的評価と運用評価手続の実施による発見リスクの評価およびこれに応じた 2) 監査手続の実務指針である監査基準委員会報告書 (以下、 本稿において、 監基報と省 略する。) は、 重要な虚偽表示リスクの評価に不正リスクの評価を統合した2系統の 監査手続プロセスを指示している (日本公認会計士協会2012b、 第21項)。 また、 不正 リスク対応をめぐる監査手続の二重性については、 上田2016を参照のこと。

(4)

実証手続の実施を求めている。 図表1は、 監査リスク・モデルに応じた監査 手続の流れであり、 内部統制を含む重要な虚偽表示リスクを評価する監査手 続 (①②) と内部統制の前提なしに不正の摘発を試みる監査手続 (③) を模 式的に示している3)。 後者がリスク評価にかかわらない監査手続である。 なお、 不正リスクは、 重要な虚偽表示のリスクの一部、 すなわち、 不正に よる重要な虚偽表示のリスクと定義されており (監基報240第10項)、 関連内 部統制を考慮して評価される場合 (②) もある (監基報240第26項、 第 A30 項) ことから、 不正に対応する監査手続は2つの流れ (②③) があると考え られる。 ここで、 ①②の監査リスク・モデルを適用して重要な虚偽表示リスクを評 価し、 発見リスクの程度に応じて監査手続 (実証手続) を実施する 「リスク 評 価 に 対 応 す る 監 査 手 続 」 の 流 れ を 本 稿 に お い て 「 確 認 的 監 査 手 続 (confirmatory audit procedures)」 と称し、 ③の重要な虚偽表示リスクの評価

図表1 監査リスク・モデルと不正対応手続 リスク 評価 手続 内部統制 を含む企 業および 企業環境 の理解 リスク 対応 手続 運用評価 手続 リスク 対応 手続 実証手続 十 分 か つ 適 切 な 監 査 証 拠 不正に対応する監査手続 ① ② ③ 3) 監査人は、 リスク評価手続 (内部統制を含む企業および企業環境の理解) において、 不正リスクを識別するための情報を入手するため、 実務上①②は別々に実施されるこ とはない (監基報240第15項)。

(5)

を前提とせず、 検証のための監査手続 (実証手続) を実施する 「リスク評価 にかかわらない監査手続」 の流れを同じく 「探索的監査手続 (exploratory audit procedures)」 と称する。 「リスク評価に対応する監査手続」 を 「確認的」 と表現するのは、 その監 査手続 (実証手続) は、 通常、 有効に運用されている内部統制への依拠 (監 基報330第7項) のもと、 監査対象が想定どおりに適正かどうかを試査・・・・・・・・・ 4) より判断するものであることから、 その想定を確かめるという要素に着目し たものである。 2. 両監査手続の特徴 図表2は、 2種類の監査手続の特徴を整理したものである。 これらの監査手続の特徴の差異は、 監査リスク・モデルを用いたリスク評 価かどうか、 重要な虚偽表示リスクの評価を監査手続の前提としているかど うかという点から生じている。

 リスク評価にかかわらない監査手続の例示

確認的監査手続および探索的監査手続に該当する監基報240 「財務諸表監 査における不正」 の監査手続には以下のようなものがある。 その監査手続の 性格を分析する。 1. 収益認識 (確認的監査手続) 監査人は、 不正による重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際、 収益認 識には不正リスクがあるという推定に基づき、 どのような種類の収益、 取引

4) 試査 (Testing some selected items in a population) とは、 特定の監査手続の実施に際 して、 母集団 (監査の対象とする特定の項目全体をいう。) からその一部の項目を抽 出して、 それに対して監査手続を実施することをいう。 試査には、 一部の項目に対し て監査手続を実施した結果をもって母集団全体の一定の特性を評価する目的を持つ試 査 (サンプリングによる試査) と、 母集団全体の特性を評価する目的を持たない試査 (特定項目抽出による試査) とがある。 (監基報序付録2114)

(6)

形態またはアサーションに関連して不正リスクが発生するかを判断しなけれ ばならない (第25項)。 収益認識に関連する不正な財務報告による重要な虚 偽表示は、 多くの場合、 収益の過大計上 (たとえば、 収益の先行認識または 架空計上) による。 一方、 収益の過少計上 (たとえば、 収益の次年度以降へ の不適切な繰延べ) によることもある (第 A26項)。 監査人は、 不正による重要な虚偽表示リスクであると評価したリスクを、 特別な検討を必要とするリスクとして取り扱わなければならない。 そのため、 監査人は、 そのリスクに関連する統制活動を含む内部統制を理解しなければ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ならない (第26項、 傍点筆者)。 ・・・・ 収益認識のリスク対応手続 (実証手続) としては、 売上債権の残高確認の 図表2 確認的監査手続と探索的監査手続の特徴 確認的監査手続 探索的監査手続 監査手続の種類 実証手続 ただし、 内部統制を含む企業および 企業環境を理解する手続、 運用評価 手続を経て実施される。 実証手続 実証手続に関連の強 いリスク 発見リスク 不正リスク リスクと監査手続の 方法 固有リスクと統制リスクから構成さ れる重要な虚偽表示リスクとの関係 でアサーションごとに監査手続 (リ スク対応手続・実証手続) が計画さ れる。 不正リスク要因等の識別評価に応じ て生じているかもしれない特定の不 正な会計記録等を発見するためにそ の目的に限定した監査手続が立案さ れる。 監査リスク・モデル のリスクとの相関関 係 重要な虚偽表示リスクと逆相関の関 係をもつ。 重要な虚偽表示リスクの評価 (発見 リスク) の枠外で実施され、 それら のリスクとは必ずしも相関しない。 重要な虚偽表示リス クの修正 検証結果により重要な虚偽表示リス クを修正することもある。 その不正発見の監査手続から直接に 重要な虚偽表示リスクを見直すこと は予定されない。 関連する監査基準委 員会報告書 315 「企業及び企業環境の理解を通 じた重要な虚偽表示リスクの識別と 評価」 330 「評価したリスクに対応する監 査人の手続」 240 「財務諸表監査における不正」

(7)

発送割合 (試査範囲) を十分にしたり、 販売取引の記録から、 収益の過大計 上や先行認識が生じていないことの確かめを、 試査範囲を拡大するなどして 実施することが行われる。 監基報240の収益認識の監査手続は、 不正リスク の識別評価が内部統制の検討に関連して実施され、 その内部統制を前提に例 外が生じていないことを確かめる監査手続であり、 その意味で、 監査リスク・ モデルを適用した確認的な監査手続といえる。 2. 仕訳テスト (探索的監査手続) 経営者は、 有効に運用されている内部統制を無効化することによって、 会 計記録を改ざんし不正な財務諸表を作成することができる特別な立場にある。 経営者による内部統制を無効化するリスクの程度は企業によって異なるが、 すべての企業に存在する (第30項)。 不正による重要な虚偽表示は、 不適切 なまたは権限外の仕訳を記録するような財務報告プロセスにおける操作を伴 うことが多い。 これは監査対象期間を通じてまたは期末に、 経営者によって、 連結決算修正または組替えのように正規の仕訳によらずに財務諸表上の金額 を修正することにより行われる可能性がある (第 A39項)。 監査人は、 経営者による内部統制を無効化するリスクに対する監査人の評・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 価にかかわらず、 以下の監査手続を立案し実施しなければならない (第31項 ・・・・・・・ 一部抜粋、 傍点筆者)。 総勘定元帳に記録された仕訳入力や総勘定元帳から財務諸表を作成する過 程における修正についての適切性を検証するために以下の手続を立案し実施 すること ①財務報告プロセスの担当者に対して、 仕訳入力および修正のプロセスに関 連する不適切なまたは通例でない処理について質問すること ②期末時点で行われた仕訳入力および修正を抽出すること ③仕訳入力および修正を監査対象期間を通じて検証する必要性を考慮するこ と 経営者による内部統制を無効化するリスクはすべての企業に存在する (第

(8)

30項) ため、 監査人は、 財務諸表作成プロセスにおける重要な仕訳入力およ び修正について検証する手続を必ず実施する。 このような監査手続を仕訳テ スト5)というが、 仕訳テストは、 重要な取引種類に対する実証手続 (監基報 330第17項) として、 内部統制の検討や他の不正リスクの識別評価にかかわ らず、 前提なく例外を発見する監査手続として実施されており、 監査リスク・ モデルを適用しない探索的な監査手続といえる。 3. 不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続 (探索的監査手続) 不正による重要な虚偽表示へのリスク対応手続として、 監基報240には次 のような例示がある。 (1) アサーション・レベルにおける検討事項 ①予告なしに事業所を往査するか、 または特定の監査手続を実施する。 ②主要な得意先および仕入先に対して確認状を送付するとともに、 直接連絡 をとることにより多角的な情報を得る。 ③期末の修正仕訳を詳細に検討し、 取引内容や金額について異常と思われる すべての仕訳を調査する (付録2一部抜粋)。 アサーション・レベルにおける追加の監査証拠の入手が強調され、 監査 対象会社が予期しない方法で監査証拠を入手する、 通常の監査証拠に加え てそれを裏付けるための追加の手続を実施する、 不正を発見するような分 析的手続を行う、 のような監査手続の方法により証拠力の強い監査証拠の入 手が示されている。 (2) 不正な財務報告による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続 「収益認識」、 「棚卸数量」 の監査手続のほか、 「経営者の見積り」 に関し て次の手続が示されている。 5) 仕訳テストとは、 「財務諸表作成プロセスに関連する実証手続 (監基報330第17項)」 にある 「財務諸表作成プロセスにおける重要な仕訳入力および修正」 および 「経営者 による内部統制の無効化に関連したリスク対応手続 (監基報240第31項)」 にある 「総 勘定元帳に記録された仕訳入力や総勘定元帳から財務諸表を作成する過程における修 正」 について検証する手続をいう (日本公認会計士協会2012a、 Q10)。

(9)

①経営者から独立した専門家に依頼し、 経営者の見積りと比較する。 ②見積りの前提となる事業計画を遂行する経営者の能力と意図を裏付けるた め、 経営者や経理部門以外の者にまで質問対象を広げる (付録2一部抜粋)。 専門家の利用や監査証拠の入手源を拡大することにより、 監査証拠の質と 量を拡大することが示されている。 (3) 資産の流用による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続 ①得意先に直接、 監査対象期間の取引活動 (マイナスの請求書の発行金額、 売上返品および支払日) について確認する。 ②償却済み債権の回収分析を行う。 ③棚卸資産の差異に関する分析資料を検討する。 ④仕入先リストと従業員リストを CAAT (筆者注:「コンピュータ利用監査 技法」 computer-assisted audit techniques) により照合し、 住所や電話番号 が一致していないかどうかを確かめる (付録2一部抜粋)。 これらは、 資産の流用に関する異常点についての分析や確かめであり、 資 産の流用を突き止めるためにのみ行うような監査手続も含まれている。 不正 に関する監基報240の監査手続例では、 「想定どおりに適正である」 ことを確 かめるための監査手続ではなく、 「不正がないという想定を許さない、 もし 不正が存在した場合に見逃さない」 ような探索的な監査手続がより多く例示 されている。 監査人は、 経営者、 取締役等および監査役等の信頼性および誠実性に関す る監査人の過去の経験にかかわらず、 不正による重要な虚偽表示が行われる 可能性に常に留意し、 監査の全過程を通じて、 職業的懐疑心を保持しなけれ ばならない (第11項)。 そのためにも、 すべての企業に存在する経営者によ る内部統制を無効化するリスク (第30項) に対応するため、 探索的な監査手 続が組み込まれるものと考えられる。

(10)

 リスク評価にかかわらない監査手続の監査証拠

1. 両監査手続の検証方法 監査人は、 確認的監査手続と探索的監査手続を併用して、 十分かつ適切な 監査証拠を入手するが、 両監査手続には、 監査対象の選択方法やその検証結 果にも大きな差異があり、 それぞれ監査証拠の評価にも違いを生じる。 図表 3は、 確認的監査手続と探索的監査手続の検証方法の差異について要点を示 したものである。 2. 両監査手続からの監査証拠の特徴 両監査手続は、 母集団の残余部分への配慮や総当たり検討の範囲など、 共 に監査実施上追加的な手続を含んでいるものの、 主として虚偽表示に関連す る例外がないことを検証するか、 例外があることを検証するかという反対の 意味の監査証拠を入手する。 そのため、 検証結果の結論も正しいこと肯定的 に表現するか、 正しくないものが発見されなかったというように否定的に表 図表3 確認的監査手続と探索的監査手続の検証方法 確認的監査手続 探索的監査手続 リスクに対応する手 続としてより強く対 応するリスク概念 ・重要な虚偽表示リスク ・不正リスク (不正による重要な虚偽表示リスク) ・不正リスク (不正による重要な虚偽表示リスク、 特に、 経営者による内部統制の無効 化に関係したリスク) 検証対象の選択方法 重要な虚偽表示リスクの評価に応じ た試査 目的とする検証結果を満足させる範 囲の総当たり (brute force) 監査 検証結果の結論 試査サンプルに例外がないことを確 認して、 監査対象が適正であるとい う結論を形成する。 総当たり検討によっても例外を発見 しなかったことにより、 監査対象に 不正は存在しないという結論を形成 する。 検証結果の結論の特 徴 想定どおりであることを確認する。 検証範囲の試査サンプルと同様に全 体が正しいことを確かめる。 (肯定 的結論) 想定外の異常が発見されなかったこ とを確認する。 検証範囲において正しくないものが 存在しないことを確かめる。 (否定 的結論) 虚偽表示の推定 行う。 行わない。

(11)

現するかの違いが生じる。 確認的監査手続は、 試査を適用しており、 虚偽表示の推定6)、 すなわち、 母集団における虚偽表示の監査人の最善の見積り (監基報450第 A3 項) に よりサンプルから母集団へと虚偽表示額を推定する (監基報530第13項)。 一 方、 探索的監査手続は、 発見された例外について不正の兆候等を検討する (監基報240第3435項) が、 その例外は監査対象である母集団について何も 説明しない。 虚偽表示の推定を行う確認的監査手続は、 確率の考え方を基礎としており、 推定により母集団全体の虚偽表示を把握する。 すなわち、 監査対象である母 集団全体について正の部分と誤の部分を区分するのである。 このような検証 方法は、 重要な虚偽表示が含まれる可能性と監査保証の程度が補数の関係7) で表される監査リスク・アプローチの監査リスクの概念とも整合していると 考えられる。 他方、 探索的監査手続は、 総当たり検討を原則とするものの、 すべての取 引についての仕訳テスト等の実証手続は行うことができないのが通常であり、 その場合には、 重要な虚偽表示を発見しなかったことと重要な虚偽表示がな いという結論との関係は明確でない。 3. 両監査手続からの監査証拠と合理的な保証との関係 合理的な保証は、 財務諸表監査において、 絶対的ではないが高い水準の保 証 (監基報200第12項) である。 合理的な保証は、 監査人が、 監査リスク (すなわち、 財務諸表に重要な虚偽表示がある場合に監査人が不適切な意見 を表明するリスク) を許容可能な低い水準に抑えるために、 十分かつ適切な 監査証拠を入手した場合に得られる。 一方、 監査には固有の限界があるため、 6) 虚偽表示の推定は、 監査サンプリング (監基報530第4項) の場合に行われ、 特定項 目抽出による試査の場合には残余部分に対する追加の手続を実施することの要否を検 討し、 虚偽表示の推定は行わない (監基報500第 A54A55項)。 7) 監査リスクが監査保証と補数の関係になることについては、 上田2017a、 60頁を参照 のこと。

(12)

監査人が結論を導き、 意見表明の基礎となる監査証拠の大部分は、 絶対的と いうより心証的なものである (監基報200第5項)。 監査の固有の限界は、 財務報告の性質、 監査手続の性質、 監査を合 理的な期間内に合理的なコストで実施する必要性を原因として生じ、 このた め、 監査人は、 効果的な方法で監査を実施するために、 監査を計画するこ と、 不正か誤謬かを問わず、 重要な虚偽表示リスクを含む可能性が高いと 想定される部分に重点を置いて監査を実施すること、 試査その他の方法を 用いて、 虚偽表示がないかどうかについて母集団を検討すること (監基報 200第 A44項)、 のような方法を行わざるをえない。 ここで、 先の検討から、 確認的監査手続と探索的監査手続は、 図表4のよ うな合理的な保証との関係が見いだせる。 このように、 探索的監査手続からの監査証拠は、 監査リスク・アプローチ から求められる合理的な保証を直接担保するものではなく、 合理的な保証の 水準を高める役割をもつものということができる。 また、 探索的監査手続は、 虚偽表示がないかどうかについての母集団の検討に試査その他の方法を用い ざるをえない、 という監査実施上の固有の限界を超えようとする方向性を有 している。 図表4 リスク評価と合理的な保証 確認的監査手続 探索的監査手続 監査リスク・モデル を用いたリスク評価 監査リスク・モデルを用いたリスク 評価を行う。 リスク評価そのものを行わずに実施 する監査手続もある。 確率論の考え方と試 査の適用 あり。 なし。 監査リスクとの関係 監査リスク・モデルにより明確。 監査リスクと明確な関連性はない。 監査手続の結論 肯定的結論 (適正である。) 否定的結論 (不正は発見できていな い。) 合理的な保証との関 係 監査リスク・モデルに前提をおいた 合理的な保証を提供する。 監査リスク・モデルによる保証の合 理性を高める役割をもつ。

(13)

 まとめにかえて

監査リスク・モデルを用いた監査リスク・アプローチの監査手続の枠組み は、 監査リスクを所与のものとして、 監査に対する社会的な期待を背景とす る監査手続の体系として制度上重要な意義をもっている。 一方、 近時、 不正 会計事例が多く見られるなか、 探索的監査手続への関心が高まっている8) しかし、 力任せな探索的監査手続を特に重視するような場合、 監査リスク・ モデルを用いたリスク評価や試査の考え方を基礎とした合理的な保証の枠組 みから外れてしまう可能性も考慮しなければならない。 探索的監査手続は、 監査リスクと明確な関連性はなく、 監査リスクの補数の関係で示されるよう な監査保証とは異なる性格の監査手続だからである。 現在の監査リスク・ア プローチの考え方では、 探索的監査手続からなる監査保証を社会の許容水準 に適合させるように統制することができないことから、 探索的監査手続に傾 斜した監査実務は、 財務諸表の適正性に関する合理的な保証という社会の期 待にそぐわない可能性もある。 一方、 探索的監査手続にも、 IT や AI の進展をもとにデータ分析を用いた 100%分析9)の方法を導入するなど大きな進展が見込まれている。 これらの現状の観察から、 確認的監査手続を前提とし、 それに探索的監査 手続を組み合わせることで監査保証を高めるという監査アプローチの構造を 認めることができる。 一定の合理的な保証の上に探索的監査手続を加えて、 全体としてより信頼性の高い監査手続の体系を生み出そうとしているのであ る。 このように見ると、 現在の監査保証には、 確認的監査手続と探索的監査手 続の組み合わせを決定する制度上の新たな監査手続の枠組みやそれに対する 8) 探索的監査手続は、 特に不正対応に適用されるものであるが、 監査の主たる目的が不 正摘発にないことは、 不正リスク対応基準にも 「本基準は、 財務諸表監査の目的を変 えるものではなく、 不正摘発自体を意図するものでもない (前文)。」 との文脈により 示されている。 9) データ分析による100%分析の検証方法に関しては、 上田2017b を参照のこと。

(14)

社会的な合意が必要であると考えられる。 また、 現時、 監査報告改革を通じた監査の透明化が進められているが、 監 査人と利用者のコミュニケーションが、 そのような新たな監査手続の枠組み に代替するものとして実務に適用されるような実情やそのようなコミュニケー ションが監査手続の枠組みに及ぼす影響の検討が、 今後の監査手続の研究課 題になるものと考える。 (筆者は関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授) 参考文献 上田耕治 (2016) 「監査リスク・アプローチの手続的変化−不正に関する監査基準委員会 報告書の監査手続−」 商学論究第63巻第3号。 上田耕治 (2017a) 「監査リスクの暫定的評価と監査戦略−監査リスク・アプローチの効率 性のしくみと限界−」 産研論集第44号。 上田耕治 (2017b) 「データ分析と監査アプローチ−IAASB のデータ分析に関するコメン ト要請に関連して−」 ビジネス&アカウンティングレビュー第20号。

日本公認会計士協会 (2012a) IT 委員会研究報告第42号「IT 委員会実務指針第6号「IT を利用した情報システムに関する重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び評価したリス クに対応する監査人の手続について」に関する Q & A 」平成24年6月。

日本公認会計士協会 (2012b) 監査基準委員会研究報告第1号「監査ツール」平成24年6 月。

参照

関連したドキュメント

・ 継続企業の前提に関する事項について、重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関して重要な不確実性が認

当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の監査の基準に

対象自治体 包括外部監査対象団体(252 条の (6 第 1 項) 所定の監査   について、監査委員の監査に

( 同様に、行為者には、一つの生命侵害の認識しか認められないため、一つの故意犯しか認められないことになると思われる。

 リスク研究の分野では、 「リスク」 を検証する際にその対になる言葉と して 「ベネフ ィッ ト」

統制の意図がない 確信と十分に練られた計画によっ (逆に十分に統制の取れた犯 て性犯罪に至る 行をする)... 低リスク

さらに, 会計監査人が独立の立場を保持し, かつ, 適正な監査を実施してい るかを監視及び検証するとともに,

化管法、労安法など、事業者が自らリスク評価を行