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青年海外協力隊活動における協働作業のための関係性構築に関する検討 : 任地機関カウンターパートとの関係性を対象として

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Academic year: 2021

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関係性構築に関する検討

-任地機関カウンターパートとの関係性を対象として-

星野 晴彦

A study on relationship building as part of the activities of the Japan Overseas

Cooperation Volunteers: Focusing on relationships with local counterparts

Haruhiko HOSHINO

This paper studied potential factors promoting and inhibiting the formation of relationships for collaborative work between volunteers and their counterparts as part of the activities of the Japan Overseas Cooperation Volunteers.

Various factors affect the formation of relationships between volunteers and their counterparts. Potentially serving as an element that promotes mutual understanding so that the two parties can liaise consistently, one factor may be the specific aspects of mission definition in the following 3 senses: * A mission that allows a dispatched volunteer to self-actualize

* How do local counterparts define their mission?

* How does the dispatching organization define its mission and what role do JOCV requirements play in that process?

Key words: Japan Overseas Cooperation Volunteers counterpart mission 青年海外協力隊 カウンターパート 使命

1 はじめに

 青年海外協力隊事業は、「開発途上地域の住民 を対象として当該開発途上地域の経済及び社会の 発展又は復興に協力することを目的とする国民等 の協力活動を促進し、及び助長する」[独立行政 法人国際協力機構法第13条(3)]というもので ある。青年海外協力隊は、自分の持っている技術・ 知識や経験を開発途上国の人々のために活かした いと望む青年を派遣する、独立行政法人国際協力 機構(以下、JICAと記す)の事業である。派遣期間 は原則として2年間。協力分野は農林水産、加工、 保守操作、土木建築、保健衛生、教育文化、スポー ツの7部門、約140種と多岐にわたっている。実 際の派遣は各受け入れ国からの具体的な要請に従 い選考・募集が行われる。派遣された隊員は、相 手国の政府機関等に配属され、当該機関の一員と して協力活動を行う。その際、隊員の受け入れ担 当として設定される任地機関のカウンターパート 『「同役の相手」、つまり、隊員の協力業務を協働 で遂行する現地側(配属機関や任地)のスタッフ (隊員の上役あるいは、同僚)のこと。』との関係 は、派遣機関の活動の軸となるであろう。しかし、 その協働作業に向けての関係形成の促進要因・阻

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のかは、未だ明確にされていない。  本稿ではカウンターパートと隊員との協働作業 における関係形成において、何が促進要因・阻害 要因となりうるかを検討する。促進要因・阻害要 因とは、上記の青年海外協力隊の使命の達成に向 けて、推進する効果があるか否かという意味であ る。協働作業にはその実施に加えて、立案・事後 評価・事前準備も含まれる。  本稿ではソーシャルワーク部門隊員の報告書を 資料として、促進要因・阻害要因となりうる要素 を抽出していく。それにより、隊員への支援のあ り方を考察する一助とすることが目的である。

2 目的と方法

 現在も多くの青年海外協力隊隊員が活躍し、今 後とも活躍しようとしている。そこで、事業活動 をさらに推進していくために、下記のとおり調査 をした。本稿の調査の目的及び方法は下記の通り である。 (1) 目的  青年海外協力隊の活動を考える際に、派遣され た隊員が現地での協働作業を推進していく上で、 カウンターパートとの関係でどのようなことが促 進要因・阻害要因となるのか。具体的な要素につ いて、当事者の視点から総体的に明らかにする。 (2) 方法  現地に派遣されている青年海外協力隊員の報告 書から、協働作業を推進していく上でカウンター パートとの関係で促進要因・阻害要因となった事 項として示したものを抽出し、整理する。 (3) 対象  平成19年度にソーシャルワーク分野で派遣さ れている隊員40名。

3 結果

 青年海外協力隊員の報告書から、協働作業を推 進していく上でカウンターパートとの関係を形成 する際、促進要因・阻害要因と考えられた事項を 以下に示す。整理した項目名の下にその証左とな る具体的記述を添える。 表1 カウンターパートとの関係を形成する際、促進要因・阻害要因となる事項 (1) 促進要因 1)隊員個人の要因 ① 隊員自身の人間関係形成能力(状況を把握する力と忍耐が求められる) ・報告書に激怒したカウンターパートに対して、納得のいかない部分を具体的に聞くようにした。(カウンターパートの言葉に納得 しながらも、事実を伝えなおしていく)   話し合いの場を持つことによって、すべてを否定した当時とは違い、隊員の報告書を冷静に見直してくれるようになった。(コミュ ニケーションの工夫) ・知らないとはいえない性質のようであるので、その辺を考慮してうまく動かしていけば、動いてくれる人だと考えている。(相手 の性格を踏まえた関わり方) ② 必要時に報告を欠かさない配慮 ・単独で巡回しているので協働という感覚は基本的に希薄かもしれないが、巡回先での問題は逐一報告し、相談するようにしている。 ・少しでも活動に興味を持ってもらえるように、定期的に自分の活動を報告していく。  2)機関の要因 ① 機関として合意された活動の方向性があり、隊員の活動意義に関して明確である。 ・後任隊員の要請に関して、活動の普及・定着を図り、施設の職員等にある程度技術移転したり、施設処遇改善等の試みが多少な りとも実効を挙げるには引き続き隊員の協力が必要であるという理由であり、自分もそのように考えている。(組織の展開と隊員 の派遣意義が合致する)

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3)カウンターパートの要因 ① カウンターパートが隊員の関連する業務に対して意義を理解して、積極的に取り組んでいる、という信頼感。 ・人柄もよく、活動に対して理解があり、協力的である。 ・カウンターパートとは職種が違うために、その技術レベルは図りかねるが、有能な人であると思われる。プロジェクトに対する 意欲も感じられる。  ② カウンターパートの業務理解力・遂行力に対して信頼が持てる ・施設での実習経験があり、意欲も旺盛で、活発で積極的な人なのでかなり期待できると考えている。 ③ カウンターパート自身の機関内外に対する業務調整力に信頼が持てる ・配属部署において2つの業種が混在して業務を行っていたために、部署を分割するように提案し、部署には隊員からの提案という ことは明示せず、病院長サイドからの指示ということで分割が行われた ・コミュニティーにおけるCBR活動を活発化するためにどうすればよいのか意識して、カウンターパートに希望する活動計画を伝え た。カウンターパートが厚生省の医師と打ち合わせをした結果、許可の出た活動と許可の出なかった活動があり、許可の出た活動 を中心に今後の活動計画を設定した ・関係部署に連絡を取ってくれて、活動しやすい状況を作ってくれている。 ④ カウンターパートが個人的な立場に執着せずに、機関の使命に対して取り組んでいる、という信頼感。 ・団体の上部に問題は多くとも、カウンターパートたちの仕事への意欲は高いので、私の活動が何らかの影響を残すことは考えら れる。 4)時間的経過 ・赴任してきたばかりの時は、積極的なコミュニケーションは難しい状況であったが、最近は少しずつコミュニケーションが取れ るようになり、活動を気にかけてくれている。 5)協働作業自体を実際にしてみること(成功体験の蓄積) ・地区やコミュニティーの状況把握に努め、各活動の評価や疑問に感じたことなどをその都度、カウンターパートと話し合ってきた。 ・現在考えていることや今後の方向性を職場と共有化するために、短期目標と長期目標を立ててカウンターパートと共に検討し、 所属長に提出した ・カウンターパートと共に立案したプロジェクトが担当官庁に承認された。 ・隊員のこれまでの活動を振り返り、活動結果を一緒に確認した。 ・今年から取り組む性教育に対するプロジェクトに関しては、カウンターパートと共に勉強をしている。 (2) 阻害要因 1)隊員個人の要因 ① 相手を説得するための表現力・伝達能力 ・意見交換が十分とは言えず、うまく伝えられない部分が残った。  結果的に一人の少女にのみ破れた衣類の繕いや、年少児の洗濯を手伝わせ、学校の授業についていけない子供が学校と施設を去 らなければならない。 ・家庭巡回は自分にとっては最重要と位置づけていたが、カウンターパートには特に優先すべき業務とは位置づけられておらず、 当日になってよくキャンセルされた ② 隊員の語学力 ・語学力の低さからうまく伝わらなく、自分に対するニーズの変更を聞くまでにはいたらなかった。 ③ 隊員が提供できる技術内容とそのレベル ・語学力、専門知識と情報収集能力のすべてに高さが必要である要請事項を、隊員レベルで実施できるか疑問が残る。 ・私の職種をよくわかっていなかったようで、期待することは私が直接指導できるもの以外のものばかりであった。 

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2)機関の方向性  機関として合意された活動の方向性があり、隊員の活動意義に関して明確にされている。 ・センターに長期的ビジョンが無い。カウンターパートのその時々の意見によって左右されてしまう。今後のセンターのあり方を 考えていく必要があるのかもしれない。早期療育のためのセンターというものをこの国で実施することが難しいために、ビジョン を持ちにくいのかもしれない。(所属機関のビジョンの不確定) ・センターからいかなる経緯で協力隊の派遣要請が出されたのかはなはだしく疑問がある。配属先が自分たちをどれくらい必要と しているのか不明なところもある。 3)カウンターパートの要因 ① 機関の方向性に従い、カウンターパートも隊員と活動している。 ・隊員を欲しいといっているものの、どう使うかについても考えが無い。隊員の裁量に任されているわけではなく、その時々の目 の前に迫った問題についての協力を求められるため、隊員は振り回されてしまう。 ・カウンターパートの姿勢を鑑みた時に、今後も私の配属先への隊員の派遣を継続することは望ましいとは思えない。 ② カウンターパートが隊員の関連する業務に対して意義を理解して、積極的に取り組んでいる、という信頼感。 ・カウンターパートは今後も隊員派遣を望んでいる。しかし、具体的にはとても漠然としたマクロなレベルでの協力を要請している。 ・提案や活動についての要望・助言・質問等は無く、自分から話をすることがほとんどである。機関について考えていくというよりも、 自分が行っている活動はあくまで、私個人のものでそれをフォローすることが役目だと思っているようである。 ・将来的には隊員が主導権を握り、同僚がサポートに回るのではなく、同僚が主導権を握り隊員がサポートに回ることが望まれる。 しかしカウンターパートにはその意識が低い。 ・本来業務に対して無責任・無関心になっていたのか理由はわからないが、私が業務を代行してしまったことで、安心感を与えて しまい、責任感を無くさせてしまったのかもしれない。 ③ カウンターパートの業務理解力・遂行力に対して信頼が持てる ・将来的なビジョンも無い ・若年であり、経験は浅く、可能性は未知数 ・カウンターパートにおいては音楽を教えることが主な役割であるが、実際には非常に受身的なスタイルの仕事の仕方であり、積 極的に教えているという印象ではない。全体的に言えるのは、仕事に対して計画性が乏しい。  ④ カウンターパートが隊員の業務・能力を理解している ・家庭巡回は自分にとっては最重要と位置づけていたが、カウンターパートには特に優先すべき業務とは位置づけられておらず、 当日になってよくキャンセルされた。(再掲) ・私の職種をよくわかっていなかったようで、期待することは私が直接指導できるもの以外のものばかりであった。(再掲) ・時々「これJICAでお金出してくれない」と平気でいう。しかも多くの場合、「どうしても必要な経費」ではない。  ⑤ カウンターパート自身の機関内外に対する業務調整力に信頼が持てる ・訪問が定期的にできないのは、手配については、カウンターパートの連絡がうまく行っていないことと手配していた車を当日上 司が使うことなどが原因である。  ⑥ カウンターパートが個人的な立場に執着せずに、機関の使命に対して取り組んでいる、という信頼感。 ・報告書に「衛生面の習慣が悪く、身だしなみも汚いこと」などを書いたときに、激怒し、「全部うそだ、お前はスパイだ」と罵られた。 報告書があら捜しをしているように捉えた。  その後、話しかけても背を向けて歩き出し、いやみを言うなど信頼関係とは程遠いものとなった。(自分の存在を否定された感覚 に敏感)  4)文化的な認識のずれ ・住居の防犯設備が十分ではなかったので相談した。住居の安全面に関する認識が低く、対策が講じてもらえない。 5)情報提供の適切性 ・カウンターパートが休職となったが、事前に誰からも連絡が無かった。 ・予算が組まれてから、センターのスペシャルオリンピックの参加をカウンターパートから聞かされた。他国のボランティアには センター予算で支出するが、自分は自費で参加するように言われた。

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6)意志交換の時間の確保 ・多忙なのは日ごろから見て取れる。だが各業務の週間計画表は立てられていないため、その日その時に、計画・予定を彼自身に 聞かなければならない。常にオフィスにいないので、不在時はどうしようもない。 ・カウンターパートが忙しく、なかなか話し合いをする時間が持てなかった。配属先は私を必要としているのかと自分自身の存在 について悩んだこともある。 ・非常に多忙であり、会議に出席することが多くほとんど局内におらず会うことも非常に困難な状態。 7)協働作業自体を実際にしてみること(成功体験の蓄積) ・カウンターパートが忙しく、なかなか話し合いをする時間が持てなかった。配属先は私を必要としているのかと自分自身の存在 について悩んだこともある。(再掲) ・日常業務の際に、特に援助を要請されたことは無い。現場サイドの真のニーズは、まだ不明瞭である。  任地での活動を推進していくために、協働作業 を展開していく上で、関係形成をしていくための 促進要因・阻害要因となる事項となりうるものと して、列挙したものが、上記の通りである。活動 について、個々の機関で行っている具体的内容に ついては割愛する。

4 考察

 本稿は、隊員―カウンターパート関係形成上で、 特に協働作業を展開する上で、促進要因・阻害要 因となりうることを青年海外協力隊の当事者隊員 の目から整理する試みである。報告書より該当す ると考えられる項目を抽出し、整理してみた。上 記の結果で示された要素を再度整理すると、以下 の要素が有機的に相互に作用しながら展開してい ると考えられる。 表2 隊員―カウンターパートが協働作業関係を形成する上で促進的・阻害的影響を及ぼす要因(項目   のみ再整理) 隊員個人の要因 ・隊員自身の人間関係形成能力(状況を把握する力と忍耐が求められる) ・相手を説得するための表現力・伝達能力 ・隊員の語学力 ・必要時に報告を欠かさない配慮 ・隊員が提供できる技術内容とそのレベル 機関の方向性 ・機関として合意された活動の方向性があり、隊員の活動意義に関して明確にされている。 カウンターパートの要因 ・機関の方向性に従い、カウンターパートが隊員と活動している。 ・カウンターパートが隊員の業務・能力を理解している ・カウンターパートが隊員の関連する業務に対して意義を理解して、積極的に取り組んでいる、という信頼感。 ・カウンターパートの業務理解力・遂行力に対して信頼が持てる ・カウンターパート自身の機関内外に対する業務調整力に信頼が持てる ・カウンターパートが個人的な立場に執着せずに、機関の使命に対して取り組んでいる、という信頼感。 時間的経過 文化的なずれ 情報提供の適切性 意志交換の時間の確保 協働作業自体を実際にしてみること(成功体験を蓄積して、協働することの感覚をつかむのと同時に、お互いのニーズ・ 力量を認識する)

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 JICA機関紙「クロスロード」1) は、隊員の実 践を踏まえ、現地での関係形成に関する多くの示 唆をしてきた。任地の機関や人々(カウンターパー トを含む)を対等に認識し、また関係形成の仕方 を工夫していく過程(語学力の向上含む)に個人と しての成長と自己実現が展開する。単に技術を移 転すると言う機械的・無機的なものでは無く、時 間の経過と共に展開する有機的・相互作用的なも のである。本調査では、隊員の側の要因として、 ①相手を説得するための表現力・伝達能力②隊員 の語学力③必要時に報告を欠かさない配慮も促進 要因となることを示唆している。  他方で、隊員の個人的要因に留まらず、カウン ターパートにかかわる要因も示された。一つは、 カウンターパートの実務対処能力・調整力であ る。これが適切に発揮されることにより、協働作 業が展開して、さらに両者の信頼関係が促進され る。二つ目は業務姿勢である。その一つとして、 カウンターパートの自分の立場のみに執着した態 度は、隊員の提案事項の意義に対するカウンター パートの理解形成において支障となる可能性が示 唆された。また、お互いの業務・責任の認識(カ ウンターパートが隊員に対して何ができると期待 しているか)、及びカウンターパート自身の業務 責任の認識(隊員はあくまで技術移転をして任国 を去っていくので自分たちが、その技術を受け継 ぐという認識)も、積極的な協働作業を展開して いく上で、影響因子となる可能性が示唆された。  さらに、両者の関係の形成に影響する環境の意 義も示された。上記結果より、必要な意見と情報 の交換の重要性が示唆されている。カウンター パートと常時共に活動する必要は無いが、必要な 事項を協議する時間が物理的に確保されるのか、 である。お互いに向き合って対話する中で考える 力がつき,いろいろなアイデアも出やすくなる。 また,双方向のコミュニケーションはナレッジ(職 員一人ひとりの中に蓄積されている,業務に必要 な情報,知識・知恵)の共有につながる。逆に、 情報が適切に伝え合えないことにより、関係形成 が困難となることもありうるのである。      また、協働の成功体験を蓄積していくことが、 お互いの理解を促進することも示唆された。これ はすなわち、最初から信頼関係はあるものではな く、協働作業の成功体験の蓄積により、時間を経 て相互の理解と信頼が培われるというものであ る。  しかし改めて、ここでは個別関係の次元に留ま らない、機関の有機的展開という視点の重要性も 示唆されている。隊員がカウンターパートと協働 作業するに当たり、直接的ではなくとも、機関の 合意された方向性(組織の使命設定(実現段階にお ける青年海外協力隊要請の妥当性)との整合性が 派遣された機関が明確な目標を持ち、それに基づ き隊員をどのように活用したいかを明確に示し得 ていること、そしてその目標に対して職員がコン センサスを得ていること)が影響してくるという ことである。それがカウンターパートの隊員に対 する姿勢として体現されることになる。「事業ビ ジョンは一人ひとりの社員がどのような意識を 持って、どのような顧客に対して、どんな価値を 提供していくのかという仕事へのコミットメント のあり方を明確にする」と高橋2) が示している通 りである。ドラッカー3) は「目標は、その所属す る上位部門の成功に対して行うべき貢献によって 規定される」としている。上記の結果に示されて いるように、機関が青年海外協力隊要請を積極的 に活用して自身の使命を果たそうとする方向性 が、カウンターパートにも体現されて、カウンター パートと隊員が協働作業のための目的性を共有し ている。逆に、機関が意義ある活用のビジョンを 無いままに要請する事により、カウンターパート もどのように協働作業をするべきかという目的性 を共有できなくなってしまうこともある。  また他方で機関という組織体を論ずる前に、カ ウンターパート自身の一組織人4)としての業務姿 勢(自分たちの使命をどのように設定し、そして 隊員の活動をどのように理解し・自分の業務との 連携を位置づけるか)も、促進要因・阻害要因に なりうることが示唆された。無論、機関の方針か ら外れてカウンターパートが隊員と自律的に、若 しくは自己保身的な関係形成をしていくこともあ りえないわけではない。実際に機関が隊員の活用 に対して十分に理解していなくとも、カウンター パートの高い意欲が極めて信頼関係構築に促進的

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になっている事例も示されている。  ドラッカー5) は「あらゆるものが自らの属する 上位の部門全体の目標の設定について積極的に参 加しなければならない」とも述べている。カウン ターパートと隊員の関係形成を考えていく上で、 下記の三者の具体的な次元で、矛盾無く連携しう るように、意志の疎通を図っていくことが大きな 促進要因となるであろう。 ①派遣された隊員が自己実現できるような使命 ②カウンターパートが自分たちの使命を設定して いるのか。 ③派遣機関がどのように自分達の使命を設定する か。そしてそのプロセスにどのように青年海外 協力隊の要請を位置づけているのか。  すなわち、隊員とカウンターパートの関係が、 以上の意志疎通6) により発展することは、組織の マネジメントサイクル7) を推進していくために 寄与することになる。良循環のサイクルでは、組 織としてのビジョン・使命設定・戦略が明確で、 メンバー(カウンターパートを含む)は自信を持 ち、連帯感を抱き、利用者を喜ばせることができ る。そして機関の活動の価値も生み出す。ドラッカー 8) は、使命が第一に重要であり、リーダーがまず なすべきことは、よくよく考え抜いて、自ら預か る機関が果たすべき使命を定めること、そして使 命があるからこそ、明確な目標に向かって歩くこ とができ、目標を成し遂げるために組織の人間を も動員することができるのだと述べている。即ち 使命とは、組織の一人ひとりが、目標を達成する ために自分が貢献できることはこれだと思える現 実的なものでなければならないと指摘しているの である。“使命”を掲げていない、あるいは意識す らしていない非営利機関もある。また、たとえ“使 命”があっても、きれいな言葉が並べられ、形式 的であったり、職員ひとり一人には理解されてい ない場合9) も多々ある。非営利団体も具体的な目 的に応じた成果の評価基準を持つべき10) であり、 第一義的に「一人ひとりの人と社会を変える存在」 11) である。協働作業に向けて関係形成をしてい くために、当然価値と目標の共有化に向けての、 意志の疎通が必要となる。そこでは、文化の相違 れぞれの責任を踏まえ、またそれぞれの強みを生 かした、生産的な協働作業が形成される。これは 静態的なものではなく、時間経過と共に組織と成 員を成長させなければならない。そのような積極 的なサイクルの中に隊員とカウンターパートの協 働作業は位置づけられるべきではないだろうか。

5 おわりに

 本稿は隊員の報告書よりカウンターパートとの 関係性について記述されているものを抽出し整理 するものであった。そして機関・カウンターパー ト・隊員の使命設定の連携状況が重要な促進要素 となることを述べてきた。その点を十分に配慮し た、青年海外協力事業における調整作業も必要と なってくるであろう。その入念な要請受理・配置 調整の作業の重要性が示唆されたように思われ る。しかし、次の点で課題が残る。 ① 基本的に隊員のみの視点から述べた報告書で あり、他者の視点を踏まえているわけではない。 隊員自身の力量を十分に考慮せずに、一方的に 述べられている可能性がある。 ② 報告書の中でカウンターパートとの関係性に ついて言及されていないものもあった。またカ ウンターパート自体が設定されていない事例も あった。カウンターパートの位置づけに関して、 その意味については十分に検討することができ なかった。 ③ カウンターパートとの関係の形成の状態が、 活動の成果やその他の同僚との関係に及ぼす影 響が明確にできなかった。  以上を今後の課題としたい。 注 1)例えば、クロスロード(国際協力機構青年海 外協力隊事務局編集発行) では、2007年7月で、 「プレゼンテーションの方法」を特集している。 その他毎号に「失敗から学ぶ」というコーナー を設置している。 2)高橋俊介 『成果主義はこわくない』プレジ デント社 2002  p135

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ダイヤモンド社 2000 p165 4)高橋は次のように述べている。  「会社のビジョンやコアバリューについて、社 員一人ひとりに腑に落ちるまで理解させ、全社 的に方向付けを行ったら、さらに次の段階とし て、その方向付けを個人レベルでのミッション (仕事上の使命)へと落とし込む。個人個人の仕 事は職種やポジションによって異なるため個人 レベルでのミッションが必要となる。  顧客満足度を極大化するというミッションが設 定されたら、そのために必要な仕事は、自立的 な創意工夫で考えなければならない。」  高橋俊介『人材マネジメント論』東洋経済新報 社 1998 p67 5)P.F.ドラッカー「チェンジ・リーダーの条件」 ダイヤモンド社 2000 p165 6)P.F.ドラッカー「チェンジ・リーダーの条件」 ダイヤモンド社 2000 p18-19  関係形成を個別の感情的側面に矮小化しないよ うに、ドラッカーのマネジメント論が示唆して くれることは大きい。マネジメントについて、 ドラッカーは以下の要素を挙げている。   ① 人が協働して成果を上げることを可能と して、人の強みを発揮させ,弱みを無意味なも のにする。   ② 人と人との関係に関わるものであり、そ れぞれの文化に深い関わりを持つ。   ③ 組織が、成員に対して仕事について共通 の価値と目標を持つことを要求する。   ④ 組織と成員を成長させなければならない   ⑤ 意志の疎通と個人の責任が確立していな ければならない   ⑥ 非営利団体も具体的な目的に応じた成果 の評価基準を持たなければならない。   ⑦ 成果は顧客の満足である。 7)N.ティシー『リーダーシップサイクル』一條 和生訳 東洋経済 2004 p20 8)P.F.ドラッカー『チェンジ・リーダーの条件』 上田惇生訳 ダイヤモンド社 2000 p38 9)P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』ダイヤ モンド社 2007 p156 10)P.F.ドラッカー『非営利組織の成果重視マネ ジメント』ダイヤモンド社 2000 p8 11)P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』ダイヤ モンド社 2007 p2 [要旨]  本稿では、青年海外協力隊事業において、カウンターパートとボランティアとの協働作業のための関 係形成において、何が促進要因・阻害要因となりうるかを検討する。カウンターパートと隊員の関係形 成を考えていく上で、様々な影響因子が考えられる。そしてその一つとして、下記の三つの次元の使命 設定が具体的な次元で、矛盾無く連携しうるように、意志の疎通を図っていくことが促進要素となるこ とが示唆された。 ・派遣された隊員が自己実現できるような使命 ・カウンターパートが自分たちの使命をどのように設定するのか。 ・派遣機関がどのように自分達の使命を設定して、そのプロセスにどのように青年海外協力隊の要請を 位置づけているのか。

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