<論説>改正詐害行為取消権論 ─改正民法第425条と「優先主義」─
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(2) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 第 2 節 民事破産と平等主義 第 1 款 民事破産 第 2 款 民法第 425 条の捉え方 第 3 款 新形成権説(前田説)について 第 4 章 改正詐害行為取消権と優先主義 第 1 節 改正民法第 424 条の 9(債権者への支払又は引渡し)の根拠 第 2 節 強制執行拡張説 第 3 節 取消しの物権的効力(絶対的取消し) おわりに. 序 章 2017 年 5 月に民法(債権法)改正が成立し、2020 年 4 月 1 日より施行され る予定である。本稿は改正詐害行為取消権の諸条文に照準を当てて、その理論 的構成、 「相対的取消し」から「絶対的取消し」への指向および問題点等につ いて施行直前のこの時期に一編の考察を試みようとするものである。とりわけ 改正民法第 425 条(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)下では執行法上の優先主 義はまったく排除されたしまったと理解すべきかどうか、また、如何なる法理 論を採用したものかを考究したいと考える。. 第 1 節 「相対的取消し」とその批判 大審院明治 44 年 3 月 24 日の聯合部判決以来、判例は詐害行為取消権につい て、 「詐害行為ノ廃罷ハ民法カ法律行為ノ取消ナル語辭ヲ用ヰタルニ拘ハラズ 一般法律行為ノ取消ト其性質ヲ異ニシ之カ効力ハ相対的ニシテ何人ニモ對抗ス ヘキ絶対的ノモノニ非ス」と述べ 1)、法的性質については折衷説に立脚し、 「相 1)大審院聯合部判決明治 44 年 3 月 24 日民録 17 輯 117 頁。 182.
(3) 改正詐害行為取消権論. 対的取消し」理論を採用し強固な判例法を形成していた。通説もこれを肯認し てきた 2)。上記大審院聯合部判決は、従来の大審院判例 3)の見解を変更したも のである。変更前の大審院判例は詐害行為取消権に関する効果につき、①権利 関係が合一にのみ確定すべきであるとし、いわゆる絶対的効力説(債務者・受 益者間の行為も無効となる)を採用していた。またその結果、②詐害行為取消 訴訟は必要的共同訴訟であり、取消原告である債権者は、債務者を常に被告の 一人として訴えを提起することとなる旨判示している。いわく、 「権利関係カ 合一ニノミ確定ス可キ本件ニ於テ(中略)債権者カ詐害行為取消ノ目的ヲ達ス 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 00. 0. 0. 0. ル為ニハ債務者及ヒ之ト行為ヲ為シタル者(受益者、転得者) (傍点筆者)ヲ 相手ト為サ﹅ル可カラス而シテ一旦相手ト為リタル以上訴訟ノ終局マテ其者ハ 相離ル可カラサルモノタリ何トナレハ詐害行為取消ノ訴ニ於テハ権利関係ハ債 務者及ヒ之ト行為ヲ為シタル者ニ在リテハ各別異ニ確定スルコトヲ許サス其間 同一ニノミ確定ス可キモノナレバナリ」と 4)。 ところで、改正前の民法第 425 条は、債務者には触れず「前条(第 424 条) の規定による取消しは全ての債権者のためにその効力を生ずる。 」と規定して いた。この「相対的取消理論」に対しては、 学説の側から次のような批判があっ た。すなわち、 (1)判決の既判力と実体法上の効力とを混同している、 (2)相 対的ではあれ物権的に法律行為を無効とすることが必要ないし妥当かどうか、 (3)物権的相対的無効概念の意味内容が必ずしも明確ではない、 (4)取消債権 者が固有の取戻請求権あるいは価格賠償請求権を取得することの理論的根拠が 不明確である、 (5)相対的といいながら不動産譲渡行為の取消しの場合など抹 2)我妻栄『新訂債権総論(民法講義 IV) 』 (岩波書店、1973 年)176 頁は、 「判例の根本思想 は、この制度目的を考察し、その効力をこれに必要な範囲に限局しようとするものであっ て、全体的にみてその態度は正当なものといってよいであろう」と述べる。 3)大判明治 38 年2月 10 日民録 11 輯 150 頁。 4)前掲注 (3)156 頁─ 158 頁。 183.
(4) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 消登記を認める結果、一、二の場合を除き絶対効を認めた場合と実際問題の処 理がさほど変りがない(訴えの被告と残余財産の帰属の点が重要な差異) 、と いった問題点が指摘されていた 5)。今回の改正は、こうした問題を克服する意 図を持って条文化が行われたものと解される。因みに、 「相対的取消理論」の 主眼は、必要な範囲に取消しの効果をとどめる点にあるのであって、およそ債 務者には取消効が及ばないということが主眼であるというわけではないと考え られる 6)。 ところで、改正民法第 425 条は、 「詐害行為取消請求を認容する確定判決は、 債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する」と規定している。 確定判決の効力の及ぶ対象としてここに新たに「債務者」が挙げられている。 改正民法(債権法)の詐害行為取消権の新条文の多くがこれまでの最高裁判決 をはじめとする判例の蓄積によって作り出された判例準則の条文化であるのと は異なり、改正民法第 425 条は「債務者」に関しては全くの創設条文である。 このことは、 (1)詐害行為取消権の法的構成において如何なる理論を採用した ものであるのか、すなわち、取消しの効果を絶対的無効と解する形成権説を採 用したものかどうか。あるいはまた、別の理論によるものなのか、執行法上の 手続き・効果をも勘案しながら論及していかねばならないと考えている。さら に、 (2)債務者に認容確定判決の効果が及ぶのであれば、債務者・受益者間の 法律行為(行為)も詐害行為に該当すれば取消権の行使によって無効となるが、 そのことによって受益者・転得者間の法律行為はどのような影響を受けること になるのか。 (3)債務者の責任財産の保全という制度趣旨に関して執行・配当 面でも改正民法第 425 条は債権者平等主義を規定した簡易破産的機能 7)を有 5)下森定『債権法論点ノート』119 頁(日本評論社、1993 年) 。 6)中田裕康・大村敦志・道垣内弘人・沖野真巳『講義債権法改正』140 頁(商事法務、2017 年) 。 7)奥田昌道編下森定著『新版注釈民法 (10)II』945 頁(有斐閣、2011 年) 。 184.
(5) 改正詐害行為取消権論. するに止まるものなのかどうか。すなわち、認容確定判決は形成力・既判力の 他に執行力も含むのかどうか。 (4)改正民法第 424 条の 7(被告及び訴訟告知) 第 2 項では債務者は被告知者に止まり被告適格を有しないが、 「訴訟告知」だ けで債務者の訴訟上の手続的保障として十全であるといえるのか等の問題意識 をもちつつ論を進めたいと考えている。 なお、改正詐害行為取消権の諸条文は執行法的側面が強いと解されるので、 改正民法第 425 条の創設に関して、取消権と強制執行法との関係については、 次のプロイセン上級裁判所(Preußische Obertribunal)の判例の見解を心に留 めておくことが肝要であろうと思われる。すなわち、 「取消権は特定の実体法 上の根拠に基づくものではなく、強制執行権限から流出してくるもので、強制 執行の補助的なものに過ぎないのであって、債権者に満足を得させるためのそ して債務者に対する強制執行を実行あらしめるための補助的手段として行使さ れる 8)」 。. 第 2 節 詐害行為取消権の法的構成 これまでに唱えられた詐害行為取消権に関する学説は主として 5 理論に分類 することができる。すわなち、形成権説、請求権説、折衷説、責任説そして訴 権説の 5 学説である。以下、下森定教授および佐藤岩昭教授の著書 9)に依拠 しつつ、拙著 10)も参考に供しながら上記 5 つの学説を概観しておきたい。 1 形成権説:詐害行為取消権をもって詐害行為を取り消し、その効力を絶対. 8)Pr. Obertribunal Entscheidung vom12. 1. 1874 und 14.6. 1875, Bd.73, 125 und 77, 198. W. Gerhardt, Die systematische Einordnung der Gläubigeranfechtung, 1969, S. 91. Anm. 276 に引用されている判例である。 9)下森・前掲注 (5)114 頁以下。佐藤岩昭『詐害行為取消権の理論』26 頁以下(東京大学出 版会、2001 年) 。 10)中西俊二『詐害行為取消権の法理』117 頁以下(信山社、2011 年) 。 185.
(6) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 的に無効ならしめる形成権であると解する説。石坂博士は、民法第 424 条の 取消しの効果は民法第 121 条の規定する法律行為の取消しと同一であるとす る。取消しは債務者・受益者間の行為を遡及的に無効とする絶対的効力を有 し、取消訴訟の被告は、債務者および受益者でなければならないと論じられ る 11)。なお、現行民法の立法者の一人である梅謙次郎博士も「第 121 条ノ規 定ハ本条ノ取消権ニモ適用スヘキモノナリ」と述べて 12)形成権説の見解を採 用される。前掲大判明治 38 年 2 月 10 日の判例は、詐害行為取消の目的を達 するために、取り消しの効果につき絶対的効力説を採用し、債務者・受益者・ 転得者を共同被告とする必要的共同訴訟と解したことは上記第 1 節で触れた 通りである。上記判例のいう「詐害行為取消ノ目的」とは責任財産の保全、 すなわち、逸出財産の取戻しを意味していると解される。 2 請求権説(債権説) :詐害行為取消権を純然たる債権的請求権と解し、取消 しは不要であり、債務者の詐害行為の結果逸出した財産の返還を請求する権 利とみる。したがって、その訴えの形式は給付の訴えとなり、その効力は相 対的であると解する 13)。 3 折衷説: 明治 44 年 3 月 24 日の聯合部判決を踏襲する現在の判例および通 説 14)は、詐害行為取消権を取消しと財産返還請求の合一したもの、すなわち 詐害行為を取り消しかつ逸出した財産の取戻しを請求する権利だとする。訴 えの形式は、形成の訴えと給付の訴えが合体したものと解する。本学説は、 取消しに重点をおく見解と取戻しに重点をおく見解に分かれる。前者の見解 11)石坂音四郎『民法 3 研究』第 2 巻 82 頁─ 173 頁(有斐閣書房、1913 年) 。 12)梅謙次郎『民法要義巻ノ三債権編』87 頁(有斐閣書房、1908 年) 。 13)雉本朗造「債権者取消権ノ訴ノ性質(廃罷訴権) 」志林 17 巻 3 号 19 頁・12 号 63 頁以下・ 18 巻1号 30 頁。 14)我妻・前掲注 (2)175 頁、星野英一『民法概論 III(債権総論) 』120 頁(良書普及会、 1978 年) 。 186.
(7) 改正詐害行為取消権論. では、取消しの効果は債務者を含む全関係者に及び判決主文において詐害行 為の取消しを命ずることを要する 15)。これに対して、取戻しに重きをおく立 場は、取消しの相手方には返還を請求するだけであるとする。さらに、取消 しをもって財産や利得の返還を請求する訴えの前提に過ぎないものだから、 債権者は裁判上取消しの意思表示をすれば充分であって、判決主文をもって 取消しを命ずべきものではないと解する 16)。 4 責任説:詐害行為取消権をもって、 「責任的無効」という効果を伴う形成 権の一種とみる。取消訴訟は形成訴訟となるが、取消しの効果は、取消しの 相手方が取得した財産をもって債務者の債務につき責任を負うような状態、 つまり一種の物上保証人的地位(物的有限責任)におかれる。債務者の地位 に影響はなく、取消訴訟の被告は、相対的無効説と同様、受益者または転得 者を相手方とすれば足り、債務者を被告とする必要はない 17)。この説の主 唱者である G. Paulus 教授によれば、取消法所定の要件が備われば、詐害行 為 は 当然 に 責任法的無効(haftungsrechtlicher Unwirksamkeit)と な り、受 益者または転得者は譲り受け財産をもって他人の債務のために責任を負って いることになる。債権者は直接受益者に対して、自己の債権の現実的満足 を得るために当該財産につき強制執行忍容の訴え(Klage auf Duldung der Zwangsvollstreckung)を提起し、責任判決(Haftungsurteil)を取得して受 益者または転得者の財産から満足を得ることとなる 18)。したがって、逸出財 産の債務者財産への取戻しは不要となる。. 15)鳩山秀夫『増訂改版日本債権法総論』222 頁─ 224 頁(岩波書店、1933 年) 。 16)加藤正治『 「廃罷訴権論」破産法研究 IV』294 頁以下(有斐閣、1925 年) 。 17)下森・前掲注 (5)120 頁。 18)Gotthard Paulus, Sinn und Formen der Gläubigeranfechtung, 1956, AcP. Bd. 155, S. 302. 下 森定「債権者取消権に関する一考察 (2)」志林 57 巻 3 ─ 4 号 221 頁以下(1960 年) 、中野 貞一郎「債権者取消訴訟と強制執行」民訴雑誌 6 巻 79 頁(1960 年) 。 187.
(8) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 5 訴権説:佐藤岩昭教授がわが国で初めて提唱された学説である。教授は詐 害行為取消権を「訴権=actio」と捉え(ドイツ法上の Klagerecht ではない) 、 実体法上の権利とその権利内容を実現するための訴訟法上の権利との統一体 であるがゆえに、裁判上においてのみ行使される権利と解する。フランス法 並びにボアソナード草案およびボアソナード財産差押法草案に遡って、民法 第 424 条はいわゆる執行忍容訴訟を定めた規定であると考え、民法第 425 条 は判決効拡張の理論を明文化した規定であると解する。佐藤教授によれば、 民法第 424 条自体を執行忍容訴訟を定めた規定と解するときは、これにより 相対的取消理論に明確な理論的基礎が与えられ、逸出財産の所有名義を債務 者に回復することを要せず強制執行が可能となる。すなわち、不動産譲渡に 関しては、受益者を被告とする詐害行為取消訴訟=執行忍容判決を債務名義 として、受益者の登記名義になっている不動産に対して民事執行法に基づき 強制執行をかけることになる 19)。 因みに、私見は佐藤教授の業績に依拠しつつ主としてフランス法に基づいて、 詐害行為取消権は、対抗性否認権と執行忍容請求権が複合的に結合した訴権と 解する。取消しの効果については、 取消債権者のみに及ぶと考える。下森教授は、 卑見について修正訴権説と呼称してくださった 20)。ここで、卑見からの改正 詐害行為取消権への簡単なアプローチの一端を試みれば、次のようになろう。 改正民法第 424 条第 1 項は詐害行為の取り消しを認めており、同条第 4 項は 「債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであると きは、詐害行為取消請求をすることができない」と定めている。さらに、改正 民法第 424 条の 6 では、債務者が行った詐害行為の取り消しと逸出財産の返還 請求権を規定している。被告は受益者または転得者であり、債務者は被告では. 19)佐藤・前掲注 (9)286 頁─ 295 頁。 20)下森定『下森定著作集 I ─詐害行為取消権の研究』541 頁(信山社、2014 年) 。 188.
(9) 改正詐害行為取消権論. なく被告知者に過ぎない(改正民法 424 条の 7) 。卑見である修正訴権説の立 場からは、詐害行為取消権に関する上記の改正民法の規定は、対抗性否認権と 執行忍容請求権が複合的に結合した訴権と解することの証左であると考える。 但し、改正民法 425 条の規定する「認容確定判決は債務者及びその全ての債権 者に対してもその効力を有する」と定める規定が、私見に対する原則的障碍と なっている。この規定の背景には、詐害行為取消訴訟の提起される状況は、簡 易破産的状況であり、破産法第 167 条第 1 項の「否認権の行使は、破産財団を 現状に復させる」という規定と同様な効果を認めようとの意図であろうと推測 される。この点に関しては、取消債権者は法定訴訟担当者と解する 21)ことで 理論的整合性が可能ではないかと考える。詳しくは、第 3 章第 2 節第 2 款で取 り扱う。. 第 1 章 ボアソナード草案(Gustave Boissonade, Projet de Code Civil pour L’Empire du Japon, t. II, nouv. éd., 1891.)と 改 正 詐 害行為取消権 現行民法第 424 条および第 425 条は、ボアソナード民法草案(以下ボアソ草 案と略す)第 361 条・第 363 条に基づくものであり、明治 23 年に公布された いわゆる旧民法では財産編第 341 ~第 343 に規定されていた。その後、法典論 争を経て法典調査会の議論の結果、現行民法が施行されるに至ったことは周知 のところである。今回の 2017 年の民法(債権法)改正における詐害行為取消 権の規定にボアソ草案がどのような影響を及ぼしているか、あるいは及ぼして いないのか、両法における関連規定の条文を比較し考察を加えねばならないと 考える。. 21)中西・前掲注 (10)277 頁─ 278 頁参照。 189.
(10) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 第 1 節 ボアソ草案詐害行為取消権(action révocatoire)に関する 条文について I 第 361 条 第 1 項:債権者を詐害してなされた行為の取消しは、当該債権者の側から債務 者と取引をなした者に対して、また必要な場合には転得者に対して次条の定め る区別に従って取消訴権(action révocatoire)により裁判所に請求することが できる。 第 2 項:債務者が被告(défendeur)として詐害的に敗訴されるままにし、あ るいは請求を棄却されるに任せる場合には、債権者は民事訴訟法に従って『判 決取消しの訴え』 (tierce-opposition;「第三者異議の訴え」とも訳されるが執行 法上のものとは異なる──筆者)を提起するものとする。 第 3 項:いかなる場合も、債務者は訴訟に強制参加(être mis en cause; 訴訟 引き込み)されなければならない。 第 4 項:行為の取消しが被告から得られない場合は、被告は債権者に損害賠償 の義務を負う。 II 第 362 条 第 1 項:攻撃を受ける行為が何であれ、 債権者は債務者の詐害の証拠(preuve) を提出しなければならない。加えて、有償名義の行為が問題である場合には、 債権者は債務者と取引をなした者あるいは債務者の利益を弁護した者の側の、 詐害への共謀もしくは加担が存在していたことを証明しなければならない。 第 2 項:譲渡の取消訴権(action révocatoire22))は、有償または無償名義の転 得者に対して、転得者が受益者と取引を為す際に、債権者に対してなされた詐 害について悪意である場合に限って行使できる。 III 第 363 条 22)フランスでは、その訴権を考え出したローマの法務官 Paulus の名に因んでポーリエンヌ 訴権(action paulienne)とも呼ぶ(以下、a.p. と略す) 。 190.
(11) 改正詐害行為取消権論. 取消しは詐害行為以前にその権利が成立している債権者に限って訴求でき る。しかし、取消しが得られる場合には、債権者間に優先権(préférence)の 法律上の原因が存在しない限り、取消しは区別なく全債権者の利益となる(本 条文はいわゆる絶対的効力説の立場を明らかにしている──筆者) 。. 第 2 節 ボアソナードの意図 第 1 款 債務者の被告適格──第 361 条の注釈 [159] では、 「a.p. が債務者に 対して、少なくとも債務者だけに対して行使され得ないことは明らかである。 その第 1 の理由は、第三者と債務者がなした行為を無効にするには、最早債務 者次第ではないということである。第 2 の理由は、債務者は支払不能であり、 債務者に対する訴権は債権者にとって如何なる利益をも有しないだろうという ことである」と述べて、少なくとも債務者だけを被告とする a.p. の行使は実益 がないという。では、誰を被告とするべきか。ボアソナードは同注釈で、 「そ れ故、第 3 項が明らかにするように、債務者を訴訟に参加させるという留保 つきで(sauf à mettre celui-ci en cause) 、債務者がその行為の有効性を維持す ることができるためにも、判決が債務者に対して対抗できる(opposable)た めにも、訴権(a.p.)は債務者と取引をなした者に向けられなければならな い 23)。 」と述べる。ここで注目すべきは、ボアソナードが債務者だけを被告と することは実益がなく認められないが、債務者と受益者あるいは債務者と転得 者というような被告の構成は上記記述の反対解釈から肯定する趣旨と解される ことである。 第 2 款 法典調査会における議論──法典論争後の法典調査会における原案 第 419 条(現行民法第 424 条)は次のようになっていた。 23)Gustave Boissonade, Projet de Code Civil pour L’Empire du Japon t. II nouv. éd., 1891, n° 159, p.194 191.
(12) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 第 419 条「債権者ハ債務者カ其債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタル法律行為 ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 前項ノ請求ハ債務者ノ行為ニ因リテ利益ヲ受ケタル者又ハ其転得者ニ対シテ 之ヲ為ス但債務者及ヒ転譲者ヲ其訴訟ニ参加セシムルコトヲ要ス」 本条文に関する議論の中で梅博士は、 「 『前項ノ請求ニ付テハ債務者ノ行為ニ 因リテ利益ヲ受クル者又ハ其転得者及ヒ債務者並ニ転譲者ヲ共同訴訟人トシ テ訴フルコトヲ要ス』トナッテハドウデスカ」と自己の見解を述べている 24)。 この梅委員の提案に対して、高木豊三郎委員は「夫レデ宜シイ」と発言してい る。そして、議長の西園寺公望候が採決し、起立多数で梅委員の案が採用され たのであった。ここから立法者は、債務者を共同訴訟人の被告の一人として被 告適格を肯定していたことが判明する。 折衷説の中にも取消しの相対的効力は必然的に前提としなければならないも のではなく、判例のように債務者を相手にしてはならないとする必然性がない ことは、折衷説の中にも債務者を相手にすべしとする説があることからも示さ れる。債務者を被告として取消しを求めることも認めてよいばかりか、その方 が望ましいとする説が多く、債務者も被告たりうるとする説が妥当と解する有 力説が主張されている 25)。 第 3 款 改正民法第 425 条とフランス民法 1 必要的絶対的取消 し ──改正民法第 425 条 は、 「詐害行為取消請求 を 認容 する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する」 と規定する。民法旧第 425 条には規定されていなかった「債務者」が認容確定 判決の効力の及ぶ対象者として選定されている。このため、改正詐害行為取消 24)法典調査会民法議事速記録三(第五十六回─第八十四回)114 頁(商事法務研究会、1984 年) 。 25)星野英一『民法概論 III(債権総論) 』119 頁─ 120 頁(良書普及会、1978 年) 。 192.
(13) 改正詐害行為取消権論. 権はこれまでの相対的取消理論を捨象して絶対的取消理論を採用したと解さ れている。これは大いなる理論的転回である 26)。但し、この見解に対しては、 絶対的取消しを採用したと理解することは難しいとの批判がある。第 1 に、改 正法が取り消される行為の当事者である債務者を被告としていない。第 2 に、 詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力が債務者及びその全ての債権者に 対して効力を有すると定められ、受益者や転得者が範囲に入っていない。その ため転得者が登場しているときに、転得者のみを相手方として詐害行為取消訴 訟が提起された場合には、受益者や、あるいは転々譲渡されたときの間に入っ た転得者には取消認容判決の効力──その最たる形成力──が及ばないこと になると考えられる 27)。 実際、絶対的取消理論を採用したと解される潮見教授も改正民法第 424 条の 5(転得者に対する詐害行為取消請求)に関して次のように述べられる。 「民法 は、転得者を相手方とする詐害行為取消しが認められたとしても、その効果を 当該相手方とされた転得者との関係(さらに、債務者およびその他の債権者に 対する関係)では認めるものの、取消しの効果がこの者の前者には及ばないと いう立場から、各種の規定を設けている。転得者に対する詐害行為取消しが認 められるためにはこの者の前者すべてが悪意であることが要件となる以上、こ れら前者すべてにも取消しの効果が及ぶという構成(絶対的取消しの貫徹)も ありえたものの、民法はこのような構成を採用しなかった。その結果、詐害行 為取消訴訟の相手方として取消債権者が選択をしなかった者(受益者および中 間転得者)に対する関係では、債務者がした当該行為は依然として有効なもの として扱われる。これは、取消しの効果を絶対的なものとしたのでは取引の安 26)潮見佳男『新債権総論 I』 (信山社、2017 年)813 頁、平野裕之『コ ア.テ キ ス ト 民法 IV』127 頁─ 128 頁、143 頁(新世社、2017 年) 。 27)中田裕康・大村敦志・道垣内弘人・沖野眞巳『講義 債権法改正』142 頁(商事法務、 2017 年) 。 193.
(14) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 全を害することとなるし、財産の取戻しという効果を生じさせた以上、他の受 益者・中間転得者との関係で当該行為の効力を否定しなくても詐害行為の目的 は達成されると考えられたことによるのではないかと思われる 28)」と。した がって、債権者 G, 債務者 S, 受益者 A, 転得者 B, B か ら の 転得者 を C と し た 場合、A は他にめぼしい財産もない債務者より評価額 500 万円の動産甲を 160 万円で買い受け、A はこの甲を 180 万円で B に譲渡した。さらに B は知人 C に甲を 140 万円で転売したところ、G が S・A 間の売買契約は詐害行為に当た るとして C を被告とし、裁判所に詐害行為の取消しを請求し、これが認めら れ C は S に甲を引渡した。このケースの場合には、上述の説明では、C は B または A に対して、反対給付返還請求権あるいは不当利得返還請求権を行使 できない。取消債権者に対して絶対的に取り消されるのは S・A 間の行為であ り、A・B 間および B・C 間の行為は取消権の行使にもにもかかわらず有効だ からである。C は A または B に対しては反対給付等の返還請求はできないが、 140 万円を限度として、受益者 A の債務者 S に対する反対給付返還請求権を 代位行使できる(改正民法第 425 条の 4) 。これは、詐害行為の取消しによる 転得者と債務者・受益者間の公平の原理の適用によるものと解される。なお、 C は B に対して追奪担保請求すなわち解除権の行使および損害賠償を請求す ることはできないと解される(改正民法第 561・第 564・第 565 条参照) 。C は 債務者 S の詐害行為について悪意であり、債権者の詐害行為取消権の行使を 予想できるからである。 2 フランス民法における絶対的効力説 29)──絶対的効力説は詐害行為前の 債権者のみならず、a.p. を行使できなかった詐害行為以後の債権者にも a.p. の 勝訴判決の効力が及ぶと主張する学説をいう。フランス旧民法第 2093 条(現 28)潮見・前掲注 (26)740 頁 -741 頁。 29)佐藤・前掲注 (9)97 頁。学説 の 呼称 は 佐藤教授 の 分類 に 依拠 し て い る。佐藤教授 は Grouber に倣っておられるが。 194.
(15) 改正詐害行為取消権論. 行仏民第 2285 条)の「共同担保(gage commun) 」の 文言 を 根拠 と す る。そ して、a.p. は同条の「法律上の優先事由(causes légitimes de préférence) 」に は当たらないとする。Colmet de Santerre および Laurent が採る見解である。 これに対して、相対的効力説と呼ばれる学説は、a.p. を現実に行使した債権者 のみが、a.p. の勝訴判決から利益を得ることのできる債権者であると解する。 フ ラ ン ス 旧民法第 1351 条(現行仏民 1355 条)の 既判力(autorité de la chose jugée)の相対的効力を根拠とする。多くの学説の採る見解でフランスの通説 で あ る。Aubry et Rau, Demolombe, Planiol, Mazeaud, Chabas 等 が 挙 げ ら れ る。旧フランス民法第 1167 条 1 項は、 「債権者はまた、その名において(en leur nom personnel) 、その権利を害して債務者によって為された行為を攻撃す る(attaquer)ことができる」と規定し、a.p. が各債権者固有の訴権であるこ とを規定していることも通説の根拠の一つとなろう。なお、2016 年に改正さ れたフランス現行民法第 1341 条の 2 では、 「債権者は、その債務者が債権者の 権利を詐害してした行為について自己に対抗することができない旨の宣言を得 るために、自己の名において訴えを提起できる。その行為が有償である場合に は、債権者は、相手方たる第三者が詐害について悪意であったことを証明する 責任 を 負 う 30)。 (Le créancier peut aussi agir en son nom personnel pour faire déclarer inopposables à son égard les actes faits par son débiteur en fraude de ses droit, à charge d’ établir, s’ il s’ agit d’ un acte à titre onéreux, que le tiers cocontractant avait connaissance de la fraude.) 」と規定されている。本改正条 文は、正に私見の a.p. は対抗性否認権と執行忍容請求権とが複合的に結合した 訴権とする主張を根本において認容したものと言えるのではなかろうか。 ところで、通説支持学者の一人 Demolombe は次のように述べる。 (ア)仏 民第 1167 条は a.p. の権利をただ全債権者にまとめて集合的に与えているので 30)荻野奈緒他訳『フランス債務法改正オルドナンスによる民法典の改正』同志社法学 69 巻1号 317 頁(2017 年)を参照した。 195.
(16) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). はなく、全債権者にそれぞれに別々にかつ個人の一人が a.p. の権利を行使する ときは、自分自身のためであり、自分だけの利益を図るためであるということ であり、 「各々の権利を各々のために(Chacun son droit! Chacun pour soit!) 」 である。 (イ)a.p. の対象になった財産は、債務者によって譲渡されたもので あるが、もはや債務者の資産を構成しない。したがって、原告債権者が a.p. に より訴求したものは、共同担保ではないのである 31)。 なお、上記 2 つの学説の外、佐藤教授が混合説と呼ばれる学説がある。こ の説は、現実に a.p. を行使したか否かを問わず、a.p. を行使できたはずの詐 害行為前の債権者すべてに限って、a.p. の判決効が及ぶとする見解である。 Chardon, Larombière の採る学説とされる 32)。 (1)Colmet de Santerre の学説 ①取消債権者の本質:事務管理者─「原告取消債権者は他の債権者の事務管 理者(le gérant d’affaires des autres créaranciers)として現れる。その事務管 理者(原告)は、その詐害行為取消しの判決は他の債権者を利さないと主張し て他の債権者を拒絶することは許されない 33)。 」 ②取消相手方(被告) :受益者または転得者=攻撃された行為から利益を 得 た 者。例 え ば、譲渡 が 問題 と な る 場合 は 受益者 が、債務免除(remise de dette)を攻撃する場合は債務者が、債権者が相続放棄について不満があると きは共同相続人あるいは下位の相続人である 34)。 ③効果:債権者が自己の担保権を他の物の上に行使するのと同様に、その財 31)C. Demolombe, Traité des contrats ou des obligations convetionnelles, t. II, 1869, .n°266, p. 267. 32)佐藤・前掲注 (9)97 頁、117 頁。 33)Colmet de Santerre, Cours analytique de Code civil, t V, 1883, 82 bis. XIV, p. 135. 34)Colmet de Santerre, op. cit., 82 bis. XI, p. 131. 196.
(17) 改正詐害行為取消権論. 産価値の上に行使するために、債務者財産から詐害的に逸出した財産価値を擬 制的に(fictivement)債務者財産に取り戻させることによって、攻撃された行 為を無効(non avenus)とみなすことである。詐害行為を取り消す判決は、債 務者から剥奪された財産を債権者に帰属させない。何故なら、それでは、債権 者は債務者の手中に残存している財産に対してよりも、詐害によって譲渡され た財産に対してより強力な権利をもつことになるからである。取消判決は全て の債権者のために影響を及ぼしたとみなすことはより合理的で、同時により取 消しの帰結に一致する 35)。 ④執行関係:財産のそれぞれの性質による特別手続の規定に従って、他の物 に対するように、債務者財産から逸出した財物に対して実行する(agir sur le bien sorti)ことを可能にする。譲渡の取消しは、その財産を差押え、売却させ、 その代価の裁判上の配当(distribution)を生じさせることを可能にする 36)。 (2)F. Laurent の学説 ①取消債権者の本質:他の債権者の代理人(il représente autres) ─「全ての 債権者を詐害してなされた行為の取消しを請求することは、全ての債権者が利 益に与る請求をなすことである。 」a.p. は債権者にもたらされた損害賠償に基 づいている 37)。 ②取消相手方(被告) :債務者および受益者。転得者は原則的に相手方とは ならない 38)。 35)Colmet de Santerre, op. cit., 82 bis. XIII, p. 133. 36)Colmet de Santerre, op. cit., 82 bis. XIII, p. 134. 37)F. Laurent, Principes de Droit Civil, t. 16, 1887, n°488, p. 567, n°491, p. 570. 38)Laurent, op. cit., n˚464, p. 538 , n°466, p. 548. 転得者に対しては、旧仏民第 2125 条の対物 的訴権である(所有権に基づく)取戻訴権(action en revendication)による。因みに第 2125 条は停止条件付又は解除条件付所有権者の抵当権設定に関する規定であり、現在は 削除され当時の条文文言が判明しない。 197.
(18) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). ③効果:ア)債務者・受益者間の法律行為は取消しにも関わらず契約当事者 間では有効に存続する 39)。イ)詐害行為の取消しによって全ての債権者は必 ず利益を得る。取消債権者は a.p. 自身の性質により(par la nature même)他 の債権者を代理する。ウ)逸出財産は債務者財産に取り戻され共同担保(旧仏 民第 2093 条、 現仏民第 2285 条)となる。エ)既判力の相対効 [chose jugée](旧 仏民 1351 条、現仏民第 1355 条)は a.p. には適用されない 40)。 ④執行関係:取戻された財産は、債務者の全ての財産に影響を与える差押え の目的物に含まれ、旧仏民法第 2093 条により債権額の割合により全債権者に 分配される。なお、a.p. は同条にいう優先弁済を受けるべき法律上の事由には あたらない 41)。 (3)小括 ① Colmet de Santerre も Laurent も債務者・受益者間の法律行為は、a.p. の 行使によっても当事者間では有効に存続する。ただ債権者に対する関係におい て当該行為を無効と見なすあるいはその効果が麻痺させられ(paralysé) 、対 抗不能(inopposable)となると解する 42)。 ②二人とも、逸出財産は擬制的に債務者財産に取り戻され一般財産(旧仏民 第 2092 条)を構成すると考える。それに続いて差押え(saisie)等の民事訴訟 法上の手続きを経て、旧仏民法第 2093 条後段および同第 2094 条により一般債 権者は配当を得る。このことは、債務者財産への執行行為であり、a.p. の効果 はすべての債権者および債務者に及ぶということになる。なお、両者とも詐害 行為後の債権者も詐害行為前の債権者と同様に、取消しから利益を得るとする。 39)Laurent,op. cit., n°484, p.563. 40)Laurent,op. cit., n°488, pp.566-567. 41)Laurent, op. cit., n°489, p.p. 568-569. 42)Colmet de Santerre, op. cit., n°82 bis. XIII. P. 133. Laurent, Id., n°484, p. 562. 198.
(19) 改正詐害行為取消権論. すなわち、取り戻された目的財産を含む債務者の責任財産からの配当に与るこ とを認める 43)。 ③被告については、Colmet de Santerre は受益者のみとしているのに対して、 Laurent は債務者および受益者と解している点で両者は見解を異にしている。 ④ Colmet de Santerre は、a.p. を担保権(droit de gage)として捉えている 節がある。 「債権者がそれにより訴え(a.p.)を提起する担保権は、個人的なも のではなく集団的(collectif)なものである。担保物の取戻訴権が、訴えを提 起する者に独占的権利(droit exclusif)を与えることができるとどうして理解 できようか」と述べる 44)。この考え方の基本は旧仏民第 2093 条(現仏民 2285 条)の債務者財産は総債権者の共同担保を構成するとの規定を根拠にしていた と解される。一方、Laurent にはこのような記述は見出されない。 ⑤いずれの学説がボアソ草案に影響を与えたのか。ボアソナードが「事務管 理者」や「代理」という用語を使用していないため、確定的判断を下すこと は極めて難しいが、Colmet de Santerre の学説の影響を示唆する見解 45)が有 力である。ア)勝訴判決の効力のみが総債権者に及ぶことは事務管理の場合 と同じであること、イ)ボアソナードが Colmet de Santerre と個人的に学問 的交流があったこと等、をその理由に挙げる 46)。筆者はかつて Laurent の学 説の影響の方が強いのではないかと私見を述べた 47)。その理由は、Laurent の 学説の方が a.p. の根拠、目的、効果の全ての面で旧フランス民法第 2093 条の 「共同担保」の確保の観念を基本とする点で一貫しており、ボアソナードの基 本的見解と共通する面が多いということであった 48)。しかし今は、これを改 43)Colmet de Santerre, op. cit., 82 bis. XV. p. 136. Laurent, op. cit., n°489, p. 569. 44)Colmet de Santerre, op. cit., 82 bis. XIV, p. 134. 45)佐藤・前掲注 (9)124 頁。 46)佐藤・前掲注 (9)125 頁。 47)中西・前掲注 (10)74 頁。 48)中西・前掲注 (10)74 頁。 199.
(20) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). め有力説を支持したい。その理由は次の点である。1)ボアソ草案第 361 条第 2 項の判決取消しの訴え(tierce-opposition)について触れているのは Colmet de Santerre のテキストの方で 49)、Laurent のテキストには判決取消しの訴 えについての記述がなかった 50)。2)ボアソ草案は債務者を被告としていな い。3)Demolombe のテキストには絶対的効力説をとる学者の中に Colmet de Santerre の名前はあるが、Laurent の名前は挙げられていない。 第 4 款 ボアソナード草案における注目すべき点 1 「判決取消しの訴え(tierce-opposition) 」 (1)ボアソ草案第 361 条 2 項は、債権者は債務者が被告として詐害的に敗 訴されるままあるいは請求を棄却されるに任せる場合は、 「判決取消しの訴え (tierce-opposition) 」51)を提起することができる旨規定している。日本民訴法上 係属している訴訟への独立当事者参加(現行民訴法第 47 条 1 項、旧民訴法第 71 条) 「詐害妨止参加」の規定はあるが、判決後その判決を詐害を理由に取り 消す制度は存在しない。旧フランス民訴法第 474 条は「他人間の訴訟の判決が、 第三者に損害を与えるときは(un jugement qui préjudicie à ses droit) 、その 第三者は、判決取消しの訴え(tierce-opposition)を提起できる。そしてその 第三者は、自ら訴訟に呼び出され、または当事者によって代理(représenter) されていないことを要する 52)。 」と規定されていた。現行フランス民訴法第 583 条は、 「判決取消しの訴え(tierce-opposition)が攻撃する判決において、 49)Colmet de Santerre, op. cit., n°82 bis. V. p. 127. 50)中西・前掲注 (10)76 頁。 51)木川統一郎「判決の第三者に及ぼす影響」法学新報 64 巻 12 号 4 頁以下(1932 年) 。左 記論文に用いられている用語に従い、執行法上の第三者異議の訴えの用語面での混乱を さけるため『判決取消しの訴え』を訳語として使用する。 52)木川・前掲注 (51)4 頁参照。 200.
(21) 改正詐害行為取消権論. その利益(intérêt)を有するものは誰でも(toute personne)判決取消しの訴 えを提起できる。その者は当事者(partie)でもなく代理もされなかったこと を要する。 」と規定し、旧仏民訴法第 474 条における損害を与える(préjudicie) が削除され、 「判決取消しの訴えを提起する利益(intérêt)を有する者」に改 正されている。ただ、実質的には旧法も改正法も同様な要件と解される。 Tierce-opposition は訴訟に関与しなかった第三者の利益を保護するために認 められた判決取消しの訴えである。tierce-opposition が認容された場合には、 攻撃された判決は第三者を害する範囲において失効するのである 53)。では、 どのような場合に第三者は他人間の判決により権利を害されるであろうか。 (2)第 1 の類型は、第三者が訴訟当事者により代理されておらず、当事者間 の判決の存在とその執行により事実上第三者の権利が害される場合である。例 えば、他人間の訴訟の目的物につき、自分こそが権利者である旨主張する第三 者は、他人間の判決が確定しても、その既判力を受けることはない。しかし、 自己の実体権と相容れない他人間の判決の存在は、自己の権力の円満な行使の 障碍となる(X-Y 間の所有権確認訴訟において、X が自己の所有権を主張し、 訴外 Z も同一目的物につき所有者であることを前提に売買契約を他の第三者 と締結しようとしている場合等) 。判決がなされた後は、 「判決により、損害を 受けまたはその可能性のあること」を主張立証して、 自己との関係において(た とえ、判決が取り消されても、元の当事者間では判決は依然有効である) 、判 決を取り消してもらうのである。 (3)第 2 の類型は、第三者が当事者の一方と一定の実体的関係があること に基づき、第三者がその当事者の一方により、訴訟上代理されていると見な される場合である。例えば、相続人は被相続人によって訴訟上代理されてい ると見なされ、被相続人の受けた判決の既判力を受ける。それと同様に債務 53)徳田和幸「フランスにおける Tierce-Opposition の機能と判決効」山木戸克己教授還暦記 念『実体法と手続法の交錯下』198 頁(有斐閣、1982 年) 。 201.
(22) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 者の一般債権者は、債務者との実体的利害関係に基づき、債務者によって訴 訟上代理されていると見なされる。したがって、債務者の受けた判決の既判 力が及ぶと解されている 54)。Planiol et Ripert も「一般承継人(ayants-cause à titre universel)と見なされる一般債権者は、その債務者によって代理され る(représentés) 。但し、債権者のために、債権者を害する判決に対する判決 取消しの訴え(tierce-opposition)は留保される。 」と述べている 55)。では、何 故一般債権者は、債務者によって代理される一般承継人と見なされるのであろ うか。それは、一般債権者と債務者との間には、債務者の締結した契約の結果 たる実体法律状態をそのまま債権者の一般担保権の基礎として受け入れなけ ればならないという意味で「実体的な利害の共同関係」が認められるからであ る 56)。そこに代理権が生じる。結局、旧仏民第 2093 条(現行仏民第 2285 条) の「共同担保」の規定を通して債務者と一般債権者は実体的共同関係が認めら れるのである。 (4)Morel は、訴訟で代理されない者の利益の保護方法について次のように 述べる 57)。 「究極において、わがフランス法は、訴訟に侵害される可能性のあ る利益について三重の保護を定める。第 1 に第三者には専ら防御の方法が与え られている。第三者が当事者でなかった訴訟の判決の相対効に基づく妨訴抗弁 である。第 2 に、第三者に認められている予防的方法である。すなわち、訴訟 参加(intervention)である。第 3 に、第三者は、下された判決を攻撃する回 復的方法を自由に用いる。判決取消しの訴え(tierce-opposition)である」 。し たがって、判決取消しの訴えは、訴訟における債務者が詐偽による判決を取得 していることが前提であるから、一般債権者保護のための言わば原状回復的手 54)木川・前掲注 (51)12 頁。 55)Planiol et Ripert, Traité pratique de droit civil français, t.VIII, 2e éd, 1954, n°1557, p. 1024 56)木川・前掲注 (51)12 頁、徳田・前掲注 (53)204 頁。 57)René Morel, Traité élémentaire de procedure civile, 1949, n°683, p. 525. 202.
(23) 改正詐害行為取消権論. 段であると言えよう。 (5)小括: 判決取消しの訴えの前提である「一般債権者は債務者によって 訴訟上代理される」とするフランス法上の一般的見解を、ボアソナードも当 然採用していたと思われる。そして、債務者の詐害行為的訴訟追行に対する債 権者の利益を保護するためにこの規定を起草したと考えられる。ボアソナード は、 「債務者の行為を尊重すべき債権者の義務」について述べた草案第 360 条 の注釈 [155] において、次のような説明を加えている。 「 『債権者の権利を詐害 して』ということを理由として、債権者が尊重する必要のない譲渡や契約が 存する。その場合、債権者はもう権利・義務の承継人ではなく第三者である。 債務者は、もはや債権者を代理しない。何故なら、債務者は債権者の敵対者 となったからである《le débiteur ne les a plus représentés, puisqu’ il s’ est fait leur adversaire.》 」ここには明らかに、 債務者は債権者を代理する(représenter) することを前提として、詐害による場合には債務者は債権者を代理しないこと が述べられている 58)。 し か し、何故 ボ ア ソ ナード は ボ ア ソ 草案第 361 条 で action révocatoire と tierce-opposition を規定したのだろうか。両訴権とも債権者の利益の保護に奉 仕するものだからであろうと考える。すなわち、前者は基本的に実体法・執行 法上の債権者の利益を保護し、後者は訴訟法上の利益を保護するものと考えて いたと解されるからである。判決取消しの訴えを認めることにより、馴れ合い 訴訟による債務者の財産の隠匿行為から債権者の利益(一般担保権)を保護す ることができるのである。 2 強制参加(mise en cause)について ボアソ草案第 361 条 3 項は「如何なる場合にも、債務者は強制参加させられ 58)Baudry-Lancantinerie et Barde, Traité pratique de droit civil français, t. VII, 2e éd,1954, n° 646, p. 580 はこの考えを明確に述べる。 203.
(24) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). なければならない《Dans tous les cas, le débiteur doit être mis en cause.》 」と 規定している。わが旧民法第 341 条第 3 項にも、 「右孰レノ場合ニ於テモ債務 者ヲ訴訟ニ参加セシムルコトヲ要ス」と規定されていた。それが法典論争後設 けられた法典調査会の審議に於いて、旧民事訴訟法第 51 条の主参加の規定は、 かかる債務者の参加を予定していないことを主な理由として削除されたものと 考えられる 59)。 (1)“mise en cause” という表現は実務上用いられている強制参加一般の用 語である 60)。フランス法上、 参加制度(intervention)は、 任意参加(intervention volontaire)と強制参加(intervention forcée)とに分類される。任意参加は他 人間に係属する訴訟においてなされる判決により、自己の利益が危険にさらさ れる虞がある場合に、その訴訟に介入して自己の利益を擁護するための制度で ある 61)。言わば、 第三者が自己の action を主張して主参加(独立当事者参加)し、 自己の実体権の障碍となる判決の出現を未然に防止する制度である。これに対 して、強制参加は、当事者の一方がこれまで訴訟に現れていない第三者を無理 やり訴訟に引き込み、判決を第三者に対抗しうるために設けられた制度である。 判決取消しの訴え(tierce-opposition)をなしうる第三者は、もちろん任意参 加により、自己に不利な判決を未然に防避することができる。当事者は、この 第三者の判決取消しの訴えを提起しうる者に限って強制的に訴訟に参加させ、 後から再び問題を蒸しかえさないように予防することができる。強制参加させ られた第三者(被強制参加者)は被告として訴訟当事者となる。強制参加には、 条文上 の 根拠 を 有 す る 附帯担保請求(demande incidente en garantie) (旧仏 59)法務大臣官房司法法制調査部監修『日本近代立法資料叢書 3 法典調査会民事議事速記録 三』田部・高木発言 103 頁以下(商事法務研究会、1984 年) 。 60)木川統一郎「フランス民事訴訟法における参加制度」 『民事訴訟政策序説』所収 371 頁(有 斐閣、1967 年) 。H. Mazeuad-J. Mazeuad et Chabas, op. cit., n°1002, p. 1069. は「実 務 で は債務者は常に強制参加させられる」と述べる。 61)Morel, op. cit., n°364, p. 298. 204.
(25) 改正詐害行為取消権論. 民訴法第 182 条・183 条)と担保に関せざる強制参加の二種類がある。後者は、 従来明文がないのにもかかわらず学説・判例が認めてきたものである(現行仏 民訴法第 331 条は明文でこの種の強制参加を規定している) 。第三者を被告と して無理に訴訟に参加させるものであるから、任意参加よりも甚だ重大な結 果をもたらす。この点からこの参加は、一種の挑発訴訟(action provocatoire) と言われている 62)。しかし、ここではこれ以上は立ち入らず強制参加の目的・ 機能を大まかに把握するに留める。 (2)旧仏民訴法第 182 条 お よ び 第 183 条 に は、[ 厳正担保 ](物的担保) (garantie formelle)お よ び [ 単純担保 ](人的担保) (garantie simple)の 明 文規定が存在したことから担保のための強制参加は当然予定されていたと解 される。前者は訴訟を承継するが、後者は訴訟を承継しない参加の規定であ る。ボアソ草案第 415 条および第 416 条にも譲渡人の追奪担保責任(garantie d’éviction)が規定されていた。ボアソ草案第 415 条には、権利の譲渡人は、 譲渡前の原因または自己の責めに任ずる帰すべき原因に基づく全ての追奪 (eviction)または障碍(troubles)に対して、その権利の完全な行使および自 由な享受を担保(assurer ou garantir)する責めに任ずる旨を規定している。 また、草案第 416 条では、如何なる場合にも、譲渡人は自ら譲渡した権利によっ て第三者により生ぜしめられたあらゆる障碍または追奪に対して担保する旨を 規定している 63)。ボアソナードは草案第 416 条の注釈 [337] において、有償契 約の場合は当然に(naturelle) 、そして無償譲渡の場合は、詐欺あるいは詐害 によって自己にその物が属さないことを知りながらする贈与等の場合に偶発的 に(accidentelle)追奪担保責任が生じると解している 64)。 62)木川・前掲注 (60)371 頁─ 373 頁。若林安雄『日仏民事訴訟法研究』64 頁─ 65 頁(信山社、 1995 年) 。 63)Boissonade, op. cit., pp. 384─385. 新旧仏民第 1626 条には、 追奪担保責任が規定されている。 64)Boissonade, op. cit., n°337, p. 390. 205.
(26) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). (3)まとめ ボアソ草案第 361 条 3 項で強制参加を規定した趣旨は以下の三点にまとめら れるのではないかと考える。 1)債務者が判決の相対効(旧仏民第 1351 条・現仏民第 1355 条)援用す ることを妨止すること。すなわち、受益者を被告とする取消判決の効力は、 既判力の相対効により自分には及ばないとして、受益者からの追奪担保責任 から免れることを防ぐことである。 2)債務者 の 提起 す る「判決取消 し の 訴 え(tierce-opposition) 」に よ り、 取消原告(取消債権者) ・取消被告(受益者または転得者)間の判決の取消 しを妨止するためである。 3)取消訴訟において、取消被告からの追奪担保請求を同一手続内で認め、 判決の抵触を防ぎ、関連した紛争を一挙に解決しようとした。 強制参加の規定は、詐害行為取消権の行使によって、受益者または転得者か らの追奪担保請求の可能性を認めていると解される。このことは、当事者間 の行為は、詐害行為取消権の行使にも拘らず有効であることが前提とされて いると考えられる。この点からも、ボアソナードは、詐害行為取消権(action révocatoire; action paulienne)の行使により、当事者間の法律行為は、債権者 に対する関係で無効となるだけで、当事者間では有効である(相対的無効) 。 換言すれば、当事者間の法律行為の効力を債権者に対抗できなくなるだけと解 していた証左といえるのではなかろうか。 3 ボアソナード草案第 361 条第 4 項の損害賠償(価格賠償)について 第 1 章第 1 節で見たように草案第 361 条第 4 項は次のように規定している。 「行為の取消しが被告から得られない場合は、この被告は債権者に対して損害 賠償の義務を負う。 」旧民法第 341 条第 4 項では、 「債権者カ詐害ノコウイノ廃 罷得ル能ハサルトキハ被告ニ対シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得」と規定され ていた。旧仏民第 1382 条(現仏民 1240 条) ・第 1383 条(現仏民 1241 条)は、 206.
(27) 改正詐害行為取消権論. 不法行為による損害賠償を定めている。その損害賠償は、可能な限り原状回復 がなされるのが原則で、それが不可能な場合には、それに代わる金銭賠償がな される 65)。 ボアソナードは、草案第 361 条の注釈 [161] において、次のように本項の趣 旨を説明している。 「最終項は、詐害行為の取消しが直接得られない場合を予 定している。ここにその場合の要点がある。詐害的譲渡は、受益者が詐取した ため取り戻し得ない動産を対象としてきた。受益者が、 次条によって、 取消(廃 罷)訴権(action révocatoire)により攻撃され得ない善意の第三者に動産また は不動産を転売した場合である。 」 次条のボアソ草案第第 362 条第 2 項は、 「譲渡の取消訴権は、有償または無 償名義の転得者に対して、転得者が受益者と取引をなす際に、債権者に対して なされた詐害を知っていた場合に限って行使できる。 」と規定している。無償 名義の転得者に対しては、転得者が善意でも a.p. を行使できるとするのがフラ ンスの通説である 66)。しかし、ボアソナードは、フランスの通説に立脚せず、 無償の転得者についても詐害行為取消権行使の要件として詐害の悪意を必要と した。これはおそらく取引の安全を考慮したものと推測される。受益者は詐害 について悪意であり、善意の転得者に目的財産を譲渡することにより、取消債 権者に損害を与えたものである。取消債権者に対する不法行為が成立すると言 える場合であり、衡平の観点からも取消債権者に損害賠償(価格賠償)請求権 を認めたものと解される。. 65)Goubeaux et Bihr, Code civil, 94e éd., t. I, p. 1001. 66)Aubry et Rau, Cours de droit civil français, 4e éd., 1871, t. IV, §313, p. 135.; Colmet de Santerre, op. cit, p. 133; Laurent, op. cit. p. 540; Weil et Terré, Droit civil les obligation, 2e éd., 1975, n°875, p. 937; H, Mazeau-J. Mazeau et Chabas, Leçon de droit civil obligations, 9e éd., t. II, 1998, n°995, p. 1066. 207.
(28) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 4 小括 ボ ア ソ 草 案 第 361 条 第 2 項 が 規 定 す る「判 決 取 消 し の 訴 え( tierceopposition) 」も、第 3 項が義務づける「強制参加(mise en cause) 」も、いず れも訴訟法に関する規定である。では、何故、訴訟法に関する規定がボアソ草 案に設けられたのであろうか。それは、ボアソナードが、フランス法の伝統に したがって、action paulienne を訴権と捉えていたからであろうと考えられる。 フランス法における訴権は、実体法上の私権と訴訟法上の権利が合体している 権利と解されている 67)。この意味で、公法上の裁判請求権という意味でのド イツ法の訴権(Klagerecht)とは異なる。これが、フランス法上に、旧仏民第 1351 条(現仏民第 1355 条)の既判力の相対効の規定や法律上の推定(旧仏民 第 1350、現仏民第 1354 条)あ る い は 当事者 の 自白(旧仏民第 1354 条、現仏 民第 1383 条)のような訴訟法に関する多数の条文が散見される所以である。. 第 2 章 ボアソナード草案第 363 条及び改正債権法第 425 条並びに 絶対的取消し 第 1 節 絶対的効力説と債務者・受益者間の効力 ボアソ草案第 363 条は、 「取消しは詐害行為以前にその権利が成立している 債権者に限って訴求できる。しかしながら、取消しが得られる場合には、債 権者間に優先権(préférence)の法律上の原因が存在しない限り、取消しは区 別なく(indistinctement)全債権者(tous les créanciers)の利益となる」と規 定している。この規定を受けて改正前民法第 425 条は、 「前条による取消しは、 すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる」と定めていた。いわゆる 「絶 対的効力説」である。この規定は、今回の債権法改正によって次のように改正. 67)佐藤・前掲注 (9)13 頁。 208.
(29) 改正詐害行為取消権論. された。すなわち、 「詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及び全 ての債権者に対してもその効力を有する」と。新たに詐害行為取消認容の確定 判決の及ぶ対象者に 「債務者」が加えられた。この点が従来規定されていなかっ たもので創設的意義を有する。これは、序章第 1 節で取り上げた大審院明治 44 年 3 月 24 日の聯合部判決が採用し、以来強固な判例法として通用してきた 「相対的取消理論」を捨て、 「絶対的取消理論」を採用したものと理解すること が可能である。これを絶対的取消しそのものの採用と考える学説もある 68)が、 第 1 章第 2 節第 3 款の 1 で見たように、相対的取消しの部分的維持を留保した 絶対的取消し(必要的絶対的取消し──筆者)と解する見解も、 「新法は相対 的取消構成を捨て、詐害行為取消しを認容する判決の効力は全ての債権者のみ ならず、債務者にも及ぶ(絶対的取消構成) 」としている。すなわち、改正民 法第 425 条は絶対的取消構成を採用したと考えている 69)。これに対して、 「相 対的取消しの見直しは、必要な範囲で、つまり債務者に取消判決の効力が及ぶ と言う範囲で見直されたもの」と解し、 「相対的取消しは、法律行為の当事者 でもなく、能力や意思表示の瑕疵等もなく、債権者詐害以外の点では瑕疵のな い法律行為の効力に、債権者という第三者が介入していくものである以上、そ の効果は必要最小限たるべきという考え方に基づくものであり、この基本的考 え方はなお支持されうる」と考える学説も存在する 70)。 改正法の判決の効力を債務者に及ぼす目的の一つは、債務者所有の不動産が 受益者との共謀により債務者の責任財産から逸出した場合に、受益者または転 得者に不動産登記の債務者への移転または抹消を理論的に可能にするという実 務 71)との整合性の確保があると思われる。 68)平野・前掲注 (26)150 頁。 69)潮見・前掲注 (26)813 頁。 70)中田・大村・道垣内・沖野・前掲注 (27)142 頁。 71)最判昭和 39 年 7 月 10 日民集 18 巻 6 号 1078 頁、最判昭和 40 年 9 月 17 日裁判集民事 80 号 361 頁。 209.
(30) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). 第 1 款 フランス法学説とボアソ草案第 361 条第 1 項・第 363 条 1 結論的にいえば、フランス法学説では、a.p. の行使によって、債務者・ 受益者間の行為を物権的無効と解する見解は見つからない。まず、フランスの 通説・判例である相対的効力説から見てみよう。 (1)Demolombe は次のように述べる 72)。 「a.p. は債権者を害する限りにおい てその行為の効果を、 言わば麻痺させる (paralyser)という目的しか自身にもっ ていない。債務者・受益者間で締結された行為は継続して効力を保ち (continue de subsister) 、その行為は当事者に関する点では取消しによって打撃を与えら れない(n’est pas atteint) 」 。 (2)Aubry et Rau は次のように主張する。 「譲渡行為に対して、a.p. を承認 することは、その行為を取り消すことであるが、債務者によって譲渡された財 産を債務者の資産に取り戻させない(ne fait pas rentrer dans le patrimoine du débiteur) 。a.p. の承認は、ただ被告たる第三者に対する差押え(saisie)およ びその財産の売却を妨げる障碍を取り除くことによって、第 2092 条に定めら れた担保権の行使を可能にする結果になるだけである 73)」と。ここで、Aubry et Rau が a.p. の効果として被告第三者に対する差押えの効力が生じると指摘 していることは重要である。差押えは、執行行為の一段階であるからである。 この表現からして、Aubry et Rau は詐害行為取消権の行使によっても債務 者・受益者間の効力は有効であると解していると考えられる。なお、旧仏民第 2092 条(現仏民 2284 条)に定められた担保権とは一般債権者の一般担保権(un droit de gage général)を意味すると解される 74)。 (3)Planiol et Ripert は、 「その行為は、往々にしてその一部分だけが原告債. 72)Demolombe, op. cit., n°268, p. 272. 73)Aubry et Rau, Cours de droit civil français, t. IV, 1871, §313, pp. 141─142. 74)木川・前掲注 (51)12 頁。 210.
(31) 改正詐害行為取消権論. 権者に対してしか存続することを止めない。他の全ての人に対しては、その 行為はその全ての影響力を伴って存続している。それは、無効というよりも 相対的対抗不能性(inopposabilité relative)であろう」と述べる 75)。Planiol et Ripert は債務者・受益者間の行為は取消しにもかかわらず他の債権者に対して は有効であると解していたと考えられる。 (4)最後に現代の代表的学説である H. Mazeuad,-J.Mazeuad et Chabas の見 解を取り上げてみよう。Mazeaud et Chabas は a.p. について次のように述べる 76)。 「他の債権者は、その訴権の正さにその性質によって、その効果が原告に対し てのみ相対的である対抗不能性の判決を援用することはできない。その行為は 有効に存続する。しかし、原告に対しては対抗できない。攻撃された行為の対 抗不能性はその有効性に影響を与えない」と。この記述からも債務者・受益 者間の法律行為(acte: 行為)は有効に存続する。ただ、取消債権者に対して のみ対抗できないだけである。ここでは、 「対抗不能性(inopposabilité) 」の観 念に注目する必要があるだろう。著者は、 「a.p. は債権者に与えられる対抗性 (opposabilité)という効果を取り除く手段である」と記述する。対抗性とは、 法律行為特に契約により有効に財産権を取得した者は、契約が法秩序の要素を 構成する限りにおいて、第三者に対して自己が権利者である旨を主張できると いうことを意味する。Mazeuad et Chabas は、 「相対的無効は契約当事者を保 護するために規定されており、保護される当事者のみがそれを利用することが できる」とし、一方、 「対抗不能性(inopposabilité)は第三者によって求めら れる。そして、債務者が契約を結ぶことによって債権者を詐害しようとする、 例えば、差押えを逃れるために財産を売却するような場合には、法は債権者 に action paulienne を与える。そのお蔭で債権者は、その売却行為は債権者に 対抗できない(inopposable)と宣言することができる」と明確に叙述してい 75)Planiol et Ripert, Traité pratique de droit français, t. VIII, 2e éd.1954, n°967, p. 299. 76)H. Mazeuad-J. Mazeuad et Chabas, op. cit., n°1002, p. 1069. 211.
(32) 横浜法学第 28 巻第 3 号(2020 年 3 月). る 77)。 (5)小括 要するに対抗不能性は、a.p. においては「相対的無効」を意味すると解し てよいと考える。すなわち、旧ドイツ破産外取消法第 1 条および旧・現 BGB 第 135 条並びにわが国の大審院聯合部明治 44 年 3 月 24 日判決で採用された 「相対的取消」理論も同じ「相対的無効」概念でまとめることができる。H. Mazeaud, J. Mazeaud et F. Chabas は「対抗不能性 は、相対的効果 の あ る 無 効である(l’inoppossabilité es une nullité à effet relatif.)と述べている。なお、 1999 年施行の新ドイツ破産外取消法第 1 条には , 旧取消法にあった「この者 に対して無効(als diesem gegenüber unwirksam) 」という文言が削除さてい るが、第 11 条の [ 法律効果 ] において旧取消法第 7 条に規定されていた返還 (Rückgewähr)という文言も削除されている。しかし、何ら実務上重要な変 更を意味していない 78)。すなわち、取消しの効果は依然として「相対的無効」 なのである。 以上から、フランスでは、相対的効力説に立つ見解で a.p. の行使によって債 務者・受益者間の行為が物権的に無効となるとする学説は存在しないといって よいと考えられる。 2 絶対的効力説と当事者間の効力 (1)Colmet de Santerre の見解は次のようである。 「取消し(révocation)は、 債権者のためにしか申し渡されない。法律行為は、その行為を承認した債務 者とその行為から利益を得た第三者との間の関係では効力を維持する(l’ acte subsiste)79)」 。したがって、当事者間では法律行為は有効であるということに 77)Id., n°293, p. 297, n°295─2, pp. 298─299. 78)Nerlich/Niehhus, Anfechtungsgesetz; Gesetz über die Anfechtung von Rechtshandlungen eines Schuldeners außerhalb des Insolvenzverfahrens, 2000, S. 122─123. 79)Colmet de Santerre, op. cit., n°82 bis. XVI, p. 136 212.
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