ウンターシクリカル資本バッファーによる影響
著者 中井 教雄
雑誌名 社会科学
巻 42
号 1
ページ 145‑177
発行年 2012‑05‑31
権利 同志社大学人文科学研究所
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012795
2 国間におけるバーゼルⅢ・BIS 規制の有効性
─ カウンターシクリカル資本バッファーによる影響 ─
中 井 教 雄
本稿は,バーゼルⅢ・BIS規制から新たに導入されるカウンターシクリカルな資本 バッファーによる貸出市場への影響について理論分析を行う。この理論分析により,閉 鎖経済において,このような新たな規制が,従来のBIS規制による自国の貸出市場に 対するプロシクリカリティを低減させる一方で,開放経済においては,カウンターシ クリカル資本バッファー(以下,CCB)によるプロシクリカリティ低減効果が十分に 発揮されない状況が存在することを明らかにする。
本稿の主な結論は,以下の通りである。閉鎖経済において,CCBの導入は,従来の BIS規制(バーゼルⅡ・BIS規制)下における自己資本比率規制によるプロシクリカ リティ問題を緩和させることが可能である。
一方,開放経済にある 2 国間において,CCBの導入は,自国と外国の貸出市場に非 対称な影響を与えるケースが存在するため,自国内で正の外生ショックが生じた場合 でさえ,外国銀行から自国への貸出を過度に減少させ,自国の総貸出量も減少させる。
さらに,クロスボーダー貸出が存在するため,CCBの導入が必ずしも貸出市場に対す るプロシクリカリティを低減させるとは限らず,むしろ従来の自己資本比率規制より も貸出市場のボラティリティを増大させる可能性がある。
これらの結果は,CCB以外の新たな規制の導入(例えば,コンティンジェント・キャ ピタルの導入)の必要性を示唆している。
1 はじめに
米国の金融市場におけるリーマン・ブラザーズの破綻を受けて,金融危機は米国内にと どまらず,グローバル金融危機に発展した。このような金融危機の再発を防ぐため,2010 年 12 月に,バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は,より強靭な金融規制として,バーゼ ルⅢ・BIS規制を考案し,2013 年 1 月からの段階的実施および 2019 年の完全施行が決定 している1)。
バーゼルⅢ・BIS規制では,主に 3 つの新たな規制手段が導入される2)。第 1 の規制手 段は,資本の質と水準の向上である。資本バッファーの損失吸収力を向上させるため,最
低所要自己資本比率規制での資本量の計算において,普通株等のTier1 比率(コアTeir1 比率)の最低水準が引き上げられ,Tier1 資本およびTier2 資本の適格要件も厳格化され ている3)。
第 2 の規制手段は,流動性比率規制である。この規制は,「流動性カバレッジ比率(LCR: Liquidity Coverage Ratio)」と「安定調達比率(NSFR:Net Stable Funding Ratio)」
の 2 つの指標から構成される。これらは,それぞれ一定比率以上の短期金融資産と長期 金融負債の保有を金融機関に義務付けるための最低水準を示すものであり,銀行に流動 性を確保させることを目的とした規制である。
最後の新たな規制手段として,プロシクリカリティの緩和を目的としたカウンターシ クリカル資本バッファー(以下,CCB)の導入が挙げられる。これは,経済情勢に合わ せて,銀行に最低所要自己資本量の積み増しまたは取り崩しを求めるものである。すな わち,この規制の導入は,景気拡大(後退)期に最低所要自己資本比率を引き上げ(引 き下げ),クレジット・サイクルのプロシクリカリティを低減させることを目的としてい る4)。
自己資本比率規制によるクレジット・サイクルのプロシクリカリティとは,次のよう なメカニズムを指す。バーゼルⅡ・BIS規制において,銀行のリスク資産の査定に対し て,基礎的内部格付手法あるいは先進的内部格付手法が適用される場合,リスク・ウェイ トは,資産のデフォルト率に依存する 。そのため,景気後退期において,リスク・ウェ イトの上昇により,リスク・アセットが増加するので,自己資本比率は低下する。この とき,銀行は,景気後退期に資本調達を行うことが困難であるため,貸出を減少させる。
そのような銀行行動は,資金循環の観点から経済に悪影響を及ぼし,その結果,リスク・
ウェイトがさらに上昇し,このような負の循環が継続する5)。
ゆえに,CCBの導入は,このような自己資本比率規制のプロシクリカリティ問題を緩 和させることが期待されている。
これらの新たな規制の中で,最もマクロ経済情勢と密接に関連している要素は,CCB である。資本の質と水準の向上あるいは流動性比率規制については,個別金融機関が自 身のリスクテイキングに応じて(新株発行等により)対応可能であるのに対し,CCBに ついては,個別金融機関が自身のリスクテイキングによって受ける影響よりも,マクロ 経済ショックによる個々の金融機関に対する影響の方が大きくなる。
例えば,平時から景気拡大期に移行する経済を想定してみる。このとき,平時におい て相対的にリスクを多くとっていた金融機関が,景気拡大期によるCCBの積み増しに対
処する場合,経済情勢の改善によるリスク・アセットの低減よりも,CCBの積み増しの 影響の方が大きくなる可能性がある。この場合,CCBにより,当該金融機関は,景気拡 大期における資金需要に完全に対応することができず,貸出市場に非効率性が生じる恐 れがある。
さらに,CCBによる貸出市場への影響には,自国の金融機関の行動を介した影響だけ でなく,海外の金融機関による貸出行動を通じた影響も存在する。そのため,このよう な規制が適正に機能しないことで悪影響を受けるのは,当該規制が課されている国の経 済に留まらず,海外の貸出市場にも影響を及ぼす可能性がある。
そこで,本稿は,閉鎖経済および開放経済におけるCCBの導入による貸出市場に対す る影響について検証し,CCBが貸出市場のプロシクリカリティを低減させるのか否かを 明らかにすることを目的とする。
本稿に関連する多くの先行研究では,一国の国内経済におけるCCBの有効性について 考察している6)。しかし,実際には,国家間におけるクロスボーダー貸出が存在するた め,両国の規制当局が各国の貸出市場に課すCCBが金融市場の安定性に対して有効に作 用するのかについて検証する必要がある。ここに本稿の意義がある。
本稿は,以下のように構成される。次節では,先行研究と本稿の関係について述べる。
第 3 節では,閉鎖経済におけるCCBの導入による貸出市場への影響について分析する。
第 4 節では,開放経済における(固定為替相場制度および変動相場制度下における)CCB の導入によるクロスボーダー貸出市場への影響について検証する。最後に,本稿で得ら れたインプリケーションおよび今後の課題について述べる。
2 先行研究と本稿の位置付け
本稿と先行研究との関係は,以下の通りである。第 1 に,自己資本比率規制のプロシ クリカリティ問題の要因としてリスク・ウェイトに着目している研究に,以下の文献が 挙げられる。
Estrella(2001)は,VaRに基づいた銀行の資本必要量が,経済または金融の変動サイ クルを悪化させる程度について検証し,VaRに基づいた最低所要自己資本量がプロシク リカルなものとなるということを示している。
また,Rabell, Jackson and Tsomocos(2003)は,自己資本比率規制におけるリスク・
ウェイトの決定について,貸出債権の格付に基づき,一定,プロシクリカルおよびカウン
ターシクリカルという 3 通りの設定を行うことにより,貸出市場を通じた銀行と企業部門 に与える影響について検証している。その結果,カウンターシクリカルな格付スキームの 場合,企業部門のデフォルト率の分散が景気拡大期に拡大し景気後退期に縮小するため,
銀行の利潤は全体を通して他の格付スキームよりも高くなることが示唆されている。
それに対し,Pederzoli and Torricelli(2005)は,各格付のデフォルト率と景気循環と の関係に基づいた時期に応じて変化する資本必要量に関するフォワード・ルッキング・モ デルを導入することにより,資本必要量のリスク感応性を維持しつつ,景気循環のプロ シクリカリティを低減させることができることを,米国のデータを用いて実証している。
第 2 に,自己資本比率規制のプロシクリカリティ問題とカウンターシクリカルな資本 規制との関係について考察している文献として,以下の文献が挙げられる。
Covas and Fujita(2009)は,資本財の生産のための資金調達が,エージェンシー問題 を引き起こすような一般均衡モデルを用いて,バーゼルⅡ・BIS規制下における銀行の 流動性供給による景気循環効果について定量分析を行っている。その結果,プロシクリ カルな自己資本比率規制下において,産出量および社会厚生のボラティリティが,カウ ンターシクリカルな自己資本比率規制下よりも大きくなるということが示されている。
また,Repullo and Suarez(2009)は,銀行がある特定の期間でのみ株式市場にアク セスすることができるようなリレーションシップ貸出に関する動学均衡モデルを構築す ることにより,銀行の資本規制によるプロシクリカルな影響について検証している。そ の結果,バーゼルⅡ・BIS規制下において,カウンターシクリカルな規制要素を導入す ることにより,銀行の長期的な支払い能力を低下させることなく,信用供給に対するプ ロシクリカルな影響を相当低減させることができるということが明らかにされている。
それに対し,Repullo and Saurina(2011)は,カウンターシクリカルな資本バッファー の機械的な適用が,GDP成長率が高い場合に資本必要量を減少させ,GDP成長率が低い 場合に資本必要量を増加させるので,リスク感応的な銀行資本規制固有のプロシクリカ リティを悪化させる可能性があるということを主張している。
本稿の理論分析と最も密接に関連している文献は,Yoshino and Hirano(2011)であ る。Yoshino and Hirano(2011)は,寡占的な貸出市場における銀行の利潤極大化行動 を前提とした一般均衡モデルを用いて,銀行貸出を安定化させるための自己資本比率の 水準を理論的に導出している。その結果,導出された新たなカウンターシクリカルな最 適自己資本量が,銀行行動,各国のマクロ経済構造および各国に対する経済ショックに よる影響に依存するべきであると結論付けている。
第 3 に,バーゼルⅢ・BIS規制(特に,CCB)に関する理論分析について本稿と関連 しているものとして,以下の文献が挙げられる。
Al-Darwish et al.(2011)は,金融機関のネットワークが複雑であるため,金融システ ムに不透明なエクスポージャーが存在することにより,バーゼルⅢ・BIS規制が,必ず しも金融システムの安定性を改善させるとは限らないということを主張している。
また,Gamba, Gianni and Lucchetta(2011)は,信用リスクと流動性リスクの両方に 晒される銀行の動学モデルを用いて,緩やかな資本必要量が,自己資本規制が存在しな い場合に比べて,銀行貸出,銀行の効率性および社会厚生を増大させる一方で,資本必 要量が過度に厳格になる場合にこれらの便益が費用に変わることを示している。
バーゼルⅢ・BIS規制について直接分析は行っていないが,Heid(2007)は,自己資 本規制が導入された場合における貸出のシクリカリティの影響に関する問題およびマク ロ経済に対するプロシクリカルな影響について検証している。その結果,銀行が最低所 要資本量を超過して最大限保有する資本バッファーが,資本規制によるボラティリティ の影響を軽減する上で,重要な役割を果たしていることが示されている。
Heid(2007)で検証されている資本バッファーは,カウンターシクリカルな要素を含 んでいるが,実際の銀行行動において,景気拡大期に規制以上に資本を積み立てるより もむしろ,配当として資本が流出されることが多い。このような問題に対処するために,
バーゼルⅢ・BIS規制では,CCBおよび資本保全バッファーが導入されている7)。 第 4 に,バーゼルⅢ・BIS規制(特に,CCB)に関する実証分析として,以下の文献 が挙げられる。Gersl and Seider(2011)は,中東欧諸国経済の実証分析により,BISに よって提示されたCCBに関するHPフィルターの計算が,必ずしも過剰な信用成長を示 す適当な指標であるとは限らないことを明らかにしている8)。
また,Cosimano and Hakura(2011)は,GMM推定の結果から,バーゼルⅢ・BIS 規制の導入により,大手銀行が貸出利子率を 16%上昇させ,(グローバルな貸出市場全体 における)貸出の成長を長期的に 1.3%低下させることを示している。さらに,この結果 は,そのような商業銀行の貸出行動による各国の貸出市場に与える影響が,当該国の貸 出需要の弾力性に依存して国ごとに異なるということを示唆している。
最後に,2 国間における金融市場の分析について本稿と関連しているものとして,Buch, Carstensen and Schertler(2010)が挙げられる。当該文献は,銀行の海外資産による自 国と外国のマクロ経済ショックに対する反応に関するVAR分析を行い,銀行が利子率の 上昇に反応して海外資産を減少させるのに対し,世界的なエネルギー価格の上昇に反応
して海外資産を増加させるということを明らかにしている。
これらの先行研究を踏まえると,以下の点が述べられる。リスク・ウェイトをカウン ターシクリカルなものに変更することは,自己資本比率規制によるプロシクリカリティ を低減させる可能性がある一方で,これまでプロシクリカルなリスク・ウェイトで培われ てきた(VaR等の)リスクマネジメント能力(情報)を(少なくとも部分的に)放棄す ることになるため,銀行経営に悪影響を及ぼしうる。よって,リスク・ウェイトの変動 を介した,自己資本比率規制のプロシクリカリティ問題を低減させるためには,CCBの 導入が必要とされる。
また,2 国間における金融市場に関する理論研究において,バーゼルⅢ・BIS規制(特 に,自己資本比率規制のプロシクリカリティ問題とCCBの関係)について検証している 文献は,Yoshino and Hirano(2011)以外には見られない。ゆえに,CCBがクロスボー ダー貸出を伴う貸出市場に与える影響について考察することには,一定の意義がある。
本稿とYoshino and Hirano(2011)の違いは,Yoshino and Hirano(2011)が,自己 資本比率規制のプロシクリカリティ問題に対処するために,各国毎にCCBを変動させる 場合,本店のある自国の貸出を,貸出を実施している各相手国の最低所要自己資本比率 に設定することが望ましいと主張しているのに対し,本稿は,各国の金融当局が自国の 貸出市場と自国の銀行行動のみを考慮して規制を課すため,クロスボーダー貸出の変化 の仕方によっては,CCBの導入がむしろ自己資本比率規制のプロシクリカリティ問題を 深刻にするということを明確にしている点である。
そこで,本稿は,2 国間におけるクロスボーダー貸出が存在する場合において,CCB が各国の貸出市場に与える影響について分析を行い,2 国間におけるクロスボーダー貸出 により,CCBの導入が必ずしも一国の貸出市場のボラティリティ(すなわち,クレジッ ト・サイクルのプロシクリカリティ)を低減させるとは限らないことを明らかにする。
3 基本モデル―閉鎖経済における
CCB
の有効性―3.1 モデルのセットアップ
本稿は,Yoshino and Hirano(2011)のフレームワークを採用し,このフレームワー クにHeid(2007)およびCovas and Fujita(2009)で導出された自己資本比率規制の制 約式を導入する。
本稿では,t=0, 1, 2 からなる 2 期間モデルを考える。経済には,銀行および規制監督
者(金融当局)が存在する。銀行は,リスク中立的な利潤最大化のエージェントと仮定 する。
まず,銀行規制は,t=0 で設定される。規制監督者は,銀行に対して,次式のように 表される自己資本比率規制を事前に課す。
E
μL侒ϕ+ϕ (1)
ここで,Eを自己資本,Lを貸出量,ϕを(従来の)最低所要自己資本比率,ϕをCCB の最低所要自己資本比率とする9)。本稿では,分析を単純化するために,CCB(ϕ)が外 生ショック(ε)の連続増加関数と仮定し,次式のように定義する10)。
ϕ=ϕ(ε) and ∂ϕ
∂ε侒0 (2)
ここで,本稿において,正の外生ショック(ε>0)は,マクロ経済全体における生産性 の上昇あるいは技術進歩などを表している。一方,負の外生ショック(ε<0)は,マクロ 経済全体における生産性の低下あるいは天災などを表している。このような外生ショッ クは,貸出量の決定および銀行規制の賦課の前に,銀行および規制監督者によって観察 されるものとする。
(2)式は,∂ϕ⁄∂ε>0 の場合,国内で正の外生ショックが発生すると,CCBの積み増し が生じることを表現している。これは,国内の正の外生ショックが(一国全体の)貸出量 を増加させるので,総与信/GDP比も上昇することが予想されることに起因している。
一方,ϕ=0 かつ∂ϕ⁄∂ε=0 の場合,(1)式は,CCBが存在しないバーゼルⅡ・BIS規制 を表している。
また,μはリスク・ウェイトであり,現行の自己資本比率規制(バーゼルⅡ・BIS規 制)下において,国内の外生ショックεに依存する。これは,銀行が内部格付手法(基 礎的内部格付手法または先進的内部格付手法)を採用するものと仮定しているためであ る11)。すなわち,正の外生ショック(ε>0)の場合,金融市場のリスクが低下するため,
リスク・ウェイトは低下する。よって,リスク・ウェイトと外生ショックの関係は,次 式のように表される。
∂μ
∂ε<0 (3)
本稿では,自己資本比率規制に焦点を当てるため,預金準備制度および預金保険制度 は存在しないと仮定する。
本節において,銀行は,以下のバランスシート制約(予算制約)に直面しているもの とする。ここで,Dは預金量である。また,預金利子率をゼロとする。
L=D+E (4)
t=1 において,銀行は貸出を行い,t=2 において,銀行は貸出収益rLLを得る。ここ
で,rLは貸出利子率であり,外生ショックεの増加関数とする。これは,正の外生ショッ ク(ε>0)により,貸出の収益率が改善することを反映している。
従って,銀行の利潤関数(π)は,次式のように示される。
π=rLL−rEE−c
2L2 (5)
ここで,rEは資本コストである12)。また,(5)式の最後の項は,貸出費用関数を表し ており,cはこの関数のパラメータとする(0<c<1)。
最後に,t=2 の期末において,金融当局は銀行に対してモニタリングを行い,t=0 で 課した自己資本比率規制を遵守しているのかを確認する。また,銀行は得られた利潤を すべて配当として分配するものとする。
このとき,銀行は,(1)式および(4)式を条件として,(5)式を最大化する。すなわ ち,以下の最適化問題を解く。
max rLL−rEE−c 2L2
s.t. L=D+E and E
μL侒ϕ+ϕ (P1)
この最適化問題(P1)を解くと,閉鎖経済における銀行の最適貸出量(L*)は,次式 のように示される13)。
L
L*=rL−rE(ϕ+ϕ)μ
c (6)
ここで,外生ショックεについて考える。銀行は,上記の自己資本規制と外生ショック εに基づいて,(利潤が最大となるように)最適貸出量(L*)を調整する。(6)式をεに ついて偏微分すると,以下の式が得られる。
∂L*
∂ε =1 c
∂rL
∂ε−rE
c(ϕ+ϕ)∂μ
∂ε−rE c μ∂ϕ
∂ε (7)
3.2 CCB の導入効果
ここでは,自己資本比率規制(BIS規制)の変遷を踏まえて,CCBの導入とその効果 について考察する。バーゼルⅠ・BIS規制では,一般的にリスク・ウェイトは経済情勢の 変化(本モデルの場合,外生ショックε)に応じて変動しない。そのため,(7)式におい て,最適貸出量(L*)の変動要因は第 1 項のみとなり,貸出(ポートフォリオ)の収益 率の変化のみに依存する。すなわち,最適貸出量(L*)の変化量は,貸出(ポートフォ リオ)の収益率の変化量と正の関係にある。
また,バーゼルⅡ・BIS規制では,(3)式で示されるように,リスク・ウェイトは経 済情勢の変化(本モデルの場合,外生ショックε)と負の相関があるように設定されてい る。そのため,(7)式において,最適貸出量(L*)の変動要因には,第 1 項に加えて第 2 項(ただし,ϕ=0 とする)も含まれる。よって,バーゼルⅡ・BIS規制下における外生 ショックεによる貸出量への影響は,(7)式の第 2 項の分だけ貸出量の変動を(バーゼル
Ⅰ・BIS規制に比べて)ボラタイルにする。すなわち,(7)式の第 2 項が,バーゼルⅡ・
BIS規制によるプロシクリカリティ問題を表している。このようなバーゼルⅡ・BIS規 制下における自己資本比率規制の問題が,今次金融危機の要因の 1 つと認識され,後述 のCCBの導入に繋がったとの見解もある14)。
最後に,バーゼルⅢ・BIS規制では,CCBの導入が行われている。CCBを導入した自 己資本比率規制下において,最適貸出量(L*)の変動は,(7)式のようになる。このと き,CCBの導入が,貸出市場のプロシクリカリティ問題を低減させるという点において 有効に作用するということは,正の外生ショックに対して貸出量は増加するが,従来の 自己資本比率規制下における貸出量の変化よりも小さくなることを意味する。すなわち,
以下の式が成り立つようにCCBを設定する限り,国内の外生ショックεによる貸出量の
影響(プロシクリカリティ問題)を低減させることができる。
−ϕ μ
∂μ
∂ε<∂ϕ
∂ε< 1 rEμ
∂rL
∂ε−ϕ+ϕ μ
∂μ
∂ε (8)
以上により,閉鎖経済において,このようなCCBの導入は,従来の自己資本比率規制 による信用市場のボラティリティの拡大すなわちプロシクリカリティを低減させるとい う点で有益な規制手段と言える。
4 開放経済における
CCB
の有効性4.1 2 国間におけるクロスボーダー貸出
本節では,前節の閉鎖経済における貸出市場のモデルを 2 国間におけるクロスボーダー 貸出の市場モデルに拡張することにより,開放経済におけるCCBによる各国の貸出市場 に対する影響について考察する。なお,ここでのモデルのタイミングは,閉鎖経済での 意思決定と同じである。
A国を自国とし,B国を外国とする。また,為替レートeは,自国(A国)での通貨表 示による外国(B国)の通貨価値とする。A国の銀行(以下,自国銀行)およびB国の 銀行(以下,外国銀行)はそれぞれ,両国の貸出市場に資金供給を行うことができるが,
(預金あるいは株式による)資金調達は,各銀行が属する国でしか行うことができないと 仮定する15)。よって,自国の総貸出量(LA)および外国の総貸出量(LB)は,次式のよ うに,それぞれ自国通貨ベースで表される。
LA=LAA+LBA (9)
LB=LAB+LBB (10)
ここで,LAAは自国銀行による自国への貸出,LBAは外国銀行による自国(A国)への 貸出,LABは自国銀行による外国(B国)への貸出,LBBは外国銀行による外国(B国す なわち,外国銀行にとっての自国)への貸出をそれぞれ表している。
このとき,各国の銀行のバランスシート制約式は,自国通貨ベースで表すと以下のよ うになる。
LAA+eLAB=DA+EA (11)
1
eLBA+LBB=DB+EB (12)
ここで,DAおよびDBは,それぞれ自国通貨ベースでの預金量である。また,EAおよ びEBは,それぞれ自国通貨ベースでの自己資本量である。
本節のモデルは,変動為替相場制下にある 2 国間の貸出市場を想定する場合,為替レー トeを,次式のように,自国(A国)の外生ショックεAの減少関数であり,外国(B国)
の外生ショックεBの増加関数と設定する。
∂e
∂εA<0 and ∂e
∂εB>0 (13)
上式は,各国における(正の)外生ショックが,当該国の通貨高をもたらすことを意 味している。一方,固定相場制下にある 2 国間の貸出市場を想定する場合,(13)式で示 される弾力性は共にゼロとなる。
このとき,開放経済における自国銀行および外国銀行の利潤関数(πAおよびπB)は,そ れぞれ自国通貨ベースで以下のようになる。
πA=rLALAA+erBLLAB−rEEA−c 2L2AA−c
2(eLAB)2 (14)
πB=1
erLALBA+rBLLBB−rEEB−c
2
(
1eLBA)
2−c2L2BB (15)ここで,rLAは自国の貸出利子率であり,先述のモデルと同様に,外生ショックεAの増 加関数とする。一方,rBLは外国の貸出利子率であり,外生ショックεBの増加関数とする。
また,εAおよびεBはそれぞれ,A国およびB国内における固有の外生ショックであり,他 国に直接的には影響を与えないものとする。また,モデルの計算を単純化するため,資 本コストrEは,両国で等しいと仮定する。最後に,各式の最後の 2 項は,各国通貨ベー スで換算した各種貸出の費用関数を表しており,cはこれらの関数の共通のパラメータと する(0<c<1)16)。
次に,自国銀行および外国銀行に対する自己資本比率規制の制約式を設定する。バー
ゼル銀行監督委員会(BCBS)によると,従来の自己資本比率規制によるプロシクリカリ ティ問題を緩和させるために,クロスボーダー貸出におけるCCBの水準は,自国の経済 情勢に応じて各国当局によって決定される17)。銀行は,自行の与信エクスポージャーを 国別に分類し,各国の与信エクスポージャーに対して当該国の金融当局が決定した資本 バッファーを適用する。よって,銀行に要求されるCCBは,それらを加重平均すること によって算出される。
このようなCCBの特性を本稿のモデルで表される自己資本比率規制の制約式に反映さ せると,自国銀行および外国銀行それぞれについて,次式のように示される。
EA
μAALAA+μABeLAB
侒ϕ+ϕA
μAALAA
μAALAA+μABeLAB
+ϕB
μABeLAB
μAALAA+μABeLAB (16)
EB
μBA1eLBA+μBBLBB
侒ϕ+ϕA
μBA1eLBA
μBA1eLBA+μBBLBB
+ϕB
μBBLBB
μBA1eLBA+μBBLBB (17)
ここで,(16)式および(17)式の両式において,ϕは(従来の)最低所要自己資本比 率であるので,各国共通の最低水準である18)。また,第 2 項および第 3 項はそれぞれ,A 国およびB国の貸出に対して課されるカウンターシクリカルな追加資本バッファーを表 している。すなわち,ϕAはA国の貸出に対して課されるCCBの最低所要自己資本比率 であり,ϕBはB国の貸出に対して課されるCCBの最低所要自己資本比率を示している。
ϕAおよびϕBはそれぞれ,外生ショック(εAおよびεB)と以下のような関係になる。
ϕA=ϕ(εA A) , ∂ϕA
∂εA>0 and ϕB=ϕB(εB) , ∂ϕB
∂εB>0 (18)
また,リスク・ウェイトの表記について,μAAは自国銀行による自国への貸出(LAA)に 対するリスク・ウェイト,μBAは外国銀行による自国(A国)への貸出(LBA)に対するリ スク・ウェイト,μABは自国銀行による外国への貸出(LAB)に対するリスク・ウェイト,
μBBは外国銀行による外国(B国,すなわち外国銀行にとっての自国)への貸出(LBB)に 対するリスク・ウェイトをそれぞれ表している。さらに,μAAおよびμBAは,自国(A国)
の外生ショックεAに依存するのに対し,μABおよびμBBは,外国(B国)の外生ショックεB
に依存すると仮定する19)。すなわち,正の外生ショック(εi>0(i=A, B))の場合,(自 国または外国の)金融市場のリスクが低下するため,リスク・ウェイトは低下する。よっ て,リスク・ウェイトと外生ショックの関係は,以下のように表される。
∂μAA
∂εA <0 , ∂μBA
∂εA <0 , ∂μAB
∂εB <0 , ∂μBB
∂εB <0 (19)
以上により,開放経済における自国銀行の最適化問題は,(11)式および(16)式を条 件として(14)式を最大化する。すなわち,以下のように表される。
max rLALAA+erLBLAB−rEEA−c 2L2AA−c
2(eLAB)2
s.t. LAA+eLAB=DA+EA (P2)
and EA
μAALAA+μABeLAB
侒ϕ+ϕA
μAALAA
μAALAA+μABeLAB
+ϕB
μABeLAB
μAALAA+μABeLAB
この最適化問題(P2)を解くと,自国銀行の最適貸出量(L*AAおよびL*AB)は,次式の ように示される20)。
L*AA=rAL−rE(ϕ+ϕA)μAA
c (20)
L*AB=rBL−rE(ϕ+ϕB)μAB
ec (21)
ここで,各国の外生ショックεi>0(i=A, B)による最適貸出量(L*AAおよびL*AB)に 対する影響について考察する。(20)式および(21)式をそれぞれεAおよびεBについて偏 微分すると,以下の式が得られる。
∂L*AA
∂εA =1 c
∂rAL
∂εA−r(ϕ+ϕE A) c
∂μAA
∂εA −rEμAA
c
∂ϕA
∂εA (22)
∂L*AB
∂εB =1 ec
∂rLB
∂εB−r(ϕ+ϕE B) ec
∂μAB
∂εB−rEμAB
ec
∂ϕB
∂εB−rLB−rE(ϕ+ϕB)μAB
e2c
∂e
∂εB (23)
一方,開放経済における外国銀行の最適化問題は,(12)式および(17)式を条件とし て(15)式を最大化する。すなわち,以下のように表される。
LAA,LAB
max 1
erLALBA+rBLLBB−rEEB−c
2
(
1eLBA)
2−c2L2BBs.t. 1
eLBA+LBB=DB+EB (P3)
and EB
μBA1eLBA+μBB LBB
侒ϕ+ϕA
μBA1eLBA
μBA1eLBA+μBB LBB
+ϕB
μBBLBB
μBA1eLBA+μAB LBB
この最適化問題(P3)を解くと,外国銀行の最適貸出量(L*BAおよびL*BB)は,次式の ように示される21)。
L*BA=erLA−r(ϕ+ϕE A )μBA
c (24)
L*BB=rBL−rE(ϕ+ϕB )μBB
c (25)
ここで,各国の外生ショックεi>0(i=A, B)による最適貸出量(L*BAおよびL*BB)に 対する影響について考察する。(24)式および(25)式をそれぞれεAおよびεBについて偏 微分すると,以下の式が得られる。
∂L*BA
∂εA =e c
∂rLA
∂εA−er(ϕ+ϕE A ) c
∂μBA
∂εA−erEμBA
c
∂ϕA
∂εA+rAL−rE(ϕ+ϕA)μBA
c
∂e
∂εA (26)
∂L*BB
∂εB =1 c
∂rLB
∂εB−rE(ϕ+ϕB ) c
∂μBB
∂εB −rEμBB
c
∂ϕB
∂εB (27)
以上により,(9)式,(20)式および(24)式から,開放経済におけるA国の最適総貸 出量(LA*は,次式のように示される。
LA*=L*AA+L*BA=(1+e)rLA−r(ϕ+ϕE A)(μAA+eμBA)
c (28)
また,(10)式,(21)式および(25)式より,開放経済におけるB国の最適総貸出量
(LB*)は,次式のように示される。
LBA,LBB
LB*=L*AB+L*BB=(1+e)rBL−rE(ϕ+ϕB)(μAB+eμBB)
ec (29)
ここで,自国の外生ショックεi>0(i=A, B)による各国の貸出量(LA*およびLB*)に 対する影響について考察する。(28)式および(29)式をそれぞれεAおよびεBについて偏 微分すると,以下の式が得られる22)。
∂LA*
∂εA= 1+e c
∂rLA
∂εA−rE(ϕ+ϕA) c
∂μAA
∂εA−erE(ϕ+ϕA) c
∂μBA
∂εA −r(μE AA+eμBA) c
∂ϕA
∂εA
+rLA−rE(ϕ+ϕA)μBA
c
∂e
∂εA (30)
∂LB*
∂εB= 1+e ec
∂rLB
∂εB−r(ϕ+ϕE B) ec
∂μAB
∂εB −r(ϕ+ϕE B) c
∂μBB
∂εB−r(μE AB+eμBB) ec
∂ϕB
∂εB
−rLB−rE(ϕ+ϕB)μAB
e2c
∂e
∂εB (31)
ここで,2 国間における自己資本比率規制(BIS規制)によるプロシクリカリティ問題 について考察する。この問題点は,両国の貸出市場いずれに基づいても同様に説明する ことができるので,本稿では,これ以降,A国の貸出市場に焦点を当てる。
まず,固定為替相場制度下(∂e ⁄∂εA=0)における自己資本比率規制によるプロシクリ カリティ問題について解説する。バーゼルⅠ・BIS規制では,一般的にリスク・ウェイト は経済情勢の変化(本モデルの場合,外生ショックεA)に応じて変動しない。そのため,
(30)式において,最適貸出量(LA*)の変動要因は第 1 項のみとなり,貸出(ポートフォ リオ)の収益率の変化のみに依存する。すなわち,最適貸出量(L*A)の変化量は,貸出
(ポートフォリオ)の収益率の変化量と正の関係にある。
一方,バーゼルⅡ・BIS規制では,(19)式で示されるように,リスク・ウェイトは経 済情勢の変化(この場合,外生ショックεA)と負の相関があるように設定されている。そ のため,(30)式において,最適貸出量(LA*)の変動要因には,第 1 項に加えて第 2 項お よび第 3 項(ただし,ϕA=0 とする)も含まれる。よって,バーゼルⅡ・BIS規制下にお ける外生ショックεAによる貸出量への影響は,(30)式の第 2 項および第 3 項の分だけ貸 出量の変動を(バーゼルⅠ・BIS規制に比べて)ボラタイルにする。すなわち,(30)式 の第 2 項および第 3 項が,バーゼルⅡ・BIS規制によるプロシクリカリティ問題を表し
ている。
また,変動為替相場制度下(∂e ⁄∂εA<0)の場合,自己資本比率規制によるプロシクリ カリティ問題は,本質的には上述のように解説される。ただし,(30)式において,第 5 項の存在(ただし,ϕA=0 とする)により,バーゼルⅡ・BIS規制の導入によるプロシク リカル効果は,固定為替相場制度下におけるそれよりも小さくなる。これは,外生ショッ クによる自国通貨の変動が,自律的に自国の貸出市場のプロシクリカリティをある程度 抑制するためである。
4.2 CCB の導入
4.1 節では,開放経済でのCCB導入以前の自己資本比率規制(すなわち,バーゼルⅠ・
BIS規制およびバーゼルⅡ・BIS規制)下における貸出市場のプロシクリカリティ問題を 明らかにした。ここでは,2 国間のクロスボーダー貸出が存在する場合におけるCCBの 導入について解説する。
A国の金融当局は,前述のプロシクリカリティ問題に対処するために,自国の貸出市 場において,CCBを導入した自己資本比率規制を課す。このとき,A国の金融当局によ るCCBの設定は,第 3 節と同様に,貸出量が自国内の外生ショックεAに対して増加する 一方で,従来の自己資本比率規制下における貸出量の変動よりも縮小するようなものと ならなければならない。すなわち,以下の式が成り立つようにCCBを設定する限り,A 国の金融当局は,自国の外生ショック(εA)による貸出量の影響(プロシクリカリティ問 題)を低減させることができる。
−ϕA μAA
∂μAA
∂εA<∂ϕA
∂εA< 1 rEμAA
∂rLA
∂εA−ϕ+ϕA μAA
∂μAA
∂εA (32)
ただし,自国(A国)の金融当局は,自国銀行による(B国への)クロスボーダー貸出
(L*AB)に対するCCBの設定(すなわち,ϕBおよび∂ϕB⁄∂εBの設定)を行うことができな い。これは,外国(B国)においてCCBの設定が,B国の金融当局に委ねられているた めである。
また,自国の金融当局は,自国の外生ショックに対する外国銀行におけるリスク・ウェ イトの感応度(ここでは,∂μBA⁄∂εA)を考慮してCCBを設定しない。これは,当該リス ク・ウェイトの設定に関する規制についても,外国(B国)の金融当局に委ねられている ためである。
A国のケースと同様に,B国の金融当局は,前述のプロシクリカリティ問題に対処する ために,自国の貸出市場において,CCBを導入した自己資本比率規制を課す。上記と同 様の方法により,以下の式が成り立つようにCCBを設定する限り,B国の金融当局は,
自国の外生ショック(εB)による貸出量の影響(プロシクリカリティ問題)を低減させる ことができる。
−ϕB μBB
∂μBB
∂εB <∂ϕB
∂εB< 1 rEμBB
∂rBL
∂εB−ϕ+ϕB μBB
∂μBB
∂εB (33)
ただし,外国(B国)の金融当局は,外国銀行による(A国への)クロスボーダー貸 出(L*BA)に対するCCBの設定(すなわち,ϕAおよび∂ϕA⁄∂εAの設定)を行うことができ ない。これは,A国におけるCCBの設定が,A国の金融当局に委ねられているためであ る。
また,外国(B国)の金融当局は,自国(ここではB国)の外生ショックに対する外 国銀行(ここでは,A国の銀行)におけるリスク・ウェイトの感応度(ここでは,∂μAB
⁄∂εB)を考慮してCCBを設定しない。これは,当該リスク・ウェイトの設定に関する規 制についても,外国(ここではA国)の金融当局に委ねられているためである。
4.3 CCB によるプロシクリカリティ低減効果の限界
ここでは,4.2 節で示されたCCBの設定および各国の金融当局の権限に留意して,CCB 導入による各国の総貸出量のプロシクリカリティ低減効果について検証する。本稿では,
自国(A国)の貸出市場におけるCCB導入の効果について焦点を当てる。(30)式より,
自国の貸出市場に対する国内の外生ショックの影響は,以下のように示される。
If ∂ϕA
∂εA< 1+e rE(μAA+eμBA)
∂rLA
∂εA− ϕ+ϕA
μAA+eμBA
(
∂μ∂εAAA+e∂μBA∂εA
)
+rALr−r(μE E(ϕ+ϕAA+eμABA)μ)BA∂e
∂εA
then ∂LA*
∂εA>0 (34a)
If ∂ϕA
∂εA> 1+e r(μE AA+eμBA)
∂rLA
∂εA− ϕ+ϕA
μAA+eμBA
(
∂μ∂εAAA +e∂μBA∂εA
)
+rLA−rrE(μ(ϕ+ϕEAA+eμABA ))μBA∂e
∂εA
then ∂L*A
∂εA<0 (34b)
このとき,A国の金融当局は,自国の貸出市場において,CCBを導入した自己資本比 率規制を課しているため,(32)式で示されるようなA国の金融当局によるCCBの設定 条件を考慮しなければならない。よって,CCBを介した自国の貸出市場に対する国内の 外生ショックεAによる影響について,次の命題が得られる。
命題 1.
開放経済において,CCBの導入は,以下の式で示されるように,必ずしも貸出市場の ボラティリティを緩和させるとは限らず,むしろ自国内で正の外生ショックが生じた場 合に,外国銀行から自国への貸出を過度に減少させ,自国の総貸出量も減少させる。
If μBA
μAA> r(ϕ+ϕE A)∂μBA
∂εA−∂rLA
∂εA −rLA−r(ϕ+ϕE A)μBA
e
∂e
∂εA
⁄
rE(ϕ+ϕA)∂μ∂εAAA−∂r∂εALAand 1+e rE(μAA+eμBA)
∂rLA
∂εA− ϕ+ϕA
μAA+eμBA
(
∂μ∂εAAA +e∂μBA∂εA
)
+rLAr−r(μE (ϕ+ϕEAA+eμABA)μ)BA∂e
∂εA
<∂ϕA
∂εA< 1 rEμAA
∂rLA
∂εA−ϕ+ϕA μAA
∂μAA
∂εA
then ∂LA*
∂εA<0 (35)
命題 1 の証明は,補論Bで示されている。なお,上述の自国(A国)に対する検証方 法を外国(B国)の貸出市場におけるCCB導入の効果に適用させると,外国の貸出市場 におけるCCB導入の影響についても,同様の結果が得られる。
命題 1 より,開放経済において,(35)式の条件式で示されるようなCCBが導入され た場合,CCBが貸出市場で過度に作用することになり,自国内で正の外生ショックが発 生したとしても,自国の総貸出量が減少するという非効率性が生じることになる。
すなわち,自国内における自国の貸出のリスク・ウェイト水準に対する自国(A国)か ら見た外国(B国)の貸出のリスク・ウェイト水準の比率がある閾値を超え,かつCCB の外生ショックに対する感応度(∂ϕA⁄∂εA)が比較的高い場合,CCBの導入は,自国銀行 による国内の貸出量を効率的に抑制する一方で,外国銀行による自国への貸出量を過度 に抑制するため,自国の総貸出量が減少するという非効率性が生じる。これは,自国の 外生ショックが自国銀行の自国への貸出のリスク・ウェイトに与える影響と,外国(B国 の)銀行の自国(A国)への貸出のリスク・ウェイトに与える影響が異なるためである。
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