︿論
説﹀
条 例 の 違 憲 審 査
渋 谷 秀 樹
一 は じ め に︱
︱分 析の 視角 二
﹁地 方自 治の 本旨
﹂と 条例 論 三 憲法 と条 例の 関係 四 条例 と法 の下 の平 等 五 条例 によ る財 産権 の規 制 六 条例 によ る表 現行 為の 規制 七 結び にか えて
︱︱ 残さ れた 問題 一
は じ め に︱
︱分 析の 視角 憲法 九四 条は
、﹁ 地方 公共 団体 は、 その 財産 を管 理し
、事 務を 処理 し、 及び 行政 を執 行す る権 能を 有し
、法 律の 範囲 内で 条例 を制 定す るこ とが でき る﹂ と規 定す る。 この 規定 は、 大日 本帝 国憲 法︵ 以下
、明 治憲 法と もい う︶ にお いて は法 律に よっ て府 県お よび 市町 村に 認め られ てい た
( )
権能 を憲 法上 の権 能と する もの であ った
。そ して
、明 治憲
法下 にお いて も、 条例 制定 権は
、一 八八 八年
、町 村会 に、 また 一九 二九 年、 府県 会に 認め られ たが
、現 行憲 法九 四
条に よっ て初 めて 憲法 上の 権能 たる 地位 を獲 得し たの で
( )
ある
。
しか し、 この よう な憲 法上 の根 拠と 民主 的正 統性 をも つ条 例で あっ ても
、憲 法に 違反 して いる 条例 は無 効と
( )
なる
。そ して
、こ れま でに も条 例に 対す る違 憲審 査に つい ての 判例 が、 憲法 訴訟 論の 領域 にお いて
、重 要な 位置 を 占
めて きて いる
。と ころ が、 例え ば、
﹁刑 事立 法の ラッ シュ とで もい える 状況
﹂が
、近 時多 くの 地方 自治 体に おい て目 立ち つつ ある とい う指 摘が
( )
ある よう に、 条例 の制 定や 改正 の話 題が
、新 聞の 紙面 等を しば しば にぎ わし てい る
状況 にあ る。 憲法 問題 をは らむ 条例 とし ては
、二
〇一
〇年 のア ニメ や漫 画を 新た に規 制対 象と する
﹁東 京都 青少 年 の健 全な 育成 に関 する 条例
﹂の 改正
、二
〇一 一年 の﹁ 東京 都暴 力団 排除 条例
﹂、
﹁大 阪府 の施 設に おけ る国 旗の 掲揚 及び 教職 員の 国歌 の斉 唱に 関す る条 例﹂
、﹁ 京都 府児 童ポ ルノ の規 制に 関す る条 例﹂ の制 定な どが
( )
ある
。こ れら の条
例も いず れは 何ら かの かた ちで 裁判 所の 違憲 審査 の対 象と なる こと は必 定で ある
。し かし
、こ れら 個別 の条 例に あ る憲 法問 題を 指摘 する 前に
、憲 法の 定め る地 方自 治の 趣旨 を確 認し
、そ の上 で、 従来 の条 例に 対す る最 高裁 の違 憲 審査 のあ り方 を振 り返 り、 今後 のあ るべ き姿 を考 察す る足 がか りを 示し
( )
たい
。
︵
︶た だし
、明 治憲 法下 の府 県・ 市町 村は 基本 的に 事業 団体 であ り、 行政 事務 につ いて も国 の法 令に よっ て定 める こと が多 かっ たの に対 して
、 現行 憲法 によ って より 一般 的に
﹁行 政を 執行 する
﹂と され たこ とが 重要 であ るが
、こ れは 本稿 の考 察対 象で はな い。
︵
︶明 治維 新か ら現 在に 至る まで の地 方統 治の 略史 につ いて は、 渋谷 秀樹
﹁︹ 第 章︺ 地方 自治
﹂芹 沢斉
=市 川正 人
=阪 口正 二郎 編﹃ 新基 本法 コ ンメ ンタ ール
・憲 法﹄ 四七 二~ 四七 七頁
︵二
〇一 一年
、日 本評 論社
︶︵ 以下
、﹁ 渋谷
・コ ンメ ンタ ール
﹂と して 引用
︶参 照。
︵
︶違 憲の 法令 を無 効と する 憲法 九八 条一 項お よび 裁判 所の 違憲 審査 権を 定め る憲 法八 一条 には
﹁条 例﹂ の文 言が ない ので
、こ れら 二ヶ 条と 条 例と の関 係が 一応 問題 とな る。 しか し、 九八 条一 項は
、す べて の政 府機 関の 行為 の国 内法 的効 力が 憲法 に違 反し ては なら ず、 仮に 違反 して いた ら無 効と なる とい う﹁ 憲法 の支 配﹂ の原 則を 明言 する もの であ り、 憲法 八一 条も
、す べて の政 府機 関の 行為 の合 憲性 の最 終的 判定 権が 最高 裁判 所に ある とい う違 憲審 査の 主体 を定 める もの であ るか ら、 地方 公共 団体 の制 定す る条 例も 当然 にこ れら 二ヶ 条に 含ま れて いる とい う理 解に 対す る異 説は ない
。
︵
︶刑 事法 から のこ のよ うな 問題 意識 につ いて は、 深町 晋也
﹁路 上喫 煙条 例・ ポイ 捨て 禁止 条例 と刑 罰論
﹂立 教法 学七 九号 五七 頁︵ 二〇 一〇 年︶ 参照
。
︵
︶そ の他 に、 二〇 一一 年に 制定 され た﹁ 福岡 市建 築紛 争の 予防 と調 整に 関す る条 例﹂
、東 京都
﹁北 区集 合住 宅の 建築 及び 管理 に関 する 条例
﹂な どの ほか に、 千葉 県・ 兵庫 県が 制定 を検 討し てい ると 伝え られ る受 動喫 煙防 止条 例な ど枚 挙に 暇が ない
。な お、 この よう な近 時制 定・ 改正 さ れ、 また は制 定・ 改正 の予 定さ れて いる 条例 以外 の、 これ まで に制 定さ れ施 行さ れて いる 条例 にお いて も重 要な 憲法 問題 が含 まれ てい るも のが 多数 に上 るこ とは いう まで もな い。
︵
︶条 例論 を考 察す る際 に欠 かせ ない のは
、﹁ 地方 自治 権の 根拠
﹂の 問題 であ る。 なぜ なら
、そ の根 拠を いか に考 える かに よっ て、 条例 制定 権の 制度 的根 拠に つい ても 変動 が生 じ、 それ に連 動し て条 例制 定権 の範 囲あ るい は限 界も 変動 して いく 可能 性が ある から であ る。 しか し、 複雑 なマ トリ ック スを 要す るこ の課 題に つい ては 将来 の課 題と して おき たい
。な お、 地方 自治 権の 根拠 につ いて は、 渋谷
・コ ンメ ンタ ール 四七 七~ 四七 九頁 参照
二 。
﹁地 方自 治の 本旨
﹂と 条例 論 現行 憲法 によ って 認め られ た条 例制 定権 に関 連す る問 題を 考え るに あた って
、指 導原 理に なる のは
、﹁ 地方 自治 の本 旨﹂
︵
= t h e p r i n c i p l e o f l o c a l a u t o n o m y
︶ であ る。 憲法 第八 章全 体を 指導 する 条項 とし てお かれ た九 二条 は、﹁地 方公 共団 体の 組織 及び 運営 に関 する 事項 は、 地方 自治 の本 旨に 基い て、 法律 でこ れを 定め る﹂ とし てい るか らで あ る。 この よう に法 律に よっ て定 めら れる こと とさ れる
﹁地 方公 共団 体の 組織 及び 運営 に関 する 事項
﹂に つい ても
、
﹁地 方自 治の 本旨
﹂と いう 留保 が付 され てい る。
ઃ
﹁地 方自 治の 本旨
﹂の 意味
﹁地 方自 治の 本旨
﹂と いう 原理 を構 成す る要 素は
、従 来、 団体 自治 と住 民自 治の 二つ であ ると 説明 され てき た。 しか し、 この よう な説 明に は、 両要 素の 後半 に共 通す る﹁ 自治
﹂の 中身 の説 明が なく
、ま た前 半に それ ぞれ ある
﹁団 体﹂ と﹁ 住民
﹂に 対等 の価 値が 付与 され てい るの で、 地方 分権 をさ らに 押し 進め てい こう とす る現 在の 日本 に おい て地 方自 治を 論じ る上 でも はや ふさ わし く
( )
ない
。ま た団 体自 治が 手段 であ り、 住民 自治 が目 的で ある と位 置づ
けて も、 自治 の結 果何 がも たら され るか が重 要で ある ので
、こ のよ うな 位置 づけ は団 体自 治と 住民 自治 の間 に主 従 の関 係を つけ たこ とに はな らな い。 出発 点は
、地 方公 共団 体が 国と いう 統治 団体 の中 に包 摂さ れる 団体 であ り、 そ の統 治権 を行 使す るの が地 方政 府で ある とい う位 置づ けか ら始 めな けれ ばな らな い。 そう する と、 地方 政府 も中 央
( )
政府 も統 治権 をも つ政 府で ある 点で は同 じで ある とい うこ とか ら出 発す べき で、 そ
の明 らか な相 違は
、統 治権 の及 ぶ範 囲の 広狭
、つ まり 全国 に及 ぶか
、そ れと も地 方に 止ま るか とい う点 に
( )
ある
。こ
の観 点か らす ると
、従 来団 体自 治と 呼ば れて きた もの は地 方政 府の もつ 地方 統治 権に
、住 民自 治と 呼ば れて きた も のは 住民 のも つ地 方参 政権 と呼 びか える べき では ない か。 そし て、 地方 政府 のも つ地 方統 治権 の他 の政 府に 対す る 独立 性に つい ては
、主 権の 概念 と類 比さ せて
、統 治団 体︵ 政府
︶の もつ 一国 内に おけ る対 外的 独立 性に なぞ らえ る べき であ り、 また その 固有 事務 につ いて は他 の政 府の 行為 に対 する 優位 性を 意味 する 地域 内最 高性 とと らえ るべ き では な
( )
いか
。こ のよ うな 考え 方か らす ると
、﹁ 地方 自治 の本 旨﹂ は、 地方 統治 権、 地方 参政 権、 対中 央政 府独 立性
、
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地域 内最 高性 の四 つの 概念 によ って 把握 され るこ とに なる
。
憲法 と条 例に 関す る諸 問題 憲法 九四 条に よっ て、 条例 制定 権が 地方 公共 団体 に認 めら れた ので ある が、
﹁条 例﹂ とい う文 言が
、憲 法に はこ の条 項以 外に はま った く登 場し ない
。こ の事 情の 背景 には
、推 測す るに
、日 本国 憲法 の制 定が 形式 的に は大 日本 帝 国憲 法の 改正 とし て行 われ たと いう こと があ り、 その ゆえ に、 第八 章以 外の 各条 項の 制定 過程 にお いて
、条 例の こ とが まっ たく 念頭 に置 かれ なか った こと によ ると して
、そ の実 質的 理由 を説 明で きる ので はな
( )
いか
。し かし
、仮 に
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その よう な事 情が あっ たに せよ
、地 方公 共団 体が 現実 に条 例を 制定 する 以上
、憲 法の 枠組 みの 中で
、ど のよ うに 条 例を 位置 づけ てい くか を考 えな けれ ばな らな いこ とに なる
。
そこ で、 現行 憲法 と条 例と の関 係に つい て生 じる 諸問 題を アッ トラ ンダ ムに 列挙 する と次 のよ うに なろ う。 第一 に、 憲法 九八 条一 項の 最高 法規 条項 との 関係 で条 例は どう なる のか
、第 二に
、こ れに 関連 して 憲法 八一 条の 違憲 審 査権 との 関係 で条 例は どう なる のか
、で ある
。こ れら 二つ の問 題に つい ては
、憲 法九 四条 が、 条例 制定 につ き、
﹁法 律の 範囲 内で
﹂と いう 留保 を付 して いる ので
、九 八条
・八 一条 との 関係 にお いて
、条 例は
、法 律と の関 係で は 劣位 に立 つと 解さ れ、 した がっ て条 例は 憲法 に違 反し ては なら ず、 また 違憲 審査 権の 対象 とな ると いう こと が論 理 的に 導き ださ れる
。ま た九 八条 と八 一条 が列 挙す る法 形式 は、 いず れも 一般 的法 規範 の例 示と 解す るこ とに よっ て 文言 上の 欠落 を回 避す るこ とが でき る。 第三 に、 そし て、 これ が本 稿の テー マに 直接 関係 する ので ある が、 基本 的人 権に つき 規定 する 憲法 第三 章と の関 係で 少々 厄介 な問 題群 が存 在す る。 まず
、﹁ 財産 権の 内容 は、 公共 の福 祉に 適合 する やう に、 法律 でこ れを 定め る﹂ とす る憲 法二 九条 二項 との 関係 であ る。 日本 国憲 法に おけ る人 権保 障は
、基 本的 に﹁ 法律 の留 保﹂ から 解放 され た が、 財産 権に つい ては
、そ の憲 法上 の位 置づ けの 歴史 的転 換に
( )
伴い
、こ のよ うな 規定 が設 けら れた ので ある
。と こ
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ろが
、こ の規 定を 人権 保障 の優 位性 を前 提に 考え ると
、法 律よ り下 位の 法形 式で ある 条例 によ る規 制は でき ない の では ない か、 とい う疑 問が 生じ るの であ る。 さら に、 憲法 第三 章に
﹁条 例﹂ の文 言が ない こと から
、以 下の 二つ の問 題が 生じ る。 一つ は、 憲法 三一 条に 関連 して
、条 例に よっ て刑 罰を 定め るこ とが 果た して 可能 か、 また 憲法 三〇 条お よび 八四 条に 関連 して
、条 例に よっ て 課税 する こと が果 たし て可 能か
、と いう 疑問 が生 じて くる
。た だし
、こ れら 二つ の問 題は 実体 的人 権の 規制 に直 接 は関 係し ない ので
、本 稿の 考察 の対 象外 とし
( )
たい
。
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以上 が、 これ まで 指摘 され てい る、 憲法 から みた 条例 論の 課題 であ った
。本 稿は
、こ れら の課 題に 取り 組む ため に、 まず 憲法 と条 例と の関 係か ら考 察を 始め たい
。