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高松塚古墳壁画の色料に 関する材料調査報告

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Academic year: 2021

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32 奈文研紀要 2014

1 はじめに

 高松塚古墳壁画材料調査班では壁画の各図像の彩色部 について、材料(色料)の調査をおこなっている。ここ では、近年の調査結果から西壁女子群像に使用された色 料について、いくつかの知見が得られたので報告する。

2 分析方法

 調査は蛍光X線分析(XRF)とともに可視分光分析

(VIS)の反射スペクトル測定をおこなった。分析は、Y 字型光ファイバーユニットを取り付けた日本分光製分光 光度計MV-2020(プローブ光源内臓)を使用し、非接触で 実施した。測定条件は次のとおりである。

波長範囲:400-968nm、測定時間:0.5秒×120回 距離:3㎝、プローブ光照射径:1㎜

3 結果と考察

 図Ⅰ-38に西壁女子群像のスキャニング画像と推定色 料を示す。分析結果から、図像の中で、目視によって赤 色と認識できるのは、『人物像の赤色衣』と『唇』、『頬』、

『各人物像の裳』、『緑色衣の人物像の帯』の部位である。

この中で『唇』、『頬』、『裳』、『帯』についてはXRF分 析の結果から水銀が特徴的に検出されており、VIS分析 の結果からも朱(辰砂)であると判断された。その他、

青色、緑色の部分については、XRF分析の結果から銅 が特徴的に検出されており、VIS分析の結果からも青色 が群青、緑色が緑青であると推定される。

赤色衣の分析結果  赤色衣のXRF分析の結果、主とし てカルシウム、鉛が検出された。水銀は微量であるが検 出された。カルシウムは漆喰から、鉛は漆喰表面に塗ら れた鉛白の可能性が考えられる。検出元素の中で鉄の検 出強度は周囲の土汚れと同程度か、やや高めの検出強度 を示した。図Ⅰ-39に『赤色衣』7、8、10と比較色料 のベンガラ、赤土の反射スペクトルを示す。

 分析の結果、特定波長の変曲点と600nm ~960nmに おける凸凹ピークのパターンはベンガラ、代赭、赤土と いった酸化鉄系赤色顔料の特徴を有していることがわ

かった。

黄色衣の分析結果  XRF分析とVIS分析も10箇所の測 定点でおこなった。『黄色衣』のXRF分析の結果、赤色 衣と同じく主としてカルシウム、鉛が検出された。検 出元素の中で鉄の検出強度は余白部分よりもやや高い 結果が得られた。VIS分析の結果、特定波長の変曲点と 450nmのピークパターンは稲荷黄土のそれともっとも近 似していることがわかった。

青色裳の分析結果  図Ⅰ-40に『赤色衣の人物像の青色 裳』の襞の列番号を記入したマクロ画像を示す。マクロ 撮影の結果から、裳の全域に使用された青色色料には青 色の粒子とわずかに緑色の粒子を確認することができ た。また裳の一部において、表面が赤みを帯びている部 分があり、青色との重なりによって混色にみられること がわかった。ただし、混色部において、赤色を帯びた粒 子は確認できなかった。『青色裳』のXRF分析の結果、

主としてカルシウム、銅、鉛が検出された。特に銅が強

高松塚古墳壁画の色料に 関する材料調査報告

図Ⅰ︲₃₈ 西壁女子群像のスキャニング画像と推定色料

図Ⅰ︲₃₉ 『赤色衣』7、8、₁₀と比較色料(ベンガラ、赤土)の反射スペクトル

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Ⅰ 研究報告 33 く検出されており、青色色料については群青が用いられ

ていることが考えられる。またわずかに水銀が検出され ている。

 図Ⅰ-41に『青色裳』8、9、23、24、25と比較色料 の臙脂、朱、群青の反射スペクトルを示す。『青色裳』

の青色部については、群青ともっとも近似した反射スペ クトルを示すことがわかった。一方で、混色部の反射ス ペクトルについては、550nmに特徴的なピークと580~

590nmにおいて変曲点を確認することができる。これら は青みが強い部位からは確認できないことから、赤色色 料に由来すると考えられる。そこで朱と、各種天然染料 の反射スペクトルと対比をおこなった。使用した色料は 表Ⅰ-8に示した。

 各色料との比較の結果、朱は変曲点が550~560nmに あり30nm前後離れていること、550nm周辺に反射ピー クが存在しないことから、朱の可能性は低いと考えられ る。一方で天然染料については臙脂の反射スペクトルが 混色部に近いパターンを示すことがわかった。ただし、

混色部と臙脂では変曲点が580~590nmと一致している が、反射ピークについては、混色部では550nmに現れる のに対して臙脂は565nmとやや異なる。そこで、青色裳 の混色部と実験試料の分光スペクトルの比較をおこなっ た結果、色の濃さによっては反射ピークが555nmまでシ フトすることがわかった。赤色色料については今回比較 した色料の中では臙脂がもっとも適合したが、さらなる 検討が必要である。

4 ま と め

 高松塚古墳壁画西壁女子群像に関する近年の材料調査 班の調査結果から、壁画に使用された色料としては赤色 には朱が、緑色には緑青が、青色には群青が用いられて いると判断した。一方で、赤色と黄色の衣については酸 化鉄系顔料が使用されていること、特に『赤色衣』には 赤土に、『黄色衣』には黄土に近い色料が用いられてい ることがわかった。また、『赤色衣』の人物像の『青色裳』

については、青色部と青色と赤みを帯びた混色部が存在 することがわかった。青色と混色は襞ごとに使い分けら れており、青色-混色-青色の縞模様であることを確認す ることができた。混色部の赤色色料については顔料と染 料の両方について検証をおこなっており、今後の課題と

したい。

(赤田昌倫・田村朋美・脇谷草一郎・降幡順子・高妻洋成  東文研/吉田直人・早川典子・杉津信明・早川泰弘・岡田健)

図Ⅰ︲₄₁ 『青色裳』と比較色料の臙脂、朱、群青の反射スペクトル 図Ⅰ︲₄₀ 『赤色衣の人物像の青色裳』のマクロ画像

表Ⅰ︲8 使用した色料

赤色 備考 黄色 備考

ベンガラ

顔料

黄土 顔料

代赭 稲荷黄土

朱土 蘗

染料

赤土 刈安

辰砂 欝金

鉛丹 梔子

日本茜

染料

西洋茜 丁子

インド茜 檳榔子

臙脂 雌黄

紅花(赤) 紅花(黄)

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