• 検索結果がありません。

がん患者を抱える家族の体験に関する心理臨床学的研究:ナラティブ・アプローチを用いて

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "がん患者を抱える家族の体験に関する心理臨床学的研究:ナラティブ・アプローチを用いて"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)がん患者を抱える家族の体験に関する心理臨床学的研究 一ナラティヴ・アプローチを用いて一. 学校教育学専攻 臨床心理学コース. M08056B 黒 江  義 昭.         問題と日的. たいという研究意図にナラティヴ研究は有効で.  1981年以降目本人の死因の第1位はがんで. ある’’と述べる。語り手と聴き手の対話的な関. ある。がん医療の目覚しい進歩に伴い治癒率は. 係と相互行為によって,語り手自身の経験が組. 向上してきたが,がんはいまだ命を脅かす疾患. 織化され出来事が意味づけられ,そこに物語が. である。. 生成されるのである。.  多くの場合,がん患者にとって家族は最も近.  本研究は,大切な家族をがんで喪った遺族の. い援助者であるが,“患者よりもむしろ家族のほ. 語りを聴き,その体験の意味をできるだけ当事. うが混乱する場合さえあり,.がん家族はいわば. 者の身になって解釈し理解することを目的とす. 「第二の患者second・order・patient」として認. る。. 識される必要がある”(佐伯,2004)という示.           方法. 唆もある。終末期患者の家族は,愛する者を喪. 研究協力者 筆者と同じキリスト教会に通うA. うかもしれないという悲しみ(予期的悲嘆)を. さん,がん患者と家族で構成される自助グルー. 感じながら,患者に寄り添い援助することを求. プに参加するBさんの2遺族の協力を得た。協. められる。家族は患者に対する援助者でありな. 力者のプロフィールを表1に示す。. がら,患者以上に苦痛や動揺を感じることもあ. 手続き ①口頭または書面で研究の趣旨と目的. るといえる。. を説明し,非構造化面接を行った。この方法を.  残念ながら患者が死亡すると,家族は愛する. 採用したのは,協力者の自由な語りを得るため. 者と実際に別れるという苦悩に直面することに. である。面接回数は,協力者の意向に合わせて. なる。筆者は,実際にがんで妻を喪った経験を. 柔軟に設定したため,2回∼5回であった。. 持つ者として,大切な人の死が非常に大きな喪. ②1回あたりの面接時間は一定せず,38分∼. 失体験であり,同時にきわめて私的な体験であ. 254分であった。面接場所の制約によって終了. ることを実感している。がん患者を抱え看取っ. した場合もあった。面接場所は協力者の意向を. た家族の体験は,当事者にとってどんな意味を. 優先して決定した。. 持つのだろうか。. ③面接は協力者の承諾を得て録音した。.  竹家(2008)は,“当事者の思いを掬い取り. 。④面接時期は2009年9月,2010年3月から5. 一82一.

(2) 月であった。. 中にうまいこと整理して入れておくことが,A さんにとっての受容であった。. 表1 研究協力者のプロフィール ^さん(遺族). 性別.  Bさんの事例では,「夫へのがん宣告から死去. Bさん(遺族〕. 男. 女. 40代前半・製造. 50代前半・福祉サービス. 長男. 長女.次男,次女. 患者の続柄. 妻. 夫. 患者の年齢. 30代後半(逝去時). 患者の現在. 年齢・職業 同居家族. までの物語」とr夫の死去から現在までの物語」. という2つのまとまりが見出された。  夫へのがんの宣告とその宣告方法にショック. 50代前半(逝去時). を受けたが,仕事を続けながら治療を受けるこ. 2007年12月逝去. 2009年1月逝去. とを望んだ夫を支え続けた。治療の情報を求め. 面接回数. 5回. 2回. て遠方の病院にも行った。夫の病気は誰にも話. 面接場所. キリスト教会の1室. 病院のラウンジ11回) @筆者の自宅(1回). その他. 患者会の発起人. さないでいたが,1年後には共有できる場を求 めて患者会を起ち上げた。夫の姿がない今,た とえ寝たきりであってもここにいてくれたらと. 分析方法 竹家(2008)の方法を参考に,全体. も思った。夫の病気を話さなかったことが,以. を見ながら,語りの流れを構造的に見るシーク. 前からの知人に対する負い目になり,関係をう. ェンス分析を行った。r鍵になる言葉」を見出し,. まく築くことができずにいる。Bさんは夫とも. 物語の「筋」とともに,評価や態度の語りにも. に以前の自分を喪ってしまっていた。. 注目し,経験の意味づけを分析した上で,.  本研究では,語りを切片化することなくシー. 遺族のライフスドーリを再構成し,解釈した。. クェンスとして分析したことで,協力者の体験 をより具体的に個別的に理解することができた。.         結果と考察. その際,意味のつながったまとまりとして区分.  Aさんの事例では,「妻の臨終までの物語」,. することを心がけたので,体験の中での個々の. 「妻の葬儀から1周忌までの物語」,「現在から. ナラティヴの意味が捉えやすくなったと思われ. 未来への物語」という3つのまとまりが見出さ. る。また,筆者自身が妻をがんで喪った経験を. れた。Aさんには,妻に対するがん宣告に続い. 持つ当事者であることは,筆者と協力者の関係. て,長男が重病で入院した。すべてのサポート. において大きな蔵味があったと考えている。そ. を引き受けてくれた姉は,Aさんにとって最も. の関係の上で展開する語り手と筆者との相互作. 頼りになる存在であった。妻の死後,Aさんは. 用により,ナラティヴが生成され体験が意味づ. 長男とともにAさんの実家に身を寄せ,生活を. けられたと言えるからである。. だ。両親や姉夫婦に対する感謝の思いとは対照. 的に,妻の父との確執に苦しんだ。姉はAさん の考え方に大きな影響を与え,確執を助長する.          引用文献 佐伯俊成(2004).がん患者と家族に対する心理社会的   介入 日本心身医学雑誌,44,495・501、. ような存在でもあった。現在のAさんにとって. 竹家一美(2008).ある女性のライフストーリーとその. は,子どもとの生活を送れなかった妻の無念さ.  解釈一r不妊」という十字架を背負って一 京都   大学大学院教育学研究科紀要,54,152−165.. を振り返る方が辛いことである。妻の死は忘れ たいと同時に忘れることはない辛い思い出であ. 主任指導教員  冨永良喜. るが,それとともに楽しかった思い出をr心の一. 指導教員   辻河昌登. 一83一.

(3)

参照

関連したドキュメント

口文字」は患者さんと介護者以外に道具など不要。家で も外 出先でもどんなときでも会話をするようにコミュニケー ションを

 医療的ケアが必要な子どもやそのきょうだいたちは、いろんな

賠償請求が認められている︒ 強姦罪の改正をめぐる状況について顕著な変化はない︒

本稿で取り上げる関西社会経済研究所の自治 体評価では、 以上のような観点を踏まえて評価 を試みている。 関西社会経済研究所は、 年

下山にはいり、ABさんの名案でロープでつ ながれた子供たちには笑ってしまいました。つ

のニーズを伝え、そんなにたぶんこうしてほしいねんみたいな話しを具体的にしてるわけではない し、まぁそのあとは

世界規模でのがん研究支援を行っている。当会は UICC 国内委員会を通じて、その研究支

世界規模でのがん研究支援を行っている。当会は UICC 国内委員会を通じて、その研究支