Analyzing the contents of “The history and historical materials” of the Japanese history B textbook of the high school: From a textbook of eight kinds of Japanese history B used now.
Shoichi Kodama Summary
“The history and historical materials” are set as the introduction item of the learning of “Japanese history B”. This item has been prescribed as the high school course of study geography and history for senior high school since 1999. It is necessary to learn learning of the history at first. It is necessary to bring up ability of thinking in the history.
Analyzed the contents of “The history and historical materials”
from all history textbooks currently being used today, I found that there are major points that should be present in order for a history textbook to be effective.
The history textbook should expound the meaning and classification of historical materials at first. Because the history must teach that history is explained by a historical materials. At the same time it should include the description that draws students' mind to something to do with a textbook content.
In addition it should contain some questions so that students can delve oneself into the history.
論文
学習指導要領地理歴史科日本史Bにおける
「歴史と資料」の意義
―現行教科書における「歴史と資料」の扱いを通して―
児 玉 祥 一
(同志社大学免許資格課程センター/
京都教育大学大学院教職実践研究科准教授)
1 はじめに
歴史教育における中核目標に「歴史的思考力の育成」がある。この「歴史 的思考力の育成」に関して、戸井田克己(2004)は、「ことに高等学校世界 史および日本史にとって、最重要な教育課題の一つ」と述べ、具体的には、
教育課程変遷の基準である学習指導要領の昭和31(1956)年版の世界史にお いて「目標」に明記されて以降、日本史はもとより中学校社会科歴史分野の
「目標」にも取り入れられていることを指摘している。一方で、原田智仁
(2010)は歴史的思考力の育成は戦後の歴史教育が一貫して追求してきた大 きな目標であるが、それが十分に達成されているとはいいがたいのが現状で あると述べている。
確かに高等学校で行われる歴史授業の多くは思考力を育成する授業とは対 極にある。生徒にとって世界史や日本史は教科書にある事実的知識をひたす ら覚え、事象や知識を理解することに重きをおく暗記科目として認知されて おり、教師にとってもまた、歴史的思考力とはどのような能力であり、いか にして身につけさせることができるのかを十分には理解しておらず、教科書 の記述に沿って内容を説明し理解させる、系統的な通史学習が常態となって いる。
相対評価から目標に準拠した観点別評価が導入され、この10年あまりで、
既製の歴史を教師が伝達することが歴史教育であると考える教育観は変わり、
児童・生徒の学習活動を主体とする歴史教育への転換が図られつつあるもの の、多くの事例は義務教育での授業実践である。これは、義務教育の現場で 使用される歴史教科書をみると単元や項目ごとにそれぞれ学習課題が提示さ れ、さまざまな資料が掲載され、それらの資料を活用し、資料読解にもとづ いて歴史事象や社会を考察する授業を実践することが可能となっていること がわかる。
一方、平成21(2009)年版の現行学習指導要領では、OECD学習到達調 査(PISA調査)の結果を受け、読解力や問題解決力を育成するために各教 科での「言語活動の充実」が打ち出された。このなかで「日本史B」におい ては「諸資料を活用」して歴史を解釈・説明・論述を行う学習活動が「内容」
に明記されている。目標や内容の取扱ではなく内容として導入に「歴史と資
料」(1)をおき、そのうえで、中世の学習の最初に「歴史の解釈」を、近世の 学習の最初に「歴史の説明」を配し、そしてすべての時代の学習の最後に「歴 史の論述」をおく内容構成が取られている。この4つの内容項目の中で歴史 の学び方、つまり、歴史を学ぶ際に必要な基本的な技能や方法を計画的・段 階的に高めさせる構成がとられている。学習指導要領では最初に歴史と資料 との関係を確認した上で、資料を収集し、比較・分析するなど史料批判を加 え、歴史を主体的に解釈し表現しまとめていくことが求められているのであ る。これは、前回の平成11(1999)年版学習指導要領「日本史B」の「内容」
の最初に「歴史の考察」をおいて、導入として歴史の学び方を学ぶ「歴史と 資料」の項目を実施することが求められたが、「歴史の追究」の項目でとり あげる主題学習については「適切な時期」に「適時」実施となっていたこと と比べると、歴史的思考力を育成することを目標とする歴史学習への質的転 換への第1歩となる試みと言えるかもしれない。
さて、本稿では以上のように学習指導要領が提示した観点および近年の歴 史教育の研究動向から、歴史的思考力の育成を中核とする歴史学習を考える 上で日本史B学習の導入におかれた「歴史と資料」の授業はどうあるべきか、
歴史の授業の中で「資料」はどのように活用されるべきかを平成21年版学習 指導要領にもとづいて編纂され発行されている日本史Bの全教科書(5社8 冊)の記述より分析・考察していくこととする。
2 高等学校「日本史B」教科書における「歴史と資料」
(1)山川出版社『詳説日本史B』
現在、日本史Bで最も採択部数が多く、大学受験用教科書として定評のあ る山川出版社の『詳説日本史B』から確認していく。
「歴史と資料」は目次に続く本文のはじめに配され、教科書本文417ペー ジのうち3ページ枠で「大仏造立をめぐる歴史資料」というテーマで記され る。
1「奈良の大仏」、2「大仏造立の詔」、3「大仏鋳造」、4「大仏殿回廊 西遺跡と長登銅山跡」、5「黄金山産金遺跡」、6「大仏開眼供養会」、7「大 仏造立の歴史的背景」、8「歴史資料を調べよう」の小項目に分けられ、1
の項目「奈良の大仏」の記述に先立ち、資料分類と資料と歴史叙述の関係に ついて説明している。
「歴史資料」を文献資料と非文献資料とに大別し、「歴史資料の史料的性 格を考慮しながら批判的に史実を確定していく作業の上に、これまでの歴史 像が組み立てられている」と記述し、さまざまな史料分析・批判の上に歴史 は叙述されていることを説明し、その上でテーマの大仏造立についてさまざ まな資料をもとに解説していくのである。
1「奈良の大仏」では、現在の東大寺の大仏は源平争乱と戦国時代の2度 にわたって焼け落ち、江戸時代に再建されていることを説明し、図像資料で ある『信貴山縁起絵巻』の東大寺大仏殿の絵から創建当時の東大寺大仏の姿 を解説している。2「大仏造立の詔」では古代を研究する上での基本資料と なる六国史の一つ『続日本紀』をもとに聖武天皇が大仏造立を命じた経緯を 時代背景とともに記述している。3「大仏鋳造」では鋳造に使われた銅の量、
その銅が長門国(山口県)から運ばれたことを東大寺史の編纂資料『東大寺 要録』と「正倉院文書」の二つの文献資料を活用し検証している。さらに4
「大仏殿回廊西遺跡と長登銅山跡」と5「黄金山産金遺跡」では、大仏鋳造 現場の遺跡と使用した銅や金を産出した遺跡から発掘・出土した考古学の成 果を明らかにし、大仏造立を解説している。6「大仏開眼供養会」では、先 にあげた『続日本紀』と『東大寺要録』の二つの基本となる文献資料をもと に752年4月9日の開眼供養会が国際色豊かな儀式であったことを描き出し ている。7「大仏造立の歴史的背景」では1から6で明らかにしたことをも とに古代の日本について東アジアを含めて大きな視点から解釈を加え説明し、
最後の8「歴史資料を調べよう」で「多様な歴史資料を総合することによっ て、私たちは歴史像を組み立てることができる」と記述し、学習者に地域の 歴史を調べてみることを提案している。
「資料に基づいて歴史が叙述されている」ことを理解させる記述となって おり、文献資料だけではなく、図像資料や考古資料から大仏の造立を明らか にし、日本の古代史の様相を探るなど社会史的な視点も入れて記述し、近年 の歴史学の研究成果も反映されている。教師の解説なしでは生徒の理解は難 しいテーマであるが、教科書本文との関連も触れており、生徒がこれからの 学習への興味や関心を持つことができるような内容は、日本史学習の導入と
して評価できる。
(2)山川出版社『新日本史B』
「歴史と資料」は教科書本文364ページのうち3ページの枠で「長屋王と 歴史資料」というテーマで記述されている。目次に続いて本文冒頭におかれ、
項目立てはなく長屋王邸跡出土の木簡を中心に長屋王の暮らしを探る内容で ある。
冒頭に「歴史は資料にもとづいて叙述される」と述べた後は、『続日本紀』
の「聖武天皇の天平元(729)年2月辛未条」の記事を本文の中に掲載する とともにその記事から729年に起こった長屋王の変を解説している。続けて、
長屋王邸跡の発掘調査中の1987年に発見された長屋王家木簡の一つを写真掲 載し、木簡に記されていた文字も併せて本文に記載し、そこから長屋王家の 暮らしぶりを読み解き解説している。さらに、ここで発見された木簡から
『日本書紀』の大化改新の詔にまつわる古代史の論争の一つ「郡評論争」(2)
について説明し、ここで発見された木簡資料が論争の解決になったものであ ると説明し、歴史における新たな資料の発見の重要性を明らかにしている。
考古学資料を背景に長屋王や古代貴族の暮らしに触れるなど歴史学の研究 成果が見られ、また、本文中に資料の読み下し文を記載し生徒自ら資料を読 み解く構成をとっているが、教師の解説なしには内容把握も難しく、歴史を 探究し、思考するというよりは資料を読む学習となっている。
ここでは日本史B学習の導入として行われるべき、どのような史料が使わ れ歴史叙述がなされるのか、さまざまな歴史資料の持つ意味や歴史探究の方 法など歴史の学び方に関する記述が求められるが、あくまでも長屋王をめぐ るコラム的な内容となっており、歴史的思考力を育成することを前提とする 日本史B学習の導入となる「歴史と資料」の内容としては不十分である。
(3)山川出版社『高校日本史B』
目次に続いて本文のはじめに配され、教科書本文333ページのうち5ペー ジの枠で「身近な史跡・資料から考える」というテーマを設け「資料から5 世紀の日本を考える」と「身近な歴史資料を調べて見よう」というという2 つの項目から記述されている。
「資料から5世紀の日本を考える」の項目の前に、「歴史とは過去との対話」
であり、歴史研究者の記述を通して私たちは過去を理解することになると説 明している。また、私たちみずから歴史資料に直接ふれることによって過去 と対話することができるとも記述し、続けて、歴史資料を文献資料と遺物・
遺跡とに分類し、歴史はこれらの歴史資料にもとづいて考察されると説明し ている。
小項目「資料から5世紀の日本を考える」は先生と生徒の問答形式で記述 されている。先生が埼玉県の「稲荷山古墳出土の鉄剣」と熊本県の「江田船 山古墳出土の太刀」に刻まれた銘文から5世紀後半のヤマト政権と地方豪族 との関係について、生徒の質問に答える形で説明している。金石資料である 剣と太刀の銘文と文献資料である『日本書紀』と中国の史書『宋書倭国伝』
を活用し、それぞれの資料を比較・分析するなど史料批判も交えて5世紀の 日本について明らかにしていく内容である。次の小項目「身近な歴史資料を 調べて見よう」では、冒頭に記した「歴史資料」について再度確認するとと もに、歴史とは「さまざまな歴史資料をもとに、歴史的な事実にせまったり、
その事実が展開した文脈や意味を考える学問である。歴史資料なしに歴史を 語ることはできない」と記述し、「科学的・論理的にそれらをくみたてて、
歴史的事実やその文脈・意味を探究することである」と述べ、探究の積み重 ねによって歴史像が叙述されると説明している。また、歴史資料は文化財で あり「歴史の証」として後世に伝えていくことの必要性にも触れている。
この教科書では歴史資料に基づいて歴史が叙述されていること、さまざま な資料を科学的・論理的に分析・構築して歴史像が作られていることが丁寧 に示されている。そして、実際に教科書に掲載した歴史資料を活用し資料の 読み取りから「5世紀の日本」のヤマト政権と地方豪族の関係を明らかにす るなど具体的に示している。ここでの内容は歴史の学びかたや方法を示して おり、日本史B学習の導入としてふさわしい記述となっている。また、教科 書の本文との関連も深く、生徒がこれからの日本史学習への興味や関心を持 つことができる教科書となっている。
(4)清水書院『高等学校日本史B』
教科書本文ページ281のうち5ページの枠で目次に続いて、「歴史を知るた
めの手がかり」、「奥州平泉『仏国土』の世界」、「資料に触れる方法」、「歴史 資料が物語る歴史」という小項目をもとに「歴史と資料」は記述されている。
最初の項目「歴史を知るための手がかり」では「過去の歴史を知るために は、現在まで伝えられてきたさまざまな資料がもつ特徴を理解して、資料の 解釈を進める」ことが求められ、私たちが教科書や書籍・映像などを通して 学ぶ歴史は「さまざまな歴史資料にもとづいて叙述されたものである」と説 明している。
そして、資料を「史料(文字史料)」と「非文字史料」に分け、「資料の類 型」表を作成し分類し、それぞれの資料の特徴を解説している。その上で過 去の歴史を知るためには「さまざまな性格の資料を相互につきあわせて、歴 史のできごとを確定していく作業(史料批判)が必要である」と説明してい る。
次の項目「奥州平泉『仏国土』の世界」では、最初に世界文化遺産に登録 された平泉の様子について記述している。遺産・遺跡の位置について地図を 用いて確認するとともに平泉の歴史を簡単に説明し、続いて「史料が語る平 泉」と題して、平安貴族の日記『小右記』や鎌倉時代に成立した歴史書『吾 妻鏡』より平泉の繁栄や京都との関係について読み取り、「遺物・遺跡が語 る平泉」では中尊寺金色堂に残されている文化遺産や遺物から交易も盛んに 行われていた平泉の姿が描かれている。そして「復元された平泉」と題して、
発掘調査の成果にもとづき復元された毛越寺の浄土庭園をはじめ、最初に示 した遺跡についてその位置関係を明らかにし、「平泉に足を運ぶことで、『仏 国土』の世界を味わうことができる」と説明している。
次の項目「資料に触れる方法」では、歴史資料などを所蔵している博物館 や国立公文書館・東京大学史料編纂所についての説明やホームページで公開 されている資料の活用法など説明している。最後の項目「歴史資料が物語る 歴史」では歴史を学ぶ意味を「歴史を知るということは、単に過去の人間の 営みを明らかにするものではない」と述べ、「教訓を導きだし、未来に生き る指針をも得ることができる」と解説している。
この教科書では「資料の類型」表を作成し分類したうえで、それぞれの資 料の特徴を解説し、歴史的事実はさまざまな資料を相互につきあわせ、史料 批判を行った上で明らかにしていく歴史研究の方法を解説し、教科書などに
よって私たちが学ぶ歴史は、さまざまな歴史資料にもとづきおこなわれる研 究の成果をもとに叙述されたものであることを丁寧に解説している。また、
歴史を学ぶ意義や文化財や文化遺産保護の観点も加えて記述していることは、
日本史B学習の導入としてふさわしい内容を持つものであり、生徒にこれか らの日本史学習への興味や関心を喚起することができる記述であると考える。
(5)明成社『最新日本史』
教科書本文296ページのなか2ページが「歴史と資料」にあてられており、
「出土品が語る歴史」というテーマで埼玉県の稲荷山古墳出土の鉄剣の写真 と銘文を大きく記載し、さらに熊本県の江田船山古墳で発見された太刀の銘 文の読み下し文を本文に記し、雄略天皇(『日本書紀』)の国内勢力圏を解説 し、中国の史書『宋書倭国伝』や中国吉林省にある『高句麗好太王碑文』に ふれ、5世紀における東アジアと日本の関係を説明している。
最後に、「古代における国家形成、対外関係」などについて『古事記』や『日 本書紀』、その他の記述とともに、教科書に記載した出土した金石文などの 出土資料をはじめ「外国文献資料、また地図、写真など関連資料を用いて多 面的・総合的に学ぶ」必要があると記述し、歴史資料を読み解き、日本の古 代国家形成の歴史を学ぶことの重要性を解説している。また、文化財につい ても「文化財保護への関心を高め、各地の文化財や文化遺産を尊重する態度 を養うことが大切である」と記述し、ここでは歴史で学ぶべきことや態度の 育成に関心が払われた記述となっている。また、この教科書では歴史を学ぶ 意味について別の項目「日本の歴史を学ぶにあたって」(2ページ)を立て
「国民の物語」としての歴史を強調している。
考古学資料を背景に古代国家形成や対外関係などを解説しているが、コラ ムとしての色彩が強く、教師の解説なしには内容把握も難しく、歴史を探求 するというよりは資料の解説となっている。どのような史料が使われ歴史叙 述がなされるのか、さまざまな歴史資料の持つ意味や歴史探究の方法など歴 史の学び方に関する記述はなく、日本史B学習の導入の「歴史と資料」の内 容としては不十分な内容であると考える。
(6)東京書籍『新選日本史B』
教科書本文ページ273ページとは別に、口絵として6ページ分の変形図版 の体裁で「歴史と資料」が作られている。
図像資料の『江戸図屏風』を大きく紙面に取り上げ、「資料にもとづいて 歴史が叙述されていることを理解しよう」と最初に記し、1「屏風全体をな がめて」、2「江戸の町づくり」、3「江戸の大名屋敷」、4「江戸の町人地」、
5「町を歩く人の姿」、6「朝鮮通信使の登城」の6項目をあげ、それぞれの テーマを焦点化した図版を手がかりに「江戸の町のようすや人々の暮らし」
を解説している。
最後に「いろいろな資料にふれてみよう」という項目では、歴史資料につ いて歴史を研究するうえで重要なものであると同時に文化遺産としての価値 を解説している。また、歴史資料を探す方法として博物館・資料館やイン ターネットの活用についても記している。
近年の歴史学の成果として図像資料の活用がある。この教科書では高校生 にとって文献資料ではイメージすることが困難な江戸の町のようすや人々の 姿を、図像を手がかりに読み解いている。図像資料を読み解くことで、歴史 像・社会像を構築させる記述は、生徒に歴史への興味・関心を喚起すること が可能であり、日本史B学習の導入としてふさわしい内容であると考える。
(7)実教出版『高等学校日本史B』
教科書本文259ページの中6ページを「口分田からの収穫で生活できたの か」というテーマで記述している。学習のねらいとして最初に「歴史の真実 を知るには、資料にもとづいて、その資料の特徴を十分に理解したうえで、
合理的(矛盾や飛躍がなく、筋が通るよう)な解釈を積み重ねる」ことと説 明したうえで、千葉県市川市の古墳時代と奈良時代の住居が重なるように発 掘されている須和田遺跡の写真を手がかりに高校生が会話をしながら古墳時 代の遺跡と奈良時代の遺跡を遺跡全図の図版より読み解く形の記述になって いる。さらに、先生を加えて、須和田遺跡の近くにある下総国葛飾郡大嶋郷 嶋俣里の農民の暮らしを正倉院に残されている戸籍から推理する内容で記述 している。戸籍の中の孔王部刀良の房戸(家族)を例に、与えられた口分田 の面積や租税の額を計算し、1年間に刀良の家族の得た収穫米を割り出し、
家庭科の授業で学ぶ「日本人の食事摂取基準」を当てはめ「口分田の収穫で 生活できたか」という学習課題をたて、課題追究していく内容になっている。
高校生の視点に立ち、「問」をたて戸籍の資料をもとに、家庭科で学ぶ「人 が1日生活するのに必要なカロリー摂取量」表をもとに孔王部刀良の一家が 1年間に生きていくために必要な米の量を計算し、「問」を考察していく過 程を会話形式によって記述するスタイルは加藤公明実践をモデルとしており、
「歴史の学び方」を学ぶ、日本史B学習の導入として大きな効果をあげてい る。一方で、資料の意義や資料の特徴などについての記述が少ないことは
「歴史と資料」の項目で生徒が学習する内容としては不十分であった。
(8)実教出版『日本史B』
教科書本文363ページの中4ページを「歴史と資料」にあて、「資料を読み 解く」というテーマで1「過去の情報をとどける歴史資料」と2「図像資料
『伴大納言絵巻』から歴史を解いてみよう」の2つの項目を設定している。
最初の項目では「歴史を解き明かし叙述するということは、自然や人間が 残したさまざまなものを利用して、過去のできごとを再構築し、再現するこ とである。過去を再現するのに利用できるもの、つまり過去の情報を伝えて くれるものを『歴史資料』」と記述し、歴史は資料にもとづいて叙述される ことを説明し、黒田日出男の資料分類を参考に、①文献資料②図像資料③映 像・音声資料④考古資料⑤民俗資料5つに分類し説明している。さらに、「三 内丸山遺跡」の発掘・調査による新たな資料の発見により、従来の縄文時代 の歴史が書き換えられたことを記し、歴史は書き換えられるものでもあるこ とを示している。
次の項目では図像資料『伴大納言絵巻』を読み解くことを通して「絵巻物」
の鑑賞の仕方や美術品としての価値とともに、「絵巻物」が持つ歴史資料と しての意義について解説している。「燃える応天門を見上げる貴族層」と「子 どもの喧嘩」の場面からは、描かれた舞台を確認することや描かれた人物の 姿などから時代・社会を詳しく調べることを求め、時代像や社会像の構築を 求めている。また、応天門の変については六国史の一つ『三代実録』の記事 および藤原氏と天皇家の系図を記載し説明している。この事件を物語として ではなく、藤原北家が摂政・関白として権力を握る過程で起きた政治事件の
一つとして、教科書の関連ページを補足する内容としている。
日本史Bの学習に際し、歴史資料の特性および歴史の学び方や歴史研究の 方法について最初に説明し、その上で、図像資料を系図・文字史料などの異 なった資料を用いて読み解くことで、歴史像・社会像を構築させる内容とし たことは、歴史への興味・関心を喚起するうえで、日本史B学習の導入とし てふさわしい内容であると考える。
3 おわりに
かつての日本史教科書は原始・古代から現代までを時代ごとにまとめ、政 治・事件史を中核に、社会・経済史、文化史などを加えて内容構成がされて いた。そこでの学習は、各時代像や社会構造についての理解が中心におかれ ていた。
しかし、PISA調査の結果から読解力や問題解決力を育成することが求め られ、「日本史B」学習でも、さまざまな資料を活用して、歴史の展開にお ける諸事情の意味や意義を解釈させる「歴史と解釈」、歴史的事象には複数 の歴史的解釈が成り立つことに気付かせるとともに、根拠にもとづいて論理 的に説明させる「歴史の説明」、生徒自らが主題を設定し、資料を活用しそ の主題を探究し、それをまとめる「歴史の論述」を行う学習活動の実施が望 まれている。まさに、歴史的思考力の育成の課題に対する現場教師への要求 となっている。そして、この歴史的思考力の育成において中心となる解釈・
説明・論述の学習活動において基盤となるのが平成11年版学習指導要領で学 習内容として登場し、平成21年版学習指導要領でも引き続き重視されている
「歴史と資料」である。
本稿では、日本史B学習の最初に行う「歴史と資料」の項目について、各 教科書が示した具体的な教材を確認し分析した。多くの教科書では「歴史と 資料」においても「歴史的思考力の育成」をめざすことを意識した記述となっ ている。最初に歴史における資料の意味と特性などを解説することから記述 をはじめ、次に歴史を学ぶ際に必要な基本的な技能や方法について確認して いる。続けて、歴史がさまざまな資料によって叙述されていることを具体的 なテーマをあげて説明あるいは探究する構成となっている。
このように歴史の学び方や歴史学習に必要な技能・方法が教科書本文に記 述されて、最初の歴史学習の授業で学ぶことの意味は生徒のみならず、日本 史Bを担当する教員にとってもこれからの歴史や歴史教育を考えるうえで大 きなものとなる。
最後に、歴史を叙述する方法を理解したうえで、生徒自らが今度は「歴史 家」体験をすることができる、あるいは実際に「問い」などを設けて活動で きる教科書記述となることが今後は要求される。この歴史家体験をする学習 活動は生徒の歴史的思考力を培ううえで、なによりも重要なものとなるとい えよう。
注
「歴史と資料」について「内容」では「遺跡や遺物、文書など様々な歴 史資料の特性に着目し、資料に基づいて歴史が叙述されていることなど 歴史を考察する基本的な方法を理解させ、歴史への関心を高めるととも に、文化財保護の重要性に気付かせる」ことと記され、「内容の取扱」
では解釈・説明・論述とともに「資料を活用して歴史を考察したりその 結果を表現したりする技能を段階的に高めていくこと。様々な資料の特 性に着目させ複数の資料の活用を図って、資料に対する批判的な見方を 養うとともに、因果関係を考察させたり解釈の多様性に気付かせたりす ること」さらに「この科目の導入として位置付けること」とされた。
『日本書紀』には大化の改新の際に「郡」という地方行政区画の単位が 作られたと記されている。一方、金石文などの史料には大宝律令以前に は「評」と記されているものがあり、大化の改新時に作られたのは郡制 なのか評制なのか、また、「郡」と記している「改新の詔」の信憑性や『日 本書紀』編纂時の修飾などをめぐる論争。
参考文献
戸井田克己「学習指導要領の変遷と歴史的思考力育成の課題」近畿大学 教育論叢16号 2004
原田智仁「世界史教育の再生は可能か―世界史リテラシーの視点から―」
『社会系諸科学の探究』法律文化社 2010
文部省編『高等学校学習指導要領解説地理歴史編』実教出版 1999
文部科学省編『高等学校学習指導要領解説地理歴史編』教育出版 2010
森分孝治・片上宗二編『社会科重要用語300の基礎知識』明治図書 2000
星村平和編『歴史教科書を活用したわかる授業の創造』明治図書 1984
佐藤正幸『歴史認識の時空』知泉書館 2004
土屋武志・下山忍編『学力を伸ばす日本史授業デザイン思考力・判断力・
表現力の育て方』明治図書 2011
土屋武志著『解釈型歴史学習のすすめ―対話を重視した社会科歴史』
梓出版社 2011
油井大三郎「高校歴史教育の改革と思考力育成」『歴史評論』749号 2012
(2015年2月6日査読済)