• 検索結果がありません。

ソーシャルスキル教育の観点からの保育内容(人間関係)の内容分析

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ソーシャルスキル教育の観点からの保育内容(人間関係)の内容分析"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. ソーシャルスキル教育の観点からの保育内容(人間関係)の内容分析. Author(s). 本田, 真大. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 68(2): 65-74. Issue Date. 2018-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9675. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. ソーシャルスキル教育の観点からの保育内容(人間関係)の内容分析 本 田 真 大 北海道教育大学函館校. Content Analysis of “Contents of Childcare and Education of Human Relationships” from the Perspective of Social Skills Education. HONDA Masahiro Department of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. ABSTRACT The aim of this study is to examine the “contents of childcare and education of human relationships” from the perspective of social skills education. First, quantitative text analysis was conducted. Results of the analysis showed that the important words of the “contents of childcare and education of human relationships” were “experience,” “relationship,” and “trust.” Next, the correspondence between “contents of childcare and education of human relationships” and social skills education was examined. That examination showed that almost all contents of “contents of childcare and education of human relationships” included several aspects of social skills. The perspectives of social skills education based on childcare and education systems were discussed. Key Words : contents of childcare and education of human relationships, social skills education, infant, quantitative text analysis. 問題と目的. 示されている(レビューは,佐藤,2015)。その ため,幼児期に仲間から孤立せずに適切な対人関. 1.幼児期のソーシャルスキルの重要性. 係を結べることは重要であると考えられる。した. ソーシャルスキルとは「対人関係を円滑に運ぶ. がって,幼児教育においてソーシャルスキルの観. ための知識とそれに裏打ちされた具体的な技術や. 点から子ども理解をすることや,一人ひとりの子. コツの総称」であり(佐藤,2015) ,具体的な対. どものソーシャルスキルをアセスメントし,その. 人行動をとらえる概念である。幼児期のソーシャ. 発達を援助することが望まれる。. ルスキルは小学校以降のソーシャルスキルと関連 し,将来にわたって個人の適応を予測することが. 65.

(3) 本 田 真 大. 2.幼児を対象としたソーシャルスキル教育. 保育要領(内閣府・文部科学省・厚生労働省,. ソーシャルスキルを高めるための介入方法は,. 2017)(以下,3法令)の中で共通して記述され. 従来は攻撃行動が多い子どもや引っ込み思案な子. ている「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」. どもを対象とし,仲間との適切な相互作用を促進. の中には「協同性」, 「道徳性・規範意識の芽生え」,. することを目標として個別または小集団を対象に. 「言葉による伝え合い」,などがあり,ソーシャ. ソーシャルスキルトレーニングとして実施されて. ルスキルと関連が深いものが多くみられる。. きた (例えば, 佐藤・佐藤・高山,1993)。その後,. 4.本研究の目的. 学級集団のすべての子どもを対象としてソーシャ. 以上みてきたように,心理学の立場からは幼児. ルスキルを育成する方法が実践されるようになっ. 期の発達におけるソーシャルスキルの重要性が実. た。このような予防的・開発的な目的で集団対象. 証され,ソーシャルスキル教育によってスキルの. に実施する方法はソーシャルスキル教育と呼ばれ. 向上を図ることがめざされている。一方で,幼児. (佐藤・相川,2005;相川・佐藤,2006),基本. 教育の立場では「ソーシャルスキル」の概念とは. となる14のソーシャルスキルが明示されている。. 異なるとらえ方で対人関係の重要性が指摘されて. ソーシャルスキル教育は当初,小学生や中学生. いる。そのため,幼児教育においてソーシャルス. を対象に実践研究が行われていたが,近年では幼. キル及びソーシャルスキル教育をどのように位置. 児集団を対象とした実践研究が行われている(岡. づけることができるのかは十分検討されていない. 村・金山・佐藤・佐藤,2009;清水,2013)。ま. のが現状である。実際に保育所・幼稚園・こども. た,佐藤(2015)は幼稚園の3歳児,4歳児,5. 園においてソーシャルスキル教育が実施されてい. 歳児を対象に実施した体系的なソーシャルスキル. るものの,乳幼児の発達に即した実践方法を行う. 教育を紹介している。その中では紙芝居や絵本な. のみでは不十分であり,3法令に示されている乳. どの児童文化財を用いたり運動遊びを取り入れた. 幼児の保育・教育の考え方を踏まえて実施するこ. りして, 「あいさつ」,「仲間の入り方」,「道具の. とが求められよう。この点においても乳幼児の保. 借り方」 , 「やさしい頼み方」などのソーシャルス. 育・教育の枠組みの中でソーシャルスキル教育が. キルへの介入が行われている。. どのように位置づくのかを明確にすることは重要. 3.幼児教育におけるソーシャルスキル. と言える。. 幼児教育の中でソーシャルスキルについて言及. そこで,本研究では幼児教育の中に見られる. しているものは清水(2015)など少ない。むしろ. ソーシャルスキル及びソーシャルスキル教育につ. 幼児の社会性や対人行動についてはソーシャルス. いて検討することを目的とする。. キルの概念とは異なるとらえ方が散見される。そ の中でも小学校への進学に伴う困難さ(小1プロ ブレム)を解消し,円滑な幼小接続を実現するた. 方 法. めのアプローチ・カリキュラムにおいて社会性や. 1.本研究で比較・検討に用いる資料. 対人行動に言及しているものは多い。例えば八尾. ⑴ ソーシャルスキル教育に関する資料. 市・八尾市教育委員会(2014)では「つながる力」. 本研究ではソーシャルスキル教育において取り. として「話す・伝えあう・言葉」,「きく・理解す. 上げられることが多い14の基本となるソーシャル. る・くみ取る」 ,「共感・折りあう・協同性」とい. スキル(相川・佐藤,2006)を用いることとした. う3つの要素を挙げている。. (Table1)。この14の基本となるソーシャルスキ. さらに平成29年4月に告示された保育所保育指. ルは幼稚園,小学校,中学校で共通する部分が多. 針(厚生労働省,2017) ,幼稚園教育要領(文部. いと考えられており(佐藤,2015) ,現在の3法. 科学省,2017),幼保連携型認定こども園教育・. 令では小学校への接続がこれまでよりも重視され. 66.

(4) 保育内容(人間関係)とソーシャルスキル教育. Table 1 14の基本となるソーシャルスキルの分類 (相川・佐藤 (2006) を基に作成). 用いることで恣意的な要約を避けるようにした。 その結果を保育内容(人間関係)の重要な情報の 一つとしつつ,保育内容(人間関係)のねらい, 内容,内容の取扱いの各項目の記述と14の基本と なるソーシャルスキルの対応を図り,ソーシャル スキル及びソーシャルスキル教育との関連から保 育内容(人間関係)の記述内容を分類した。. 結果と考察. ていることを踏まえると,幼児期におけるソー シャルスキル教育の位置づけや在り方を検討する. 1.保育内容(人間関係)の内容分析. 上で,小学校との接続が明確な14の基本となる. ⑴ 保育内容(人間関係)の全体像の把握. ソーシャルスキルを資料とすることが妥当である. 保育内容(人間関係)の全体像を把握するため. と判断された。. に,ねらい,内容,内容の取扱いの記述を用いて. ⑵ 乳幼児の保育・教育に関する資料. 計量テキスト分析を行った。ただし, 「保育内容(人. ソーシャルスキル教育と比較する乳幼児の保. 間関係)」の見出しの下の括弧内の説明(「他の人々. 育・教育の資料として3法令の保育内容(人間関. と親しみ,支え合って生活するために,自立心を. 係)を用いることとした。その理由は以下の2つ. 育て,人と関わる力を養う。」)と, 「内容の取扱い」. であった。第一に,わが国の乳幼児期を対象とし. の見出しの次の一文(「上記の取扱いに当たって. たソーシャルスキル教育は主として3歳児,4歳. は,次の事項に留意する必要がある。」)は分析か. 児, 5歳児の集団を対象に実施されており(清水,. ら除外した。. 2013;佐藤,2015),また,平成29年4月に告示. 保育内容(人間関係)は見出し(「保育内容(人. された3法令の中では3歳以上児に関する保育内. 間関係)」,「ねらい」,「内容」,「内容の取扱い」). 容の記述が統一された。そのため,まずは3歳以. を含めて総抽出語数は813語(23段落,30文)で. 上児の保育内容におけるソーシャルスキル教育の. あり,このデータを分析した。多く出現していた. 位置づけを検討する重要性が高いと考えられるた. 語を確認するために抽出語の出現回数を算出した. めであった。第二に,保育内容の中でも人間関係. (Table2)。最も多かったものから上位10語は, 「自. の領域が最もソーシャルスキル及びソーシャルス. 分」(13回), 「生活」(11回), 「幼児」(10回), 「気. キル教育との関連が深いと考えられるためであっ. 付く」(8回), 「人」(8回), 「行動」(7回), 「味. た。. わう」(7回), 「楽しい」(6回), 「友達」(6回),. ⑶ 分析方法. 「力」(6回),であった。. 本研究では3法令の保育内容(人間関係)の記. これらを代表とする抽出語同士の結びつき,す. 述とソーシャルスキル及びソーシャルスキル教育. なわち語の出現パターンの似通った語(共起の程. を比較・検討するために以下の分析を行った。ま. 度が強い語)を探るために,集計単位を段落,語. ず,保育内容(人間関係)の情報を要約するため. の最小出現数を2,描画数を60に設定した共起. に計量テキスト分析を行った。計量テキスト分析. ネットワークを作成した(Figure1)。Figure1に. とは計量的分析手法を用いてテキスト型データを. おいて,円が大きいほどその語の出現回数が多く,. 整理または分析し,内容分析を行う方法であり,. 線が太いほど共起の程度が強く,円の色が黒に近. コンピュータの適切な利用が望ましいとされる. いほど媒介中心性が高いことを表した。. (樋口,2014) 。分析ソフトとしてKH Coderを. 媒介中心性に注目すると, 「体験」, 「関係」, 「信. 67.

(5) 本 田 真 大. 頼」が多くの語を媒介していることが明らかに. に気付き,自分の気持ちを調整する力が育つよう. なった。保育内容(人間関係)の記述では(媒介. にすること。」のように,教師との信頼関係を基. 中心性の高い語に下線を引いた) ,内容の取扱い. 盤として幼児が多様な体験をすることが述べられ. ⑴「教師との信頼関係に支えられて自分自身の生. ている。また,内容の取扱い⑷「(前略)特に,. 活を確立していくことが人と関わる基盤となるこ. 人に対する信頼感や思いやりの気持ちは,葛藤や. とを考慮し,幼児が自ら周囲に働き掛けることに. つまずきをも体験し,それらを乗り越えることに. より多様な感情を体験し,(後略)」,内容の取扱. より次第に芽生えてくることに配慮すること。」. い⑸「 (前略)幼児が教師との信頼関係に支えら. という記述のように,葛藤やつまずきの体験を乗. れて自己を発揮する中で,互いに思いを主張し,. り越えることによって信頼感が得られると記述さ. 折り合いを付ける体験をし,きまりの必要性など. れている。. Table 2 保育内容(人間関係)からの抽出語の出現回数. 68.

(6) 保育内容(人間関係)とソーシャルスキル教育. Figure 1 保育内容(人間関係)の共起ネットワーク. ⑵ 保育内容(人間関係)とソーシャルスキル 教育の関連. 育内容(人間関係)の中で重要な側面ととらえて, ソーシャルスキル教育との関連を考察する。. 計量テキスト分析の結果より,保育内容(人間. ソーシャルスキル教育においては,獲得や向上. 関係)の中では教師との信頼関係を基盤として幼. を促したい特定のソーシャルスキル(あいさつ,. 児の多様な体験を保障し,体験の中で葛藤をも経. 話の聴き方など)を設定的な状況の中で反復使用. 験し乗り越えることで他者との信頼感が醸成され. する「リハーサル」と,幼児の行動として現れた. るという信頼感と葛藤体験が循環するという考え. ソーシャルスキルに対する他者からの肯定的な評. 方が読み取れる。「体験」,「関係」,「信頼」とい. 価や改善点の指摘である「フィードバック」が行. う語は媒介中心性が高く,上述した内容の取扱い. われる。そして,学習したソーシャルスキルが定. ⑴,⑸,⑷以外の箇所にも散見されており,様々. 着する(般化する)ためには日常生活でスキルを. な語との共起が見られる。よってこれらの語を保. 使用した際に他者(保育者など)がこまめにフィー. 69.

(7) 本 田 真 大. ドバックすることが不可欠である。つまり,保育. 係維持スキルと対応するが,幼児期の仲間関係の. 者は幼児が特定のソーシャルスキルを反復練習で. 発達を考慮すると集団の中で人間関係を広げる過. きる環境を設定し,その中で幼児はソーシャルス. 程も同時に進行すると思われたため,関係開始ス. キルが求められる(葛藤)状況を体験し,ソーシャ. キルとも対応すると判断した。さらに,「工夫し. ルスキルを使用することでその状況を乗り越える. たり,」には,遊びの中で直面した状況で目標や. 経験を重ねることになる。福島(2015)は,活動. 対処方法を考えて実行する内容であるため問題解. 中に恥ずかしがったりふざけたりする子どもに無. 決スキルに対応すると判断し,「協力したりして. 理強いしたり叱ったりするよりも,保育者や保護. 一緒に活動する」の箇所は自己主張や自己抑制が. 者が多く褒めたり,教師と一緒に行動したりする. 求められるため主張性スキルに対応すると分類さ. ことで楽しく参加できるように配慮したと報告し. れた。ねらい⑴「自分の力で行動する」は観察可. ている。このような援助は保育者や保護者との信. 能な行動であるが個々のソーシャルスキルとの対. 頼関係に支えられて幼児が自己を発揮する姿につ. 応は明確ではなかった。ねらい⑶は「身に付ける」. ながったと思われる。また,幼児のソーシャルス. という記述は観察可能な行動ではないと判断され. キルに対する細やかなフィードバック(保育者か. た。以上より,保育内容(人間関係)の「ねらい」. らの注目や承認,賞賛など)を通して,幼児が保. には,関係開始スキル,関係維持スキル,主張性. 育者に対してさらに信頼感を高めることにつなが. スキル,問題解決スキルに各1つずつ対応する箇. ると思われる。. 所が確認された。. このように,ソーシャルスキル教育の中で生じ. 同様に分類した結果,「内容」では関係開始ス. る保育者と幼児の関係性や相互作用は,保育内容. キル1つ,関係維持スキル3つ,主張性スキル2. (人間関係)の中でも重要な「体験」, 「関係」, 「信. つ,問題解決スキル4つと対応する箇所が見られ. 頼」と関連が深いと言うことができよう。. た。「内容の取扱い」では関係開始スキル1つ,. 2.保育内容(人間関係)の記述内容とソーシャ. 関係維持スキル5つ,主張性スキル3つ,問題解. ルスキル及びソーシャルスキル教育の関連 ⑴ 保育内容(人間関係)とソーシャルスキル の対応. 決スキル4つと対応する箇所が見られた。合計す ると,保育内容(人間関係)の記述内容には関係 開始スキル3つ,関係維持スキル9つ,主張性ス. 保育内容(人間関係)の記述内容と14の基本と. キル6つ,問題解決スキル9つが対応すると判断. なるソーシャルスキルの対応を検討した。14の基. された。. 本となるソーシャルスキルは,相川・佐藤(2006). ⑵ ソーシャルスキルとの対応が見られなかっ. に基づいて4つの分類すなわち上位カテゴリ(関. た保育内容(人間関係)のねらいと内容. 係開始スキル,関係維持スキル,主張性スキル,. ソーシャルスキルとの対応が見られなかったも. 問題解決スキル)から対応を示した(Table3)。. のを抽出し考察する。対応が見られなかった記述. Table3の中で,行動として観察可能であると判. 内容は主として行動ではなくより内面的な認知や. 断された記述箇所に下線を引き,さらにその箇所. 感情,欲求などに関する記述であり,それらは大. がソーシャルスキルの4つの分類と対応すると考. きく3つに分類できる。第一に,主体性や自律性. えられた場合にはその分類を記載した。. に関する記述である。具体的には,ねらい⑴内の. 分類の仕方の例として,「ねらい」では⑵「身. 「自分の力で行動する」,内容⑶「自分でできる. 近な人と親しみ,関わりを深め,工夫したり,協. ことは自分でする。」,内容⑷「色々な遊びを楽し. 力したりして一緒に活動する楽しさを味わい,愛. みながら物事をやり遂げようとする気持ちをも. 情や信頼感をもつ。」に関して,「関わりを深め」. つ。」,が該当した。幼児教育においては幼児の主. は人間関係を維持・発展させる内容であるため関. 体性を重視することが期待されている(文部科学. 70.

(8) 保育内容(人間関係)とソーシャルスキル教育. Table 3 保育内容(人間関係)とソーシャルスキルの対応. 71.

(9) 本 田 真 大. 省,2017) 。幼児集団を対象としたソーシャルス. 実際に小学生以上を対象とした学校で行うソー. キル教育を評価する上では,幼児の主体的な活動. シャルスキル教育の後には般化を促進するための. として行われているかどうか,ソーシャルスキル. 実践が加えられる(例えば,藤枝,2006)。ソーシャ. を遂行することで幼児が「自分でできた」という. ルスキル教育を導入するきっかけの多くは保育者. 感覚を持てるかどうか,は欠かせないと言えよう。. が幼児同士の人間関係上の課題やニーズを感じる. ソーシャルスキル教育は一斉保育の形態となる. ことであろう。実際に導入した後には,保育者は. が,河邉(2005)や鯨岡(2015)が指摘するよう. 幼児が獲得したソーシャルスキルをより多くの. に,自由か一斉かという保育方法,保育形態を問. 人々に対して遂行できるような機会(環境)を用. わず,いかに幼児の自発的で主体的な活動を行う. 意し,一人ひとりの幼児に応じた援助を提供する. かという発想と実践が重要となろう。第二の分類. ことで般化を促すことが大切であろう。. は,社会的に価値ある結果に関する記述である。 社会的に価値ある結果とはソーシャルスキル教育 の効果を把握する上での観点の1つである. 総合考察. (Ogilvy,1994)。具体的な記述としては,内容. 1.本研究のまとめ . ⑴「先生や友達と共に過ごすことの喜びを味わ. 本研究の目的は幼児教育の中に見られるソー. う。 」 ,ねらい⑶「社会生活における望ましい習慣. シャルスキル及びソーシャルスキル教育について. や態度を身に付ける。」,内容⑾「友達と楽しく生. 検討することであった。. 活する中できまりの大切さに気付き,守ろうとす. 本研究の結果から明らかになったことは以下の. る。 」 ,が該当した。これらはソーシャルスキルを. 3点である。第一に,計量テキスト分析によって. 獲得し遂行することによって対人関係がさらに良. 保育内容(人間関係)の重要な点は「体験」,「信. 好になった結果として得られる内容であると考え. 頼」,「関係」であることが示され,信頼感と葛藤. られる。ソーシャルスキル教育の効果検証におい. 体験の循環という考え方が読み取れた。. ては取り上げた個別のソーシャルスキルの獲得や. 第二に,ソーシャルスキル教育の観点から保育. 遂行の程度を評価することが重要である。それに. 内容(人間関係)をとらえると, 「ねらい」, 「内容」,. 加えて,幼児を対象とした場合の社会的に価値あ. 「内容の取扱い」の多くの項目が基本となる14の. る結果として,対人関係を楽しんでいるか,社会. ソーシャルスキルの分類(関係開始スキル,関係. 生活・集団生活のきまりを守るなど幼児期の発達. 維持スキル,主張性スキル,問題解決スキル)と. に見合った自立的な行動が見られるか,という点. 対応する記述が含まれていることが明らかになっ. を考慮することが望ましいと言えよう。. た。基本となる14のソーシャルスキルは対人行動. 第三に,ソーシャルスキルの般化に分類される. を幅広くとらえたものとして提案されており(相. 記述であり,内容⒀「高齢者をはじめ地域の人々. 川・佐藤,2006),保育内容(人間関係)の多く. などの自分の生活に関係の深いいろいろな人に親. の範囲と重なること自体は妥当なことであろう。. しみをもつ。 」 ,が該当した。幼稚園・保育園・こ. 4つの分類の中では関係維持スキルと問題解決ス. ども園においてソーシャルスキル教育を行う際に. キルが相対的に多く,次いで主張性スキルが多く. は,対人行動の対象をまずは幼児同士に設定して. 見られた。関係維持スキルは対人関係を維持・発. 行う(例えば,佐藤,2015) 。般化・維持の程度. 展させる上で必要な肯定的な関わりのスキルであ. もソーシャルスキル教育の評価の1つの観点であ. り,保育者が子ども同士の関係を発展させる上で. る(Ogilvy,1994)。そこで獲得したソーシャル. 欠かせない側面であると思われる。問題解決スキ. スキルを保育者や家庭,地域の人々などに対して. ルについては,いざこざやけんかといった葛藤を. も行うこと, すなわち般化することが期待される。. 保育者が丁寧に扱うことの重要性が指摘されるよ. 72.

(10) 保育内容(人間関係)とソーシャルスキル教育. うに(無藤,2009),葛藤を発達に必要な経験と. に達成されることが期待されている(文部科学. してとらえ, 「どうすれば良かったか」を話し合. 省,2017)。そのため,他の保育内容の領域にお. うなど問題解決の方法を学ぶ機会にすることは良. いてソーシャルスキル及びソーシャルスキル教育. く行われていることであろう。主張性スキルに関. の概念がどのように対応するか検討する必要があ. しては,幼児教育において主体的な活動としての. ろう。. 遊びが重視されるために(文部科学省,2017),. 第二に,本研究で検討したソーシャルスキル教. 主体性の現れとして幼児の自己主張や自己抑制の. 育はコーチング法に基づく方法のみであった。確. 姿が主張性スキルと重なると考えられる。よって,. かにコーチング法によるソーシャルスキル教育は. 本研究の結果はこのような3法令に則った幼児教. 効果が実証されているとはいえ,ソーシャルスキ. 育の実際の様子を一定程度反映していると思われ. ル を 育 成 す る 方 法 は 他 に も あ る。 例 え ば 無 藤. る。. (2010)は「ソーシャルスキル遊び」という形で. 第三に,ソーシャルスキルそのものとは対応し. 幼児期の遊びの中に「あいさつや自己紹介ができ. ないと考えられた保育内容(人間関係)の記述内. る」, 「人の気持ちを考えて行動できる」などのソー. 容は,幼児の主体性や自律性,ソーシャルスキル. シャルスキルを取り入れている。また,清水(2015). 教育による社会的に価値ある結果,ソーシャルス. はコーチング法の構成要素であるインストラク. キル教育の般化,という概念に分類できることが. ション,モデリング,リハーサル,フィードバッ. 示された。. クを細分化し,それぞれを念頭に置いた保育者の. 本研究では心理学研究の中で幼児期のソーシャ. 援助のあり方を例示している。これらの方法は効. ルスキルの重要性が実証されていることに鑑み,. 果が実証されてはいないものの,幼児教育におい. ソーシャルスキル及びソーシャルスキル教育の観. てふさわしいソーシャルスキルの育成のあり方と. 点から保育内容 (人間関係)の内容分析を試みた。. 思われる。今後は幼児のソーシャルスキルを育成. ソーシャルスキルの概念は広範なものであるた. する方法を広くとらえて展望し,それぞれの方法. め,保育内容(人間関係)のほぼ全体がソーシャ. の利点や限界を明示することも実践上有用である. ルスキル及びソーシャルスキル教育と対応し得る. と考えられる。. のであろう。 本研究の結果より,幼稚園・保育園・. 第三に,上述の限界と課題を検討した上で,幼. こども園において行う幼児集団を対象としたソー. 児期の教育において重視されている事項を尊重し. シャルスキル教育の望ましい在り方が示唆され. たソーシャルスキル教育の在り方を示すことが今. た。心理学研究の主な関心としてソーシャルスキ. 後の課題である。幼児期における教育では,幼児. ル教育の効果を実証する点は重要である一方で,. の主体的な活動を促し幼児期にふさわしい生活が. 幼児教育の枠組みにおいて重視される点(本研究. 展開されるようにすること,遊びを通しての指導. では保育内容(人間関係))を尊重することは,. を中心に保育内容のねらいが総合的に達成される. 心理学の研究者と保育者が協働して子どもの育ち. ようにすること,幼児一人ひとりの生活経験の相. を支えることに貢献すると考えられる。その点に. 違などを考慮し幼児の特性に応じた方法で発達の. おいて本研究は意義があると思われる。. 課題に即した指導を行うこと,という3点が重視. 2.本研究の限界と今後の課題. すべき事項とされる(文部科学省,2017)。また,. 本研究の限界と今後の課題として3点が挙げら. 幼児理解に基づいた評価として他の幼児との比較. れる。第一に,本研究では保育内容(人間関係). や一定の基準に対する達成度についての評定に. とソーシャルスキル及びソーシャルスキル教育の. よってとらえるものではない点に留意すること,. 対応を検討したが,保育内容の5領域のねらいは. 評価の妥当性や信頼性が高められるような創意工. 幼児の自発的な活動としての遊びを通して総合的. 夫を行い次年度や小学校等に引き継ぐことが挙げ. 73.

(11) 本 田 真 大. られている(文部科学省,2017) 。ソーシャルス キル教育の評価は一般的に教師評定による心理尺 度の得点の変化や幼児の行動観察という方法で, ある程度の客観性をもって行われている。このよ. 佐藤正二・相川充(2005) .実践!ソーシャルスキル教育 小学校 図書文化 佐藤正二・佐藤容子・高山巌(1993) .攻撃的な幼児の社 会的スキル訓練―コーチング法の適用による訓練効果 の維持 行動療法研究,19,98-109.. うな評価方法自体は介入効果の検証において不可. 清水寿代(2013).幼児の集団ソーシャルスキルトレーニ. 欠である一方,幼児教育にふさわしい評価方法を. ング―長期効果の検討 幼児教育研究年報,35,37-44.. 洗練させることも求められよう。まとめると,わ が国で実施され報告されているソーシャルスキル 教育を幼児教育にふさわしいかどうかという点か らとらえ直すことも重要であり,今後の検討が望 まれる。. 相川充・佐藤正二(2006).実践!ソーシャルスキル教育 中学校 図書文化 藤枝静暁(2006) .小学校における学級を対象とした社会 的スキル訓練及び行動リハーサル増加手続きの試み カ ウンセリング研究,39,218-228. 福島裕子(2015) .宮崎大学教育文化学部附属幼稚園での 実践―「もくせいの時間」について 佐藤正二編 実 践!ソーシャルスキル教育 幼稚園・保育園 図書文化, 34-39. 樋口耕一(2014) .社会調査のための計量テキスト分析― 内容分析の継承と発展を目指して ナカニシヤ出版 河邉貴子(2005) .遊びを中心とした保育―保育記録から 読み解く「援助」と「展開」萌文書林 厚生労働省(2017).保育所保育指針 鯨岡峻(2015) .保育の場で子どもの心をどのように育む のか―「接面」での心の動きをエピソードに綴る ミ ネルヴァ書房 文部科学省(2017).幼稚園教育要領 無藤隆(2009) .幼児教育の原則 保育内容を徹底的に考 える ミネルヴァ書房 無藤隆(2010).人との関わり方を育てるスキルあそび45 日本標準 内閣府・文部科学省・厚生労働省(2017).幼保連携型認 定こども園教育・保育要領 Ogilvy, C. M. (1994). Social skills training with children and adolescents ― a review of the evidence on effectiveness. Educational Psychology, 14, 73-83. 岡村寿代・金山元春・佐藤正二・佐藤容子(2009).幼児 の集団社会的スキル訓練―訓練前の特徴に焦点をあて た効果の検討 行動療法研究,35,233-243. 佐藤正二(2015).実践!ソーシャルスキル教育 幼稚園・. 74. 伸一郎・白川佳子・清水益治 基本保育シリーズ8 保 育の心理学Ⅰ 中央法規,123-134. 八尾市・八尾市教育委員会 (2014) .接続期における教育・ 保育実践の手引き <http://www.city.yao.osaka.jp/cmsfiles/contents/ 0000025/25422/setuzokukitebiki.pdf>(2017年9月25日). 引用文献. 保育園 図書文化. 清水寿代(2015).社会的相互作用 児童育成協会・杉村. (函館校准教授).

(12)

参照

関連したドキュメント

The only thing left to observe that (−) ∨ is a functor from the ordinary category of cartesian (respectively, cocartesian) fibrations to the ordinary category of cocartesian

Keywords: Convex order ; Fréchet distribution ; Median ; Mittag-Leffler distribution ; Mittag- Leffler function ; Stable distribution ; Stochastic order.. AMS MSC 2010: Primary 60E05

In particular, we consider a reverse Lee decomposition for the deformation gra- dient and we choose an appropriate state space in which one of the variables, characterizing the

保育所保育指針解説第⚒章保育の内容-⚑ 乳児保育に関わるねらい及び内容-⑵ねら

In Section 3, we show that the clique- width is unbounded in any superfactorial class of graphs, and in Section 4, we prove that the clique-width is bounded in any hereditary

Inside this class, we identify a new subclass of Liouvillian integrable systems, under suitable conditions such Liouvillian integrable systems can have at most one limit cycle, and

In order to be able to apply the Cartan–K¨ ahler theorem to prove existence of solutions in the real-analytic category, one needs a stronger result than Proposition 2.3; one needs

Our method of proof can also be used to recover the rational homotopy of L K(2) S 0 as well as the chromatic splitting conjecture at primes p &gt; 3 [16]; we only need to use the