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地域通貨は地域社会にどのような繋がりをもたらすのか : 地域通貨ピーナッツの事例をもとに

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Academic year: 2021

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ついては,政治学者であるロバート・パットナ ム(Robert D. Putnam)が代表的な論者の一人 であり,アメリカで地域通貨の一つであるタイ ムバンクを設計したエドガー・カーン(Edgar S. Cahn)が地域通貨を導入する核となる価値 の一つとして位置づけたソーシャル・キャピタ ルの議論に準拠するものである(Edgar[2000 =2002])。 上記のような各理論や成功例をもとに地域通 貨導入の効果が語られることが多かったが,地 域通貨が地域の経済社会に何をもたらすのかを 示すための詳細な調査研究は,未だ十分である とは言い難い。地域社会における地域通貨導入 の効果に関して,質問紙調査およびインタビュ ー調査に加えて地域通貨取引の社会ネットワー ク分析を試みた研究を先駆的に行ってきたのは, 中里・大槻・鐘ヶ江(2005),中里(2006),西 部他(2005)や吉地・西部(2006)などに見ら れる程度であった2) 。このような状況では,地 域通貨は理屈倒れと非難されても反論が難しい。 そのため,本稿は,量的な面および質的な面か ら,地域社会における地域通貨導入の効果の程 度を考察することが主眼となってくるが,国内 だけでも2008年12月現在で259もの地域通貨(図 1)がある中で,どの地域通貨を分析対象とす ることがもっとも地域通貨の可能性を明示する ことが出来るであろうか。 日本の地域社会における地域通貨導入の効果 を明らかにするためには,継続的に活動し地域 社会に何らかの影響を与えている可能性が高い 地域通貨を分析対象とすべきであり,その地域 通貨を量的にも質的にも分析することで,初め て地域通貨の効用を具体的に語ることが出来よ う。そこで,筆者の一人(泉)が継続的に実施 している地域通貨稼働状況調査3) の結果を用い て,日本の地域通貨の傾向を把握し,どの地域 通貨を分析対象とすればよいかを見てみる。ま ず個々の地域通貨の継続性について注目する。 表1は,それぞれ前回の調査以降に新規で立ち 上げられ,当該調査時点まで稼働していた地域 通貨個々の継続性を見たものである。例えば, 「2002年4月新規」の行を見てみよう。イタリ ックで表記した72というのは,2001年5月∼ 2002年4月の間に新規で立ち上げられ,2002年 4月の時点でも稼働していた地域通貨の数を示 している。そして,その72の地域通貨について, 各調査時点での稼働数を計測した結果,2003年 4月時点で67,2005年1月時点で44となってお り,2008年12月時点で継続していたのは28(継 続率38.9%)となっている。また,2002年5月 ∼2003年4月に新規で始められた地域通貨は 74,2008年12月時点まで継続していたのは24 (継続率32.4%)ともなっている。資料精度は, 調査手法や地域通貨の発行主体の性質上必ずし も高くはないが,立ち上げて1∼2年の内に 40%前後の地域通貨が活動を中止している。短 期間に活動を中止している地域通貨の過半は, 円貨のみを価値基準としたり,円貨との換金性 があるものとなっており,この比率は地域通貨 全体から見ても高いものとなっている。 それでは,長期間にわたり取り組まれている 地域通貨はどのような特徴を持っているのであ ろうか。2008年12月の時点で,8年以上取り組 まれている地域通貨は51あったが,その運営主 2)現在はこの状況が変わりつつある。地域通貨取引のネットワーク分析の代表的な研究例として,吉地・栗 田・丹田・西部(2007),西部(2008),Collom(2012),Nakazato & Hiramoto(2012)などがある。 3)各々の時点で明らかに休止や中止を名乗っておらず,地域通貨を用いた取引が約半年以内に確認できたも

のを稼働中と定義づけている。その確認方法は,運営団体への電話もしくは電子メール,ホームページでの 個別確認を主として,半年以内の調査に基づいた報告書や新聞記事等による間接的確認も用いた。調査項目

は,!地域通貨名,"事務局所在地,#発行主体,$価値基準,%発行システム,&換金性などである。な

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量を取引行為の状況把握のために挙げておこう。 社会ネットワーク論的に定義すれば,年間取引 量は重み付けられた取引ネットワーク内の紐帯 の値の総和になる。ピーナッツの年間取引量は 平均して2,600.1回であり,一日に7.12回,一 週間あたり約50回程度の取引が行われている。 この取引量を各期間内に実際に取引を行った個 人および事業者の規模(行為者の数)の平均で 割ると,一人/事業者あたり年間5.97回の取引 を行っていることになる。 だが,先の取引グラフにおいて確認されたよ うに,取引が会員間で遍く行われているわけで はない。実際,2000年2月∼2010年6月までの ピーナッツの総取引量のうち,「個人から事業 者」への取引が87%を占め,次いで「事業者か ら事業者」への取引が約6%,「事業者から個 人」への取引が約4%であり,「個人から個人」 への取引はほとんど行われていない。 次に取引ネットワークにおける構造的特徴量 を把握することによって,ピーナッツにおける 人と人との繋がり方の詳細を見てゆこう。表2 は,ピーナッツの取引ネットワークの構造的諸 特徴である。 取引ネットワークの「密度」は平均して0.001 と低く,疎な(取引ネットワーク内のほとんど の二者間の組み合わせにおいて紐帯が存在しな い)ネットワーク構造になっていることがわか る。一般に,密度の高いネットワークがその網 の目の中の行為主体の行為に同質性と制約をも たらすのに対して,密度の低いネットワークは まばらに繋がった行為主体の行為に多様性と自 由をもたらすと言われる。各人が好きなときに 自分の欲する多様なモノやサービスを取引でき る,という地域通貨ピーナッツのシステムは, 後者に近い状態をもたらすものと言えるだろう。

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地域通貨の取引やそれに関係する活動の源泉部 分から周辺に取り組みが拡がっていくまでには, それなりの時間がかかっているのがわかる。源 泉であるピーナッツクラブ西千葉が設立される のは開始から3年後,第三土曜市を除く地域イ ベントは6年後,会員向けイベントは3年後, 千葉大学の学生団体との提携が本格化するのは 5年後,そのほかの様々な共同事業は6年後な どとなっている。外部向けイベントやピーナッ ツシステムの普及は中心的な人物や組織の努力 のみでも可能となるが,地域内の様々な活動の ほとんどがそれらの努力だけでは成立しないも のである。地域通貨ピーナッツの取引が継続的 に行われ,取引のたびに「アミーゴ」と言って 握手をすることで,単なる通貨のやりとりで終 わらず人と人の距離を縮めたりすることなどに よって,人と人の新たな繋がりや信頼関係が培 われていく。 前節の分析でわかっていることだが,活動の 源泉となる3店舗,壁の穴,ぎやまん亭,MA-DOKA 美容院との取引関係が重要な結びつき となっている。そして,これらの関係が各種取 り組みの発生の背景になっていると考えられる。 また,開始後5年後ごろから,様々な取り組み が一気に発生するのは,ピーナッツ自体にブラ ンド効果が発生してきたためと思われる。すな わち,西千葉のマチで何か社会的な取り組みや イベントをするなら,ピーナッツ関係者と提携 した方が良いという信頼性がピーナッツのシス テムやピーナッツの活動の源泉に付与されたの であろう。言い換えれば,新しくできた繋がり が,さらなる繋がりをもたらしているとも言え る。

4.おわりに

日本における地域通貨の取り組みは,2005年 頃をピークにして下降気味であるが,その中で も,毎年,新規の地域通貨が立ち上げられ,ま た継続的に取り組まれている地域通貨も少なか らずある。その意味では,地域通貨は何かを地 域社会にもたらすことがいまだ期待され,そし て実際に何かをもたらしているものもあると考 えられる。しかし,もたらしているものが何か はこれまであまり明瞭ではなく,初期の段階か ら地域通貨は理屈倒れと非難されることも少な くなかった7) 。 本稿では,国内において長期にわたり活動を 行っている地域通貨の代表例として地域通貨ピ ーナッツを取り上げ,約10年間の取引記録を用 いた社会ネットワーク分析と,中心的なメンバ ーからの聞き取りからこれまでの活動の歴史を 整理し,ピーナッツに関わる取り組み全体の構 造的特徴についての解釈を行った。前者の量的 分析を後者の質的分析をあわせると次のような ことが見えてくる。 地域通貨ピーナッツでは,新しい会員が次々 と現れ,取引関係が続々と生み出されることで, 新たなネットワークを形成しているといえるが, そのネットワークは,特定の事業者,MADOKA 美容院を筆頭にして,壁の穴,ぎやまん亭の3 店舗との接続が多くを占めている。三者関係以 上の多角的な取引も少なく,個人と個人の取引 は少ないことなど,形成されたネットワークは 薄くて弱いものである。その薄くて弱いネット ワークが構築されていく中で,ピーナッツクラ ブ西千葉やその周辺のメンバーが主体となった イベント・会合などが,2004年以降,間断なく 生まれている。1998年までは商店会すらなく, 夏祭りも行われていなかったような地域社会で,

7)翻訳家であり評論家である山形浩生が,2001年に Web マガジンである Hotwired(現 WIRED VISION)に

寄稿した「地域通貨って,そんなにいいの?」(http : //cruel.org/hotwired/hotwired23_01.html,2012年12月

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様々な活動がわき起こったのである。すなわち, 地域通貨ピーナッツの取引が,地域社会に地縁 や血縁などとは異なる新たな繋がり,友人とま では言えず顔と名前を知っている程度の繋がり ではあるが,その繋がりが,地域社会にこれま でなかったうねりを起こしている可能性が高い と言える。 今後の研究の課題としては,理論面では地域 通貨とソーシャル・キャピタルの関係性,分析 面ではネットワーク分析と聞き取り調査に基づ く分析の詳細な関連性などの詳細な検討である。 これらに関して,今後,明らかにしていくこと で,地域通貨ピーナッツが地域社会にもたらし たものをさらにはっきり示すことができ,地域 通貨のもたらす実質的な利益についても一定の 結論を導き出すことができると考える。 参考文献 泉留維(2005)「フレデリック・ソディの貨幣論と枯 渇性資源についての再考」『専修経済学論集』39 (2):63―100. 泉留維(2006)「日本における地域通貨の展開と今後 の課題」『専修経済学論集』40(3):97―133. 泉留維(2013)「日本における地域通貨制度」西部忠 編著『地域通貨(福祉+α)』ミネルヴァ書房. 中里裕美(2006)「地域通貨が作用する人と人との関 係構造」『赤門マネジメント・レビュー』5(2): 77―92. 中里裕美・大槻知史・鐘ヶ江秀彦(2005)「人間関係 構築手段としての地域通貨システムに関する研 究―スウェーデンの LETS を事例として」『地域 学研究』35(3):719―736. 西部忠編著(2005)『苫前町地域通貨流通実験に関す る報告書』北海道商工会連合会. 西部忠(2008)「地域通貨の流通ネットワーク分析― 経済活性化とコミュニティ構築のための制度設 計に向けて」『情報処理』49(3):290―297. 丸山真人(1995)「経済循環と地域通貨」室田武・多 辺田政弘・槌田敦編著『循環の経済学』学陽書 房. 丸山真人・森野栄一(2001)『なるほど地域通貨ナビ』 北斗出版. 村山和彦・塚田幸三(2001)『地域通貨の可能性―ピ ーナッツ実践報告』千葉まちづくりサポートセ ンター. 結城剛志(2006)「R・オゥエンとJ・ウォレンの労 働証券論」『経済学史研究』48(2):19―35. 吉地望・西部忠(2006)「地域通貨流通ネットワーク」 『進化経済学論集』10:317―326. 吉地望・栗田健一・丹田聡・西部忠(2007)「地域通 貨を通じた社会関係資本形成への多面的接近」 『経済社会学会年報』29:207―221.

Cahn, Edgar S.(2000)No More Throw-away People : the Co-production Imperative, Washington, D.C. : Essential.=(2002)ヘロン久保田雅子・茂木愛一

郎(訳)『この世の中に役に立たない人はいない―

信頼の地域通貨タイムダラーの挑戦』創風社出 版.

Collom, E.(2012)“Key Indicators of Time Bank Par-ticipation : Using Transaction Data for Evalu-ation,” International Journal of Community Cur-rency Research,16(A): 18―29.

Jacob, J., Brinkerhoff M., Jovic, E. and Wheatley, G. (2004)“The Social and Cultural Capital of Com-munity Currency : An Ithaca HOURS Case Study Survey,” International Journal of Community Cur-rency Research,8: 42―56.

Nakazato, H. and Hiramoto, T.(2012)“An Empirical Study of the Social Effects of Community Curren-cies,” International Journal of Community Cur-rency Research,16(D): 124―135.

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