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密教研究 Vol. 1931 No. 42 001逸見 梅榮「覺禪阿闍梨と釋迦文院藏覺禪鈔 P1-20」

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全文

(1)

(一 ) 観 世 音 菩 薩 を 念 ず る こ と 茲 に 年 あ り 。 一 は 大 悲 菩 薩 の 慈 恩 の 萬 分 の 一 に 報 ひ 、 一 は 弘 法 利 生 の 一 端 と も 資 せ ん と し 近 く 小 冊 子 を 著 し 以 て 菩 薩 の 廣 大 無 邊 の 満 徳 を 讃 へ 併 せ て 菩 薩 化 現 の 諸 の 尊 容 を 示 さ ん と 企 圖 し て 居 つ た 。 こ れ に は 多 く の 挿 圖 を 必 要 と す る の で あ る が 、 そ の 選 揮 に 當 つ て 同 じ 像 容 で あ る な ら ば 成 る べ く 筆 寫 の 年 代 が 古 く 且 つ 筆 勢 の 美 事 な も の を 探 り た い と 思 ひ 、 高 野 の 靈 山 に 暫 ら く 滞 留 す る を 好 機 と し 覺 禪 鈔 に 掲 ぐ る 圖 は 大 日 本 佛 教 全 書 刊 行 の 圖 を 複 寫 せ ず に 古 寫 本 の も の を 採 る こ と に し た の で あ る 。 當 山 の 諸 書 庫 中 、 覺 禪 鈔 の 寫 本 を 收 藏 す る 所 二 三 に し て 止 ら な い 。 現 在 私 の 知 つ て 居 る 寫 本 以 外 に も 亦 澤 山 あ る で あ ら う 、 が 知 つ て ゐ る 範 園 で は 寳 鞄 院 に 藏 す る 延 慶 三 年 (皇 紀 一 九 七 〇 、 鎌 倉 末 期 ) 寫 を 最 古 と し 、 繹 迦 文 院 藏 の 元 享 ( 一 九 八 一-一 九 八 三 ) 寫 こ れ に 次 ぐ の で あ る 。 寳 鞄 院 本 は 全 鈔 完 備 で は 無 く 五 十 三 軸 で あ る 。 漢 字 の 筆 蹟 誠 に 流 暢 、 保 存 も 亦 行 届 い て 居 る が 私 の 覺 禪 阿 闍 梨 と 澤 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一

(2)

覺 禪 阿 闍 梨 と 羅 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 二 目 的 と す る 圖 像 の 筆 勢 は 餘 り 香 し く 無 い 。 依 つ て 更 に 繹 迦 文 院 主 森 田 龍 僊 先 生 に 懇 請 し て 元 享 本 を 大 學 圖 書 館 に 借 用 し 觀 音 菩 薩 の 諸 像 を 撮 影 し つ ゝ あ つ た の で あ る 。 然 る に 偶 々 十 一 面 觀 音 の 巻 軸 を 披 く に 及 ん で 他 の 筆 寫 本 や 刊 本 に は 一 圖 の 十 一 面 尊 像 だ も 無 き に 拘 ら す 表 書 に 於 て 入 圖 、 裏 書 に 於 て 十 圖 の 多 數 の 尊 容 に 遭 遇 し た の で あ る 。 私 は 敢 て 遭 遇 と 云 ふ 、 そ れ は 少 し も 豫 期 し て 居 な か つ た 爲 で あ る 。 驚 喜 措 く 所 を 知 ら な か つ た 。 つ い で 本 文 を 比 較 し 見 た る に 此 處 に も 又 甚 し き 文 言 の 出 入 と 増 減 と を 發 見 し た の で あ る 。 於 是 、 覺 禪 鈔 に は 所 傳 上 、 別 系 統 の も の が 存 す る の で は 無 か ら う か と 云 ふ 疑 問 が 超 り 私 の 當 初 の 目 的 た る 圖 さ へ 描 れ ば よ い こ と か ら 脱 線 し て 、 現 存 の 五 十 一 軸 全 部 を 刊 本 と 一 應 比 較 し て 見 る こ と に な っ た の で あ る 。 其 の 結 果 を 要 略 し て 申 せ ば 、 刊 本 の 覺 禪 鈔 は 更 に 異 本 に 依 つ て 校 合 す る 必 要 が あ る と 云 ふ こ と ゝ 、 次 に 繹 迦 文 院 本 は 各 巻 の 奥 書 を 省 略 し て 居 ら ぬ 爲 め に 覺 禪 阿 闍 梨 の 傳 が 餘 程 明 瞭 に な る だ ら う と 云 ふ 事 を 知 つ だ の で あ る 。 以 上 を は し が き と し て 、 此 の 數 旬 中 教 務 の 傍 ら 得 た る と こ ろ を 述 べ て 見 た い と 思 ふ 。 密 門 の 出 に あ ら ざ る も の ゝ 暗 中 模 索 、 加 ふ る に 原 稿 締 切 迄 數 日 の 餘 裕 あ る の み 。 錯 誤 多 き は 信 じ て 疑 は な い 、 一 向 に 諸 賢 の 叱 正 を 待 つ 次 第 で あ る 。 ( 二 )

(3)

繹 迦 文 院 本 の 借 用 以 來 、 刊 本 と 内 容 を 比 較 し そ の 奥 書 を 寫 し つ ゝ 箱 底 に 至 り 更 に 三 の 小 冊 子 を 見 出 し た 、 そ の 一 は ﹁ 覺 禪 抄 標 條 ﹂ な る 表 題 を 附 せ る 和 紙 四 十 二 葉 の 冊 子 で あ る 。 そ は 覺 禪 抄 の 標 條 の み な ら す ﹁ 別 尊 雑 記 目 録 ﹂ ﹁ 十 巻 抄 目 録 ﹂ ﹁ 要 秘 抄 目 録 ﹂ の 三 目 録 を も 合 記 せ る も の で あ る が 、 年 代 は 詳 か で 無 く 又 誰 の 筆 か 此 又 不 明 で あ る 。 然 し 乍 ら 現 在 の 鐸 迦 文 院 本 は 寳 暦 五 年 ( 二 四 三 五 ) よ り 同 院 の 所 藏 と な わ 標 條 中 に 此 本 を 指 し て 繹 院 本 と 云 ふ よ り 見 れ ば 、 寳 暦 以 後 の 筆 な る こ と 丈 け は 確 實 で あ る 。 覺 禪 抄 標 條 は 法 門 本 (法 性 院 本 な ら ん ) に 就 て 、 百 餘 の 尊 法 に 亙 り 留 意 す べ き 條 目 、 各 尊 法 の 内 容 目 次 、 及 び 他 本 (主 と し て 繹 迦 文 院 本 ) と の 異 同 を 項 目 様 に 記 せ る も の で あ る 。 其 の 一 二 を 掲 げ て 全 般 の 面 影 を 紹 介 す る 。 冊 首 の 大 日 の 項 、 ハ ニ ノ ノ ニ ノ ノ

ニ理

二奝

ハ ハ ハ ノ アリ ノ ハ ノ ノ

二金

ニ ノ ニ ノ ニ ノ ハ ノ ニ 言 一事 出 二金 智 念誦 結 護 並 圓 城 寺 八 巻 次 第 等 一 △ 四 面 二臂 大 日 出 二略 出 経 一 金 剛 頂 義 決 八 巻 次 第 等 一 △ ノ ノ ノ ハ ノ ハ ノ ハ

三、

ハ ハ ハ ニ ノ ハ ノ

判吽

二青

二梵

ニ ハ ニ ノ 七 、 充 十 二 等 一 △ 剥 憂 磯 癸 出 大 日 経 六 撮 大 軌 下 充 十 一 等 一 △ 三 部 定 印 事 △ 法 界 定 印 以 レ左 置 二 右 ニ 上 事 出 二請 觀 音 経 七 巻 、 理 趣 経 第 七 一 覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 三

(4)

覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 四 こ は 内 容 の 忠 實 な る 目 録 で は 無 い 。 次 の 阿 彌 陀 は 目 録 と 禰 し 得 る 。 帥 ち ノ ノ

ノ ノ ノ ノ

ム ノ ノ

廿

二十

一勸

ニ ノ タ ル 生 二極 樂 一 △ 逆 罪 人 往 生 △ 臨 終 取 幡 △ 念 佛 見 二諸 佛 一得 二菩 提 一 △ 命 終 勸 二念 佛 有 二七 勝 義 一 △ 十 念 功 ノ

△ 大 咒 小 咒 功 能 巳 上 一 巻 ノ 内 ノ ノ

(5)

つ て 、 若 し 吾 等 が 新 た に 斯 の 如 き 目 録 を 作 製 す る と せ ば 年 餘 を 費 す も 恐 ら く 不 可 能 で あ ら う 。 執 筆 せ る 篤 學 の 師 に 感 謝 す る と 共 に 、 他 日 機 會 を 得 て 出 版 し 發 く 永 劫 に 傳 ふ べ き も の と 信 す る 。 拡 て 箱 底 に 覺 禪 鈔 標 條 を 得 て こ れ を 披 見 す る に 、 前 述 の 内 容 を 有 す る と 共 に 、 輝 迦 文 院 本 が 他 本 に 比 し 異 色 あ る こ と を 巳 に 記 し て 居 る の で あ る 。 私 が 繹 迦 文 院 本 を 以 て 覺 禪 鈔 中 異 色 の も の た る こ と を 新 た に 發 見 し た の で は 無 い 、 偶 々 繹 迦 文 院 本 を 見 せ て 戴 い て 其 異 色 振 り に 喫 驚 し た 迄 の 事 で あ る 。 標 條 に 曰 く 、 ノ ノ ノ ハ ノ ハ ナ リ ス (後 七 日 法 ) 巳 上 一 巻 内 、 余 一 本 鐸 院 本 略 也 、 寳 性 院 本 廣 、 文 言 大 ニ 異 ル 、 他 日 求 二異 本 一可 二校 合 一。 ノ ニ ハ ニ ニ 寳 性 院 本 表 紙 二 巻 共 浄 土 院 甲 ト ア リ 。 又 曰 く ニ ノ ニ ハ ニ ハ (光 明 眞 言 ) 繹 院 有 二二 本 一全 同 二寳 門 本 一 一 本 寳 門 無 之 又 曰 く ノ ノ (仁 王 経 法 ) 繹 院 本 奥 書 云 、 先 年 今 法 雖 二撰 集 一師 主 僧 正 被 二召 取 了 、重 文 治 五 年 夏 比 漸 々 又 抄 レ之 畢 、 佛 ノ ハ ノ 子 覺 禪 生 年 四 十 七 。 寳 門 本 與 二繹 院 本 一大 異 也 、 彼 奥 書 云 、 爲 興 隆 多 年 之 間 撰 集 之 、 建 久 五 年 四 月 二 十 二 日 於 東 山 草 庵 之 了 、 有 二後 見 恥 一不 可 披 露 、 佛 子 覺-年 五 十 三 又 曰 く 覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 五

(6)

覺 禪 阿 闍 梨 と 羅 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 六 ノ ナ リ ノ ノ ダ ノ ノ ニ (十 一 面 法 ) 已 上 一 巻 内 、 此 一 巻 寳 門 本 甚 略 也 、 繹 院 本 尊 像 異 圖 具 出 レ之 又 曰 く ノ ニ ニ ニ ノ ノ ト ニ ノ ニ ハ (大 元 法 ) 寳 門 本 更 有 二 一 本 一、 然 一 本 有 レ圖 本 奥 同 本 也 、 故 不 レ書 而 巳 、 寳 門 本 又 有 二 一 本 一然 彼 與 二秘 醍 醐 ニ ノ ノ ハ 本 一同 本 也 、 故 繹 院 二 本 外 無 之 也 。 如 何 に 異 色 あ る 寫 本 で あ る か い 是 れ で 解 る と 思 ふ 。 ( 三 ) 然 ら ば 現 在 繹 迦 文 院 藏 の 覺 禪 鈔 は 如 何 な る 所 傳 の 経 過 を 取 り 來 つ た 寫 本 で あ る か 。 そ の 前 に 吾 等 の 所 有 す る 刊 本 や 一 二 の 寫 本 に 就 て 一 言 さ し て 戴 く 。 大 日 本 佛 教 全 書 に 收 む る 覺 禪 鈔 は 、 元 緑 、 正 徳 の 頃 ( 二 三 四 八-二 三 七 一 ) に 勸 修 寺 二 品 親 王 濟 深 の 御 本 を 以 室 等 引 金 剛 が 書 寫 せ し め た も の を 底 本 と し て 居 る 。 勸 修 寺 に 無 き 巻 軸 は 他 本 に 依 つ て 補 添 し た も の で 、 百 四 十 巻 殆 ん ど 完 備 に 近 き も の で あ る 。

﹁覺

勝 へ ず 、 敢 て 丹 款 を 端 す 。 茲 に 因 り 親 王 の 許 諾 を 蒙 り 秋 毫 を 残 さ ず 書 寫 せ し む 。 御 本 は 兇 牋 特 に 二 百 餘 歳 を 歴 た わ 。 故 に 訓 點 消 ゆ る も の ⋮ と 云 へ る 如 く 、 正 徳 よ り 二 百 餘 歳 と 云 へ ば 足 利 中 期 の 筆 寫 本 で あ つ た の で あ る 。 覺 禪 鈔 の 筆 寫 本 と し て は 古 寫 本 と 云 ふ こ と は 出 來 な い 。 只 百 餘 巻 を 具 す る を 以 て 勝 れ り と す る 。

(7)

刊 本 は こ れ を 底 本 と し 、 文 政 年 間 ( 二 四 七 八 -二 四 八 九 ) 寫 の 長 谷 寺 本 と 、 天 保 年 間 ( 二 四 九 〇 -二 五 〇 三 ) 寫 の 高 室 院 本 を 校 合 し た る も の で 、 皆 徳 川 時 代 の 筆 寫 に か ゝ る も の で あ る 。 出 版 の 底 本 と し て は 筆 寫 年 代 の 古 き も の 程 確 實 な る は 更 め て 云 ふ 迄 も 無 い 所 で あ る か ら 、 刊 行 者 と し て は 寳 鞄 院 本 鐸 迦 文 院 本 の 如 き を 底 本 と し た か つ た で あ ら う が 、 遺 憾 な が ら 寳 魑 院 本 は 五 十 三 軸 、 繹 迦 文 院 本 は 五 十 二 軸 を 餘 す の み で あ る か ら 、 止 む を 得 す 巻 軸 の 完 備 に 近 き 如 上 の 徳 川 期 寫 本 を 探 つ た と 想 像 し た い 。 次 に 當 山 寳 壽 院 に 二 部 の 覺 禪 鈔 を 藏 し て 居 る 、 そ の 一 は 足 利 の 末 期 延 徳 二 年 に 高 雄 山 地 藏 院 の 本 を 以 て 書 寫 せ し も の で 、 佛 部 二 十 一 巻 、 経 部 十 八 巻 、 觀 音 部 十 八 巻 、 菩 薩 部 二 十 巻 、 念 怒 部 十 三 巻 、 世 天 部 十 九 巻 、 雑 部 五 巻 、 計 百 十 四 巻 よ り 成 り 、 こ れ に 寳 暦 八 年 に 示 寂 せ る 眞 源 師 の 撰 に な る 目 録 が 附 さ れ て 居 る 。 私 は 未 だ 此 の 目 録 孕 見 て 居 ら ぬ が 前 記 の 覺 禪 鈔 標 條 と と も に 出 版 す べ き も の か も 知 れ な い 。 そ の 二 は 寳 性 院 本 即 ち 所 謂 る 寳 門 本 と 標 條 に 記 す る 所 の も の で 、 二 百 軸 あ う 徳 川 中 期 頃 の 筆 寫 と 謂 は る ゝ も の で あ る 。 此 の 二 百 軸 中 の 尊 法 名 は 標 條 に 依 り 原 本 を 見 ず と も 容 易 に 挙 げ ら れ る が 今 は 省 略 す る こ と に す る 。 標 條 の 筆 者 は 此 の 寳 門 本 と 繹 迦 文 院 本 の 異 同 に 着 目 し て 居 る の で あ る が 、 私 は 寳 門 本 は 種 々 な 點 か ら 刊 本 や 寳 轟 院 本 の 内 容 と 大 凡 同 様 の も の で あ ら う と 想 像 し て 居 る 。 (四 ) 覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 七

(8)

覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 八 繹 迦 文 院 本 五 十 一 軸 の 諸 尊 法 名 目 は 左 の 如 く で あ る 。 (活 弧 内 の 番 號 は 刊 本 の 尊 法 番 號 を 示 す ) ( 一 一 ) 光 明 眞 言 ( 一 二) 光 明 眞 言 法 ( 二 三 ) 大 佛 頂 上 ( 二 六 ) 尊 勝 法 上 ( 一 九 ) 如 法 尊 勝 上 ( 二 三 ) 一 字 金 輪 法 ( 二 七 ) 止 風 雨 法 ( 三 一 ) 仁 王 経 上 ( 三 八 ) 童 子 経 供 養 作 法 (五 一 ) 十 一 面 觀 音 法 上 ( 五 二 ) 十 二 面 觀 音 法 下 (五 四 ) 白 衣 觀 音 法 (五 五 ) ( 一 ) 如 意 輪 觀 音 法-断 簡 ( 二 ) 如 意 輪 未 車 去 車 (七 ○ ) 五 大 虚 室 藏 法 (七 三 ) 求 聞 持 次 第 (八 四 ) 五 秘 密 法 (八 五 ) 不 動 明 王 法 上 (八 六 ) 不 動 明 王 法 下 (八 八 ) 愛 染 王 法 下 (八 九 ) 如 法 愛 染 王 法 (九 一 ) 降 三 世 明 王 法 (分 ち て 二 軸 ) (九 二 ) 烏 瑟 沙 麼 法 (九 六 ) 太 元 法 上 (九 七 ) 太 元 法 下 (九 八 ) ( 二 軸)( 一 ) 軍 茶 利 明 王 法 ( 二 ) 同 (別 本 ヵ ) ( 二 〇 〇 ) 大 威 徳 明 王 法 上 ( 二 〇 一 ) 大 威 徳 明 王 法 下 ( 二 〇 二 ) 金 剛 童 子 法 ( 一 〇 三 ) 金 剛 夜 叉 法 上 ( 一 〇 六 ) 尊 星 王 法 ( 一 〇 七 ) 北 斗 法 ( 一 〇 八 ) 北 斗 供 次 第 ( 一 二 〇 ) 施 諸 餓 鬼 法 ( 一 一 三 ) 詞 利 帝 母 法 ( 一 一 五 ) 吉 詳 天 法 ( 一 一 六 ) 地 天 法 ( 一 一 七 ) 水 天 法

(9)

( 一 一 八 ) 摩 利 支 天 法 ( 一 二 三 ) 毘 沙 門 天 法 ( 一 二 四 ) 閻 魔 天 法 ( 一 二 六 ) 那 羅 延 天 法 ( 一 二 七 ) 深 沙 大 將 法 ( 一 三 〇 ) 造 塔 法 上 ( 一 三 一 ) 造 塔 法 下 ( 一 四 〇 ) 後 七 日 上 ( 一 四 二 ) 後 七 日 同 又 説 ( 一 四 四 ) 香 藥 抄 此 の 寫 本 は 元 來 了 性 師 の 一 筆 で あ る 。 而 し て 現 巻 軸 の 殆 ど 全 部 の 表 紙 に 蓮 乗 院 と 書 し 、 又 數 軸 の 奥 に は 別 筆 に て 東 大 寺 蓮 乗 院 経 藏 寅 清 と か 輩 に 寅 清 と も 書 し て 居 る か ら 、 あ る 時 代 に 於 て 蓮 乗 院 の 所 藏 本 で あ つ た 。 寅 清 師 は 實 兼 寅 清 と . 云 ひ 宗 學 房 と も 稱 し 律 師 位 を 得 て 居 つ た こ と も 奥 書 に 依 つ て 知 ら れ る 。 了 性 師 の 筆 寫 が 現 存 の 巻 軸 に 止 つ た も の か 、 そ れ と も そ の 後 諸 所 を 轉 々 し て 居 る 問 に 紛 失 し て 僅 か に 五 十 二 軸 と な つ た か の 経 過 に 就 て は 私 に は 了 解 出 來 な い 。 寅 清 の 奥 書 に 、 不 動 法 上 下 を 實 清 、 清 秀 恵 範 の 三 人 と 共 に 傳 領 し た 旨 が あ る 。 か ゝ る 事 か ら 想 像 し て 此 の 四 人 が 尊 法 の そ れ く を 傳 受 し て そ の 巻 軸 を 分 け 所 有 す る に 至 つ た も の で は 無 か ら う か と も 疑 へ る 。 次 に 繹 迦 文 院 本 は 高 野 山 法 雲 院 の 所 藏 本 と な つ た こ と が あ る 。 そ れ は 表 紙 の 題 下 に 三 寸 に 八 分 位 の 青 色 の 押 紙 あ り て 、 上 に ﹁ 西 小 田 原 法 雲 院 ﹂ と 記 し て 居 る こ と に 依 つ て 明 か で あ る 。 法 雲 院 な る 寺 は 現 存 し な い が 文 化 十 年 版 の 高 野 山 地 圖 に 載 つ て 居 る か ら そ の 後 に 無 く な つ た も の で あ ら う 。 覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 丈 院 藏 覺 禪 鈔 九

(10)

覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 ○ 最 後 に 繹 迦 文 院 の 所 藏 に 歸 し た の で あ る が 、 こ れ は 書 店 に 於 て 求 め 元 の で あ る 、 寳 暦 五 年 龍 剛 師 に 依 つ て 鐸 迦 文 院 の 書 庫 に 重 寳 と し て 收 め ら れ 今 に 至 つ て 居 る 。 ( 五 ) 繹 迦 文 院 本 は 原 本 よ り 數 度 の 轉 寫 を 経 て 來 て 居 る 。 覺 禪 阿 闍 梨 が 實 際 に 集 録 し だ る 覺 禪 鈔 の 元 の 姿 に 就 て は 阿 闍 梨 の 略 傳 の 所 に 於 て 一 言 し た い 。 只 こ ゝ で は 如 何 な る 傳 寫 を 経 て 來 た か を 記 す る に 止 め る 。 第 一 轄 、 覺 禪 阿 闍 梨 在 世 年 問 已 に 轉 寫 の 事 が 行 は れ て 居 る 。 例 へ ば 建 仁 四 年 に 不 動 明 王 法 下 が 兼 -に 依 り 又 貞 玄 師 が 元 久 二 年 よ り 承 久 三 年 に 至 る 五 ケ 年 間 に 於 て か な り 多 く の 尊 法 を ﹁ 草 本 を 以 て ﹂ ﹁ 師 の 草 本 を 以 て ﹂ と か 記 し て 寫 し て 居 る 。 私 は 此 等 は 覺 禪 鈔 の 原 本 と 見 微 し て も よ い と 思 ふ か ら 轉 寫 本 の 中 に は 入 ら な い 。 第 一 轉 は 眞 辮 師 に 依 つ て 嘉 緑 二 年 三 年 ( 一 八 八 六-七 ) に 亙 り て な さ れ た も の で あ る 。 場 所 は 高 野 山 五 佛 院 に 於 て で あ る 眞 辮 師 の 自 寫 で あ ら う が 中 に は 辮 昭 師 を し て 書 寫 せ し め た こ と も 見 え て 居 る 。 (訶 利 帝 母 法 ) 眞 辮 師 は 年 代 か ら 推 算 し て 覺 海 大 徳 の 四 哲 の 一 な る 眞 辮 師 に 相 違 な い と 考 へ る 。 第 二 轉 、 寛 元 三 年 よ り 弘 長 元 年 ( 一 九 〇 六 -一 九 二 一 ) 迄 の 間 に 於 て 頼 賢 師 が 法 花 山 寺 興 慈 院 に 於 て 主 と し て 松 橋 本 を 以 て 書 寫 し た も の で あ る が 缺 け た る も の は 他 本 に 依 つ て 補 加 し て も 居 る 。 五 大 虚 室

(11)

藏 法 の 奥 に 寛 元 三 年 三 月 二 十 七 日 於 西 山 法 花 寺 寫 之 畢 此 寫 本 故 理 性 院 律 師 自 筆 本 也 。 明 玄 律 師 之 時 爲 東 南 院 法 印 定 範 被 借 取 之 間 今 松 橋 書 中 所 無 仍 以 理 性 院 彼 本 寫 之 頼 賢 頼 賢 師 本 は 主 と し て 自 寫 に か ゝ る が 中 に 阿 性 房 を し て 書 寫 せ し め た こ と も 見 え て 居 る 。 第 三 轉 、 弘 安 四 年 ( 一 九 四 一 ) に 頼 室 師 、 年 三 十 三 の 時 書 寫 し て 居 る が そ の 場 所 は 高 野 山 勸 挙 院 で あ る 。 全 部 自 寫 で は 無 い ら し い 。 筆 者 の 中 に 浄 定 (或 本 に 浄 言 と あ り ) 浄 怨 の 名 も 見 え て 居 る 。 第 四 轉 、 第 四 轉 は 第 三 轉 が 行 は れ て 十 年 を 充 た ざ る 正 應 の 三 年 ( 一 九 五 二 ) に 行 は れ た の で あ る が 自 ら も 寫 し 、 又 筑 紫 の 沙 門 豪 憲 (或 巻 に は 乗 憲 と も あ る ) と か 能 圓 等 に 命 じ て 書 寫 せ し め た と あ る が そ の 人 の 名 が 道 憾 な が ら 不 明 で あ る 。 高 野 山 繹 迦 文 院 の 藏 本 (現 存 の も の に あ ら ず ) に 依 つ て 書 寫 し 場 所 も 同 處 で あ る 。 或 る 尊 法 は 第 三 轉 を 経 ざ る も の あ り 、 又 第 四 轉 を 経 ざ る も の も 存 す る か ら 此 の 不 明 の 人 名 は 或 は 頼 空 師 で は 無 い か と 疑 つ た こ と も あ る が 第 三 轉 第 四 轉 共 に 経 た 尊 法 が 多 い か ら 別 人 で あ る と 想 像 す る 。 第 五 轉 、 第 五 轉 は 徳 治 二 年 三 年 ( 一 九 六 七 -八 ) に 利 生 護 國 寺 に 於 て 高 野 山 鐸 迦 文 院 本 に 依 つ て 行 は れ て 居 る 。 筆 者 と し て あ る 巻 に は 禪 覺 と 云 ふ 名 が 見 え て 居 る が 他 に 筆 者 も な く 、 又 書 寫 せ し め る と も 書 い て 無 い か ら 此 の 徳 治 の 寫 本 は 禪 覺 師 一 人 の 寫 に な る も の か も 知 れ な い 。 覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 一

(12)

覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 二 第 六 轉 、 こ れ は 現 在 繹 迦 文 院 に 藏 す る 了 性 師 自 寫 の 二 筆 本 で あ る 。 寫 本 年 代 は 元 享 三 年 よ り 正 中 二 年 ( 一 九 八 三 -八 五 ) に 亙 つ て 居 る が 正 中 二 年 に は 年 四 十 五 歳 法 萬 二 十 六 で あ る と 誌 し て る 。 筆 寫 の 場 所 は 主 と し て 田 原 本 寺 往 生 院 、 及 び 海 龍 王 寺 で あ る が 、 大 佛 頂 法 は 角 寺 に 於 て 、 不 動 明 王 法 は 内 山 寺 永 久 寺 別 院 智 恵 光 院 に 於 て 書 寫 し て 居 る こ と も あ る 。 以 上 で 繹 迦 文 院 本 が 現 在 の も の に 至 る 迄 の 轉 寫 の 経 過 を 述 べ た の で あ る が 、 そ れ は 五 十 一 軸 中 の 多 數 に 從 つ て 概 觀 し た に 過 ぎ な い 。 或 る 巷 軸 は 、 上 述 以 外 の 年 代 に 於 て 、 上 述 以 外 の 人 に 依 つ て 書 寫 せ ら れ た 場 合 も 少 く 無 い 。 傍 へ ば 大 威 徳 法 上 は 、 第 一 轉 に 至 る 迄 の 間 に ﹁ 承 久 第 三 暦 ( 一 八 八 二 ) 正 月 二 十 九 日 戊 剋 於 平 等 寺 書 之 了 ﹂ と 云 へ る が 如 き 、 第 二 轉 第 三 轉 間 、 文 永 七 年 ( 一 九 三 〇 ) に 下 野 國 藥 師 寺 に 於 て 圓 全 師 が 仁 王 経 法 上 を 書 寫 し 、 又 第 四 第 五 轉 間 帥 ち 正 安 二 年 ( 二 九 六 〇 ) に 宥 遍 師 が 泉 州 佐 太 森 の 菩 提 院 に 於 て 造 塔 法 下 を 書 寫 し 居 る が 如 き 是 れ で あ る 。 ( 六 ) 上 來 述 べ 來 た 所 で 、 繹 迦 文 院 本 の 傳 來 を 略 尼 盤 し た い と 思 ふ 。 以下 其 の 内 容 に 大 體 を 記 し て 見 た い 但 し 刊 本 の 文 言 と 異 な る 點 に 於 て は 暫 ら く 鯛 れ な い 。 當 大 學 佛 教 藝 術 科 研 究 室 副 手 佐 藤 仁 興 君 は 繹 迦 文 院 本 と 刊 本 を 校 合 し て そ の 異 同 を 密 教 研 究 の 附 録 と し て 上 梓 の 意 が あ る 。 繹 迦 文 院 本 の 内 容 中 の 特 色 の 二 は 、 奥 書 を 忠 實 に 傳 へ て 居 る こ と で あ る 。 刊 本 中 の あ る 巻 に 於 て は

(13)

選 者 覺 禪 阿 闍 梨 の 奥 書 さ へ も 省 略 し て 居 る 。 況 ん や 轄 寫 し た 人 名 や 地 名 の 如 き は 殆 ん ど 問 題 に さ れ て 居 らぬ ら し く 見 え る 。 奥 書 が 史 的 研 究 に 封 し て 最 も 確 實 な る 資 料 で あ る こ と は 今 更 喋 々 の 要 は な い 。 二 は 古 寫 本 で あ る 爲 め に 表 書 と 裏 書 の 混 同 が 少 い 。 裏 書 は 表 書 の 註 記 で も あ り 又 後 人 の 補 筆 で も あ る 。 其 の 混 同 は 誠 に 困 る 。 三 は 刊 本 に 比 し 圖 像 の 挿 入 の 位 置 が 正 確 で あ る 此 又 古 寫 本 の 爲 め で あ る こ と は 云 ふ 迄 も な い 。 四 、 繹 迦 文 院 本 中 に 着 色 の 圖 あ る こ と は 最 も 大 な る 特 徴 と 認 め て よ い 。 吾 等 は 圖 像 鈔 や 覺 禪 鈔 に は 着 色 本 な き も の と 考 へ て 居 た こ と も あ る 。 然 る に 眞 別 所 の 所 藏 た る 圖 像 鈔 は (御 室 の 印 玄 法 印 筆 鎌 倉 時 代 ) 全 圖 像 皆 美 事 な る 彩 色 を 有 し 、 遍 照 光 院 藏 の 圖 像 鈔 は 筆 寫 年 代 降 る と 雖 も 是 又 立 派 な 彩 色 の 寫 本 で あ る こ と を 知 つ た 。 今 叉 繹 迦 文 院 の 五 十 一 軸 中 、 五 秘 密 法 、 及 び 一 字 金 輪 法 の 二 軸 の 着 色 本 を 得 て 在 來 の 妄 断 を 破 り た る こ と は 誠 に 楡 快 な 事 で あ る 。 私 は 覺 禪 鈔 の 原 本 、 又 は 原 本 に 近 き 第 一 轉 本 程 度 の も の を 見 て 居 ら ぬ か ら 、 原 本 は 自 描 で あ つ 淀 か 着 色 本 で あ つ た か 断 言 す る 資 格 は 無 い 。 さ り 乍 ら 繹 迦 文 院 本 は 、 二 軸 の 彩 色 本 の 外 に 、 朱 二 色 に て 彩 色 せ る も の 、 (大 佛 頂 法 上 ) 或 は 淡 墨 に て 隅 取 れ る も の 、 (童 子 経 法 ) 及 び 朱 と 淡 墨 を 併 用 し て 彩 色 せ る も の (元 帥 法 下 ) を 含 ん で 居 る 。 此 れ に 依 つ て 見 れ ば 彩 色 さ れ た る 覺 禪 鈔 も 存 し た と 多 分 に 想 像 さ れ る の で あ る 。 覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 三

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覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 四 鈔 中 に 收 む る 圖 像 の 筆 者 は 了 性 師 一 人 の 筆 で は よ も あ る ま い 。 筆 様 の 大 體 を 云 へ ば 中 位 の 圖 書 の 技 倆 で あ る 。 然 し そ れ 以 下 の 拙 筆 も あ れ ば 求 聞 持 法 、 軍 茶 利 法 中 の 圖 の 如 き 、 緇 流 の 能 書 者 た る 心 覺 、 玄 證 阿 闍 梨 の 筆 致 の 妙 愚 を 摩 す る 程 度 の も の も あ る 。 奥 書 に 依 っ て は 書 者 の 名 を 知 る こ と は 出 來 ぬ が 圖 に 依 つ て 巧 拙 の 差 甚 し く 筆 勢 も 亦 種 々 で あ る こ と か ら 、 恐 ら く 一 人 の 筆 と 考 へ る こ と は 出 來 な い 。 筆 寫 す べ き 底 本 の 圖 様 に 依 っ て の み 生 じ た 結 果 と は 考 へ ら れ な い の で あ る 。 鈔 中 の 圖 像 筆 様 の 一 定 で 無 い の に 比 し 、 漢 字 は 五 十 一 軸 首 尾 悉 く 丁 寧 な 階 書 に 依 り 筆 寫 さ れ 一 字 と 雖 も 苟 も し な い 點 な ど は 了 性 師 の 重 厚 な る 性 格 が 窺 は る ゝ 様 な 氣 が し て 氣 持 の い ゝ 寫 本 で あ る 。 (七 ) 大 師 東 土 に 眞 言 の 純 密 を 傳 へ ら れ て 以 來 、 阿 闍 梨 に し て 書 を 能 す る も の 、 そ の 數 鈔 し と し な い 。 大 師 が 書 に 書 に 彫 刻 に 堪 能 で あ ら せ ら れ た る は こ ゝ に 言 ふ 迄 も な い こ と で あ る 。 そ の 後 智 泉 、 智 證 、 會 理 、 恵 心 、 兼 意 、 覺 猷 、 定 智 、 永 嚴 、 恵 什 、 珍 海 、 心 覺 、 興 然 、 玄 證 、 覺 禪 、 承 澄 等 の 諸 阿 闍 梨 あ り て 皆 能 豊 者 と し て 聞 え 其 の 眞 筆 今 に 傳 へ ら る ゝ も の 多 い 。 こ は 純 密 の 阿 闍 梨 は 修 法 に 用 ふ べ き 曼 茶 羅 諸 尊 像 は 自 ら 書 く べ し と 経 に 説 け る を 忠 實 に 通 奉 せ る 結 果 、 圖 書 練 習 遂 に 妙 域 に 到 つ た も の で あ ら う 。 如 上 の 緇 流 能 書 者 中 二 三 を 除 い て は 其 傳 甚 だ 明 か で な い 、 わ が 覺 禪 阿 闍 梨 も 亦 其 の 一 で あ る 。 阿 闍

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梨 の 傳 を 不 曙 の ま ゝ に し て 置 く こ と は 佛 教 圖 像 の 研 究 途 上 に あ る 私 に と つ て 耐 へ ら れ な い こ と で あ る 。 こ ゝ に 刊 本 並 に 繹 迦 文 院 本 の 奥 書 を 集 め て 明 瞭 に な つ た 部 分 の み を 誌 し 阿 闍 梨 の 略 傳 と し た い と 思 ふ 。 覺 禪 阿 闍 梨 は 近 衛 天 皇 康 治 二 年 ( 一 八 〇 三 ) に 誕 生 さ れ て 居 る 。 生 國 並 に 氏 姓 を 詳 か に し な い 。 阿 闍 梨 を 少 納 言 阿 闍 梨 乏 稱 せ し よ り 見 れ ば 父 が 少 納 言 位 を 所 有 せ し こ と 丈 け が 解 る 。 示 寂 の 期 に 就 て は 大 凡 の 事 は 想 像 さ れ る 。 そ は 寳 筐 印 経 法 の 奥 、 邸 ち 建 保 五 年 九 月 二 十 日 於 浄 土 院 草 庵 寫 了 、 裏 書 等 奥 書 畢 、 清 書 本 頗 相 違 歎 、 雖 然 意 同 也 を 以 て 年 號 の 最 も 新 ら し も の と す る 。 時 に 阿 閣 梨 年 七 十 五 歳 の 老 齢 で あ る 。 阿 闍 梨 の 如 き は 求 法 不 爲 身 、 不 惜 身 命 底 の 人 で あ る 。 お そ ら く 閉 眼 の 際 に 至 る 迄 筆 を 離 さ な か つ た と 想 像 す る か ら 同 年 の 末 に 示 寂 さ れ た も の で は あ る ま い か 。 示 寂 の 場 所 は 勸 修 寺 の 浄 土 院 で 恐 ら く 間 違 は 無 い で あ ら う 。 已 に 老 境 に 向 へ る 六 十 三 歳 後 の 奥 書 は 全 部 浄 土 院 と あ る 。 阿 闍 梨 が 畢 生 の 大 業 た る 覺 禪 鈔 集 鎌 の 大 念 願 は 巳 に 年 歯 十 代 の 時 に 存 す る 。 寫 本 日 誌 に 自 二生 年 十 九 才 一至 二干 四 十 二 一所 二尋 習 一口 傳 並 抄 物 要 事 略 撰 二集 之 一 と 誌 し 、 又 實 際 に 四 十 一 才 (壽 永 二 年 ) の 時 金 剛 夜 叉 法 上 を 撰 集 し て 居 る 。 是 れ に 依 つ て 見 る に 師 の 四 覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 五

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覺 禪 阿 闍 梨 と 釋 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 六 十 歳 前 後 迄 は 準 備 時 代 と 稱 し て よ い 。 此 の 期 に 就 て は 餘 り 知 ら れ て は 居 ら ぬ が 安 元 二 年 ( 三 十 四 歳 ) に 法 務 御 房 (寛 信 カ ) の 後 七 日 法 の 御 傳 を 理 明 房 興 然 阿 闍 梨 よ り 傳 受 し 、 又 養 和 二 年 (壽 永 元 年 、 四 十 才 ) 二 月 十 日 の 吉 日 に 於 て 三 寳 院 に 於 て 太 元 の 秘 法 を 受 け て 居 る 。 抑 も 覺 禪 鈔 の 如 き 多 數 尊 法 の 選 集 に 當 つ て は 一 流 の 傳 受 の み に て は 不 可 能 の 事 で あ り、 荷 も 尊 法 を 傳 ふ る 所 、 千 里 を 遠 し と せ ず し て 赴 き 、 懇 請 以 て 傳 受 を 得 る に 非 す ん ば 出 來 得 る 事 で な い 。 寫 本 の 奥 書 は 明 か に 之 を 示 し て 居 る 。 而 し て 又 、 阿 闍 梨 の 傳 統 血 脈 に 種 々 の も の あ る は 敢 て 怪 む に 足 ら ぬ の で あ る 傳 法 院 流 血 脈 に は 覺 鍵 -證 印 -玄 證-房 海-覺 禪 と 記 し 、 覺 禪 鈔 後 七 日 法 中 に 、 成 尊 -範 俊 -良 雅-定 海-實 海 -覺 禪 と も 誌 し て 居 る 。 詮 索 す れ ば 澤 山 有 る こ と ゝ 思 ふ 。 傳 燈 廣 録 に は 阿 闍 梨 を 興 然 の 資 と 挙 げ て は 居 ら ぬ が 興 然 師 は 阿 闍 梨 晩 年 の 住 山 た る 勸 修 寺 に 住 し 、 實 際 に 傳 授 も し て 居 る か ら 興 然 師 附 法 の 弟 子 で も あ る 。 の み な ら す 鈔 中 の 數 尊 法 は 興 然 師 の 選 集 せ る も の で あ る こ と 等 か ら 推 測 し て 覺 禪 阿 闍 梨 は 少 時 よ り 興 然 師 の 側 近 に 侍 し 書 才 を 養 ふ と 共 に 後 年 の 大 業 企 圖 の ヒ ン ト を 同 師 に 得 だ も の で は 無 か つ た ら う か 。 覺 禪 阿 閣 梨 の 附 法 の 弟 子 に 就 て は 詳 か で な い 。 貞 玄 師 は 勸 修 寺 理 趣 院 に 於 て 元 久 二 年-承 元 三 年 に 亙 り 覺 禪 鈔 を 書 寫 し て 居 る が 阿 闍 梨 本 を 草 本 、 師 草 本 或 は 原 本 等 幕 し て 居 れ ば 明 か に 附 法 の 資 で あ る 然 る に 建 仁 四 年 に 不 動 法 下 を 權 大 僧 都 兼 -生 年 二 十 一 が 書 寫 せ し め て 居 る 。 兼-は 貞 玄 師 と 共 に 成 尊

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僧 正 附 法 の 資 十 一 人 中 の 兼 成 で あ ら う 。 傳 受 を 受 け ざ る も の に は 輿 へ な か つ た 當 時 で あ ら う か ら 、 こ れ 又 附 法 の 弟 子 と 稱 し て も よ い か と 思 ふ 。 覺 禪 阿 闍 梨 四 十 歳 よ り 六 十 歳 頃 に 至 る 問 は 實 に 多 忙 な 時 代 で 、 一 年 の 間 に 於 て 三 四 種 づ ゝ の 尊 法 を 選 集 し 覺 禪 鈔 の 大 半 を 成 就 し て 居 る 、 從 つ て 法 を 求 め 南 船 北 馬 席 暖 る の 暇 が 無 か つ た 。

西

一 七

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覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 八 に 依 つ て そ の 一 般 を 知 る こ と が 出 來 よ う 。 覺 禪 鈔 も 斯 く の 如 く 約 六 十 年 に 垂 ん と す る 長 年 の 努 力 に 依 つ て 完 成 せ ら れ た る 結 晶 で あ る 。 吾 等 は 刊 本 を 手 に し 簡 単 に め く り 飛 ば す 時 冷 汗 自 ら に じ む を 覺 え る (止 ) 覺 禪 鈔 を 一 名 百 巻 鈔 と 云 ふ 、 何 時 頃 よ り の 呼 名 で あ る か 私 は 知 ら な い 、 現 在 の 所 で は 大 日 本 佛 教 全 書 に 載 す る 所 は 百 五 十 四 巻 で あ つ て 覺 禪 鈔 な る 名 の 下 に 收 め ら れ て 居 る 、 阿 闍 梨 の 當 時 百 巻 あ つ た も の か 次 々 と 新 撰 の 鈔 を 加 へ て 現 在 に 至 つ た も の か 詮 索 の 必 要 が あ る 。 私 は 早 急 の 間 奥 書 全 部 に 亙 り 目 を 通 し た の で 見 落 し が 多 い と 思 ふ が 覺 禪 鈔 の 中 に は 覺 禪 師 自 ら 選 集 せ る も の 、 他 よ り 傳 受 し そ の ま ゝ 書 寫 せ る も の 、 後 人 の 選 集 せ る も の ゝ 三 種 が 包 含 さ れ て 居 る 、 阿 闍 梨 自 ら 撰 集 し た る も の と 雖 も 雖 先 年 撰 今 法 師 主 權 僧 正 御 房 被 召 了 、 勿 建 久 三 年 十 月 比 重 撰 寫 之 後 見 在 禪 不 可 披 露 (如 法 尊 勝 法 上 ) と か 又 清 書 本 は 草 本 と 相 違 す と か 見 え て 居 る か ら 文 言 の 異 な れ る も の 、 廣 略 本 が 世 に 流 布 し 、 繹 迦 文 院 本 の 如 き 異 色 あ る も の を 見 る に 至 つ た の は 自 然 の 事 で あ る 。 衣 に 他 の 選 集 に 係 る も の に 應 保 二 年 五 月 二 十 二 日 眞 乗 房 (亮 慧 ) 阿 闍 梨 奉 傳 之 畢 、 但 法 務 御 記 後 日 書 加 之 興 (然 ) 正 治 三 年 正 月 比 奉 傳 之 、 數 日 居 住 之 間 引 出 物 給 之 、 佛 子 覺 禪

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又 寫 本 云 勸 修 寺 住 僧 興 然 本 正 治 二 年 壬 二 月 十 七 日 於 觀 音 寺 草 庵 寫 之 な ど 云 へ る も の あ り て 他 の 選 を 寫 し た と 思 は る ゝ も の 凡 そ 十 巻 も あ ら う 。 又 地 藏 菩 薩 法 下 の 如 く 、 弘 安 三 年 庚 辰 九 月 、 河 州 古 市 郡 碁 田 龍 王 堂 に 於 て 澄 圓 (六 十 三 ) 師 に 依 つ て 選 ば れ た る も の が あ る が 鈔 中 に は 後 人 の も の に し て 鈔 中 に 加 へ た も の も 恐 ら く 此 の 一 巻 の み で は あ る ま い 。 斯 く 覺 禪 鈔 に は 阿 闍 梨 の 選 集 外 の も の も 少 く な い の で あ る 。 但 し 鈔 中 の 各 巻 必 す し も 元 選 者 の 奥 書 を 附 し て 居 な い か ら 私 が 覺 禪 師 自 選 の も の と 他 選 の も の を 奥 書 に よ つ て 判 別 せ ん と し た 。 然 し こ れ は 徒 勞 に 蹄 し 只 百 五 十 餘 巻 中 確 か に 阿 闍 梨 の 自 選 と 見 る べ き は 六 十 巻 、 推 定 せ ら る ゝ も の 十 餘 怒 、 他 選 十 餘 巻 で あ つ て 、 餘 の 七 十 巻 は 不 明 で あ る こ と を 知 つ た の み で あ る 。 で 結 局 今 後 に 問 題 は 残 る の で あ る 。 一 、 古 寫 本 を 得 て 刊 本 を 校 合 す べ き こ と 二 、 覺 禪 鈔 内 容 目 録 の 刊 行 (密 教 研 究 附 録 と し て 掲 ぐ る 豫 定 で あ る ) 覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 一 九

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覺 禪 阿 闍 梨 と 繹 迦 文 院 藏 覺 禪 鈔 二 〇 三 、 鈔 中 載 す る と こ ろ の 圖 像 の 傳 來 系 統 を 明 か に す る こ と 四 、 選 集 者 の 明 か な ら ざ る も の に 就 て 綿 密 な る 考 證 を 加 ふ る こ と 。 等 等 多 く の 事 が 残 る 。 吾 等 の 如 き 門 外 漢 に あ ら す し て 事 教 二 相 の 充 分 な る 豫 備 知 識 を 所 有 せ ら る ゝ 學 者 の 研 究 を 希 ふ て 欄 筆 す る が 最 後 に 重 寳 を 貸 し て 載 い た 森 田 先 生 、 始 終 有 盆 な ゐ 助 言 を 與 へ 下 さ つ た 金 山 松 永 栂 尾 の 諸 先 生 に 感 謝 の 意 を 表 す る 。 (昭 和 六 年 六 月 二 十 三 日 、 高 野 大 學 佛 教 藝 術 科 研 究 室 に て )

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