摂食障害女子学生 の強迫症状 について

全文

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西 村優紀 美

Yukillnl Nishilnura:

Obsessive―Compulsive Symptoms Observed in a Student with Eating Disorder

< 索 引用語 : 摂食障害、強迫症状、強迫行為>

<Keywords:eating disorder,obsessive―compulsive symptom,obsessive―cOmpulsive behavior>

は しめ に

摂 食 障害 に多彩 な精神症状 の合併 が見 られ る こ とは古 くか ら指摘 されて い る。 と りわ け摂 食障害 を精神病理学 的 に強迫 障害 に類縁 な もの とす る学 説 は, 今 世 紀 前 半 に, P a l m e r & 」 O n e s 3 ) が提 唱 して 以 来 ,   多 くの 臨 床 医 の 支 持 を 集 め , R o t h e n b e r g   4 ) のよ う に 「西 欧 の 女 性 の 間 で , anorexia nervosaや bulillnia nervosaとして知]ら れ て い る状態像 の本質 は,現 代 の強迫性 障害 にほ か な らぬ」 と主張す る研究者 も存在す る。 しか し, 反 対 に摂 食障害患者 の強迫症状 は強迫性 障害患者 の そ れ と は性 質 が異 な る とい う見 解 も少 な くな ぃ 5 ) 。

筆者 は, 数 年 間, 摂 食 障害学生 A 子 と強迫性 障 害学 生 B 男 の カ ウセ リングを並行 して行 った体験 に基 いて, 後 者 の立場 を支持 したい。 以下, 摂 食 障害 A 子 の訴 え にみ られ る症状特性 を抽 出 して強 迫性 障害 B 男 の強迫症状 との違 いを明 らか に し, それ に伴 う治療上 の留意点 につ いて も言 及 したい と思 う。

症例  A 子 ,   文 系学部 ( 在籍 6 年 )

家族 は, 両 親, 弟 ( 4 歳 下) , 祖 父母の 6 人 家族。

A 子 は, 小 学生 の頃か ら優等生 で,高 校 まで成績 は常 に トップだ った。周囲か らは期待 され,A子 もそれを 裏切 らず, 成 績を維持す るために, 家 では時間割を作 っ て勉強時間 を確保 した。映画や ファッション,テ レビ ドラマな どの話 には興味が な く,そ のために友人 との 雑談 に も参加 で きなか った。高校時代か ら人 との付 き 合 いが苦手 で, 勉 強 に専念す ることで対人関係 の不安 を打 ち消 して いた。 自分 の考 えを表現 す ることが苦手 で, 本 学 を受験 した動機 も,受 験科 目に小論文がなか っ たか らだ とい う。

大学 に入学後, A 子 は大学生活 を楽 しみたいと思 っ た。勉強 は もちろん,サ ークル (運動部)や アルバイ ト,   コ ンパ に積極的 に参加 して交遊関係 を広げようと し, 英 会話教室 に も通 った。一般教養 を身 につ けよ う と, 読 書や映画,フ ァッションの探究 も怠 らなか った。

一 人暮 らしも完璧 にや り,親 か ら自立 した生活を目指 して頑張 って いた。

1 回 生の夏, A 子 は男子学生か ら交際を申 し込 まれ, 以前か ら劣等感 を持 っていた腹部 の膨 らみを とりたい と思 い,   ダイェ ッ トを始 めた。 食事 は,朝 食 を家族 と 同 じものを食 べ, 昼 食 を抜 き, 夜 はバ イ ト先 でおに ぎ りを半 分 とい うものだ った。 1か 月 で 4 kg減量 し, そ の後 も減 りつづ けて 3 か 月後 には10kg減量 した。

身長 1 5 2 c m で体重 が4 6 k g から3 6 k g にな り,生 理 も無 く な った。後期 の授業が始 ま った10月には,臀 部 の肉が 落 ちて, 授 業 中椅子 に座 って い られな くな り,ま た,

著者所属 :富 山大学保健管理セ ンター,The Department of Health Services,TOyama University

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就寝 時 には, 腰 部 の骨 が布団 に擦れて痛 くな った。以 後, 身 体 に良 い ものを食べ よ うと思 い, 食 事 内容 に気 を使 うよ うにな った。 ひ じきの煮物やゆで野菜,納 豆, 冷 や奴 な ど, 身 体 に良 い ものを作 って, 三 食 しっか り 食べ るよ うに した。 ところが, 適 量 がわか らず,   ダイ エ ッ ト中 に比べ るととて もた くさん食べて いるよ うな 気 が して, 太 る恐怖 を感 じた。 医師や親 は, 量 的 には 過 食で はない とい うが, 自 分 の空腹感, 満 腹感 に応 じ た食事 の量 がわか らず, い つ もた くさん食べて しま っ たよ うな罪悪感 におそわれて いた。

2 回 生 の 4 月 , A 子 は保健管理 セ ンターを受診 し, 過食 につ いての不安 を訴 え た。孤独感, 焦 燥感 で, 授 業 に出席 す る こと もで きず, 混 乱 した状態 が続 き, 食 事 を 自己管理 す ることもで きな くな ったため, 実 家 に 帰 る ことにな った。 休学 して 自宅静養 す るが, 翌 年 1 月 に食事 の コ ン トロールがで きな くな り, 体 重 が6 0 k g にな ったため, 心 療 内科 に入院 した。 3月 下旬 に退院 して,   4 月 か ら大学 に復学す るために富山 に来 るが, 2 日 目で状態が悪化 し, 再 入院す る。 5 か 月間の入院 生 活 で6 0 k g の体重 が 1 0 k g 減少 す る。 入院 中 は, 食 事 の管理を して もらえ るので,気 分的に楽だ ったとい う。

退院後 は, 自 宅 か らアルバ イ トに通 い, 一 週間 に一 回 の割合 で過食 しなが らも,   3 回 生 の 3 月 下旬 まで続 けて いた。 4 回 生 の 4 月 に復学 し, 月 一回の心療 内科 通 院 で抗 うつ剤 を服薬 しなが ら, 保 健管理 セ ンターで 週一 回 の心理療法 を受 け,   2 年 半, 大 学生活 を送 るこ とがで きた。卒業 に必要 な単位 はそろい, あ とは卒論 だ けとな って いる。

A 子 の 強 迫 的観 念 及 び行 為 は次 の よ うな もの で あ る。

( 1 ) 日程 が 決 ま って い る。 た とえ ば朝 食 を 8 時 に食 べ る と決 めた ら, 7時 15分に食 べ られ る状態 にな っ て も, 食 べ られ な い。 噛 む 回 数 も3 0 回 と決 め て い る。 それ以 外 の変 更 は で きな い。 ( 2 ) 無駄 な時 間 が も った い な い。 調 理 を しなが ら, 煮 炊 きを して い る あ い だ が も った い な くて, 腹 筋 を す る。 通 学 の バ ス の なか で は,寸 暇 を惜 しん で 自分 の ため に な る本 を読 む。 暢) 政治 や経 済 な ど, 世 の 中 の こ とは 何 で もよ く知 って お か な くて は い け な い と思 う。

フ ァ ッ シ ョ ン関 係 や ス ポ ー ツな ど も,他 の人 と対 等 に し ゃべ られ る よ うに な らな けれ ば い け な い。

に)授業 の予 習 をや っておか な い と心配 で い られ な い。(5)洋服 の コーデ ィネー トがで きない。毎 日大 学 に着 て い く服 が決 ま らず, 2時 間 ぐらい悩 む。

(61行動 が決 ま って いて,そ れが崩 せ な い。途 中で 電 話 がかか る と一連 の行動 の流 れが止 ま って しま うので,留 守電 に して い る。 (η生 活 のすべて に対 して百パ ーセ ン ト前 向 きな気持 ちで取 り組 めない と,気 分 が沈 ん で全部 の ことをや めて しま う。(3 健康的 な生活 に とらわれす ぎて いる。料理 や掃除, 洗 濯,洗 顔 な どに非常 に気 を使 い,手 を抜 くこと が で きな くな って い る。

この よ うに彼女 の生活 ぶ りには,完 全主義,融 通 の きか な さ,仕 事 や勉強への過度 の献身が あ り, また外 出時 に身 につ け る ものや買 い物 を選 ぶ とき 容易 に決断で きない とい う優柔不断 さがみ られた。

食事 に関す る強迫観念及 び行為 は,次 の よ うな もので あ る。

(a)食べ る量 を抑 え よ うと してい る。 た とえば夜 に,

「肉 じゃが, ご 飯,お 茶」 とい うメニ ューにす る と, も う一 品必要 だ と思 うが,デ ザ ー トに 「ヨー グル ト」 を食 べ たいので, これ以上増 やせ ない。

lb)カロ リーの低 い食 べ物 を探 して い る。 料理 の本 を見 なが らカ ロ リーを抑 え た食事 をつ くって いる。

(0食事 に気 を使 いす ぎて疲 れ る。特 に旅行 に出か け る と,観 光 す るよ りも食事 の ことが気 にな り, 気 が沈 む。 お い しい もの を食 べ た い と思 うが,い ざ食 べ るときにな ると,カ ロ リー計算 が で きない ので, どれだ け食 べ て いいのかわか らない。(d)時 間 が余 る と,ど う して よ いか わか らな い。 何 か を

しな くて はい けない と思 うの に,気 持 ちばか りが 先 に立 ち,結 局,食 べて しま う。惨)イライ ラ して, 食べ た くな る。か っぱえびせんやか りん とう, ピー ナ ッツな ど量 の多 い ものを,何 度 も口に運 びなが ら食べ るとい う行為 を したい。 食 べ て い るあ いだ は楽 しくないが,終 わ りそ うにな る と寂 しい と思 う。

A 子 の食事 は, 低 カ ロ リーの メニ ューで あ り, 実 際 に量 的 にか な り少 な い。 しか も, 間 食 はい っ

さい しな い とい うス トイ ックな食生活 を 自分 に課 して い る。 A 子 には, 食 べ たい ものを食べ るとか,

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「今 日 は ち ょ つ と食 べ す ぎ た か ら, 明 日 は少 な め に して お こ う。」 と い うよ うな融 通 性 が な く,   自 分 自身 の 決 め た ルー ル を頑 に守 ろ うとす るので あ

る。

症例   B 男 ,   理 系学部 ( 在籍 4 年 )

B 男 は現在, 母 , 弟 ( 2 歳 下) の 二人家族。 父 は本 人が大学 2 年 の ときに蒸発 し, そ の後両親 は離婚 して い る。現在,母 は別 の男性 と同棲 して いる。弟 は,母 の実家 の近 くの大学 に入学 し, 別 に暮 らしている。本 人 の学費 は祖母が出 してお り, そ の管理 は, 叔 父 ( 父 の弟) が している。母 は, 情 緒不安定気味で精神科 の 受診歴がある。弟 は小児糖尿病で, 食 事療法 とイ ンシュ

リンの投薬 による治療 を長年続 けてい る。

B 男 は, 小 学校 の ころか ら成績優秀 で, 祖 父母 や両 親 か ら期待 されて いた。家族 は, 弟 にはま った く期待 をか けず, 本 人 との待遇 の違 いは明 らかであ った。母 親 か ら, 「 あなた には, 他 人 に はな い能 力 が あ る」 と 言 われて いた。 3 年 生 か ら目の チ ック症状 が あ り, 忘 れ物 を しないよ うに何度 もラ ン ドセルを開 けて確認す る癖があ った。

私立 の有名 中学校 に合格 し, 家 族 の期待 はい っそ う 増 した。 しか し, 入 学後思 うよ うな成績 を取 る ことが で きず, 首 を振 るチ ック症状 が出 るよ うにな った。 ま た, 通 学途中に後 ろを振 り返 る癖が出て きた。 これは, 現在 も続 いて い る。 その後 も成績 はの びないまま高校 を卒業 し, 予 備校 に通 った。 この ころ, 強 迫症状 のた めに精神科 に通院 し, 投 薬 を受 けている。母親 は, 本 人 の小学校時代 の栄光 に こだわ ってお り, 「あなたに は, 勉 強 しかない。大学院 までい って, 研 究者 にな る よ うに。」 と期待 をか けている。

大学 に入 って 1 年 間 は, 強 迫症状 が あ りなが らも, 大学生活 を順調 に送 る ことが で きた。 しか し,   2 回 生 の初 めに父親 が失踪 し, 母 親 が情緒不安定 にな り,   B 男 にその不安 を向 けた。 B 男 もその影響 を受 け, 不 安 定 にな り授業 を受 ける ことがで きず, 強 迫症状 も増 し たため, 保 健管理 セ ンターを受診 した。 その後 は, 病 院 で投薬 を うけ, 保 健管理 セ ンターで は大学生活 や家 族 に対 す る不安, 強 迫症状 につ いての相談 を続 けて い

る。

B 男 の 強 迫 症 状 は, 次 の よ うな もの で あ る。

( 1 ) 煙草 の本数が気 にな る。 た とえば, 「 4 本 吸 っ た。縁起が悪 い。」 とか, 「 1 3 本 残 った。縁起が

悪 い。」 とい うよ うに,吸 った数 ,残 った数 に こ だわ る。(2)何か落 と したので はないか とい う強迫 観 念 が常 にあ り,道 路 で は歩 いて いて も,自 転 車 に乗 って いて も,何 度 も振 り返 る。 また,教 室 や 図書 館 で座 ったあ と,何 か忘 れて い な いか確認 す る。G)得体 の知 れ ない ものを踏 ん だので はないか と不安 にな り,振 り返 って確認 す る。に)習慣 で動 いてい ることに確信 が ないので,確 認 して しま う。

家 の鍵 を 2〜 3回 か けなおす。火が気 にな るので, ガスの元栓 や煙草 の火 を何度 も確認 す る。(励使 い 込 ん だ もの を捨 て る と きに,何 度 も言 い聞 かせ な い と捨 て られ な い。 ものを落 と したよ うに思 うの も,自 分 に とって大切 な もの,将 来大切 にな る も のが,手 か ら離 れて い く感 じが あ り,探 して しま う。(6)一つ の失敗が大変 な ことにな るん じゃない か と思 う。 常識 が覆 されて しま う感 じがす る。 た とえ ば,「無」 とい うことに確信が持 て ないので, 何度 も 「無 い」 ことを確 か め る。 (ηドアの ノ ブに 爪 が あ た った とか, ト イ レで失敗 した とかが気 に な る。 スイ ッチを入 れ る とき,力 の加減 を考 えて ゆ っ くり押 す。 すべ て に慎重 にな って い る。 まる で他人 の家 の ものに触 るときのよ うに。(8)本のペー ジをめ くるたびに,大 事 な ものが挟 ま って い るの で はな いか と気 にな って,前 のペ ー ジを見直 して しま う。 Ю)煙草 を吸 うと きに,「 最 後 の一 本」 と お ま じないを い う。 それ を吸 ったあ とに,約 束 を

1回 破 るため に, も う一 本吸 う。

強迫観 念 や強迫症状 そ の もの に対 す る B男 の気 持 ち はつ ぎの よ うな もので あ る。

lal気持 ちが とげ とげ しくな る。些細 な こと,全 て の ことが気 にな る。 日に入 る ものがすべて気 にな り,そ のあ と,後 ろを振 り返 る癖 が頻繁 にな る。

(b)強迫症状 は,そ の ことで 自分が イ ライ ラす る し, ばか ばか しく無駄 が多 い とわか って い る。 本 当 は もっとで きるの に,症 状 のせ いで これだ け しかで きない と思 う。(C)良くない ことが あ る と,軽 く受 け流 せず に,強 い ダメー ジが 自分 に迫 って くる。

「ああすれば よか った。」 と後悔 ばか りが頭 に浮 か ぶ。(d)考えて も仕方 ない ことを考 えつづ け る。 そ して,や っぱ り考 えて も仕方 なか っただ ろ うと考

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え る。 そ こで 自分 に言 い聞かせ たい ことを紙 に書 き留 め る。 その事 に集 中 して, 何 枚 も書 いて しま い, 眠 れ な くな る。l e にだわ りを打 ち消す ために, 代償 行為 をす る。 た とえ ば, ガ スの元栓 が気 にな る と き, 指 先 を細 か く動 かす行為 をす る ことで ま ぎ らわす。 強迫 行為 につ いて は, 「 した くな い け ど,   して しま う。誰 もこん な ことは して いない。」

「いい方口減 に しろ」 とい う感 じがす る。 つ らい。

考   察

過食症 ・無食欲症 を問 わず, 摂 食 障害 の患者 が, 強迫 的 な心 理 傾 向 を もつ ことは広 く認 め られ て い る。 Leyton Obsessional lnventory (LIO) な どの定 量 的 な評 価 尺 度 を用 い た対 照 研 究 で も, S m a r t ( 1 9 7 6 ) 5 ) な ど多 くの研 究 者 が この こ とを 証 明 して い る。 A 子 にみ られ る完 全主 義 , 融 通 の きか な さ, 勉 学 へ の過度 の打 ち込 み, 極 度 の優柔 不 断 とい った性格 の特徴 も, 強 迫 障害者 の示 す強 迫 的 な認知 , 思 考, 行 動 の表現 形 態 に極 めて よ く 似 て い る もので あ る。 したが って A 子 が強迫 的 な 性格 傾 向, つ ま り強迫 パー ソナ リテ ィの持 ち主 で あ り, 少 な くと もA 子 の摂 食障害 が, 強 迫性 を基 盤 と して生 じた病 的表現形 態 で あ る ことに疑 いの 余地 はな い。

しか しA 子 の訴 え る症状 と, 強 迫性 障害患者 に み られ る強迫観念 や強迫 行為 とい った, 特 異 な精 神症 状 との間 に は明 らか な, 時 に は正 反対 といえ るよ うな違 いが観察 され る。 この点 に関 して は, 客 観 的 な 評 価 尺 度 を 用 い た 対 照 研 究 を 行 っ た F a h y l ) も 同様 な結 論 を得 て い るの で あ るが, 以 下 , A 子 の訴 え にそ つて,具 体 的 に検証 して い き た い。

A 子 が ダイエ ッ トを始 め たの は, 男 子 学生 か ら 交 際 を申 し込 まれ た時 か らで あ る。 A 子 はか ねが ね腹部 が膨 れて い る ことを気 に して いたので あ っ たが,異 性 を意識 した ことが 引 き金 にな って ダイ ェ ッ トを始 めたのであ る。 したが って,A子 にとっ て体型 や食物 へ の こだわ りは,消 極 的 で はあ るが

「完 全癖 」 や 「物 事 へ の過 度 の打 ち込 み」 とい う

彼女 の性 格 傾 向 の反 映 で あ り, しか もその 目標 は

「美 し くあ りた い」 とい う誰 もが共 感 で きる内容 であ った。他方,強 迫性障害 の B男 は 「煙草 を吸 っ た ら13本残 って しま った。 縁起 が悪 い, と我 なが

らばか ばか しい無駄 な考 え に こだわ って しま う」

と言 う。 反復 的かつ持続 的 な観念,思 考,衝 動 に と らわれて い る点 で,見 か け上,両 者 は同 じで あ る。 しか し, B男 の観念 が あたか も自己を貶 め る か の よ うに侵害 的で無意 味 と認識 され るの に対 し て,A子 の それ は彼女 に と って侵害 的 ど ころか心 底 か ら望 ま しい考 えで あ り,内 容 的 に も十 分意 味 の あ る もので あ る。

また, B男 は 「考 えて も仕方 が ない ことを考 え て しま う。 そ こで 自分 に言 い聞 かせ たい ことを書 き留 め るが,そ れ に集 中 して何枚 も書 き,眠 れ な くな る」 とい う。 つ ま り, 自分 の考 え や衝動 を無 視 また は抑 圧 しよ うと試 み るので あ る。 これ に対 して A子 の場 合 は,「 考 え る ことはす べ て大 切 な 守 るべ き価 値 の あ る こ とが らで あ る。 例 え ば,摂 食 の問題 以 外 に も,30回 咀 唱 す る と身 体 に良 い と 聞 いたので実 行 し,無 駄 な時 間 が もった いな いか ら,食 事 を作 りなが ら腹筋運動 をす る。 大学 生活 を楽 しまな くて はい けな い と思 い,学 業 ・部活

コ ンパ ・バ イ ト ・英 会話 ・お しゃれ ・ボーイ フ レ ン ドを作 るな ど,す べてを完璧 に こなそ うとす る」

が, こ う した考 えを実践 す るため に全力 を あげて 努 力 をす る。 その ため に疲 れ た り,達 成 で きな く て落胆 した りす る ことはあ つて も,そ れ を無視 し た り抑圧 した りな どす る気 は微塵 もないので あ る。

さ らに, B男 は 「ガスの元栓 が気 にな る とき, 指 先 を細 か く動 かす行 為 で不安 を中和 す る」 とい

う。 つ ま り,強 迫行為 が,恐 ろ しく不吉 な予感 を もた らす強迫観念 を中和 す るか予 防 す るため に行 わ れ るが,そ の効果 は非現実 的 0呪 術 的 な意 味合 い しか もたな いので あ る。 これ に対 して,A子 訴 え る 「過 食」 は,一 見,抗 しが た く押 し寄 せ て くる強迫 的衝動 に似 て い るが,そ れ をす る ことで 恐 ろ し く不吉 な予感 を予 防 した り,中 和 した りす るため に行 うもので はな い。 それ ばか りか,過 食 をす る ことで体重増加 とい う恐 れが現実 の もの に

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な って しま うわ けで あ る。

そ して,強 迫行 為 を行 って い る最 中 には, B男 が激 しい 自己嫌悪 に陥 って い るの に反 して,過 食 を して い る最 中のA子 は 「幸福感 に満 たされ,ず っ と この ままの状態 が続 けば いい とさえ思 う」 と言 う。 もっと も,過 食後 に はひ ど く後悔 す る ことに な るので あ るが。

以上 を要約 す る と,摂 食障害 と強迫性 障害 は,

「強迫 的人 格特 性 」 を共 有 す るが,摂 食 障害 に見 られ る臨床症状 は強迫性 障害 のそれ とは異 な る と い うことがで きよ う。強迫性 障害者 の強迫観念 は, 考 えが 自分 に迫 って くるよ うな感 じ,つ ま り誰 か (自分 が考 え 出 した もの で はあ るが,あ たか も神 か悪魔 の よ うな何 か得体 の知 れ ない もの)が 自分 の耳 に囁 きか けて くるよ うな感 じがあ る。 そ して, それ は 自分 自身 と して もナ ンセ ンスで,ば か ばか しい と思 い,他 人 に 自分 の強迫観念 を知 られ た く な い と思 うので あ る。 しか しなが ら,ば か ばか し い とわか って い るが, ど う しよ う もな く強 く迫 っ て くる考 え (強迫観念)に ,従 わ ぎ るをえ ない と い う二重 の縛 りに苦 しんで い るので あ る。

一 方,摂 食障害者 の強迫観念 は,考 え と自分 自 身 とは一 致 して い る。 強 く迫 って くる考 え は, 自 分 と して違和 感 が な い し,内 容 的 に も非常 に道徳 的 で高度 な 自我状 態 で あ る とい う自負心 が あ る。

また,考 え で 自分 自身 を縛 る こと,つ ま り,制 縛 的 で あれ ば あ るほ ど満足感 が え られ る。 自分 の考 え は,社 会 的価値観 と整合性 が あ り,誰 もこの考 え に異議 を唱 え る もの はいな い と確信 して い る。

この普遍 的 に正 しい考 え に 自分 の行動 を合 わせ る ことが,摂 食障害者 の強迫観 念及 び行為 であ ると す れ ば,明 らか に前述 の強迫性 障害者 の強迫観念 及 び行為 とは,性 質 を異 に して い る。 つ ま り,摂 食 障害者 の強迫観 念及 び行為 は,制 縛 的観念 及 び 行為 と言 いあ らわ した ほ うが よ り的確 で あ る と考 え られ る。

浜 垣2 ) は

, 強 迫 性 障 害 の 強 迫 症 状 は 「自我 異 和 的 」 で あ る の に対 して , 摂 食 障 害 の症 状 は 「自我 親 和 的 」 で あ る と い う。 筆 者 も上 に述 べ た点 で 同 様 の 印 象 を 持 って い るが , 「 自我 親 和 的 」 と され る 「自我 」 自体 の あ りよ うにつ いて あ らた め て考 え て み る と, 次 の よ うな こ とが い え るの で は な い だ ろ うか。 A 子 に は, 道 徳 的 ・倫 理 的 な 自分 と, 欲 求 に従 って 自 由 に振 る ま い た い 自分 との葛 藤 が ま った く見 られ な い。 つ ま り, 自 我 の二 重 構 造 の 中 で道 徳 的 ・倫 理 的 自己が 強 くあ らわ れ,   も う一 方 の考 え を抑 制 して 「自分 」 を表 す の で は な く, 道 徳 的 ・倫 理 的 な価 値 観 が そ の ま ま 「自分 」 と し て の 唯 一 無 二 の 存 在 の 仕 方 で あ り,   そ の 意 味 で

「自我 親 和 的 」 な の で あ る。 軽 快 して い く経 過 の 中 で , A 子 が , 「二 人 の A 子 が 葛 藤 して い る。」 と 表 現 し, 「 私 に は選 択 の 自 由 が あ る。 二 つ の考 え が あ って , ど ち らか一 つ で な けれ ば な らな い とい う こ と は な い」 と表 現 で き るよ うに な った。 対 立 す る考 え が 自分 の 中 に あ り, 双 方 の折 り合 い をつ け な が ら現 実 生 活 を歩 も う と して い る今 が , 本 来 の意 味 で の 「自我 親 和 的」 な心 性 の始 ま りで はな い か と考 え る。

文   献

1)Fahy,T.:Obsessive― compulsive symptoms in eating disorders.Beha Res Ther,29:113‑116,1991.

2 ) 浜 垣誠司 : 過 食の精神病理 に関す る一考察 ―強迫 と解離 の弁証法 ―. 精 神経誌, 9 7 : 1 ‑ 3 0 , 1 9 9 5 。 3)Palmer,H.D。,」ones,M.S.:Anorexia NervOsa as a

Manifestation of Compulsive Neurosis:A Study Of PsychOgenic Factors. Arch.Neurol.Psychiatry, 41:

856‑858, 1939。

4)Rothenberg,A.:Eating Disorder as a MOdern Obsessive Syndrome.Psychiatry,49:45‑53,1986.

5)Smart,D.E.,BeumOnt,P.」 .V.,GoOrge,G.C.W.:SOme Personality Characteristics of Patients with Anorexia NervOsa.Br」 Psychiatry, 128:57‑60, 1976.

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