カ ウ ン セ リン グの ロー ル プ レ イ ン グに お け る沈 黙 体 験 の 一考 察 〔1〕
カ ウ ン セ リン グ の ロ ー ル プ レ イ ン グ に お け る
沈 黙体 験 の 一 考 察
〔1〕
高
柳
信
子
Some Aspects
of Silence
in the
Counseling
Role Playing
A Pilot Study
Nobuko Takayanagi
The purpose of this paper is to investigate the phenomena of silence in counseling role playing by trainees who are school teachers, college students and nurseryschool teachers. They took the role of clients in role playing sessions.
These results lead to the conclusion that silence is nonverbalization, but it does not mean noncommunication. We should be especially careful not to overlook the expression of emotions which may occor during the clients' silence.
目的 と問 題 提 起:
る。 カ ウ ン セ リン グ は主 に 言 葉 即 ち対 話 を もっ て 直 接 的 手 段 と され る。 そ の た め 、例 え ば カ ウ ン セ リン グ の効 果 を測 定 す る手 が か り と して は クラ イ エ ン トの 陳 述 内容 その もの に 関 心 が 向 け られ 易 い。 従 っ て カ ウ ンセ ラー と ク ラ イ エ ン トとの 間 の 沈 黙 は 、 言 語 表 現 は もち ろ ん 意 思 表 示 も無 い 、 意 味 の 無 い 時 空 間 と して 軽 視 さ れ看 過 さ れ易 い こ とに な る。 沈 黙 に対 す る カ ウ ンセ ラー ま た は ク ラ イエ ン トの こ の よ うな 価 値 付 け は 、 時 に意 識 的 に、 ま た 半 ば無 意 識 的 に な され て い る こ とが 多 い 。 カ ウ ン セ ラー が 沈 黙 に 耐 え ら れ な くな って 、一 方 的 に 沈 黙 を破 る た め だ け の 発 言 を して 、 ク ラ イエ ン ト の 気 持 ち の 流 れ を止 め て しま う こ とが あ るの は、 沈 黙 の価 値 を否 定 して い る こ との一 つ の表 れ で は な い か と思 わ れ る。 ま た、 ク ラ イエ ン ト側 も、 沈 黙 は 望 ま しい 事 で は な い と感 じて 無 理 に発 言 した り、 沈 黙 を 自 己 の 防 衛 の た め の 一 種 の 黙秘 権 と して 活 用 した りす る こ とが あ る。 カ ウ ン セ リン グ に は 非 言 語 的 コ ミュ ニ ケ ー シ ョン が 関 与 す る事 は 自明 の理 と され て い る に も 拘 らず 、 実 際 に沈 黙場 面 に 直 面 す る と、 初 心 者 ほ どカ ウ ンセ ラー は 沈 黙 の そ の 時 の ク ラ イエ ン トに とっ て の 意 味 や 価 値 を見 い だす 努 力 よ り も、 沈 黙 を 打 ち消 す 努 力 に走 り易 い の で は な いか と思 わ れ る。 そ こで カ ウ ン セ リン グ場 面 に お け る沈 黙 の 意 味 を明 らか に し、 こ れ を理 解 して お く必 要 が あ る が 、 そ の 前 に 先 ず パ イ ロ ッ トス タ デ ィ と して カ ウ ンセ リン グの ロー ル プ レ イ体 験 の 中か ら ク ラ イ エ ン トの 沈 黙体 験 が 何 を表 す か を捉 え る こ と を試 み る。 最 終 的 に は 、 カ ウ ン セ ラー が カ ウ ンセ リン グ 場 面 で の 沈 黙 の 意 味 を理 解 し、 そ の 時 に な し得 る 応 答 は 何 か の 明確 化 に役 立 つ こ と を望 み た い 。 方 法: 1.手 続 き 客 観 的研 究 法 に は 予 め 測 度 や 尺 度 を設定 し、 構 造化 して お い て か ら数 値 を捉 え る 方 法 な どが 一 般 的 に考 え られ るが 、 今 回 の場 合 そ れ は 対 象 者 が 自 一38一
カ ウ ン セ リ ン グ のmル プ レイ ン グに お け る沈 黙 体 験 の 一 考 察 〔1〕 分 の 内的 体 験 を 自分 で 一 旦 整 理 した あ と、 共 通 の い わ ば 引 き出 しに再 整 理 す る こ とに な るの で 、個 性 的 に 思 わ れ る もの ま で無 理 に 一 般 化 す る恐 れ を 含 む こ とに な る。 そ の 点 を最 小 限 に抑 え るた め に も、 最 初 は構 造 化 され た 尺 度 な ど を用 い る こ とを あ えて 避 け た。 手 続 と して は カ ウ ン セ リン グ に関 す る研 修 や 授 業 の 中 で、 カ ウ ンセ ラー と ク ラ イ エ ン トの ロー ル プ レ イ ン グ を10-15分 間 体 験 し、 次 に 役 割 を交 換 した 。参 加 者 が 奇 数 の た め3人 組 が で きた 時 は 一 人 をオ ブ ザ ー ヴ ァー と して参 加 させ た 。 ロー ル プ レ イ ン グ に は い ろい ろ な 目的 や 方 法 が あ っ て、 例 え ば 登校 拒 否 の 子 を もつ 母 親 役 とカ ウ ン セ ラー 役 とか 、 医 師 の 教 育 の一 試 み と して 、 医 学 生 に よ る 医 師役 と、 看 護 婦 や 学 生 以 外 の 医 師 に よ る患 者役 と に よ っ て行 うロ ー ル プ レ イ ン グな ど、 文 字 どお り仮 の役 を演 じ る体 験 学 習 が 多 く見 られ るが 、 こ こ で い う ロ ー ル プ レ イ ン グ とは、 た だ カ ウ ンセ ラー と クラ イエ ン ト とい うお互 い の役 割 と面 接 時 間 の 取 り決 め だ け で 、 ク ラ イエ ン トや カ ウ ンセ ラー が どの よ う な 人 か 、 ク ラ イエ ン トの 主 訴 は何 か 、 ど の よ う な状 況 で 始 め る か、 な ど一 切 を予 め 申 し合 わせ る こ とは む し ろ禁 止 して始 め る もの で、 筆 者 が 「ブ ラ イ ン ド方 式 」 と名 付 け た もの で あ る。 そ の理 由 は、 劇 化 や 演 技 の要 素 を で き る だ け 少 な く し、 絶 え ず新 た に生 じつ つ あ る現 実 を、 クラ イ エ ン ト と と もに あ りの ま ま に感 受 し、 相 手 との今 こ こで の 出会 い を体 験 す る学 習 を も 意 図 した こ と、及 び実 際 の クラ イエ ン トとの カ ウ ン セ リン グ の体 験 過 程 は 、 常 に互 い に未 知 の 連 続 だ と筆 者 は考 え て い るか らで あ る。 従 って 状 況 を予 め 設 定 し な くて も ロー ル プ レ イ ン グ は始 め る こ とが で き る し、 ク ラ イ エ ン トや カ ウ ン セ リン グ に つ い て の予 備 知 識 は 必 らず し も必要 で は な くな る。 体 験 後 、 そ れ ぞ れ の役 割 の 中 で 沈 黙 した と きに は どの よ うで あ っ たか を内 省 して も らい 、 思 い つ くま まに幾 つ で も箇 条 書 き的 に全 く自由 に記 述 して も ら っ た。 こ こ で い う沈 黙 とは 、 非 言 語 的 コ ミュ ニ ケ ー シ ョン は あ る と し て も、 言 語 的 交 流 が 生 起 して い な い 時 で 、 カ ウ ン セ ラー とク ラ イ エ ン トの
2人 の 間 で の 無 声 の状 態 を指 す 。 沈 黙 時 間 の長 短 は 問 わ な い 。 2.対 象 ロー ル プ レ イ ン グ の対 象 者 は、 カ ウ ンセ リン グに つ い て は専 門 家 で は な く初 心 の 学 習 者 で 、 職 業 は保 母 、 教 員(小 ・中 ・高校)の ほ か大 学 生 を含 む 。職 業 別 に そ れ ぞ れ60名 、32名 、78名 、計170名 で あ る。今 回分 析 の直 接 の 対 象 者 と な っ た の は、 そ の う ち、 ク ラ イエ ン ト体 験 を記 述 した そ れ ぞ れ 17名 、8名 、49名 、 計74名 で あ る。 年 齢 は21歳 か ら65歳 迄 で、 そ の 内女 性 は49名 、 男性 は9名 、 不 明16名 で あ っ た 。 ロー ル プ レ イ ン グの 実 施 地 域 は 九 州 のS県 、関 東 のK県 、S県 で あ る が 、 対 象 者 は そ の 時 の 学 習 グル ー プ の構 成 に よ って 、 職 業 的 に は等 質 で あ っ て も在 住 地 域 と して は 必 ず し も等 質 集 団 で は な く、 個 人 的 に は 北 は北 海 道 か ら南 は 九 州 に わ た っ て い る。 初 心 者 を選 ん だ の は、 体 験 を専 門用 語 に す り 替 え て 知 性 化 し た論 理 的 解 答 をで き る だ け避 け る こ と と、 課 題 に こ だ わ ら ず 新 鮮 に 体 験 を感 じ、素 朴 に体 験 を表 明 して くれ る で あ ろ う こ とを期 待 し 意 図 した か らで あ る。 3.資 料 の 整 理 今 回 は カ ウ ンセ ラー ・ク ラ イエ ン ト ・オ ブ ザ ー ヴ ァー 体 験 の う ち、 ク ラ イエ ン ト体 験 に つ い て の み 取 り上 げ る。 資 料 の整 理 に際 して は 、 筆 者 の他 に1名 の評 定 者 を用 意 した 。 先 ず2文 章 以 上 ま た は 比 較 的 長 文 の 記 述 は 、 1文 章 ず つ 区 切 るか 形 容 詞 また は副 詞 な ど を手 が か りに 内省 記 述 の 一 ま と ま り と して 区 分 し た。1文 章 中 に2つ 以 上 の意 味 を表 明 して い る場 合 も複 数 扱 い と した 。 抽 出 され た 記 述 文 は、 共 通 と思 わ れ る もの を一 群 と して 整 理 を し て み る と、 そ の体 験 内容 の 特 性 か ら、 情 緒 ・感 情 ・感 覚(不 安 だ 、 な ど)、 論 理 ・思考(自 分 の 考 え を整 理 、 な ど)、 行 動 ・態 度(自 分 の手 を 1,
カ ウ ン セ リ ン グの ロー ル プ レイ ン グに お け る沈 黙 体 験 の 一考 察 〔1〕 見 る、 な ど)、 期 待 ・希 望 ・要 求(聞 か な い で欲 しい 、 な ど)、 発 見 ・気 づ き(苦 し くな っ て くる 自分 に気 付 い た 、 な ど)、 疑 問(沈 黙 が 適 切 か 否 か 、 な ど)、 評 価(沈 黙 は 失 礼 だ、 な ど)、7つ の カ テ ゴ リー に一 次 分 類 され た。 今 回 は その 中 で特 に 頻 度 の 高 か っ た 情 緒 ・感 情 ・感 覚 カ テ ゴ リー を取 り上 げ、 更 に感 情 な どの 方 向性(対 自己 、 対 カ ウ ン セ ラー 、 対 カ ウ ン セ リン グ 場 面)及 び そ れ ら る方 向へ の 評 価(肯 定 的 、 否 定 的 、 中 間 的)と に つ い て 下 位 分 類 し考 察 した。 4.結 果 (1)抽 出 さ れ た 内 省 報 告 は 全 部 で233項 目 が 捉 え ら れ 、ク ラ イ エ ン ト役 一一 人 当 た りの 平 均 は3.59項 目 で あ っ た 。 (2)記 述 文 の 一 次 分 類 の 結 果 は 第1表 の 如 くで あ っ た 。 第1表:ク ラ イ エ ン ト役 の 内 省 に よ る各 カ テ ゴ リー の 比 率 情 緒 ・感 情 ・感 覚 論 理 ・思考 行 動 ・態 度 そ の 他 46.3% (108項) 28.3% (66項) 13.7% (32項) 11.6% (27項) (註)「 その他 」 の 内 訳:期 待 ・希 望 ・要 求4.3%(10項) 疑 問3.4%(8項) 評 価3.0%(7項) 発 見 ・気づ き0.9%(2項) こ の 結 果 か ら は 、 情 緒 ・感 情 ・感 覚 な ど感 性 に 関 す る 内 省 報 告 が 最 も 頻 度 多 く表 明 さ れ て い る。 (3)そ こ で 次 に こ の 情 緒 ・感 情 ・感 覚 カ テ ゴ リー に 属 す る 記 述 を 、 更 に 方 向 性(対 自 己 、 対 カ ウ ン セ ラ ー 、 対 カ ウ ン セ リ ン グ 場 面)と 、 評 価(肯 定 的 、 否 定 的 、 中 間 的)の 視 点 か ら下 位 分 類 を 行 っ た と こ ろ 、 第2表 の ご と き結 果 を得 た 。 評 価 は 、 カ ウ ン セ リ ン グ 過 程 や 関 係 の 促 進 、 積 極 性 、 肯 定 的 感 情 、 自立 な ど を 表 明 す る 建 設 的 記 述 を 肯 定 的(+)と し、 カ ウ ン セ
リン グ過 程 や 関係 の 停 滞 、 消 極 性 、 否 定 的 感 情 を表 す 非建 設 的 記 述 の 場 合 は 否 定 的(一)と して 、 そ の 中 間 的 、 中性 的 、 ま た は分 類 不 明 の場 合 を 中 間 的(±)と した。 これ ら の結 果 を表 に ま とめ た ものが 第2表 で あ る。 第2表:情 緒 ・感情 ・感 覚の 方向性 と評 価 感 情 の 方 向 対 自 己 対 カ ウ ン セ ラ ー 対 場 面 計 頻 数% 頻 数% 頻 数% 頻 数% 感 情 の 評 価 十 22 109 00 1211 ± 44 33 33 109 一 2220 2725 3734 :.:1 計 2826 4037 4037 108100 (4)情 緒 ・感 情 ・感 覚 の 向 か う方 向 とそ の 評 価 との 関 係 を 図 に 表 した も の が 次 の 第1図 で あ る。 第1図:情 緒 ・感 情 ・感 覚の 方向 とその評価 との関係 40 0 30 20 10 0 対 自 己 対 カ ウ ンセ ラ ー 対 カ ウ ンセ リ ン グ場 面 一42一
カ ウ ン セ リ ン グの ロー ル プ レ イ ン グに お け る沈 黙 体 験 の一 考 察 〔1〕 感 情 の 方 向 性 は、 カ ウ ン セ ラ ー とカ ウ ン セ リン グ場 面 に 対 す る も のが 自 分 に対 す る よ り も多 く、 そ れ は 良 か れ 悪 しか れ 内 向性 よ り も外 向性 の傾 向 を示 した 。 評 価 的 に は 、 カ ウ ン セ ラー に対 し て は相 対 的 に言 え ば 自 己や カ ウ ン セ リン グ場 面 に 対 す る よ り も肯 定 度 は 高 い。 全 体 の 傾 向 は 、 自 己、 カ ウ ン セ ラー 、 カ ウ ンセ リン グ場 面 の い ず れ に対 して も強 い否 定 感 情 が示 さ れ て い るが 、 な か で もカ ウ ンセ リン グ場 面 に対 して 最 も著 し く、 ま た全 く 肯 定 的 感 情 が示 され て い な い の が特 徴 的 で あ る。 5.考 察 と討 議 以 上 の結 果 か ら次 の 様 な こ とが考 察 さ れ た 。 (1)情 緒 ・感 情 ・感 覚 とい っ た感 性 に 関 す る表 明 が 最 も多 く、 し か も否 定 的傾 向 が 示 さ れ た こ とは 、沈 黙 中 のnon-verbalcommunicationが 建 設 的 な展 開 を もた ら しに くい 関 係 を示 唆 す る。 そ の 否 定 的 な感 情 は 、 必 ず し も カ ウ ンセ ラー に の み 向 け られ ず 、 む し ろ カ ウ ンセ リン グ場 面 に よ り 多 く強 く向 けち れ て い る。3方 向 の 中 で は 、 カ ウ ンセ ラー に対 して 相 対 的 に好 意 的 な の は 、役 割 交 換 を意 識 した か らか も しれ な い し、 同 じ学 習 者 と して の 仲 間 意 識 が 相 手 に対 す る配 慮 と して 関 与 した の で は な い か と思 わ れ る。 (2)ロ ー ル プ レ イ ン グ に お け る沈 黙 時 の ク ラ イ エ ン トの 非 言語 的 コ ミュ ニ ケー シ ョン の体 験 内容 は 、 否 定 的 な傾 向 が 極 め て 強 か っ た とは い え、 反 面 、 少 数 とは い え 肯 定 的 な 体 験 を得 た例 も見 られ て い る。 否 定 的 な体 験 の 中 に は 、 そ の深 さ に お い て 心 理 的 次 元 か ら生 理 的 次 元 まで さ ま ざ ま な様 相 が 見 られ た 。 否 定 的 体 験 結 果 が 認 め ら れ た こ と自体 は、 直 ち に沈 黙 が 無 意
味 と結 論 づけ る よ りも前 に、 この よ うな ク ラ イ エ ン ト体 験 を そ の ま ま に カ ウ ンセ ラー が 共 有 し よ う とす るか 、 して い るか が 問 わ れ るべ きで あ る。 沈 黙 は た だ破 れ ば よい と い う もの で は な く、 カ ウ ン セ ラ ー が 沈 黙 中 の 内的 体 験 の 内容 、 深 さ に 応 じて 、 即 時 的 に 受 容 し反射 し明確 化 す るべ き時 空 間 と 考 え る。 (3)カ ウ ン セ ラー 役 が初 心 者 で あ っ たが 、 も し経 験 豊 か な ク ラ イ エ ン ト 中心 療 法 の 立 場 の カ ウ ンセ ラー で あ り、 基 本 的 に 沈 黙 を肯 定 的 に受 容 し、 ク ラ イ エ ン トに とっ て の 意 味 と価 値 を感 受 し よ う と努 力 し、 ま た可 能 な 人 で あれ ば 、 カ ウ ンセ ラー 自身 の 内的 感 受 性 も も っ と温 か く豊 か な もの と な る で あ ろ う と予 想 され る。 今 回 の 結 果 が い わ ば初 心 の カ ウ ン セ ラー の 態 度 の 反 映 と考 え れ ば 、 カ ウ ン セ リン グ の学 習 や 指 導 に示 唆 を与 え る も の で あ る。 (4)ク ラ イエ ン トは 、 自分 が 話 し た 内容 や それ に と も な う感 情 を、 い っ た い カ ウ ン セ ラー は どの よ うに どれ だ け正 確 に 受 け とめ て くれ た の か を知 りた が って お り、 また待 って い る。 と同 時 に ク ラ イ エ ン トは 、 そ の ため に 自分 か ら沈 黙 を破 る こ とが あ る が、 積 極 的 具 体 的 な意 思 表示 は な く、 カ ウ ン セ ラ ー に 依 存 した ま ま終 わ っ て い る。 そ こ で 、 カ ウ ン セ ラー の理 解 や 共 感 に疑 い や 不 信 を感 じ る と、 そ の責 任 を 自分 で 背 負 っ て し ま う記 述 も認 め られ る。 これ は カ ウ ン セ リン グ学 習 者 の ロー ル プ レ イ ン グ体 験 で あ って 、 臨 床 的 な カ ウ ン セ ラー ・ク ライ エ ン ト体 験 で は な か っ た とい う被 検 者 の 特 性 と、 カ ウ ン セ ラー役 と クラ イ エ ン ト役 の 両 者 の 学 習 の 場 が 共 通 して 互 換 性 が あ る とい う ロー ル プ レ イ ン グの 方 法 が も た ら した 結 果 に 関係 が あ る と 思 わ れ る。 (5)Porter,E.H.Jr.は 、 面 接 者 の5つ の 態 度 カ テ ゴ リー(評 価 的 ・調 査 的 ・支 持 的 ・分 析 的 ・共 感 的 理 解)を 発 表 し た が 、 これ ら の カ テ ゴ リー は 沈 黙 状 況 に 臨 む 態 度 に 限 定 して もそ の ま ま あて は め る こ とが で き る と考 II
カ ウ ン セ リ ン グの ロー ル プ レ イ ン グに お け る沈 黙体 験 の 一考 察 〔1〕 え ら れ た 。 6.今 後 の 課 題 (1)今 回 は ロー ル プ レ イ ン グ に お け る ク ラ イエ ン ト体 験 の 中 の感 情 的 側 面 の み 取 り上 げ た が 、 その ほ か に は どの よ うな側 面 が 見 られ るか 、 カ ウ ン セ ラー 及 び オ ブ ザ ー ヴ ァー と して の 内 的 体 験 は ど の よ うな もの か 、 に つ い て は被 検 者 数 の 問 題 と共 に今 後 に残 され た。 (2)実 際 の 臨 床 カ ウ ンセ リン グ場 面 の 沈 黙 で は 、 カ ウ ン セ ラー や ク ラ イ エ ン トは どの よ うな 内 的体 験 と意 味 を もつ の か の 問題 も見逃 す こ とは 出 来 な い 。 臨 床 カ ウ ン セ リン グの 場 合 は 、 沈 黙 が 特 に 深 い 意 味 を もつ 。 指 導 や 教 育 カ ウ ン セ リン グ に お い て は、目的 や 方 法 が 多少 異 な る部 分 が あ るの で、 カ ウ ンセ ラー に とっ て の 沈 黙 の意 味 も異 な っ て くるか も知 れ な い。 (3)「 沈 黙 」 と 「間 」 と を分 け て考 え る こ と も で き るが 、今 回 は沈 黙 の 長 さ を問 題 にせ ず 、 沈 黙 の 定 義 は ク ラ イエ ン トの 主 観 的判 断 と選 択 に委 ね た。 沈 黙 時 間 の 長 短 に よ って も体 験 の 内容 や 意 味 は異 な るで あ ろ う。 (4)今 回 は ロー ル プ レ イ ン グ体 験 に つ い て の 総 括 で あ っ た が 、 継 続 的 な カ ウ ンセ リン グで は 沈 黙 に も過 程 に よ る意 味 の 変 容 が 起 こ るで あ ろ う。 以 上 、 これ らに つ い て は今 後 に ゆず る。 参 考 文 献 1.飯 塚 銀 次,岸 田 博,清 水 幹 夫,増 田 実:体 験 的 応 答 と沈 黙(3),1976, 日本 応 用 心 理 学 会 第43回 大 会 論 文 集,慶 応 義 塾 大 学 2.飯 塚 銀 次,岸 田 博,清 水 幹 夫:カ ウ ンセ リン グ にお け る沈 黙,1977, 日本 相 談 学 会 第10回 大 会 論 文 集,p.41-42,日 本 女 子 大 学 3.飯 塚 銀 次,岸 田 博,清 水 幹 夫,常 間 地 ひ とみ:カ ウ ン セ リン グ に お け る沈 黙,1977,日 本 応 用 心 理 学 会 第44回 大 会 論 文 集,p.63,東 北 大 学
4.飯 塚 銀 次,岸 田 博,清 水 幹 夫,佐 藤 淑 子,広 井 法 子,常 間 地 ひ と み カ ウ ン セ リ ン グ に お け る 沈 黙 の 研 究,1978 日本 応 用 心 理 学 会 第45回 大 会 論 文 集,p.135-136,東 京 都 立 大 学 5.飯 塚 銀 次,岸 田 博,清 水 幹 夫,佐 藤 淑 子,広 井 法 子,常 間 地 ひ と み カ ウ ン セ リ ン グ に お け る 沈 黙 の 研 究,1978 日本 相 談 学 会 第11回 大 会 論 文 集,p.83-84 6.伊 東 博:新 訂 ・カ ウ ン セ リ ン グ,誠 信 書 房,1966 7.木 戸 幸 聖:面 接 入 門 一 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン の 精 神 医 学,創 元 社,1985, 4.沈 黙 と 間,p.90-96 8.岸 田 博,清 水 幹 夫:体 験 的 応 答 と 沈 黙,1975 日本 応 用 心 理 学 会 第42回 大 会 論 文 集,広 島 工 業 大 学 9.岸 田 博:体 験 的 応 答 の 効 果 に 関 す る 基 本 的 一 考 察,1976 相 談 学 研 究,Vo1.9,No..2,p.19-29 10.岸 田 博,清 水 幹 夫:体 験 的 応 答 と 沈 黙(2),1976 日本 相 談 学 会 第9回 大 会 論 文 集,p.4-5,愛 知 教 育 大 学 11.岸 田 博:来 談 者 中 心 カ ウ ン セ リ ン グ に お け る 沈 黙 の 基 礎 的 一 考 察 一 沈 黙 の 効 果 に つ い て 一,1979 相 談 学 研 究,Vol.12,No.2,p,62-73 12.国 分 康 孝:カ ウ ン セ リ ン グ の 技 法,誠 信 書 房,1979 13.Marjorie,F.Vargas:LauderThanWords‐AnIntroductionto ,NonverbalCommunication,(石 丸 正 訳 二非 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン,新 潮 社,新 潮 選 書,1987) 14.村 山 正 治,田 畑 治:来 談 者 中 心 療 法,福 村 出 版,1977 講 座 心 理 療 法1,1.精 神 分 裂 病 一 心 理 療 法 の 問 題 と方 法,p.161-15.Porter,E.H.Jr.二IntroductiontoTherapeuticCounseling. Houghton-Mifflin,1950 一46一
カ ウン セ リン グ の ロー ル プ レイ ン グに お け る 沈 黙体 験 の 一考 察 〔1〕 16.Robinson,F.P.:Principlesandproceduresinstudentcounceling; 1950,Harper&Brother(伊 東 博 訳:カ ウ ン セ リ ン グ の 原 理 と 方 法,誠 信 書 房,1957,p.124-126) 17.霜 山 徳 爾:心 理 療 法 に お け る 間(Pause)の 問 題,誠 信 書 房,臨 床 心 理 学 の 進 歩,1967年 版,日 本 臨 床 心 理 学 会 編p.204-209 18.田 畑 治:カ ウ ン セ リ ン グ 実 習 入 門,新 曜 社,1982 19.田 畑 治:心 理 治 療 関 係 に よ る 人 格 適 応 過 程 の 研 究,風 間 書 房,1978 20.Tindall,K.M.&Robinson,F.P.:-Theuseofsilenceasatechnique incounseling;J.clin.psychol.1947,3,p.136‐141 (沢 田 慶 輔 編:相 談 心 理 学,朝 倉 書 店,1962 4.そ の 他 の 一 般 的 技 術 「沈 黙 の 扱 い 方 」p.233-234) 21.Weiner,1.B.:PrinciplesofPsychotherapy.JohnWiley&Sons, Inc.1975(秋 谷 た つ 子 ・小 川 俊 樹 ・ 中 村 伸 一 訳:心 理 療 法 の 諸 原 則 上,星 和 書 店,1984,p.173-178)