老 人
.t 子 ど も の 共 生 ( 1 )
一
老 年 期 の 意 味 を 考 え る
‑生 田 貞 子
(20 03年1 0月2 0 日受 理)
A Study of Sy m biotic R elatio n sh ip bet w e e n Olde r Pe ople a nd C hildr e n
(
1)
‑ T he Rele v a n c e of・ O l de r' A ge‑
Sadako'I K U T A
E 」n ail:s adako@ edu.toya m a‑u.a cj.p
キ ー ワT ド: 教 育 老 人 子ども 超 越 共 生
Fey w o rds : edu c atio n, olde r pe ople ,ch ildr e n , tra n s c endenc e, s y mbio sis
1 .
は じ め
に毎 年9 月の敬 老の 日 が近づくと、 65歳 以 上の老 人 人口 や 日本 人の平 均 寿 命が新 聞 紙 上を か ざ る。
日本は今や世 界で もトップ をいく 長 寿 国であ る。
その 一 方で、 子 どもの出 生 率は極度に減少して、
総 人口に お け る高 齢 者の比 率が高 くなりつ つある。
近い将 来、 国 民の 4 人に1 人が高 齢 者に な る こと が予 想さ れ、 人口比 率が し だい に逆 ピ ラ ミ ッ ド型
の人口比 率に近づ く こと へ の不 安が加 速さ れ る。
そ う し た な かで、 政 府や地 方 自 治 体を初め と して
各 界 セ、 「 高 齢 者の生き が い と社 会 参 加」 の問 題 が、 関JL、を
痔
た れ る よ うにな っ て い る。高 齢 者と は、 老 人 福 祉 法で は6 5歳 以 上の老 人を 指し、 老 人 保 健 法で は 70歳 以 上の老 人を指 す。
̲ ま た 「 高 齢 化し た社 会」 と は、 国 連の定 義に よ れ ば 6 5歳 以 上の老 人 人口 が全 人 口 の7 パ ー セ ン トを 越え た社会 をいうと さ れT
Lいる
.o わ が国はすで に その比 率を は る かに超えて い る。 高 齢 社 会 化は、
国 民の平 均 寿 命の延 長と出生 率の低 下が直 接の原
因と な っ て生じる。 これ は わ カIs国‑だ けで なく、 欧 米な どの先 進工業 国に共 通の現 象である。 これ ら の国々 で は、 技 術 革 新と高 度工業 化や経 済 成 長な ど よ っ て、 人 々 の生 活 水 準が向 上 する ことで平 均 寿 命がの び る と と. もに、 婦 人の解 放や職 場 進 出や 教 育の高 度 化 高 学 歴 化な どに よっ て、 少なく 産ん
で手厚く育て ようとする 「少子 化」 現象が生じ、 一 層、 高 齢 社 会 化を促 進 することに な っ た。 な か
で も 日本は、 こ の高 齢 社 会 化‑ の テ ンポ が極めて
速か っ た国であ る。 高 齢 社 会の到 来は人 類にと っ
て は未 曾 有の経 験であ り、 そ れ がもた らす 影 響が 我々 の想 像を超え る,もの で あ ること を指 摘し たも
の と して、 『見え ざ る革 命』 が あ る。 こ の書 物は、
ア メ リカ とソ連を そ れ ぞ れの中 心とする東 西 世 界
の 政 治 的 対 立の さ な かに 書か れて お り、 「 退 職 年 齢に達し た年 金 生 活 者 層」 の増 大がもた らす 衝 撃 は、 我々 の思 考の習 慣を う ち砕 く 「 見え ざ る革 命」
と なり、 そ こ では政 治 的な体 制で は なく 生 産 性の 向 上が、 わけても 知 的 労 働の生 産 性をいかに高め る か が問 題に な る だ ろ う と述べ て いる1)0
その 後、 世 界 中で社 会 的に抑 圧さ れ た少 数 派の
人 権の尊 重や全 人 類の共 生と地 球 環 境 甲 保 全を目 標に、 よ り柔 軟に思 考し連 帯し よ う とすi さ ま ざ ま な運 動、 いわ ゆ るベ レ ス トロ イ
l
ヵ ( 新 思 考) が 起 きた. そ し七、 近 代 科 学 の 決 定 論 的機械 論 的な パ ラ ダ イ ム を突 破 する方 向で、 すべ て のもの は多 重に連 関して働き あ'い、 全 体と して絶えず 進 化し
て い る と考えて 、 世 界を 「 開か れ た、 自 己 組 織 化 するシス テ ム」 と して と ら え よ う とす.る全 ‑ 的 動 的 発 展 的な 理解が生ま れ た。 そこ で は、 近 代 合理 主 義 的な思 考と生 活に対 する批 判にもと づい て、
「 共 生」 を来るべ き時 代の 目 標と して 、 政 治や社 会や文 化の総 体 的な見 直し が行わ れ た。 政 治 的 対 立の終わ っ た 21世 紀に は、 もは や そ れ に追 従して い け ば間 違いが ない という よ う な政 治の体 制や思 想の モ デル は なくな っ た。 そ れに も か か わ らず、 世 界 人 類が当 面 する
由
難は か え ‑ て増 大して
い る。こう し た現 実の認 識に立 っ て、 我々が な お共 生を 目 標に積 極 的に生 きる た めには、 すべ て は関 連し あ? て存 在して い る という本 源に遡 っ て、 そ れ ぞ れ が生き ることの意 味を問い か け る必 要がある。
老 人 問 題にお い ても1 近 代 以 来の生 産 性 至 上 主 義 的な先 入
琴
を 一 度 括 弧に入れて、,老年 期の現 実 を あ りの ま まに受け入れ、 「 老い の意 味と可 能 性」を考え る とい う姿 勢が必 要にな る。 日本でも 昭 和 60年 代 頃か ら、 老 人 問 題や老 人 福 祉 や 老 人を対 象
に し た生 涯 学
智
の論 議や出 版 物が急 増して きて お り、 高 齢 社 会を2 1世 紀の避 けが たい課 題と して受 け 止め、 老 人の 生 きがい と社会 参 加 を 真 剣に考え るとと が必 要であ る との認 識が、 共 通のもの に なって きて い るo 吉田寿三郎は、 もし我々が これ まで
の よ うに老 年を人 生の終わり、 「 実 生 活か ら退い た余 生」 と考えて いる限り、 平 均 寿 命の延 長に伴 っ
て、 今
後
我々 は ますます 長く無 意 味な 「 老 残」 の 生 活に耐え ること を余 儀なくさ れ、 単に就 業 者の 経 済 的な負 担を増 すだ けで なく、、 精 神 的 社 会 的に あ ら た な深 刻な問 題 をひきお こすこ とに なるだ ろ う と述 べて̲い る
2'
o 老 人 福 祉 は生 活の保 障と とも
に、 ますます 長 くな る第 一 線か ら退い た後の人 生 考、 ど う と ら え る か という問 題、 つ ま り
イ
人 間の 尊 厳 性」 「 人 間の生き甲 斐」 との関 連で、 見 直し を迫ら れて い一るこ とに な る。老と死は、 ともに古 来か ら哲 学や宗 教な どの主
題であ っ た が、 生き がい や社 会 参 加 も 含めて老 年 期にたい する見 方の転 換が必 要た な ってい る。 こ
の小 論で は 「 共 生」 とい う視 点か ら.、 老 年 期を ど
のように 考え ればい い のか と い う 人 間 学 的 教 育 学 的な問い に つ い て考え る。 そ して、 その よ う な老 人との
̲「 共 生」 を必 要と して い るの は、 子どもで は ないか とい う問 題 意 識に つな ぐこと で、 「 老 人 と子ともの共 生」 の序 論とする。
2 .
老 年期
の意味 と 可 能性 ( 喪失 と 危 機
の
段階 を 超 え る )
長 寿 化や少 子 化に伴うライ フサイ クルの変 化や、
価 値 観や生き方の多 様 化な ど は、 長い間、 私た ち が も っ て い た人 間 発 達 観を根 本か ら覆して し ま っ た。 これ まで は、 人 間の成 長 発 達は乳 幼 児 期か ら 青 年 期まで の こ とで あ り、 成 人 期 以 降におきる精 神 的 な 変 化は発 達 的な変 化では なく、 個 人 差や個々 人の お か れ た状 況に対 する一適 応と して理 解さ れ る
こと が多か っ た。 人 間の生 涯は、 成 長 一 最 盛 一 老 化 ( 老 衰) という ひ とつ の大 きな山のイメ ー ジで
・と ら え ら れ、 老 年 期は衰 退の時で あ る と考え ら れ て き た. 生 物
学
的 発 達 曲 線はこれ に該 当 するo しか し人 類の寿 命が著し く延 長し、 老 年 期が長 期 化 して き た こと か ら、 現 在で は生 物 学 的 発 達 曲 線か らの定 義をこえて、 発
運
が と ら え ら れ る よ うになって きて い る。 最 近の老 年 学 分 野にお け る新しい 見 識は、 既 成の老 人イメ ー ジを 大 き く 変えて し丁る。
ま た現 実に、
高
齢でありな が ら立 派な社 会 的 活 動 を して い る人が多 く 紹 介さ れ た り、 そ れ らの 人々の著 述にな る書 物も多 く 出 版さ れ たりして い る。
し か し、 そ れ ら は個 人 主 義 的な観 点か らの 「 自 己
/
実 現」 と社 会 参 加の 姿で あ るこ と が多く、 老 年 期
の問 題 右 現 役の人 間の 目つまり 壮 年
者
の立 場と尺 度か ら考えて い るの で は ないか と思え るとこ ろに問 題がある。
ま た現 代の社 会は、 老い や その 先に あ る死を隠 蔽し タ ブ ー 視 して い る ともい わ れ る。 新 聞 ・ テ レ
ビ ? 雑 誌な ど を みて も、 過 剰な健康願 望の強 調が み ら れ る し、 若 者 中 心の 文 化や価 値 観が喧 伝さ れ て おり、 これに類 す一る感 覚は至る所に思い 出し う る。 現 代は若 者 志 向の社 会で あ り、 そ の反 面で老
人が片 隅に追いや ら れ、 老 人 蔑 視の思 想が拡が っ
て い る・。 老 人 自 身が 「 若々 しく 元 気で あ ること」 ‑ を誇 示 す′ること が あ る よ うに、 老い ること を拒 否 し よ う とする意 識は、 若 年 者の み な らず 老 人を も 包み込む拡が り を み せて い る とい っ て も過 言で は ない のが、 現 代の社 会の特 徴で あ声。 時と して、 .
女 性 自 身が女 性 差 別に気づ かぬ こと が あ る よ うに、
当の老 人 自 身が老 人 差 別に気づい てない こと も あ る。 果た して 若い ということがそれは ど価 値をも ち、 老い る ということ は反 価 値なの であろ う か と いう疑 問が.、 老い ることへ の不 安と ともに生じて くる。
わ が国の 場 合、 老 人の 自 殺は未 遂も含め る と、
統 計 上は世 界で も 高 位にあ る とい わ れて い る。 さ ま ざ まの心 身の衰 弱や喪 失と
.い う老 若を伴 っ た老 人の未 来は、 決して明るいと はい え ない。 負い目 を 背 負 っ た老 人にC
.i 、 「 死 よ、 お ま え の宣 言は な ん と あ り が たい こ と か」3) とオ リエ ン ト の 賢
考
が言 っ た よ うに 、 死さ一え救いと思え る
,日 が あ る か も し れ ない。 生 老 病 死とい う実 存 的な不 安や絶 望を は じ め と して、 人 生は決して思い通 りにな るもの
で もない。 その終 点が厳しい だ けの
琴
実な ら ば、人 生8 0年の 時 代の老 年 期は生き るに値し ない もの と なっ て し まう。 老い の 日々 に新た な意 味を
点
いだ し、 新た な価 値 を 創 造 する こと ばで き ないか。 すべて を喪 失しつ つ あ る老 年 期に あ っ て もな お生
き甲 斐を感じ、 生 涯 成 就の道に連な る よ う
な
生き方と は どの ようなもの であるの か、 老年期が そ れ 自 体 固 有の価 値と役 割をもっ て、 人 生の 「 完 成」
の時と み な さ れ、 人間の尊 厳に値し得る よ う な と ら え方が模 索さ れ な け れ ば ならない。
1 9 9 7年の 「 心 豊かで 活 力あ る長 寿 社 会づくりに
関 する懇 談 会」 ( 以 下、 懇 談 会) の 最 終 報 告は、 老 年 期を退 職 後 も 「より 自 由な立 場を生か して働
き、 楽し み、 社 会に貢 献 する」 「 第2 の 現 役 世 代」
と考え るべきであ る との提 案を し、 生き甲 斐づく り と健 康づくり を 一 体 的に と ら え る と
\
いう観 点か ら,の方 策を論じて い る4'。 老 人をも っ ぱら余 生を 生き る社 会 的な弱 者と み る通 俗 的な老 人 観は、 超 え ら れ な け れ ば な ら ないが、 老 年 期を と ら え る意
・識 変 革が、 自 立し た生 活と積 極 的な社 会 参 加の姿
に の■
み求め ら れ る とい うことに は、 多 少の た め ら
いが残る。 元 気な老 人に は、 こ の提 案は肯 定 的に 受け止め ら れ るであ ろ う。 し か し、 自 立して生 活
で き るほ ど元 気でない老 人は、 生き が いや社 会 参 加を どこ に革め れ ばい い のか とい う疑 問が、 生じ て く るに違い ない。
その後、 2 0 03年に発 表さ れ た厚 生 労 働 白 書 「 活 力あ る高 齢 者 像と世 代 間の新た な関 係の構 築」 は、 就 業や ボ ラ ンティア活 動が高 齢 者 自 身の 生き が い や健 康づく りに つな が る というに と ど ま らず、 世 代 間の新た な支え合い の仕 組み が重 要で あ る とい う問 題 提 議にまで踏
●
み込んで い る。 そ して2 0 04年
の年 金 制 度の改 革をも 視 野に入れつ つ 、 育 児な ど
の現 役 世 代が抱え る問 題の軽 減にも、 老 年 期 世 代 が役 立 っこ と を強 調して い る。 1 99 7年の 懇 談 会 最 終 報 告と異な り、 2 00 3
年
の厚 生 労 働 白 書の報 告に は、 世 代 間の支え合い や世 代 間の ワ ー ク シ ャア リン グ という 提案がある。 そ れ らの提 案は 「 共 生」
の視 点に支え ら れて お り肯 定 的に評 価で き る が、
「 第2 現 役 期」 と して生きて こ そ老 年 期が充 実 す る とい う と ら え方か ら は抜け出て い ない。 そ こ に
限 界が み ら れ る。
第2 の現 役 世 代と して の社 会 参 加は、. 老 年 期の 生き がい の 一 部に は な っ て も すべ て に は な りにく
い。 「 老 衰」 が避け が たい現 実で あ る以 上、 どの よ う な状 況におい ても 安JL、して 生を全うできる よ う な 「 老 年 期か らの 展 望」 に立 っ た生き が いと社 会 参 加が、 考え ら れ ね ば な ら ない。 人 生が 50年で
あ っ た時 代には、 70歳はまさ に 「 古 希」 であ っ七。 老 後を 「 余 生」 といわ れて も、 そ れ は 「 長 寿」 と 同 義に等しく、 そ う し た時 代の 老 人は、 現 役を退
いた後も決して無 為 徒 食して いた ね けで は ない。
戦 前だ けで なく 戦 後の 一 時 期まで、 農 村で は家 畜 甲 世 話、. 農 作 業の準 備や片 付け、 子 守り な ど は老 人の仕 事と みなさ れ、 村の行 事や寄り合い に は相 談 役と して の役 割 もあっ た。 こ のよ うに、 社 会の 仕 組み が比 較 的 単 純で変 化が緩や かで あ っ た時 代
に は,、 農 村のみ な らずいずこ の家 庭や集 落におい て
も
、 老 人の仕 事と生 活の う えで の経 験の多さ と 豊か さ が意 味を持 っ て、 応 分の社 会 参 加が家 庭と 社 会の シ ス・テム に当 然の ご とく 組み込ま れて いた。ま た、 家 族 倫理の 「 孝」 の対 象と して、 尊 敬さ れ 大 切にさ れ る存 在と して の位 置も得て い た。 社 会
の生 産が
.第 一 次 産 業を中JLりこして L
.、 た時 代に は、 老 人は人 生の 先 達と して の指 導 力をもち、 そ れに 相 応して の敬 意が払わ れて い た。 とこ ろ が、 第二 次 産 業か ら 第三次産業と い う 産業 構造 の複 雑 化が 生 じ る と と もに、 老 人に向け ら れて いた従 来の価 値と尊 敬は崩 壊して、 転 倒が生じて し ま っ た。
羊と さ. ら無 力な社 会 的 弱 者とい う.否 定 的な老 人 像が社 会に浸 透 するの は、 近 代 化 以
降
の社 会 現 象と考え ら れ る。 自 主 性、 生 産 性、 活 動 性な ど を評 価 基 準にする近 代の合理主 義 的な人 間 観と社 会 シ
ス テ ム は、 老 人を社 会 的 弱 者と して 位 置づ け、 正 当に評 価 する尺 度を見 失 っ て し ま っ たoL 確かに前 進 的な価 値 観で人 生の意 味を は か る な ら ば、 老 人
の 出 番は なくな る.。 その結 果、 現 代の社 会は意 識 的に も
痕
意 識 的にも 老い や死 を日常 生 活か ら隠 蔽 する と ともに、 老 人に 「 健や か さ」 と 「 自 助」.を 期 待 する よ うに
な
i たo̲ し か し、 人 生に おい て生あ る者が滅 すとい うこ■とは ど
、 確 実な事 実は ない。
ど れ は ど元 気な若 者に も老い の時は到 来 する し、
死も訪れ る。 ま た ど れ ほ ど多くa )仮 説や虚 構が生 ま れ よ う とも、 生 老 病 死の 四苦の 姿だ け は、 変わ
ら ない人生の実 相と して永 遠に存 在 する。 科
享
の力が ど れ′は ど時 代を席 巻し よ う とも、 宗 教 が 常に
生き延びて号て き たの=は その ゆ えで あ る。 老 人が 老 人であ る現 実 をあ りの ま まに受け入れて、 な お 尊 厳を保ち う る よ う な老 人 独 自の存 在理由と生き が い っい て、 私 達は明 確な答え を持ち たいもの で ある。
そ れ なくして右耳」 せ っかくの老 年 期の第二現 役 世 代 論 も、 現 役を補 助し若 年 労 働 力の不足を 補う だ けの社 会 的 適 応 策に と ど ま っ て し ま う。 そ して、
年 金 支 給の繰り延べ や福 祉 費を切り つ め る た めの
格 好の 理由 付けに さ れて し ま う。 確かに今日の 日 本で は、 退 職 後 も 元 気に働け る力を持 っ た老 齢 人 口 が増えて お り、 引き続い て適 切な働きの場が保 証さ れ た り、 その経 験や技 能や趣 味を活か して社 会 的に活 動し たり すること は、 疑い もな く老 人の 生 活を明るく 生き がいあ る もの にする。 ま た、. 出 生 率の低 下によ る労 働 人口の恒 常 的な減 少が見 込 ま‑れ る折か ら、 そ れ を補う意 味で も、 社 会に とっ て有 意 義であ る‑かもし れ ない。 し か しこ 老 人の ニ ー ズに あ っ た就 業や、 地 域 社 会 へ の貢 献を中 心と し
た社 会参加や、 生 涯 学 習 へ の参 加に み ら れ る趣 味 を は じ め とする個 人 的 主 観的な生き が い観に して も、 老 年 期の生き‑がい と社 会 参 加の尺 度を意 識 的 無 意識 的に 「 現 役 並み」 「 壮年期並み」 に お いて い る限り、 老 人が安 心して その生を全う す ること はでき ない はずで あ る。 現 役 世 代は、 老 年 期が自 分た ち と は全く違 っ た世 代で あ り、 そこか ら学ぶ もの が あ る という認 識に立 っ て 、 第二現 役 世 代 論 セ は ない、 老 年 期 独 自の社 会
参
加の哲 学とシ ステム を創り出さ ね ば な ら ない。
老 年 期は よく 人 生の 「 黄 昏」 に例え ら れ る。 加 齢と ともに生 命を支え る心 身の健 康と、 そ れ
ら
を維 持 する財 政 的 基 盤や社 会 的 役 割や さ ま、ざ まの人 間 関 係や、 自らの存 在の根 拠で あ
去
生 き 甲 斐 すら も 喪 失 する機 会が多 くな り、 不 安 定な状 況に 陥 り が ちで あ る。 こう し た事 態ゆ えに、′ 老 年 期は「 喪 失の段 階」 '
「 危 機の段 階」 といわ れ る。
,喪 失を通
して存 在の意 味が問わ れ てくる老 年 期は、 柔 軟 性 や適 応 性さ与 欠iチて い て、 さ ま ざ ま な変 化にすみ や かに対 処 すること が困 難な と きで も あ る。 こ の段 階を ど う受・け止め る か に よ っ て、一加 齢の意 味と姿 が全 く 変わ うてくる。,その こと から老 年 期の発 達 課 題と危 機は、 自 我の 統 合 対 絶 望であ る とい わ れ る。 そ れ まで所 有して いた権 力や富や健 康な どの
「 喪 失」 を恐れ る あ ま り、 喪 失 対 象 に 一 層の執 着 を示し た り、 もは や人 生は や り直し が き か ない と い う絶 望 感や慎 悩に陥い っ て† 人 格 的 崩 壊,を起こ し たり、 自分の世 界に龍 もろうとする な どの極 端 な行 動を と る こともあ る。 「 年 寄りの 冷や水」 「 老
い の繰り言」 「 老い の僻み」 な どの老 年 期 を 否 定 的に と ら̲え る表 現は、L こ のよう な老 年 期 特 有の行 動に所 以 する。 し か し、 老い に伴 っ て生じ る喪 失 感 情は、 マイナ ス のみの方 向に向か う わ けで は な
い。
危 機 期は連 続 的な
生
の流れ が突 如、 予 測 不 可 能な事 態によ ちて 中 断さ れ る こと を意 味して い る が、
「 分 離」 「 中 断」 「 分か れ目」 とい う意 味をもつ ギ リシ ャ語のK risisが危 機の語 源で あ る よ うに、 ひ とっの分か れ目つ まり 人 生にお けろ分 岐 点に立 っ
て いる こと
考
も 意 味して い る。 老 年 期が分か れ目の 時で あ る以 上、 よ り高い段 階に到 達でき一る道 も 残さ れて い る はずで あ る。 そ れ まで当 然と受け止